出生時低体重の小児気管支喘息の発症への影響に 関する研究
日本大学大学院医学研究科博士課程 社会医学系衛生・公衆衛生学専攻
古畑 雅一
修了年 2018年
指導教員 兼板 佳孝
目 次
Ⅰ 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅱ 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
Ⅲ 対象と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
Ⅳ 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
Ⅴ 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
Ⅵ まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 研究業績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
Ⅰ.概要
【緒言】
喘息は増加しつつあることが報告され、アトピー素因、性別、喫煙、アレルゲンの曝 露等が喘息のリスクファクターとして指摘されている。しかし、今まで大規模なコーホ ート調査により、毎年喘息の発生動向を把握し、各リスクファクターの影響の強度と影 響を与える時期を明らかにした研究はない。近年、我が国では低出生体重児が増加しつ つあるため、出生時低体重および早期産が喘息に与える影響を解明し、今後の喘息発症 予防対策の一助とすることを目的とする。
【対象と方法】
本研究では、2001年
1
月10
日から17
日及び7
月10
日から17
日までの間のすべて の出生児を対象として、厚生労働省が実施した大規模なコーホート調査である第1
回か ら第10
回までの21
世紀出生児縦断調査の結果と人口動態調査の出生に関する結果を 結合したデータを用いた。このデータに基づき、年齢階級別受診率、性差等による受診 状況を明らかにした上で、出生時体重、在胎週数、性別、両親の喫煙や学歴等が喘息に よる受診に与える影響の強度と影響を与える時期を多重ロジスティック回帰分析によ り明らかにした。【結果】
喘息による通院の受診率については、
5.5
歳でピークを迎え、男児で10.3%、女児で
6.6%が受診した。入院の受診率については、 2.5
歳でピークを迎え、男児で1.5%、女
児で
0.8%が入院を経験した。 10
歳時の通院による累積受診率は、男児で22.0%、女児
で
15.5%であった。
多重ロジスティック回帰分析の結果、オッズ比が有意に高い独立変数は、通院につい ては、男児であること、出生時低体重、世帯の低収入そして母親の喫煙習慣の順に大き く、入院については、男児であること、早期産、第二子以降、母親の喫煙習慣、母親の 低年齢、出生時低体重そして居住地が郡部であることの順に高いことが明かになった。
【考察】
入院の受診率が
2.5
歳で、通院の受診率が5.5
歳でピークを迎えることから、初期に 重症化しやすく、5.5歳まで受診が継続し、その後受診率が下がっていく傾向にあるこ とを確認した。その傾向に男女間の相違はなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果、最もオッズ比が大きいのは男児であることであ ったが、通院では出生時低体重が、入院では早期産のオッズ比が次に大きかった。その ため、出生時低体重は喘息の発症因子であり、早期産は喘息の重症化の因子であること が示唆された。
また、出生時低体重および早期産は、
10
年間の全期間において、通院及び入院のリス クファクターであることが明かとなった。本研究は、アレルギーの実態を把握する目的の調査ではないため、家族歴、検査所見 などの十分な情報が得られないことなどの限界があった。
【まとめ】
男児であることが最も強いリスクファクターであるが、出生時低体重や早期産も、母 親の喫煙及び低年齢よりも強い喘息のリスクファクターであることが明らかになった。
低出生体重児を生まないようにするための介入や、喘息発症のリスクの回避のための 妊娠、出産時の保健指導を積極的に行う必要である。
Ⅱ. 緒言
喘息は、小児によく見られる慢性疾患の一つである1。
喘息の罹患者数を世界的に減少させることを目的として活動するガイドラインの策 定組織である
Global Initiative for Asthma(GINA)が発行する 2016 GINA Report, Global Strategy for Asthma Management and Prevention
2,3によると、「喘息は、通常 慢性気道炎症によって特徴づけられる多様な疾患である。呼吸器徴候、たとえば、喘鳴、息切れ、胸部絞扼感そして呼気延長や変化する呼気時気流制限を伴う咳の既往」と定義 している。小児喘息は重症化することにより、喘息死に至るリスクがあり、最悪の結果 にならないまでも、発作や重症化により患児及びその保護者の
QOL(Quality of Life)
を大きく損なうことになる可能性がある4。これまでに数々の大規模調査が行われ、実態の把握、原因の究明が試みられてきた。
1950
年代から60
年代にかけての我が国の高度成長期において、大気汚染の問題が深刻 であったが、85年以降産業公害は沈静化した5。大気汚染が慢性気管支炎などの健康被 害の主たる原因ではないと結論付けられたことを踏まえ、公害健康被害補償法が1987
年に改正され、第一種指定地域(著しい大気の汚染が生じ、その影響により喘息等の疾 病が多発している地域)が解除されるのと同時に、環境保健事業の柱の一つとして、喘 息や慢性閉塞性肺疾患等の発症・増悪の防止、健康回復のための知見を得るための調査 研究である「大気汚染による健康影響に関する総合的研究」が始まった 6。その他、大 規模な喘息を含めた調査としては、文部科学省は、1977 年から学校における子どもの 発育及び健康の状態を明らかにすることが目的の「学校保健統計調査」7で喘息の調査 を開始し、「アレルギー疾患に関する調査研究」8を行い、西日本小児アレルギー研究会 が1982
