GFRP 溝形材のせん断特性と評価方法に関する実験的検討
東京都 正会員 飯田卓弥 首都大学東京大学院 学生員 石井佑弥 首都大学東京 正会員 中村一史 高速道路総合技術研究所 正会員 古谷嘉康 前田工繊 正会員 中井裕司 日本
FRP
正会員 西田雅之1.
はじめにFRPは,軽量性,耐腐食性などの特長を活かして,近年,土
木構造物への適用がすすめられている.しかしながら,適用実 績が少ないことなどもあり,その材料特性は,評価方法を含め て十分な知見が得られているとはいえない.本研究では,引抜 成形されたGFRP溝形材(C75,C100:一方向材)のせん断特 性と評価方法を実験的に検討することを目的として,種々のク ーポン試験と部材の曲げ載荷実験を実施した.2. JIS K 7019準拠の試験によるせん断特性の評価 2.1
試験方法本試験では,試験片の形状が試験結果に与える影響を考慮 し,溝形材のウェブの
45°
方向から,図-1
に示す寸法で2
種類 の試験片を製作した.つかみ部には,1mmのアルミタブを貼 り付けた.試験条件は,C75
,C100
で同一とし,荷重,変位,ひずみは,データロガー(静ひずみ測定器)により計測した.
ひずみの計測は,試験片中央において表裏に
2
軸ゲージ(ゲ ージ長 3mm)を±90°方向に設置した.本試験では,変位制御(
1.0mm/min
)で引張載荷した.写真-1 (a)
に,試験A
,B
の セットアップの状況を示す.試験A
,B
における評定部長さ は,一部異なるものの,試験方法や治具などは同一である.2.2
試験結果と考察図-4 に示す
τ-γ
関係からは,非線形挙動となり,試験片の ばらつきが大きいことがわかる.これは,採取した試験片の 寸法が小さく,連続繊維が切断されていることによるものと 考えられる.また,表-2
より,C100
の試験A
では,結果のば らつきが小さいことがわかる.これは,採取した試験片の寸 法が大きいことによると考えられた.一方,C75
では,試験 結果のばらつきが大きかった.さらに,試験B
の結果から,一方向材では,破壊箇所を限定するような形状に試験片を工 夫しても,試験結果の精度は向上しないことがわかった.
3. ASTM D 5379
準拠の試験によるせん断特性の評価3.1
試験方法試験片は,溝形材のウェブから
0°方向に図-2,図-3
に示す ような採取位置,寸法で製作した.写真-1 (b)
に,セットアッ プを示す.この試験は,試験片の中央にせん断力が作用する ような治具であり,変位制御で圧縮載荷した.荷重,変位,ひずみの計測方法や試験装置,載荷速度は,
2.と同一とし,ひ
ずみの計測では,試験片中央において表裏に2
軸ゲージ(ゲ ージ長3mm
)を±45°
方向に設置した.表-1 実施したクーポン試験と試験区分 試験区分 準拠した規格 試験片の形状
A JIS K 7019 矩形 B JIS K 7019 ダンベル型 C ASTM D 5379 矩形(ノッチあり)
(a) 試験A(C75) (b) 試験B(C75)
(c) 試験A(C100) (d) 試験B(C100) 図-1
JIS K 7019
準拠の試験片図図-2
ASTM D 5379
準拠の試験片図(a) C75 (b) C100 図-3
ASTM D 5379
準拠の採取位置(a) JIS K 7019 (b) ASTM D 5379 写真-1 クーポン試験のセットアップ状況 表-
2 JIS K 7019
準拠のクーポン試験結果せん断弾性係数Gxy(GPa) せん断強度τu(MPa)
No. ave. c.v ave. c.v
C75-45TA 3.17 0.081 26.9 0.109 C75-45TB 3.19 0.132 23.0 0.046 C100-45TA 2.82 0.046 25.0 0.047 C100-45TB 2.93 0.100 25.9 0.099
0 5 10 15 20 25 30 35
0 5000 10000 15000 20000 25000
面内せん断応力τ (MPa)
面内せん断ひずみγ (×10-6) C75-45TA C75-45TB 弾性係数の評価範囲
0 5 10 15 20 25 30 35
0 5000 10000 15000 20000 25000
面内せん断応力τ (MPa)
面内せん断ひずみγ (×10-6) C100-45TA C100-45TB 弾性係数の評価範囲
(a) C75 (b) C100 図-4
JIS K 7019
準拠のτ-γ関係Key Words:GFRP
溝形材,一方向材,せん断強度,せん断弾性係数連絡先*:〒192-0397 東京都八王子市南大沢
1-1 TEL.042-677-1111 内線 4564
土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)‑1‑
CS3‑001
3.2
試験結果と考察表
-3
より,せん断弾性係数の平均値の変動係数は,C75
では約8%,C100
では約11%であった.これは,図-5
に 示すように各採取位置においてせん断特性が異なる値と なったためである.また,図-6のτ
-γ
関係より,明確な 破壊が見られないため,せん断強度は0.2%オフセット強
度により評価した.その結果,せん断強度の平均値は約39MPa,変動係数は約 6~8%となった.写真は略したが,
破壊形態はせん断力の方向に沿った破壊であった.
