世界遺産条約と環境保護の現代的対処法
著者
浅野 裕司
著者別名
Yuji Asano
雑誌名
東洋法学
巻
36
号
2
ページ
21-44
発行年
1993-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003508/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja世界遺産条約と環境保護の現代的対処法
浅
野
裕
司
はじめに
世界の貴重な自然や文化遺産の保護を目的とする﹁世界遺産条約﹂は、一九七二年にユネスコの総会において採択 された。わが国は批准が遅れ、海外から批判の目が向けられていたが、一九九二年六月にやっと批准した。 条約加盟百二十六力国のうち、二十一力国で構成する世界遺産委員会が、各国の推薦に基づいて審査し、普遍的な 価値を持つものを世界遺産リストに登録する。環境庁と文化庁は、屋久島、白神山地、法隆寺、姫路城の四カ所をパ リの委員会事務局に推薦することを決めており、同委員会の審査を通れば、一九九三年末には、わが国初の﹁世界の 遺産﹂が誕生する。そこで、世界遺産条約に関連する内外の諸問題を指摘し、大方の御批判と御叱正を仰ぐことにし たい。 東 洋 法 学 二一世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 二二 世界遺産条約の締結と実情 文化遺産と環境保全に関して非常に重要な国際条約である﹁世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約 ︵○○薯①呂88糞段駄お叶誇冥・帯&象象爵①薯9箆o葺葺巴動巳き樽貰巴箒葺認の︶﹂は、一九七二年の国連教 育・科学・文化機関︵ユネスコ︶総会で採択された。一九七五年に二十力国が批准し発効した。 わが国は、世界遺産条約が採択された際には議長国であり、条約作成に重要な役割を担った。しかし、米国が一九 七三年に早々と批准して間もなく、米国、英国、シンガポ⋮ルが、ユネスコは旧ソ連・第三世界寄りと批判して、米 国が脱退した。わが国も追従して条約批准を見送ることで、ユネスコに抗議の姿勢を示した。その後、英国はユネス コ批判と切り離し、一九八四年に条約を批准した上、翌八五年にユネスコを脱退した。しかし、わが国は、結果的に 西側としての国際政治上の立場を優先させ、遺産保護の世論形成も図らないまま、批准を先送りした。わが国は、同 条約の百二十五番目の締約国となった。条約の効力発生は条約締結の三カ月後となっている。条約採択後二十年目に して漸く同条約を締結するという遅れの要因は政府が条約を政治的に扱ってきた点が指摘できる。 しかし、一九九二年六月に同条約を締結する運びとなったことは、世界の文化遺産及び自然遺産の保護のための国 際協力体制に一層の貢献と努力をする上で大きな意義を有する。世界遺産条約は、国際的な堅視体制をもって普遍的 な価値を持つものを破壊から守ろうとするものであり、﹁遺産﹂は、ここでは人類が子孫に残し、伝えるものという 意味で使われている。条約加盟国は、国内の自然、文化遺産が世界遺産リストに登録された場合、それを保護するた
めに、必要な制度や態勢を整えなければならない。加盟国の拠出金による世界遺産基金が設けられており、損傷した 自然や文化遺産の保護、修復に活用されている。パキスタン、インド等、アジア諸国が次々と批准し、遺産が指定さ れる中、わが国は、担当省庁が外務、環境、文化、文部等、多岐に亙り、責任官庁がなかったこともあって遅れた。 しかし、地球規模での環境保全がクローズアップされ、地球サミットが開催されるのと、一九九一年に日本自然保護 協会が、ユネスコ、国際自然保護連合︵IUCN︶、国際記念物遺跡会議︵1COMOS︶の代表を東京に招いてシ ンポジウムを行い、世論が盛り上がったこと等から、一九九二年の条約批准となり、同年九月、世界遺産条約に関す る関係省庁連絡会議を開き、同条約の﹁世界遺産一覧表﹂に日本の文化遺産として、﹁法隆寺地域の仏教建造物﹂と ﹁姫路城﹂、自然遺産として﹁屋久島﹂と﹁白神山地しを推薦することを正式決定した。四件とも既に国内法での保 護が図られており、登録によって表面上、保全対策の変化は生じないが、人類共通の遺産に対する国民意識への影響 は大きいであろう。今後は、関係行政当局が条約にまつわる政治的色彩を早急に払拭し、遺産保護の原点に立ち返り 登録後の追跡調査体制づくりに専念する努力が是非とも必要である。特に自然遺産は周辺部を含めた保護対策を早急 に講じないと、世界遺産が観光資源として開発の波に晒される恐れもある。 自然遺産の推薦地の屋久島は、﹁霧島・屋久国立公園﹂、﹁自然環境保全地域﹂等に指定され、一定以上の開発行為 が規制されている。白神山地も、林野庁が伐採を規制する﹁森林生態系保護地域﹂と環境庁の﹁自然環境保全地域﹂ に指定されている。遺産条約で指定されると、国はその指定地を保護する責任が求められる。これら二地域も、諸外 国に公約した以上、世界の監視の目が厳しくなり、安易な開発は不可能となる。また、将来、指定地を増設するため
