寒冷地トンネルにおける覆工劣化のロングテール分布
Long- Tailed Distributions for degrading of tunnel lining
東京都市大学工学部都市工学科 ○正会員 須藤敦史(Atsushi Sutoh) (独)土木研究所寒地土木研究所 正会員 佐藤 京 (Takashi Sato)
1. はじめに
最近,社会基盤施設の老朽化に伴うさまざまな不具合 が現れてきている.特に山岳トンネルは長い耐用年数の 構造物であるため,北海道のように厳しい環境のなかで 長寿命化を実現するためには,予防保全を基本とした維 持管理システムの構築(Life Cycle Management:LCM)
とその効率的な運用が必須とされている1)など.
一方,山岳トンネルにおいて効率的な維持管理・長寿 命化を行うためには,トンネル覆工の劣化状態の正確な 把握およびそれらの動向・変化および将来予測が非常に 重要となる.
そこで本研究では,山岳トンネルにおけるLife Cycle Cost(LCC)の考え方を概観しており,加えて北海道の トンネル点検記録よりトンネル覆工における劣化状態の 分布傾向を報告する.
2. 山岳トンネルのLife Cycle Cost(LCC)
一般に LCC は,耐用年数における初期建設費と破壊 時(復旧)費用の和で表される式(1)の期待総費用の最 小化を指標としている2)など.
f f
i
P C
C
ETC = +
(1):
ETC
期待総費用,C
i:
初期建設費,f
:
P
対象事象の破壊確率,f
:
C
破壊時費用(維持管理費含む)そこで,式(1)の最小化にはトンネル構造物が社会資 本として満足しなければならない性能水準を定めて,さ らに供用期間(耐久年数)における構造物の経年劣化と 生じるさまざまな事象(リスク)と考慮した予防保全を 前提とした維持管理システムが必要である(図.1 参照).
3. LCCにおけるRisk Management (RM)の位置づけ 一般的な LCC ではトンネル構造物の点検や補修・補 強タイミングを最適化し,かつその工法・規模を選択・
決定して効率的に実施しなければならない.
しかし,これらの選択・決定に対しては,現在トンネル 構造物が現在どのような損傷状況なのか?さらに供用期 間に有するリスクが考慮されていないのが現状であり,
加えてどの段階(時期)でどのような工法でどの程度,
補修・補強を実施するのか?などの基本的な考え方やそ の判断基準を具体的に示されておらず,今後はこれらを 明確に示すことは,事業者の説明責任を果たす上におい ても最も重要である.
寒冷地トンネルの経年劣化は,その冬期の環境が厳しい ため,表面の氷結や地山の凍上による覆工の劣化・損傷 が多く見られ,加えてその形態が多岐にわたることより,
一般的に劣化変動・分布が大きく,適切な評価・予測は きわめて難しいのが現状である
そこで RM では現状のトンネル覆工における劣化(分 布)状態のデータ収集・整理や劣化推移モデルの検討・
検証,さらに共用期間における損傷リスクを適切に評価 将来の予測精度を高めるために重要である3),4)など. 4. ト ン ネ ル 覆 工 の 劣 化 分 布 ( ボ ラ テ ィ リ テ ィ )
劣 化 成 長 モ デ ル は ブ ラ ッ ク ・ シ ョ ー ル ズ (B- S) の 幾 何 学 的 ブ ラ ウ ン 運 動 ( 伊 藤 型 確 率 微 分 方 程 式 ) モ デ ル に お い てQ(t)の 分 布 は 対 数 正 規 分 布 P(t)を 示 す5 )な ど(図.2参照).
北 海 道 内 に お い て 矢 板 工 法 で 施 工 さ れ た ト ン ネ
図.1 LCMにおける維持管理の概念1)
図.2 山岳トンネルの性能劣化モデル
平成26年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第71号
A-03
ル (162個 所 ) で 得 ら れ た 覆 工 の 点 検 デ ー タ か ら 得 ら れ た , 劣 化 過 程 ( 経 年 劣 化 ) の 分 布 ( ボ ラ テ ィ リ テ ィ ) 項 の 期 間 ご と の 推 移 を図 .3に 示 す . ま た 正 規 化 し た 経 年 別 の 劣 化 分 布 状 態 は図 .4 に 示 す よ う に 幾 何 ブ ラ ウ ン 運 動 の 理 論 ど お り に 経 過 年 数
t
iと と も に 劣 化 度 ( 性 能 関 数 )Q(ti)は 対 数 正 規 分 布P(ti)で 広 が っ て い る .5. 覆工劣化のロングテール分布
ガ マ タ ト ン ネ ル に お け る 覆 工 の 経 年 平 均 劣 化 と そ の 分 布 状 態 ( 標 準 偏 差 ) を図 .5に 示 す .
