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低カリウム血性ミオパチーにより首下がりを呈した2症例

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(1)

51:110 症例報告

低カリウム血性ミオパチーにより首下がりを呈した 2 症例

谷口浩一郎

1)2)*

沖野

1)

山本 伸昭

2)

松本 真一

1)

立花 直子

1)

濱野 利明

1) 要旨:後頸部筋に限局した低カリウム血性ミオパチーにより首下がりを呈した 2 症例を経験した.症例は 78 歳 の女性と 85 歳の女性で,後頸部筋に限局した筋力低下のため首下がりを呈していた.血清カリウムは低値で,針筋 電図で頸椎傍脊柱筋に筋原性変化をみとめた.MRI では後頸部筋群に信号変化をみとめた.血清カリウムの正常化 とともに,首下がりは消失した.このうち 1 例では,首下がりが再発し,同時に血清カリウム値も低下していた. 首下がりの鑑別診断として低カリウム血症による限局性のミオパチーも考慮する必要がある. (臨床神経 2011;51:110-113) Key words:首下がり,低カリウム血性ミオパチー,MRI,針筋電図 はじめに 首が持ち上げられない,首が下がるといった症候は「首下が り(Dropped Head Syndrome)」と呼称されている.

「首下がり」の原因疾患として,筋萎縮性側索硬化症などの 運動ニューロン疾患,慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチー などの末梢神経障害,重症筋無力症などの神経筋接合部疾患, 多発性筋炎,封入体筋炎,ネマリンミオパチー,ミトコンドリ アミオパチー,筋ジストロフィーなどの筋疾患,クッシング症 候群,甲状腺機能低下症などの内分泌疾患,パーキンソン病, 頸椎症などがあげられる1)2).今回われわれは,低カリウム血 症による限局性のミオパチーにより「首下がり」を呈した 2 例を経験したので報告する. 症例 1:78 歳,女性 主訴:首が下がる 既往歴:20 歳で虫垂炎に罹患した. 現病歴:2008 年 3 月下旬より首が上がらなくなり,近医を 受診した.症状は進行性であり,同年 4 月初旬に当科を紹介さ れた.症状に日内変動はなく,血清 CK 値の上昇と,針筋電図 にて頸椎の右傍脊柱筋に筋原性変化をみとめ,筋疾患をうた がわれ入院となった. 入 院 時 現 症:身 長 145.2cm,体 重 58.1kg,血 圧 136!82 mmHg,脈拍 82!分・整,体温 36.4℃,右下腹部に手術痕をみ とめた. 神経学的所見:意識は清明であった.脳神経系は,支配筋の 筋力もふくめ正常であった.四肢の筋力は,徒手筋力検査では 両上肢,両下肢ともに 5 で,頸部前屈は 5,頸部後屈は 2 で あった.四肢の腱反射は正常で,病的反射はみとめなかった. 起立歩行は正常で,感覚障害,自律神経障害,筋強剛や不随意 運動はみとめなかった. 入院時検査所見:血算には異常をみとめなかった.血液生 化学検査では血清カリウム値が 3.0mEq!l(基準値 3.3∼4.8