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世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 二照 には、開発規制のための法制の整備が必要である。 世界遺産一覧表に記載されている遺産は、一九九二年一月現在、三百五十八件となっている。例えば、次のような 指定がなされている。ガラパゴス諸島国立公園︵エクアドル︶、万里の長城、泰山︵中国︶、タージマハール︵イン ド︶、ピラミッド︵エジプト︶、セレンゲティ国立公園︵タンザニァ︶、ピサの斜塔︵イタリア︶、アーヘン大聖堂︵ド イツ︶、ベルサイユ宮殿︵フランス︶、アウシュビッツ強制収容所︵ポーランド︶、赤の広場、クレムリン︵ロシア︶、 ストーンヘンジ、カンタベリー大聖堂、ロンドン塔︵英国︶、クルアネ国立公園、州立恐竜公園、カナディアンロッ キ⋮山岳公園群︵カナダ︶、グランドキャニオン国立公園、独立記念堂︵米国︶等がある。 世界遺産条約加盟国は、自国の領土内にある自然と文化の遺産の保護に責任を負い、同時に、ユネスコに対する拠 出金の一パ⋮セントに当たる金額を世界遺産基金として出資し、それが開発途上国の世界遺産を保護するのに活用さ れる仕組みである。自然遺産についてはIUCNが、文化遺産についてはICOMOSが技術顧問の役割を担ってい る。IUCNが一九八○年に発表した﹁世界自然保全戦略﹂によると、二〇〇〇年迄に、五十万から六十万種の野生 生物が熱帯雨林の破壊等で絶滅することになる。﹁種しの絶滅は、人類が将来、食糧や薬晶等に利用可能な遺伝子資 源を失うことになると共に、生態系全体の崩壊にもつながる重大事である。そこで、従来からIUCNの国立公園・ 保護地域に関する委員会は、生物遺伝子資源、生態種、生態系を包括した﹁生物学的多様性﹂を保護するための、国 際的な保護区のネットワ;クの作成に取り組んできた。世界遺産条約は、その保護区のネットワークの中で、要の役 割を果している。例えば、世界遺産に登録されている七十五の自然遺産のうち、十一カ所は熱帯雨林とその地域に生
パま 息する生物種の保護を目的にし、中南米・西アフリカ・南アジアの代表的な熱帯雨林をカバ⋮している。 一九九二年九月、世界の文化遺産の保存・修復に、貢献することを目指す民間機関﹁世界文化財機構﹂構想が動き 出した。この﹁世界文化財機構﹂は、在外日本美術品の修復に止まらず、例えば、中国・敦燵やカンボジアのアン コールワット等、人類の文化遺産の保存・修復に、臼本の資金で貢献する組織を民聞レベルで設け、国の協力も得な がら二十一世紀にかけて国際的な組織に育てようという構想である。東京芸大の平山郁夫学長が提唱する﹁文化財赤 十字構想﹂に基づいて、世界の文化財の現状についての情報収集センター、国際文化財病院、修復技術者を養成する ための国際センター等を設置する計画で、やはり平山学長が中心となって設立した財団法人﹁芸術研究振興財団﹂の 中に、一九九二年夏、準備委員会が発足している。二年内に、取り敢えず十億円の基金を集めて財団化する構想とな っている。カンボジア・アンコール遺跡群は、二十余年の戦乱で放置され、荒廃の危機に晒されている。一九八九年 末にユネスコが同遺跡修復のための行動計画を作成し、その保存の国際的取り組みを行っている。わが国は、一九九 〇年三月、ユネスコの文化遺産保存日本信託基金から三十万ドルを拠出することにしている。本格的修復は、一九九 三年後半に始まり、応急手当には三年間、約三百五十万ドルが必要とされ、その後、二〇〇一年に修復に一応のめど をつけるという国際合意ができているが、完全な修復には、さらに数十年、長くて百年は掛かるものとみられている。 アンコールワット等に多くの観光客が訪れれば、それだけで遺跡の破壊は加速される。観光資源と文化遺産の両立が カンボジア和平後の課題となっている。 東 洋 法 学 二五
︵1︶ 世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 竃◆>¢ d2負ぎ8簿鶴江8巴○08Φ琵鋤呂§傷℃暮ごoOOO傍し8鍾 巧陣露段ω望導℃○餓OP一馨Φ導鋤鳥8巴R麟巳黛αQ葺段器鼠葺辞お8﹃ 甘彊讐鉱○由9巴\閃こ℃δ毎○鶏○φ号鑓p鋤鶏HρおOρ 二六 二 世界遺産条約の概要と問題点 ﹁世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約︵○畠くΦ呂988段巳お夢の冥○$呂○疑9跨ω≦9箆o巳9− 邑き鳥謬象震巴竃葺品Φ︶﹂は、第一条において﹁文化遺産﹂は﹁記念工作物﹂、﹁建造物群﹂及び﹁遺跡﹂に分類さ れ、また、﹁自然遺産﹂は、無生物又は生物の生成物︵群︶よりなる特徴のある地域、地質学的又は地形学的形成物、 脅威に晒されている動植物の生息・自主地及び自然の風景地に分類されている︵第二条︶。これらは﹁顕著な普遍的価 値を有する﹂ことが、条約に謂う遺産としての条件の一つとされているが、如何なるものが﹁顕著な普遍的価値を有 するしかということにつき、条約上は特に基準を示してはいない。 第三条は、自国の領域内に存在する遺産を認定することは締約国の役割であるとしており、遺産の認定がその態様 も含めて締約国の判断に委ねられていることを明定している。 ﹁世界遺産一覧表﹂は、ユネスコの世界遺産委員会が定めた基準に照らして顧著な普遍的価値を有すると認めるも のをリストアップしており、各国が記載することが適当であるとして推薦する遺産目録に基づいて作成されるもので
ある。従って、世界遺産委員会が一方的に遺産を認定するということはない。この点は、世界遺産として一覧表に記 載されると、締約国は自国の関係法令を整備し、責任をもって、その保護・管理・修復に務めなければならなくなり、 国際的保護の対象となるという条約上の効果が生ずる。 但し、世界遺産一覧表に記載されなかったから顕著な普遍的価値を有しないという意味に解してはならないと、条 約第十二条において規定している。 条約第四条は、遺産の国内的保護について、自国に存在する遺産は自国が保護するとの原則を示し、遺産の保護・ 保存は、第一義的には自国に課された義務であることを認識することが締約国に求められている。これは、原則であ って国内の遺産に関し適当な措置をとることができるのは、当該締約国であり、国際的保護を通して、遺産に締約国 自身が適切な措置をとることの助言を与えて、世界遺産として適当な場合には国際的な調査・技術・資金援助及び協 力を得て締約国が最善を尽くすべきであることを示している。わが国は、条約の﹁世界遺産一覧表﹂に日本の文化遺 産として﹁法隆寺地域の仏教建造物﹂と﹁姫路城しを推薦したが、法制上は、国の文化遺産の保護について、文化財 保護法をもって既に保護されている。国の文化遺産は、保護法その他の文化財保護関係法令に基づく保護の対象物件 としての側面と財政法、会計法その他の国の財産の管理に関する法令に基づく管理の対象物件としての側面を有して いる。 条約第七条は、世界遺産の国際的保護について、この条約で世界の文化遺産及び自然遺産の国際的保護とは、締約 国がその文化遺産及び自然遺産を保存し及び認定するために努力するための国際的な協力及び援助の体制を確立する
