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幼児の保存性と弁別学習

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

幼児の保存性と弁別学習

著者 杉村 健, 清水 益治, 表野 盟子, 山本 洋子

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 35

号 1

ページ 243‑258

発行年 1986‑11‑25

その他のタイトル Children's Conservation and Discrimination Learning

URL http://hdl.handle.net/10105/2156

(2)

幼児の保存性 と 弁別学習

杉村 健・清水益治*・表野盟子**・山本洋子***

(奈艮教育大学心理学教室) (昭和61年4月1日受理)

弁別学習の発達理論はその起源をKuenne (1946)に求めることができるが、 1960年以降、

Kendler and Kendler (1962)の‑単位型学習から媒介型学習へ、 Golhn and Saravo (1971)の 知覚・運動的学習から概念・言語的学習へ、 Tighe and Tighe (1972)の独立学習から依存学習 へ、 Zeaman and House (1974)の成素(compound)学習から成分(component)学習へとい った、多くの理論が提唱されてきた。最近になってKendler (1979, 1983)は、符号化機能では 非選択的符号化から選択的符号化‑、行動調整機能では漸増的学習から仮説検証へというように、

2種の機能水準を仮定する発達理論を提唱している。

これらの発達理論のもとになっている実験においては、異なる年齢の被験者に同一の弁別課題 を与え、その成績に基づいて学習過程の発達的変化が推論される。しかし、年齢そのものが心理 学的に何を意味するか明らかではなく、それに、同じ年齢であっても子どもの認知発達には著し い個人差があることは周知の事実である。したがって、単に年齢ではなくて何らかの心理学的尺 度でもって発達水準を規定し、それと学習過程との関係を調べる必要がある。本研究ではPiaget のいう認知発達、なかでも幼児における保存性をとりあげて、弁別学習との関係が3つの観点か ら検討される。

これまでは、 Piagetのいう認知発達の研究と学習発達の研究が独立に行われてきたが、近年 になって、移調(山内ら, 1975;OConnor & Beilin, 1980;杉村ら, 1985)、逆転・非逆転移行 (柴田, 1976, 1983;竹内, 1983)、任意移行(田中, 1976;内田, 1984)、特異学習(Sugimura, 1985)、標本一致学習(Sugimura, 1986)および仮説行動(Gholsonら, 1976; Gholson, 1980) と操作水準との関係が問題にされるようになってきた。この種の研究においては、 Piaget流の 課題の成績に基づいて前操作段階の子どもと具体的操作段階の子ども、あるいは非保存段階の子

どもと保存段階の子どもを選び出し、学習課題の成績を比較する。

本研究では、認知発達の重要な指標である保存性と弁別学習の過程との関係を検討するために、

実験IではTighe and Tighe (1972)のいう自発的逆転、実験ⅡではKendler (1979, 1983) のいう2種の機能水準、実験Ⅲではwin‑stay、 lose‑shift方略について、同一年齢の保存児と非 保存児の成績がどのように異なるかを分析することにした。

実  験 I

2次元2価の弁別課題で非逆転移行を行うと、一方の刺激対では原学習の正刺激が負刺激に変

* 環在奈良教育大学大学院生(実験Ⅲ担当)

** 現在上新電機(実験:担当)

*** 現在桜井市(実験I担当)

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(3)

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杉村 健・清水益治・表野盟子・山本洋子

化し(変化対)、他方の刺激対では刺激の正負の関係は変化しない(不変化対)。もし被験者が2 つの刺激対を関係づけて学習していたならば、移行後の第1試行で変化対が呈示されて負の強化 が与えられると、第2試行で呈示される不変化対では原学習の反応を変えて誤反応をしてしまう。

このような移行直後の不変化対における誤反応をTighe and Tighe (1972)は自発的逆転と名 づけ、依存学習の証拠とみなした。これに対して刺激対を独立に学習しているならば、自発的逆 転は生じないはずである。

Tighe and Tighe (1972)によれば、カメやネズミでは自発的逆転はほとんどみられず、 4歳 児でもわずかに5%程度であって、いずれも独立学習をしているが、 10歳児では60%の自発的逆 転がみられ、依存学習をしていることが報告されている。このように、系統発生的、個体発生的 水準が高くなると独立学習から依存学習‑の転換がみられるが、他方、田中(1975)は5歳児で も原学習の過剰訓練によって、自発的逆転者が31.8^から71.4^に増加することを見出し、過剰 訓練によって独立学習から依存学習へと変化することを示唆した。

著者の知る限りでは、これまでに自発的逆転に及ぼす保存性の効果を調べた研究はない。本実 験では、先の研究(Sugimura, 1985, 1986;杉村ら, 1985)と同様な数の保存課題を用いて保存 児と非保存児を選び出し、自発的逆転者がどの程度あらわれるかを検討する。 Tighe and Tighe (1972)が見出した年齢によるちがいが認知発達のちがいにも当てはまるならば、保存児の方が 非保存児よりも自発的逆転を示す者が多いと予想される。また、田中(1975)によって見出され た過剰訓練の効果が保存段階によってどのように異なるかを合わせて検討する。

方 法

実験計画  2 × 2の要因計画が用いられた。第1の要因は被験者の保存段階(保存児、非保 存児)、第2の要因は原学習の訓練量(10/10、 +10)であった。

被験者  被験者は橿原市内の保育園と幼稚園の年長児161名であり、あとで述べる保存課題 を実施したところ表1に示す結果が得

られた。 0点の者を非保存児、 4点の 者を保存児として弁別学習を行った結 果、非保存児15名と保存児1名が原学 習の基準に達しなかったので除外し、

それぞれ64名が非逆転移行を与えられ た。保存児の平均年齢は5:9 (5:2

‑6:2)、非保存児の平均年齢は5:

表1保存課題での正答数と人数

0    1    2    3    4

男  39   2 女  40   2

5    33 0    32

4 7

&

* ^ H f i

計  79       65  161 (注) 0点の者79名のうち15名、 4点の者65名のうち1名

は原学習の基準に達しなかったので除外した。

8 (5:3‑6:1)であった。

材料 (1)保存課題‑黄色とピンクのおはじきを6個ずつ用いて数の保存課題を構成した。

おはじきの直径は約1.9cmであり、黄色のおはじきを標本刺激として、その中心から中心まで の距離を約3.3cmずつあけて27.5cmx40.0cmの白い厚紙の上部に桟に並べて貼りつけた。

