第7章
失読と失書
1 . ま え が き 脳 の 局 所 的 病 変 に 伴 う 読 字 の 障 害 を 失 読 、 書 字 の 障 害 を 失 書 と い う 。 失 読 、 失 書 の 研 究 は 最 近 20 年程の間に大きく変化した。かつては、例えば失語に伴う失読あるいは失語を 伴 わ な い 失 書 な ど と そ の 臨 床 像 か ら 失 読 や 失 書 を 分 類 し 、 そ の 機 序 や 責 任 病 巣 の 検 討 がな さ れ た 。1980 年代以降、読字過程、書字過程の認知心理学的モデルを想定し、その過程の ど こ に 障 害 が あ れ ば ど の 症 状 が 生 じ う る か を 想 定 し て 、 失 読 や 失 書 を 分 類 す る 研 究 が 主流 と な っ た 。 失 読 や 失 書 へ の 仮 説 演 繹 的 ア プ ロ ー チ で あ る 。 ウ ェ ル ニ ッ ケ ・ リ ヒ ト ハ イ ムの 失 語 古 典 論 も 方 法 論 的 に は 仮 説 演 繹 法 で あ る 。 一 定 の モ デ ル を 想 定 し て 症 状 を 分 類 す るこ と は 一 見 新 し い ア プ ロ ー チ の よ う に 見 え る が 、 歴 史 的 に 考 え れ ば 実 は 神 経 心 理 学 の 伝 統的 ア プ ロ ー チ で あ る 。 仮 説 演 繹 的 ア プ ロ ー チ に お い て は 、 様 々 な モ デ ル が 想 定 可 能 で あ る 。 失 語 の 場 合 も 多 く の モ デ ル が 提 案 さ れ 、 最 終 的 に ウ ェ ル ニ ッ ケ ・ リ ヒ ト ハ イ ム の モ デ ル が 残 っ た 。 現 在 、 書 字 や 読 字 に つ い て 種 々 の モ デ ル が 提 案 さ れ て い る 。 こ こ で は 読 字 に つ い て は コ ル セ ア ー ト の モ デ ル 、 書 字 に つ い て は ラ ッ プ の モ デ ル を 採 用 し 、 そ れ に 従 っ て 失 読 、 失 書 の 検 討 を 行 う 。 な お 、 こ の こ と は コ ル セ ア ー ト や ラ ッ プ の モ デ ル が 優 れ て い る こ と を 意 味 し な い 。 失 読 、 失 書 を 理 解 す る た め の 取 り あ え ず の 出 発 点 と し て 二 つ の モ デ ル を 採 用 し た の で あ る 。 1 . 1 読 字 過 程 の モ デ ル ( コ ル セ ア ー ト ) コ ル セ ア ー ト の 読 字 過 程 モ デ ル は 図 7 - 1 のごとくである。文字は基本的に視覚刺激で あ る か ら 、 ま ず 視 覚 表 象 検 出 器 に よ っ て 視 覚 刺 激 と し て の 特 徴 が 分 析 さ れ 、 文 字 と し て知 覚 さ れ る 。 次 に 文 字 検 出 器 に よ っ て 文 字 あ る い は 文 字 列 が ど の 語 に 対 応 す る か が 解 析 され る 。 そ の 結 果 は 文 字 入 力 レ キ シ コ ン に 入 力 さ れ て 対 応 す る 語 が 同 定 さ れ る 。 そ の 後 、 読字 過 程 は 二 つ の 過 程 に 分 か れ る 。 第 一 は 概 念 意 味 シ ス テ ム に ア ク セ ス す る こ と に よ り 語 の意 7-1味 が 同 定 さ れ 、 そ の 結 果 が 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン に 出 力 さ れ る 過 程 で あ る 。 