平成 28 年度畜産物輸出特別支援事業
海外料理本にみる牛肉部位の利活用状況分析調査
報告書
平成 29 年2月
はしがき
農林水産省が平成 25 年に策定・公表した「農林水産物・食品の輸出促進のための具体的
戦略」では「牛肉」が重点品目の1つとして位置付けられ、その輸出金額を平成 24 年の 50
億円から平成 32 年に5倍の 250 億円に拡大させる目標が掲げられた。輸出拡大に当たって
は、オールジャパンでの取り組みなどにより平成 27 年は 110 億の輸出を行い平成 28 年の
中間目標を 1 年早く達成した。なお、目標達成年は当初目標から 1 年の前倒しが行われ、現
在は平成 31 年とされている。
本協議会では、平成 28 年度において新たな市場の開拓を主な目的とした農林水産省補助
事業「畜産物輸出特別支援事業」に取り組み、これらの目標達成にむけて「多様な部位の
輸出に向けた実践的調査」、「長期的なプロモーション活動と人的交流の推進」、「多言語に
よる情報発信」、「点から面への拡大」などを実施してきた。
日本産牛肉の輸出拡大に向けては、海外需要の中心であるロイン系以外の部位の需要掘
り起こしが急務であるが、その対応策としては、海外において、①和牛についての正しい
知識の普及プロモーションを継続するとともに、②ロース系中心の輸出から、フルセット
での輸出への展開、③モモ肉・バラ肉などの多様な部位の利活用のための「牛肉の切り方、
食べ方の教育・普及」が必要と考えられる。
本報告書は、モモ肉・バラ肉などの和牛の多様な部位の輸出拡大に資するべく、牛肉の
一大消費地でかつ牛肉輸出拡大に向けた重点地域である EU について、イギリス・フラン
ス・ドイツ・スペイン・イタリアで出版されている料理レシピ本を入手・分析し、各国で
主として利用される部位とその調理法・食べ方について取りまとめたものである。
関係各位におかれては、この報告書が海外市場の開拓や販売戦略の参考になれば幸甚で
ある。
最後になるが、本報告書の作成に当たり、ご多忙の中、現地在住のレストランシェフ・
料理研究家の方々に多大な協力を賜った。ここに深く謝意を表する次第である。
平成 29 年2月
日本畜産物輸出促進協議会
はしがき
1
調査の全体像について
4
調査・分析による国別傾向
5
1 調査結果の概要
6
はじめに〜対象国の食文化における牛肉の位置づけ
6
1)対象国の海外食肉料理本にみる牛肉の使用部位と料理の傾向
7
(1)国別部位使用の傾向
7
(2)国別調理法の傾向
8
(3)国別味付けの傾向
9
(4)部位活用別の調理法について
9
2)調査・分析結果からみる日本産和牛肉の多様な部位の利用拡大の可能性
10
(1)共通レシピからの提案
10
(2)和牛の特性と現地調理法のマッチング/ドイツ、フランスのレシピより
10
(3)使い慣れた調理器具からのアプローチ
11
3)食のトレンドからみる日本産和牛肉の多様な部位の普及に向けた必要な取り組み
15
(1)健康志向への訴求(身体によい調理法とのマッチング)
15
(2)レシピの合理化・簡便化
16
(3)和の調味料や香辛料の活用
16
2 国別牛肉料理と部位使用の傾向について
17
1)イギリス
17
(1)使用されている部位の傾向
17
(2)レシピ分析による各使用部位の使用傾向と調理法
18
(3)イギリス料理本に見る部位別調理法
20
(4)参考料理レシピ紹介
21
(5)部位分析の背景となるイギリスの食文化と牛肉流通傾向
23
ア)イギリスの食文化及び食生活について
23
イ)イギリスにおける牛肉流通傾向について
23
(6)イギリスにおける牛肉部位活用の課題
24
(7)イギリス牛肉部位図
25
(8)英語圏(オージービーフ)の牛肉レシピ分析
29
ア)レシピ分析による各使用部位の使用傾向と調理法
29
イ)参考料理レシピ紹介
30
ウ)オーストラリア牛肉部位図
32
2)フランス
38
(1)使用されている部位の傾向
38
(2)レシピ分析による各使用部位の使用傾向と調理法
39
(3)フランス料理本に見る部位別調理法
42
(4)参考料理レシピ紹介
43
(5)部位分析の背景となるフランスの食文化と牛肉流通傾向
45
ア)フランスの食文化及び食生活について
45
イ)フランスにおける牛肉流通傾向について
45
(6)フランスにおける牛肉部位活用の課題
46
(7)フランス牛肉部位図
47
3)ドイツ
51
(1)料理本「Fleisch」の分析
51
ア)使用されている部位の傾向
51
イ)レシピ分析による各使用部位の使用傾向と調理法
52
(2)料理本「BEEF! Steaks」の分析
55
ア)使用されている部位の傾向
55
イ)レシピ分析による各使用部位の使用傾向と調理法
56
(3)参考料理レシピ紹介
58
(4)部位分析の背景となるドイツの食文化と牛肉流通傾向
60
ア)ドイツの食文化及び食生活について
60
イ)ドイツにおける牛肉流通傾向について
60
(5)ドイツにおける牛肉部位活用の課題
61
(6)ドイツ牛肉部位図
62
4)その他/スペイン、イタリア
67
(1)スペイン牛肉(ガリシア牛)のレシピ分析による各使用部位の使用傾向と調理法
67
(2)スペイン牛肉(ガリシア牛)の部位特徴
68
(3)参考料理レシピ紹介(ガリシア牛)
70
(4)イタリア牛肉(ピエモンテ牛)の部位特徴
71
(5)スペイン、イタリアの食文化及び食生活
72
(6)スペイン、イタリアにおける牛肉部位活用の課題
72
(7)スペイン牛肉部位図(ガリシア牛)
74
(8)イタリア牛肉部位図(ピエモンテ牛)
77
3 本調査・分析からみる日本産和牛肉部位普及の課題について
79
※聞き取り調査先リスト、参考資料
80
■調査の全体像について
1)対象国の海外食肉料理本にみる牛肉の使用部位と料理の傾向
(1) 国別部位使用の傾向
イギリスはまえ系、フランスはまえ系とロイン系、ドイツはばら系以外の部位の使用や主要
部位以外の使用が多い。スペインは、まえ系、ばら系、もも系が同程度に使用されていた。
(2)国別調理法の傾向
スペインを除いて、「焼く」、「煮る」が大多数を占めている。
スペインでは、「漬ける」が多い。フランスとドイツでは「たたく」が複数みられる。
ドイツは他国に比べて調理法のバリエーションが多い。
(3)国別味付けの傾向
ロイン系は、各国ともに「焼く」調理に塩、コショウの味付けが多い。フランスではそれに
味付けとしてソースを加えるスタイルがみられる。ドイツは全体的に酢が多く使われている。
イギリス、ドイツ、スペインでは日本の調味料や香辛料が活用されていた。イギリス、フラン
