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幼児における文字の弁別と読みと模写

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(1)

幼児における文字の弁別と読みと模写

著者 今井 靖親

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

29

1

ページ 219‑229

発行年 1980‑11‑25

その他のタイトル Discrimination, Reading and Copying of Letters in Young Children

URL http://hdl.handle.net/10105/2434

(2)

幼児における文字の弁別と読みと模写

今  井  靖  親 (心理学教室) (昭和55年4月30日受理)

一般に「読み」の学習過程には、 (a)文字の形態的特徴を他から区別する「弁別」 (discrimina‑

tion)の段階があり、次に(b)或る文字とその文字固有の音声(発音)の逮合(letter‑sound corres‑

pondence)を学習する「文字読み」の段階があり、さらに(C)この第2の段階の高次化として語や 文の読みの段階がある。これに対して、 「書き」の学習では最初に(a)文字を模写したり、なぞっ て書いたりする段階があり、ついで、 (b)みずから個々の文字を表記する段階を経て、 (C)語や文な

どを書く段階へと至る過程が存在する。

幼児期から学童期にかけての子どもの自然的文字学習をみると、初めに「文字弁別」や「文字 読み」が習得され、これらがある程度進んだ段階で「文字の模写」や「文字の表記」が開始され るのではなく、最初から「読み」と「書き」とは相互に密接に関連し合って習得が進められるの が普通である。したがって、幼児期から学童期にかけての言語発達や言語教育の研究では、 「読 み」と「書き」の発達的関連を明らかにすることが、重要な課題であると言えよう。

そこで、本稿では、まず「読み」・「書き」に関する従来の研究の中から、幼児の文字弁別、文 字読み、文字の模写(なぞり書き)、文字書きなどについて、相互の関連性を検討した論文をと

りあげてみる。

初めに、図形や文字の弁別訓練と読み学習の速さの相互関係を調べたものに、杉村・久保 (1975)がある。彼らは、読み学習用の単語を読めない幼児を対象に、中央の標準図形(文字) を下方の4つの刺激図形(文字)の中から選択させる弁別課題を16種与えたのち、読み学習とし て、 4つの単語の提示を1試行とする学習試行2試行と、テスト1試行とを交互に7回くり返し、

正反応数を調べた。その結果、図形弁別と読み学習の相関(r,‑.289)は、いずれも1%水準で 有意であった。また、弁別課題の成績上位群と下位群に分けて、読み学習の成績を比較したとこ ろ、上位群のほうが下位群よりも1%水準でよい成績を示した。このことから杉村・久保は、図 形と文字の弁別能力の高い者は、読み学習の成績がよいと結論づけている。

次に、文字の弁別訓練と文字のなぞり書き・模写との関連を調べたものに、 Hirsch& Nieder‑

meyer (1973)がある。彼らは、幼稚園児を、 (1)文字を模写する群、 (2)徐々に消えていく点線文 字をなぞる群、 (3)弁別訓練の後に文字を模写する群、 (4)弁別訓練の後に、徐々に消えていく点線 文字をなぞる群、の4群に分けて検討したが、模写・なぞり書きとも、弁別訓練の有無によって 左右されないことがわかった。杉村・矢吹(1978)も、文字の弁別訓練が文字書きを促進するか

どうかを調べてみたところ、弁別訓練群のはうがわずかに成績がよかった。

ところで、文字弁別能力を測定するものの1つに抹消テストがある。これには1つの文字と同 じものを他の異なる文字群の中から捜し、それに斜線を引かせる方法が多く用いられる。小林 (1971)は、幼稚園5歳児、小学校1年生、 2年生および中学2年生を対象に、平がなの抹消の 難易度を測定している。それによると、年齢とともに平均正抹消数が増加する傾向があること、

219

(3)

文字の読みやすさが増加する傾向があること、文字の読みやすさの順位相関は、小1と小2では rs‑.87であるのに、幼稚園児と小1ではrs‑.56、幼稚園児と中学2年生ではrs‑.20で、幼児

と小・中学生の問にずれが見られたことを報告している。また、田中・藤田(1976)は、平がな と片かなの抹消量を調べた結果、幼稚園児では平がなと片かなの抹消量に差はなかったが、小学 校1年生では平がなが片かなより成績がよかった、と報告している。

