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マテリアルライフ学会誌 (Materiaru Raifu Gakkaishi), [1]21~32(Feb. 2011) 石田恒雄 * ( 受付 2010 年 2 月 24 日審査終了 2010 年 5 月 11 日 ) 抗菌剤の性質と抗菌メカニズムが, 抗菌剤の種類とその特性, 金属イオンと生体細

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(1)

*ヤマザキ学園大学 動物看護学部(連絡先)

192︲0364 東京都八王子市南大沢4︲7︲2)

抗菌剤の特性と抗菌メカニズム

石田 恒雄

*

(受付2010 年 2 月 24 日 審査終了 2010 年 5 月 11 日)

要 旨

 抗菌剤の性質と抗菌メカニズムが,抗菌剤の種類とその特性,金属イオンと生体細胞の相互作用,光触媒による抗菌・

防黴作用,そして微生物における抗菌薬と細菌との生体内反応から議論された.それらの結果は,最初に,抗菌剤の金属 イオンや有機アミノ基などの攻撃活性種が,細胞壁・細胞質膜・外膜を損傷・破壊し,次いで,細胞内部に侵入し,細胞 内物質の溶出が起こり,そして,細菌細胞の死に至らしめる.その際に,反応性の高いフリーラジカルの生成,非ラジカ ルとして過酸化水素などの生成が生体内に起こり,それらの生成した活性酸素種が微生物細胞の細胞質膜を阻害し,強力 な酸化殺菌効果が得られる.抗微生物作用の一次作用点が抗菌薬と微生物細胞との反応によって生じる.

キーワード : 抗菌,静菌,金属イオン,微生物細菌,細胞壁,細胞膜,活性酸素種,光触媒,酸化殺菌,一次作用点,最 小発育阻止濃度,最小殺菌濃度,抗菌スペクトル

総   

1.  はじめに

 近年,生活水準の向上に伴う快適志向,衛生観念の高ま りを背景とする一方,医療や工業分野において微生物細菌 が関与する問題が起こり,材料の抗菌化への関心が高く なってきている.また,医療分野においては,MRSAに よる院内感染,病原性大腸菌O-157による集団食中毒事 故などに対して社会不安の解消の問題に,抗菌剤の抗菌性 への高度の要求が強くなっている.各々の分野における抗 菌に対する深い理解と抗菌剤の適切な対応が益々重要にな ると思われる.抗菌剤には有機系抗菌剤と無機系抗菌剤と があるが,今日の抗菌剤の拡大は無機系抗菌剤の進展によ るところが大きい.無機系抗菌剤の代表である銀などの金 属イオンの高抗菌性は古くから知られているが,その抗菌 メカニズムは,有力な説があるが,現在でも完全に解明さ れていないのが現状である.

 本論文においては,各種抗菌剤の特性を述べ,その抗菌 作用メカニズムを検討し,抗菌剤による抗菌特性,光触媒 による抗菌性,そして,微生物と抗菌薬との抗菌作用を明

らかにする.

 最初に,抗菌とは何か,抗菌剤の種類とその特徴を述べ る.次いで,抗菌作用機構を金属イオンと生体との相互作 用,フリーラジカル反応機構,酸素活性種から考察する.

また,酸化チタン光触媒の抗菌性特性を速度論的に考察 し,さらに,その抗菌剤の製造法の一部を紹介する.最後 に,微生物細胞と抗菌薬との生体的反応を 最小発育阻止 濃度,最小殺菌濃度,静菌的作用,抗菌スペクトルから考 察する.

2.  抗菌材料とその特性

2. 1 抗菌とは何か,その概念

 最近の抗菌剤については,生命体にとって有害な細菌の 除去および死滅させ得る抗菌剤の研究開発が精力的に行わ れている.微生物の持つ細菌の増殖を抑制したり,撲滅し たりすることを抗菌といい,その抗菌性の秀でた物質を抗 菌剤として使う.微生物には有益なものも多々あるが,こ こでは有害な微生物の細菌についての防除も述べる.

 殺菌,滅菌,除菌など,抗菌作用による抗菌用語は, 1のように定義されている1.広く微生物を殺滅すること を殺菌といい,その中でも全ての微生物を完全に殺滅する

(2)

ことを特に滅菌という.また,殺滅には至らないまでも微 生物の活動を停止または低下させ,増殖を抑制することを 制菌もしくは静菌という.また,消毒とは,特に医療関係 で用いられる言葉で,病原菌を死滅させるなり感染能力を なくす方法で,無害にすることをいう.それらの方法には,

物理的,生物的,化学的殺菌方法がある.そのうち,化学 的防除法を中心として,静菌作用のある薬剤を含めて,殺 菌剤という呼び方がある2.殺菌剤による殺菌とは,菌体 内の種々の物質,たんぱく質,脂質,核酸などを変性させ たり,あるいはこれらと結合させたりして,正常な機能が 働かなくなるものである.一方,抗菌という言葉は,最近 の快適志向,清潔志向の高まりから生まれた言葉で,学術 的に定義された言葉ではない.抗菌とは,「公衆衛生的観 点から行われる弱レベル長時間の殺菌」と定義つける3. 金属イオン,特にAg, Zn2, Cu2が微量で殺菌性,抗菌 性が強いことは古くから知られている.このことは,陽イ オンの抗菌性物質が陰電荷を帯びている細菌に吸着し,細 菌たんぱく質を溶解・変性させて,細菌の破壊・損傷作用 によって殺菌するということに起因する.