第 二 は 語 の 語形 か ら 直 接 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン に ア ク セ ス す る 過 程 で あ る 。 コ ル セ ア ー ト は さ ら に 読 字 には 第 三 の 過 程 が 存 在 す る と 想 定 す る 。 印 字 ― 音 韻 変 換 シ ス テ ム を 用 い て 文 字 か ら 直 接 音 韻に ア ク セ ス す る 過 程 で あ る 。 以 上 、 コ ル セ ア ー ト は 読 字 に は 三 つ の 過 程 が 存 在 す る と 考 えて い る 。 図 7 - 1 読 字 過 程 モ デ ル ( コ ル セ ア ー ト ) 7-2
ジ ョ バ ー ル ら は 読 字 過 程 に 関 す る 機 能 画 像 解 析 研 究 の メ タ 解 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 か ら 、 読 字 過 程 を 、 ① 初 期 視 覚 処 理 過 程 、 ② 概 念 意 味 シ ス テ ム に ア ク セ ス す る こ と に よ り 語 の 意 味 が 同 定 さ れ る 「 直 接 過 程 」 、 ③ 印 字 ― 音 素 変 換 シ ス テ ム を 用 い て 文 字 か ら 直 接 音 韻 に ア ク セ ス す る 「 間 接 過 程 」 に 分 け 、 そ れ ぞ れ の 過 程 に お い て 活 性 化 さ れ る 領 野 を 以 下 の ご と く 同 定 し た ( 図 7 - 2 参 照 ) 。
1 ) 初 期 視 覚 処 理 過 程 (Early visual processing)および文字検出器(Pre-lexical processing)~左後頭側頭葉接合部(L.Occipito-Temporal junction)
2 ) 直 接 路 (Direct Route)、意味処理(semantic access)~左中側頭回後方(L. (L.Post.Mid.Temporal Gyrus)、左側頭葉基底部(L.Basal Temporal area)、左下前 頭 回 三 角 部 (L.Inf.Frontal Gyrus,triangle)
3 )間 接 路(Indirect Route)、文字―音韻転換~左上側頭回(L.Sup.Temporal Gyrus)、 左 中 側 頭 回(L.Middle Temporal Gyrus)、左上側頭回後部(L.Post Sup.Temporal Gyrus)、 左 縁 上 回 (L.Supramarginal Gyrus)、左下前頭回(L.Inf.Frontal Gyrus,opecular)
ジ ョ バ ー ル ら に よ れ ば 、 各 領 野 の 機 能 は 、 ① 左 後 頭 葉 外 側 部 : 文 字 を 含 む 視 覚 刺 激 全 般 の 初 期 視 覚 処 理 に 関 与 、 ② 左 後 頭 側 頭 葉 接 合 部 / 紡 錘 状 回 : 刺 激 が 文 字 で あ る か 否 か の 判 断 に 関 与 ( 視 覚 的 語 形 態 野 、VWFA)、③左上側頭回および左中側頭回:文字―音韻変換 に 関 与 、 ④ 左 縁 上 回 : 語 の 意 味 概 念 シ ス テ ム で あ り 意 味 判 断 に 関 与 、 ⑤ 左 下 前 頭 回 : 語 ― 意 味 変 換 お よ び 文 字 ― 音 韻 変 換 結 果 を 保 持 し 発 話 に 関 与 、 ⑥ 左 側 頭 葉 基 底 部 : 視 覚 刺 激 の 意 味 理 解 に 関 与 、 ⑧ 左 中 側 頭 回 : 文 字 ― 音 韻 変 換 お よ び 語 意 味 処 理 に 関 与 、 で あ る 。 