mEq!l)と低下し,CK 365IU!l(基準値 45∼163IU!l),CRP

0.42mg!dl(基準値 0.3mg!dl 未満)と上昇をみとめた.血清 Ca は 10.2mg!dl(基準値 8.8∼10.2mg!dl)であった.免疫検 査 で は,抗 核 抗 体 80 倍[homogeneous 型 80 倍,speckled 型 80 倍](基準値 40 倍未満)と軽度上昇をみとめたが,抗 Jo-1 抗体,抗アセチルコリン受容体抗体,抗 RNP 抗体,リウマ チ因子は陰性であった.内分泌検査では,血漿レニン活性,ア ルドステロン,甲状腺刺激ホルモン,遊離サイロキシン, ACTH,コルチゾールを計測したが,異常はみとめなかった. 動脈血液ガスは正常であった.テンシロン試験は陰性であっ た.頸部 MRI では伸筋群に STIR 画像,Gd 造影 T1強調画像 ともに淡い高信号をみとめた(Fig. 1. A, B).神経伝導検査で は上下肢に異常をみとめなかった.副神経の反復刺激をおこ なったが,waning はみとめなかった.針筋電図では,四肢筋 は正常であったが,頸椎の傍脊柱筋において,安静時に線維自 発電位と陽性鋭波をみとめた.弱収縮では早期動員を呈し,低 振幅,短持続時間,多相性の運動単位電位を多数みとめた. 入院後経過:低カリウム血症に対し,塩化カリウム 600 mg!day の内服をおこなったところ,4 日目には血清カリウ ム値は 3.3mEq!l,血清 CK 値は 91IU!lと正常化し,首下がり * Corresponding author: 徳島大学医学部神経内科〔〒770―8503 徳島県徳島市蔵本町 3 丁目 18 番 5 号〕 1) 関西電力病院神経内科 2) 徳島大学医学部神経内科 (受付日:2010 年 6 月 3 日)

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低カリウム血性ミオパチーにより首下がりを呈した 2 症例 51:111

Fig. 1 MRI axial sections of the neck.

In patient 1, both short-tau inversion recovery image (A: 1.5T; TR 5,200ms, TE 71ms) and Gd-enhanced T1-weighted image (B: 1.5T; TR 460ms, TE 11ms) show high intensity signals in the posterior cervical muscles. In patient 2, slightly high intensity signal seen in the left posterior muscles (arrow) on T2-weighted image (C: 1.5T; TR 4,600ms, TE 102ms) show enhancement on Gd-enhanced T1-weighted image (D: 1.5T; TR 459ms, TE 11ms).

は消失した.低カリウム血症の原因として,内分泌系疾患をう たがったが,血液検査上は異常をみとめなかった.問診から平 素より生野菜や果物などを摂取していないことがわかった. カリウムの摂取不足と考え,血清カリウム濃度が正常化した 後,カリウム製剤の内服を中止した.その後,普通食のみで経 過観察としたが,低カリウム血症,首下がりの再発はみとめ ず,入院 21 日目に退院した.退院 2 カ月後におこなった針筋 電図では頸椎の傍脊柱筋に入院時にみられた異常は消失して いた. 症例 2:85 歳,女性 主訴:首が下がる 既往歴:50 歳で虫垂炎,82 歳で虚血性腸炎に罹患した.83 歳で高血圧を指摘されアムロジピンベシル酸塩を 5mg!day 処方されていた. 現病歴:2008 年 3 月頃,近医で白内障の手術を受けてから 急速に首下がりが出現し,後頭部に痛みを感じるようになっ た.そのため,当科受診し,血清 CK 上昇,針筋電図によって 頸椎の左側傍脊柱筋に筋原性変化を指摘され,筋疾患をうた がわれ入院となった. 入 院 時 現 症:身 長 138cm,体 重 42.28kg,血 圧 112!64 mmHg,脈拍 78!分・整,体温 36.8℃. 神経学的所見:意識は清明で,脳神経系には支配筋の筋力 もふくめ異常所見をみとめなかった.四肢の筋力は,徒手筋力 検査では両上肢,両下肢ともに 5 で,頸部前屈は 5,頸部後屈 は 3 であった.四肢の腱反射は正常で,病的反射はみとめな かった.起立歩行は正常で,感覚障害,自律神経障害,筋強剛 や不随意運動はみとめなかった. 入院時検査所見:血算に異常をみとめなかった.血液生化 学検査では血清カリウム値が 2.7mEq!lと低下し,AST 47

IU!l(基準値 13∼33IU!l),LDH 371IU!l(基準値 119∼229IU!