課題1 (拡散) :黄色のおはじきの下に、ピンクのおはじきを約1.5倍の間隔になるように広 げて並べる。

課題2 (収縮) :ピンクのおはじきを間隔をあけずにくっつけて並べる。

課題3 (移動) :黄色の右側の3個とピンクの左側の3個がそろうようにし、ずらして等間隔 に並べる。

(4)

課題4 (分割) :黄色とピンクのおはじきの両端がそろうようにして、ピンクのおはじきを3 個ずつくっつけて並べる。

(2)練習課題‑リンゴとバナナの線画を6.3cmx13.0cmの白い厚紙に横に並べて貼りつ けたものを用いた。

(3)弁別課題‑色(赤、青)と形(円、正方形)を組み合わせてできる2次元2価の弁別課 題である。円の直径は6.0cm、正方形の一辺は5.5cmであり、つや紙を切り抜いて12.5cm x18.0cmの白い厚紙に横に並べて貼りつけた。刺激の位置を逆にすると4種類の刺激対ができ、

それぞれ10枚ずつ合計40枚のカードをつくり、次の制限の下でランダムに配列した。 ① 同じカ ードが連続して現れないこと、 ② 3回以上続いて正刺激が同じ位置に現れないこと、 ⑨ 正刺 激の位置が左右交互に3回以上続かないこと、 ④ 正刺激は左右に同じ回数ずつ現れること。非 逆転移行には4種類のカードが5枚ずつ合計20枚が用いられた。

手続き  実験は保育園あるいは幼稚園の一室で個別的に行われたo被験者が実験者と机に向 かい合って着席すると、被験者の名前をたずねたり、家族や友達のことなど実験とは無関係な話 をしてラポートを形成した。

(1)保存課題‑黄色のおはじきの下にピンクのおはじきを対応して並べ(標準事態)、黄色 とピンクのおはじきが同数であることを確認させてから、ピンクのおはじきの間隔を広げて黄色 のおはじきと数が同じかどうかをたずねる(拡散)。以下同様にして、標準事態からピンクのお はじきを縮める(収縮)、横にずらす(移動)、 3つずつに分ける(分割)課題を行った。 4課題 とも"同じ"と答えた者を保存児とし、 ̀̀違う"と答えた者を非保存児とした。

(2)練習課題‑練習用のカードを提示して次の教示を与えた. "○○ちゃん、今度はカード 遊びをしましょう。このカードをよく見て下さい。 (リンゴとバナナを指さしながら)こちらか こちらがいつも̀ぁたり'と決めてあります。 ○○ちゃんが̀ぁたり'と思う方を指さして下さ い。あたっていれば̀ぁたり'、まちがっていれば̀はずれ'と言います。できるだけ沢山̀ぁた り'と言われるように頑張って下さい。"

被験者の反応速度に応じて刺激カードを1枚ずつ呈示した。正反応に対しては"あたり"と言 い、誤反応に対しては"はずれ"と言ってから正刺激を指さして"こちらが̀ぁたり'です。"

と言って修正した。学習基準は連続5回正反応であり、 20試行までに基準に達しない場合は中止 した。実際には20試行までに学習基準に達しない者は1人もいなかった。

(3)原学習‑練習課題の基準に達すると弁別課題の刺激カードを呈示し、次の教示を与えた。

"○○ちゃん、今度はこっちのカードでやりましょう。さっきと同じようにして̀ぁたり'と思 う方の絵を指さして下さい。今度は少し難しいけれど、よく考えて頑張って下さい。"被験者の 反応速度に応じて刺激カードを1枚ずつ呈示し、 20試行までは非修正法で、それ以後は修正法で 行った。 40試行までに連続10回正反応の学習基準に達しなかった者は学習不能者とみなし、実験 から除外した。 1/4ずつの被験者が赤、青、円あるいは正方形を正刺激として学習し、被験者の

うち半数の者には10回正反応の過剰訓練を与えた。

(4)非逆転移行‑原学習に続いて非逆転移行が行われた。第1試行は変化対、第2試行は不 変化対とし、それ以後の試行では変化対と不変化対をランダムに呈示し、非修正法で20試行(変 化対10試行、不変化対10試行)を与えた。

(5)

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杉村 健・清水益治・表野盟子・山本洋子 結 果

原学習  連続10回正反応の学習基準に達するのに要した試行数の平均(SD)は保存児の基 準群6.38 (8.15)、過剰訓練群7.13 (5.88)であり、非保存児は同じ順に8.53 (8.92)と8.09

(9.40)であった。分散分析の結果、主効果も交互作用もすべて有意でなかった。

非逆転移行 (1)保存性と自発的逆転‑表2は、非逆転移行における第2試行の不変化対 で自発的逆転をした者の割合を示したものである。角変換倍による2× 2の分散分析を行なった ところ、主効果も交互作用もすべて有意でなかった。 4群をこみにしたときの自発的逆転者の割 合は58. 60^であった。

(2)原学習の速さと自発的逆転‑基準群と過剰訓練群をこみにして、原学習が0試行または 1試行で基準に達した者は保存児17名、非保存児16名であった。これらの速学習者はwin‑stay lose‑shift方略を用いているとみなせる。これに対応して、原学習の試行数が多い方から順に保 存児、非保存児それぞれ16名ずつを選び遅学習者とした。これらの者の基準達成までの試行数は 最低13試行であった。表3は、速学習者と遅学習者について自発的逆転をした者の割合を示した ものである。角変換値による分散分析の結果、原学習の速さの主効果だけがx2(D‑7.21, ♪<