年から「西日本小学児童におけるアレルギー疾患有症率調査」9を実施し、環境 省は、2005年から「局地的大気汚染の健康影響に関する疫学調査−
そら(SORA)プロジ ェクト−
」10を開始するなど、多数行われてきた11。ところで、喘息についての調査に使用する調査票様式としては、古くは慢性閉塞性肺 疾患に関して
BMRC(British Medical Research Council)で承認された呼吸器症状に関
する質問票を用いられていた。しかし、この質問票は成人の慢性閉塞性肺疾患に関する 質問票であったため、小児の喘息の調査には適さなかった。そのため、20
数年前からの 調査においては、ATS-DLD(American Thoracic Society-Division of Lung Diseases)やISAAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood)の問診用紙が用
いられるようになった12,13。ATS-DLD は喘息や喘息様気管支炎の治療歴があり、呼吸困 難を伴っていることが必要であり、一方ISAAC
は、喘鳴を中心に質問しているため、ISAAC
の集計結果の有症率の方がATS-DLD
の集計結果よりも高く出る傾向にある12,13。 また、いずれも両親の記憶をもとに回答を作成しており、検査や治療内容などの医学的 な情報の裏付けがある結果ではない。また、今まで喘息が増加しているとの報告は数多い。厚生労働省の「国民生活基礎調 査」による
0
歳から9
歳の喘息患者の通院率は、2007年は男3.46%、女 2.22%、から
2010
年は男3.66%、女 2.33%へと増加している
14。文部省の「学校保健統計調査」によると、1989年と
1999
年を比較すると、小学校の男児で3
倍、女児で2.5
倍に増加し ている 8。ATS-DLD を使用した「西日本小学児童におけるアレルギー疾患有症率調査」では、喘息及び喘鳴の有症率が
1982
年7.1%、 1992
年9.8%、 2002
年11.8%で、 84.9%
の患者が
6
歳までに罹患していることが確認されている9。しかし、これらの調査は同 一の集団を対象として導き出された結果ではないため、有症率の変化については単純に 比較が可能とは言い切れない。また、喘息発症のリスクファクターとしては、アトピー素因、男児であること、出生 時低体重、早期産、喫煙、アレルゲン曝露(ダニ、カビや犬、猫、ウサギ、ハムスター などのペットの飼育)、ウイルス性呼吸器感染症、ストレスなどが指摘されてきた15。 海外においては、気管支喘息の発症要因、病態等を解明することを目的とした大規模 なコーホート調査が行われ、追跡してきた。例えば、オーストリアのチロル地方では、
33,808
人の乳児のデータベースが作られ、喘息の理由で入院したすべての6
歳以上の小児について確認されている16。フィンランドでは、1996年
1
月から2004
年4
月まで に喘息と診断を受けた小児21,038
人を対象にしたコーホート調査17が、また、スウェ ーデンでは、1928年から1952
年に出生した21,588
人の双生児のコーホート調査が行 われた18。デンマークでは、1994年から2000
年に出生した8,280
組すべての双生児の 保護者に3
歳から9
歳の時にアンケート調査を行った19。そのほか、環境影響の調査を 中心としたコーホート調査もさかんに実施されている20-23。また、海外においては出生時体重と喘息の関係については明らかになってきているが、
出生時体重が、ほかにも要因として認められている両親の喫煙や男児であることなどの 影響度を比較している研究はない。また、喘息の罹患の有無を不定期に調査を実施して いるため、継続的な罹患率の年次推移や各要因の影響が強い時期を正確に捉えられてい るとは言えない。
我が国でも、2001 年から厚生労働省が
5
万人を超える出生児を対象としたコーホー ト調査である「21世紀出生児縦断調査」を開始した24。諸外国で行われているコーホー ト調査は、比較的人口規模が小さな国で不定期に実施されているが、人口が1
億人を超 える国で長期間にわたり同一の大集団に対して毎年追跡されたことは初めてのことで あり、かつて類を見ない代表性のあるサンプルの集大成となっている。ところで、海外では出生時低体重が喘息のリスクファクターのひとつと結論付ける報
告が多い25,26。しかし、我が国においては、出生時低体重の気管支喘息の発症への影響
の強さについて追跡した研究は、我々の知るかぎりでは少ない。2007 年度厚生労働科 学研究の「アレルギー性疾患の発症・進展・重症化の予防に関する研究」においてコー ホート調査が行われている。しかし、この研究の結果、3歳時において出生時体重及び 在胎週数と喘息の発症との間に有意な関連が認められず、また、1歳時も
3
歳時も喘息 発症と受動喫煙の関連を確認することができなかった27。これは対象となった新生児が269
名と少なかったことが原因である可能性がある。また、吉田らは、2004
年に低出生 体重児15名を症例群、2500g
以上の児30
名を対照群として喘息の症例対照研究を行い、8歳時の喘息重症度は症例群で有意に高かったことを明らかにしている28。しかし、こ の研究でも対象が少なく、代表性を有しているとは言い難い。
環境化学物質と小児の健康に関するコーホート研究は、北海道や東北で行われ、化学 物質や喫煙と喘息の因果関係等を調査している29。さらに国立環境研究所がコアセンタ ーとなり「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)30」を現在開始した ところであるが、我が国では、まだ出生時低体重と喘息の関連については十分には調べ られていない。