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世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 二八 ことであると了解される、と規定している。これは、国際的保護というものが、各締約国が行う国内的保護の補足手 段であるとの認識を改めて確認していると云える。従って締約国の主権の尊重に十分なる配慮がなされている。国際 的保護の具体的な方法の一つは、財政面の援助であるが、締約国の互選により構成される世界遺産委員会並びに締約 国からの分担金及び任意拠出金を財源として運営される世界遺産基金にょって構成される常設の体制の下で、世界遺 産に供与される国際的援助である。 世界遺産基金については、第W部において、同基金はユネスコの財政規則に基づく信託基金として設立され、また、 世界遺産委員会が作成した同基金の財政規則に従って運用される。基金は、締約国の分担金及び任意拠出金並びに締 約国以外の国、国際機関及び民間団体等からの拠出金及び贈与等を財源とし、原則として、世界遺産委員会が決定す る目的にのみ使用され、また、拠出に関して如何なる政治的な条件も付すことはできない。締約国が分担金を支払う 場合については、二年ごとに一回定期的に支払い、分担金額は、各締約国のユネスコ通常予算に対する分担金の百分 率により決定され、この百分率は締約国会議において、これ迄は常に一パーセントと決定されてきている。 条約に基づく国際的援助の特徴は、条約に基づき創設された国際的保護の体制の下で、世界各地に存在する遺産に 対する援助を恒常的、且つ、将来に亙って持続的に行える点が指摘される。また、条約の援助の性格上、世界遺産委 ハユレ 員会が実施でき得る援助には自ずと限界がある。さらに、これらの援助を締約国にとって真に実効あるものにするに は、アンコ⋮ル遺跡で直面している問題の様に、一つは専門家の育成であり、修復に機材がなく手作業という現実も ある。技術援助は保存業務に欠くことはできなく、考古学者や修復の専門家を養成する時間的余裕が問題である。遺
跡の保存には常時千人近い作業員が必要であって、その国の研究者の教育に力を入れられる国際協力が必要である。 第二には、保存修復のための総合プラン作成が重要である。 ︵1︶武藤 顕︵世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約﹂ジュリスト一九九二年九月一五日号一一四頁以下。︶ 三 自然遺産の保護と問題点 日本産の﹁トキ﹂は絶滅することはほぽ間違いないとされ、その教訓をどう他に生かすかが問題となっている。ま ず実行しなければならないのは、一九九三年春施行される﹁絶滅の恐れのある野生動植物の保存法﹂を実効あるもの にすることである。 一九九二年三月二十六日、環境庁は、絶滅寸前の野生動植物を保護する﹁絶滅の恐れのある野生動植物種の保存法 案﹂をまとめた。国内種では、イリオモテヤマネコやムニンノボタン等、五年で三十種程度の指定を目指している。 対象をほ乳類や鳥類だけでなく、昆虫、魚、草花にも広げたこと、身近な小川や草地まで含め、その絶滅寸前種の生 態系そのものの保護を狙った点で、わが国初の総合的・体系的な動植物保護法と云えよう。一部生息地の立ち入り禁 止等、厳しい規制も盛り込んでいる。しかし、河川改修や護岸工事は、政令で規制除外し、国有林伐採も事前協議す る方針で他省庁の要望を取り入れた形となっている。
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世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 三〇 規定では、絶滅の恐れのある野生生物種を﹁国内希少野生動植物種︵国内種ごに指定し、学術目的以外の捕獲、 採取、売買、輸出入等を禁止する。 生息地については、まず﹁生息地等保護区﹂として大きな網を掛け、その内、繁殖、産卵等種の維持に必要な場所 は﹁管理地区﹂に指定、建物の新改築、宅地造成、埋め立て等の開発行為を許可制とする。保護区内のそれ以外の場 所は﹁監視地区しとし、開発の届け出を義務付けている。管理地区の中で、特に重要な営巣地等は、﹁立ち入り制限 地区﹂とする。但し、保護内区の河川改修や護岸工事等の公共事業、標識設置等は、規制から除外する予定。国有林 の伐採も、事前に林野庁と地区・面積の協議をする。指定した国内種は、何れも保護・増殖事業を行う。ワシントン 条約の国内法で商業目的の取引が禁止されている動植物と、譲渡禁止の特殊鳥類の内、米国、旧ソ連、オーストラリ ア産の渡り鳥を合わせ約八百二十種を﹁国際希少野生動植物種︵国際種︶﹂に指定し、輸出入と譲渡を原則禁止する。 さらに、密輸された動植物は、原産国等へ返送を命じる初の規定を設けた。同法の罰則は最高一年以下の懲役又は百 万円以下の罰金とし、罰金額は既存の保護法の倍以上と重くした。 既存の法律にも貴重な動植物の捕獲・採取の制限や開発行為の規則はあるが、鳥獣保護法の対象は、一部のほ乳類 と鳥類だけである。自然環境保全法は、二次林や身近な自然は対象外である。文化財保護法の天然記念物指定も、日 本固有種の保護が中心である。例えば、イリオモテヤマネコでみると、鳥獣保護法と文化財保護法で捕獲は禁止され ているが、今回指定されるので、立ち入り禁止の網が掛かる等、さらに厳格な生息地保護が図られる。環境庁はぺ 一 九九一年秋、自然環境保全審議会に絶滅寸前種の保護対策を諮問、二月末に答申を受けた。一九九二年三月二日から