.01で有意であり、表から明らかなように、自発的逆転者は速学習者の方が著しく多かった。

表2 保存性と自発的逆転をした者の割合(%) 表3 原学習の速さと自発的逆転をした者の割合(%) 基 準 群  過剰訓練群

霊農芸59.38 53.1359

62霊平 均L

56. 25     60. 94

59.38  保存児 57. 81  非保存児

速学習者  遅学習者

平  均   75. 75    43. 75

考察  自発的逆転をした者の割合は保存者と非保存者でほとんどちがいがなく、両者が同じ 学習様式を用いていたことを示す。これは本実験の予想に反するものであり、少なくとも数の保 存課題によって査定された認知水準の高低は、 Tighe and Tighe (1972)のいう弁別学習の様式 には反映されないと結論せざるを得ない。しかし、認知水準と弁別学習の様式の関係について一 般的な結論を得るためには、さまざまな課題で幼児の認知水準を査定して検討する必要がある。

Tighe and Tighe (1972)の結果では、自発的逆転者の割合は4歳児で5%であって明らかに 独立学習をしているのに対して、 10歳児では60%強であって依存学習をしているとみなせる。本 実験の被験者は平均5歳8か月であったが、自発的逆転者の割合は60%弱でTighe and Tighe の10歳児とよく似ているので、依存学習をしているとみなすことができる。以上のことから、独 立学習から依存学習への移行期は4歳から遅くとも5歳8か月の間にあるのではないかと推測さ れる。

田中(1975)は自発的逆転者の割合が基準群31.8^、過剰訓練群1¥A%であることを報告して いるが、本実験では同じ順に56.25&と60.U%であって、訓練量の効果はほとんどみられなかっ た。田中の被験者は平均年齢が5歳1か月で本実験よりも7か月低く、原学習に要した試行数は 基準群25.09、過剰訓練群30.29試行で本実験の7.46試行と7.61試行よりも著しく多いということ

が、田中の研究と本実験の自発的逆転者の相違をもたらしたのかもしれないが、決定的なことは いえない。

(6)

本実験で得られた最も明確な結果は、速学習者の75%強の者が自発的逆転を示してTighe and Tighe (1972)の10歳児をしのぐほどの依存学習をしているのに対して、遅学習者で自発的逆転 をした者は44%弱であったということである。このことから、保存性と訓練量ではなくて原学習 の速さが独立一依存学習と深い関係のあることが示唆される。この関係について3つの観点から 考察してみよう。まず、速学習者はwin‑stay、 lose‑shift方略を用いた者であり、特にIose‑shift 方略は移行後第1試行から第2試行へかけての仮説の変化をもたらし、自発的逆転へと導くこと が期待される。次に、 Kendler and Kendler (1959)は速学習者は媒介型の学習をすると主張し ているが、媒介型の学習は依存学習と本質的に同じものと考えられるので、速学習者で自発的逆 転をする者が多くなるといえる。最後に、次元偏好性の観点からは次のように説明できる。一般

に、被験者の偏好次元と弁別学習の適切次元が一致していれば学習が速い(例えば、 Sugimura

& Shimotani, 1969),この被験者は移行後の第1試行で負の強化を与えられると、次の試行で は偏好(適切)次元内の他方の刺激価を選択する可能性が高く、したがって自発的逆転が多くな る。

実  験  I

Kendler, Kendler and Learnard (1962)が考案した任意移行課題は、先行弁別、任意移行、

テスト弁別の3段階からなっている。赤い円と青い正方形の対と、青い円と赤い正方形の対から なる弁別課題で、先行弁別では赤い円と青い円を正刺激として学習させたとしよう。任意移行で は、赤い円と青い正方形の対だけで青い正方形を正刺激として学習させる。この場合、被験者は 青色に反応しても正方形に反応しても学習が可能である。テスト弁別では、任意移行に用いた対 を再学習対、青い円と赤い正方形の対をテスト対として、それぞれ10試行ずつランダムな順で呈 示する。テスト対10試行のうち赤い正方形を8試行以上選択した者を逆転移行者、青い円を8試 行以上選択した者を非逆転移行者とする。

このような任意移行課題での成績に基づいて、 Kendler (1979, 1983)は入力としての弁別刺 激と出力としての選択反応の間に、符号化成分と行動調整成分の2つの機能を仮定する弁別学習 の機能水準モデルを提唱した。図1に示すように、符号化成分の低い水準はすべての情報を処理 する非選択的様式で機能し、高い水準は適切な情報だけを要約する選択的様式で機能する。行動 調整成分の低い水準は強化の随伴性により接近反応と回避反応を引き起こす漸増的学習様式で機 能し、高い水準は正しい解決に導く反応、ルール、方略を継続的に検証する仮説検証様式で機能 すると仮定する。

Kendlerによれば符号化様式はテスト弁別の成績から推測される。すなわち、テスト対におけ る逆転反応者は選択的に符号化し、非逆転移行者と非一貫反応者は非選択的に符号化していたと 仮定する。行動調整様式は任意移行の成績から推測される。すなわち、移行後の最初の正反応の あとでその仮説を維持する win‑stay方略を用いる者は仮説検証的に行動し、最初の正反応のあ

〔入 力〕   〔符号化成分〕  〔行動調整成分〕  〔出 力〕

選択的符号化‑‑仮説検証‑‑選択反応

hi iiP

弁別刺激‑‑非選択的符号化‑‑漸増的学習・・‑選択反応 図1弁別学習のモデル(Kendler, 1979)

(7)

248

杉村 健・清水益治・表野盟子・山本洋子 とで誤反応をする者は漸増学習的に行動していると仮定する。

このような仮定の下に、 Kendler (1979)は4歳から18歳までを被験者として次のことを見出 した。年少児では非逆転移行者が多くて非選択的符号化が優位であるが、年齢とともに逆転移行 者が増加して成人では80%以上に達し選択的符号化が優位になる。また、年少児は先行弁別、任 意移行ともに多くの試行を必要とし漸増的学習をしているのに対して、任意移行でwin‑stay方 略を用いた仮説検証者の割合は4歳児では10%未満であったが18歳では90%近くに達した。 2つ

の符号化様式と2つの行動調整様式を組み合わせると4つのタイプができる。 Kendlerによれば、

選択的に符号化して仮説検証をした者は年齢とともに増加するが、非選択的に符号化して漸増的 に学習した者は年齢とともに減少する。また、非選択的に符号化して仮説検証した者は少なく、

