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(1)

<特集「生殖医療の進歩と小児および若年成人がん患者への適応」>

小児がん領域における妊孕性温存治療

宮地

充,細井

京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学

Fert

i

l

i

t

yPreservat

i

onf

orChi

l

dhoodCancerPat

i

ent

s

Mi

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suruMi

yachiandHaj

i

meHosoi

DepartmentofPediatrics,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineGraduateSchoolofMedicalScience

小児がんは化学療法や放射線治療に感受性が高く,これらの治療と外科治療を組み合わせることによ り,予後は飛躍的に改善した.しかし,治癒率の向上に伴い,小児がん経験者の長期合併症としての不 妊が顕在化している.近年の妊孕性温存治療の進歩に伴い,がん治療開始前に妊孕性温存療法を行うこ とにより,妊孕性に影響を及ぼすがん治療後に挙児を得ることが可能となりつつある. 小児がん領域で妊孕性に影響を及ぼす治療法としては,高用量のアルキル化剤やプラチナ製剤による 化学療法,骨盤・性腺への放射線治療が挙げられ,妊孕性温存療法の適応となる.適応となる妊孕性温 存療法については,思春期後の男児,女児においては,成人と同様の妊孕性温存治療が適応となる.思 春期前の男児には適応となる妊孕性温存治療がなく,思春期前の女児には卵巣組織凍結保存が適応とな るが,まだ研究段階の医療であることに留意が必要である.がん治療を最優先として,診断から治療開 始の短い期間で妊孕性温存治療を実施するには,事前に連携体制を整えておくことが重要であり,今 後,各地域において生殖専門医とがん治療専門医の妊孕性温存治療のネットワーク形成が必要である. キーワード:妊孕性温存治療,小児がん,卵巣組織凍結保存,精子凍結保存.

Abst

ract

Childhoodcancerissensitivetochemotherapyandradiationtherapy.Theuseofmulti-modality treatmenthasledtothesignificantimprovementoftheprognosisofchildhoodcancer. However, infertilityremainsoneofthemostcommoncomplicationexperiencedbychildhoodcancersurvivors becauseofthegonadotoxictreatment.Recentdevelopmentsinfertilitypreservationallow childhood cancersurvivorstoachievesuccessfulpregnancies.

Childhoodcancertreatmentswhichaffectfertilityincludechemotherapyusingalkylatingagentsand platinumcompound,andirradiationtopelvis,ovary,testisandpituitarygland.Childhoodcancerpatients whoaregoingtoreceivegonadotoxictreatmentsareeligibleforfertilitypreservationtreatment. Treatmentoptionsincludeovariancryopreservationforpre-andpost-pubertalgirls,embryoandoocyte cryopreservationforpost-pubertalgirlsandsperm cryopreservationforpost-pubertalboys.Thereis

平成29年 7月 4日受付

連絡先 細井 創 〒602‐8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465番地

(2)

は じ め に

小児がんは化学療法や放射線治療に感受性が

高く,これらの治療を導入し外科治療と組み合

わせることにより,予後の改善を認めた.しか

し,治癒率が向上するにしたがって,小児がん

経験者の長期合併症としての不妊が顕在化して

いる.近年の妊孕性温存治療の進歩に伴い,が

ん治療開始前あるいは治療中に妊孕性温存療法

を行うことにより,妊孕性に影響を及ぼすがん

治療後に挙児を得ることが可能となりつつある.

本稿では,小児がんにおける妊孕性温存療法

について,小児がんの概論,妊孕性・生殖機能

温存療法の適応となる抗がん治療,思春期前と

思春期後で行いうる妊孕性温存治療,疾患別の

妊孕性温存療法の適応,妊孕性・生殖機能温存

に許容される時間と意思決定,小児がん経験者

の妊娠・出産,卵巣組織移植後の妊娠・出産の

順に述べる.

小児がんの概論

小児がんは小児に発生するがんの総称であ

る.小児の死亡原因として「不慮の事故」に次

いで頻度が高く,小児期の病死順位としては第

1

位である.日本では,年間 2000人から 2500

人,15歳未満の人口 1万人あたり 1人が小児が

んと診断されている.小児がんには様々な疾患

が含まれるが,頻度の多い順に白血病,脳腫瘍,

骨軟部肉腫,神経芽腫,腎芽腫,肝芽腫が挙げ

られる.発症年齢は疾患によりさまざまであ

り,リンパ性白血病や胎児性腫瘍(神経芽腫,

腎芽腫,肝芽腫)のように乳幼児期に多い疾患

から,思春期に好発する骨肉腫やユーイング肉

腫まで含まれる.