2. 2 無機系抗菌剤

 抗菌剤の主流は,成分が銀,銅,亜鉛などの金属イオン

を利用した無機系抗菌剤,天然抽出系抗菌剤,有機系・脂 肪族・芳香族化合物抗菌剤などである.

 代表的な無機系抗菌剤の種類と名称を表2に示す4.無 機系抗菌剤は,抗菌有効成分とそれを担持させている担体 から成り,金属,セラミックス,岩石成分,鉱石成分など の無機物質で構成されている.無機系抗菌剤は,抗菌力の 強い金属元素などを無機質系の担体(ゼオライト,多孔質 セラミックス,モンモリロナイト,低分子ガラス,炭素繊 維など)に担持させて,それらの殺菌力を利用するもので ある.

 ①抗菌成分

 銀系抗菌剤の抗菌成分としては,銀,銅,亜鉛が用いら れる.金属系抗菌剤は,これらの金属をイオン化させた状 態で担体にイオン交換あるいは担持させた製剤形態を持つ ものである.銀の抗菌性は良く知られているが,中でも硝 酸銀は強い抗菌性があり,細菌性疾患の治療薬,助産婦用 や軍事用の殺菌剤に用いられる.また,銀は陽イオンであ るため,陰イオンに改良した銀錯体系抗菌剤も開発されて いる.

 ②担体

 銀系抗菌剤のほとんどの担体は無機質多孔体が用いられ る.いずれも,食品添加物などの基準に適合した安全性の 表 1 抗菌作用による抗菌用語 1

(3)

高いものが用いられている.

(a)銀ゼオライト系抗菌剤

 ゼオライト(沸石)には,主に4つの機能,すなわち,

吸着機能,イオン交換機能,分子ふるい機能,触媒機能が あり,それらゼオライトの機能を利用して工業的に多方面 で使用されている.このゼオライトのイオン交換機能を利 用して銀をゼオライトにイオン結合させると,銀イオンが ゼオライトの骨格構造内で安定し,その抗菌力を飛躍的に 発現することが分かった5.一般細菌,酵母,カビ類に対 して銀・亜鉛・銅ゼオライトの最小発育阻止濃度(MIC) を測定した結果を表3に示した5.MIC(Minimum Inhi- bitory Concentration)は,後述するが,抗菌作用を有す る物質の評価に用いられる.MIC値の小さいほど,抗菌 剤に対する感受性が強いことを示し,逆にその数値が大き

ければ,その菌の耐性は強いことを示す.

(b)抗菌ガラス

 化学的耐久性の弱いガラス組成とイオン化した金属,そ の中でも抗菌・抗カビ性能を持つ銀,銅,亜鉛を組み合わ せたガラスが抗菌ガラスである.抗菌ガラスは幅広い抗菌 スペクトルを持っている5

(c)銀錯体系抗菌剤

 銀錯体系抗菌剤は,陽イオンの銀を原料とし,陰イオン の銀錯体を形成させ,固体状態でも液体中でも安定したイ オン状態の集合体を持つものである.銀錯体系抗菌剤の構 造模式図を図1に示す6.一般的に金属錯体は分子の中心 に金属イオンが存在し,それを取り囲むように非共有電子 対を持つ配位子が結合していて,銀錯体の構造は2配位直 線型であると考えられる.銀錯体系抗菌剤は,細菌に対し 表 2 代表的な無機系抗菌剤の種類と名称 4

 3 銀・亜鉛・銅ゼオライトの抗菌性(MIC : ppm5

(4)

ては抗菌力が高く,多細胞の高等生物に対しては効力の低 下がある.

2. 3 抗菌性金属材料

 前述のように,金属イオンは微量で殺菌性,抗菌性が強 いことは,各元素の大腸菌に対する抗菌性試験結果( 47から明らかである.表5に銅添加型抗菌ステンレス鋼 の抗菌性試験結果を示す7.その中で,特に広い分野で活 用されている銀・銅系抗菌ステンレス鋼の開発が多く行わ れ,高い抗菌効果を得ている.抗菌ステンレスは銅が微細 な粒子(ε-Cu相)として析出させると,優れた抗菌性能 を発揮する.つまり,ε-Cu相から溶出したCuイオンが 菌の酵素と反応して呼吸を停止させる.ε-Cu相が析出し ていない従来のCu添加ステンレス鋼では,表面の不働態 皮膜がCuの溶出を抑制してしまうため,溶出するCuイ オン量が極端に少なく抗菌効果が十分得られない.