選択的に符号化して漸増的に学習した者は中間の年齢で多くみられた。以上のことから、選択的 に符号化する者は仮説検証と漸進的学習を同じくらいに行う可能性があり、非選択的に符号化す る者は主として漸増的に学習しがちであると述べている。

本実験の目的は幼児の保存性と任意移行課題の成績との関係を検討することであるが、以上に 述べた年齢による変化が認知発達にもあてはまるならば、次のことが予想される(1)選択的に符 号化する逆転移行者の割合と任意移行で仮説検証するwin‑stay者の割合は非保存児よりも保存 児の方が多いであろう。 (2)選択的に符号化して仮説検証する者の割合は保存児の方が多く、非選 択的に符号化して漸増的に学習する者の割合は非保存児の方が多いであろう。

本実験のもう1つの目的は過剰訓練の効果を検討することである。以前に杉村(1967)は先行 弁別の過剰訓練によって逆転移行者が増加することを見出しているが、最近になってKendler (1983)も、特に4‑6歳児において過剰訓練の効果を認めている。本実験では、先行弁別の基 準達成後10回正反応の過剰訓練を行い、その効果が保存児と非保存児でどのように異なるかを検 mmm

方 法

実験計画  2 × 2の要因計画が用いられた。第1の要因は被験者の保存段階(保存児、非保 存児)、第2の要因は先行弁別の訓練量(10/10、十10)であった。

被験者  奈良市と橿原市内の幼稚園の年長児169名であり、実験Iと同じ保存課題を行った 結果は表4の通りである。非保存児(0点の者) 85名と保存児(4点の者) 62名に先行弁別を行

ったところ、非保存児13名と保存児1 名が学習基準に達しなかったので除外

し、さらに任意移行の学習基準に達し なかった者が非保存児4名と保存児1 名であり、これらの者も実験から除外

した。最終的には非保存児68名と保存 児60名の資料を分析した。非保存児の 平均年齢は5:8 (5:3‑6:4)、保

表4 保存課題での正答数と人数

0   1  2   3   4    計 男  42 (34)  8   4   0  34 (32) 女  43 (34)  6  1  3  28 (28)  81

計  85(68) 14   5   3  62(60) 169 (注)括孤内は被験者として用いた人数

存児の平均年齢は5:9 (5:2‑6:3)であった。

材料  保存課題と練習課題は実験Iと同じである。先行弁別も実験工の弁別課題と同じであ るが、任意移行では半数の被験者には先行弁別で用いた2対のうちの1対を、残りの被験者には もう一方の対を用いた。左右の位置を変えたものをそれぞれ10枚ずつ合計20枚のカードを次の制

(8)

限の下でランダムに配列した。 ① 同じカードが3回以上続いて現れない、 ④ 3回以上続いて 正刺激が同じ位置に現れない、 ④ 正刺激の位置が左右交互に2回以上続かない、 ④ 正刺激は 左右に同じ回数ずつ現れる。テスト弁別は先行弁別と同じであるが、各対とも左右の異なるカー

ド5枚ずつ合計20枚であり、同じ対のカードが3回以上続けて現れないようにしたO

手続き  保存課題、練習課題および先行弁別(原学習)までは実験Iとまったく同じであっ た。先行弁別が連続10回正反応の学習基準に達すると半数の者は直ちに任意移行を与えられ、残

りの者は10回正反応の過剰訓練の後で任意移行が与えられた。任意移行では先行弁別における負 刺激を正刺激とし、正刺激を負刺激として連続10回正反応まで学習させた。 10試行までは非修正 法であり、 11試行から20試行までは修正法を用いたが、 20試行までに学習基準に達しない者は学 習不能者として除外した。学習基準に達したら直ちにテスト弁別が与えられた。テスト弁別のう ち1対は任意移行に用いた対と同じであり、任意移行と同じ強化の仕方で学習させる。もう1対 は任意移行で用いなかった対であり、どちらの刺激を選択しても正の強化が与えられる。

結 果

先行弁別  連続10回正反応の学習基準までに要した試行数の平均(SD)は、保存児の基準 群6.77 (8.08)、過剰訓練群6.20 (8.03)であり、非保存児では同じ順に7.76 (7.86)と7.35

(7.65)であった。分散分析の結果、主効果も交互作用もすべて有意でなかった。

任意移行 (1)基準達成までの試行数‑平均(SD)は保存児の基準群5.63 (6.19)、過剰 訓練群5.43 (5.76)であり、非保存児では同じ順に5.26 (4.53)と5.29 (4.99)であった。統 計的検定をするまでもなく群差はほとんどない。

(2) win‑stay方略を用いた者‑仮説検証者とみなすことができるwin‑stay方略を用いた 者の割合は、保存児の基準群43.3^、過剰訓練群46. 7^であり、非保存児では同じ順にU. 1%と 35.3^であった。角変換値による分散分析は主効果も交互作用もまったく有意ではなかった。

テスト弁別  基準群と過剰訓練群について、逆転移行者、非逆転移行者および非一貫反応者 の割合を調べ、それぞれについて2 (保存性) ×3 (テストでの反応)のx2検定を行ったが、

いずれも有意にならなかった.表5は訓練量をこみにしたときの割合を示したものである x2(2)

‑3.46, ♪>.10で有意ではなかったが、標本値では逆転移行者において保存児と非保存児の差 がみられるので、逆転移行者とそれ以外に分けて2×2のx2検定を行った。その結果、 Z2(D

‑3.31, ♪<.10で逆転移行者は保存児に多く、非逆転移行者と非一貫反応者は非保存児に多い 傾向が認められた。

表5 逆転移行者、非逆転移行者、非一貫者の割合(%) 逆転移行者  非逆転移行者  非一貫者 保   存   児   61. 7     13.3      25.0 非 保 存 児   45.6     22.1     32.4

符号化と行動調整の組合せ 先に述べたKendler (1979, 1983)のモデルに従って、任意移 行とテスト弁別の遂行から被験者を次の4群に分けることができる。

① 選択的に符号化し仮説検証をする者(逆転移行を示しwin‑stay方略を用いた者)0

④ 選択的に符号化し漸増学習をする者(逆転移行を示しwin‑stay方略を用いなかった者)0

(9)