京都で開かれたワシントン条約会議の会期中に法案を国会に提出する予定であったが、建設省、林野庁等から原案修 正の要望が相次ぎ間に合わなかった。 これ迄の法律に比べれば対象は広く、生息地の開発規制まで盛り込んだ保護法はこれ迄なかっただけに一歩前進し たことは評価できる。また、厳格に生息地を保全し、給餌等の保護・増殖事業で個体維持の手助けをするのが理想的 である。但し、最近は野鳥マニアやカメラマンが生息地を荒すケ⋮スが増えている。保護区の公表は慎重にやらなけ ればならない。 実施に当って必要な事項は多くあるが、第一は、地元の理解や調整のための努力と資金を惜しまぬことである。生 息地全体に規制の網を掛けることは難点であり、中核地域の外側を保護体制にどの様に組み入れるかが重要な点とな ろう。対象地域の大半は過疎に悩んでおり、私有地の買い上げ、借り上げを併用することも考えられる。原発や廃棄 物処理場等の迷惑施設に対するものと同様の交付金も有効であろうし、監視や巡視の要員として、地元住民を優先す る手法もあろう。第二は、タテ割り行政の克服である。最大の土地所有者である林野庁の協力を得ることは不可欠で ある。同法は、環境庁と関係省庁との綱引きもあって、規制から河川改修等を除外し、国有林でも事前に協議すれば 伐採できることになっている。他省庁が、骨抜きにしようと考えれば簡単であると云える。第三は、種指定の拡大で ある。環境庁は当面五年で二十種指定の方針としたが到底十分とは考えられない。日本の各種調査は、約二百五十種 が絶滅の恐れがある、と指摘している。そのためにも、基礎調査等の積み重ねが必要である。 東 洋 法 学 三一
世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 三二 四 自然遺産と湿地保護の問題 陸地でもなく水域でもなく、その中問にある干潟、沼沢、河口部、泥炭地、増水期には水浸しになる低地等をまと めて﹁湿地﹂と呼んでいる。ブラジルのアマゾン川や米国のミシシッピ川の流域、熱帯アジアのマングローブ林等に は広大な湿地が発達している。わが国では、有明海や東京湾の干潟、尾瀬ヶ原の高層湿原等がよく知られている。水 と陸の境目に広がる湿地は、生物を豊かに育み、渡り鳥、水鳥の棲みかとなっている。中でも海岸や河口部にある干 潟は、土と水の働きで、汚れものを捉らえ、分解し、環境を清める巨大な浄化装置でもある。洪水や激浪の勢いを弱 め、陸地を水の浸食から守ってくれる。湿地は、自然の生態系の欠かせない一環である。環境庁の海域生物環境調査 によると、この十三年問で四〇七万ヘクタ⋮ルの干潟が無くなっている。埋め立て、陥没、竣深工事が干潟消滅の三 大原因としている。 一九七一年、イランの首都テヘランから百五十キロ程、北のカスピ海の湖畔にラムサ⋮ル︵即鋤鴇も 。践︶という小さ な町で水鳥と湿地に関する国際会議が開かれ、﹁特に水鳥の生息地として重要な湿地に関する条約︵O・辱①導一99 ミ①§&ω○ご導①露呂象巴ぼ宕訴磐8四巷8邑ζ霧薯象①穫敏註国書一翼︶﹂という名の条約が採択された。この条約 は、会議の開かれた町の名前に因み﹁ラムサール条約﹂と一般に呼ばれている。正式名称からわかるように、重要な パユレ 湿地を世界各国が保全することを目的とした条約である。 条約による湿地の定義は、かなり幅広く、天然の湿地から人工の湿地まで含まれ、淡水、海水を問わない。川岸、
海岸、干潟水田も含む。ラムサ⋮ル条約は、生物にとって、特に水鳥にとって価値が高い一方、容易に破壊されてし まう湿地を、国際的に保全することを目的としている。渡り鳥に国境はない。地球規模に移動する渡り鳥を保護する ためには、国家問で協力して湿地を保全しなければならない。また国境に股る湿地を、周辺諸国が協力して保全する こともこの条例の重要な使命である。ある国が、ラムサ⋮ル条約に加入し締約国となるには、その国にある湿地のう ち、少なくとも、一カ所を指定し、条約事務局にある登録簿に登録することが義務付けられている。締約国は、その 国の制度によって登録された湿地の保全を図らなければならない。ラムサール条約は、湿地を厳格な保護地域に定め て、人の立ち入りを厳しく規制するようなことまでは要求していない。この条約による湿地保全のありかたは﹁賢明 な利用︵鉱G 。①霧①︶﹂という基本原則に基づいている。ラムサール条約は、三年ごとに締約国会議を開催する。締約 国は、この会議が開催される半年前迄に自国の登録湿地の現状等をまとめたナショナルレポートを提出しなければな らない。このレポートにより各国に登録湿地の保全状況が明らかになる。これ迄四回の締約国会議が開催され、次回 は、一九九三年にアジアで初めて、釧路市で開催される。同条約は、既に六十ニカ国が加盟し、それぞれの締約国が 湿地の保全に努力している。同条約で指定した湿地の総面積は約三千万ヘクタ⋮ルで、日本全土の八割強の面積に相 当する。登録湿地が少ないことや登録湿地自体が開発の脅威に晒されている等、解決しなければならない課題は多い。 世界の重要な湿地の全てが登録湿地となり、賢明に利用され子孫に受け継がれていくことがラムサール条約の願いで あり、世界の人々の願いでもある。 同条約に関する国内法は、自然保全に関する法律として、自然環境保全法、自然公園法、文化財保護法、鳥獣保護