スではオリーブオイルがバターの代わりやバターとの併用などで多く使われていた。
(4)部位活用別の調理法について
ロイン系はオーブンや網の上で「焼く」シンプルな調理法が多い一方、もも系やまえ系は、
長時間「煮る」調理法が多く、レシピのバリエーションが豊富である。
ほかにも、もも系は「たたく」などの生食調理にも活用されている。ばら系は「焼く」、もし
くは「煮る」が多い。ネックやすね、内臓などを使用したレシピも多く紹介された。
2) 調査・分析結果からみる
日本産和牛肉の多様な部位の
利用拡大の可能性
(1)共通レシピからの提案
(2)和牛の特性と現地調理法のマッチング
(3)使い慣れた調理器具からのアプローチ
(1) 健康(身体によい調理法とのマッチング)
(2) レシピの合理化・簡便化
(3) 和の調味料や香辛料の活用
3) 食のトレンドからみる
日本産和牛肉の多様な部位普
及に向けての必要な取り組み
■調査・分析による国別傾向
※( )内の数字は参考書籍のレシピ数を示す。
1)イギリス
2)フランス
3)ドイツ
4) その他
・スペイン
・イタリア
◆部位使用傾向
・ロイン系(3)・まえ系(6)・もも系(5)・その他(4)
◆調理法傾向
・焼く(5)・煮る(10)・茹でる(1)・蒸す(2)
◆部位使用及び調理法の特徴
・ロイン系は「焼く」、まえ系は「煮る」調理法が多い。もも系は「煮る」「焼く」が使用。
・ローストビーフやシチューなど定番料理にも活用されている。
・オーブンを使用し、時間をかけて「焼く」調理法も見られる。
・まえ系では、「すね肉」が煮込料理に使用されている。
・料理の味付けとして醤油も使われている。
●豪州編
◆部位使用及び調理法の特徴
・ロイン系、まえ系は「焼く」、ばら系は「焼く」「煮る」が多い。「もも系」は多様な調理
法に使われている。
・アジア系など多国籍料理が多く取り上げられている。
・味付けに醤油やワサビなどの日本の調味料や香辛料が活用されている。
◆部位使用傾向
・ロイン系(9)・まえ系(11)・もも系(6)・ばら系(4)・その他(6)・部位指定なし(5)
◆調理法傾向
・焼く(17)・煮る(18)・たたく(3)・炒める(3)
◆部位使用及び調理法の特徴
・ロイン系、ばら系は「焼く」、まえ系、もも系は「煮る」調理法が多い。
・「焼く」料理の仕上げとしてソースを加える調理法が多い。
・煮込料理にはワインや香味野菜などを使った伝統的な調理法が使われている。
・ロイン系やばら系は、生食の定番料理である「タルタルステーキ」に使われている。
・バターの代用や併用にオリーブオイルが活用されている。
◆部位使用傾向(Fleisch)
・ロイン系(7)・まえ系(10)・もも系(8)・その他(26)・部位指定なし(6)
◆調理法傾向(Fleisch)
・焼く(13)・煮る(27)・茹でる(8)・たたく(2)・漬ける(3)・揚げる(1)・和える(3)
◆部位使用傾向(Beef! Steaks)
・ロイン系(16)・もも系(8)・ばら系(2)
◆調理法傾向(Beef! Steaks)
・焼く(22)・煮る(1)・茹でる(1)・漬ける(1)・燻す(1)
◆部位使用及び調理法の特徴
・ロイン系、ばら系は「焼く」、まえ系、もも系は「煮る」調理法が多い。
・鍋で時間をかけた煮込料理が多い。
・骨や内臓など主要部位以外の部位の活用が多い。
・煮る、焼く前の下処理として調味液に漬け込む調理法を用いることが多い。
・日本の調味料(醤油、赤味噌)、香辛料(ゆずコショウ)、食材(昆布)などが活用されている。
◆部位使用傾向
・まえ系(2)・もも系(4)・部位指定なし(1)
◆調理法傾向
・焼く(3)・煮る(1)・漬ける(2)・揚げる(1)
◆部位使用及び調理法の特徴
・まえ系は「焼く」、もも系は「漬ける」(調味液で漬け込んで下味をつける)調理法が多い。
・醤油など和の調味料が活用されている。
◆部位使用及び調理法の特徴
・牛肉需要は中部以北で増える。ピエモンテ州で飼育されているピエモンテ牛が有名。
1 調査結果の概要
牛肉輸出の拡大のためには、輸出部位のロイン系への偏重の解消が必要である。日本食、食文
化、そして日本の食肉加工技術を普及させる一方で、現地の食文化や食事情との融合を忘れては
ならない。そのためにはまず、現地の食文化や食習慣の理解が必要不可欠である。
今回の調査は、EU28 ヵ国の中でも牛肉消費量の多い、イギリス、フランス、ドイツ、スペイ
ン、イタリアの5ヵ国における牛肉料理の傾向、すなわち使用部位と調理法を把握するため、表
1-1 に示すそれぞれの国の食肉販売店の店頭などで販売されている食肉料理本(合計 11 冊)を整
理・分析し、取りまとめた。ここでは、本書による取りまとめの概要を報告する。
なお、以下の文中及び図表中に記した「図番号」は各国の部位分割を示すものであり、イギリス
は 25 ページ、フランスは 47 ページ、ドイツは 62 ページ、スペインは 74 ページに対応している。
はじめに~対象国の食文化における牛肉の位置づけ
以下、整理・分析した結果の報告の前に、食文化、特に牛肉文化に関するそれぞれの国の状況
について、一度触れておきたい。
まずは主な共通点であるが、今回調査した5ヵ国をはじめとする EU では、肉用牛の頭部から
尻尾に至るまでのあらゆる部位を無駄なく使い切る文化が広く根付いている。現地飲食店の多く
表 1-1 参考資料書籍一覧
No. 言語
書籍名
出版国
出版社
レシピ数 出版年度
1
英 CROSS ROADS
シンガポール
Peter Knipp Holdings Pte Ltd
8
2001
2
英 PROVENANCE BEEF
オーストラリア Meat and Livestock Australia Limited
60
2010
3
英 Ginger Pig Farmhouse
Cook Book
イギリス
Mitchell Beazley
7
2013
4
英 Ginger Pig Meat Book
イギリス
Mitchell Beazley
10
2014
5
仏 Morceaux choisis
フランス
Éditions FIRST
21
2013
6
仏 L’atelier d’Hugo Desnoyer フランス
Éditions FIRST
16
2015
7
独 BEEF! Steaks
ドイツ
Tre Torri Verlag GmbH, Wiesbaden
26
−
8
独 Fleisch
ドイツ
Christian Verlag GmbH, München
57
2015
9
西 divierte cocinando
スペイン
Consejo Regulador de la Indicación