 一方,銅および銅合金の抗菌性については,銅の抗菌性 の原因が,表面から溶出する銅イオンによるのか,銅表面 と接触することによるのか,詳細な実験で実証された8. その結果は,銅の抗菌性は比較的弱く,その発現には多量 の銅イオンが必要である.その抗菌性は銅表面と菌体との 直接接触によって発現するという結論を得ていて,銅︲菌 体の直接接触により・OHラジカル,H2O2,活性酸素を生 成して殺菌するという機構を提唱している8.さらに,こ のような銅および銅合金の抗菌性特徴は,洋白,白銅,黄 銅,銅合金板においても認められ,それらの合金は院内感 染原因菌の環境汚染対策などに活用されている9

2. 4 有機系抗菌剤

 有機系抗菌剤のオリジナルは医薬品にある.現在使用さ れている有機系抗菌剤の代表的なものは,ヨウ素,次亜塩 素酸ナトリウム,ホウ酸,塩化ベンザルコニウムなど,外 皮用殺菌消毒剤としての医薬品である.他方,日用雑貨や 工業用,特にプラスチックに用いられている有機系抗菌剤 の代表的なものは,トリクロサン,クロルヘキシジン,ス ルファジアジン,ジンクピリチオンなどがある.天然の抗 菌抽出物としては,キトサン,カテキン,ヒノキチオール などがあり,特に,キトサンの抗菌性は高い10

 有機系抗菌のメカニズムは,例えば,キトサンのアミノ 基や四級化したキトサンのアミノ基が,細菌やカビの細胞 壁中の陰イオン性成分と結合し,細胞壁の生合成を阻害し たり,細胞壁内外の物質輸送能力が阻止されるというもの である.

 なお,細菌の細胞骨格形成(細胞骨格タンパク質)を阻 害する抗菌剤の開発を行い,抗菌剤中のベンゼン環にハロ ゲン(F原子)基を置換した化合物を合成し,高い抗菌活 性を得ているとの報告がある11

図 1 銀錯体系抗菌剤の構造 6

表 4 大腸菌に対する各元素の抗菌性試験 7

 5 銅添加型抗菌ステンレス鋼の抗菌性試験 7

(5)

3.  抗菌メカニズム

3. 1 抗菌の考え方

 図2に微生物の増殖と増殖阻止の関係と抗菌の考え方 を示す.生育条件の整った場合は,菌数は時間と共に指数 関数的に増大する.一方,微生物の活動を制御して,菌数 を初期の状態のまま増加させないような処置をするのが,

抗菌(静菌)の考え方である.

 抗菌作用は,その有効成分が微生物に直接接触すること により生じる.特に,有機系薬剤は,揮発・溶出により即 効果を示し,菌類の細胞膜あるいはたんぱく質と反応し変 性させる2.金属イオンと微生物との直接接触により,微 生物の持つ酵素の活性基である-SH基のHと金属イオン が置換反応し,微生物の代謝反応阻害を起こし,死滅させ る.金属イオンの抗菌性の強さと金属イオンと-SH基と の反応性の強さはほぼ比例する.微生物の-SH基と反応 する金属は担体表面上に存在する金属と担体から溶出した 金属の2種が考えられる.金属イオンがたんぱく質と結合 しやすい性質を持っていることから,まず微生物自体の表 面に金属イオンが結合し,さらに個体内に取り込まれる.

菌体内には代謝に関わる種々の酵素が存在し,金属イオン がそのたんぱく質酵素と結合して生命活動の代謝機能を阻 害し,あるいは微生物の増殖を抑制するという抗菌効果を 持つ.

 一方,遊離した金属イオンおよび光触媒反応によって生 じた活性酸素,スーパーオキシドアニオンラジカルとヒド ロキシラジカルが微生物を酸化殺菌することによって抗菌 される.

 銀錯体系抗菌剤の抗菌作用は次のようである12.  ① 銀の触媒作用で空気中の酸素あるいは水中の溶存酸

素が活性酸素に変わり,菌体表面構造に損傷を与え

る(オリゴダイナミック・アクション).

 ② 微量の銀イオンが菌体内に取り込まれ酵素障害を起 こす.そこで活性酸素が抗菌作用を起こす.細胞内 殺菌は,活性酸素によるDNAの損傷,蛋白の変成,

不飽和脂質の過酸化脂質への変化などによると考え られる.

 ③ 表面に吸着した酸素は励起電子(e)と反応し,

スーパーオキシドアニオン(O2)を生成する.こ の活性酸素(O2)は水素イオン(H)と反応して,

より活性なラジカル(HO2・)を形成したり,過酸 化水素(H2O2)を経て,酸化反応に関与する4. O2    e  O2

O2  H  HO2・  H2O2  O2

一方,正孔(h)は表面に存在する吸着水や表面基盤を 酸化して,酸化力の高いヒドロキシラジカルを生成する.