小児がんは進行が早く,初診時に遠隔転移を

有することも稀ではない.治療においては転移

の有無などにより,リスク群で層別化され治療

が行われることが多い.適切な治療のために,

治療開始前に画像検査などによる転移検索が必

要である.生検などにより診断が確定すれば,

化学療法,放射線治療,外科療法の組み合わせ

により治療が開始される.前述したように小児

がんの進行は早く,診断から治療開始までを速

やかに行う必要がある.

小児がんの予後は改善し,急性リンパ性白血

病の生存率は 90%近くなっている.一方で,

フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血

病,St

age4

神経芽腫,高リスク群横紋筋肉腫,

転移性ユーイング肉腫ファミリー腫瘍,悪性ラ

ブドイド腫瘍,脳幹部グリオーマなど生存率が

50

%以下である予後不良な一群も存在する.

小児がんが治癒した後,小児がん治療による

長期的な影響が続く場合がある.これらは長期

合併症と呼ばれ,この中に妊孕性の喪失が含ま

れる.次項以降で,小児がん領域における妊孕

性温存療法について詳述する.

小児がんは,化学療法,放射線療法に感受性

のある腫瘍が多く,外科治療と組み合わせ,集

学的治療を行うことにより予後の改善を認めて

きた.一方で,アルキル化剤やプラチナ製剤と

いった薬剤の使用や,骨盤・性腺・下垂体が照

射野となる放射線治療は,妊孕性喪失の原因と

なりうる.小児がんにおいては,リスク群に基

づいた層別化治療が行われ,化学療法,放射線

治療,外科療法を併用するため,同じ疾患でも

妊孕性温存療法の適応となる

抗がん治療

currentlynofertilitypreservationoptionsforpre-pubertalboys.Becauseovariancryopreservationisstill consideredinvestigational,itshouldbeperformedonlyincenterswiththenecessaryexpertiseunder IRB-approvedprotocols.Multidisciplinaryteamapproachincludingpediatriconcologistandreproductive endocrinologistisimportanttoprovidefertilitypreservationtreatmentduringshorttimeperiodbetween diagnosisandinitiationofcancertreatment.

KeyWords:Fertility preservation,Childhood cancer,Ovarian tissue cryopreservation,Sperm cryopreservation.

(3)

原発部位やリスク群により,妊孕性喪失の危険

性は異なる.したがって,治療前の全身検索の

結果をもとに,行う予定の抗がん治療を決定し

たうえで,個々の症例に応じて妊孕性喪失の危

険性を推測し,妊孕性温存治療の適応を判断す

る必要がある.

どのような小児がん治療が妊孕性喪失のリ

スクとなるかについては,2013年に Ameri

can

Soci

et

yofCl

i

ni

calOncol

ogy

(ASCO)より発表

されたがん患者の妊孕性温存のガイドライン

1)

同年に発表された Chi

l

dr

en

sOncol

ogyGr

oup

(COG)の長期フォローアップガイドライン

2)

記載されている.また,2016年の Chi

l

dhood

cancersurvi

vorst

udy

(CCSS)の小児がん経験

者10938人,同胞3949人の妊娠を指標とした質

問紙調査の結果

3)

も踏まえて,妊孕性喪失のリ

スクについて,以下に男児と女児に分けて記載

する.

1.男児(表 1)

男児の妊孕性に影響を与える小児がん治療と

しては,シクロホスファミドなどのアルキル化

剤の使用,プラチナ製剤の使用,下垂体・骨盤・

性腺への照射が挙げられる.

アルキル化剤は妊孕性に影響を与える薬剤と

して広く知られている.男児では,ASCO,COG

のガイドラインでは,シクロホスファミドの投

与量が 7.

5g/

m

を越える場合,妊孕性喪失のリ

スクが高い治療として記載されている

1)2)

.ま

た,CCSSの報告

3)

によると,アルキル化剤の総

投与量が GreenDMらの提唱したシクロホス

ファミド換算式

*4)

で 5g/

m

を越える場合,妊孕

性喪失のリスクが生じるとしている.さらに

個々のアルキル化剤としては,シクロホスファ

ミド 5g/

m

,イホスファミド 25g/

m

,プロカル

バジン 3000mg/

m

を越える総投与量において,

妊孕性喪失のリスクが高まる結果が示された.