Geográfica Protegida Ternera Gallega
(ガリシア牛地理的保護表示調整協議会)
7
2014
10
伊 ORO ROSSO
イタリア
Coalvi-Consorzio di Tutela della Razza
Piemontese
(ピエモンテ牛保護組合)
−
2009
11
日 THE CHEFS
日本
MLA 豪州食肉家畜生産者事業団
34
−
が半丸で仕入れ、シェフ自らが部位ごとに切り分けてブロック状に成型・保存するが、このとき
に出る切り落としはもちろん、骨、内臓などもそれぞれ適した調理法(ひき肉、出汁、煮込料理
など)で利用し、無駄なく使い切る技術が普及している。
また、多くの消費者が好んで食べているのは脂肪分の少ない赤身肉である。この赤身肉の調理
法には、塊肉のまま焼く、もしくは煮る料理と並び、ビストロ料理の定番として名高いタルタル
ステーキ(フランス、ドイツ、イギリス)やカルパッチョ(イタリア)などの伝統的な生食料理
があり、これらは各国に共通した傾向としてみられる。さらに、牛肉に限らず食肉全般において、
長期保存のための加工技術が発達してきたことも共通点といえる。フランスのシャルキュトリー、
ドイツのハム、ソーセージ、スペインの生ハムなどはその典型である。
国別にみると、フランスは古くから牛肉を食する文化をもち、EU 諸国のなかでも牛肉消費が
最も多い。また、子牛肉の消費が多い国としても知られている。子牛肉は、成牛とは区別され高
級食材として扱われており、オーブン焼きや煮込料理が有名で、グランメゾンに限らず、ビスト
ロなどでもメニューに並んでいる。
イギリスは食に対して保守的かつ合理的な傾向が強く、牛肉料理においてもローストビーフの
ような定番化されたメニューが多い。
ドイツの場合、以前は豚肉の消費が中心であったが、食への関心が高くなるとともに、豚以外
の食肉消費も増えており牛肉消費が増加している。
スペインの食文化は歴史上さまざまな民族・宗教の影響を受けているため、牛肉以外にも羊肉
や豚肉、鶏肉など多様な食肉が消費されている。イタリアは地域によってそれぞれ食文化の特徴
があるが、特に北部は牛肉を中心とした食文化となっている。
1)対象国の海外食肉料理本にみる牛肉の使用部位と料理の傾向
(1)国別部位使用の傾向
表 1-1-1 は、参考資料にみる各部位の利用状況を表したものである。
イギリスはレシピのほぼ4割がまえ系の部位を使用しており、フランスはまえ系とロイン系の
部位が多い。ドイツはばら系以外はほぼ平均して使用しているが、その他の部位の活用割合も大
きいことが特徴として挙げられる。その他では、ほほ肉やテール、牛骨やレバー、ミノなど内臓
などが挙げられている。スペインは、まえ系、もも系が同程度に使用されていた。
(2)国別調理法の傾向
スペインを除いて「焼く」と「煮る」で全体の 9 割を占めている。生肉の調理法として「たたく」
がフランスとドイツで複数みられた。国別では、ドイツが他国に比べて調理法のバリエーション
が豊富なことがわかる。
表 1-1-1 部位別レシピ数
単位:件
イギリス
フランス
ドイツ A
ドイツ B
スペイン
ロイン系
3
9
7
16
まえ系
6
11
10
2
もも系
5
6
8
8
4
ばら系
4
2
その他
4
6
26
部位指定なし
5
6
1
合計
18
41
57
26
7
※1 複数の部位が使用されているレシピがあるため、部位数の合計とレシピ数は異なる。
※2 イタリアは、調査対象書籍にレシピの掲載がなかったため、一覧から除外した。
※3 ドイツの調査対象書籍は2冊であったが、そのうち1冊がステーキに特化した本であったため書籍別
に記載した。(「ドイツA」… 「Fleisch」、「ドイツB」… 「Beef! Steaks」)
表 1-1-2 調理法別レシピ数
単位:件
イギリス
フランス
ドイツ A
ドイツ B
スペイン
焼く
5
17
13
22
3
煮る
10
18
27
1
1
茹でる
1
8
1
たたく
3
2
漬ける
3
1
2
燻す
1
蒸す
2
炒める
3
揚げる
1
1
和える
3
合計
18
41
57
26
7
※1 複数の部位が使用されているレシピがあるため、部位数の合計とレシピ数は異なる。
※2 イタリアは、調査対象書籍にレシピの掲載がなかったため、一覧から除外した。
※3 ドイツの調査対象書籍は2冊であったが、そのうち1冊がステーキに特化した本であったため書籍別
に記載した。(「ドイツA」… 「Fleisch」、「ドイツB」… 「Beef! Steaks」)
(3)国別味付けの傾向
ロイン系の部位は、各国ともに焼く調理法が多い。味付けの傾向も似ており、塩、コショウが
基本となっている。
イギリスでは、まえ系やもも系の部位を「煮る」、「蒸す」といった調理法において、ビーフス
トック(肉、野菜などを煮出したスープ)やワインをベースにハーブ、トマト、マスタード、粉
からし、醤油、カレー粉などの調味料を使った味付けが多い。また、伝統的な調理法に加えて、
和の調味料やスパイスを使う傾向もみられた。
フランスでは、ロイン系の部位には塩、コショウで焼いた後にクリームソースや赤ワインバタ
ーソースをかける味付けがみられた。ワインとハーブ(ローリエ、タイム、クローブなど)や香
味野菜(ニンジン、タマネギ、ポロネギ、パセリ、エシャロットなど)は煮込む調理法に多く使
われ、牛肉に上記の風味をプラスした味付けが多い。
ドイツの調理法の特徴は、バルサミコ酢、白ワインビネガー、リンゴ酢といった酢を使った味
付けをしていることである。使用されている部位はまえ系(かた(うで)、かたばら)、もも系(う
ちもも)などである。ドイツの国民的食料として、ザワークラウト(キャベツを塩で揉んで乳酸
発酵させた漬物)があり、牛肉の味付けにも酸味を取り入れることが多いようだ。
イギリス、フランスの調理法の特徴の一つに、バターを単体で使う例は少ないことが挙げられ
る。例えば、オリーブオイルだけ使用するレシピや、オリーブオイルやサラダ油などの植物性オ
イルとバターを併用するレシピがある。
(4)部位活用別の調理法について
以下、対象5ヵ国における「調理法」及び「味付け」の特徴を部位ごとにまとめた。
ヒレ、サーロイン、リブロースなどのロイン系の部位は、塩やコショウを基本にした味付けを
してオーブンで焼くか網焼きにするなど、各国ともにシンプルな調理スタイルが多い。ただし、
フランスでは焼いた肉にワインベースのソースをかけるステーキ、イギリスでは塩、コショウで
下味をつけてオーブンで焼くローストビーフのように、伝統的な調理法も紹介されていた。