ところで、低出生体重児は、厚生労働省の人口動態統計によると、
1985
年5.7%、 1990
年6.3%、1995
年7.5%、2000
年8.6%、2005
年9.5%、そして 2010
年9.6%と増加し
ている31。出生時低体重が気管支喘息のリスクファクターであるならば、今後さらに気管支喘息の患者数が増加する可能性があり、喘息の増加を未然に防止するため、低出生 体重児を持つ保護者が喘息のリスクファクターについて十分に理解し、少しでも減らす ことを可能とするための保健指導を推進する必要がある。
また、Barker et al.は、出生時低体重が心血管疾患による死亡のリスク因子である という概念を提唱し、DOHaD仮説の先駆けとなったが、将来の生活習慣病の罹患を予防 するためにも出生時低体重を減少させる必要がある29,32。
そこで、本研究では、厚生労働省が実施したコーホート調査である「21世紀出生児縦 断調査」の結果及び人口動態統計の出生に関するデータを使用し、喘息の発生動向を毎 年把握するとともに、出生時低体重が喘息の発症に与える影響を、他の因子による影響 と比較することにより、影響の強さ及び影響を与える時期を明らかにし、今後の喘息発 症予防のためのプログラム策定の一助とすることを目的とする。
Ⅲ.対象と方法
(1) データの収集方法と研究対象者
本研究では、厚生労働省が実施した第1回から第
10
回までの21
世紀出生児縦断調査 の結果を使用した。本調査は、同一客体を長年にわたって追跡する縦断調査である。対象者は
2001
年1
月10
日から17
日の間及び7
月10
日から17
日の間のすべての出 生児であり、厚生労働省が人口動態調査の出生票をもとに調査対象を抽出し、調査票の 配布及び回収を郵送により行ったものである。そして、対象の出生児に対して、第1
回 調査は月齢6
か月時、第2
回から第6
回はそれぞれ1.5
歳、2.5歳、3.5歳、4.5歳そ して5.5
歳の時点で、さらに第7
回から第10
回まではそれぞれ7
歳、8
歳、9
歳そして10
歳の時点で調査を実施した。本調査では、両親の就業状況(ほぼ毎年)、家族構成、日常における保育者、兄弟姉 妹の状況、身長・体重、主な疾患による通院・入院状況(第2回から毎年)、両親の喫 煙状況、発達状況、子どもの栄養、育児に関する悩み、ペットの飼育状況等を質問して いる。また、さらに子どもの成長に応じ、携帯電話の所持、テレビゲーム、休日の過ご し方などを調査している。
通院・入院状況については、「この
1
年の間に病院や診療所などで診察を受けた病気 やけががありましたか。あてはまる番号すべてに○をつけてください。」という設問に より、20種類以上の病気やけがから選ばせ、「○をつけた番号のうち、入院した(して いる)病気やけががある場合には、その番号を□に記入してください。」という設問に より、入院の有無を確認している。人口動態統計により抽出した対象期間の出生児は
53,575
人であり、第1
回調査では47,015
人から回収され、回収率は87.8%であった。
今回、第
1
回から第10
回までの21
世紀出生児縦断調査の調査結果と、対象を抽出す るために使用した人口動態統計で得られている情報を結合した結果を、所定の手続きを 行い厚生労働省から提供を受けたが、個人を特定するような情報はすべて除去されてお り、個人情報保護の観点からは問題は生じない。本研究では、第
1
回調査で回収した47,015
人のうち出生時体重の記載がなかった14
人を除外し、さらに第2
回以降のすべての調査に回答がなかったことにより喘息による 通院または入院に関する情報を得られなかった1,941
人を除外した。その結果、研究対象者数は
45,060
人となった。この数値は、2001 年の全国の出生児数1,170,662
人の3.85%に相当する。
(2) 分析方法
分析対象の概要の確認
研究対象者が
2001
年に我が国の出生に関するデータを代表しているものかについて 確認を行った。出生児の「性別」、「出生時体重」、「単産か複産か」、「子どもの出生順位」そして「母 親の年齢」、「父親の年齢」、そして「在胎週数」については、2001年人口動態統計の全 国データと比較し、「居住地」については
2000
年の国勢調査のデータと比較し、近似し ているかについて確認した。また、本研究の多変量解析で使用する独立変数として投入 した「乳児期の栄養」、「両親の喫煙習慣」、「両親の学歴」、「世帯の年収」、そして「犬、猫、ウサギ等の飼育」に係る単純集計を行った。
また、男女別に出生体重の平均値と
95%信頼区間を求め、男女差の検定を行った。
出生時体重区分別年齢別体重の推移
また、出生時体重が「2000g未満」、「2000g~2499g」、そして「2500g以上」の3つの 区分別に、10歳までの平均体重の推移を確認した。
喘息による受診状況
年齢別男女別通院入院別に年間受診率、累積受診率、男女比と入院割合を求めて年齢 ごとの推移の特徴を明らかにした。
喘息の受診状況別平均出生時体重
喘息による通院あるいは入院の
10
年間の回数の程度によって出生時の平均体重に差 があるか検定を行い検証した。調査期間全体において喘息発症に影響を与える因子の分析
通院歴あるいは入院歴の有無別に、今回調査を行った
10
年間を通して、出生時低体 重が他の環境等の因子と比較してどの程度影響を与えているかを解明することを目的 として、他の研究でリスクファクターとして指摘されている事項をはじめとして、喘息 発症に影響を与えている可能性が否定できない因子を独立変数として投入した多重ロジスティック回帰分析を行い考察した。
年齢階級別因子別の受診率及び調整オッズ比
出生時低体重や抽出された各因子が影響を与える時期と強さ等を明らかにすること を目的として、因子別年齢別通院入院別に個々に多重ロジスティック回帰分析を行い、
年齢階級別の受診率及び調整オッズ比の推移について分析を行った。
統計解析には
IBM SPSS Statistics 23
を使用した。Ⅳ.結果
