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幼児の線分方位弁別能力に関する一基礎資料

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(1)

幼児の線分方位弁別能力に関する一基礎資料

一水平vs.斜め線分弁別に及ぼす傾斜枠組みの効果一

加 藤 義 信

 外的世界の認識=「分かる」ことは,「分ける」ことを出発点としている。与えられた混沌と して複合的な現実世界に線引きをして,その一部を世界全体から引き離すことが,知覚するこ と(perception)1)知ることの本来の意味であった(ちなみに, perceptionの語源,ラテン語の percipereは, per「横切って」capere「捉える」ことであった。フルキエ, P.;1976)。「分ける」

とは,主体が現実世界の諸対象にそれぞれ異なる意味を持ち込むことでもある。しかしながら,

異なる意味は純粋に主観から生まれるわけではなく,主体の現実世界への活動(実践)を媒介 とする。その実践の結果,対象的世界の多様性の一部が他と異なるものとして示差的

(distinctive)に主体に開示されることが,主体の側に力点をおくと意味の発生であり,客体 の側に力点をおけば認識の発生なのである。

 認識の問題をこのように原理的に考えると,伝統的心理学が対象(刺激)弁別の能力の発達 やある対象間の弁別に伴う困難を規定する条件の解明に力を尽くしてきたことは,故なしとは いえない。弁別とは,「見分ける」ことであり,「聞き分ける」ことであり,見分けたり聞き分 けたりした対象の差異性を一定期間,記憶に保持することである。その弁別の能力が発達する とは,もちろん,現象的には第一に「見分け」や「聞き分け」が精緻になっていくことである       c

が,しかし,それを限りなく世界を断片化する能力の増大と受け取ってはならない。既に述べ たように,「分ける」とは世界全体の布置からその一部を切り離して浮きたたせる操作であり,

日常的な事態に即していえば,所与の文脈から当該の対象を切り離す操作のことであるが,そ の切り離しが一時の分節化にとどまらず一定期間保持されたり,永続的な分節として固定され るためには,主体は自ら新しい文脈を作り出したり,所与の文脈の組み替えを行い,その新た な文脈の中に切り離された対象を再び関係づけることが必要になる。こうして「分ける」こと によって世界はバラバラな断片としてでなく,再び別の秩序として主体にあらわれることにな る。かくして,弁別の能力の発達とは,課題の要請に応じて柔軟に所与の文脈から当該諸対象 を切り取り,それらを主体に自明として与えられた文脈とは異なる別の文脈の中に位置づける ことによって諸対象間の今までとは違った別の関係を発見する能力の発達であるだろう。

 本稿では,線分の方位弁別という最も単純な弁別を対象として,以上の基本原理を確認する

(2)

愛知淑徳大学論集 第17号

いo

 線分の方位弁別能力の発達については,図形や文字の方向認知に関する発達の問題の一環と して,1960年代以降,相当数の研究が行われてきた。一本の線分の方位が他の一本の線分の方 位と弁別可能かどうかという,現実の生活場面ではほとんど生態学的に重要な意味をもたない かくも単純な問題が,基礎能力の測定という以上に繰り返し心理学の研究論文で取り上げられ てきたこと自体,一見奇妙な現象にみえる。しかし,線分方位弁別は,線分方位一般の弁別と

して研究されたわけではなく,もっぱら「斜め弁別問題」として研究されたことを考えると,

この「奇妙な」事情が理解できるであろう。この事情の背景については,筆者は,別の稿で詳 しく論じたことがある(橋本・加藤;1988)。今,簡単に要約すれば,こうである。幼児の鏡 文字出現にみられるように,鏡映的関係にある図形間の弁別の困難性の問題は古くより関心が

もたれていたが(Corballis, M. C.,&Beale,1. L.;1976を参照),この問題を最も単純な形態で研 究する素材として鏡映的関係にある斜め線分どうしの弁別課題がまず注目され(Rudel, R. G.

