博士学位論文審査の要旨
【学位論文審査の要旨】
本研究では,動作に関わる言語情報処理に対して,脳内の運動実行系情報処理が関与す るのかについて,6つの実験を通して検討した。いずれの実験においても,上肢姿勢を拘束 することによって手の動きに関する言葉への反応時間が遅延することを実証し,言語情報 処理に対して身体状況を表象する運動実行系の活動が関与していることを示すことが主た る目的であった。その結果,上肢拘束位では通常位よりも有意な遅延が確認された.単に 腕を拘束した状態で反応するだけでは反応の遅延は生じなかったことから,上肢拘束によ る影響は運動出力過程に対して生じたものではなく,言語の判断過程に影響を与えていた と推察される.つまりこれらの結果は,身体拘束が言語判断処理過程に影響を与えること を意味し,現状の身体状況が言語処理過程に関与することを示唆した.また,本研究の仮 説と異なる見解として,手の動きを表現する動詞(他動詞)と手の動きとは無関係な動詞
(自動詞)の間には上肢拘束による差が確認されなかった.この結果は刺激の提示順を変 更しても,動詞と名詞を比較しても同様に確認されたことから,上肢拘束は言語処理過程 全般に影響を与えることを示唆した.得られた成果のうち第1実験が国際誌に掲載された ことも考慮し(Frointier in Neuroscience),本学の博士(健康科学)に十分に値すると判断し た。
本学の学位規則に従い、論文審査委員による論文審査及び関連分野の試問を行った。また公 開の席上で論文内容を発表し、その質疑応答をもって最終試験とした。これらの論文審査及び最 終試験の結果、専門科目に関しても十分学力があることを認め、合格と判定した.