(1) 分析対象の概要
表
1
に分析対象の概要を示す。2001年の人口動態調査の結果と2000
年国勢調査の結 果と比較した結果、本研究で使用したデータが、直近の我が国の統計データと近似して いることが確認できた。男児は
23,407
人で平均体重(95%CI)は3,073.4g(3,067.8g-3,079.0g)、女児は 21,653
人で平均体重(95%CI)は2,995.7g(2,990.2g-3,001.3g)であった。男児と女児の体重を
比較すると、有意に男児の方が重い(表2)
。(2) 出生時体重区分別年齢別体重の推移
出生時体重区分別年齢別体重を表3に示す。「2000g 未満」のグループの平均出生時 体重は、「2500g以上」の平均体重の
50.7%で、1.5
歳時に90%近くまで追いつくが、
10
歳までその割合はほとんど変化がなかった。「2000~2499g」のグループの平均出生 時体重は、「2500g 以上」の平均体重の74.7%で、1.5
歳時に92.8%まで追いつくが、
10
歳までその割合はほとんど変化がなかった。出生時体重の差は、少なくとも10
歳ま では継続することが明かになった。(3) 喘息による受診状況
表4に、年齢別の喘息の年間受診率の推移を示す。通院及び入院歴についての回答率 は、1.5歳時は
97.4%と高かったが、徐々に低下し、10
歳時は68.0%まで低下した。
通院歴の年齢別年間受診率は、
1.5
歳時に3.4%であったが、徐々に増加し、 5.5
歳時に
8.6%となりピークを迎えたが、その後減少に転じ 10
歳時には5.7%となっている。
男児のピークは
5.5
歳時で、10.3%、女児のピークも5.5
歳時で、6.6%であった。入院歴は、
1.5
歳時に0.9%で、 2.5
歳で1.2%とピークとなり、その後は減少傾向にあり
10
歳時に0.2%まで減少している。男児のピークは 2.5
歳時で1.5%、女児のピークも
2.5
歳時で0.8%であった、すべての年齢で男児の方が女児よりも年間受診率が高かっ
た。
年間受診率の男児と女児の比は、通院については
1.5~1.7
:1で男児に多い。入院の 受診全体に占める割合は、1.5
歳時が最も大きく、男児で26.8%、女児で 23.8%であっ
た。男女とも徐々に減少し続け、10歳時に最低となり、男児で
2.9%、女児で 3.7%と
なった。一方、累積罹患率を求めるため、受診したことがある子どもの累積数の全体に占める 割合を算出した(表5)。その結果、
10
歳までに18.9%の子どもが通院を、 3.5%が入院
をした経験を有している。男児の累積受診率は通院が22.0%、入院が 4.2%、女児の累
積受診率は通院が15.5%、入院が 2.7%であった。10
歳時の入院の受診に占める割合は男児で
19.2%、女児で 17.4%であった。10
歳時の累積受診率の男児と女児の比は、通院が
1.4:1、入院が 1.6:1
で男児に多かった。3.5
歳時の通院累積受診率は9.7%、5.5
歳時、15.0%、10
歳時、18.9%で、 3.5
歳ま でに通院歴のある者のうち半数以上が発症しているが、5.5 歳から10
歳までの累積受 診率の増加は微増となっている。一方、入院については、3.5
歳時の累積受診率は2.3%
で、10歳時
3.5%と、3.5
歳までに入院をする児が65.7%を占めている。
以上の年齢別の年間受診率及び累積受診率について、すべての時点で男児は女児を上 回っていることが明かとなったが、通院及び入院のピークや増減の傾向に全く差がない ことが判明した。
(4) 喘息の受診状況別平均出生時体重 表6に受診状況別平均出生時体重を示す。
ここでは、1.5 歳から
10
歳までの通院歴あるいは入院歴を、受診したことが全くな い場合を「なし」、2回まで受診したと回答した場合を「1、2年」、3回以上受診したと 回答した場合を「3年以上」として、3つのランクに分けて検討をすることにする。通院歴がない児全体の出生時体重(95%CI)は
3,039.1g(3,033.8g-3,044.4g)、通院歴
がある児全体は3,028.2g(3,016.6g-3,039.8g)であった。男児で、通院歴がないものは 3,078.2g(3,070.6g-3,085.7g)、通院歴があるものは 3,060.2g(3,045.1g-3,075.4g)、女
児 で 、 通 院 歴 が な い も の は3,000.1g(2,992.8g-3,007.4g)
、 通 院 歴 が あ る も の は2,979.1g(2,961.3g-2,996.8g)であった。
また、入院歴がない児全体の出生時体重(95%CI)は、
3,038.5g(3,033.6g-3,043.4g)、
入院歴のある児全体は
2,996.3g(2,966.2g-3,026.0g)であった。男児で、入院歴がない
も の は
3,076.2g(3,069.3g-3,083.1g)
、 入 院 歴 が あ る も の は3,029.3g(2,992.2g- 3,066.3g)、女児で、入院歴がないものは 2,998.4g(2,991.6g-3,005.2g)、入院歴がある
ものは2,940.5g(2,891.3g-2,989.6g)であった。
入院歴がある児は入院歴がない児より、通院歴がある児は通院歴がない児より、また 通院期間が長い方が短いより、入院期間が長い方が短いより出生時体重が軽かった。
また、通院の有無そして入院の有無別の出生時体重が正規分布に沿っているかを
Shapiro-Wilk
検定により確認した。その結果、正規分布ではなかったため、ノンパラメトリック検定のうち
Mann-Whitney
検定を用い、モンテカルロ法で有意確率を算出した。その結果、通院歴がある児の方がない児より、入院歴がある児の方がない児より、出生 時体重が軽く、男児の入院及び女児の通院及び入院については有意であった。
(5) 調査期間全体において喘息発症に影響を与える因子の分析