もも系やまえ系の部位については、各国ともに煮込んで調理するレシピが多く紹介されていた。
調理の味付けや一緒に煮込む食材などのバリエーションは豊富であり、今後、部位ごとの特徴や
調理法を紹介する上でも、各国や地域の伝統的な調理法は大いに活用できると思われる。中でも、
ネック付かたロースの一部やすね肉などの硬い部位は、旨みを引き出し、肉質をやわらかくする
ために長時間煮込む調理法がとられていた。ランプやとうがらしなどは、細かく刻んだ肉に調味
料を混ぜ込むだけで火を通さない「タルタルステーキ」や、表面を炙っただけの「たたき」など
の生食調理に用いられていた。
ばら系の部位に関しては「焼く」、もしくは「煮込む」料理が主であり、時間をかけて調理する
牛骨、ほほ肉、牛頭、乳腺、テール、タン、ミノやレバーなどの内臓肉は、他の部位と同程度
の頻度で紹介されていた。牛骨は煮込んでスープの出汁用に、ほほ肉、テール、タンはいずれも
煮込料理に使われている。また、ミノやレバーなどの内臓肉は、保存食として古くから作られて
きた「テリーヌ」(つぶして調味した魚・肉・野菜などを陶製の器に入れ、天火で蒸し焼きにした
料理。冷まして薄切りにして、前菜に用いる)に使われていた。なお、部位の指定はないものの、
ひき肉もミートボールやハンバーガーのパテなどの材料としてレシピに登場していた。
2)調査・分析結果からみる日本産和牛肉の多様な部位の利用拡大の可能性
(1)共通レシピからの提案
今回調査した5ヵ国には、生肉を食べるという共通の習慣があり、カルパッチョ、タルタルス
テーキといったレシピが掲載されていた。フランスで開催された世界最大規模の国際食品見本市
「SIAL」の調査報告書には、
「調理せずにそのまま食べたい」という要望が多かったとの報告があ
る(パリ産業情報センター 一般調査報告書)。
生食に向いている部位はしんたま、らんいちである。しかし、生肉食による健康上のリスクや
生肉食可能な状態での輸出条件の整備など、日本産和牛肉の生食を EU で実現させるには複数の
課題があると考えられる。よって炙った上でたたきにするなど、生に近い状態で食べる工夫をし
た提案をすることが求められる。
■料理本で使用された部位
ドイツ
「トンビのタルタルステーキ、リーフサラダとクルミドレッシング添え」
Falsches Filet /ファルシェス・フィレー(まえ/とうがらし)図番号:独 03-7a
「アジア風タルタルステーキ」
・Hüfte /ヒュフテ(もも/らんいち)図番号:独 03-17
※図番号は図 2-3-5:ドイツ牛肉部位図を参照
※( )内は日本の部位分割
フランス
「タルタル・ド・ブフ・オ・クトー(タルタルステーキ)」
・Onglet /オングレ(ばら/うちばら)図番号:仏 02-15
※図番号は図 2-2-3:フランス牛肉部位図を参照 ※( )内は日本の部位分割
(2)和牛の特性と現地調理法のマッチング/ドイツ、フランスのレシピより
和牛のもつ独特の香り「和牛香」を最大限に引き出せるのは 80℃で、60 〜 80℃が適温である
(公益法人日本食肉消費総合センター発行「和牛の魅力」)。
ドイツのレシピでは、フラッヘ・シュルター(かた(うで))を野菜とともに焼き付けた後、真
空パックし、80℃の湯で 10 時間加熱する「リンダーブラーテン(ローストビーフ)」や、ヒレ肉
にフライパンで焼き色をつけて 68℃に設定した鍋で 25 分加熱するなど、温度管理にこだわった
調理法がみられた。和牛肉のおいしさを伝える要素として、このような温度管理を工夫した提案
も検討されてよいだろう。
また、和牛肉の特性として、冷めても噛むと和牛香があり(ただし作る時に 80℃以上で加熱し
ないことがポイント)、冷製料理にも向いていることが挙げられる。
ドイツのレシピでは、ほほ肉をスライスして香味野菜を混ぜ合わせたもの、かたばらを香辛料
や野菜とともに煮てから冷まし、香味野菜を添えたタイ風牛たたきのサラダなど、牛肉を使った
サラダレシピも登場している。したがって、冷めてもおいしい和牛肉の特性を生かし、サラダの
素材として提案する方法も可能だろう。
■料理本で使用された部位
ドイツ
「悪魔のサラダ」のスペルト小麦パンカナッペ
・Brust /ブルスト(まえ/かたばら)図番号:独 03-8
※図番号は図 2-3-5:ドイツ牛肉部位図を参照
※( )内は日本の部位分割
フランス
サラド・ド・ブフ・ア・ランシエンヌ(昔ながらのビーフサラダ)
・ Gîte arrière,Gîte avant /ジット アリエール、ジット アヴァン(もも/ともずね、まえ/ま
えずね)図番号:仏 02-12・27
※図番号は図 2-2-3:フランス牛肉部位図を参照 ※( )内は日本の部位分割
(3)使い慣れた調理器具からのアプローチ
各家庭ではプロの料理人と違い、使用する調理器具が限られているため、その国で一般的に使
われている調理器具を用いたレシピ提案が必要になる。参考までに、レシピ本の中で使用されて
いた調理器具の割合を紹介する。
イギリスで出版された料理本(「Ginger Pig Farmhouse Cook Book」、
「Ginger Pig Meat Book」)
をみると、18 件中、オーブンを使用したものが 11 件(61%)であった。オーブンを利用した調
理法は、
「煮る」が全体の半数を占めている。また、現地ではオーブン料理を集めたレシピ本が新
しく発行されている(ロンドン在住料理研究家エリオットゆかり氏より)。
オーブンで「煮る」料理は、硬い部位を香味野菜と煮込むキャセロールが代表的な料理になる。
オーブンは鍋全体に間接的な熱が伝わり、温度分布のムラがなく、鍋底が焦げつく心配がない。
41 件中、鍋を使用したものが 18 件(44%)、フライパンが 11 件(27%)となっている。調理法
はほとんどが「焼く」、「煮る」である。
ドイツで出版された料理本(「Fleisch」)をみると、57 件中、鍋を使用したものが 33 件(58%)、
オーブンが 13 件(23%)であった。調理は「煮る」、
「焼く」がほとんどを占めている。また、使
われた部位はさまざまで、まえ系はかたばら、ロイン系はリブロース、もも系はしんたま、うち
ももなどであり、その他にレバー、タン、ミノ、ほほの部位も使われている。
以上から、各国それぞれに使い慣れた調理器具があることがわかる。今後、日本産和牛肉の輸
出量を増やすためには、精肉店やレストランなどの業務用ルートだけでなく、家庭での需要を開
拓していくことも課題として挙げられるだろう。そのためには、例えばオーブンを多用している
イギリスにはオーブンで調理するレシピを紹介するなど、相手国の消費者が、使い慣れた調理器