また St

.J

udel

i

f

et

i

mecohort

の報告

5)

では,上記

表 1 男児において,妊孕性喪失の危険性のある小児がん治療

(4)

のシクロホスファミド換算式による 4g/

m

以下

のアルキル化剤投与量では妊孕能に影響を与え

る可能性は低いとされている.

シクロホスファミド換算式

4)

シクロホスファミド換算投与量(mg/

m

)=

1.

0

×(シクロホスファミド総投与量(mg/

m

))+

0.

244

×(イホスファミド総投与量(mg/

m

))+

0.

857

×(プロカルバジン総投与量(mg/

m

))+

14.

286

×(クロラムブシル総投与量(mg/

m

))+

15.

0

×(カルムスチン総投与量(mg/

m

))+16.

0

×(ロムスチン総投与量(mg/

m

))+40×(メル

ファラン総投与量(mg/

m

))+50×(チオテパ総

投与量(mg/

m

))+100×(ニトロゲンマスター

ド総投与量(mg/

m

))+8.

823

×(ブスルファン総

投与量(mg/

m

)))

プラチナ製剤については,ASCO,COGのガ

イドラインでリスクのある治療として記載され

ているが,アルキル化剤ほど高いリスクとして

記載されていない

1)2)

.ASCOのガイドラインで

は,400mg/

m

を越えるシスプラチン,2g/

m

越えるカルボプラチンの投与は中等度のリスク

として挙げられている.CCSSの報告では,488

mg/

m

を越えるシスプラチン投与量では,有意

に妊娠率が低下していたことを報告している

3)

放射線治療については,ASCO,COGのガイ

ドラインでは,骨盤,精巣,全身への放射線照

射とアルキル化剤の併用はリスクが高いとされ

ている

1)2)

.また,下垂体を照射野に含む頭蓋照

射は性腺刺激ホルモンの分泌低下の原因とな

り,ASCOのガイドラインでは 40Gyを越える

頭蓋照射,テモゾロミドと頭蓋照射の併用を危

険性の高い治療として,COGのガイドラインで

は 30Gyを越える頭蓋照射を妊孕性喪失の危険

性のある治療として位置付けている

1)2)

2.女児(表 2)

女児の妊孕性に影響を与える小児がん治療と

しては,シクロホスファミドなどのアルキル化

剤の使用,下垂体・骨盤・性腺への照射が挙げ

られる.

アルキル化剤については,ASCOのガイドラ

イン

1)

では,7.

5g/

m

以上のシクロホスファミ

ド投与がリスクの高い治療であるとしている.

表 2 女児において,妊孕性喪失の危険性のある小児がん治療

(5)

また,CCSSの報告では,11.

3g/

m

以上のシク

ロホスファミド投与を受けた患者集団では,投

与のない患者集団と比較して,不妊のリスクと

なることが報告された

3)

.同じ CCSSの報告で

は,ブスルファンと 411mg/

m

以上のロムスチ

ンが妊孕性喪失のリスクとなることが報告され

ている

3)

プラチナ製剤については,ASCOやCOGのガ

イドラインでは妊孕性喪失の危険性がある治療

とされている

1)2)

.一方で,CCSSの報告では,有

意な妊孕性喪失の危険性を認めなかったことが

報告されている

3)

.ドイツの報告では,単変量

解析ではプラチナ製剤が有意に妊孕性喪失のリ

スクの高い薬剤とされたが,多変量解析では有

意なリスク増加は認めなかった

6)

.女児におけ

るプラチナ製剤については,妊孕性喪失のリス

クに関わる一定の結果が出ておらず,今後の検

討が待たれる.

また,放射線治療については,ASCOのガイ

ドラインでは,骨盤,卵巣,全身への放射線照

射とアルキル化剤の併用はリスクが高いとされ

ている

1)

.思春期後 10Gy,思春期前 15Gyを越

える全腹,骨盤照射もリスクの高い放射線治療

であるとしている

1)

.また,下垂体を照射野に

含む頭蓋照射は性腺刺激ホルモンの分泌低下の

原因となり,ASCOのガイドラインでは 40Gy

を越える頭蓋照射,テモゾロミドやカルムスチ

ンと頭蓋照射の併用を危険性の高い治療とし

1)

,COGのガイドラインでは 30Gyを越える

頭蓋照射を妊孕性喪失の危険性のある治療とし

て位置付けている

2)

卵巣組織凍結保存の適応として,Edi

nbur

gh

sel

ect

i

oncr

i

t

er

i

a

7)

があり,この基準を満たした

症例と満たさない症例を比較した際に,満たし

た症例で有意に早発閉経が多かったことが報告

されている.Edi

nbur

ghsel

ect

i

oncr

i

t

er

i

a

を以

下に示す.