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世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 三四 法・狩猟法、特殊鳥類譲渡規制法、希少野生動植物譲渡規制法、都市緑地保全法、大都市緑地・樹木保全法、都市公 園法、生産緑地法、古都保存法等があり、開発に関連する法律として、国土総合開発法、水資源開発促進法、都市計 画法、国土利用計画法、リゾート法、河川法、海岸法、港湾法、公有水面埋立法、公害対策基本法、水質汚濁防止法、 湖沼水質保全特別措置法、海岸汚染防止法、廃棄物処理法、農地法、森林法、漁業法、水産資源保護法等がある。ラ ハ ムサール条約の様に自然生態系の保全を目的とする国際法の場合は、個々の生態系の地域特性の故に、保全のための 統一的措置は定めておらず、各国の国内法令に具体的措置を委ねるのが普通である。従って国内法令も整備する必要 が迫られている。 また、工場用地、空港、港湾、リゾート開発、ゴミ処分等のために進行中の埋め立て、干拓計画に加え、第二次大 戦後復興期や高度経済成長期に計画された防災干拓事業や埋め立て事業の合理性、規模等を再点検することも必要で あろう。先例は、中海・宍道湖の淡水化・干拓事業や長良川の河口堰問題に求めることができる。埋め立て、干拓の 代償に造成された人工干潟が、如何に高価につき、生態系が容易に戻らないかは、東京湾人工干潟により証明済みで ある。
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%餌導。 。p円る,Pむ諺\霧餌簿Φ&aξ浮Φ噂包ωb円908一〇︷ω萄﹂⑩o o⑳鈴 拙稿﹁地球環境保全と企業の環境責任﹂東洋法学第三五巻第一号四七頁以下。五 英国における自然保護行政とシヴィック・トラストによる現代的アプローチ 英国のイングランド及びウェ⋮ルズには、国立公園が十カ所あって面積は百三十五万ヘクタールとなっている。こ の他、国立自然保護地域二百三十三カ所、景勝地域三十七カ所あり、自然景観、牧場、集落等、人工景観の保護及び 指定された田園地帯への徒歩利用権︵男お嘗象類爵︶を確保して長距離歩道︵ピ○お鎌馨§8δ9窓芽︶を設け、 自然に親しむ活動を促進する様にしている。英国の田園地帯では、伝統的な自然景観の保全に対する民衆の強い支持 があり、ピーターラビットの物語に出てくる湖水地方の自然景観の保全の様に、ナショナル・トラストによるものも ある。したがって自然景観を損う様な開発は考えられない。英国は、世界遺産一覧表に記載されている遺産として、 ロンドン塔、カンタベリ⋮大聖堂、スト⋮ンヘッジの巨大遺跡等、十四件を保全しているが、自然保護等には行政上、 ぞマ 環境省とその付属機関により各種の開発行為等を詳細に審議し規制している。その背景には英国の自然保護の歴史の ぞレ 重みを感じとることができる。また、風致的国土計画と環境問題には大きな関心をもってきた経緯がある。また、行 政上の保護は勿論のこと、ナショナル・トラスト及びシヴィック・トラストによる信託法理の応用による民間サイド からの文化遺産と自然遺産の保護・保有は理想的なものが指摘される。そこで、関連法制とシヴィック・トラストと 現代的アプローチを中心に触れておきたい。 シヴィック・トラストが設立されたのは一九五七年である。この時期は、第二次世界大戦の復興がほぼ完了し、英 国の新しい経済活動が活発化し始めていた。こうした時期に、企業が法人会員となって、英国経済界の負担において、
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世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 三六 信託の法理を応用した環境保全のための団体が設立された。これは、英国の社会的風土として、企業活動に伴う環境 変化の責任を先取りし、企業の社会的責任という観点から、英国の経済界が環境問題を義務として引き受けようとす ハ るものである。シヴィック・トラストの活動を援助するのは、この六千余りの法人会員である。これは、一般の会員 ハィレ 一一四万人を擁して活動しているナショナル・トラストとは性格も組織も異なるからである。 シヴィック・トラストの創設の背景や具体的活動を理解するには、英国における環境保全、文化財保護に関する法 規や団体について触れなければならない。まず、保護関係法規であるが、ナショナル・トラストが発足した一八九五 ハぢレ 年当時は、環境保護関係の法律としてコ八八二年古記念物保護法し︵︾8δ翼ζ○蒙蓉Φ鱗も 。汐08&呂︾o江o 。o 。N︶ が存在していたに過ぎず、国家的に重要な遺跡の保護を目的としたこの法律でさえ、成立過程においては、財産権の 恐れあり、として多くの反対があったとされる。 この法律は、主に、重要遺跡の登録とその保護のための土地利用規制を定めたものである。英国では一般に、居住 もしくは使用し得るものを﹁歴史的建造物﹂︵江誓○誉ぴ琶島鑛ω︶、廃塊等、居住や使用のされないものを﹁古記念 物﹂︵慧。δ簿ヨ○壼導Φ簿ω︶と分類している。古記念物に関しては、コ九ご二年古記念物法﹂及び2九五三年歴 史的建造物並びに古記念物法﹂があるが、同法によると歴史的・建築的に極めて興味の深い建造物あるいは建造物群 の修理・補修に対しては、補助金が付与される。一九七九年現在、一万八千余りの古記念物が保存対象︵G。魯鑑巳&︶ とされ、その内、七五九件は国の所有あるいは保護下に置かれている。保存対象の古記念物の所有者は、その修理、 改変、取壊し、また何らかの影響を与える工事に際しては、その三カ月前に通告を行わなければならない旨、規定さ