上記の小林(1971)と田中・藤田(1976)の結果は、幼稚園児と小学生以上とでは、抹消課題 遂行に明白な差異のあることを示している。恐らく幼稚園児では、まだ文字の読みが完成されて いないので、字形による弁別を行なっている者が多いのに対して、小学生以上では読みの力を借

りて弁別を行なっている者が多いためではないかと考えられる。

それでは、書字と読みの関連を扱った研究には、どのようなものがあるだろうか。国立国語研 究所(1972)は、平がなの読みと書きについて調べ、書く能力は読みの能力とともに発達するが、

特に読字数が21字〜59字の段階の者では、筆順も字形も正しく書ける者の割合が与に過ぎないの に、読字数が60字以上になると、そのiが正しく文字を書けるようになると報告している。これ に対し、杉村・矢吹(1978)が片かなを用いて、幼児に片かなの読みを教えた場合と教えない場 合とで、書字の成績が異るか否かを検討したところ、読みの訓練によって、音字の成績は促進さ れず、しかも、読み訓練なしのほうが、読み訓練ありより、若干ではあるが、成績がよかった。

このほか、浜崎(1978)は、幼児を対象に、平がなにおけるなぞり書きと、模写および書字数と の関係を調べている。彼の研究では、なぞり書きに優れている者は、模写・書字数とも成績がよ かった。また、 Hirsch & Niedertneyer (1973)は、前述した方法でなぞり書きと模写の成績を 比べ、書字能力を高めるには、なぞり書きより模写のはうが有効である、と報告している。

以上、幼児の「読み」・「書き」に関する従来の研究をいくつか紹介したが、そのほとんどが文 字の読みと弁別、あるいは読みと模写などのように、 2つの課題の関係について調べた研究であ って、読み・弁別・模写の3つの課題について、相互の関連性を研究したものはないようである。

そこで、本研究では、文字読みをまだ十分に達成できていない幼児を対象に、かな文字の読み・

弁別・模写の発達的関連性について検討する。

方    法

実験計画 2×2×3の要因計画が用いられた。第1の要因は性(男、女)、第2の要因は実 験に用いる「かな」 (平がな、片かな)、第3の要因は課題(文字弁別、文字読み、文字の模写) である。本実験では、弁別力を測定するものとして抹消課題を採用した。第2と第3の要因は被 験者内の要因である。

被験者 被験者は大阪府守口市、私立守口東幼稚園のEa児40名(男女各20名)であったO その 年齢の平均と範囲は、男児4歳9か月(4歳3か月〜5歳2か月)、女児4歳9か月(4歳3か 月〜5歳3か月)であった。

材料(1)抹消課題 田中・藤田(1976)の材料を参考にして、平がなについて2テスト、片か なについて2テスト、合計4テストを作成した。図1に示したように、各テストとも8行から成

りたっており、各行は2文字の見本文字を左端にし、その右側に抹消対象となる2文字の比較文 字(見本文字と同じもの4組と、それ以外の9組の文字)をランダムに並べてある。テスト1の 見本文字は「れへ、ぬせ、ねく、えに、るあ、ろつ、ちめ、てみ」で、テスト2は「ゆき、いも、

(4)

ア  ス  ト  1

れへ てす れへ るそ ひい れへ つや せせ そき れへ ろみ れへ みよ ひて ぬせ あも なえ ぬせ よく ぬせ てこ ちら ぬせ すら ひか いこ ねせ てむ ねく ねく くそ よめ ねく とめ め把 とほ もふ もう ねく ヤは うの ねく

えに 音 え把 をあ いひ れつ えに ゆす らそ えに およ そあ えに し るあ かみ るあ しゆ ろつ るあ えれ めら せつ るあ ね卓 はも るあ ちそ ろつ ろつ とむ 竜な ろつ みb たか くへ ろつ :I b L ね らめ けう ろつ ちめ ちめ も上 にれ ちめ うゆ ちめ あヘ ヤち へれ 托せ ちめ かふ ろか てみ 比に てみ くひ ねと てみ わく 剖ま ろる てみ かひ とひ しれ てみ

図1‑a 抹消課題の材料(平がな)

r^^^Kj  旧  Ej

#ァ ゆ巷くそよめゆきとめめにと性もふもうゆきやはうのゆ 、も ひわていきろいもきはとぬいもbて寺たいもうなひあい な ナをも上にれナなうゆすをあヘヤちへれ托せナなかふろ ら はにむらくひねとむらわく卓はろるむらかひとひしれむ あ上とわたえいへ9 わたこつわたねろふてかよわたも と かみひとしゆるつひとえれめらせつひとねきほもひとち せ やせとむ専攻やまみ9 たかくへやせみD Lねらめけうや け VE:ゆかけわてこぬかけかそうなbこおけみせかけ bむさ