具に合わせた提案も求められる。
表 1-2-1 家庭料理に使用する調理器具
単位:件
オーブン
鍋
フライパン
その他
イギリス
11
1
2
4
フランス
7
18
11
5
ドイツA
13
33
3
8
ドイツB
22
2
2
合計
53
54
16
19
表1-2-2 家庭料理における使用部位と調理器具
①イギリス
単位:件
オーブン
鍋
フライパン
その他
ロイン系
2
1
まえ系
3
3
もも系
3
1
1
ばら系
その他
3
1
合計
11
1
2
4
②フランス
単位:件
オーブン
鍋
フライパン
その他
ロイン系
1
1
5
2
まえ系
1
8
2
もも系
5
1
ばら系
1
1
2
その他
4
4
2
1
合計
7
18
11
5
■調理器具からみた使用部位
イギリス/オーブンで使用した部位
◦ Top rib /トップ リブ(まえ/ネック付かたロース)図番号:英 01-9
◦ Clod /クロッド(まえ/とうがらし)図番号:英 01-13
◦ Fillet フィレ(ロイン/ヒレ)図番号:英 01-7
◦ Rib of beef on the bone /リブ オブ ビーフ オン ザ ボーン(ロイン/骨付きリブロース)図
番号:なし
◦ Salmon cut /サーモンカット(もも/そともも)図番号:英 01-3
◦ Shin /シン(もも/ともずね)図番号:英 01-1
◦ Cheek /チーク(その他/ほほ肉)図番号:英 01-12 Bones /ボーン(その他/牛骨)図番号:なし
◦ Lean minced /リーン ミンチ(その他/脂肪の少ないひき肉)図番号:なし
※図番号は図2-1-3:イギリス牛肉部位図を参照 ※( )内は日本の部位分割
フランス/フライパンで使用した部位
◦ Macreuse /マクルーズ(まえ/かた(うで))図番号:仏 02-23
◦ Basses côtes /バースコート(まえ/かたロース)図番号:仏 02-1
※1 複数の部位が使用されているレシピがあるため、部位数の合計とレシピ数は異なる。
※2 イタリアは、調査対象書籍にレシピの掲載がなかったため、表から除外した。
※3 ドイツの調査対象書籍は2冊であったが、そのうち1冊がステーキに特化した本であ
ったため書籍別に記載した。
④ドイツ(「Beef! Steaks」)
単位:件
オーブン
鍋
フライパン
その他
ロイン系
14
1
1
まえ系
もも系
6
1
1
ばら系
2
その他
合計
22
2
0
2
③ドイツ(「Fleisch」)
単位:件
オーブン
鍋
フライパン
その他
ロイン系
4
2
1
まえ系
2
6
1
1
もも系
4
4
ばら系
その他
7
21
1
3
合計
13
33
3
8
◦ Entrecôtes /アントルコート(ロイン/リブロース)図番号:仏 02-3
◦ Filet /フィレ(ロイン/ヒレ)図番号:仏 02-5
◦ Rumsteck /ロムステック(もも/らんいち)図番号:仏 02-6
◦ Bavette /バヴェット(ばら/そとばら)図番号:仏 02-17
◦ Gras double /グラ ドゥーブル(その他/こぶ胃)図番号:なし
※図番号は図2-2-3:フランス牛肉部位図を参照 ※( )内は日本の部位分割
ドイツA/鍋で使用した部位
◦ Brust /ブルスト(まえ/かたばら)図番号:独 03-8
◦ Dickes Bugstück /ディッケス・ブークシュトゥック(まえ/かたばら)図番号:独 03-7b
◦ Flache Schulter /フラッヘ・シュルター(まえ/かた(うで))図番号:独 03-6
◦ Hochrippe /ホーホリッペ(ロイン/リブロース)図番号:独 03-5
◦ Filet /フィレー(ロイン/ヒレ)図番号:独 03-14
◦ Nierenzapfen /ニーレンツァップフェン(その他/内臓)図番号:独 03-15a
◦ Tafelspitz /ターフェルシュピッツ(もも/らんいち)図番号:独 03-19
◦ Kugel /クーゲル(もも/しんたま)図番号:独 03-20
◦ Bürgermeisterstück /ビュルガーマイスターシュトゥック(もも/しんたま)図番号:独 03-20a
◦ Oberschale /オーバーシャーレ(もも/うちもも)図番号:独 03-21
◦ Backe /バッケ(その他/ほほ肉)図番号:独 03-3
◦ Schwanz /シュヴァンツ(その他/テール)図番号:独 03-18
◦ Zunge /ツンゲ(その他/タン)図番号:独 03-2
上記以外に牛骨、レバー、ミノ、心臓、腎臓が使われる。
※図番号は図2-3-5:ドイツ牛肉部位図を参照 ※( )内は日本の部位分割
ドイツB/オーブンで使用した部位
◦ Bauchlappen /バオホラッペン(ばら/そとばら)図番号:独 03-16
◦ Bürgermeisterstück /ビュルガーマイスターシュトゥック(もも/しんたま)図番号:独 03-20a
◦ Tafelspitz /ターフェルシュピッツ(もも/らんいち)図番号:独 03-19
◦ Rump /ランプ(もも/らんいち)図番号:独 03-17
◦ Porterhouse steak /ポーターハウスステーキ(ロイン/サーロイン)図番号:なし
◦ T-bone /Tボーン(ロイン/サーロイン)図番号:なし
◦ Striploin /ストリップロイン(ロイン/サーロイン)図番号:なし
◦ Filet /フィレー(ロイン/ヒレ)図番号:独 03-14
◦ Côte de bœuf /コート・ド・ブフ(ロイン/リブロース)図番号:なし
◦ Entrecôtes /アントルコート(ロイン/リブロース)図番号:なし
※図番号は図2-3-5:ドイツ牛肉部位図を参照 ※( )内は日本の部位分割
3)食のトレンドからみる日本産和牛肉の多様な部位の普及に向けた必要な取り組み
本調査・分析の対象となった料理本から EU 地域の食の傾向を分析し、日本産和牛肉の多様な部
位の普及に向けた必要な取り組みを探ってみたい。
(1)健康志向への訴求(身体によい調理法とのマッチング)
近年、欧州の主要国では、ヘルシー志向、健康志向の意識が高まっている。
イギリス在住の料理研究家エリオットゆかり氏によると、イギリスでは、健康情報誌や新聞、
テレビなどで“肉を減らして野菜や魚を多く取ろう”という特集を組むなど、肉の脂身を嫌って
残す人も珍しくなくなっている。また酪農製品を食べないベジタリアン「ヴィーガン」が増加し
ているという。
料理研究家でドイツ料理店オーナーシェフ野田浩資氏によると、ドイツではこれまでほとんど
