《総 説》
マクロライド及びケトライド耐性肺炎球菌の分子解析による評価
― Telithromycin の作用機序・耐性機序も含めて ―
井上松久・兼子謙一・中野竜一・佐藤義則・新井 進
北里大学医学部微生物学
(2004 年 7 月 20 日受付)PROTEKT (Prospective Resistant Organism Tracking and Epidemiology for the Ketolide Telithromycin) は呼 吸器感染症の主要原因菌に対する薬剤感受性を把握するための世界的な疫学調査であり,加えて,ケト ライド系抗菌薬 Telithromycin (TEL) の耐性肺炎球菌に対する作用機序及び耐性機序を明確にするとと もに ,マクロライド及びケトライド耐性肺炎球菌についての分子解析を目的としている。 TELのマクロライド耐性肺炎球菌に対する抗菌作用は ,耐性機序に関係なく発揮され ,ermB 遺伝子 保有株 ,mefA 遺伝子保有株及びリボソーム変異株の全てに対し強い抗菌活性を示した。この結果は , TELが ermB 耐性を誘導しないことに加え ,突然変異による耐性菌の選択能も極めて低い事実を反映し ていると考える。また,これらの作用は,TEL の新規性の高い化学構造に由来しており,マクロライド 系薬にはないケトライド系薬特有の特徴と考えられた。 PROTEKTの 1999⬃2002年の調査において,全世界的に分離された肺炎球菌13,864株中ケトライド耐 性菌 (TEL MIC ≧ 4mg/mL) は 10 株 (0.07%) に認められた。これら 10 株の MIC は 4 または 8mg/mLで , 全て ermB 遺伝子保有株であった。このことから,ケトライド耐性肺炎球菌の出現の背景には,ermB 遺 伝子産物であるアデニン・ジメチラーゼの何らかの関与が考えられた。
はじめに
肺炎球菌は ,呼吸器感染症における主要な原因菌の一つであり ,近年の著しい耐性菌の増加は ,治療 を行う上で大きな障害となっている。呼吸器感染症における耐性菌の動向を把握するための世界的な疫 学調査として ,1999 年から PROTEKT が実施されており ,耐性菌の分離頻度及び薬剤感受性について , 耐性遺伝子の分子解析も含めて毎年調査が行われている。その結果からも世界規模での耐性肺炎球菌の 蔓延は明らかであるが ,中でも耐性菌の分離頻度が高いのは ,日本 ,韓国 ,香港などのアジア諸国であ る。ペニシリン耐性肺炎球菌 (PRSP: penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae, PISP: penicillin-interme-diate Streptococcus pneumoniae),マクロライド耐性肺炎球菌 (ERSP: erythromycin-resistant Streptococcuspneumoniae) が極めて高率に分離されているほか ,キノロン耐性肺炎球菌も増加傾向にある1)。
る。TELはその特徴的な化学構造により,新規性の高い作用機序を有し,耐性肺炎球菌に対しても多く の優れた作用を示すことが確認されている。今回,TELの耐性肺炎球菌に対する作用を明確にする目的 で ,今までに蓄積された PROTEKT の成績を基に ,マクロライド及びケトライド耐性肺炎球菌について 分離頻度 ,耐性機序等多面的な評価を行った。
I.マクロライド系薬及びケトライド系薬の作用機序
TELの作用機序は蛋白合成阻害であり ,作用機序の点ではマクロライド系薬やリンコマイシン系薬 , あるいはテトラサイクリン系薬及びアミノグリコシド系薬と同じである2)。蛋白合成阻害薬の標的部位 となるのが細菌リボソーム (70S) であり ,70S リボソームは 30S サブユニットと 50S サブユニットから 構成されている。さらに 30S サブユニットは 16S リボソーム RNA (16SrRNA) と 21 種類のリボソーム 蛋白 ,50S サブユニットは 5S リボソーム RNA (5SrRNA) と 23S リボソーム RNA (23SrRNA) の 2 つの リボソーム RNA と 31 種類のリボソーム蛋白からそれぞれ構成される(図 1)。細菌リボソームとの結合部位は抗菌薬の系統によって異なっている。テトラサイクリン系薬及びアミ ノグリコシド系薬が主に 30S サブユニットに結合しその作用を発揮するのに対し3,4),TEL,マクロライ