&Teuber, H. L;1963),斜め刺激そのものの知覚的水準での検出とその生理的メカニズムに焦 点を当ててこの課題を用いる研究が行われるようになる。ところが,やがて,動物はともかく

も人間の子どもにおいては極めて早期から知覚的水準での斜線弁別は容易であることが明らか になると,幼児期の相当高い年齢まで依然としてこのような刺激間の弁別の困難な事態,即ち,

比較的記憶負荷の高い事態(継時弁別事態)でのパフォーマンスとそれを規定する条件の問題 に研究の焦点は移動していく(Bryant, P. E;1969)。また,このような事態での斜め線分間弁 別にたいし幼児が示す困難性は鏡映的か非鏡映的かに拠らないことがわかると,この弁別課題

は,もはや鏡映像弁別の1ヴァリエーションとしてでなく,幼児が対象一般の方位を記憶保持 しようとする場合にどのような符号化の方法を発達させていくかを調べる縮減された最も単純 な方法として,用いられるようになっていく。こうして,1970年代,1980年代には様々な条件 下における斜めどうしを含む線分の方位弁別実験が幼児において実施されることになった。

 幼児の行いうる線分方位の符号化とその発達については,今日までの研究によって様々な仮 説が提出されている。そのうち,最も注目すべき仮説は,おそらくBryant, P. E.(1974)の仮 説であろう。彼によれば,方位の符号化は,当該対象を周囲の刺激布置に関係づける「相対的 符号化」か,身体基準系に関係づける「絶対的符号化」かに大きく分類でき,子どもの符号化 方略は,前者の「相対的符号化」から「絶対的符号化」へと発達するという。そして,幼児期 は前者の「相対的符号化」方略の使用が優位で,後者の「絶対的符号化」方略の利用が困難な 時期,と主張した。しかし,この2つの符号化方略のどちらが優位に利用されるかは,子ども の「絶対的符号化」方略の精緻化の程度に依存すると同時に,刺激布置内にどのような空間情 報が存在するかにも依存するであろう。実際,Fisher, C. B.(1979)は,刺激布置内に手掛か

りが一切ない事態では,幼児も身体基準系を用いた「絶対的符号化」によって斜めどうしの弁 別学習を行えるという事実を明らかにしており,このことからも,幼児が刺激布置内の空間情 報の質と量に依存して符号化方略の選択を行っている事情が看取できる。「絶対的符号化」か「相 対的符号化」かの選択だけでなく,複数の可能な「相対的符号化」方略の中から何が選択され

一146一

(3)

るかについても同様のことが言え,実際の場面で幼児がどのような手持ちの「相対的符号化」

方略を用いるかは,どの「相対的符号化」方略利用に有利な刺激布置が存在するかにかかって いる。こう考えてくると,Bryantの発達図式はそのままでは受容できない。おそらく,方位 の符号化方略の発達過程の一層の解明のためには,基礎作業として,各年齢段階において,ど のような刺激布置事態が「絶対的符号化」方略や特定の「相対的符号化」方略の使用を促進し たり阻害したりするかを,具体的に検討することが必要であろう。

 本稿では,水平線分と斜め線分間の弁別について,この点にかかわる問題を検討することと

する。

 斜め線分どうしの継時弁別は,身体基準系に関係づけた斜め方位内の分化したカテゴリーが あらわれる以前には困難であり,そのため幼児は様々な「相対的符号化」方略の適用を試みて

これに成功したり失敗したりするのだが(Bryant, P. E.;1973, Fisher, C. B.;1980),これにた

いして,斜め線分と水平あるいは垂直線分との継時弁別は,身体基準系との関係において既に 乳児期から分化していると考えられる「斜め」「水平」「垂直」のカテゴリー(Bomba, P. C.;1984,

Quinn, P. C、&Bomba, P. C.;1986)を用いて,与えられた刺激をこのカテゴリーのそれぞれに 属する別の刺激として処理すればよいので,一般に幼児にはきわめて容易である(Rudel, R.