250

杉村 健・清水益冶・真野盟子・山本洋子

③ 非選択的に符号化し仮説検証をする者(逆転移行を示さずwin‑stay方略を用いた者)0

④ 非選択的に符号化し漸増学習をする老(逆転移行を示さずwin‑stay方略を用いなかった 者)0

表6は、訓練量をこみにしたときの4群の人数の割合を示したものである。 2×4のx2検定 では有意にならなかったが(Z2‑4.34, df‑3)、保存児と非保存児の差が一番大きい選択的に符 号化し仮説検証する者の群とそれ以外の3群に分けて2×2のx2検定を行った。その結果、

Z2(l)‑2.90, ♪<. 10で有意な傾向を示し、非保存児よりも保存児の方が選択的に符号化し仮説検 証する者が多かった。

表6 符号化と行動調整の組合せ(%)

選択・仮説  選択・漸増  非選択・仮説  非選択・漸増

児児

保非

25. 0       36. 7       20.0      18.3 13.2       32.4       26.5       27.9

合   計     18.8      34.4      23.4      23.4

Kendler*      13        28

7        52

* Kendler (1979)の図から6歳児の値を読み取ったもの。

考察  テスト弁別において、非保存児よりも保存児の方が逆転移行者が多いという結果は予 想と一致するが、任意移行でwin‑stay方略を用いた者の割合は保存段階による差がなく、予想 に反するものであった。選択的に符号化し仮説検証する者の割合は保存児の方が多く、予想と一 致した。以上の結果をKendler (1979, 1983)のモデルに関係づけて考察してみよう。

まず、モデルの最初の成分である符号化様式では、逆転移行者の割合が保存児の方が多かった ので選択的に符号化しがちであるといえる。一般に、保存児は弁別刺激の適切次元に気づき選択 的に処理できるならば、任意移行で異なる強化を与えられたときに選択的に符号化された適切次 元をそのまま利用できるので、逆転移行者が多くなるといえる。非保存児は適切次元と不適切次 元の両方の弁別刺激を符号化しやすいので、先行弁別とは異なる強化が与えられる任意移行では 新たに符号化しなくてはならない。そのため適切次元内での逆転移行が困難になる Kendlerの いう選択的符号化とTighe and Tighe (1972)のいう依存学習は、ともに適切次元への符号化 ないし適切次元の学習を仮定しているので類似したものと考えられる。しかし、実験Iでみたよ うに保存性と依存学習の問には何らの関係も見出すことができなかったので、類似した内容を仮 定していても査定の操作によって保存性の効果が異なるといわざるを得ない。

次に、任意移行のwin‑stay方略で査定される行動調整様式では保存段階による違いはまった くみられなかった。この成分は外的行動を調整するものとされているが、 Piagetのいう保存性 は本来は内的操作であるとされているので、外的な行動調整には機能しなかったのではないかと 考えられる。しかし、選択的に符号化し仮説検証する者の割合は保存児の方が多かったことから、

認知水準の高い保存児が選択的に符号化すると正しい解決を産出する反応を継続的に検証するこ とが示唆される。

非選択的に符号化し漸増的に学習する者は標本値では非保存児の方が多かった。適切次元を選 択的に符号化しにくい非保存児は強化が異なる任意移行においても非選択的に符号化しやすいの で、正刺激を発見するのに刺激を1つずつ探索しなくてはならず、漸増的な学習になりやすいと

(10)

考えられる。選択的に符号化し漸増的に学習する者と、非選択的に符号化し仮説検証する者につ いては保存段階による差はあまりなかった。この2つのカテゴリーは,非保存児に多くみられた 非選択的に符号化し漸増的に学習する低い水準から、保存児に多くみられた選択的に符号化し仮 説検証する高い水準に至るまでの過渡的段階に位置づけられる。

表6の最下行にはKendler (1979)の図から6歳児の結果を読み取った値が示されている。ま ず符号化成分についてみると、選択的に符号化した者は本実験(約53#)の方がKendler (約 41&)よりも多い。この差異については次のことが考えられる。木実験ではすべての選択反応に 対して"あたり" "はずれ"といった言語強化を与えているのに対して、 Kendlerの実験では正 反応に対してのみマーブルを与えて強化している。このことから、負の強化が選択的符号化を促 す機能をもつことが示唆される。次に、行動調整成分では仮説検証者は本実験(約4220 の方が Kendler (約20^)よりも明らかに多い。上述のように、本実験では正負の強化を与えているの で先行弁別から任意移行への強化型の変化が明確であり、反応を転換しやすいが、 Kendlerの実 験では正の強化しか与えていないので先行弁別での反応が固執されやすく、そのために仮説検証 者が少なくなったと考えられる。

4つのカテゴリーのうちで著しい差異があるのは非選択的符号化の2つである。本実験では非 選択・仮説検証と非選択・漸増学習がともに23.ア%で同じであるのに、 Kendlerの場合は前者は わずか7%にすぎず後者は52%にも達している。非選択的に符号化し仮説検証する者が他の年齢 でも少ないところから、 1979年のモデルでは図1に示したように、非選択的から仮説検証への経 路がなかった。しかし、本実験の結果からは符号化成分の低い水準である非選択的様式であって も、行動調整成分の高い水準である仮説検証が十分に可能であるといえる。なお、 Kendlerの 1983年の論文では、理由は明らかではないがその経路が点線でつながれており、本実験の結果と 合致する。いずれにしても、特定の条件下で得られた結果だけから一般的なモデルや理論をつく るのは望ましいことではない。

先行弁別の過剰訓練は保存児に対しても非保存児に対しても何の効果ももたらさなかった。先 の杉村(1967)やKendler (1983)の結果と一致しなかったが、 2つの研究はともに30回正反応 の過剰訓練を行っているのに対して、本実験では10回正反応であって訓練量が少なかったのかも しれない。実験Iでも過剰訓練が自発的逆転の割合を変えなかったところからみて、さらに訓練 量を多くする必要があろう。