4. 溝形材の 3
点曲げ載荷試験によるせん断耐力の評価4.1
試験方法試験体は溝形材の断面形状の都合上,二つの溝形材を 背合わせに固定したものとする(図
-7
).支持条件は,単 純支持とし,変位制御(1.0mm/min)で載荷した.4.2
試験結果と考察試験結果を表-4,
τ
-γ
関係を図-8に示す.弾性係数の評 価範囲において概ね線形な挙動を示した.C75 では,破 壊箇所は,写真-2
に示すように,せん断支間での繊維配 向に沿った破壊となった.C100
では,載荷点の破壊が先 行した.また,C75
について,クーポン試験の結果と比 較すると,JIS K 7019
の結果は,3
点曲げ試験の結果より も小さく評価された.これは,一方向に配向された繊維を
45°方向に切り出して引張載荷するため,破壊形式も
異なり,強度が小さくなったと考えられた.一方,
ASTM D 5379
の結果は,3
点曲げ試験の結果と概ね一致した.これは,試験力の方向が
ASTM
準拠の治具では,3点曲 げ試験に近い形式であり,せん断力の作用が再現されて いることによると考えられる.なお,C100 については,せん断弾性係数では,
C75
と同様の傾向がみられたが,せん断強度は,やや低い値となった.これは,前述した 載荷点での破壊が影響したためであると考えられる.
5.
まとめこれらの試験結果より,一方向材の
GFRP
溝形材のせ ん断特性について,以下の知見が得られた.JIS
に準拠した試験では,試験片の45°方向の切断縁が
破壊の起点となり,せん断強度が低くなることがわかっ た.したがって,試験片は部材からできるだけ大きな寸 法で採取すれば,試験結果のばらつきを抑えることがで きると考えられた.一方,ASTM に準拠した試験では,試験片,治具の形状から曲げに伴うせん断力の作用が再 現できているため,3 点曲げ載荷試験によるせん断試験 と近い結果となったと考えられた.以上のことから,一 方向材の
GFRP
溝形材のせん断特性は,ASTMに準拠し た試験により,評価することができるといえた.参考文献
1)
JIS K 7019
:繊維強化プラスチック―±45°引張試験による面内せん断特性の求め方,1999.
2)
ASTM D5379 / D5379M – 12:Standard Test Method for Shear Properties of Composite Materials by the V-Notched Beam Method, 2012.
表
-3 ASTM D 5379
準拠のクーポン試験結果 せん断弾性係数Gxy(GPa)
0.2%オフセット せん断強度τu(MPa)
No. ave. c.v. ave. c.v.
C75 3.99 0.080 38.6 0.058 C100 4.11 0.113 38.5 0.076
0 1 2 3 4 5
せん断弾性係数(GPa))
採取位置別の結果 最大値 平均値+標準偏差 平均値 平均値-標準偏差 最小値
C100 C75
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
せん断強度(MPa)
採取位置別の結果 最大値 平均値+標準偏差 平均値 平均値-標準偏差 最小値
C100 C75
(a) せん断弾性係数Gxy (b) せん断強度u
図-5
ASTM D 5379
準拠の採取位置別での試験結果0 10 20 30 40 50 60 70
0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000 45000 50000
面内せん断応力τ (MPa)
面内せん断ひずみγ (×10-6) C75 0.2%オフセット線
弾性係数の評価範囲(1500-5500με)
図
-6 ASTM D 5379
準拠の τ-γ 関係図-7
C75
における3
点曲げ載荷試験の試験体図 表-4 3
点曲げ載荷試験結果(a) C75
No. τu(MPa) Gxy(GPa) Pmax(kN) C75-SP1 41.5 3.62 47.6 C75-SP2 42.1 4.08 48.3 C75-SP3 40.8 3.22 46.8
Ave. 41.5 3.64 47.5
(b) C100
No. τu(MPa) Gxy(GPa) Pmax(kN) C100-SP1 34.5 3.55 54.5 C100-SP2 32.3 4.62 51.1 C100-SP3 28.8 3.72 45.6
Ave. 31.9 3.96 50.4
0 10 20 30 40 50
0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000
せん断応力τ(MPa)
せん断ひずみγ(×10-6) C75-SP C100-SP
弾性係数の評価範囲(1500-5500με)
図
-8 3
点曲げ載荷試験のτ-
γ関係(a) C75 (b) C100 写真
-2 3
点曲げ載荷試験の破壊の状況 土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)‑2‑
CS3‑001