l),CK 552IU!lと上昇をみとめた.免疫検査では,抗核抗体 40 倍[homogeneous 型 40 倍,speckled 型 40 倍]と上昇をみ とめたが,抗 Jo-1 抗体,抗アセチルコリン受容体抗体,リウ マチ因子は陰性であった.内分泌検査では,血漿レニン活性, アルドステロン,甲状腺刺激ホルモン,遊離サイロキシン, ACTH,コルチゾールを計測したが,異常はみとめなかった. 動脈血液ガスは正常であった.テンシロン試験は陰性であっ た.頸部 MRI では有意な信号変化をみとめず,造影効果もみ とめなかった.神経伝導検査は正常であった.副神経で反復刺 激をおこなったが waning はみとめなかった.針筋電図では, 左頸椎傍脊柱筋と左胸鎖乳突筋で,安静時電位はみられな かったが,早期動員を呈し,低振幅,短持続時間で多相性の運 動単位電位をみとめた.四肢筋に異常はみられなかった. 初回入院後経過:安静のみで血清カリウム値,血清 CK 値 は正常化した.それとともに首下がりは消失した.低カリウム 血症の原因をしらべたが,内分泌異常はなく,問診上も特定で

(3)

臨床神経学 51巻2号(2011:2) 51:112 きなかった.入院 24 日目に退院した. 退院後 8 カ月間は,低カリウム血症,血清 CK 値上昇,首下 がりをみとめなかった.退院後 11 カ月目に,首下がりが出現 し,その際血清カリウム値は 3.1mEq!lと低下し,血清 CK 値は 320IU!lと上昇していたため,再入院した.その際の血清 Ca 値は 9.3mg!dl であった. 2 回目入院後経過:L―アスパラギン酸カリウム 1,800mg! day の内服を開始したところ,血清カリウム値は内服開始 4 日目には 3.7mEq!lと正常化し,首下がりは内服 7 日目に消 失した.血清 CK 値は内服開始 14 日目に 90IU!lと正常化し た.入院 3 日目に撮影した頸部 MRI の T2強調画像では,左側 の後頸部筋群で淡く高信号を呈しており,同部位では造影効 果をみとめた(Fig. 1. C, D).低カリウム血症の原因として, ユーグレナ 21,ヘルスコラーゲンパフィア,フラアミン,リア ルプロポリス 187 といった健康食品の摂取がうたがわれたた め,副作用を調査したが報告例はみとめなかった.症状が軽快 したため,健康食品の摂取を禁じ,入院 16 日目に退院した. その後 2 カ月は首下がりの再発をみとめなかった. 今回報告した症例は,当初,血清 CK 値の上昇と針筋電図で 筋原性の変化をみとめたことから,筋疾患がうたがわれた.末 梢神経障害は電気生理学的検査からは否定的であった.神経 筋接合部の障害は,神経反復刺激検査,テンシロン試験,抗ア セチルコリン受容体抗体が陰性であり,否定的であった.パー キンソン病は,神経学的所見から,除外可能であった.筋疾患 の鑑別のための筋生検は施行していないが,低カリウム血症 をみとめ,血清カリウム値の正常化にともない首下がりが消 失したこと,症例 2 では首下がりが再発したときに,血清カリ ウム値もふたたび低下していたことより,後頸部筋に限局し た低カリウム血性ミオパチーによって首下がりを生じたと診 断した.低カリウム血症の原因であるが,内分泌異常などはみ とめられなかった.症例 1 では,その後の食事指導で再発がみ られなかったことから,カリウムの摂取不足と考えられた.症 例 2 では,健康食品の関与が考えられた. 低カリウム血症により,筋力低下をきたすものを低カリウ ム血性ミオパチーと称している.その特徴は,四肢の筋力低 下,血清カリウム値の低下,筋由来の血清酵素の上昇,筋生検 で筋原性変化をみとめること,血清カリウム値の正常化にと もなって筋力が回復することである3).ミオパチーを発症する 血清カリウム値については 2.0mEq!l以下という報告4)もあ り,われわれの 2 症例の血清カリウム値の低下は従来報告さ れている低カリウム血性ミオパチーに比して軽度であった. 低カリウム血性ミオパチーで首下がりのみを呈した症例は, われわれのしらべた範囲では Yoshida ら5)によって報告され た 1 例のみである.彼らの症例では血清カリウム値は 3.0 mEq!lで,血清 CK 値も 174IU!lと正常範囲内であった.首下 がりは 5 カ月にわたって持続していたが,カリウムの補充に ともない改善していた.筋力低下が頸部筋に限局する理由は 不明であるが,血清カリウム値の低下が軽度にとどまったこ とが関連していた可能性が推測される. 低カリウム血性ミオパチーでは T2強調画像で筋に高信号 がみられることが報告されており,筋生検所見との比較検討 から T2強調画像でみられる高信号は筋の浮腫を示している と考えられている6).症例 2 で初回入院時の MRI で異常がみ られなかったのは,筋の浮腫が軽度であったためと考えられ る.また,今回われわれが報告した 2 症例では症状消失後の MRI は施行できていないが,症状の回復とともに画像所見も 正常化することが報告されている6) 首下がりの原因は様々であるが,低カリウム血性ミオパ チーも鑑別疾患として重要であると考え,報告した.