・35歳未満.

・15歳以上の場合,化学療法,放射線治療歴が

ない.

・15歳未満の場合,性腺毒性のない軽度の化学

療法は許容される.

・5年以上生存する見込みがある.

・50%を越える卵巣機能不全の危険性がある.

・患者,家族からインフォームドコンセントを

受けている.

・HI

V,

梅毒,B型肝炎について,血清学的に陰

性.

・妊娠しておらず,子どもがいない.

このEdi

nbur

ghsel

ect

i

oncr

i

t

er

i

a

では,50%を

越える卵巣機能不全の危険性をきたす具体的な

治療内容に言及していないが,どのような症例

を卵巣組織凍結保存の適応と考えるべきかにつ

いて,参考とすることができる.

小児がんにおける妊孕性温存治療の特徴とし

て,思春期前と思春期後で適用しうる治療の種

類が異なることが挙げられる.

思春期前の男児には生児の出産につながった

妊孕性温存治療は現段階では存在しない.精巣

組織凍結保存は思春期前の男児を想定した妊孕

性温存治療であるが,まだ前臨床段階である.

思春期後については,成人と同様,精子凍結保

存が行いうる.また,射精障害を有する場合や,

低年齢の思春期後の男児などでマスターベー

ションによる精子採取が困難な場合,精巣内精

子回収術(TESE)も選択肢となりうる.どれ

くらいの二次性徴の段階であれば精子形成が開

始されており精子採取が可能かどうかについて

定まった報告はないが,Tanner2度では 3例中

全例で精子採取が不可能であったが,Tanner3

度では 9例中,4例で精子採取が可能であった

という報告がある

8)

.マスターベーション,TESE

のいずれによる精子保存も実施に要する時間は

短く,実施後,速やかに抗がん治療開始が可能

である.

女児では,思春期前では卵巣組織凍結保存,

思春期後では卵子凍結保存,受精卵凍結保存,

卵巣組織凍結保存が行いうる妊孕性温存療法で

ある.卵子や受精卵の凍結保存は確立された妊

孕性温存治療であるが,少なくとも二週間は必

要となり,治療前に行う必要がある.一方で,

思春期前と思春期後で行いうる

妊孕性温存治療

(6)

卵巣組織凍結保存は排卵誘発の必要がなく,腹

腔鏡手術により短時間で実施でき,抗がん治療

の開始も速やかである.保存時期は必ずしも治

療前に限られず,化学療法剤の総投与量が少な

い治療初期でも行いうる.このため,進行が早

く治療開始を急ぐ小児がんにおいては,卵巣組

織凍結保存が適応となることが多い.ただし,

卵巣組織凍結保存は研究段階の治療であること

に留意が必要である.また,がん細胞の混入の

リスクがあり,特に白血病など造血器腫瘍は腫

瘍細胞の混入のリスクが高く,一般的に自家移

植を前提とした卵巣組織凍結保存は適応となら

ない

9)

小児がんでは,骨盤への放射線治療が行われ

ることが多い.女児においては,卵巣移動術に

より,線量の低減が図れる可能性があり,検討

が必要である

10)

.また,男児においても精巣の

移動術が適応となる場合がある.

疾患別の妊孕性温存療法の適応

1.横紋筋肉腫,ユーイング肉腫,非横紋筋肉

腫軟部肉腫

化学療法において,アルキル化剤の投与量が

多く,かつ,原発巣の部位によっては骨盤や性

腺近傍への放射線治療が行われる場合があり,

妊孕性温存療法の適応となりうる

11)

2.骨肉腫

化学療法において,プラチナ製剤の投与量が

多いため,妊孕性温存治療の適応となりうる

11)

3.腎芽腫

女児において,全腹照射を必要とする場合に

妊孕性低下のリスクがあることが報告されてい

12)

.また側腹部の照射を受けた場合に,高

血圧合併妊娠,胎位異常,早産・低出生体重児

が多いことが報告されており,注意が必要であ

13)

4.神経芽腫

高リスク神経芽腫においては,寛解導入療法

でのアルキル化剤,プラチナ製剤使用,大量療

法でのブスルファン使用がある場合に,妊孕性

の喪失,早発閉経のリスクについて検討が必要

である.一方で,低年齢の患者が多く,確立さ

れた妊孕性温存治療がないことも事実である.