G.&Teuber, H. L.;1963, Berman, P. W.&Cunningham, J. G.;1977)。この種の「絶対的符号化」

に加えて,「相対的符号化」方略利用の観点からみても,通常の弁別事態では刺激線分以外に 布置内に水平と垂直の基準線分がなんらかの形で与えられていることが多いため,水平一斜め 線分弁別は斜め線分どうしの弁別に比較し,幼児にとってはるかに容易ということになる。つ まり,ここでは,水平刺激線分は水平の基準線分と平行,斜め線分は水平ないしは垂直の基準 線分のいずれとも平行でないという「相対的符号化」(マッチーミスマッチの符号化:Bryant,

P.E.;1974)を行えば,弁別は容易に行われる。しかし,幼児の場合はまた,通常の事態では 容易なはずのこの種の弁別が,刺激布置事態によっては困難となる可能性がある。この可能性 は,ピアジェ型水平性課題の諸研究からも示唆されるところである(加藤;1979,加藤;1987)。

今,もし,この弁別事態に刺激線分のいずれとも平行情報を生じないような傾斜枠組みを導入 した場合を考えてみると,幼児は刺激線分に近接するこのような枠組みを無視して「絶対的符 号化」により弁別をすすめるか,近接傾斜枠組みよりも離れた位置にある基準線分とのマッチ ーミスマッチ情報の利用による「相対的符号化」によって弁別をすすめるしかない。どちらの 方略利用も,与えられたアーティファクトとなる文脈を積極的に無視することが必要なのだが,

はたして,幼児はこのような事態で依然としていずれかの符号化方略を用いて弁別が可能だろ うか。その可否は当然,幼児の年齢にも依存するであろうし,また,水平一斜め線分間の角度 差にも依存するであろう。本研究では,この点を以下,実験的に検討する。

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      愛知淑徳大学論集 第17号

       」    実   験

 目   的

 5歳児と6歳児の水平一斜め線分弁別について以下のことを調べる。

 1)刺激線分に近接してそれと平行情報を生じないような傾斜枠組みが導入された場合,そ   のような傾斜枠組みがない場合と比べて弁別の成績はどのように変わるか。

 2)その傾斜枠組みによる影響は,刺激線分間の角度差によって異なるかどうか。

 3)同時弁別と継時弁別ではどのような違いがみられるか。

 4)5歳児と6歳児では,弁別の成績にどのような違いがみられるか。

 方   法

1.実験計画

 線分弁別課題として,以下の3課題を行う。

 (a)刺激線分のいずれとも平行関係とはならない右30°に傾斜した枠組みを有する水平一斜め   線分同時弁別課題(以下,傾斜枠組み有同時弁別課題と略)。

 (b)上記(a)と同様の傾斜枠組みを有する水平一斜め線分継時弁別課題(以下,傾斜枠組み有継   時弁別課題と略)。

 (c)傾斜枠組みを有しない水平一斜め線分継時弁別課題(以下,傾斜枠組み無継時弁別課題と   略)。

 各課題は,刺激線分間の角度が異なる2条件(15°と7.5°)よりなる。これを5歳児,6歳 児に実施した。即ち,課題(3)×年齢(2)×角度条件(2)の要因計画であり,課題および年齢は被験 者間要因,角度は被験者内要因である。