ド系薬及びリンコマイシン系薬の結合部位は 50S サブユニットを構成している 23SrRNA(ドメイン I⬃VI で構成)である5,6)。TEL 及びマクロライド系薬は ,共に 50S サブユニットの 23SRNA に結合す
るという点は同じであるが ,マクロライド系薬はドメイン V(2058 · 2059 位アデニン)の 1 ケ所にのみ 結合できうるのに対して ,TEL はドメイン V に加えてドメイン II(752 位アデニン)の 2 ケ所に対して 強く結合する7⬃9) (図 2)。この作用は TEL の化学構造に由来しており ,1 位側鎖に延長構造(アミノ ブチリダゾール基)を有することで ,ドメイン II への結合が可能となっている。その三次元構造も結晶 解析により明らかにされており,TEL は,複数箇所に比較的安定した状態で結合できると考えられてい る5,10) 。 図 1.細菌リボソーム
図 2.Telithromycin 及びマクロライド系薬の作用部位 表 1.マクロライド耐性肺炎球菌の主な耐性機序
II.マクロライド耐性肺炎球菌の耐性機序
現在市中感染をはじめとする臨床の現場で問題となっている耐性菌は,マクロライド耐性肺炎球菌で あり ,その主な耐性機序を表 1 に示した。肺炎球菌におけるマクロライド耐性菌は ,分離頻度の高さ及 び耐性の強さという点で治療に難渋すると考えられ,その耐性機序はリボソームのアデニン・ジメチル 化である。これは耐性遺伝子である ermB 遺伝子の出現によりリボソームジメチラーゼ(リボソームメ チル化酵素)が産生され ,23SrRNA ドメイン V の 2058 位アデニン (A2058) のジメチル化を反映したも のであり ,抗菌薬の結合能は著しく低下する11)。このリボソームのジメチル化により ,14 · 15 · 16 員環 の全てのマクロライド系薬が高度耐性化する。また ,リンコマイシン系薬 ,ストレプトグラミン B とも 交差耐性を示す MLSB 耐性菌のほとんどが誘導型耐性菌であると考えられており,菌がマクロライド系 薬に接触することにより耐性を発現する12)。 もう一つの重要な耐性菌は,薬剤排出亢進による耐性菌 (efflux耐性) である。この耐性発現には mefA遺伝子が関与しており ,14 · 15 員環マクロライド系薬に対して軽度⬃ 中等度耐性を示すが ,16 員環マ クロライド系薬やリンコマイシン系薬 ,あるいはストレプトグラミン B に対しては感受性を示す13)。
現在のマクロライド耐性肺炎球菌の大半は ,これら 2 種類の耐性機序をそれぞれの組み合わせで保有 している。中でも ,マクロライド系薬に高度耐性を示すのは ermB 変異による耐性菌である。変異部位 は ,23SrRNA ドメイン V の A2058, A2059, C2611 やリボソーム蛋白の L4, L22 など多岐に渡っており , 変異部位によって耐性化の程度は異なるが,一般にマクロライド系薬に対して高度耐性化する傾向にあ る。 米国における PROTEKT の 2000⬃2001 年の調査結果では ,肺炎球菌 10,103 株中 3,053 株 (30.2%) が マクロライド耐性株で ,耐性機序別にみると mefA 遺伝子保有株が 70.7% と最も多く ,以下 ermB 遺伝 子保有株 17.3%, ermB⫹mefA 遺伝子保有株 9.2%,リボソーム変異株 2.0% と続いていた。 一方日本での同じ時期の調査では ,627 株中 484 株 (77.2%) がマクロライド耐性株で ,ermB 遺伝子 保有株が 62.4% と最も多く ,以下 mefA 遺伝子保有株 34.1%, ermB⫹mefA 遺伝子保有株 2.9% であった。 欧米に比べて日本では耐性菌の分離頻度が明らかに高い背景には,種々のマクロライド系薬やリンコマ イシン系薬などの抗菌薬に対して高度耐性化する ermB 遺伝子の保有率が関わっている。このことが , 日本では肺炎球菌に対するマクロライド系抗菌薬の有効性が著しく低い理由である。
III.耐性肺炎球菌に対する TEL の作用
