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モノクローナル抗体

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Academic year: 2021

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モノクローナル抗体の新時代|重井医学研究所|リンパ節法

モノクローナル抗体とは何?

モノクローナル抗体の利用

モノクローナル抗体の作製動物と抗原エマルジョンの投与方法

モノクローナル抗体作製の苦労

モノクローナル抗体の作製の新しい戦略

目的に応じたモノクローナル抗体の作製

モノクローナル抗体の科学における役割

これからのモノクローナル抗体の作製と将来

モノクローナル抗体は簡単にできるという理解が必要

モノクローナル抗体の新時代

モノクローナル抗体の歴史は 1975 年のケーラーとミルスタインの論文で始まった。それから約 30 年間 にモノクローナル抗体の作製方法は格段に進歩した。2006 年に開発されたマウスリンパ節法の開発によ り、普通の研究室で誰でも簡単にモノクローナル抗体を作製できるようになった。 “モノクローナル抗体の 新時代”に入ったのである。モノクローナル抗体の作製は難しいものであるという古い観念を捨て、もっと 気楽に、モノクローナル抗体を研究に利用することを考えよう。

モノクローナル抗体とは何?

がん細胞と抗体産生細胞を上手に合体(融合)させると、がん細胞のようにいつまでも増殖し

て、しかも、抗体を産生する細胞ができる。この細胞は1種類の抗体のみを産生し、培養液中に

放出する。この抗体がモノクローナル抗体である。

1個の B 細胞を上手に殖やすには、B 細胞とがん細胞を融合させる。二つの細胞が一つになったものを 融合細胞と呼ぶ。融合細胞の中にはがん細胞の性質である無限に増殖する性質と B 細胞の性質である 1種類の抗体のみを産生するという性質を合わせもつ細胞が出てくる。この中で希望する抗体を作る細胞 を殖やし、培養液を集めるとその中にモノクローナル抗体が入っている(図1)。 図1 融合細胞がモノクローナル抗体を培養液中に放出する。

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実際の融合細胞の写真を図2に示す。1個の細胞から約 100 個の細胞に増殖したところ。1個の細胞の 大きさは直径が約 0.02 mm である。融合細胞はよく増殖して、抗体を多量に、安定に産生するものが良い 細胞である。この細胞は約 16 時間に 1 回の細胞分裂をする。 図2 融合細胞 我々のからだの中にウイルスなどの異物が進入してくると、その異物に特異的に結合する蛋白質を作 りだす。この蛋白質が抗体である。抗体を作り出す細胞はリンパ球である。からだの中には百万種類を超 える抗体を作り出すリンパ球がそろっている。異物が進入してくると、リンパ球は急速に増えるが、異物に 結合する抗体を作り出す細胞だけが増える。 モノクローナル抗体を作るには細胞融合という方法を用いる(図3-1)。動物に異物を注射すると、から だの中に抗体を産生するリンパ球が増える。この動物のリンパ節、脾臓などから 1 億個程度のリンパ球を 取り出し、これらを 2000 万個のがん細胞と融合する。そうすると数千個程度の融合細胞ができて来る。こ の中には目的の抗体を作っているものが数十種類程度入っている。これらを 1 個の細胞にしてから再び 殖やすと、1 種類の抗体のみを作る細胞集団が得られる(図3-2)。この細胞集団が作り出す抗体がモノ クローナル抗体である。 一度モノクローナル抗体を産生する細胞が確立されるとその後永続的にモノクローナル抗体を得ること ができる(図3-3)。モノクローナル抗体をさらに有効に利用するには高濃度培養を行うのが良い。