コ ル セ ア ー ト の モ デ ル は 機 能 画 像 解 析 の 結 果 と ほ ぼ 対 応 す る 。 た だ し 彼 が 想 定 し た 文 字 入 力 レ キ シ コ ン に 対 応 す る 領 野 は 機 能 画 像 解 析 の 結 果 で は 見 出 さ れ て い な い 。 1 . 2 書 字 過 程 の モ デ ル ( ラ ッ プ ) ラ ッ プ の 書 字 過 程 の モ デ ル は 図 7 - 3 に 示 す ご と く で あ る 。 文 字 入 力 レ キ シ コ ン や 音 韻 入 力 レ キ シ コ ン に は 語 の 形 態 情 報 や 音 韻 情 報 の 記 憶 が 貯 蔵 さ れ て い る 。 こ こ で 出 力 す べ き 文 字 列 や 語 が 同 定 さ れ る 。 意 味 概 念 レ キ シ コ ン に は 語 の 意 味 が 貯 蔵 さ れ て い る 。 ラ ッ プ の モ デ ル で は 、 視 覚 、 聴 覚 な ど の 入 力 様 相 や 口 頭 言 語 、 書 字 言 語 な ど の 出 力 様 相 全 て に 共 通 す る 意 味 概 念 レ キ シ コン が 存 在 す る と 想 定 す る 。 7-4
図 7 - 3 書 字 過 程 の モ デ ル ( ラ ッ プ ) 文 字 出 力 レ キ シ コ ン は 語 の 文 字 素 へ の 変 換 に 関 与 す る 。 語 の 意 味 が ア ク セ ス さ れ る か 活 性 化 さ れ た な ら 、 そ れ に 対 応 す る 文 字 素 が 活 性 化 さ れ る 。 こ の 場 合 、 必 ず し も 文 字 の 音 韻 が 想 起 さ れ る 必 要 は な い 。 す な わ ち 、 意 味 と 音 韻 と は 互 い に 独 立 に 文 字 素 を 活 性 化 す る こ と が 可 能 で あ る 。 印 欧 語 で は 、 大 文 字 、 小 文 字 、 活 字 体 、 筆 記 体 な ど の 文 字 素 が あ る 。 日 本 語 に は 漢 字 お よ び 仮 名 文 字 の 二 つ の 文 字 体 系 が あ る 。 仮 名 は さ ら に 平 仮 名 と 片 仮 名 に 分 か れ る 。 同 一 の 語 を 三 つ の 異 な る 文 字 体 系 で 出 力 す る こ と が 可 能 で あ る 。 す な わ ち 3 種 の 文 字 素 が 存 在 す る 。 文 字 出 力 レ キ シ コ ン の 処 理 結 果 は 文 字 素 バ ッ フ ァ に 保 持 さ れ 、 種 々 の 出 力 様 相 で 出 力 さ れ る 。手 書 き が 一 般 的 で あ る が 、印 欧 語 で は 口 頭 で 綴 り を 言 う オ ー ラ ル・ ス ペ リ ン グ も あ る 。そ れ ぞ れ に 固 有 の 文 字 バ ッ フ ァ が 存 在 す る 。こ の 他 、タ イ プ ラ イ タ ー 、 ワ ー ド プ ロ セ ッ サ ー 、 文 字 版 、 文 字 ブ ロ ッ ク な ど に よ る 出 力 が あ る 。 そ れ ぞ れ の 出 力 様 相 7-5