(1) 作用機序 TEL は 23SrRNA のドメイン II とドメイン V の 2ヵ所存に結合することで耐性菌に対しても抗菌力を 発揮することを前述した。マクロライド耐性肺炎球菌の中でも高度耐性化している菌株は,ドメインV の A2058 のジメチル化や A2058 及び近隣での変異がその主な原因となって薬剤とリボソームとの結合 能が低下した耐性菌である。これらの耐性菌に対して,ドメインVにしか結合できないマクロライド系 薬は ,抗菌活性が消失する。一方 TEL は ,ドメイン V に対する結合能が消失した場合でもドメイン II に 対する結合親和性は維持されており ,抗菌活性が維持される6,7,14)。 この作用機序を証明するため ,誘導型 ermB 保有耐性肺炎球菌を用いて 50S リボソームに対する TEL と EM の結合親和性を ,耐性誘導前と後で比較した15)。EM では耐性誘導前と誘導後の結合比が 1 (0.271) : 0.05 (0.015) となり ,耐性誘導後には結合能が著しく低下した。一方 TEL では ,結合比が 2 (0.493) : 1 (0.245) で耐性誘導後でも耐性誘導前の EM に相当する結合量が確認できた。さらに耐性誘導 前のEM と耐性誘導後のTELの結合比をみるとほぼ 1 (0.271) : 1 (0.245) であった(図3)。この結果から, 50Sリボソームとの結合量が ,言い換えると結合部位は TEL では 2 ヵ所 ,マクロライド系薬では 1 ヵ所 存在し ,EM 耐性誘導後であっても TEL は 50S リボソームに 1 ヵ所に結合していることが判断された。 (2) 抗菌作用 マクロライド耐性肺炎球菌に対する TEL の抗菌活性を耐性機序別に検討した PROTEKT の成績を示 す。図4 は ermB 遺伝子保有株,mefA 遺伝子保有株及び ermB⫹mefA 遺伝子保有株に対する TEL の MIC を経年的に測定した成績である。ermB 遺伝子保有株では最も高頻度の MIC 値は0.03mg/mLと低かった図 3.肺炎球菌 (S. pneumoniae HL-3120) 由来リボソームに対する結合能
図 4.マクロライド耐性肺炎球菌に対する Telithromycin の MIC 分布 (耐性遺伝子別 ,年次推移)
表 2.肺炎球菌リボソーム変異株に対する Telithromycin 及びマクロライド系薬の抗菌活性
ものの ,MIC の分布は比較的広域であり ,僅かではあるが MIC2⬃4mg/mLの菌株も認められた。mefA 遺伝子保有株では ,最も高頻度の MIC 値は 0.06mg/mLで ermB 遺伝子保有株に比べて若干高かったが , MICの範囲は比較的狭く ,全て MIC 0.5mg/mL以下であった。ermB と mefA の両方の耐性遺伝子を保有 する株では ,MIC の分布が高い側にシフトしており ,最も高頻度の MIC 値も 0.5mg/mLであった。なお 調査年度による MIC 分布の差は認められず ,耐性菌の増加傾向もみられなかった。 表 2 は PROTEKT におけるリボソーム変異株に対する TEL 及びマクロライド系薬の抗菌活性をみた成 績である16)。2000⬃2001年の調査においてリボソームの変異が認められた肺炎球菌は16株で,変異部位 はドメイン V の A2059 が最も多く ,A2058, C2611 の変異も認められた。マクロライド系薬は大部分の リボソーム変異株に対して高度耐性を示したが ,TEL の MIC は 0.015⬃0.25mg/mLで全て感受性菌の範 囲であった。この16株の中の3株は日本での分離株であり,A2059の変異に加えてリボソーム蛋白であ る L22 の変異 (G95D) も認められた。しかし ,これらの株に対する TEL の MIC は ,いずれも 0.06mg/mL であった。 この成績も含めて 1999⬃2002 年に分離された肺炎球菌のリボソーム変異株 86 株に対する TEL の抗菌 活性をみた成績が表3である。MIC範囲は0.004⬃1mg/mL,MIC90は0.25mg/mLで,全て感受性菌の範囲 であった。最も高い MIC 値である 1mg/mLの肺炎球菌は 3 株分離され ,その内訳は L22 変異株(6 つの アミノ酸挿入;109RTAHIT114) 2株,L4変異株 (K68Q) 1株で,全てリボソーム蛋白の変異株であった。 以上の結果から,TELは,肺炎球菌のマクロライド耐性の既知の機序とは関係なく,強い抗菌活性を 示すことが確認された。 (3) 耐性誘導能 耐性誘導能は,ermB 耐性の誘導能と突然変異による自然耐性菌の選択能の2つで評価した。ermB 耐