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図3-1 がん細胞とリンパ球を融合させると融合細胞ができる。目的の抗体を産生する細胞は黄色に着 色している。細胞融合の 10 日前後、目的の抗体を産生している培養小室(ウエル)を探し出すのがモノク ローナル抗体作製の第一歩である。 細胞融合にはPEG(ポリエチレングリコール)法が一般に用いられ てきたが、最近は電気融合法が用いられることが多くなった。電気的に細胞を互いに接近、吸着させ、そ れにパルス電流を流し細胞膜を融合させる方法である。この電気融合法の方が、PEG を用いる方法に比 べて効率が3~6倍程度良い。

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図3-2 目的の抗体を産生する細胞(黄色)を不用な融合細胞(白色)から分離する方法を示している。こ こでは、約 30 個の細胞を96の培養小室(ウエル)にまくと 1 個の細胞から増殖して、しかも、目的の抗体 を産生する細胞集団を得ることができることを示している。この方法は限界希釈法(げんかいきしゃくほう) と呼ばれる方法である。この細胞集団から得られる抗体は、1 個の細胞から増殖した細胞集団(クローン) から得られる抗体なのでモノクローナル抗体と呼ばれる。この細胞ならびに培養液は凍結して保存するこ とができる。

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図3-3 モノクローナル抗体を産生する融合細胞が 1 本あればその中の細胞を培養して殖やし、その細 胞を集めて凍結し、液体窒素容器内で保存すると細胞は長期に安定に保存できる。マイナス 80 度の冷凍 庫でも数年は安全に保存できる。細胞培養液の中にはモノクローナル抗体があり普通に使用できる。抗 体に蛍光色素、酵素などを標識する場合は高濃度の抗体液が必要である。以前は融合細胞をマウスの 腹腔内で殖やして、腹水として高濃度の抗体を得ることを行っていたが、現在は回転培養を行うことによっ て簡単に、培養上清の約 50 倍程度濃い抗体液を得ることができる。高濃度抗体は MEP アフィニティゲル カラムで容易に精製でき、蛍光色素、酵素などを標識できる。また、精製抗体をゲルに結合し、アフィニテ ィカラムとして抗原の精製に使用することができる。

モノクローナル抗体の利用

モノクローナル抗体は特定の構造とだけ結合する。この特異性を利用して生体の成分(蛋白

質)を探すのに使用される。モノクローナル抗体の使用目的は研究用が圧倒的に多い。また、病

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気の診断にも用いられる。薬としての使用もある。

生命研究ではからだを構成している蛋白質を研究する。哺乳類では遺伝子が約 22,000 個あり、その遺 伝子から作られる蛋白質も同程度あることになる。この蛋白質を研究するにはこの蛋白質を探しだし、ど こに、どのくらいの量があるかを調べる必要がある。このとき、目的の蛋白質を探し出す一番簡単な方法 がモノクローナル抗体を用いることである。抗体のもつ特定の構造(蛋白質)とのみ結合する性質が役立 つのである(図4)。医学、薬学の研究に限らず、動物学、植物学、農学の研究でも、細菌・ウイルス学の 研究でも抗体はなくてはならない試薬である。 図4 モノクローナル抗体を用いたヒト腎臓の基底膜染色。2 種類の抗体を用いた染色。 目的の 2 種類の蛋白質が染め分けられている。 多くのモノクローナル抗体が研究用試薬として売られている。カタログの厚さは 3cm を超えるものが数 社ある。インターネットでも多くのモノクローナル抗体を探すことができる。しかし、研究者からみると欲しい 抗体が無い状態である。研究者が扱う蛋白質は未知の蛋白質であることが多いため当然であるが(図 5)。 図5 研究者が欲しい抗体は売られていない 研究以外では病気の診断に使用されている。からだの中の特定の蛋白質が欠損している病気の診断、 感染症の診断などである。そして少ないが病気の治療にも抗体が使用されている。