送 毛 ・ ガ マ タ ・ 大 平 ト ン ネ ル 覆 工 は 経 過 年 と と も に 平 均 劣 化 は 進 行 し て お り , そ の 分 布 状 態 ( 標 準 偏 差 ) も 広 が る 傾 向 を 示 す .
図 .5 よ り ガ マ タ ト ン ネ ル に お け る ト ン ネ ル 覆 工 の 経 年 平 均 劣 化 と そ の 分 布 状 況 ( ヒ ス ト グ ラ ム ) は , ガ マ タ ト ン ネ ル の 覆 工 は 経 年 と と も に 劣 化 は 進 行 し て い る . ま た 分 布 状 態 ( ヒ ス ト グ ラ ム ) も 広 が る 傾 向 を 示 し て お り , そ の 分 布 は 対 数 正 規 分 布 も し く は ロ ン グ テ ー ル 分 布 を 示 し て い る .
図 .5 ガマタトンネルに お け る 経 年 の 平 均 劣 化 と 分 布 5. お わ り に
寒 冷 地 ト ン ネ ル に お け るLCMの 構 築 を 目 的 と し て , 現 状 の ト ン ネ ル 覆 工 に お け る 劣 化 分 布 と 経 過 年 数 と の 関 係 と 北 海 道 内 に お け る 矢 板 工 法 の ト ン ネ ル で 得 ら れ た 覆 工 の 点 検 デ ー タ を 用 い て 考 察 し た 結 果 , 以 下 の 結 論 が 得 ら れ た .
1) 劣 化 ( 性 能 関 数 ) の 分 布 は , 幾 何 ブ ラ ウ ン 運 動 の 理 論 通 り に 対 数 正 規 分 布 も し く は ロ ン グ テ ー ル 分 布 を 示 し て お り , 経 過 年 数 と と も に 広 が っ て い く と 考 え ら れ る .
2) ブ ラ ッ ク ・ シ ョ ー ル ズ の 劣 化 モ デ ル は , ト ン ネ ル 覆 工 に お け る 劣 化 の 分 布 状 態 の 評 価 が で き , 加 え て リ ス ク の 評 価 も お 考 慮 し た 将 来 予 測 が 行 え る た め , 最 適 な 補 修 , 補 強 時 期 が 適 切 に 判 断 で き , 合 理 的 な ラ イ フ サ イ ク ル マ ネ ー ジ メ ン ト( LCM )の 構 築 が 可 能 と な る .
参考文献
1) 岡田正之,三上隆,川村浩,須藤敦史,角谷俊次:
寒冷地トンネルにおけるライフサイクルマネージメ ントの基礎考察,土木学会第 59 回年次学術講演会
Ⅳ-397,pp.791-792,2004.
2) 長尾 毅,柴崎隆一,尾崎竜三:経済損失を考慮し た期待総費用最小化のための岸壁の常時のレベル信 頼 性 設 計 法 , 土 木 学 会 , 構 造 工 学 論 文 集,Vol.51A,pp.389-400,2005.
3) 須藤敦史,近野正彦,丸山収,佐藤京,西弘明:寒 冷地トンネルの覆工における劣化過程の同定と長期 予測,土木学会 論文集 F1 (トンネル工学),
Vol.20,pp.61-68,2010.
4) 須藤敦史,佐藤京,西弘明:積雪寒冷地トンネルに おけるTMS構築に関する研究,土木学会 第21回 トンネル工学研究発表会論文集,pp.203-208,2011.
5) 須藤敦史,丸山収,佐藤京,西弘明:性能規定に基 づく寒冷地トンネル覆工の劣化予測のためのマルコ フ遷移確率行列の同定,土木学会 論文集 F1 (ト ンネル工学),Vol.22,pp.61-68,2012.
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
0〜1 1〜
2 2〜
3 3〜
4 4〜
5 5〜
6 6〜
7 7〜
8 8〜
9 9〜
10 10〜 11 11〜
12 12〜 13 13〜
14 劣化評価値(全体)
頻 度
10〜20年 10〜30年 10〜40年 10〜50年
図.3 トンネル覆工の劣化分布(経過年数31〜50年)
図.4 正規化したトンネル覆工の劣化分布
(経過年数31〜50年)