図l ‑(b)抹消課題の材料(平がな)

すな、むら、わた、ひと、やま、おけ」で、テスト3はテスト1を、テスト4はテスト2を片か なにかえたものである。

(2)読み課題 抹消課題に用いた見本文字(平がな32文字、片かな32文字)を桟に3文字ずつ (最後は2文字) 6.5cmx19cmのカードに明朝体で書いてある。図2はその1例である。

(3)模写課題 国立国語研究所(1972)において、平がな字形の複雑度が3要素および4要素の 文字で、抹消課題の見本文字の中から選んだ平がな8文字(3要素:す・て、 4要素:あ・た・

ぬ・ひ・ま・ろ)と、同じ音の片かな8文字、合計16文字である。図3のように、 4.5cmx4.5c皿 の正方形カードの中に書いたものを見本とし、被験者には8.5c皿×8.5cmの正方形を印刷した用紙 を与えた。

(5)

*.」た x7^

図2 読み課題に用いたカ‑ドの一例

雇用‑i

:=7 X

図3 模写課題に用いたカ‑ドの一例

手続き 実験は被験者の所属する幼稚謁で個別に行なわれた。あらかじめ6通りの課題遂行の 順序をつくり、それぞれの組にはぼ同数の被験者を割り当てた。

(1)抹消課題 練習課題で課題の要領を会得させたのち、テストを与えた。各テストの試行時間 は1分間である。練習課題では、次のような教示を与えた。 ヽこれ(見本文字)と同じのは、ど れですか。同じだと思ったら、このように線を引いてください。、実験者が抹消をやってみせた 後、被験者が練習課題をマスターするまで行ない、続いてテストに移った。この際、被験者が見

やすいように、各行ごとに見本文字と比較文字の下に30C皿の長さの定規をあて、それを実験者が ずらしてやりながら課題を行なわせた。テストの順序は24とおり作り、順番に被験者に遂行させ た。

(2)読み課題 半数の被験者には平がな読み課題を与え、続いて片かな読み課題をさせた。残り の半数の被験者には逆の順序で行なった。本研究では実験者が1字1字指で押さえて、被験者に 言わせる方法を用いた。教示は次のとおりである。 、これから、わたしが字のカードを見せます から、知っている字があったら読んでくださいね。、

(3)模写課題 読み課題で初めに平がなを与えられた被験者には、平がな‑⇒片かなの順序で、

また初めに片かなを与えられた被験者には、片かな→平がなの順序で行なった。被験者の前に 模写用紙を置き、その左上方に見本を置いた。被験者には2 Bの鉛筆が与えられ、次のような教 示がなされた。 、これから見せる字と同じ字をここに書いてください。ヽ

読み課題では正答に対して1点を与えたO平がな32点、片かな32点、満点は64点である。抹消 課題では抹消の正答1つに1点を与えた。満点は124点である。模写課題では筆順を正しく書け ば(筆順正答) 1点、字形を正しく書けば(字形正答) 1点、字形も筆順も正しければ(完全正 答) 2点を与えた。満点は平がなも片かなも16点、合計32点である。表1は課題別の平がな、片

かなの平均得点と標準偏差を示したものである。

標準得点による分析 抹消課題の満点が124点、読み課題の満点が64点、模写課題の満点は36

(6)

表1 素点による平均と標準偏差

男sXD

抹 消 課題     読 み課題 平がな  片かな

17.30  15.20 (7.71) (6.90) 19.30  16.00

平がな  片かな

16.45   6.30 (12.78) (10.03)

22.40    3.90 SD (5.75) (5.20) (12.24) (7.65)

18.30  15.60 19.43    5.10

模 写 課題

平がな  片かな 7.30   7.90 (4.37) (4.28) 10.25   9.65 C4.12) (3.13)

8.78   8.78

点、というように満点が大きく違うので、 3つの課題の関連をみるために、課題ごとに標準得点 (Tスコア)を求めた。なお、課題の素点の最高得点、最低得点、平均点、標準偏差は、次のと おりである。抹消課題では最高が42、最低は6、東‑16.95、 SD‑6.65、読み課題では最高が32、