次に、10 歳までの調査期間全体において、出生時低体重が喘息発症にいかに影響を 与えているかを検討するため、通院歴の有無と入院歴の有無それぞれについて、出産時 の状況、生活環境等の独立変数を投入したロジスティック回帰分析を行った(表7)。
従属変数を
2.5
歳から10
歳までの期間の喘息による通院歴あるいは入院歴の有無と した。独立変数として、「性別」(1:男児、0:女児でカテゴリー化した)、「出生時体 重」(1:2500g未満、0:2500g以上)、「在胎週数」(1:37週未満、0:37週以上)、「単産か複産か」(0:単産、1:複産)、「出生順位」(0:第一子、1:第二子以降)、
「乳児期の栄養」(0:人工乳のみ、1:母乳を含む)、「犬、猫、ウサギ等の飼育」(0:
なし、1:あり)、「居住地」(0:市部、1:郡部)、「父親の年齢」(0:25歳未満、1:
25
歳以上)、「母親の年齢」(0:25歳未満、1:25歳以上)、「父親の喫煙習慣」(0:なし、1:あり)、「母親の喫煙習慣」(0:なし、1:あり)、「父親の学歴」(1:中学 校卒業相当、0:高校卒業以上)、「母親の学歴」(1:中学校卒業相当、0:高校卒業以 上)、「世帯の年収」(1:400万円未満、0:400万円以上)を投入した。
入力した独立変数間の
Spearman
の相関係数を算出した結果、最も大きな相関係数は「父親の年齢」と「母親の年齢」の間の
0.711
であり、極めて高いものはないため、多 重共線性が問題となるような独立変数はないと判断した。初めに、独立変数について単変量解析を行った。通院のオッズ比(95%CI)について は、表7のとおりで、「出生時体重」が
2500g
未満は1.21(1.09-1.34)、
「在胎週数」が37
週未満は1.28(1.13-1.45)、
「性別」が男児は1.54(1.45-1.63)、
「母親の喫煙習慣」があるは
1.17(1.08-1.27)、
「父親の喫煙習慣」があるは1.09(1.03-1.16)、
「母親の年 齢」が25
歳未満は1.17(1.07-1.27)、
「父親の年齢」が25
歳未満は1.18(1.06-1.30)、
「世帯の年収」が
400
万円未満は1.23(1.15-1.32)であった(p<0.01)。
「母親の学歴」が 中卒程度は1.17(1.00-1.35)、
「父親の学歴」が中卒程度は1.16(1.03-1.30)、
「居住地」が郡部は
1.09(1.01-1.17)であった(p<0.05)。
入院のオッズ比(95%CI)については表8のとおりで、「出生時体重」が
2500g
未満は1.51(1.24-1.83)、「在胎週数」が 37
週未満は1.91(1.53-2.37)、「性別」が男児は 1.59(1.40-1.81)、
「出生順位」が第二子以降は1.32(1.16-1.49)、
「母親の喫煙習慣」が あるは1.51(1.29-1.78)、
「母親の学歴」が中卒程度は1.56(1.19-2.05)、
「父親の学歴」が中卒程度は
1.47(1.18-1.83)、
「母親の年齢」が25
歳未満は1.36(1.15-1.61)、
「父親 の年齢」が25
歳未満は1.35(1.10-1.65)、
「世帯の年収」が400
万円未満は1.34(1.16- 1.54)、
「居住地」が郡部は1.28(1.10-1.48)、
「乳児期の栄養」が母乳のみは0.81(0.69- 0.94)であった(p<0.01)。
「犬、猫、ウサギ等の飼育」がありは1.23(1.04-1.45)であっ
た(p<0.05)。通院の単変量解析では、「単産か複産か」と「乳児期の栄養」について、また入院の 単変量解析では、「単産か複産か」についてのp値が
0.25
を超えて大きかったため、多 重ロジスティック回帰分析を行うにあたり、独立変数としては投入しなかった。多変量解析の結果、通院の調整オッズ比(95%CI)については、表7に示す。「出生時 体重」が
2500g
未満は1.22(1.10-1.36)、
「性別」が男児は1.56(1.47-1.66)、
「世帯の 年収」が400
万円未満は1.20(1.12-1.29)であった(p<0.01)。
「母親の喫煙習慣」がある は1.11(1.01-1.21)であった(p<0.05)。調整オッズ比が最も高いのは男児で、次が「出
生時体重」であった。通院についてのモデルカイ2乗検定の結果はいずれもp<0.01
で、正解の割合はそれぞれ
81.3%であった。Hosmer
とLemeshow
の検定では、p=0.711と予 測精度が高い結果となった。次に、入院の調整オッズ比(95%CI)については、表8に示す。「在胎週数」が
37
週未満は
1.54(1.16-2.05)、
「性別」が男児は1.63(1.43-1.87)、
「出生順位」が第二子以 降は1.40(1.22-1.60)、
「母親の喫煙」があるは1.36
(1.14-1.63)、「母親の年齢」が25
歳未満は1.44(1.19-1.74)であった(p<0.01)。
「出生時体重」が2500g
未満は1.30(1.02- 1.66)、及び「居住地」が郡部は 1.18(1.01-1.38)であった(p<0.05)。調整オッズ比が最
も高いのは通院と同じで男児で、次が「在胎週数」が37
週未満であった(表8)。入院については、モデルカイ2乗検定の結果はいずれも
p<0.01
で、正解の割合は96.5%と高かった。Hosmer
とLemeshow
の検定は、p=0.753で予測精度が高い結果とな った。(6) 年齢階級別因子別の受診率及び調整オッズ比
以上の
10
歳までの調査期間全体において喘息発症に影響を与えるとして因子として 抽出されたものについて、年齢ごとの影響の強さの推移を確認するため、年齢別通院入 院別に多重ロジスティック回帰分析を行い、それぞれの調整オッズ比を算出した。投入 した独立変数は、調査期間全体についての分析で使用したものを投入した。「出生時体重」では、すべての年齢において通院及び入院ともに低出生体重児の受診 率の方が高かった。通院の調整オッズ比は
7