性の誘導能は 8 位側鎖の構造が関係しており ,クラディノース糖鎖を有する抗菌薬が耐性を誘導すると されている。EM,clarithromycin (CAM) などの14員環マクロライド系薬は全てこの構造を有しているが, TELは 8 位にケトン基を導入しているため ,耐性誘導を起こし難いと考えられる。事実 ,マクロライド 耐性遺伝子である ermB 遺伝子の発現量に相関して蛍光蛋白を産生する菌株(肺炎球菌由来の ermB 遺 伝子調節領域を組み込んだ黄色ブドウ球菌)を用いて耐性誘導能を検討した実験では,EM 及び TEL 誘 導体(TEL の 8 位をクラディノース糖鎖に置換した誘導体)では発育阻止帯の周囲に強い蛍光が認めら れたのに対し,TELでは全く蛍光は認められなかった17)。誘導型 ermB 保有マクロライド耐性肺炎球菌 が,TEL によって耐性誘導され構成型耐性菌に変異する頻度は 10⫺10 であることも実験的に確認されて おり12),自然界における突然変異による耐性菌の出現頻度が 10⫺6⬃10⫺8 であることを考えれば,TEL に よって ermB 耐性が誘導される可能性は極めて低いと考えられる。また誘導型及び構成型 MLSB 耐性肺
炎球菌において ,EM 存在下における TEL の MIC を検討した成績では ,TEL の MIC が EM 非存在下 に比べ最も上昇した株の MIC は 0.5mg/mLであった18)(図 5)。尚 ,ermB 遺伝子保有株は ,調べた限り
では,全株が誘導型耐性菌であると考えられており,この耐性菌に TEL が強い抗菌活性を示すというこ とは ,TEL が ermB 耐性を誘導しないことを意味していると考えられる。
突然変異による自然耐性菌の選択能に関しては ,CANUらが ,マクロライド感受性肺炎球菌 5 株で
10回の継代培養を行い ,マクロライド系薬 ,リンコマイシン系薬及び TEL の耐性誘導能を検討した成 績を報告している。マクロライド系薬及びリンコマイシン系薬では,検討した 5 薬剤いずれも 5 株中 3 株で変異株が選択された。この中には TEL の MIC が 4mg/mL の株も含まれており,ドメイン II の A752 が欠失した株であった。一方 TEL によって選択された変異株は 5 株中 1 株で ,L22 の変異株であった。 しかし本株に対する TEL の MIC は 0.25mg/mLで ,感受性菌の範囲であった19)(表 4)。 以上 ,TEL の作用についてマクロライド系薬と比較して述べたが ,それをまとめたものが表 5 であ る。
IV.ケトライド耐性肺炎球菌の分離頻度
TELはマクロライド耐性肺炎球菌に対して強い抗菌活性を示すとともに ,耐性誘導能も低いことか ら,ケトライド耐性肺炎球菌が出現する可能性は非常に低いと考えられる。しかし,表 6 に示したごと く ,PROTEKT において 1999⬃2002 年に全世界で分離された肺炎球菌 13,864 株の MIC を測定した成績 では ,TEL の MIC が 4mg/mL以上の耐性株が 10 株 (0.07%) 分離されている。これらの株の MIC は 4または 8mg/mLで ,全て ermB 遺伝子保有株であった。この中には日本で分離された MIC 4mg/mLの 2株が含まれている。日本で分離された菌株のうちの 1 株は血清型 23F,MLST (Multi Locus Sequence Typing) 242,もう 1 株は血清型 6B, MLST902 で ,両株の PFGE(pulsed-field gel electrophoresis:パルス フイールドゲル電気泳動)のパターンは異なっていた。この両株は ,2001⬃2002 年の調査で 2 施設 から分離されたものであったが ,同じ施設での次年度(2002⬃2003 年)の調査では耐性菌は報告されな かった。全世界で分離された10株のケトライド耐性肺炎球菌は,全て ermB 遺伝子保有株共通であったが,TEL には ermB 耐性の誘導能がないことから ,これらの菌株はマクロライド系薬によって選択された構成型 耐性変異株である可能性が強く疑われる。これらの耐性菌に対し TEL は 4⬃8mg/mLの MIC を示した21) が ,TEL が上市される以前に分離されていることを考えるとケトライド耐性肺炎球菌の出現にはマク ロライド系薬の関与が強く示唆される。
V.考察
TELは耐性肺炎球菌に有効な数少ない抗菌薬であり,今後はその有効性を長期的に維持していくこと 表 5.ケトライド系薬とマクロライド系薬の相違点 表 4.肺炎球菌耐性誘導株におけるリボソーム変異部位と抗菌薬の MICが必要となる。しかしながら ,現状では既に TEL の MIC が 4mg/mL 以上の肺炎球菌が少数ではあるが 検出されている。これらの TEL に対する MIC はそれ程高くはなく ,最も高い MIC が 8mg/mL にとど まっているものの,複数の耐性機序の蓄積による段階的な耐性獲得である可能性も否定されるものでな い。