最低は0、文‑12.26、 SD‑13.21、模写課題では、最高が16、最低は1、吏‑8.78、 SD‑4.19 であった。表2は課題別の平がな、片かなの標準得点の平均と標準偏差とを示したものである。

2 (性) ×2 (かな) ×3 (課題)の分散分析をした結果が表3に示されている。かなの主効 果が1%水準で有意であった。これは片かなより平がなの成績がよかったことを示している。性

とかなの交互作業が5%水準で有意であった。この結果をもとに差の検定を行なってみたところ、

男女ともに平がなは片かなより成績がよかった(男子 t‑3.25、 df‑38、 P<.01;女子: t

‑6.97、 dj‑38、 P<.01)c いっぽう、平がなでは女子が男子よりも高い得点を示したが(t ‑ 2.03、 df‑76、 P<‑01)、片かなでは両者に差がみられなかった。次に、かなと課題の交互作用 が1%水準で有意であった。この結果にもとづいて差の検定を行なったところ、抹消課題と読み 課題では平がなのほうが高い得点を示したが(抹消: t‑3.72、 df‑lU、 P<.01;読み: t‑

10.17、 df‑¥U、 P<‑01)、模写課題では差がみられなかったO また、平がなでは、読み、抹消、

模写の順に課題における成績がよかったが、片かなでは逆の傾向が認められた。

課題間の相関 ピアスンの相関係数を標準得点を使って算出したところ、表4のような結果が 得られた。片かなの読み課題と平がなの模写課題、片かなの読み課題と片かなの模写課題との問 には、有意な相関はみられなかった。平がなの読み課題と平がなの模写課題、片かなの抹消課題 と片かなの模写課題においては、 5%水準で相関があった。他はすべて1%水準で相関が認めら れた。特に相関が高かったのは、平がなの抹消課題と片かなの抹消課題(r‑.87)と、平がな

表2 標準得点による平均と標準偏差

抹 消 課題     読み 課題     模写課題 平がな  片かな   平がな  片かな   平がな  片かな

男sXD

50.65   47.55 (ll.59) (10.39)

53.70   48.70 SD (8.61) (7.87)

53.45   45.45 (9.47) (7.59) 57.70   43.55 (9.13) (5.76)

46.50   47.95 (10.47) (10.24)

53.65   52.10 C9.75) (7.50)

(7)

表3 分散分析表

SS    朋    MS Between Subjects

牲(A)

error (∂)

Within Subjects かな(B) AXB error (m) 課題(C)

AXC

error (ォ,2)

B xC AXB XC

error (^3)

12222. 00   39

531.04        531.04 11690.96   38   307.66 11727.50  200

1535.21      1535.21 203.50        203.50 1120.79   38    29.49 0.61         0.31 223.23        111.62 5743. 16   76    75.57 1246.01        623.01 48.65         24.33 1606.34   76    21.14

1.73

52.06**

6.90*

* Pく.05 ** Pく.ol

表4 かな別にみた課題間の相関(r)

平 が な  i   片 か な

片かな 抹 消 読 み

抹 消r読 みT模 写

44 :  .87

r‑.304以上でPく.05、 r‑.393以上でPく.ol 表5 課題ごとの相関(r) 抹消課題と読み課題     r ‑.70 抹消課題と模写課題     r ‑.46 読み課題と模写課題     r ‑.43

.55   .42 .49   .35

r‑.393以上で Pく.01

の模写課題と片かなの模写課題(r ‑.76)であった。平がなの読み課題と片かなの読み課題の 相日射まr‑.49であった。なお、文字(かな)の要因をこみにして、課題ごとの相関を調べたと

ころ、表5のような結果が得られた。

素点による課題ことの分析 次に素点を用いて課題ごとの分析を試みた。

(1)抹消課題 2 (性) ×2 (かな)の分散分析を行なったところ、かなの主効果が1%水準で 有意であった(F (1、 38) ‑25.18、 P<.01)< これは、抹消課題では平がなが片かなの場合

(8)

より成績がよかったことを示している。

(2)読み課題 2 (性) ×2 (かな)の分散分析を行なったところ、かなの主効果が1%水準で 有意であった(F (1、 38) ‑70.35、 P<.01)< これは、読み課題でも平がなが片かなの場合 よりも成績が高かったことを示している。また、性とかなの交互作用が5%水準で有意であった

(F (1、 38 (‑5.98、 P<‑05)c これより男女とも片かなの成績よりも平がなの成績のほうが 有意によいことがわかった。

(3)模写課題 2 (悼) ×2 (かな) ×2 (筆順・字形)の分散分析を行なったところ、かなと 筆順・字形の交互作用だけが1%水準で有意になった(F (1、 38) ‑9.94、 P<.01)c この結 果をもとに差の検定を行なったところ、筆順では平がなが片かなより成績がよかったが(t ‑2.