モノクローナル抗体の作製動物と抗原エマルジョンの投与方法

モノクローナル抗体はマウス、ラット、ウサギ、スンクス、ヒトのものが作製されている。抗体の

産生に用いるリンパ球は動物に抗原(蛋白質)を注射して、リンパ球を殖やし、その動物の脾臓

やリンパ節の中にあるリンパ球をがん細胞と融合させる。

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モノクローナル抗体の作製はマウスが中心であるが、ラットが使われることも多くなった。ウサギの使用 は、同種融合パートナー細胞を使用できるのはライセンスを受けた抗体産生受託会社に限定されている。 2017 年にはスンクス(ジャコウネズミ)でもモノクローナル抗体が作製できるようになった。ヒトの抗体は抗 体医薬と関係しており、抗体を薬として使用する目的のことが多い。 モノクローナル抗体の作製にはリンパ球(B 細胞)が必要である。抗原(抗体産生を促す物質、通常は 蛋白質のことが多い)を動物に注射して強制的にリンパ球を殖やす。リンパ球が増えるとそれらが作り出 す抗体も増える。リンパ球、抗体を多く作らせるために免疫賦活剤(アジュバント)と抗原をよく混ぜ合わせ て、抗原エマルジョンという形で、動物に免疫注射する。注射する部位によってリンパ球と抗体のできる量 が異なる。 マウスでの従来方法では腹腔に抗原エマルジョンを注射し、脾臓内にリンパ球を増やして、そのリンパ 球を使用していた。しかし、2006 年に重井医学研究所から、抗原エマルジョンをマウスの尾根部筋肉内に 注射して、腫大した腸骨リンパを使用する方法が報告された。この方法は従来の脾臓リンパ球を用いる方 法の約 10 倍の効率をもつ。(日本国内では特許になっている。) ラットでは後ろ足の裏に抗原エマルジョンを注射する方法が使用されている。この方法では後腹膜の裏 にある腸骨リンパ節が腫大する。このリンパ節細胞を使用する方法は重井医学研究所で開発された技術 である。大変に抗体作製の効率が良いのが特徴である。しかし、動物愛護の観点から足の裏への注射に 換わる方法が望まれていた。2006 年に、マウスで抗原エマルジョンを尾根部に注射する方法が開発され、 その方法はラットにも使用できることが明らかになっている。 ヒトの場合は病気になったヒトのリンパ節細胞を用いて抗体を作製する。患者のリンパ節には病気に関 係した病原菌に対する抗体、がん細胞に対する抗体を産生するリンパ球が存在しているからである。抗体 の中には病原菌を中和するもの、がん細胞を攻撃するものが得られることがある。これらの抗体は薬とし て使用できることがある。

モノクローナル抗体作製の苦労

モノクローナル抗体の作製は簡単ではないと考えられてきた。抗体の作製は研究室で作る場

合と専門に作製する会社に依頼する場合がある。会社に依頼すると 100 万円程度が必要であ

る。

モノクローナル抗体を作製した研究者はよくわかるが、モノクローナル抗体の作製は苦労の多いことで ある。抗原の準備、動物の免疫注射、細胞の準備、抗体を産生する融合細胞の選択など一つひとつのス テップを丁寧に行う必要がある。どこかのステップに弱いところがあると抗体は取れてこない。 抗体作製を受託サービスとして行っている会社が日本に約 40 社ある。抗体作製が経験を必要とする技 術であるため、個々の研究室でその専門家を育てるのが大変だからである。1 種類の抗体作製の費用は 約 100 万円である。費用の分配はおよそ動物への免疫注射が 25 万円度、細胞融合が 50 万円、目的の 細胞を選び出すことに 25 万円である。