3. 2 金属イオンと生体との相互作用による殺菌作用

 従来,銀イオンによる菌の不活性メカニズムとして,細 菌表面の細胞膜と細胞壁の間のペリプラズム空間に存在す る呼吸鎖酵素のうち,チオール基(SH基)が銀イオンと 反応し,その結果として,酵素活性が失われ,細菌が不活 化すると言われていた.しかし、 大腸菌を生体モデルとし た銀イオンの抗菌作用について,細胞膜,細胞質をEF- TEMの電顕を用いてタンパク質レベルで観察・解析し,

次のような抗菌作用が明らかにされた13, 14

 大腸菌は,薄いペプチドグリカン層を持つグラム陰性菌 である.銀イオン水と反応させた菌体は形態異常が見ら れ,菌体の細胞質周辺の観察で,外膜は残っているが,細 胞質膜が一部消失している.細胞質膜が消失する傾向は,

特に,銀イオン水を24時間反応させたもので観察され,

銀イオンの作用により細胞質膜の消失が増え,最終的には 外膜も消失して,細胞質が菌体外に溶出される.一方,銀 の元素分析から,菌体の周辺よりも中央付近から銀の検出 が顕著であることが分かった.つまり,銀は細胞膜周辺に 存在する呼吸鎖酵素だけに捕集されるのではなく,菌体中 央部付近まで侵入して,銀イオンが細胞質を攻撃している と考えられる.細胞質には多量のリボソームが存在してお り,銀と相互作用することで,この細胞質にあるリボソー ムのタンパク質合成機能が不全となることも予想される.

その結果,生体エネルギーであるアデノシン三燐酸 ;

(ATP)を合成するために必要なATP合成酵素の生産が 停止し,細胞膜のペリプラズム空間で行われるATP合成 が阻害され,結果として細胞質膜,最終的には外膜までも  2 微生物の増殖曲線と増殖阻止曲線との関係

(6)

不活化し,細胞形態の維持が不可能となる.銀イオンは,

すばやく細菌の細胞質内部に浸透し,リボソームサブユ ニットタンパク質並びにいくつかの酵素およびタンパク質 が銀イオンにより影響を受けた.

 以上,銀イオンと生体との抗菌メカニズムは,銀イオン が外膜と細胞質膜(内膜)の間に約10 nm程度の厚さで 存在するペリプラズム空間すらも通り抜けて,細胞の比較 的中央付近まで達し,細胞質のリボソームとの相互作用 と,それに続くATP産生に必須の酵素およびタンパク質 の発現の阻害とにより引き起こされることを示す.

 銀ゼオライトの殺菌作用においては,上記以外に,2つ の連続するプロセスが関与することも考えられている.最 初は,銀ゼオライトと接触した細菌が銀イオンを取り込 み,これが細胞内のいくつかの機能を阻害して,損傷を与 える.次は,呼吸鎖が位置する細胞膜領域において,呼吸 鎖酵素の阻害を介して反応性酸素種が発生し,細胞を攻撃 するというものである12.その活性酸素種は,反応性の高 いフリーラジカルとして,ヒドロキシラジカル(・OH),

スーパーオキシドアニオンラジカル(O2・),非ラジカル として,過酸化水素(H2O2),一重項酸素(1O2)で,細 胞組織レベルで生成すると予想される.微生物に対する銀 イオンの殺菌作用における活性酸素種の関与の解明はさら なる研究が必要である.

 細菌は自己のDNAの二重鎖を分離することで細胞分裂 の増殖が起きる.その細胞分裂を停止させることで増殖を 抑えることができる.銀イオンが細菌内に侵入すると,下 図に示すように,銀イオンは水素の代わりにDNAの二重 鎖塩基間の橋渡しを形成する15

アデニン(A) NHAgO チミン(T)        NAgN

       OAgNH

グアニン(G) NAgN  シトシン(C)        NAgO

従って,銀イオンによって架橋された塩基間は分離できな くなり,細菌分裂(増殖)の機能が停止し,細菌の死に至 らしめることになる.

3. 3 フリーラジカル反応機構による殺菌作用 ; 反応性酸素

種による界面反応

 2価鉄の殺菌作用機構は次のようである16

 まず,反応初期には,2価鉄によって菌細胞表層のファー ジレセプターが損傷を受け,一次作用点として菌細胞表層

ないし細胞外膜にあるとしている.反応が進行すると,菌 細胞膜を透過した酸素分子と2価鉄によって,細胞内で活 性酸素が生成される.この活性酸素種は,菌細胞内膜に結 合するクロモソームDNAないし膜近くに局在するクロモ ソームDNAに作用して損傷を与える.2価鉄の一次作用 点は菌細胞表層ないし細胞外膜にあり,タンパク質とは作 用せず,時間的なずれのある細胞内のクロモソームDNA が二次的な作用点であると考えられる.このように,2価 鉄の殺菌作用は,菌細胞表層の損傷と細胞内の酸素活性種 が関与するフリーラジカル反応機構によるとしているが,

その活性酸素の細胞内の発生機構と活性酸素種についての 詳細はない.