10、 df‑76、 P<.05)、字形では片かなが平がなより高い得点を示した(t ‑2.10、 J/‑76、

P<.05)c また、片かなは筆順より字形が高い得点を示したが(t ‑2.13、 〟‑76、 P<.05)、

平がなでは差が見られなかった。

考    察

本実験の目的は、文字読みをまだ十分に習得していない幼稚園児4歳児を対象に、文字の弁別、

読み、模写の相互関連性について検討することであった。主な結果は次のとおりである。

(1)男子と女子の問の成績の差、すなわち性差は、どの課題においても認められなかった。

(2)抹消課題と読み課題においては、平がなを用いた場合のほうが、片かなを用いた場合より成 績がよかった。しかし、模写課題では差が認められなかった。

(3)読み課題と抹消課題、読み課題と模写課題、抹消課題と模写課題に、ともに1%水準で有意 な相関が兄い出された。

まず、結果(1)の性差がみられなかったことについて考察を行なう。

藤田(1975)は、平がなと片かなを用いた1文字抹消、 2文字抹消とも、女子は男子より優れ た得点を示していると報告し、田中・岩崎・三木(1974)も、平がな抹消、漢字抹消ともに、男 子より女子が優れていると報告している。本実験では統計的には性差は認められなかったが、素 点の平均で、男子は16.25、女子は16.65と、わずかに高かった。これらの結果から、抹消課題で は、一般には女子は男子より成績がよい、と言えるようである。

本実験では、読み課題および模写課題においても性差は認められなかったが、登根・福山・浜 崎(1977)は、なぞり書きで、 3歳児・ 4歳児・ 5歳児のいずれにおいても、男児より女児の成 績がよかったことを報告している。また、岡本(1973)も5歳児において、読み・書きとも女子 が男子よりも成績がよいことを兄い出している。しかし、いっぽう国立国語研究所(1972)は、

4歳児、 5歳児とも女子は男子よりよく書けるが、地域別にみると、 4歳児では東京周辺の他は、

統計的に性差がないこと、また、読みに関しては、 5歳児では女子は男子よりもよく読めること が認められるが、 4歳児では書きと同じく、東京周辺で女子が男子よりよいだけで、全体的な傾 l如ま一貫していないことを指摘している。

以上要するに、文字の弁別・読み・模写のいずれにおいても、一般に男子より女子のはうが優 れているか、あるいは両者に差はないと言うことができよう。少なくとも、これらの課題におい て、男子が女子よりも優れているという報告は見あたらない。

次に、結果(2)について考察する。

(9)

まず、抹消課題で平がなを用いたほうが片かなを用いた場合より成績がよかったことは、藤田 (1975)の結果と一致している。彼は、 2文字抹消では、単に文字の形態的要因のみならず、文 字の示す語の意味性や、その文字に接する経験の多寡が、その難易の規定に大きくかかわってく る、と説明している。現在では、幼児が平がなを見る機会は、絵本やテレビなどをとおして、広

く生活環境の中に浸透しているし、普通なら片かな表記の擬声語や外来語までもが、幼児向けの 本では平がなで書かれている場合が多い。いっぽう、わが国の正書法が漢字まじり平がな書きで あるために、入学後は平がなに接する機会はさらに増す。このような理由から、抹消課題と読み 課題においては、一般に平がなの成績がよく、先に指摘した如く、幼児と小・中学生の問に異な