毎 に 必 要 な 運 動 表 象 が 喚 起 さ れ る 。 書 字 過 程 に 関 す る 機 能 画 像 研 究 は 読 字 過 程 に 関 す る 研 究 ほ ど 多 く は な い 。 そ の 結 果 を 要 約 す れ ば 以 下 の ご と く で あ る 。 1 ) 書 字 課 題 遂 行 時 に は 読 字 課 題 遂 行 時 活 性 化 さ れ る 領 野 の 多 く が 活 性 化 す る 。 こ れ ら の 領 野 は 書 字 と 読 字 に 共 通 す る 処 理 ( 図 7 - 1 と 図 7 - 3 に 共 通 す る 処 理 過 程 ) に 対 応す る 領 野 と 考 え ら れ る 。 2 ) 書 字 課 題 に 特 異 的 に 活 性 化 す る 領 野 と し て は 、 ① 下 前 頭 回 ( 出 力 す べ き 語 が 動 詞 か 名 詞 か に よ っ て 活 動 性 が 変 化 す る 、 文 字 出 力 レ キ シ コ ン に 対 応 ) 、 ② 運 動 前 野 ( 特 定 の文 字 素 を 選 択 す る 課 題 で 活 性 化 さ れ る 、 文 字 素 バ ッ フ ァ に 対 応 ) 、 が あ る 。 3 ) 読 字 に お い て 重 要 な 役 割 を 担 う こ と が 明 ら か に さ れ て い る 角 回 お よ び 縁 上 回 に つ い て は 、 書 字 課 題 遂 行 時 に も 活 性 化 さ れ る と い う 結 果 と 活 性 化 は 明 ら か で な い と す る 結 果の い ず れ も が 報 告 さ れ て い る 。 図 7 - 3 の モ デ ル を お お む ね 支 持 す る 結 果 で あ る 。 1 . 3 失 書 、 失 読 の 分 類 図 7 - 1 の 諸 過 程 の い ず れ か が 障 害 さ れ れ ば 失 読 が 生 じ る 。 本 書 で は 失 読 を 、 1 ) 中 心 性 失 読 ~ 文 字 の 言 語 的 処 理 障 害 に よ る 失 読 。 2 ) 周 辺 性 失 読 ~ 非 言 語 的 な 文 字 処 理 障 害 ( 図 7 - 1 の 文 字 検 出 器 よ り 以 前 の 過 程 ) に よ る 失 読 。 に 分 類 す る 。 同 様 に 図 7 - 3 の い ず れ の 過 程 が 障 害 さ れ た か に よ り 失 書 を 、 1 ) 中 心 性 失 書 ~ 文 字 の 言 語 的 処 理 障 害 に よ る 失 書 。 2 )周 辺 性 失 書 ~ 文 字 の 言 語 的 処 理 以 外 の 障 害( 図 7 - 3 の 文 字 素 バ ッ フ ァ 以 降 の 過 程 ) に よ る 失 書 。 に 分 類 す る 。 図 7 - 1 と 図 7 - 3 を 比 較 す れ ば 明 ら か で あ る が 、 読 字 と 書 字 に は 共 通 す る 処 理 過 程が あ る 。 こ の 共 通 過 程 に 障 害 が あ れ ば 、 失 読 と 失 書 が 同 時 に 生 じ る こ と に な る 。 第 6 章 で述 べ た よ う に 、 失 語 が そ う で あ る 。 一 方 、 失 語 症 状 は 認 め ら れ な い が 読 字 と 書 字 が 同 時 に障 害 さ れ る 類 型 が 古 く か ら 知 ら れ て い る 。 「 失 書 を 伴 う 失 読 」 、 「 失 読 ・ 失 書 」 な ど と 呼ば れ て き た 。 本 書 で は こ の 類 型 を 上 記 の 諸 類 型 と は 別 に 検 討 す る 。 7-6