2.被 験 児

 高知市内の幼稚園5歳児48名,6歳児48名。各年齢の男児8名,女児8名,計16名ずつが各 課題に割り当てられ,その平均年齢は表1の通りである。

      表1 各課題に割り当てられた被験児の平均年齢

年齢 課   題 角度差 人数 平均年齢

傾斜枠組み有同時弁別課題

15°

V.5°

16名 5歳3カ月 5歳児 傾斜枠組み有継時弁別課題

15°

V.5°

16名 5歳3カ月 傾斜枠組み無継時弁別課題

15°

V.5°

16名 5歳2カ月 傾斜枠組み有同時弁別課題

15°

V.5°

16名 6歳3カ月

6歳児 傾斜枠組み有継時弁別課題

15°

V.5°

16名 6歳3カ月 傾斜枠組み無継時弁別課題

15°

V.5°

16名 6歳3カ月

一148一

(5)

3 実験材料

(a}傾斜枠組み有同時弁別課題

 14(m×12㎝の長方形厚紙カードの下方より2㎝の位置に,幅2.5㎜の水平基準線分となる 赤いテープが底辺と平行に貼られている。このテープに右下の一角が接し,かつ右方向に 30°傾斜した一辺6.7㎝の正方形が黒インクで描かれている。正方形の中心には刺激線分と なる長さ4 om幅2.5㎜の赤いテープがカードによって,水平,左上がり15°,右上がり15°,

左上がり7.5°,右上がり7.5°の傾斜角度で貼られる。

 図1に見られるように,カードは3枚を1組として同時に提示できるようになっており,

中央に常に提示される1枚が標準刺激カード,左右2枚が選択刺激カードである。選択刺激 カードのうちのどちらか1枚の刺激線分は標準刺激カードの刺激線分と同一の傾斜角度と なっているが,他の1枚の刺激線分は異なっている。したがって,前者が選択されれば正反 応であり,後者が選択されれば誤反応ということになる。

 斜め線分の傾斜角度15°の場合の2枚の選択刺激カードの組み合わせには,水平一左上が り15°,水平一右上がり15°の2種類があって,水平のカードと斜め線分のカードのそれぞれ が正反応カードとなる場合があるので,計4通りの弁別の組み合わせができる。これに加え て,さらに位置反応を防ぐために正反応カードを右に提示する場合と左に提示する場合の2 通りを考え,合計4×2=8通りの弁別の組み合わせを作った。斜め線分の傾斜角度7.5°

の場合のカードの組み合わせも全く同様に作り8通りである。

(b)傾斜枠組み有継時弁別課題

 各カードは(a)の傾斜枠組み有同時弁別課題に使用するものと全く同じであり,カードの組 み合わせも同じようにして作る。しかし,今度は継時課題であるので,標準刺激カードと選 択刺激カードは別々に提示されることになる。

(c)傾斜枠組み無継時弁別課題

 14cm×12cmの長方形厚紙カードの下方より2cmの位置に,幅2.5mmの赤いテープが底辺と 平行に貼られている点は上記2課題のカードと同じであるが,この課題で使用するカードに

は傾斜正方形枠組みが描かれていない。刺激線分はカードの底辺より上方6.5cm,カード横 幅の中点を中心として長さ4cm幅2.5㎜の赤いテープを貼ることによって,上記2課題と同 様に作られている。以下,カードの種類,その組み合わせの種類,提示方法は(b)の傾斜枠組 み有継時弁別課題と全く同様である。

 なお,3課題のカード組み合わせの例を,斜め線分が15°と7.5°の場合について図1に示 しておいた。

(d)実験導入課題

 上記(c)の傾斜枠組み無継時弁別課題に使用のカードと同様,傾斜正方形の枠組みが無く,

ただし,標準刺激線分が同様の色・長さ・幅の水平線分,選択刺激線分が垂直線分からなっ ているカードを使用する。

(6)

図1 実験に用いられた3つの水平一斜め線分方位弁別課題の例

   (同時課題は中央が標準刺激カード,左右が選択刺激カード,継時課題は左が標準刺激カード,右2つが選択刺激カード)

傾斜枠組み有同時弁別課題 傾斜枠組み有継時弁別課題 傾斜枠組み無鯉鴫弁別課題

一〇〇

15°

一 一

/ /

15°

15°

昌じ

一 、 一

7,5°

一 一 一

7,5°

一 一

7.5°

一 一 一

拙一べ姉

(7)