った傾向がみられたのも、上述のような、被験者の文字に接する経験の多寡が関与しているため だと考えられる。

ところで、今泉(1955)は、国語教師の経験と研究をもとに、片かなが直線的で字形も簡単で あるのに対して、平がなは、 (1)線と形が不規則なこと、 (2)つづけ字であること、 (3)画数が多いこ と、を挙げて、平がなは片かなより字形の困難度が高い文字であると指摘している。本実験にお いても、片かなでは字形の成績がよく、平がなでは筆順の成績がよいことが明らかにされた。こ れらの点を考慮すると、模写課題で平がなと片かなに差がなかったのは、片かなよりも平がなの ほうが、 (1)文字の要素数が多く、 (2)字形も複雑で不規則なものが多いため、たとえ読むという形 で文字に接する機会が多いとしても、書字行動においては、字形や筆順のル‑ルの理解と、手や 指の運動能力の発達が要求されるので、文字の種類には関係なく、課題における困難度が高かっ たことを示唆していると思われる。

最後に結果(3)について考察する。

本実験では、読み課題と抹消課題の成績の相関はr ‑.70と高かったが、読みと弁別の間に相 関があったという点では、杉村・久保(1975)の結果と類似している。しかし、杉村らの場合は、

図形弁別と読み学習の相関がrs‑.279、 P<.01、文字弁別と読み学習の相関がrs‑.289、 P<

.olであって、本実験結果に比べ、かなり低い数値である。彼らの実験では、読字力の測定では なく、読みの学習をさせていること、弁別能力の測定といっても、抹消課題を用いていないこと など、本実験とは材料や方法が異なっている。それゆえ、両者を直接比較することはできないが、

この2つの実験は、弁別能力と読み能力の間には密接な関係があることを示唆している。

本実験において、上述したように、弁別能力と読み能力の相関が特に高かったのは、抹消課題 のもつ特殊性を反映しているとも考えられる。なぜなら、抹消課題は、ただ単に見本文字と形態 的に同じ文字を比較文字群の中からさがしているのではなく、文字の発音や意味も弁別の手がか りとして用いられていると思われるからである。恐らく、文字読みの能力の低い者は、ほとんど 文字の形態的な弁別だけで抹消課題を遂行し、反対に文字読み能力の高い者は、形の弁別の他に 文字の持つ音や意味なども手がかりにして課題を遂行しているであろう。つまり、抹消による弁 別課題では、文字読みの能力によって結果が大きく左右されるのではなかろうか。この点、小林 (1971)や山中・藤田(1976)や藤田(1975)らの一連の研究では、実験材料の文字の種類や有 意味度などを統制しているものの、被験者の文字読み能力については統制せずに結果の比較を行

なっているので問題がある。

ところで、杉村・矢吹(1978)は、統計的には有意にならなかったが、弁別訓練が模写に影響 することを示唆し、弁別訓練は模写の成績を左右しないとする Hirsch& Niedermeyer (1973) の結論を批判している。本実験でも抹消課題と模写課題の問にr ‑.46、 P<.01でかなり高い相

(10)

関のあることが示されたが、どちらも目と手の協応などのような、視覚的認知能力‑筋肉運動 能力の発達と関連が深いので、このような結果が得られたと考えられる。なお、読み課題と模写 課題においても、 r‑.43、 P<.01で相関のあることが兄い出されたが、この点では、国立国語 研究所(1972)の、書く能力は読み能力とともに発達する、という調査結果を、本研究では実験 的に裏づけたと言えるであろう。

以上、本研究では、それぞれの課題の遂行能力に、相互に高い相関がみられたことを指摘し、

その理由について考察したが、なお詳細な検討が必要であると思われる。

要    約

本研究の目的は、幼児における文字の弁別と読みと模写の能力について、相互の関連性を検討 することである。被験者は幼稚園児、男児20名、女児20名で、その平均年齢は4歳9か月、年齢 の範囲は4歳3か月から5歳3か月であった。弁別課題として抹消課題が採用された。これは平 がなを用いたテスト2、片かなを用いたテスト2、合計4つのテストで構成されていた。各テス トでは試行1分間における被験者の正抹消量が査定された。読み課題では、抹消課題に用いた見 本文字(平がな32文字、片かな32文字)について、正しく読める文字数が調べられた。模写課題 では、抹消課題の見本文字の中から選んだ平がな8文字と、同音の片かな8文字を被験者に模写 させ、字形と筆順について採点した。

主な結果は次のとおりである。

(1)文字の弁別・読み・模写のいずれにおいても性差は認められなかった。

(2)平がなの抹消と読みは、片かなの抹消と読みよりも容易であった。これは、幼児における平 がなを見たり、読んだりする経験が、片かなのそれよりも多いことを反映していると思われる。