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モノクローナル抗体の作製の新しい戦略

これからはリンパ節細胞を用いてモノクローナル抗体が作製されるようになる。時間、材料、

試薬、労力の節約になり、成功率も格段に高まる。必要経費は脾臓細胞を用いる半分程度に下

がる。

モノクローナル抗体の作製には 100 万円程度が必要であると書いたが、これはマウスの脾臓をリンパ 球の材料とした場合である。最近重井医学研究所ではマウスのリンパ節を用いて作製すると、いままでと は比べものにならないくらい早く、しかも、効率良くできることを見つけた。マウスの腸骨リンパ節を使用す る方法なのでマウス腸骨リンパ節法と名づけた。簡単にはマウスリンパ節法と呼んでいる。この方法はラ ットリンパ節法と同様に、動物の免疫注射は 1 回でよく、リンパ節は注射後 2 週間で使用でき、抗体の作製 効率もよい。(図6) 図6 小さくても大丈夫。マウスでもリンパ節法が使用できるようになった この方法では抗原の注射が 1 回でよいことから、抗原量の節約になる。注射する手間が省けることから、 労力の節約になる。リンパ節の使用は注射後 2 週間であることから、時間の節約にもなり、抗体ができる かどうかは約 1 ヶ月で明らかになる。さらに、目的の抗体が得られる可能性が格段に高まる。抗体の作製 効率は従来の方法の約 10 倍である。抗体作製の費用は抗体作製までの時間が節約されることから全工 程で従来の半額程度まで下げられると思う(図7)。 図7 リンパ節法の効果は抜群。 研究室で抗体を作製する場合も成功率の上昇から、投資に見合った効果が得られると思う。抗体作製

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は大学生、大学院修士課程の学生でも問題なくできると思う。抗体を作製する時間の節約にもなるので、 抗体ができてからの研究本来の部分に力を入れることができるようになる。自分たちの研究に必要な抗 体を自分たちで選び出すことができるのも、研究室で抗体を作る利点になる。

目的に応じたモノクローナル抗体の作製

モノクローナル抗体は立体構造を読み、結合する。モノクローナル抗体を作製するには目的に

適した免疫用抗原が必要である。切片染色が目的であれば生体の蛋白質と同じ立体構造を持

った免疫用抗原を用いるのが良い。ウエスタンブロットであれば変性した抗原が良い。

モノクローナル抗体は特定の構造とのみ結合することから、立体構造を読んでいると表現できる。抗体 が読んでいる構造物の大きさはペプチドに対する抗体ではおよそ 3 残基から 10 残基程度の大きさである。 普通の蛋白質はアミノ酸残基で 200 から 1000 程度はあることから、抗体は蛋白質のごく一部だけを読ん でいることになる。この抗体が結合する部位を抗原決定基と呼ぶ。抗原決定基はアミノ酸が連続配列的に 並んでいることもあれば、2本のアミノ酸配列にまたがっている立体構造的なこともある。 抗体が反応するためには、抗体と抗原決定基が出会う必要がある。蛋白質はアミノ酸が連なったもの が折りたたまれてできている。このため表面に出ている抗原決定基と、隠れる抗原決定基ができる。表面 に出ている抗原決定基はそのままで抗体が結合できるので切片染色に適している。このような抗原決定 基は立体構造的なことが多く、合成ペプチドや組み換え蛋白質、変性した抗原ではその構造が失われて いることが多い(図8)。 図8 抗体は部分的にしか見ていない ウエスタンブロットと呼ばれる技術は、SDS の存在下で電気泳動した蛋白質を紙のような膜(メンブレン) に移して染色する方法である。この場合は、メンブレン表面の抗原は本来の立体構造を失っている変性し た状態である。この抗原を染色するには、アミノ酸が連続配列的に並んでいる抗原決定基と結合する抗 体が適している。