2 . 中 心 性 失 読 2 . 1 深 層 性 失 読 主 と し て 文 字 の 音 韻 情 報 処 理 ( 図 7 - 1 の 印 字 ― 音 韻 変 換 シ ス テ ム ) の 障 害 に よ る 。次 ぎ の 症 状 を 示 す 。 1 ) 文 字 の 音 韻 情 報 を 処 理 出 来 な い た め 非 実 在 語 の 音 読 に 障 害 を 示 す 。 非 実 在 語 を 全く 読 め な い か 、 形 態 的 に 類 似 し た 実 在 語 と し て 読 む 。 2 ) 障 害 の 程 度 は 品 詞 に よ っ て 異 な る 。 名 詞 の 読 み が 最 も よ く 、 形 容 詞 、 動 詞 の 順 とな り 、 前 置 詞 な ど の 機 能 語 の 読 み が 最 も 悪 い 。 3 ) 語 の 具 体 性 の 影 響 を 受 け 、 抽 象 語 で 障 害 が 強 い 。 4 ) 読 み の 誤 り ( 錯 読 ) は 視 覚 的 な も の 、 意 味 的 な も の 、 活 用 の 誤 り な ど す べ て が 生じ 得 る 。 以 上 の 症 状 は 単 な る 音 韻 情 報 処 理 の 障 害 だ け で は 生 じ て こ な い 。 例 え ば 、 具 体 語 よ り 抽 象 語 の 読 み が 障 害 さ れ る 点 は 音 韻 情 報 処 理 の 障 害 で は 説 明 出 来 な い 。 深 層 性 失 読 に は 概念 意 味 シ ス テ ム に も 何 ら か の 障 害 が あ る と 予 想 さ れ る 。 意 味 的 な 錯 読 の 存 在 も 概 念 意 味 シス テ ム の 障 害 を 示 唆 す る 。 そ こ で 、 深 層 性 失 読 の 機 序 と し て 、 左 大 脳 半 球 に 損 傷 が あ る ため 右 大 脳 半 球 が そ の 機 能 を 代 償 す る た め に 出 現 し た と す る 説 が 提 出 さ れ た 。 こ の 「 深 層 性失 読 ― 右 大 脳 半 球 代 償 説 」 を 積 極 的 に 主 張 し た の は コ ル セ ア ー ト で あ る 。 彼 は 、 ま ず 、 右大 脳 半 球 の 言 語 機 能 に つ い て 次 の 事 実 を 指 摘 し た 。 1 ) 左 右 両 大 脳 半 球 間 の 連 絡 線 維 を 離 断 さ れ た 分 割 脳 患 者 の 研 究1か ら 、 右 大 脳 半 球 は あ る 程 度 の 概 念 意 味 シ ス テ ム を 有 し て お り 、 聴 覚 的 あ る い は 視 覚 的 に 提 示 さ れ た 単 一 の語 の 理 解 が 可 能 で あ る こ と が 明 ら か に さ れ た 。 2 )右 大 脳 半 球 の 音 韻 処 理 能 力 は 限 ら れ た も の で は あ る が 全 く な い 訳 で は な い 。例 え ば 、 同 じ 音 韻(“ key” と“ bee”)の 照 合 課 題は遂 行 可 能であ る 。た だし 音 素 を文字 素 に 転 換 す る こ と は 出 来 な い 。 3 ) 右 大 脳 半 球 の 文 法 処 理 能 力 は 極 め て 限 ら れ て い る 。 4 ) 右 大 脳 半 球 の 概 念 意 味 シ ス テ ム は 具 体 語 の レ キ シ コ ン で あ る 。 そ し て 、 右 大 脳 半 球 の こ の よ う な 言 語 能 力 は 深 層 性 失 読 患 者 の 示 す 言 語 能 力 に 類 似 し てお 1 詳 細 は 第 1 2 章 参 照 。 7-7