しかし、平がなの模写と片かなの模写の成績には差が認められなかった。これは、文字の種類に は関係なく、幼児がまだ模写(字形・筆順)のルールを理解していないこと、また手や指の運動 能力が未発達なことが影響していると思われる。

(3)読みの能力と弁別の能力の間にはr ‑.70、 P<.01、読み能力と模写能力の間にはr ‑.43、

P<.01、弁別能力と模写能力の問にはr‑.46、 P<.01で、有意な相関が認められた。これは、

文字を弁別したり、梗写したりする能力が、文字の読みの能力と密接な関連をもっていることを 示唆している。このように高い相関がみられた理由については、今後さらに詳細な検討が必要で ある。

引用文献

浜崎幸夫1978 なぞり行動の発達的研究(5)一 男女差と文字習得過程‑日本教育心理学会第20回総会発表 論文集、 76‑77.

Hirsch E. & Niedermeyer F.C. 1973 The effects of tracing prompts and discrimination training on kindergarten handwriting performance. Journal of Educational Research, 67, 81‑86・

藤田善正1975 文字認知の発達に関する研究I 関西心理学会第87回大会発表論文集、 431 今泉運平1955 ひらがなの学酎旨導、東京、光風出版.

小林芳郎1971文字の認知に関する発達的研究‑ひらがな文字の認知について‑大阪教育大学紀要、 20、

Ⅳ、 127‑137.

(11)

国立国語研究所1972 幼児の読み書き能力、東京、東京書籍。

村田孝次1974 幼児の書きことば、東京、培風館。

岡本杢六1973 就学前園児の能力調査と言語指導、児童心理、 27、 2372‑2383.

杉村健・久保光雄1975 文字の読み学習に及ぼす弁別訓練の促進効果、教育心理学研究、 23、 213‑219.

杉村健・矢吹典子1978 文字書きの指導法に関する実験的研究、近畿大学教育研究所紀要、 4、 9‑14.

田中敏隆・藤田善正1976 文字認知に関する発達的研究(8)、日本教育心理学会第18回総会発表論文集、 200

‑201.

田中敏隆・岩崎純子・三木千勢1974 文字認知に関する発達I、心理学研究、 45、 38‑45.

登根健之助・福山和明・浜崎幸夫1977 なぞり行動の発達的研究(2)、日本保育学会第30回大会研究論文集、

162.

〔付妃〕 本研究をまとめるにあたり、本学教授杉村健先生から有益な御教示をいただきました。また、資料 の収集・整理は山本加寿代さんのお世話になりました。記して心から感謝いたします。実験を行なった際K は、守口東幼稚園の先生方と園児の皆さんに御協力いただきました.厚くお礼申し上げます。

(12)

Discrimination, Reading and Copying of Letters in Young Children

Yasuchika lMAI

Department of Psychology, Nara University of Education, Nara, Japan (Received April 30, 1980)

The present investigation was designed to examine the relationship among the abilities of discrimination, reading, and copying of letters in young children.

The Ss were 40 kindergarten children with a mean age of 4 year, 9 months.

As the discrimination task the cancelling test with the 2 tasks (hiragana‑letter cancelling and katakana‑letter cancelling) was administered and the number of letters cancelled correctly for a minute was assessed.

In reading task the number of hiragana‑letters and katakana‑letters read correctly was measured. In copying task the Ss were asked to copy 8 hiragana‑letters and 8 katakana‑letters, and the letter forms and the letter orders written by Ss were evaluated.

The main results obtained are as follows:

(1) The cancelling and reading hiragana‑letter were easier for young children than those of katakana‑letter, but there was no significant difference between copying hiragana‑

letter and copying katakana‑letter.

From the result it may be explained that a great many Japanese young children have much prior exposure to picturebooks, storybooks, newspapers, magazines and the like written by hiragana‑letters be for they enter school, and these experiences provide children more opportunities of learning to discriminate and to read hiragana‑letters than katakana‑

letters. However they do not yet acquire exact knowledge about the rules of writing

letters.

(2) The correlation coefitients were statistically significant at the 1 % level for all

comparisons as follows;

discrimination vs. reading‑‑‑‑‑・r ‑.70

reading vs. copying‑‑‑‑・r ‑.43

discrimination vs. copying‑‑‑‑‑ ‑.46

This suggests that Ss'ability to discriminate letters and to copy letters are posi‑

tively related to their ability of reading letters.

参照

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