C A N C E R,2 (1992) 23- 26
エクア ドルの食用マングローブガニ 「カング レホ」 について
本 尾
洋 ・ R a也l
G U A R T A T A N G A1
. はじめに 南米太平洋側の赤道直下に位置するエクア ドル では, 現在食用カニ類 として以下の7
種類が知 ら れている(M otohetal.,1992).
カラッパ科1)
Calappa convexasSaussure ワタリガニ科2 )Callinectes w cuatusO rdw ay 3 )Cdilinectes toxotesO rdw ay
4 )E uphylax robustusA .M ilne E dw ards オウギガニ科
5 )M en軸 e frontalisA .M ilne E dw aeds オカガニ科
6 )Cardisom a crassum Sm ith スナガニ科
7 ) U cides occidentalis(O rtm ann)
以上の内, 最後のスナガニ科のカニ, U.occid-entalis (ェ ク ア ド ル 名 「カ ン グ レ ホ」 "c angrejo'') は日本 や東南 アジアには全 く分布 しない仲間であること, エクア ドルでは最 もポ ピュラーな食用種であること, さらにはその食べ 型が独特であることか ら大変興味を
引
く種類であ る. そこで, ここでは本種に関する漁獲および販 売などについてそれぞれ代表的なプエル ト モロ 村 とグアヤキル市を選んで調査 し, 幾つかの知見 を得たので紹介する.2
. 調査結果 図1
に調査場所, および図2 - A
に同カニの写 真 (成体雄) を示す. 調査 は1992
年5
月か ら7
月 にかけて, 実地の漁獲場観察 と漁業者数名か らの H iroshi M o TO H ・ R a也l G U A R T A T A N G A : O n the"cangrejo'' of the edible m angrove crab from Ecuador. 23 聞き取 りにより行なった. グアヤス州の州都 グアヤキル市 (G uayaquil) は人口約
200
万人の大消費地で, グアヤキル湾の 奥部にある. そ して同市か ら車で約1
時間半のと ころにマングローブ地帯が開け, そこにひなびた 村プエル ト モロ (P uerto M orro) がある. 道の 行 き止まりにある極めて素朴な漁村 と言 ったとこ ろで, 人々は池でのエビ養殖, 養殖用の天然椎 エ ビ採集, 員類漁業, マングローブ域内外での刺網 / 囲 い網漁業, あるいはマ ングローブガニ漁業 (漁獲, 採捕) に従事 している. プエル ト モロのカニ漁業の歴史は古い. はる か昔に隣のエル オロ州 (E 1 0 ro, スペイン語で 「金」 の意) で金脈が見っか り, その採掘を目当て に外国か らも人々が この地区に移住 して来たそう である (今 は採掘な し). そ して現在その末商 らが 漁業を営んでいるということである. 自分のお じ いさんの代 か らカニ漁業をすでにや っていたか ら,70
年以上 は経 っていると言 う説明があった. 主な現場聞き取 り調査の内容 は以下のとお りであ る. ここの全漁業従事者約220
名の内, 季節変動 も あるが100
名 ほどがカニ漁獲 (採集) をやってい る. 通常, 最干潮前 に船外機付 き木造舟に5
人で 乗 り組んで, 細いク リークをったってマ ングロー ブ地帯内の漁場 に着 く. 場所にもよるが片道2
時 間程度である. ここでは各人の漁場 は決 まってお らず, それぞれが 自由に漁獲 を してよいことに なっている. 漁獲 といって も特別な漁具があるわ けではな く, 潮の引いたマ ングローブ湿地でカニ の住処の穴 (図2
- B)
を探 し, 見っけると布手袋 をはめた手を突 っ込んで捕 まえる単純な方法であ る (図2
- C ). 漁獲 というより採集, 採捕 と言 っ たほうが適切である. ガザ ミ類のような強靭な-サ ミをもってお らず, 逃足の遅いカニだか らこそ24 エ クア ドルの食用 マ ングロー ブガニ 「カ ング レホ」 につ いて 図1 エクア ドル全土および調査場所 捕 まえ られる簡単な方法 と言える. マ ングローブ 樹 の枝や根が交錯 した, ぬかるんだ湿地を時には 膝近 くまで沈みなが ら, かたっぱ L か ら巣穴を見 つけては手を突 っ込んで泥 まみれになるきっい仕 事である. それだけに帽子をかぶ り, ゴム長を履 き, 長 ズボン, 長袖着をまとっての完全武装 ? で ある. もちろん干潮時の作業である (潮位差 1
.5-2 m ).巣穴 は相当深 く, 手を突 っ込むと完全 に肩 まで達 しているか ら1m 弱 はあると思われる. 穴 は時には二股に別れていると言 う. 漁獲のシーズンは5
月か ら8
月にかけてで, 特 に7 - 8
月は多 く, カニも大 きいと言 う. ただ し,8
年前か ら禁漁期間が設 け られ,8
月15
日か ら10
月15
日までの2
ケ月間は捕獲禁止 となってい る. また, 甲巾7cm
以下のもの及び雌 は法律で 捕獲できないことになってお り, これに違反す る と舟, 用貝を没収 されるという厳 しい措置が とら れている. 禁漁期については政府 (水産庁) がそ う決めたそ うでなぜその時期なのかはわか らない との漁業者の話である. 確かに調査当 日, 漁獲 さ れたカニはすべて雄であった し, 数十匹測定 した が いず れ も甲 巾7 cm
以 上 で あ った (最 小7.3
cm
,最大9.5cm ).