4.手 続 き

 実験は幼稚園内の一室ですべて個別に行われた。被験児は幼児用の机をはさんで実験者と対 面して座り,まず,実験内容理解のための導入課題を2試行行うよう求められる。その後,本 課題に入り,各課題群毎に,水平一15°斜めと水平一7.5°斜めの2条件の弁別が16試行ずつ実 施される。16試行というのは,1つの条件の1弁別課題で8通りの組み合わせがあってこれを

2回繰り返したためである。弁別カードは,被験児のほぼ顔の高さに垂直に提示する。カード の組み合わせの提示順序は乱数表を用いて被験児毎に全くランダムとなるようにした。2つの 傾斜角度条件の実施順序は,半数の被験児が最初に水平一15°の弁別,次に水平一7.5°の弁別 の順,残りの半数がその逆の順である。

 各弁別課題の内容に沿って,さらに詳しく教示の内容を示すと,以下の通りである。

 〈傾斜枠組み有同時弁別課題〉同時に提示された3枚のカードのうち,中央のカードの標準 刺激線分を被験児に示して,「この線と同じ向きの線はどちらかな?」と尋ね,左右どちらか の刺激カードを選択させる。反応の正誤はフィードバックしない。

 〈傾斜枠組み有継時弁別課題〉まず,標準刺激カードを5秒間提示し,被験児に注視を促す。

その後,3秒間隔てて選択刺激カードを提示し,「さっき見た線と同じ向きの線はどっち?」

と尋ねて,どちらかのカードを選択させる。反応の正誤はフィードバックしない。

 〈傾斜枠組み無継時弁別課題〉上記の傾斜枠組み有継時弁別課題と全く同じ手続きである。

 結   果

正答数

16

14

12

10

枠無継時一口■一一■O冨F

     、t− ・s−stt

   −t.、 ・・t tt

枠有継時

    7.5        15

       角度

図2 2つの角度条件における課題別   平均正答数

   (年齢をこみにした場合)

(8)

愛知淑徳大学論集 第17号

正答数

16

14

12

10

轄颪一■■r二→

枠有継時

   7.5        15

      角度

図3 2つの角度条件における課題別    平均正答数

   (5歳児の場合)

正答数

16

14

12

10

         お  お

一一一一一ウ●

   t、.. …

 .、・… t

枠有纏時

   7.5        15

      角度

図4 2つの角度条件における課題別    平均正答数

   (6歳児の場合)

 図2に角度条件によって平均正答数がどのように変わるかを年齢をこみにして課題別に示し た。また,図3には5歳児のみの,図4には6歳児のみの同様の結果を示した。課題(3)及び年 齢(2)を被験者間要因とし,角度条件(2)を被験者内要因とする3要因の分散分析を行った結果,

課題年齢,角度条件のいずれの主効果も1%水準で有意であった(課題:F(2,90)=156.02,

P<0.01年齢:F(1,90)=12.86,P〈0.01角度条件:F(1,90)=7.92, P〈0.01)。

交互作用は,課題と角度条件の間にのみ5%水準で認められた(F.(2,90)=3.11,P<0.05)。

したがって,さらに各課題における15°と7.5°の角度条件間の平均正答数の差をt検定によっ て調べてみると,傾斜枠組み有同時弁別課題(t=4.12,df=31, P<0.001)と,傾斜枠組 み有継時弁別課題(t=5.01,df=31, P<0.001)においては共に1%水準で有意差がみら れたが,傾斜枠組み無継時弁別課題では有意差は認められなかった(t=0.28,df=31, N. S.)。

一152一

(9)