したがって,今後はケトライド耐性肺炎球菌の増加を防止するための対策が重要になってくるが,そ の際に必要なことは,TEL の耐性化を進展させる原因の解明である。PÉREZ-TRALLERO らは,治療に失敗
した高齢の肺炎患者から分離された肺炎球菌について,経時的に標的部位の変異並びに各種抗菌薬に対 する MIC を検討しており ,TEL 以外の各種抗菌薬による治療期間中に TEL の MIC が 16mg/mLという菌 株を認めている。この耐性菌はマクロライド系薬及びニューキノロン系薬の投与中に分離されており, L22の変異(6 つのアミノ酸挿入)とドメイン V (A2058) の変異を有していた21)。 この様な報告から推察されることは,①ケトライド耐性肺炎球菌は,TEL の使用に関係なくマクロラ イド系薬の使用のみでも出現する,②マクロライド耐性肺炎球菌の増加は,ケトライド耐性肺炎球菌出 現の危険因子になる可能性があるということである。マクロライド耐性肺炎球菌とケトライド耐性肺炎 球菌は類似の耐性機序であることを勘案すると,ケトライド耐性肺炎球菌の出現を防止するには,TEL の使用を制限するだけでは根本的な解決策にはならないと思われる。日本では肺炎球菌の約80%がマク ロライド耐性菌であるという現実を十分認識した解決策が必要である。そのためにはマクロライド系薬 についてもTELと同様の適正使用を徹底し,これ以上耐性菌を増やさない使用方法が望まれる。例えば, マクロライド系薬はびまん性汎細気管支炎 (DPB) への少量長期療法など ,どうしても投与が必要な場 合もあるが,その場合も投与対象の選定を厳密に行い,実施前には必ず細菌検査を行い肺炎球菌が検出 された場合には事前にTELなどで除菌療法を行うといった対応も必要と考えられる。また,できれば抗 菌力のないDPB治療薬の開発が望まれるし,急性感染症に使用する場合にも,肺炎球菌感染の可能性が 表 6.肺炎球菌臨床分離株 13864 株における Telithromycin の MIC 分布 (PROTEKT GLOBAL:1999⬃2002)
疑われる患者に対しては,原則的にマクロライド系薬を使用しないといった使用制限も考慮するなどの 指導が求められよう。 ケトライド耐性肺炎球菌の出現機序を明らかにするため,リボソーム変異の進展とTEL及びマクロラ イド系薬との関係について ,今までに報告された基礎・臨床データを基に仮説としてまとめたのが図 6 である。ケトライド耐性肺炎球菌は ,ドメイン II と V の両方への結合能が低下した菌と考えられ ,その 前段階にはドメイン V の変異したマクロライド耐性の存在が欠かせない。事実 ,マクロライド系薬は , 作用的にマクロライド及びケトライド耐性を誘導し ,さらに高度耐性化させ易い傾向にある。 一方 TEL は ,耐性誘導能が低く ,耐性菌が出現した場合でも MIC の上昇は少ない。また ,用法・用 量も PK/PD 理論に基づいており投与期間も短期間に設定されているため ,耐性菌が出現しにくい条件 が比較的揃っている。さらにマクロライド耐性肺炎球菌に対する除菌効果も高いため,耐性菌を減少さ せるという効果も期待できる。 DAVIESらはケトライド耐性肺炎球菌の出現に要するTELの継代培養回数を検討しているが,耐性遺伝 子をもたない菌(2 株)では 24 及び 44 回の継代培養でようやく耐性菌が選択できたと報告している。一 方 ,mefA 遺伝子保有株(3 株)では 7 回 ,ermB 遺伝子保有株(3 株)では 3⬃6 回の継代培養により頻度 は低いものの選択されたと報告しており22),マクロライド耐性遺伝子を保有する肺炎球菌は ,ケトライ ド耐性菌に移行しやすい極めて危険な状態であると考えられた。しかし,逆にマクロライド耐性肺炎球 菌を減少されることができれば ,ケトライド耐性肺炎球菌の危険性は大きく軽減できることにもなる。 TELは肺炎球菌に有効な数少ない経口抗菌薬であり,TELの耐性菌が増加したときの影響は極めて大 きい。したがって,ケトライド耐性肺炎球菌の防止は,本剤を長期的に治療薬として位置づけるために 重要なテーマとなるが,これはTELだけの問題ではなく,マクロライド系薬等も含めて抗菌薬全体で考 えていく問題である。将来を考え,広い視野にたった抗菌薬療法における耐性菌対策を臨床と基礎の両 面から進めていくことが必要と思われる。 図 6.リボソーム変異の進展とマクロライド系薬 ,ケトライド系薬との関係(仮説)