女児の卵巣組織凍結保存は選択肢として挙がる

が,まだ研究段階であり,確立された妊孕性温

存治療ではないことに留意が必要である.

5.頭蓋外胚細胞腫瘍

アルキル化剤,プラチナ製剤が用いられるた

め,妊孕能喪失のリスクがありうる治療とな

る.ASCOのガイドラインでは,BEP療法 2~4

サイクル以上で無精子症が遷延,永続すること

があるとしている

1)

6.肝芽腫

治療においてプラチナ製剤が用いられるた

め,投与量によっては妊孕性喪失のリスクがあ

る治療となりうる.

7.脳腫瘍

髄芽腫や胚細胞腫瘍においては,アルキル化

剤,プラチナ製剤が用いられることがあり,妊

孕能喪失のリスクがありうる治療となる.その

他,下垂体を照射野に含む放射線治療が行われ

る場合も妊孕性喪失の危険性がある治療とな

る.ただし,化学療法は行われず,下垂体を照

射野に含む放射線治療のみの場合,ホルモン補

充療法により妊孕性を維持することが可能な場

合があることに留意が必要である.

小児がんは,その特徴として進行が早いこと

が挙げられ,治療開始前の時間が限られている

ことが多い.また,男性の精子凍結保存,女性

の受精卵凍結保存,卵子凍結保存については,

小児がん治療開始前に行う必要がある.このた

め,主治医は,診断から治療開始までの短い時

間で妊孕性温存療法の検討を行い,生殖医療専

門医と連携し,①妊孕性喪失のリスク,②行い

うる妊孕性温存治療の方法と合併症,③小児が

ん治療への影響について,患児や家族と十分に

話し合い,意思決定支援を行う必要がある.

妊孕性温存治療に要する時間を短くするため

に,事前に小児がん治療専門医と生殖医療専門

医の連携体制を整え,対象症例を認めた場合,

すみやかに対応できるよう準備しておくことが

妊孕性・生殖機能温存に

許容される時間と意思決定

(7)

望ましい.また,本人,家族は診断後の大きな

心理的負担の中,短期間の間に妊孕性温存治療

に関する意思決定を余儀なくされるため,医療

者側の配慮が必要である.

卵巣組織凍結保存については,小児がん治療

開始後も実施可能であり,診断から治療開始ま

での時間が短い小児がんにおいては実施可能性

の高い妊孕性温存治療であるが,まだ研究段階

の医療であることに留意が必要である.

小児がん経験者の妊娠・出産

小児がん経験者が,小児がん治療開始前,あ

るいは治療中に行われた生殖補助医療により,

小児がん治療後に妊娠,出産に至った例の報告

は限られており,妊娠,出産に及ぼす影響は未

だ不明な点が多い.したがって,本項では小児

がん経験者が小児がん治療後に妊娠・出産に

至った際の報告について述べる.

子宮に対して 5Gyを越える線量が照射され

た場合,低出生体重児のリスクが高いことが報

14)

されており,注意が必要である.また,ア

ントラサイクリン系薬剤の投薬を受けた患者に

おいて,妊娠中の心不全が報告されており注意

が必要である

15)

一方で,小児がん経験者の妊娠において,先

天異常のリスクは増加しないことが報告されて

いる

16)

.放射線治療,抗がん剤治療後の妊娠に

おける先天異常について不安を感じる患児,家

族は多く,小児がん治療後の妊娠,出産につい

て話し合う際に,重要な情報である.

女児において,治療後,無月経から回復せず

妊孕性を喪失する急性閉経となることは 6.

3

と稀であり

17)

,月経が開始,あるいは再開する

ことが多い.しかし,早発閉経のリスクが高い

治療後に挙児希望がある場合,早発閉経のため

加齢により妊孕性が低下する可能性があること

について説明が必要である.すなわち,妊孕性

が保たれている期間が短いことを伝え,妊娠・

出産の計画に留意するように指導が必要である.