歳以降で高い調整オッズ比が継続し有意で ある(図1、2)。在胎週数でも、受診率は通院及び入院ともにすべての年齢で早期産児が正期産児を上 回っている。調整オッズ比は、通院の
2.5
歳及び3.5
歳で、入院の2.5
歳及び9
歳で有 意である(図3、4)。「性別」では、喘息の受診率はすべての年齢において通院及び入院ともに男児が女児 より多い。特に通院はすべての年齢において調整オッズ比が高く、有意となっている。
また、年齢別にみた調整オッズ比の値に増減などの変化が少なく高値である。入院受診 率については、特に
1.5
歳から3.5
歳で男児に高く、多くの調整オッズ比が有意である(図5、6)。
「出生順位」では、喘息の受診率は通院及び入院とも調整オッズ比もが
1.5
歳から3.5
歳で第二子以降に高く、とくに1.5
歳が最も高く次第に減少しており、早期における影 響が強いことが示唆された。それ以降は第一子と差がなくなり、通院では9
歳以降の受診率は逆転して第二子以降の方が有意に多い(図7、8)。
「母親の喫煙習慣」は、ほとんどすべての年齢で喫煙習慣がある場合の受診率が高く、
通院の
1.5
歳から2.5
歳で調整オッズ比が有意に高い。調整オッズ比は年齢とともに微 減傾向にある(図9、10)。「世帯の年収」の受診率は、通院、入院とも全ての年齢で
400
万円未満が上回り、通 院の多くの年齢で有意となった。通院の調整オッズ比は年齢による増減がなく、一定の 影響がある(図11、12)
。「母親の年齢」の受診率は
25
歳未満がすべての年齢で上回り、調整オッズ比は通院 が1.5
歳から4.5
歳で、入院が1.5
歳及び2.5
歳で有意に高い(図13、14)
。「居住地」は、市部と郡部の
2
区分で受診率及び調整オッズ比を求めた。受診率は4.5
歳までに郡部に高く、3.5歳及び4.5
歳で有意となっている(図15、16)
。Ⅴ.考察
本研究は、喘息の発生動向を把握するとともに、出生時低体重が生後の喘息の発症に 与える影響を、他の因子による影響力と比較することにより明らかにし、今後の喘息発 症予防のためのプログラム策定の一助とすることを目的とした。
(1) 喘息の発生動向
本研究で得られた通院の年間受診率や男女比を、今までに行われてきた主な調査の結 果と比較すると、喘息の有症率は「局地的大気汚染の健康影響に関する疫学調査−そら
(SORA)プロジェクト−」では、2004年
3
歳で3.78%、2007
年6
歳で4.88%
10、「学校 保健統計調査」では、2005年の小学生が6.8%、中学生が 5.1%、高校生が 3.6%で、
小学生の男女比は
1.53
:1
であった7。「西日本小学児童におけるアレルギー疾患有症率 調査」では2002
年36,228
枚の調査票を集計したところ6.5%であった。また、男女比
は
1.64:1
であった9。本研究の通院の年間受診率と大きな乖離が認められない結果となった。
本研究における通院の累積受診率の結果から、3.5 歳時までに発症する児が
10
歳時 まで通院する児全体の半数以上占めている。また、受診率自体は5.5
歳時にピークを迎 えるが、5.5
歳から10
歳までの累積受診率は微増となっている。一方、入院の受診率は2.5
歳でピークを迎え、累積受診率の結果から、3.5
歳までに入院する児が10
歳時まで に入院する児全体の65.7%を占めている。これらのことは、喘息の発症は 3.5
歳くら いまでに多く、初期に重症化しやすく、5.5歳にかけて受診が継続し、その後は次第に 寛解し通院受診率が低下する傾向にあることが示唆された。出生時体重や喘息の罹患率 を男女別にみると明らかに男児の方が大きいが、喘息の年間受診率や累積受診率からは、男女間に傾向の差がないことが確認できた。従って、喘息は性別にかかわらず、早期に 発症して、重症化しやすいため、早期発見と早期治療が重要であることが判明した。
(2) 小児喘息のリスクファクター
調査期間全体において喘息発症に影響を与える因子として抽出されたものについて の分析の結果、通院、入院ともに男児であることが調整オッズ比の最も高い因子として 抽出されたが、通院で次に高い因子は出生時低体重であり、入院で
2
番目に高い因子は 早期産であることが明らかになった。双方ともに子宮内における発育の指標となるが、出生時低体重は通院に大きく寄与するため喘息の発症の因子であり、早期産は入院に大 きく寄与するため喘息の重症化の因子であることが示唆された。スウェーデンで実施さ れた研究では、早期産は子宮内発育遅延よりも強い喘息のリスクファクターであり、早 期産で生まれた子どもの肺の未熟さにより、持続的に小児喘息のリスクを増す障害とな る可能性があるという結果が残されており、本研究の結果と矛盾しない33。Kellyらが 実施した断面調査でも、早期産は子宮内発育遅延よりもリスクが大きいと報告している
34。
海外においては、他にもコーホート研究により出生時低体重や早期産が気管支喘息の リスクファクターであるという結論の文献が、次のとおり多数報告されている。Kelly らは、早期産が子どもの呼吸器疾患による罹患率のリスクを上げ、リスク比は
1.40
(95%CI1.10-1.79)であったと報告している34。緒言で述べたオーストリアのチロル地 方の研究では、男児のリスク比は
2.11 (95%CI 1.65-2.70)、出生後の受動喫煙は 1.31 (95%CI 1.00-1.72)、出生時低体重は 1.45 (95%CI 0.94-2.23)などで、出生時低体重は
喘息発症と関連があると結論付けている16。フィンランドの研究の結果、早期産と出生 時低体重がリスクの増加と関連していることが明かになっている17。スウェーデンでの 調査では、出生時体重が2,000g
と2,500g
の間のリスク比は1.58 (95%CI 1.06-2.38)
であった18。デンマークでは、出生時体重100g
あたりのオッズ比は1.04 (95%CI 1.03-
1.05)のリスクが比例して増加した
19。イギリスでの研究で、34
週から36