また,角度条件15°及び7.5°のそれぞれにおける課題間の平均正答数の差を実験全体の有意水 準を5%としてライヤンの法によって下位分析すると,15°において傾斜枠組み有同時弁別課 題と傾斜枠組み有継時弁別課題の間(t=4.00,df=93, P<0.001),及び傾斜枠組み有同時 弁別課題と傾斜枠組み無継時弁別課題の間(tニ3.59,df=93, P〈0.001)には共に有意差 がみられたが,傾斜枠組み有継時弁別課題と傾斜枠組み無継時弁別課題の間には有意差はみら れなかった(t=0.08,df=93, N. S.)。7.5°の場合には,傾斜枠組み有同時弁別課題と傾斜 枠組み無継時弁別課題の間には有意差がみられなかったが(tニ1.02,df=93, N. S.),傾斜 枠組み有同時弁別課題と傾斜枠組み有継時弁別課題の間(t=3.66,df=93, P<0.001),傾 斜枠組み有継時弁別課題と傾斜枠組み無継時弁別課題の間(t=2.27,df=93, P〈0.03)に

は共に有意差がみられた。

 以上から,次の3点が明らかになった。(1)6歳児は5歳児に比べ,この種の弁別課題全般に 優れた成績を示す。(2)角度差15°と7.5°の水平一斜め線分弁別では,傾斜枠組みが存在しない 場合は,成績に差がないが,傾斜枠組みが存在すると,同時弁別であれ,継時弁別であれ,角 度差小の7.5°の場合の成績が低下する。(3)課題間の難易について言えば,傾斜枠組み有同時 弁別課題は,角度条件15°では他の2課題に比べて易しいといえるが,7.5°ではこの関係は変 わり,傾斜枠組み有同時弁別課題と傾斜枠組み無継時弁別課題の間に難易の差はなくなり,傾 斜枠組み有継時弁別課題のみが他の2課題に比べ難しくなる。

一三口

△冊

 結果から,幼児は課題いかんにかかわらず5歳から6歳にかけて線分の方位弁別能力を発達 させることが明らかになった。特に,同時弁別課題では,6歳児は15°の場合,ほとんどの子 ども(16人中14人)が全試行正答できており,知覚的水準では傾斜枠組みにもかかわらずこの 程度の角度差の水平一斜め線分弁別はすでに極めて容易となっていることがわかる。しかし,

7.5°の角度差の場合は,同時弁別でも成績が低下している。本実験では,同時弁別の場合に 枠組み無しの課題を行っていないので,この低下が枠組みの付加によって生じる固有のものか,

角度差7.5°が幼児にとっては既に弁別閾に近いために枠組みのいかんにかかわらず生じるも のかは,直接的には知りえない。

 2つの継時弁別課題の成績の関係については,年齢にかかわらず,興味深い傾向が明らかと なった。すなわち,15°では,傾斜枠組みがある場合も無い場合もその成績に差がないが,

7.5°では,傾斜枠組みのある場合が無い場合に比べて著しく成績が悪くなっている。7.5°に おけるこの差は,傾斜枠組みの無い継時弁別の成績が角度差の影響をほとんど受けないのにた いし,傾斜枠組みの有る継時弁別の場合はその成績が角度差15°に比べて7.5°で著しく低下す ることによる。では,このような結果はなぜ生ずるのだろうか。

 1つの可能性としては以下のようなことが考えられる。継時課題の場合,標準刺激カードが 提示されたとき,その刺激線分の方位を何らかの方法で符号化し記憶にとどめ,それと後に提

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愛知淑徳大学論集 第17号

示される2つの選択刺激線分の方位との照合が必要である。幼児は,水平線分と斜め線分の角 度差が比較的大きい場合(本実験では15°の場合),この符号化を,傾斜枠組みの有無にかか わらず,刺激線分のそれぞれを身体基準系に関係づける「絶対的符号化」によって行おうとす る。確かに,Witkin, H. A.ら(1954)がその古典的ともいえる研究で指摘したように,身体基 準系に関係づけて行われる方位の知覚的判断は傾斜枠組みの影響を受けるであろうが,2つの 刺激線分の角度差が比較的大きい場合は,この影響は「傾いている」「傾いていない」という「絶 対的符号化」を混乱させるほどにはあらわれないであろう。その結果,傾斜枠組みが有っても 無くても同じような弁別の成績が得られることになる。それにたいし,2線分の角度差が小さ