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MOLECULAR ANALYTICAL EVALUATION OF
AND KETOLIDE-RESISTANT Streptococcus pneumoniae
—MECHANISM OF ACTION OF TELITHROMYCIN
AND RESISTANCE TO IT—
M
ATSUHISAI
NOUE, K
ENICHIK
ANEKO, R
YUICHIN
AKANO, Y
OSHINORIS
ATOand S
USUMUA
RAIDepartment of Microbiology, Kitasato University School of Medicine
PROTEKT (Prospective Resistant Organism Tracking and Epidemiology for the Ketolide Telithromycin) is a worldwide epidemiologic survey for investigating drug susceptibility against major bacterial pathogens in respiratory tract infections, and that is also designed to identify the action mechanism of telithromycin (TEL), a ketolide antibacterial agent, on the resistant Streptococcus pneumoniae and the resistance mechanism for TEL on the TEL-resistant S. pneumoniae strain, in addition to determine macrolide/ketolide resistant S. pneumoniae activities of TEL using molecular analysis.
TEL exerted the antibacterial action on the macrolide-resistant S. pneumoniae regardless maintaining the macrolide-resistant mechanism and exhibited the potent antibacterial activity against all of ermB gene-positive strains, mefA gene-positive strains and ribosome variants. This result was considered to reflect the fact that TEL did not induce resistance to ermB and had extremely low ability to select resistant strain by mutation. These actions of TEL were considered to be derived from its novel chemical structure and might be characteristics of ketolides not possessed by macrolides.
In the survey of PROTEKT in 1999 to 2002, among 13,864 strains of S. pneumoniae isolated worldwide, ketolide-resistant strain (TEL MIC⭌4mg/ml) was observed in 10 strains (0.07%). MIC of these 10 strains was 4 or 8mg/mL and all of these strains were ermB-positive strains. Based on this fact, potential involvement of adenine demethylase (ermB gene product) was considered in the background of development of ketolide-resistant