週で生まれた子どもは、39週から
42
週で生まれた子どもと比較してオッズ比が1.68(1.01-2.80)と
発表している35。Jasper V
らは、早期産と喘息や喘鳴性疾患の関連を調査する疫学研究のレビューとメタアナリシスを行っており、42 件の研究から、早期産により喘息のリスクが増すと いうのは紛れもないエビデンスであると結論付けている25。
通院については、調整オッズ比が高い順に「性別」が男児、「出生時体重」、「世帯の 年収」が低いこと、「母親の喫煙」がリスクファクターとして抽出された。また、入院 については高い順に、「性別」が男児、「在胎週数」、「母親の年齢」が
25
歳未満、「出生 順位」が第二子以降、「母親の喫煙」、「出生時体重」、「居住地」が郡部であることが抽 出された。通院における「出生時体重」及び入院における「在胎週数」は、「性別」が男児であることより強くはないが、「母親の喫煙」や「母親の年齢」などよりも強いリス クファクターであることが本研究で明かになった。
また、入院にあって、通院にない因子は、「母親の年齢」が
25
歳未満、「出生順位」が第二子以降、「居住地」が郡部であった。これらの因子は、発症よりもむしろ重症化 に関連している可能性がある。また、通院にあって、入院にない因子は、「世帯の年収」
が低いことであった。これは重症化よりむしろ発症に関連している可能性がある。
ところで、1989年、Strachan は衛生仮説を提唱し、乳幼児期に感染を繰り返すと年 長時期に気管支喘息の発症が抑えられるとした15,36,37。
Subbarao
らは、第二子以降の方 が、第一子との接触の影響で感染症に罹患しやすいため、喘息は第一子よりも少ないと 結論付けたが38、本研究では、喘息は第二子以降に多いという結果になった。原因とし て、児の兄や姉が保育園、幼稚園、小学校などから小児に流行している喘息発症・増悪 因子であると言われるRS
ウイルスなどの感染症15を家庭に持ち込むことによって罹患 する可能性は影響しないのか、兄や姉との同居によるストレスはないのか、あるとする ならその影響はないのか、そして両親にとり子育てが初めてではないため、育児の慣れ からの油断による受診の遅れがあり、喘息が重症化する可能性があるのではないかにつ いて今後研究する余地が残った。世帯の年収が低いことについては、他の研究でも喘息と貧困との関連が指摘されてお り、矛盾はない39,40。
本研究では、母親の喫煙が子どもの喘息のリスクファクターになることについては、
数多くの研究がなされ疑いの余地はない41,42。母親については年齢が若いこともリスク ファクターとして指摘された。しかし、父親の喫煙や年齢は取り上げられなかった。妊 娠中及び出産後の母親の喫煙の直接的な曝露、そして育児中の母子の濃厚な接触を勘案 すると、父親よりも影響が強いことは当然の結果である。
また、居住地が郡部の方が市部よりリスクが高い結果となった。先行研究では、衛生 仮説により農村の方が都会よりエンドトキシンの濃度が高いため喘息が少ないと結論 付けている15,36,37。また、大気汚染物質の影響により市部の方が、喘息が発症しやすい と報告している15。しかし、本研究では通院の因子としてではなく入院の因子としての み抽出されたが、このことは、発症因子としてよりも重症化因子として有意であるとも
言える。郡部は市部より医療機関へのアクセシビリティの低さにより重症化している可 能性が排除できないため、今後のさらなる研究が必要である。
(3) 年齢階級別因子別の受診率及び調整オッズ比
本研究では、出生時体重と在胎週数の調整オッズ比を比較すると、出生時低体重は
7
歳から10
歳で有意に高かった。また、出生時体重と早期産の調整オッズ比を比較する と、2.5歳及び3.5
歳で有意に高かった。早期産による呼吸器の未熟さは、特に抵抗力 が弱い早期に強く影響を受け喘息を発症した可能性がある。イギリスのコーホート調査43では、早期産で生まれた児は
3
歳から5
歳で喘息罹患のリスクが上がったと報告して おり、本研究の結果と同様である。また、今回、低出生体重児は10
歳までは正期産児 に体重が追いつかないことを確認したが、直接的な因果関係は不明のままだが、低出生 体重児の喘息発症への影響も10
歳まで継続していることが示唆された。性別については、オランダで実施した
Tracking Adolescents’ Individual Lives
Survey (TRAILS)調査では、11.1
歳で男女の罹患率は同程度であったと報告されている44。しかし、本研究では
1.5
歳から10
歳まで差がほぼ変わらない状態が継続した。通院 の調整オッズ比がすべての年齢で有意となり、男児が女児よりも多いことが明らかとな った。出生順位は
1.5
歳から3.5
歳までは第二子以降に有意に多く、調整オッズ比は単調減 少し、上記の考察で述べたことについてさらなる研究が必要であると考える。9
歳と10
歳では第一子に有意に多くなる。これは、衛生仮説 15,36,37で説明がつくと考えられる。母親の喫煙習慣については、特に
1.5
歳で入院、通院ともに調整オッズ比が有意とな り、影響が強い。母親の喫煙が影響して成長のための最適状態ではない子宮内で発育す ることにより、生涯を通じて気道へのダメージを継続させるという報告がある45。その ダメージは、特に未熟な早期ほど影響を強く与えたことが示唆される。世帯の年収については、通院で多くの年齢で有意に調整オッズ比が高かった。一方で 入院については、有症率は低収入がすべての年齢で高いが、有意な年齢はなかった。
(4) 喘息罹患児を減少させるための今後の課題
Schayck O
らは、喘息の単一の危険因子を除去するよりも、多数の因子を除去した方 が、有意に効果的であったという研究成果を残している46。出生時低体重で生まれたり、早期産であったりした場合は、両親の禁煙などを行い、可能な限り多くのリスクを除去 することが重要である。
また、妊娠前からの心がけにより、低出生体重児や早期産児の出生のリスクを減じる ことが可能である。