3. 4 活性酸素種について

  活 性 酸 素, 正 確 に は 活 性 酸 素 種(Reactive oxygen species, ROS)は,空気中の酸素分子よりも反応性の高い 酸素を含んだ分子の総称である.活性酸素は,酸素分子を 順次一電子ずつ還元することからスーパーオキシドアニオ ンラジカル(O2・),過酸化水素(H2O2),ヒドロキシラ ジカル(OH・)が形成され,また,電子数は酸素分子と 同じ一重項酸素(1O2)との4種類が一般的に存在してい る17

・スーパーオキシドアニオンラジカル(O2・) ; 分子状酸 素の1電子還元体であり,水溶液中では直ちに不均化反応 により過酸化水素と酸素に変換される.O2・は非水溶媒 中では比較的安定であるが,活性,反応性はそれほど高く ない.O2・は殺菌作用が大きいが,逆に多量の生成は炎 症を起こす17

・過酸化水素(H2O2) ; O2・の還元あるいはO2・の不均 化反応で生成する.過酸化水素は不対電子を持たないため フリーラジカルではなく,比較的安定な活性酸素である.

生成したH2O2はさらに還元されると・OHラジカルが生 成する.

H2O2  e  ・OH  OH

・ヒドロキシラジカル(・OH) ; 金属イオンによる活性酸 素の生成による,微生物の酵素の破壊とヒドロキシラジカ ル(・OH)の連続発生がある.ヒドロキシラジカルは 反 応性は高く,さまざまな物質から容易に電子を奪い相手を 酸化させる.ヒドロキシラジカルは,菌の内部まで次々に 電子を奪いながら連鎖移動を起こし,その酸化反応で,菌 の内部までヒドロキシラジカルが侵入し,内部に傷害を与 える.

・一重項酸素(1O2) ; これは活性酸素の一種とされている

(7)

が,軌道上の単独の不対電子を持たず,フリーラジカルで はない.空になった電子軌道が電子を求めることにより強 い酸化力を持つ.生体内において紫外線を浴びると,一重 項酸素が発生し,生体分子を破壊するので,これを除去す る必要がある.

4.  酸化チタン光触媒による抗菌性

4. 1 光触媒とは 18, 19

 光照射下で触媒として機能するのが光触媒である.光触 媒反応は,光化学反応と触媒反応との関連で働く.光触媒 作用を示す物質には,半導体,錯体,色素がある.良く利 用される酸化チタン光触媒は半導体である.光触媒反応で は,光触媒が光を吸収して活性化され励起状態となり,こ の励起状態の光触媒上で化学反応が起こる.

 代表的な光触媒は酸化チタンであり,酸化チタンは,高 い光触媒活性,安定性,無害性,粉体は白色で薄膜は無色 透明であるなどの利点から,最も利用されている光触媒で ある.酸化チタン光触媒の応用分野は,環境浄化分野など で広がりを見せている.

4. 2 酸化チタン光触媒反応の機構 18

 酸化チタンをバンドギャップよりも大きなエネルギーを 持つ光(アナターゼ型で388 nm, 3.2 eV,ルチル型で413 nm, 3.0 eV, バンドギャップ(eV)1240/波長(nm)よ り 短波長の紫外光)で照射した場合,酸化チタンの伝導 帯に励起された電子(e),価電子帯に正孔(h)という 2つのキャリアが生成する.電子と正孔は,一般物質では すぐに再結合するが,酸化チタンの場合,しばらく生き残 る.キャリア同士の再結合の割合は,光触媒反応の効率に 大きな影響を与える.この励起電子と正孔は,それぞれ 別々に拡散する(電荷分離).しかし,酸化チタンに格子 欠陥などがあると,励起電子と正孔が捕捉され,再結合し,

熱となって消滅する.一方,酸化チタン表面に拡散した伝 導帯に励起された電子は酸化反応,正孔は還元反応をそれ ぞれ起こす.

 励起電子は表面に吸着した酸素と反応し,スーパーオキ シドアニオンラジカル(O2・)を生成する.この活性酸 素(O2・)は水素イオン(H)と反応して,より活性な ラジカル(HO2・)を形成したり,過酸化水素(H2O2)を 生成して,一連の酸化反応に関与する.

 一方,正孔(h)は表面に存在する吸着水や表面水酸 基(-OH)を酸化して,酸化力の高いヒドロキシラジカル

(・OH)を生成する.あるいは,O2と反応して原子状酸

素ラジカル(・O)を生成する.・OHラジカルや原子状酸 素ラジカルは,有機物と反応して中間体有機ラジカル

(・R)を生成する.または,正孔が吸着している有機物

(RH)を直接酸化し,有機ラジカル(・R)を生成する機 構も考えられている.これらの励起電子や正孔との反応で 生成するラジカルや活性酸素種は,非常に強力な酸化力を 持ち,大気中,水中,酸化チタン表面に付着した種々の有 機物を,最終的には二酸化炭素や水までに分解できること から,抗菌効果,防汚,防臭などの機能を発揮する.

4. 3 光触媒の反応速度と光強度 20

 光触媒作用は,図3に示すような以下に述べる過程を経 る20.図中で,AとDは,それぞれ還元および酸化され る分子を表わしている.

(a)光励起過程の酸化 ; 光の吸収速度と同じ

①酸化チタンに光が吸収されることによる伝導帯電子 および価電子帯正孔が生じる.

(b)還元過程 ; 吸着分子への電子の移動

②伝導帯電子が吸着分子を還元する.

③伝導帯電子が酸化チタン表面に捕捉され,捕捉電子 となる.

④捕捉電子が吸着分子を還元する.