食べられてこなかった魚を食べる人が増え、若年層の飲酒人口は減りつつあるという。また、健康
志向を背景に成長する世界的なオーガニック市場(2014 年約 8.9 兆円)において、第 1 位の米国に
次いでドイツは市場の 13% を占め、今後も伸び続ける有望市場といわれている(The World of
OganicAgriculture Statistics & EmergingTrends 2016 / IFOAM-Orbanic sInternational)。
フランスでは、油脂の直接的な摂取(バター、マーガリン、液体油脂を調理に使ったり、肉や
パンにつけたりする摂取方法)が減少し、加えて動物性脂肪の摂取が減少し、植物性脂肪の摂取
が増加している(「報道等にみられる食に関するトレンド報告」2010 年 10 月、JETRO(日本貿
易振興機構))。調理においては、バターが多く使われている昔ながらのソースから軽めのソース
へと変化がみられる。フランス料理本からみると、全 41 レシピのうちオリーブオイルのみ使用が
7 レシピ、バターと併用が 4 レシピであった。
以上のように健康志向が高まるにつれて、牛肉も脂肪分の少ない赤身肉が好まれる傾向がさら
に強まっている。日本産和牛肉の特徴は脂が細かく入った霜降りであるため、EU 諸国では脂の
多い肉というイメージを持つ人も少なくない。しかし、血中の中性脂肪やコレステロール値を調
節する働きがある不飽和脂肪酸の比率が海外産の牛肉に比べて高いともいわれている(公益社団
法人日本食肉総合センターホームページ)。
さらに、霜降り肉を日本のしゃぶしゃぶ風にして食べるスタイルでは適度に脂を落とす効果が
期待できると同時に、野菜をたくさん食べることができる点で、健康志向が浸透している欧州で
も受け入れられやすいと思われる。事実、今回対象となったドイツの料理本「Fleisch」でも、
「し
ゃぶしゃぶ」が「日本風だしフォンデュ」として掲載されていた(部位はリブロース後部を使用)。
今後、和牛を PR するにあたり、健康効果などがわかりやすく解説されていれば、健康志向を心
がける EU の消費者にもアピールできる。
(2)レシピの合理化・簡便化
イギリス在住の料理研究家エリオットゆかり氏によると、欧州では男女共働社会化が進む中で
ライフスタイルなども変化し、食の簡便化・合理化へのニーズが生まれているという。
例えば、イギリスの伝統料理「ローストビーフ」の場合、従来は、オーブン天板に刻んだ香味
野菜とハーブを敷き、スパイスと調味料を表面にすり込んだ塊肉をその上に乗せ、200℃前後のオ
ーブンに入れて 1 時間ほどかけて焼き上げた後、この肉を休ませている間に、天板に残った肉汁
でグレイビーソースを作るというものであった。この方法では、肉用温度計を差して肉の中心温
度に気を配り、常にオーブン内の温度の微調整を行う必要がある。この温度管理を怠ると、中心
に火が通らず生焼けになったり、反対に火が通り過ぎるとパサついた仕上がりになったりする。
また、この温度管理にはある程度の習熟度が求められる。しかし、今回調査対象とした調理本で
は、オーブンで焼いた後、庫内で保温するだけのクイックレシピも紹介されていた。
また、ドイツ料理本「Fleisch」には、真空パックを利用して肉を湯煎する調理法が紹介されて
いた。真空パックを活用することで熱の通りが緩やかになるため、温度管理の手間をかけずに適
度に加熱でき、簡便化・合理化につながっている。
このほかにも、ほほ肉などの硬い肉を漬け込んだ後で煮る(スペイン)、らんいちをマリネした後
に焼く(ドイツ)など、調味液での「漬け込み」と「焼く」または「煮込む」を組み合わせた調理法
が目立った。これまで時間をかけ、あるいは複数の作業工程の中で引き出していた「旨み」や「や
わらかさ」を、
「漬け込み」という方法により手間を軽減しながら引き出せるほか、レシピ通りに
調理すれば料理の熟練度に関係なく、味付けの失敗が避けることができる点が特徴となっている。
以上のように、食において「合理化」や「簡便化」を求める傾向に合わせた提案が、今後、ま
すます求められるようになると思われる。日本産和牛肉の部位活用を促進していくためにもこの
ような時代のニーズを踏まえていくことが重要であろう。
(3)和の調味料や香辛料の活用
国がまとめた農林水産業の輸出力強化戦略報告書では、今回の調査国であるイギリス、フラン
ス、ドイツ、イタリアともに輸出上位品目に醤油が入り、スーパーマーケットで購入できるほど
一般化している。
今回の調査・分析では、赤味噌とゆずコショウなどを合わせたマリネ液に漬け込んでからオー
ブンで焼く(ドイツ)、リブロースを乾燥昆布でとったブイヨン(出汁)でさっと火を通し「しゃぶ
しゃぶスタイル」で食べる(ドイツ)や、もも(サーモンカット)をローストビーフにする際、味
付けに醤油を加える(イギリス)、もも(らんいち)を焼く前に下味のマリネ液に醤油や生姜を加
える(スペイン)など、日本の調味料を使ったレシピが各国で多数みられた。
また、業界を牽引する先進的な料理人(「ミシュランガイド」で星付きレストランのシェフ)や
発信力の高い人気シェフにとっては、トレンドの日本食材や調味料を活用すること自体が、新し
いメニューづくりや話題性に欠かせない要素となっているという。
このことから、今後は EU 諸国で代表的な調理法や料理メニューに、現地で既に認知度の高い
和の調味料を積極的に組み合わせた料理を提案をしていくことが有効であると考えられる。
2. 国別牛肉料理と部位使用の傾向について
1) イギリス
イギリスで出版されている料理本「Ginger Pig Farmhouse Cook Book」と「Ginger Pig Meat Book」
のレシピ情報をみると、レシピ全体の半数が「煮る」料理となっている。特に、硬い部位はキャセロー
ル(硬い肉を野菜や調味料とともにとろ火で煮込んだ料理)で多く利用される。煮込料理は、比較的安
価なもも系やまえ系の部位がよく使われている。
部位別でみるとロイン系は「焼く」、まえ系は「煮る」、もも系は「焼く」「煮る」ともに使用される割
合が大きいことが特徴的である。
以下、料理本情報をもとに、各部位の使用と調理法の傾向を分析した。
まえ系が 18 レシピ中 33%(6 レシピ)で、
一番多く次いでもも系 28%(5 レシピ)、ロ
イン 17%(3 レシピ)がほぼ同数で、ばら
系は挙げられなかった。
調理法の比率をみてみる
と、全体としては「煮る」が多
く半数以上(56%)を占めてい
る。まえ系は 67%、もも系は
60%が「煮る」で部位系内の
調理法のなかでは多い。その
他は、75%が「煮る」料理と