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切片染色用の抗体は本来の立体構造と結合する抗体で、ウエスタンブロット用の抗体は変性した蛋白 質に結合する抗体である。これらは明らかに性格の異なる抗体である。同時に満たす抗体を作製しようと するのは大変に難しい。両方を満たす抗体ができる可能性はあるが、切片染色用、ウエスタンブロット用 の抗体をそれぞれ作製するほうが早い。 ウエスタンブロット用の抗体を作製するほうが簡単である。この場合は合成ペプチド、組み換え蛋白質 を用いることによって可能である。これに比べて、切片染色用の抗体は天然の立体構造をもっている必要 があるので抗原の用意が大変である。最近の研究では遺伝子が知られているが、天然の蛋白質がどこに あるのかわからないので、それを組織内、細胞内で探そうということが多い。この場合はしかたなく、天然 の立体構造をもっていない合成ペプチド、組み換え蛋白質を免疫用抗原として利用するしかない。このた め、抗体の作製は非常に難しくなる。将来、天然と同じ立体構造をもった組み換え蛋白質ができると染色 用の抗体の作製は極めて簡単になる。(図9) 図9 同じアミノ酸配列でも構造が異なる。天然の蛋白質は立体構造的である モノクローナル抗体の使用目的:薬としての働き 抗体は本来、からだの中で病原菌、ウイルスなどから身をまもるためのものである。ヒトのモノクローナ ル抗体で病原菌に結合するものがあれば、それを注射することによって、病気を防ぐことができる可能性 がある。このような抗体の持つ本来の生体に対する働きを生物活性と呼ぶ。生物活性としては、病原菌を 殺す、病気を惹き起こす蛋白毒素の無毒化、がん細胞を殺す、がん細胞の増殖を抑える、アレルギー反 応を抑える、などがある。これらの働きは抗体が薬として使用されることから抗体医薬と呼ばれる分野で ある。2016 年現在約 50 種類の抗体がアメリカでは承認されている。これからもますます増えると考えられ る。

モノクローナル抗体の科学における役割

モノクローナル抗体なしに蛋白質の研究は進まない。モノクローナル抗体はこれからも生命研

究のキーになる物質である。これからも新しい抗体が作り出される。

遺伝子の研究より、蛋白質の研究の方がかなり複雑である。これは遺伝子が 4 種類の塩基によってで きているが、蛋白質は 20 種類のアミノ酸残基によってできていることによる。構成要素が多い分だけ複雑

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になる。蛋白質と蛋白質の相互作用の解析は今のところ、モノクローナル抗体による分析、定量と蛋白質 に蛍光を放つマーカーを入れるなどの方法しかない。遺伝子の研究が制限酵素の使用で発展してきたよ うに、蛋白質の研究はモノクローナル抗体の使用によって発展する。モノクローナル抗体はこれからもキ ーになる物質である。研究に合わせた多くのモノクローナル抗体がこれからも必要である。

これからのモノクローナル抗体の作製と将来

リンパ節法が世界の標準になると思われる。リンパ節法によって多くのげっ歯類抗体が期待

できる。

重井医学研究所が開発したリンパ節細胞を用いる技術(リンパ節法)は、ラットについては 1995 年に、 マウスについては 2006 年に開発された。これらの方法が持つ簡便性、効率、経済性などからこれからの モノクローナル抗体作製の世界の標準になると思われる(図10)。ラットリンパ節を用いる方法はすでに 日本では標準になっている。マウスリンパ節法は日本国特許であるため、研究室で自由に使用はできな いが、アカデミックの研究者のために便宜を図っている。重井医学研究所に相談してみるとよい。 図10 2006 年からの抗体作製はリンパ節法の時代 マウスとラット以外の動物でのモノクローナル抗体の作製方法の開発も必要である。実験にはマウス、 ラットなどのげっ歯類が使用されることが多く、これらの動物の蛋白質に対してはマウス、ラットでは良い 抗体ができないことも多い。マウス・ラットのタンパク質の免疫原性(異物として認識されないこと)が低い ためマウス・ラットでは抗体産生が起きない、または、抗体産生が低いからである。マウス・ラットから遺伝 的に遠い動物であるウサギを用いて、マウス・ラット抗原に対するモノクローナル抗体を作製することはで きる。しかし、ウサギでのモノクローナル抗体の作製は、日本国特許の関係で特定の抗体作製受託会社 に依頼するしかない。 スンクス(ジャコウネズミ)でモノクローナル抗体ができるようになった。 この点を解決するために、重井医学研究所ではスンクス(和名ジャコウネズミ:食虫目の哺乳類、図11) のパートナー細胞の作製することを研究してきた。2008 年から研究を開始して、不死化した B リンパ球系 がん細胞を得たのは 2009 年、その細胞をパートナー細胞にして、特異性不明の抗体産生する細胞を作 製したのが 2010 年であった。さらにこの細胞を新たなパートナー細胞として特異性の明らかな抗体産生 細胞を作製したのは 2011 年であった。その後、抗体産生の効率化、安定化を行ってきた。2015 年、2016