れている。 同法の措置は、さらに、放置もしくは不適切な取扱いによって危機に瀕している古記念物は、国の保護下に置くこ とができるとし、また、保存対象たる古記念物を所有する民間人に対しては、修復補助金が支出されるとする。こう した建造物群の修理は、タウン計画︵8毒p8訂導ω︶と呼ばれており、﹄九六二年地方自治法﹂によれば、地方自 治体はリストアップされていようといまいと、歴史的建造物の修理に補助金を与えることができる。﹄九四四年都 市田園計画法﹂︵↓○妻β餌&○○毯叶蔓勺鋸§︸譲︾9︶は、歴史的建築物のリスト作成を国に義務付けたものであるが、 以下に述べるように改正され続け、同法によって、一九七九年現在、約二三万五千棟の建物が歴史的・建築的な興味 ハもレ の対象としてリストアップされている。自然保護関係法規として関連するコ九四九年国立公園及び田園利用法﹂ ︵窯蝕8巴旭象冨鋤巳︾8①器89Φ︵︶雲馨蔓ω箆①︾9むお︶は、国立公園や自然保護地︵客象鰻①菊Φ。。段語︶の設 置を取り入れており、また、コ九六八年田園法﹂︵○象導蔓巴留︾。二霧o 。︶は、田園公園︵○雲鱒蔓勺霞悶︶の設置 を規定するとともに、カントリーサイドの保護に関する公共機関の権限を拡大した。 ﹄九四七年都市田園計画法﹂は、リスト登載建築物の取壊し規制を導入、また、﹁一九六八年都市田園計画法﹂ は、都市計画権限を有する地方公共団体である地方計画庁の岡意なくしては取壊すことができないことを規定した。 コ九六七年シヴィック・アメニティ⋮ズ・アクト﹂︵Ωく一。>導露窯霧︾9む巽︶は、歴史的建造物と古記念物以 外に、いわゆる町並み保存にあたる対象として、保存区域︵○○霧薯蝕S震$︶の指定条項があり、保護は群とし ての建築物に拡大された。
東洋法学 三七
世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 三八 コ九七一年都市田園計画法﹂によると、歴史的・建築的な興味の対象としてリストアップされた建物は、次のよ うな規制を受ける。①それらの建物は、地方の計画当局の承認なしには取壊したり、改造したりしてはならない。② もし、その所有者が建物の保存のための適正な措置を講じないときは、地方の計画当局は必要な工事内容を指定した 修理命令を出すことができる。また、そのままニカ月を経過したときは、その建物を強制収用することができる。③ 地方の計画当局は、その建物が空屋である場合には保存のために必要な緊急修理を行うことができ、その費用を所有 者に請求できる。また、2九七四年都市田園計画法﹂によると、地方の計画当局はリストアップされた建物の環境 に影響を及ぼすような開発計画は、全て公告しなければならないとした。 一九六七年シヴィック・アメニティ法が拡充統合された法律であるところのコ九七四年都市田園アメニティ法﹂ ︵↓○萎p餌&○象算蔓︾目窪葺霧︾。江り謡︶と、コ九七四年都市田園計画法﹂により規制が強化された結果保存 区域内の建築物には、リスト登載の歴史的建築物と同様の取壊し規制が現在は適用されている。すなわち、地方の計 画当局は、保存もしくは維持することが望ましい性格や外観を備えた、歴史的・建築的興味をそそる地区を保存区域 に指定する。一九七九年現在、二万五千以上の区域が指定されている。地方の計画当局は、これらの法律に基づき次 のことをしなければならない。①管轄の大臣の需めに応じて、所轄の保存区域の改善計画を策定し公表する。②計画 関係法の運用に当っては、保存区域の性格を考慮する。③その地区の性格に影響を及ぼす計画案は全て公告する。④ 保存区域内では、極めて小規模な建物以外は、全ての建物は地方の計画当局の承認なくして取壊すことはできない。 また、区域内のリストアップされた空屋やリストアップされていない空屋をも緊急の際に修理する権限をもつが、区
域内の樹木の保存や広告については、その規制に関する指定条項に従う。なお、こうした保存区域の内、特に優れた 区域の改良改善には、英国政府の補助金の助成がある。 英国の都市計画については、一般に開発許可制度なる承認制がとられており、その権限は基本的には地方自治体に 委ねられていて、計画指導担当官︵祉餌巳お○簿。R︶、開発規制担当官︵留く鉱ε§導8簿8一〇窪。象︶が、その具 ハクレ 体的な計画指導及びチェックに当っている。歴史的価値のある都市では、保存担当宮︵8霧磐幾80塗8門︶がお り、保存の規制と改善の計画策定に当っている。一番問題になる歴史的建物のリスト選定は、環境省に属する﹁歴史 的建造物及び都市保存局リスト課︵げ算一おω8鉱80︷Oき弩○○霧Rく魯9磐α震馨○膏じ O巳一島お9≦鴇S︶﹂の 調査官が中心になって行っている。英国の古記念物委員会︵>ぎ綜簿竃○謹簿Φ簿のω8箆︶並びに歴史的建造物委員 会︵震。 。8蔚じ O巳窪謎○○毯亀︶も、こうした保護再生の行政全体を見守るために、補助金の承認、指定の承認等 を行つている。 こうした行政活動にも増して、重要な役割を果しているのが以下に述べる様々な民間の保存・保護団体であろう。 民間団体の活動を育成し、助成して、その意向を満たすためのバックアップが環境省や地方自治体の役割だともいえ るほど、民間団体は主導的な活動を行っている。一八六五年設立の﹁共用地保存協会﹂は、ナショナル・トラストの 母体の一部になったことでも、よく知られている。一八七七年設立の﹁古建築物保存協会﹂からもナショナル・トラ ストは、建築物の取得と修理に関して助力を得、その後、長い協力関係が続いている。 共用地保存協会は、現在の﹁共用地・空地・歩行者道保存協会﹂︵○○旨箏8Pε象98霧磐α蜀86餌浮。 。甲?