厚生労働省は、2015年から「健康日本
21」の一翼を担う「健やか親子 21(第 2
次)47」を開始したが、その中で「全出生数中の低出生体重児の割合」を健康水準の指標と して定めている。
「健やか親子
21(第2次)
」検討会報告書では、厚生労働省低出生体重児が近年増加 した要因として、①若い女性のやせ、②喫煙、③不妊治療の増加等による複産の増加、④妊婦の高齢化、⑤妊娠中の体重管理、⑥帝王切開の普及等による妊娠週数の短縮、⑦ 医療技術の進歩などが指摘され、リスク要因をできるだけ改善することで、低出生体重 児の減少傾向を目標として目指すこととなった。
今後は、低出生体重児の出生率の低下を目的として、国、都道府県、保健所、市町村 等の行政機関、医療機関、教育機関、研究機関等は、それぞれが連携し、研究を進め、
さらに各種施策を展開していく必要がある。そして、国民一人ひとりが改善のための意 識を高めていくことが重要である。
また、本研究により、喘息の年齢別罹患率の経過から、喘息に罹患する場合は、早期 に発症して、早期に重症化しやすいことが明らかになった。それを防止するための一次 予防としてアレルゲンへの曝露を予防するなど適切な環境作りに努め、二次予防として 早期に発見して早期に治療することが重要である。そのためには医療の現場、市町村の 保健衛生担当部署等の連携のもと、保護者へのコンサルテーションや健康教育を積極的 に行い、発症を未然に防止し、万一発症した場合の重症化を防止する必要がある。
(5) 本研究における限界
本研究には様々な限界がある。一つに本調査がアレルギー性疾患を調査する目的で
行ったものではないため、家族歴、妊娠中の状況など重要な情報で得られないものが 多かった。そのため、今回は比較的充実した調査項目である出生時の状況と初期の環 境に限定して分析を行った。しかし、胎児発育遅延(Fetal growth restriction)に は、asymmetricalのものと
symmetrical
のものがあり、両者には生命・発達予後に大 きな差がある48ため、どちらであるかは重要な情報であるが、本研究における調査項 目では不明であった。そのため、妊娠週数が37
週以上か未満か、出生時体重が2,500g
以上か未満かで影響を判断せざるを得なかった。そして、カタールや中国における研究では、帝王切開よる出生が
RSV
陽性急性細気管支炎のリスクファクターであ ると結論付けている49,50。低出生体重児は帝王切開により出生する場合が多いと考え られるため、帝王切開による出生かは重要な情報であるが、不明であった。本調査を実施するにあたり、調査票には保護者の判断で記入したと考えられるた め、通院及び入院の原因疾患が喘息と確定したものである保証がない。喘息の確定診 断を行うためには、急性気管支炎、気管支軟化症など他の疾患を鑑別するため、血清 総
IgE
値、気道過敏性検査、喀痰、鼻汁等の好酸球の検出、呼気一酸化窒素検査など の検査を行い、発作症状の反復性の確認等を慎重に行う必要がある51。また、具体的 な症状及び重症度が不明であり、医師から喘息である診断を受けた経験があることの みしか明らかではない。本研究における通院と入院の相違点について整理をすると、通院は、医師の診断を受けているが、軽症のため対症療法のみで軽快している症例も 含まれている可能性があり、どこまで臨床検査を行っているか不明である。入院は、
通院よりも重症であることは確かと考えられ、現症を正確に見極めるため各種の検査 を行っていて確定診断に至っている可能性が高いと判断し、分析を行った。また、
ISAAC
やATS-DLD
でも「医師に喘息といわれたことがあるか」と保護者にたずねており、大規模な調査における限界である。しかし、本研究で明らかになった受診率や抽 出したリスクファクターは、上記で明らかになったとおり、先行研究の結果15と大き く乖離することはなかったため、大きな影響を与えているものではないと考えられ る。
また、喘息症状のため医療機関を受診するかは、通院の場合は、保護者の判断や時 間的経済的そして精神的余裕に左右される可能性が高い。そのため、医師の判断が必
ず伴い、必要な検査も行われたと考えられる入院も併せて考察した。その結果、双方 の結果に矛盾はなかった。
対象児が死亡した場合も、治癒したが調査に協力しなくなった場合も調査結果上区 別がつかない。1,941人が通院歴と入院歴に対し、一度も回答していないが、死亡例 や重症例が多く含まれている可能性がある。また、除外した
1,941
人の出生届及び第1
回調査の結果を分析すると、今回分析対象とした群と比較して、出生時体重(p=0.003)、両親の学歴、年齢、そして世帯の収入がいずれも低く、両親の喫煙率も 明らかに高かった。それらは喘息のリスクファクターとなりうるものであるため、影 響があった可能性がある。しかし、除外したグループは全体の
4.1%と少ないため、
評価には大きな問題はなかったと考える。
Ⅵ.まとめ
本研究により、喘息による入院のピークが
2.5
歳にあり、通院のピークが5.5
歳にあ り、早期に重症化することが明かとなった。また、出生時低体重が男児であることに次いで通院の大きなリスク因子であり、早期 産が男児であることに次いで入院の大きなリスク因子であることが明かとなった。いず れも、母親の喫煙や年齢と比べても大きなリスクであった。
そして、年齢別に行った分析では、低出生体重も早期産もすべての年齢において通院 も入院も多いことがわかり、10歳までの間には改善しないことが明かとなった。
一方で、一般的には第二子以降より第一子であることや、郡部より市部に居住する方 が喘息のリスクと言われている。しかし本研究では全く逆の結果となった。これらにつ いては、さらなる研究を行い、明らかにしていく必要がある。
以上のことから、今後、低出生体重児を生むリスクの除去、そして喘息発症のリスク の除去をさらに進める必要があり、医療機関、行政機関等が連携して対策を推進してい かなければならない。