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年になって、パートナー細胞としては十分に満足できるものではないが、スンクスモノクローナル抗体を作 ることはできるようになった。一度確立された抗体は永続性があり、マウス・ラットのタンパク質の研究には 大変便利な研究ツールである。スンクスモノクローナル抗体の作製の論文は 2017 年に発表された。 図11 飼育ケージの中のスンクス (写真) モルモットを用いた抗体作製があると大変に役立つ。 モルモットでは抗体産生に用いる同種パートナー細胞が未だ作られていない。細胞融合にふさわしいリ ンパ節は簡単に得られる。あとは細胞融合に必要な“融合パートナー細胞”である。B リンパ球のがん細 胞を作製できる研究者にモルモットの B 細胞のがんを作製することを行って欲しい。培養系で増殖する細 胞(不死化細胞)があればモルモットパートナー細胞にすることができると考えている。モルモットでモノク ローナル抗体ができると蛋白質研究の自由度が格段に高まると思っている。

モノクローナル抗体は簡単にできるという理解が必要

モノクローナル抗体の作製はマウスリンパ節法とラットリンパ節法の開発により、培養設備のある研究 室であるならば簡単に作製できるようになった。特別の研究室から普通の研究室でもできるようになるの に 30 年を必要としたことになる。これからは、モノクローナル抗体の作製の方がポリクローナル抗体の作 製より簡単であると言える。ポリクローナル抗体の作製は動物に抗原エマルジョンを投与するだけと考え がちであるが、得られた抗血清が目的の抗原にのみ特異性があるのかどうかを証明するのが非常に難し い。これに対してモノクローナル抗体の作製では、クローンを選択作製する過程で抗体の性質を調査して いるため、クローンが得られたときは抗体の性質がほぼ明らかになっている。モノクローナル抗体は永続 性があるため、長期にわたる実験が可能、他の研究室への分与など、研究の信頼性を高めるのにも役立 つ。

モノクローナル抗体の新時代

ヒト全ゲノムの解読に続き、マウス、ラットなどの全ゲノムの解析が終了している。哺乳類に限らず、鳥類、 無脊椎動物、植物、細菌、ウイルスの全ゲノムがこれからどしどし明らかになってくる。このような中で、 個々の遺伝子の働きを調べることが研究の中心になってくる。遺伝子から翻訳された蛋白質の働きは実 際の蛋白質を調べてみるまで、理解できない。特に、蛋白質と蛋白質の相互作用を解析するにはモノクロ ーナル抗体の助けなしには考えられない。生命科学においてモノクローナル抗体が簡単に使用できること が研究の量と質の向上に必要なことは言うまでもない。マウスリンパ節法が開発された 2006 年がモノクロ ーナル抗体の新時代の始まりである。現在すでに“モノクローナル抗体の新時代”に入っている。モノクロ ーナル抗体が果たす役割はこれからますます大きくなる。

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2017 年 5 月改訂

(リンパ節法によるモノクローナル抗体の作製の最初の論文)

ラットリンパ節法は Kishiro et al. Cell Structure and Function 20:151-156、1995 マウスリンパ節法は Sado et al. Acta Histochemica et Cytochemica 39:89-94、2006 スンクスリンパ節法は Sado et al. Acta Histochemica et Cytochemica 50:71-84、2017 (以上)

参照

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