(c)酸化過程 ; 吸着分子の酸化

⑤価電子帯正孔が吸着分子を酸化する.

⑥その正孔が酸化チタン表面に捕捉され捕捉正孔とな る.

⑦捕捉正孔が吸着分子を酸化する.

(d)再結合過程 ; 20 ns以内に起こる

⑧伝導帯電子が価電子帯正孔と再結合する.

 3 光触媒の光励起,還元,酸化,再結合の反応プロセス 20

(8)

⑨伝導帯電子が捕捉正孔と再結合する.

⑩捕捉電子が価電子と再結合する.

⑪捕捉電子が捕捉正孔と再結合する.

 4つの過程で,光励起過程は光の吸収速度と同じ,還元 過程は吸着分子との反応,酸化過程は吸着分子の酸化,お よび再結合過程は触媒の特性により支配される.このよう に,光触媒反応を吸着状態と仮定すると,次のLangmuir- Hinshelwood機構と呼ばれる式が導入される17

      1/RD1/kapp1/(kapp・K[D D])     (1) RDは光触媒の反応速度,kappは見かけの速度定数,KDは 吸着の平衡定数,[D]は吸着サイトの濃度を表し,この 式から,光触媒反応を表面吸着論において考察されている.

反応速度が反応物質の濃度に依存しない場合,次式に示す ゼロ次反応となり,光量律速になる。

        [D][D]0kapp t         (2) ただし,[D]0は初期濃度を示す.励起の速度が全体の光 触媒反応速度を決めている。 この例はCuTiO2, Pd TiO2 薄膜の光触媒反応に対する抗菌効果の場合に見られ る18, 19

 一方,反応物質濃度が時間に対して指数関数的に減少す る場合,次式の一次反応で示される.

      [D][D]0 exp (kapp KD t)      (3) この例には,酸化チタンによる屋外空気浄化は物質輸送律 速であり,一次反応で示される17

4. 4 光触媒による抗菌作用

 酸化チタン光触媒に紫外光が当たると,電子(e-)が活 発化・励起し,ホール(h)が発生する.電子は酸素を スーパーオキシドイオン(O2)に,ホールは水をヒドロ キシラジカル(・OH)に変える.活性酸素のスーパーオ キシドイオンとヒドロキシラジカルによる強い酸化力に よって,二酸化チタンと接する生体高分子有機物を分解し ていく.光触媒酸化チタンが,細菌の細胞を死滅させるこ とができるのは,図4に示すように細胞膜の損傷に端を発 する細胞の破壊である.すなわち,グラム陰性菌の細胞壁 を構成しているリポ多糖類であるエンドトキシンの分解,

また,脂肪膜のペルオキシ化である.大腸菌の場合,まず 細胞壁が損傷し,さらに細胞質膜の損傷が起こり,細胞内 部の酸化チタン光触媒による直接的な攻撃が可能であ る20, 21.粒径の小さい酸化チタンほど,細胞内の損傷を 速く起こす.細胞壁と細胞質膜が破壊され,その結果カリ

ウムイオンなどの細胞内物質が溶出し,それが細胞の死に 至らしめると考えられる.細胞壁の外膜は障壁としての役 割を果たすが,ペプチドグリカン層は障壁とはならない.

結局,外膜が部分的に破壊され,そして細胞質膜の無秩序 化が起こり細胞死をもたらす.その他に,H2O2などの攻 撃活性種も考えられる.

5.  抗菌剤の製造法

5. 1 抗菌メッキ法

 無電解メッキ液中に銀微粒子を懸獨させ,素地である排 水黄銅金具上に,メッキ金属とAg微粒子を共析させる.

さらにその上にクロムメッキを施す.その複合メッキ表面 の抗菌粒子の存在で抗菌性が付与される.

5. 2 抗菌剤拡散処理法

 無機銀系の拡散型抗菌剤を基材表面に塗布し,熱や圧力 などのエネルギーを塗布面に与えて,抗菌剤を基材表面か ら内部に拡散させ,抗菌剤拡散層を形成させる.

5. 3 銅含有高分子のメカニカルミリング合成法 22

 メカニカルミリング(機械的混錬)処理法によるナノ オーダー粒子を持つ抗菌剤を得る方法である23.粒径の小 さいほど,細胞内の損傷を速め,細胞壁と細胞質膜の破壊 が促進し,細胞死を速めに至らしめる効果を狙うことがで きる.

 4 酸化チタン光触媒によるグラム陰性菌に対する殺菌 作用過程

(9)

6.  微生物細胞と抗菌薬との生体反応

6. 1 微生物における抗菌作用形式

 抗菌薬は,細胞壁やタンパク質合成系などの微生物の生 存や増殖に必須な機能や構造に作用し,特に,微生物の増 殖期に効果的に作用すると思われる.その作用様式は, 5に示すように,殺菌作用(bactericidal action),静菌作用

(bacteriostatic action),溶菌作用(bacteriolytic action) の三つに分けられる24.静菌作用では微生物の増殖は抑制 されているが,死滅していないので薬物の除去あるいは有 効濃度以下になれば再び増殖することがある.溶菌作用は 殺菌作用の一形式である.