1)Petheram TG, Hourigan PG, Emran IM, et al. Dropped head syndrome: a case series and literature review. Spine 2008;33:47-51.

2)Katz JS, Wolfe GI, Burns DK, et al. Isolated neck extensor myopathy: A common cause of dropped head syndrome. Neurology 1996;46:917-921.

3)Van Horn G, Dror JB, Schwartz FD, et al. Hypokalemic myopathy and elevation of serum enzymes. Archives of neurology 1970;22:335-341.

4)Kawahira K, Tanaka N, Uchida M, et al. A case of hy-pokalemic myopathy with myoglobiuria induced by diu-retics. Med J Kagoshima Univ 1984;35:289-295.

5)Yoshida S, Takayama Y. Licorice-induced hypokalemia as a treatable cause of dropped head syndrome. Clinical Neurology and Neurosurgery 2003;105:286-287.

6)Hayashi K, Hayashi R, Maruyama K, et al. Histopa-thologic and MRI findings in hypokalemic myopathy in-duced by glycyrrhizin. Acta Neurologica Scandinavica 1995;92:127-131.

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低カリウム血性ミオパチーにより首下がりを呈した 2 症例 51:113

Abstract

Two cases with dropped head syndrome caused by hypokalemic myopathy Koichiro Taniguchi, M.D.1)2) , Iwao Okino, M.D.1) , Nobuaki Yamamoto, M.D.2) , Shinichi Matsumoto, M.D.1) , Naoko Tachibana, M.D.1)

and Toshiaki Hamano, M.D.1)

1)

Department of Neurology, Kansai Electric Power Hospital

2)Department of Neurology, Tokushima University School of Medicine

We reported two women (78 and 85 years of age) with dropped head syndrome caused by hypokalemic myopathy restricted to the posterior cervical muscles. Both presented with relatively rapid onset of severe neck extensor weakness. Needle EMG demonstrated myogenic changes in the cervical paraspinal muscles and there were high intensity signals in the posterior cervical muscles on the neck MRI. Dropped head syndrome resolved in both patients as potassium normalized. One of the patients relapsed 11 months later with recurrent hypoka-lemia, but recovered rapidly with supplementation of potassium. Focal myopathy localized in the posterior cervi-cal muscles due to hypokalemia should be considered as one of the possible causes of dropped head syndrome.

(Clin Neurol 2011;51:110-113) Key words: dropped head syndrome, hypokalemic myopathy, MRI, needle EMG

Fig. 1 MRI axial sections of the neck.

参照

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