実  験  Ⅱ

本実験では、幼児の保存性と仮説のwin‑stay、 lose‑shift方略の関係を、 2次元2価の弁別学 習でイントロタクトプローブ(introtact probe)を用いて検討する。本実験で分析するwin‑stay 方略は、たとえば"育"という仮説に対して正の強化を受けた被験者が、次の試行でも同じ

"請"という仮説を選択する場合であり、 lose‑shift方略は"請"という仮説に対して負の強化 を受けた被験者が、次の試行で"青"以外の仮説("赤" "円"など)を選択する場合である。な お、 iEの強化のあとで仮説を変える場合をwin‑shift、負の強化のあとでその仮説を維持する場 合をIose‑stayとよぶ。これらの方略のうちで弁別学習が効果的に行われるのは、 win‑stay方

略とIose‑shift方略であることはいうまでもない。被験者の仮説を調べるのにはブランク試行プ ローブ(blank‑trials probe)とイントロタクトプローブがあるが(Phillips & Levine, 1975)、

(11)

252

杉村 健・清水益冶・表野盟子・山本洋子 本実験では後に述べる理由で後者を用いることにした。

幼児の保存性と方略との関係を調べた唯一の研究としてGholson, 0 Connor and Stern(1976) をあげることができる。彼らは数と液量の保存課題で保存児と非保存児を選び出し、 5次元2価 の弁別課題でブランク試行プロ‑ブを用いて方略を分析した。その結果、 win‑stay方略を示し た者は保存児90.1^、非保存児82.8^であまり差がなかったが、 lose‑stay方略を示した者は同 じ順に17.4&と51.5^であって、非保存児の方が負の強化を受けて否認された仮説をより多く維 持することが見出された。

しかし、幼児にブランク試行プローブを用いることについては、非常に多くの前訓練を必要と する上に、資料の多くが分析から除かれてしまうという批判がある(Spiker & Cantor, 1983)。

事実、 Gholson らの実験でも単一仮説に合致しないために分析から除外された資料の割合は、

保存児で約30%、非保存児では約50%もあった。このように多くの資料が除外されてしまうと、

保存児と非保存児を代表する標本とはいえなくなってしまう。さらに、 5次元2価の弁別課題が 幼児にとって非常に難しい課題であることはいうまでもない。これに対して、イントロタクトプ ローブはあまり多くの前訓練を必要としない上に、全ての資料を分析に用いることができるとい う利点があり、実験時問も短かいので子どもが飽きずに実験に参加することができる(Spiker

and Cantor, 1983) 。

そこで本実験では、幼児でも解決可能な2次元2価の弁別課題を用いて、イントロタクトプロ ーブにより保存児と非保存児のwin‑stay方略とIose‑shift方略を分析することにした。先に述 べたGholson ら(1976)の結果が一般性をもつならば、 win‑stay方略を示す者の割合は保存児

と非保存児では差がなく、 lose‑shift方略を示す者の割合は非保存児よりも保存児の方が高いこ とが予想される。

イントロタクトプローブはそれを求める位置によって2つに分けることができる。最も広く用 いられているのは選択反応の前に仮説を言語化させる方法で、 n試行の刺激呈示一仮説のプロー ブ(言語化) ‑選択反応一強化で示され、前イントロタクト条件とよぶことにする。もう1つは n試行の刺激呈示一選択反応‑強化In十1試行の仮説のプローブ(言語化)の順で進められ、

後イントロタクト条件とよぶことにする。幼児を用いたCantor and Spiker (1982)の実験で は、win‑stay方略を示した者もIose‑shift方略を示した者もともに後イントロタクト条件の方 が多いことが示されているので、本実験でもこの要因を取り入れることにした。

方 法

実験計画  2 × 2の要因計画が用いられた。第1の要因は被験者の保存段階(保存児、非保 存児)、第2の要因はイントロタクトの位置(前条件、後条件)であった。

被験者  奈良市内の幼稚園年長児182名であり、表7は保存課題の結果を示したものである。

数の保存課題で4点、長さの保存課題で3点の合計7点を得た者を保存児とし、両課題ともo点 の者を非保存児とした。これらのうち練習課題で学習基準に達しなかった保存児6名と非保存児 9名を除き、保存児、非保存児それぞれ64名ずつが弁別課題を与えられた。保存児の平均年齢は 5:10(5:2‑6:2)、非保存児の平均年齢は5:8 (5:3‑6:1)であった。

材料 (1)保存課題‑数課題は実験Iと同じである。長さ課題では長さ30cmのオレン ジ色と緑色のひもが用いられた。オレンジ色のひもを標準刺激として27.5cmx40.0cmの白い 厚紙の上部に一直線にのり付けし、緑色を比較刺激として3つの課題をつくった。

(12)

表7 保存課題での正答数と人数 数 の 保 存 課 題

0   1    2    3    4

長 さ の 保存課題

0   1   2    3

35      36

39      42

43       37

49       40

74   13        13   78   92  11        77

数と長さ の保存課題の正答数の合計

1    2    3    4    5    6    7

35 38

73

課題1 (曲折) :緑色のひもを左から約2/3のところで直角に折り曲げる。

課題2 (曲線) :緑色のひもを左から約1/3のところで左に曲げ、約2/3のところで右に曲げ て波形にする。

課題3 (移動) :緑色のひもを約15cm左に移動する。

(2)練習課題‑実験Iと同じ。

(3)仮説言語化課題‑直径6.0cmの赤色の円と青色の円、一辺5.5cmの赤色の正方形と 青色の正方形をそれぞれ12.6cmx9.0cm の白い厚紙に貼りつけた4枚のカード。

(4)弁別課題‑実験tと同じ。

手続き (1)保存課題‑数の保存課題は実験Iと同じ手続きで実施した。長さの保存課題 ではオレンジ色のひもの下に緑色のひもを置き(標準事態)、 2本のひもが同じ長さであること を確認させてから、緑色のひもを曲げてオレンジ色のひもの長さと同じかどうかをたずねる(曲 折)。標準事態にもどしてから緑色のひもを波形に曲げて同じ長さかどうかをたずね(曲線)、再 び標準事態にもどして緑色のひもを移動して同じ長さかどうかをたずねる(移動)0 "同じ"と答 えた場合を1点、 "違う''と答えた場合を0点とした。