くなると(本実験の場合は7.5°),幼児にとっては弁別閾に近い角度差であるため「絶対的符 号化」方略の使用だけでは確かな弁別が困難となり,刺激線分を周囲の布置に関係づける「相 対的符号化」方略の助けを借りて弁別を確実なものにしようとする。後者の方略によれば,傾 斜枠組みの無い事態では,2つの刺激線分は容易に水平基準線分と関係づけられて,水平刺激 線分の場合は平行というマッチ情報が,斜め刺激線分の場合は平行でないというミスマッチ情 報が得られるため,弁別は角度差15°の場合と比べても特に困難を要せず行われる。ところが,

傾斜枠組みが存在する事態では,刺激線分に近接するこの枠組みに関係づけて「相対的符号化」

を行おうとすると,水平線分も斜め線分もどちらもミスマッチ情報しか得られず,これでは弁 別は可能とならない。弁別を可能とするためには,近接する傾斜枠組みを越えて,その外にあ る水平基準線分を利用しなければならず,おそらく幼児にとってはこれが困難であるために,

7.5°における傾斜枠組み有継時課題の成績は同一課題の15°の場合に比べても,同じ角度差 7.5°の傾斜枠組み無継時課題の場合に比べても,低下すると考えられる。この傾向は,5歳 児にも6歳児にもみられるが,年齢とともに顕著な改善が認められるのも事実である。

 上記の可能性と異なり,幼児がどの角度差でも「絶対的符号化」方略を用いず,もっぱら「相 対的符号化」方略を用いて弁別を遂行すると仮定し,かつ傾斜枠組みが有る場合は,刺激線分

とこの近接傾斜枠組みとの関係だけに注意を集中しているとすると,なぜ15°において傾斜枠 組み無継時課題と有継時課題の成績が同じ水準となり,7.5°では傾斜枠組み有継時課題の成 績が低下するかは十分説明できない。確かに,本実験では15°の場合,右上がり斜め刺激線分 は傾斜枠組みの2つの角を結んだ直線上にあり,水平はそうでないという「相対的符号化」も 可能ではあるが,この方略によって弁別が行えるのは,全試行のうち右上がり刺激線分を含む 半数の試行にすぎない。そうなると,傾斜枠組みの無い課題で用いられる蓋然性の高い水平基 準線分とのマッチ,ミスマッチ情報に基づく「相対的符号化」方略とこの方略が同じ弁別効率 を有するとは言えず,やはり,2つの課題間の成績に差がないことを説明するには無理がある ことになる。また,幼児は角度差,傾斜枠組みの有無にかかわらず常に刺激布置内に存在する 水平基準線分との関係づけによる「相対的符号化」方略を用いて課題解決をはかろうとすると 仮定した場合も,なぜ傾斜枠組み有継時課題の15°ではこの方略使用がさほど困難でなく,

7.5°では困難となるのかの適切な説明を与えることは難しい。

 以上から,幼児は状況に応じて「絶対的符号化」方略と「相対的符号化」方略を使い分けて

一154一

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いるらしいこと,弁別対象の方位の角度差が小さくなると近接する文脈から切り離してその対 象の方位を符号化することが困難であること,しかし,年齢とともにこのような困難は改善さ れる傾向にあることが示された。

       注

1)ここでは,英語の心理学用語としての狭義の知覚perceptionでなく,仏語のpercevoir(感覚あるい は精神によって捉える,の意)に対応するperceptionを念頭においている。

      引用文献

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参照

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