6. 2 一次作用点

 抗菌薬は,微生物細胞内に透過し,ついで標的である微 生物細胞の生命維持に必須の構造あるいは代謝系を障害す

ることで,二次変化を伴って,静菌や殺菌に至る.この抗 菌作用,すなわち抗微生物作用(antimicrobial(antibac- terial)action)の直接的原因となる必須の構造や機能を

「一次作用点(primary site of action)」という(図6 24).

一次作用点には次のようなものがある24

①細胞壁合成を阻害 ; 細胞壁の主成分はペプチドグリカン である.トランスペプシターゼが結合できなくして,細菌 の架橋したペプチドグリカンの高次構造の形成を阻害す る.細胞壁の無い動物には作用しない.

②細胞膜障害 ; 細胞膜は全ての生物細胞に存在し,その構 造も類似するので高い選択毒性を期待するのは困難であ る.細胞膜中に複合体の形成による膜機能の阻害が起こる.

③タンパク質合成を阻害 ; タンパク質合成過程は,開始,

ペプチド鎖伸長,終了の3段階に分けられる.タンパク質 合成阻害剤はいずれもリボソームに作用して抗菌活性を示 すが,その3段階のどれに阻害をするかは抗菌剤によって 違う.また,タンパク質合成阻害によって,ペプチドグリ

 5 細菌の増殖と抗菌薬の細菌への作用様式 24

 6 抗菌薬による一次作用点 24

(10)

カン合成に関与する酵素群が正常につくられなくなること も考えられる.

④核酸やヌクレオシド合成を阻害 ; 核酸やヌクレオチド合 成に作用する薬剤の選択毒性は低いが,細菌に特異的な RNA合成酵素に高い親和性を持つリファンピシン,DNA ジャイレースやDNAトポイソメラーゼⅣに作用するキノ リン系薬剤の選択毒性は高い.

⑤エネルギー代謝系阻害 ; 選択毒性は低いが,この過程を 阻害する抗生物質がある.

⑥ビタミン,補酵素合成系 ; ビタミンを補酵素とする酵素 反応を阻害する.

6. 3 静菌的薬剤および殺菌的薬剤

 抗菌剤は,結局のところ,静菌的か殺菌的かのいずれか の働きをする25.しかし,静菌的薬剤が他の細菌には殺菌 的に作用することもありうる.静菌的薬剤(bacteriostatic drug)は,到達可能な患者血清中の薬剤濃度で,細菌の 増殖と分裂を止め,それによって宿主の免疫システムが細 菌を攻撃し,包囲し,そして排除するまでの間,感染症の 拡がりを押さえる.殺菌的薬剤(bactericidal agent)は,

細菌を殺し,総生菌数を減少させる25

6. 4  MICMBC・抗菌スペクトルによる抗菌薬評価

 代表的な抗菌性評価を表すものとして,最小発育阻止濃 度,最小殺菌濃度,抗菌スペクトルなどがある.

最 小 発 育 阻 止 濃 度(Minimal inhibitory concentration, MIC) ; 細菌の増殖を抑制するのに必要な最小の抗菌剤 濃度を表す.

最 小 殺 菌 濃 度(Minimum bactericidal concentration, MBC) ; これは単に増殖を抑制するだけではなく,細菌 を殺すのに必要な最小の抗菌剤濃度をあらわす.

静菌的作用(Bacteriostatic action)評価 ; その作用は細 菌を殺すことなく分裂を抑制する静菌的作用である.こ れが抗菌であり,それを抗菌剤と考える.

抗菌スペクトル(Antimicrobial spectrum) ; 抗菌スペク トルは,抗菌薬がどの菌に効くかどうかを表すものであ る. 抗 菌 剤 の 種 々 の 微 生 物 に 対 す るMICあ る い は MBCを系列化したもので,微生物の分類体系に沿って 並列する表示をする.

 想定される病原菌に対して,最も強い抗菌力,すなわち,

最も低いMICを持つ抗菌薬を選択すべきである.抗菌力 評価に,例えば,臨床分離株のうち,80%の菌株を阻止で

きるMIC 80を尺度としているが,最近の耐性菌の増加

で,MIC 80は年々上昇する傾向にある.MBCはMICよ

りもやや高い値をとるのが妥当である.MICとMBCの 差が小さいほど良好な抗菌薬となる.また,MBC/MIC の比の値は静菌的と殺菌的とで異なり,一例として,前者 の場合は(MBC/MIC)32以上,後者の場合は(MBC/

MIC)2以内とされる26.さらに,抗菌スペクトルにつ いては,広域抗菌スペクトルのものは多くの菌種に対して 抗菌活性を示し,抗菌スペクトルが狭い,すなわち狭域抗 菌スペクトルのものは限られた菌種にのみ抗菌活性を示す ことになる.多くの細菌に抗菌効果を示す抗菌薬は広範な 抗菌スペクトルを有していることが望ましいとされてい る.なお,MIC/MBC/抗菌スペクトルのパラメータを考 慮した抗菌薬の使い方については,文献27に記載されて いる.