(2)練習課題‑前条件の被験者にはリンゴとバナナの線画を貼りつけたカードを呈示し、あ たりと思う方を̀̀リンゴ"とか"バナナ"というように口で言わせる(仮説のプローブ)。その あとでどちらかを指でささせ(選択反応)、それに対して実験者が"あたり"ぁるいは"はずれ"

と言う(強化)。後条件の被験者の場合にはカードを呈示して、あたりと思う方を指でささせ (選択反応)、それに対して実験者が"あたり"か"はずれ"を言い(強化)、そのあとで次の 試行のカードを見せて、あたりと思う方を"リンゴ"とか"バナナ"と言わせる(仮説のプロー ブ)O 第1試行の選択にはすべて負の強化を与え、それ以後は第1試行で選択しなかったものを 正刺激として連続5回正反応まで学習させた。 20試行以内に基準に達しない者は学習不能者とL a>

(3)仮説言語化課題‑赤い丸、青い丸、赤い四角、青い四角をそれぞれ2回ずつ呈示し、赤、

青、丸、四角の仮説をそれぞれ2回ずつ言語化させた。

(4)弁別課題‑仮説を赤、青、丸、四角のいずれかで言わせる以外は練習課題と同じ要領で

(13)

254

杉村 健・清水益治・表野盟子・山本洋子

実施した。ただし、正刺激は被験者の最初の仮説によって決められた。たとえば、最初の仮説が 丸あるいは四角であれば正刺激は赤か青とし、最初の仮説が赤か青であれば正刺激は丸か四角と

した。さらに、第1試行の選択反応に対して半数の者は正の強化が与えられ、残りの者には負の 強化が与えそれた。 20試行までは非修正法で、 21試行以後は修正法で連続10回正反応まで学習さ せた。 60試行以内に学習基準に達しない者は学習不能者とみなした。なお、後条件では強化を与 えてから刺激を取り去り、次の試行での仮説を求めた。

結 果

練習課題  連続5回正反応の学習基準に達するまでの試行数の平均(SD)は、保存児の前条 件は5.31 (4.76)、後条件では4.37 (4.16)であり、非保存児は同じ順に4.97 (4.30)と4.22

(4.45)であった。分散分析の結果、主効果も交互作用も有意でなかった。

弁別課窟 (1)基準達成までの試行数‑60試行までに連続10回正反応の学習基準に達しな かった者は保存児の前条件5名、後条件9名であり、非保存児では同じ順に8名と10名であった。

これらの者の試行数を60として各群の中央値(範M)を示すと、保存児の前条件は7.0 (0‑60)、

後条件では15.5 (0‑60)であり、非保存児は同じ順に23.5 (0‑60)と28.0 (0‑60)であ った。全体の中央値21.5よりも多くの試行を要した被験者の割合に基づいて角変換倍による分 散分析を行ったところ、 z2(l)‑4.65, p<.Obで保存性の主効果だけが有意であった。これは保存 児の方が非保存児よりも成績がよいことを示すO

(2)第1試行の方略‑第1試行において各群の半数の者(16名)はiEの強化を受け、残りの 者は負の強化を受けているので、このらの者についてwin‑stav方略を示す者と】ose‑shift方略

を示す者の割合を調べた。表8と表9はその結果を示したものである。角変換値による2×2の 分散分析を行ったところ、 win‑stay者ではイントロタクトの位置の主効果だけがZ2(D‑4.ll, p<.05で有意であり、前条件の方が多かったIose‑shift者でもx2(l)‑4.ll, p<.05で前条件

の方が有意に多く、さらに交互作用が22(1)‑7.39, /<.Olで有意であった。単純効果の検定は 保存児のみで前条件が後条件よりも多かった(z2‑3.79, df‑l, p<AO Yatesの修正)。

表8 win‑stay者の割合(%)

前条件 後条件J平均

保 存 児

非保存児

81. 25     68. 75 87. 50     56. 25

表9 lose‑shift者の割合(形)

Tcm‑M'ii 後条可平均

75.00  保 存 児 71.88  非保存児 平  均1 84.38    62.50

100       68. 75 81. 25     87. 50

平  均   90. 63    78. 13  84. 38 (3)全試行にわたる方略‑各被験者について全試行にわたる方略を調べた。 win‑stay率は 全試行中のwin‑stay した回数を正の強化を受けた回数で割った値であり、 lose‑shift率は全試 行中のIose‑shift した回数を負の強化を受けた回数で割った値である。表10に示した win‑stay 率では、 1度も正の強化を受けずに学習基準に達した者(保存児の前条件1名、後条件3名と非 保存児の後条件2名)は除かれている。重みづけをしない平均法を用いた分散分析を行ったとこ ろイントロタクトの位置の主効果のみがF(l,118)‑9.69, ♪<.01 (MSe‑0.1)であり、前条 件の方が有意に高かった。表11に示したIose‑shift率では、 1度も負の強化を受けずに学習基準

に達した者(保存児の前条件2名、後条件3名と非保存児は各条件1名ずつ)は除かれている。

(14)

表10 win‑stay率の平均(標準偏差) 表11 lose‑shift率の平均(標準偏差)

平  均   0. 63     0. 46 平  均   0.68     0.67

分散分析の結果は保存性の主効果のみがF (1, 117)‑3.97, p<.05 (MSe‑0.06)であり、保 存児の方が有意に多かった。

考察  全試行にわたるwin‑stay率では保存性による差がなく、 lose‑shift率では保存児の 方が高かったという結果は本実験の予想と一致する。この予想のもとになっているGholson ら (1976)の実験も全試行について分析しているので、彼らがブランク試行プローブで見出した結 果は一般性があるといえる。したがって、数と長さ(本実験)および数と液量(Gholsonら)で 査定された幼児の保存能力は、弁別学習において正の強化のあとで仮説を維持する行動には反映 されないが、負の強化のあとで仮説を変更して新しい仮説をつくる行動に対して分化的に作用す るといえる。言い換えれば、正の強化に対しては保存児も非保存児も同様な反応を示すが、負の 強化に対しては保存児の方がより敏感に反応し、負の強化を取り入れて行動を修正することがで きるのである。もっと一般的にいえば、発達的変化は正の強化ではなくて負の強化に対する感受 性の変化であることが示唆される。