カニ漁の許可料 として1
人年 間,5
万 スクレ (約4
,500
円) を国に支払 ってい るとのことである. 彼 らの話 によると, 巣穴 の底 で脱皮 が行 なわ れ, その時は穴の出口を泥で覆 って蓋をす ると言 う.2
月頃に巣穴の外で交尾が行なわれるのをよ く見かけるそ うである. また, 抱卵雌 はあまり巣 穴の外 には出ないと言 う. ここでの通常1
週間の漁獲 日は火曜か ら土曜 日 までの5
日間で, 日曜, 月曜 日は休漁すると言 う. 干潮時刻にもよるが多 くの場合, 朝7
時に出て, 午後3
時に帰 って くるそ うで, 昼間で もカや虫に 刺 されるなど, その漁獲作業 は前述のように典型 的な3 K
労働である. 漁業者 は捕獲 したカニを舟 に集めて両- サ ミと 甲羅を器用に化繊糸で繋 げ, カニが挟んだ り逃 げ た りしないように固定する. 一般 に5
匹を1
列に して連結 し, それを向かい合わせに して10
匹を1
束にする. これが販売の最小単位で, それ以下 にば らして売 ることはしない. 輸送の便宜のため にはそれを更 に4
束繋 げ, 都合40
匹を平面的に 束ねる. 従 って,5
(舵)×
4
(横)×
2
匹 (段)本 屋 洋・ R adlG u A R T A T A N G A 25 図2 - A カングレホ "CangreJo" (U.occidenfa//S) の成体雄 図
2 - B
カングレホの巣穴 図2 - C カングレホを捕まえている様子 図 2 - D 生かしたまま, 束ねて売られているカングレホ のカニのブロック (現地語で 「プランチ ャ」 "P la-n cha") が出来上がる (図2
- D ). これにひもを つ けてぶ ら下 げて持 ち運 び し易 いよ うに してい る. カニが水気を失 って弱 った り死んだ りするこ とのないように湿 らせた南京袋などの布で ブロッ クを被い, 生か して輸送す る. この状態で2, 3
日間は生 きていると言 うか ら生命力の強い種であ る. 普通死んだカニは販売せず, 消致者 も生 きてい るのを確認 して買 っている. 生産地での値段 は10
匹で約180
円, それが都会の消費地では倍の360
円にはなる. それに して も漁業者の大変な苦労の 割 りには, 物価を考慮 して も, 随分 と安 いカニで ある. 生食 は絶対 にせず, 生 きたカニをにんに くと香 辛料 を十分 に加 えた熱湯中で30
分近 く時間をか けてゆで上 げる. まだ熱 いうちか らで もミソをす す り, はさみの肉を, 他 に何 も食べずに, ほうぼ り続 ける食べ方である. はさみや脚 を割 る専用の 小 さな木槌 や まな板 が各 自の前 にあ り, それを 使 って時には ビールを飲みなが らの豪快な楽 しみ である. カニはシオマネキに似た匂 いが し (生 き ている時 も), 味 はカニ類一般のそれて類似 し, 最 初 はまあまあの感 じである. ところが食べ慣れて くると香辛料 とマ ッチ してその独特の旨味に病付 きになる人が多い (筆者 らもそれに近 い). 食べ終 えた後 は手が汚れ, テーブル上 にもカニの破片が 飛び散 り, 木のポールには食べ る前以上 に殻が山 盛 りになってお り, あ らためて目で満腹感を味わ う感 じである.3 .
考 察 現在, 2
ケ月間を除 き, ほぼ年間を通 じてカニ が漁粧 されてお り資源保護の見地か ら乱獲による26 エ クア ドルの食用 マ ングロー ブガニ 「カ ング レホ」 につ いて 漁獲量激減が心配 されている. 加えてマ ングロー ク湿地がェビ養殖池や人々の居住区に換え られ, カニの生息地が減 ってい く一方である. 事実, 漁 業者 によると昔 はもっと沢山, しか もより大 きい のが多 くいたと言 う. ただ救いなのは雌 は資源保 護上全 く漁獲せず, かっ雄で も小型個体 (甲幅
8
cm 以下) は捕 っていないことである. 週2
日休 漁す るの も彼 らなりの資源管理法 とも言えそうで ある. いずれに して も早い機会に資源, 生態に関する 基礎的な調査を行ない, その科学的な結果に基づ いて漁獲規制, 資源管理法 を確立 して, このユ ニークな食用種の永続的な利用に向けて, 同資源 の維持増大を図ることが大切 と思われる.4.
文 献M oTOH, 班. (ed.),
1992.
A field guide to the edible fishes and shellfishes in coastalw aters of E cuador. C E N A IM,95
pp.(京都府立海洋 セ ンター ・ エクア ドル国立養殖海 洋研究セ ンター)