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世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 四〇 ω①宅薮8ω9審蔓︶の前身とされる。一九一二年設立の﹁自然保護地設置促進協会﹂︵ω8笛蔓︷9汐○欝呂窪○︷ 窯象霞①幻Φω段く霧︶は、自然保護地の設立促進団体である。一九二四年設立の﹁古記念物協会﹂︵︾蓉8導ζ○鷺− 簿Φ簿ωω○鼠Φ蔓︶は、遺跡の保存運動を進めている。一九二六年設立の﹁田園的英国を守る会﹂︵○○琶亀ぴ二ぽ 汐○$&象鉱男ξ巴図謎一呂伽︶は、無思慮な開発からイングランドの田園を守るための運動を展開している。一九 三五年設立の﹁散策者連合﹂︵濁餌簿ぴ一Φ崩、︾。 ・8鼠器9︶は、余暇のためカントリーサイドを利用する権利の保護団 体である。一九三七年設立の﹁ジョージアン・グル⋮プ﹂︵08お一毯90巷︶は、ジョ⋮ジ王朝時代︵一七一四ー 一八三〇︶の歴史的建築物の保護運動団体である。一九四三年設立の﹁英国考古学協会﹂︵○○暴o一=禽穿蕪。 。げ ≧鼠器2お図︶は、主として埋蔵遺跡の保存運動を進めている。一八五八年設立の﹁ヴィクトリアン.ソサエティ﹂ ︵≦90鼠§ω9δ受︶は、ヴィクトリア王朝時代︵一八三七∼一九〇一︶を中心とした歴史的建築物の保護運動団 体である。一九五七年に設立された﹁シヴィック・トラスト﹂も、こうした民間団体の一つである。英国は、元来、 地方分権的な政策がとられてきたので、富は地方の大邸宅や豊かな地方の町に蓄積された。 しかしながら、社会的公平を重んずる英国は、資産移転税の累進化を強化し、同時に社会保障の強化も進めてきた。 そこで、英国固有の伝統を資産の平準化の政策にょって失わせないために、芸術的な特質をもった建物や地域に対し ては、公開を前提とした免税措置が講ぜられている。英国の個人主義的な国民性は、国がこうした保存に介入するこ とを最小限に止めようとする傾向が強く、有力な人々がボランティアの団体を結成していった。建物、公園、町並み 等に関与するこうした団体を﹁アメニティのための団体︵︾簿の巳受ω○鼠象霧︶﹂と呼んでいるが、これらの民間団
体が保存活動の主体となっているのが英国の特徴でもある。そして、これらは主として地方ごとに結成されるもので、 一九七五年の統計では、約一二五〇団体があるとされる。これらの組織団体が、様々に活動領域を分担し、ときに共 同しながら、保存活動が行われている。この様に民間団体の数が多くなると、当然、相互の連絡や連携活動が重要に なる。そのための組織が﹁シヴィック・トラスト﹂であるともいえよう。 多彩な環境保護団体の活動は、相互の連絡、連携活動が重要なことは前述したところであるが、数多い民間団体の 登録とそれらへの情報提供と助言を行い、且つ保存区域の法制化に尽力しているのがシヴィック・トラストである。 この活動を援助するのは、六千余りの企業が主体の法人会員である。その本部は、ロンドンにあり、ここに英国中の 環境保全、文化財保護の情報が集められている。各地方を担当するシヴィック・トラストの組織は、グラスゴ⋮、 カ⋮ディフ、マンチェスタ⋮、ダラム等にある。シヴィック・トラストの最初の活動は、英国全体の情報の収集であ ったが、具体的な方向性として最初のキャンペーンは道路の浄化であった。これは、身の回りの始末の徹底というこ とであり、戸口の清掃、生垣の整備、店先の整理等の運動であった。一九六六年からは、都市屑辺の植樹運動が展開 された。ロンドンの新開発団地に六百本の樹木を植えることから始まったこの運動は、たちまち、各地の民間団体に 取り入れられ、遂に国家的な行事として一九七三年が英国民植樹年と決められるまでに盛り上った。 シヴィック・トラストは、環境保全や歴史的建築物の保存に関する情報伝達の窓口機関という性格をも有している が、単なるキャンペ⋮ンに止まらず具体的計画の立案や助言も重要な活動となった。シヴィック・トラストの基本姿 勢は、環境問題に対する規制強化の圧力ではなく、具体的な可能性を発見し提言するという、建設的かつ現実的な方