第1試行におけるwin‑stay者とIose‑shift者の割合については保存児と非保存児の問に有意 差がなく、木実験の予想と一致しなかった。ちなみに、 4試行までに学習基準に達した者を除き、

保存児42名と非保存児54」iこついて最初から5試行までのwin‑stay率とIose‑shift率を算出し た。 Ivin‑stay率の平均(∫∂)は保存児0.71 (0.39)、非保存児0.71 (0.45)でまったく同じで あり、 lose‑shift率も同じ順に0.73 (0.28)と0.66 (0.34)であまり差がなかった。このこと から、学習の初期の段階では保存能力が仮説行動に反映されないが、学習試行が進むにつれて負 の強化に対して分化的に行動するようになり、保存児のIose‑shift率が非保存児よりも高くなる のではないかと考えられる。

Cantor and Spiker (1982)はwin‑stay方略もIose‑shift方略もともに後イントロタクト条 件の方が多く示されることを報告しているが、本実験の結果は第1試行のwin‑stay者とIose‑

shift者および全試行のwin‑stay率において前イントロタクト条件の方が多かった。このよう な相違は2つの実験で用いた課題と手続きの相違によると考えられ、さらに検討する必要があ る。

要   約

幼児の保存性と弁別学習の関係を検討するために、 3つの実験が行われた。実験IとⅡでは数 の保存課題により、実験皿では数と長さの保存課題によって保存児と非保存児が選ばれ、色(赤 と青)と形(円と正方形)の2次元2価の弁別課題が与えられた。

実験I : Tighe and Tighe (1972)の研究から、非逆転移行の不変化対で自発的逆転を示す者

(15)

256

杉村 健・清水益治・表野盟子・山本洋子

は非保存児よりも保存児で多いことが予想された。連続10回正反応または連続10回+10回正反応 の訓練基準に達したあとで、非逆転移行課題が20試行与えられた。自発的逆転者の割合は保存児 59.Z&%、非保存児57.815 であって予想は支持されなかったが、原学習が速い者(75.75^)は 遅い者(43.7530 に比べて自発的逆転者が多く、自発的逆転は保存性ではなく原学習の速さに 依存している。

実験n :Kendler (1979)のモデルから次のことが予想された(1)選択的に符号化して仮説 検証する者は非保存児よりも保存児の方が多いであろう。 (2)非選択的に符号化して漸増的に学 習する者は保存児よりも非保存児の方が多いであろう。連続10回正反応または連続10回+10回正 反応の訓練基準に達したあとで、任意移行課題を連続10回正反応まで行ない、続けてテスト弁別 課題を20試行与えた。選択的に符号化して仮説検証する者(逆転移行を示しwin‑stay方略を用 いる老)の割合は保存児25.0^、非保存児IZ.2%であり、予想(1)は支持された。非選択的に符号 化し漸増的に学習する老(逆転移行を示さずwin‑stay方略を用いない者)の割合は保存児18.3

%、非保存児27.%%であって予想された傾向を示したが、統計的には有意にならなかった。

実験I : Gholson ら(1976)の研究から、 win‑stay方略を用いる者は保存児、非保存児とも に同じ程度であるが、 lose‑shift方略を用いる者は非保存児よりも保存児の方が多いと予想され た。被験者は弁別学習の各試行において"仮説"を言語化するように求められ、その仮説につい てwin‑stay方略とIose‑shift方略を分析した。第1試行のみの分析では保存段階による違いは 全くなかったが、全試行の分析では予想通りの結果が得られ、負の強化に対する感受性が子ども

の認知発達に依存して変化することが示唆された,i

h HD^EHLl!

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(付記) 本研究の資料収集にあたり、実験Iでは晩成幼稚園、常盤幼稚閲、常盤保育閲、実験Ⅲでは飛鳥 幼稚園、耳成幼稚園、実験皿では佐保幼稚園、富雄北幼稚園の御協力を得たO記して感謝の意を表しますO

(17)

258

Children's Conservation and Discrimination Learning

Takeshi SuGIMURA, Masuharu SHIMEU, Chikako HYONO and Yoko Yamamoto

{Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan) (Received April 1, 1986)

Three experiments were performed to examine the relationship between discrimination learning and children's conservational level assessed by the conservation tasks of number (Exps. I and II) and number and length (Exp. III). Among older kindergarten children, conservers and nonconservers were selected on the basis of the conservation tasks and then were given discrimination tasks with color (blue and red) and form (circle and square).

Experiment I: It was predicted from Tighe and Tighe (1972) that the percentage of the subjects who showed spontaneous reversal would be greater for the conservers than for the nonconservers. After the training criterion of 10/10 or 10/10+10 correct responses, the subjects were given a nonreversal shift task. The prediction was not supported since the percentage was 59. 38 and 57. 81 for the conservers and the nonconservers, respectively.

It was found, however, that the percentage depended largely on rate of original learning:

75. 75 for the fast learners and 43. 75 for the slow learners.

Experiment II: It was predicted from Kendler (1979) that (a) the percentage of the subjects who encoded selectively and tested hypotheses would be greater for the conservers than for the nonconservers, whereas (b) the percentage of the subjects who encoded non‑

selectively and learned incrementally would be greater for the nonconservers than for the conservers. After the training criterion of 10/10 or 10/10+10 correct responses, the subjects were given an optional shift task and then a test discrimination task. The prediction (a) was supported by the丘ndings obtained from the optional shift and test discrimination tasks.

Experiment工II: It was predicted from Gholson et al. (1976) that the percentage of the subjects who showed win‑stay strategies would be equal approximately both for the conservers and for the nonconservers while the percentage of the subjects who showed lose‑shift strategies would be greater for the conservers than for the nonconservers. During discrimination learning the subjects were required to give a verbal report describing the hypothesis on every trial. The prediction was supported when the strategies were analyzed for all trials but not supported when the strategies were analyzed only for the first trial.

It was suggested that children s sensitivity to negative reinforcements changed depending on congnitive development.

参照

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