 抗菌薬と微生物に関するパラメータを総合的に評価する 考え方に,薬物動態pharmacokinetics(PK)と薬力学 pharmacodynamics(PD)を取り入れたPK/PD理論が ある24.PKパラメータは薬物の生体内での吸収・代謝・

排泄などの薬物動態を,PDパラメータは細菌に対する薬 物濃度暴露と薬効の強さとの関係をそれぞれ表し,抗菌薬 の有効性と安全性の指標となっている.抗菌薬の適切な選 択のためには,起因微生物の特定と薬剤感受性,および病 態の把握,並びに PK/PDパラメータの総合的評価が必要 である24, 25

7.  抗菌剤とマテリアルライフの今後

 抗菌剤の役目は,細菌の繁殖を抑え,増殖と増殖阻止を コントロールして,害のない状態の製品や環境を造ること にある.この抗菌(静菌)作用により,人間・動植物の環 境保全に役立たせることが目的である.動植物の快適な生 活環境,健康・寿命の向上など,また,古書や書などが微 生物で荒らされる文化財の保護のためには,微生物細菌制 御に対して抗菌剤は特に重要となる.抗菌剤とマテリアル ライフ・高分子との関係は,金属錯体構造,漆膜の抗菌性,

銀添加ABS成型品,抗質菌活性や抗がん活性を有する高 分子誘導体,環境・健康・寿命の増進向上のためのバイオ マテリアル材などを解析・解明し,合わせて微生物細菌制 御のための適切な抗菌剤の開発を行うことから明らかにさ れると考える.今後の本研究では,人間を含めた動植物の 病態改良や長寿命の観点から,抗菌剤と個体細胞内外との 生体有機反応を中心として考察し,そのための抗菌剤の開 発と改良を目指したいと考える.

(11)

8.  結 論

 抗菌剤には,銀,銅などの金属イオン,無機抗菌剤,抗 菌性金属材料,有機系抗菌剤などがあり,細菌の抗菌性に 対してそれぞれの抗菌剤の特徴・特質を持っている.抗菌 作用を静菌作用として中心に考えることが重要と思われ る. 抗菌剤の金属イオンなどが細胞を攻撃し,リポ多糖 類の細胞壁や細胞膜を損傷し,外膜を破壊して,エンドト キシン分解,ペルオキシ化により,細胞内に侵入し,その 細胞内部の物質が溶出して,細胞死に至る.その他,フ リーラジカルの生成,酸素活性種の生成による細胞内の攻 撃活性種としての役割をもつ.光触媒による抗菌作用は,

励起電子と正孔,酸化と還元,酸素の変化した活性な酸素 種やフリーラジカルが,細胞壁や細胞膜の無秩序と損傷,

細胞内物質の溶出や破壊することで,細菌の細胞を死滅さ せる.一方,微生物細胞と抗菌薬との生体反応では,細胞 壁合成系阻害,細胞膜障害,核酸やヌクレオシド合成系阻 害などの一次作用点で微生物細胞内に透過し,微生物細胞 の生命維持や代謝系を障害することで,二次変化を伴っ て,静菌や殺菌に至る.それには静菌的薬剤は細菌の増殖 と分裂を止め,殺菌的薬剤は細菌を殺し,総生菌数を減ら すことにあると考えられる.抗菌スペクトルは抗菌薬がど の菌に効くかを示し,抗菌力に対して広範な抗菌スペクト ルを有することが良いとされる.

引用文献

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の科学”,工業調査会(1996)

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5)西野 敦,富岡敏一,荒川正澄 : “抗菌剤の科学”,

Part 2,工業調査会(1997),p. 70

6)西野 敦,富岡敏一,荒川正澄 : “抗菌剤の科学”,

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280

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27)土屋友房 : “微生物学・感染症学”,化学同人(2008),

p. 131

(12)

The Characteristics of the Antibacterial Agents and the Mechanism of the Bactericidal Activities

Tsuneo ISHIDA ※*

Department of Animals Nursing Technology, Yamazaki Gakuen University

(4︲7︲2, Minami-Osawa, Hachiouji, Tokyo, 192︲0364 Japan)

Corresponding author

Abstract

 The antibacterial agents and the mechanism of the bactericidal actions were discussed with the properties of the antibacterial agents, interaction of metal ion and vital organelle, antibacterial action by the photocatalyst and the reaction of antibacterial drugs in the microorganism. The present results demonstrate that metal ion initially resides in the cell membrane area and it readily infiltrates into the interior of the cell. Therefore, the bactericidal functions of the metal ion are its interaction with the ribosome and the ensuring inhibition in the enzymes and proteins essential to APT production. Furthermore, reactive oxygen species, lipid peroxides and free radicals occur to induce the cell damages by the bactericidal or bacteriostatic actions. The primary site of action results in the microorganism as an antimicrobial factor.

Keywords : Antibacterial agent, Bactericidal or bacteriostatic actions, Metal ion, Ribosome, Enzyme and protein, APT production, Reactive oxygen species, Free radicals, Primary site of action, MIC, MBC, Anti­

bacterial spectrum

[Materiaru Raifu Gakkaishi, 23[1],21︲32(Feb. 2011)]

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