なっている。
ロイン系は「焼く」が 67%
ア)部位使用率について
イ)部位系と調理法使用率について
図 2-1-2:部位と調理法相関図
焼く 煮る 茹でる 蒸す ロイン系(3) 全体(18) まえ系(6) もも系(5) ばら系(0) その他(4) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 67% 33% 67% 33% 28% 56% 6% 11% 75% 25% 40% 60% 0%(1)使用されている部位の傾向
図 2-1-1:料理本にみる部位使用比率(n=18)
ロイン系 (3)
17%
まえ系 (6)
33%
もも系 (5)
28%
その他 (4)
22%
出典:「Ginger Pig Farmhouse Cook Book」「Ginger Pig Meat Book」 ※( )内は部位数。
(2) レシピ分析による各使用部位の使用傾向と調理法
※表中の部位図番号はイギリス牛肉部位図(p.25)の番号を示している。
ア)ロイン系
ロイン系は、部位別にみたときに最もレシピ数が少なかった。ヒレ、サーロイン、リブロースが使わ
れていた。ヒレはビーフ・ウェリントン(焦げ目をつけた塊肉をパイ生地で包んで焼く料理)、リブロー
スはローストビーフで使用されていたが、どちらも英国を代表する伝統的な牛肉料理である。
サーロイン(ブロック肉 200g)は軽く湯通しすることで旨みを引出し、パスタと一緒に提供するスタ
イルが提案されている。茹でた肉は薄くスライスして提供されているが、パスタと一緒に食した時の食
感のバランスを意識しているものと思われる。
以下の表中に記載した「特徴」は出典より抜粋・要約したものである。
イ)まえ系
まえ系は部位系のなかで最も多く使用されていた。かたロースやかたばら、とうがらしなどが使われ
ていたが、その多くが煮込料理として使用されていた。
クロッド(とうがらし)は長時間煮込むことで柔らかい食感が楽しめる部位とされ、定番の煮込料理
であるビーフシチューやカレーに使われている。トップリブ(ネック付かたロース)は、素早く火を通
したレアでも、時間をかけて長時間調理してもおいしい部位とされており、ここではワインやハーブと
一緒に煮込料理に使われている。
また、和の調味料である醤油を使用した料理が提案されている。
料理名 使用部位 日本での部位 部位図番号 調理法 味付け 特徴 言語名 カナ読み 大分割 小分割 メイン サブ ビーフウェリントン、赤ワインとグ リーンペッパーのソースを添えて Fillet フィレ ロイン ヒレ 英01-7 焼く 焼いてからパイ 生地で覆い焼き 上げる 粒マスタードと赤 ワインのグリーン ペッパーソース 伝統料理。鶏レバーのパテとマスタードとの風味豊かな取 り合わせが絶品。黄金色のパリパリのパイ皮で包まれた、 柔らかくピンク色に焼けた牛ヒレ肉を、コクのあるピリリと辛 みのきいたソースで食べる。 春のビーフパスタ Sirloin サーロイン ロイン サーロイン 英01-7 茹でる 茹でた後で切りパスタと和える オリーブオイル、 黒オリーブ、パセ リ、赤トウガラシな どの調味料とパ ルメザンチーズ サーロインステーキを軽く湯通しするこの方法は、とても簡 単に牛肉の本当の旨みを引き出せる。ステーキは好みに応 じて時間を見ながら調理し、できるだけ薄く切り分ける。 ローストビ-フ Rib of beef on the bone リブオブビーフオンザボーン ロイン リブロース 英01-8 焼く 焼いてから保温する ョウ粉からしと黒コシ 切り分ける際に肉から骨を外せるリブロ-スは骨付きを使用する。料理の風味が一段と増すので、肉のみではなく骨と肉と一緒にオーブンで焼く。
表 2-1-1 ロイン系で使われている部位と調理法リスト
ウ)もも系
もも系の部位ではそとももを使ったレシピが多かった。調理法としては「焼く」と「煮る」で使用され
ている。
ランプ(らんいち)は、サワークリームで煮たビーフストロガノフ(ロシアの代表的な料理)で使用さ
れている。サーモンカット(そともも)は、ローストビーフ用に適した部位とされており、高温にしたオ
ーブンで短時間焼いた後、保温して作られている。味付けはマスタードとともに醤油が使われている。
シン(ともずね)は脂肪分が少なく、コラーゲンが多い部位で、キャセロール(蓋つきで厚手の鍋を使
った煮込料理)に向いている。キャセロールで使われる部位は、ともずね以外にまえ系のネック付かたロ
ース、とうがらし、かたロース、まえずね、ばら系のそとばらなどとさまざまな部位が使われている。
エ)ばら系
今回の調査対象となった書籍では取り上げられていなかった。
料理名 使用部位 日本での部位 部位図番号 調理法 味付け 特徴 言語名 カナ読み 大分割 小分割 メイン サブ ボルシチ風ビーフキャセロール ~バレンタインビーフ Shin シン もも すね(ともずね) 英01-1 煮る む焼いてから煮込 ハーブとトマトピ ューレ風味のビ ーフストック トマトとビーツで赤褐色の美しいキャセロールとなる。マッシ ュポテトとの相性が抜群に良い。 牛もも肉のブレゼ Salmon cut サーモンカット もも そともも 英01-3 煮る 焦げ目が付くまで焼き、蒸し煮するビーフストックとハーブ調味料 適度な歯ごたえと濃い旨みがあるサーモンカットは、丸ごと 蒸し煮にする材料として、これまでは見落とされてきた部 位。ビーツを使うが、ビーツはソースの色に深みを加え、自 然な甘さとコクのある料理に仕上がる。 サーモンカットのクイックロースト ビーフ Salmon cut サーモンカット もも そともも 英01-3 焼く 焼いたあと保温する マスタード調味料と醤油と サーモンカットはオーブンで、高温で焼くのに最適な部位。 バラ色の切り口が美しい絶品のローストビーフができあが る。ホースラディッシュソースとの相性が抜群だ。 ホームメードソルトビーフ Brisket, Silverside ブルスケット、シルバーサイド まえ、ももかたばら、そともも 英01-3、16 煮る んでから煮る調味料に漬け込 塩 ドでの食べ方がおすすめ。冷めてからライ麦パンのサンドイ丸ごとの温かいソルトビーフをホースラディッシュやマスター ッチに挟んでもおいしい。 マッシュルームストロガノフ Rump ランプ もも らんいち 英01-6 焼く 焼いてからソースで煮る ストロガノフ タマネギとニンニクをたっぷり使うことでおいしくなるストロガノフ。ブランデーを隠し味に加えること、クレームフレッシュ でコクを出す。表 2-1-3 もも系で使われている部位と調理法リスト