東洋法学 四一
世界遺産条約と環境保護の現代的対処法 四ニ ハ 向である。これらを最もよく示しているのが、シヴィック・トラスト賞と呼ばれる制度である。これは、新たな建築 活動、開発行為の中で、周囲の歴史的環境や自然景観と望ましい調和を示したもの、あるいは環境向上に貢献したも のを顕彰する制度である。現状を批判することによって、環境の向上を世論に訴え、単に反対のための政治的圧力を 掛けるものではなく、現状の中に肯定的評価の可能な方向性を見出すことが、シヴィック・トラストの団体としての 根本姿勢となっている。実際には、こうしたことは想像する以上に難しいと思われる。 行政上の責任を負う官公庁が環境の評価に対して基本的認識をもち、世論がトラストの評価に意味を認め、様々な 他の団体が具体的行動によって補助しなければシヴィック・トラストの活動も順調に進むことは不可能だからである。 勿論、英国における保存事業は、一貫した英国性を保ちながら、英国固有の相貌を呈しつつ、伝統を築き上げる特殊 性があることを指摘しなければならない。英国環境省通達八六/七二︵二︶にも、﹁保全は常に可能ならば自己財 源で、特に改良された不動産価値の増加を実現することによって遂行するべきである⋮ごとあり、特定地区での例 外は認めているものの、原則としての保全の考え方を示している。こういう保全︵8霧Φミ魯8︶とは、保存 ︵鷺①器讐魯8︶、維持︵8鑓ぎ目Φ簿︶、改善︵欝嘆○毒欝の茸︶、高揚︵①浮き8目Φ艮︶という四つの主たる要素か らなっており、さらに破壊的な外力から歴史的・文化的空間を保護︵嘆○帯98︶するという意味がある。町並み 保存は、そこに住み、生活する人々の生活環境水準の向上につながるものでなければならず、保全のために生活環境 ハタレ の水準が低下し、暮しが圧迫されるといった種類の保全は許されないとする。 それ故に、原則的には、保全のための投資は経済的見地から、保全対象としての不動産の価値を増進するものでな
ければならないとする。英国の町並み保存の実際は、保存を中心としたお祭りや見学会も多く、住環境の向上と観光 とが好ましい形で結びついている例が多い。ナショナル・トラストの創設者の一人であるオクタビア・ヒル女史 ︵09雲鈷田︸=o 。G 。○ 。よΦ旨︶が住宅管理、住環境改善を身近なところから実践していくことの大切さを教えたが、 百年後のシヴィック・トラストは、まさに、その遺志を受け継ぎ文化的遺産の保存に発展させていることは注目され る。 ︵1︶ U,獅くゆβo 。︶︾寓一ω8蔓○︷累象農①OO霧Φ暑象純○⇒箭︸W鉱欝一P一㊤⑩囲 ︵2︶≦罵霧F9&ω。巷①℃鑓召一漏ゆ&穿爵・舅Φ鼻る⑩一● ︵3︶ω巴暮①ε9ΦΩ誌。↓毎ω∬爵①冴o鐸8甘搭ミ・窯ρ謡9≦o↓渥ω骨㌔注Φ○︷箪ゆ8し⑩冠・ ︵4︶夢①2呂8巴摩μ険K①舘ご ご○○パるお甲Ω︿δ岸霧計08ωΦH<鞍○口嘗︾9・戸一零o 。曝 ︵5︶湘・び汐浮象Φp塁①○・艮汐巴お汐信・ω?>露ω瞥・蔓・︷島Φ蜜甑8巴6霧葺鍍>嘗駕&ミ・H下︵い・話§昌。 ・﹂⑩①・。y ︵6︶︾鷺陣①馨鵠o蒙露窪$ゆ鋤巳楓OH国誌訂&︵瓜9ω○︶・顯無○膏田象筏一謎ω○○琶o鵠︷黛国お冨&︵麟竃ωOy ︵7︶類ご江ω・黛国豊冨ρ鎖鼠ωρごまるぎαダω巨憂︾羅・ξ彗α9ぴ弩霞鎖暮凝レ雪餅 ︵8︶ω匹蘇①8浮①Ω誌。↓毎ω営↓幕︾8簿①〇二〇慧\8 ︵9︶即Φ嘗窪8U三ω8︾Oの馨邑○窪8・口駄・§薮・戸ぎ§零α○・彰欝望国Q嘗欝αQ汐じ O葺蝕p︵餌竃ωρ這認山⑩おy び①&ω9≦oげ霧欝&ヒ o貰榊2鋤鼠田亀Φ<琴○○窮導舅搾綴︾のω8欝鉱○鎖℃ o舅一①零鶴Φ一①器○霧○鳩ぎ蜜oくΦ導象世這認嚇↓訂 窯卑江○暴一卓霧けK①錠じ dOOぎω8≦鼠いき巴①ざ国○器陣品鎖&勺魯一帥o勺○囲一〇ざるお︸図①一簿U睾紗ω”譲Φ雪.。 。げ睾○︷餌8段韻一 麟荘a.おお蔦。φ○巳㌶口αQ壌R夢↓○類p伽巳○雲旨緒距磐巳お汐国お㌶巳磐α譲巴Φωレ霧野
東洋法 学
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