卵巣組織自家移植後の妊娠・出産

卵巣組織自家移植後の卵巣内分泌機能の回

復,妊娠・出産については,イスラエル

18)

,べ

ルギー

19)

,デンマーク

20)

から報告がある.デン

マークからの報告

20)

は,卵巣組織自家移植によ

り挙児が得られた既報を後方視的に検討し,未

発表の自験例を加えて報告しており,凍結保存

された卵巣組織の自家移植から 86例の出生が

あったとしている.40例の出生についての情

報があり,平均在胎週数 39週,平均出生体重

3168g,

およそ半数は自然妊娠であった.また,

化学療法の影響を受けた卵子の質の低下が示唆

されているものの

21)

,化学療法開始後に凍結保

存された卵巣組織の自家移植により,10例中 4

例で挙児を得た報告があり

18)

,化学療法開始後

の卵巣組織凍結保存の有用性が証明されてい

る.また,同じ報告で移植前に無月経であった

16

例中 15例で月経が再開したとされており,

高率に内分泌機能が回復することも報告されて

いる

18)

.更なる症例集積により,卵巣組織凍結

保存・自家移植による卵巣組織の生着,内分泌

機能の回復,妊娠,出産に関する知見が増えて

いくことが期待される.

日本での小児がん領域における妊孕性温存の

取り組みは始まったばかりである.今後,小児

がん治療を最優先としながらも,小児がん治療

に並行して,妊孕性温存治療をどのように行っ

ていくかについての検討が不可欠である.妊孕

性温存治療をすみやかに提供できるように,各

地域で小児腫瘍医と生殖専門医を含む生殖医療

連携体制の整備が望まれる.

開示すべき潜在的利益相反状態はない.

1)Loren AW,Mangu PB,Beck LN,Brennan L, MagdalinskiAJ,PartridgeAH,QuinnG,WallaceWH,

(8)

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(10)

宮地

充 Mi

t

suruMi

yachi

所属・職:京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学・助教 略 歴:2001年 3月 京都府立医科大学医学部卒業 2001年 4月 京都府立医科大学附属病院小児科研修医 2006年 4月 京都府立医科大学大学院入学(専攻小児発達医学) 2010年 3月 医学博士(京都府立医科大学甲 1318号) 2010年 4月 京都府立与謝の海病院副医長 2012年 4月 京都府立医科大学小児科学教室病院助教 2013年 4月~現職 専門分野:小児がん

主な業績: 1.TsumaY,MiyachiM,OuchiK,TsuchiyaK,IeharaT,NaitohY,KonishiE,YanagisawaA,HosoiH. NeoadjuvantTreatmentWith Cyclooxygenase-2InhibitorandPrednisoloneAllowsConservative SurgeryforInflammatoryMyofibroblasticTumoroftheBladder.JPediatrHematolOncol2016;38: e283-285.

2.OuchiK,MiyachiM,TsumaY,TsuchiyaK,IeharaT,KonishiE,YanagisawaA,HosoiH.FN1:Anovel fusionpartnerofALKinaninflammatorymyofibroblastictumor.PediatrBl oodCancer2015;62:909-911.

3.MiyachiM,WatanabeE,WatanabeN,TsumaY,Kawashima-GotoS,TamuraS,ImamuraT,IshidaH, HosoiH.MRDdetectionofleukemiarelapseusingHLAtypingbyFACSincombinationwithFISHafter mismatchedallogeneicstemcelltransplantation.Pediatrtransplant2014;18:E180-184.

4.YoshidaH,MiyachiM,OuchiK,KuwaharaY,TsuchiyaK,IeharaT,KonishiE,YanagisawaA,HosoiH. IdentificationofCOL3A1andRAB2AasnoveltranslocationpartnergenesofPLAG1inlipoblastoma. GenesChromosomesCancer2014;53:606-611.

5.YoshidaH,MiyachiM,SakamotoK,OuchiK,YagyuS,KikuchiK,KuwaharaY,TsuchiyaK,Imamura T,IeharaT,KakazuN,HojoH,HosoiH.PAX3-NCOA2fusiongenehasadualroleinpromotingthe proliferationandinhibitingthemyogenicdifferentiationofrhabdomyosarcomacells.Oncogene201433; 5601-5608.

6.MiyachiM,TsuchiyaK,YoshidaH,YagyuS,KikuchiK,MisawaA,IeharaT,HosoiH.Circulating muscle-specificmicroRNA,miR-206,asapotentialdiagnosticmarkerforrhabdomyosarcoma.Biochem BiophysResCommun2010;400:89-93.

7.MiyachiM,KakazuN,YagyuS,KatsumiY,Tsubai-ShimizuS,KikuchiK,TsuchiyaK,IeharaT,Hosoi H.Restoration ofp53 pathway by nutlin-3 inducescellcycle arrestand apoptosisin human rhabdomyosarcomacells.ClinicalCancerResearch2009;15:4077-4084.

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