出典:「Ginger Pig Farmhouse Cook Book」「Ginger Pig Meat Book」 出典:「Ginger Pig Farmhouse Cook Book」「Ginger Pig Meat Book」
料理名 使用部位 日本での部位 部位図番号 調理法 味付け 特徴 言語名 カナ読み 大分割 小分割 メイン サブ ホームメードソルトビーフ Brisket, Silverside ブルスケット、シルバーサイド まえ、ももかたばら、そともも 英01-3、16 煮る んでから煮る調味料に漬け込 塩 ドにつけて食べるのがおすすめ。冷めてからライ麦パンのサ丸ごとの温かいソルトビーフをホースラディッシュやマスター ンドイッチに挟んでもおいしい。 チリビーブのスローロースト Top rib トップリブ まえ ネック付かたロース 英01-9 煮る ら煮込む焼き色を付けてか(海塩、黒コショワインと調味料 ウ) トップリブは実においしいジューシーな部位。素早く火を通し てレアでも、時間をかけてゆっくり調理しても最高の味わいと なる。 アジア風ビーフカレー Clod クロッド まえ とうがらし 英01-13 煮る 焦げ目が付くまで焼いてから煮込 む カレー クロッドは、長時間ゆっくりと調理するのに好適な部位。ス パイスとフレーバーが肉とじっくり混じり合い、いっそう風味 が増す。このカレーは作るのはとても簡単で、しかも驚くほ ど深みのある風味となる。 ビーフクロッドシチューとハーブ ダンプリング Clod クロッド まえ とうがらし 英01-13 煮る 焦げ目が付くまで 焼き煮込み、一 晩漬ける ハーブ、調味料、 ワイン クロッドは、時間をかけて調理すると、柔らかくとろけるよう においしくなる部位。肉汁を吸ったダンプリングを一緒に味 わう。 ステーキとスモークオイスターの 詰め物 Chuck, Brisket チャック、ブリスケット まえ かたロー ス、かた ばら 英01-15、 16 蒸す 和えてから蒸す クオイスター赤ワインとスモーフィリングにカキを加えることで、コクと風味が増す。赤ワインがない場合は、旨みのあるビーフストックを使ってもよい。 ステーキとキドニー(腎臓)の詰 め物 Chuck, Brisket チャック、ブリスケット まえ かたロー ス、かた ばら 英01-15、 16 蒸す 和えてから蒸す ハーブと醤油風味 キドニー(腎臓)が好みでなければ、代わりにマッシュルー ムを使う。赤ワインを加えない場合は、代わりに旨みのある ビーフストックで代用ができる。
表 2-1-2 まえ系で使われている部位と調理法リスト
(3)イギリス料理本に見る部位別調理法
料理本「Ginger Pig Meat Book」では、調理法別に適した部位がまとめられていた。
「焼く」調理にはステーキとローストが含まれ、使用部位はサーロインやリブアイ、フィレなど、主に
「ロイン」系が使われている。「煮る」調理には煮込料理や蒸し煮が含まれ、部位は「まえ」と「もも」
に分散していた。
オ)その他
ひき肉は、ハーブとトマトソース煮込み、チリバーガーなどのハンバーグやパイ料理、パスタなどさ
まざまな料理で用いられている。また、チーク(ほほ肉)は黒ビールに長時間漬け込んで柔らかくして
から煮込まれている。
また、伝統的なビーフストック(出汁として利用されるスープ)の原料として牛骨が使用されている。
表 2-1-5 調理別による部位名
※( )内は日本部位名となる。
調理
ステーキ
ロースト
パイ料理
煮込料理
蒸し煮
部
位
名
◦アントルコート、ウ
ィング リブ、ティ
ーボーン、ポーター
ハウス(ロイン/サ
ーロイン)
◦フィレ、シャトーブ
リアン、フィレ ミ
ニョン(ロイン/ヒ
レ)
◦リブアイステーキ
(ロイン/リブステ
ーキ)
◦ランプ、ミニッツ
ステーキ、ポイント
エンド オブ ラン
プ、ランプキャッ
プ、ポープスアイ
(もも/らんいち)
◦ブリスケット(まえ
/かたばら)
◦アントルコート、ウ
ィング リブ、ティ
ーボーン、ポーター
ハウス(ロイン/サ
ーロイン)
◦フィレ、シャトーブ
リアン、(ロイン/
ヒレ)
◦リブアイステーキ、
フォア リブ(ロイ
ン/リブロース)
◦ブリスケット(まえ
/かたばら)
◦ランプ(もも/らん
いち)
◦チャック(まえ/か
た(うで))
◦ネック(まえ/ネッ
ク)
◦フォアシン(まえ/
まえずね)
◦クロッド、スティッ
キング(まえ/とう
がらし)
◦シン(もも/ともず
ね)
◦シルバーサイド(も
も/そともも)
◦トップサイド(もも
/うちもも)
◦シックフランク、ト
ップランプ(もも/
しんたま)
◦シンフランク、グー
ススカート、バヴェ
ット(ばら/うちば
ら、そとばら)
◦チャック(まえ/か
た(うで))
◦ブリスケット(まえ
/かたばら)
◦オングレ(まえ/ネ
ック付かたロース)
◦ネック(まえ/ネッ
ク)
◦シックフランク、ト
ップランプ(もも/
しんたま)
◦トップサイド(もも
/うちもも)
◦ジェイコブズラダ
ー、ショートリブ
(ばら/うちばら)
料理名 使用部位 日本での部位 部位図番号 調理法 味付け 特徴 言語名 カナ読み 大分割 小分割 メイン サブ 牡牛のほほ肉の黒ビール煮込 み Cheek チーク その他 その他 英01-12 煮る てから煮込む漬けた肉を炒め 黒ビールとビーフ ストックにハーブ 類の調味料 牡牛のほほ肉を手に入れることができたら、是非ともトライを。 ほほ肉はよく動く発達した筋肉なので、あせらず、ゆっくり時 間をかけて調理する。 ビーフストック Bones ボーン その他 その他 - 煮る む焼いてから煮込 マッシュルームハーブ類とトマト、風味豊かで極上のストックを作るには、鍋で煮込む前に牛骨をオーブンで焼くことがポイント。より深みのある美しい色 に仕上がる。 ミートボールのトマトソース煮込 み Lean minced リーンミンチ その他 その他 - 煮る む焼いてから煮込トマトソース 自家製トマトソースでミートボールと合わせる。ソースのアレ ンジは、刻んだオリーブ少々、適量のトウガラシ、ちぎった バジルの葉などをおすすめする。 とってもおいしいチリバーガー Lean minced リーンミンチ その他 その他 - 焼く 調味料と和えてまぜてから焼く ースと香辛料醤油、ウスターソ 最高の風味と食感を味わうためには、必ず上等なひき肉を使う。辛みが苦手な場合はトウガラシをはぶく。フェタチー ズを加えると味に変化が生まれる。表 2-1-4 その他で使われている部位と調理法リスト
出典:「Ginger Pig Farmhouse Cook Book」「Ginger Pig Meat Book」