り 、 深 層 性 失 読 は 左 大 脳 半 球 損 傷 に よ り 失 わ れ た 読 み の 機 能 を 右 大 脳 半 球 が 代 償 し た 結果 と し て 生 じ た 症 状 で あ る と 考 え た 。 コ ル セ ア ー ト に よ れ ば 、 深 層 性 失 読 が 出 現 す る た め に は 、 左 大 脳 半 球 に か な り 大 き な 損 傷 が 存 在 す る こ と が 必 要 で あ る 。通 常 右 大 脳 半 球 は 左 大 脳 半 球 か ら 強 い 抑 制 を 受 け て い る 。 従 っ て 、 右 大 脳 半 球 の 機 能 が 十 分 発 揮 さ れ る た め の 前 提 条 件 と し て 、 左 大 脳 半 球 の 抑 制か ら の 解 放 が 必 要 で あ り 、そ の た め に は 左 大 脳 半 球 に 広 範 な 損 傷 が 存 在 し な け れ ば な ら な い 。 実 際 、 彼 が 引 用 し て い る 5 例 の 深 層 性 失 読 の CT 所見は以下のごとくであった。全例に左 大 脳 半 球 損 傷 が 認 め ら れ た 。 ブ ロ ー カ 野 は 全 例 で 損 傷 さ れ ( 2 例 は 部 分 的 損 傷 ) 、 下 前頭 回 は 1 例 で 重 度 の 損 傷 、 3 例 で 中 度 損 傷 で あ っ た 。 上 側 頭 回 皮 質 損 傷 は 1 例 に の み で あっ た が 、 皮 質 下 損 傷 は 全 例 に 認 め ら れ た 。 上 側 頭 回 後 部 は 5 例 中 4 例 で 保 た れ て い た 。 縁上 回 に は 全 例 で 損 傷 が あ り 、1 例 で は 完 全 に 破 壊 さ れ て い た 。角 回 は 3 例 で 損 傷 さ れ て い た 。 上 、 下 頭 頂 小 葉 の 損 傷 は 4 例 で 認 め ら れ た 。 皮 質 下 損 傷 は 全 例 で 広 範 に 認 め ら れ た 。 そ の 後 報 告 さ れ た 深 層 性 失 読 の 損 傷 部 位 は 、 ① 左 中 大 脳 動 脈 還 流 領 域 の 梗 塞 で 、 中 前頭 回 か ら 後 方 皮 質 下 に 延 び 、 側 頭 葉 か ら 頭 頂 葉 に 達 す る 損 傷 、 ② 左 被 殻 、 内 包 前 脚 、 上 側頭 回 後 下 部 か ら 角 回 に 及 ぶ 皮 質 下 損 傷 、 ③ 左 前 頭 葉 か ら 側 頭 葉 、 頭 頂 葉 を 含 み 後 頭 葉 に 到る 広 範 な 脳 梗 塞 、 ④ 左 下 前 頭 回 後 部 か ら 側 頭 葉 、 頭 頂 葉 に 及 ぶ 皮 質 ・ 皮 質 下 損 傷 、 ⑤ 左 前頭 葉 ・ 側 頭 葉 ・ 頭 頂 葉 領 野 の 広 範 な 梗 塞 、 ⑥ 脳 梁 膨 大 、 左 海 馬 傍 回 、 左 外 側 膝 状 体 損 傷 、⑦ 左 前 頭 葉 、 頭 頂 葉 領 野 の 皮 質 ・ 皮 質 下 損 傷 、 な ど で あ る 。 確 か に 左 大 脳 半 球 の 広 範 な 損傷 例 が 多 く コ ル セ ア ー ト の 説 を 支 持 す る 。 そ れ と 共 に 皮 質 下 白 質 の 損 傷 を 有 す る 症 例 の 多い こ と が 注 目 さ れ る 。 「 深 層 性 失 読 ― 右 大 脳 半 球 代 償 説 」 に 対 し て は 異 論 も あ る 。 フ リ ー ド マ ン は 、 ① 健 常 者 の 右 大 脳 半 球 が 文 字 処 理 に 関 係 し て い る こ と を 示 す 証 拠 が な い 、 ② 後 述 す る よ う に 、 純粋 失 読 は 文 字 情 報 が 左 大 脳 半 球 に 達 し な い こ と に よ り 生 じ る 、 従 っ て 深 層 性 失 読 の 症 状 を呈 す る は ず で あ る が 実 際 は そ う で は な い 、 ③ 分 割 脳 患 者 の 右 大 脳 半 球 の 読 み 能 力 は そ れ 程高 く な い 、 な ど の 問 題 点 を 指 摘 し て い る 。 深 層 性 失 読 は 、 病 変 部 位 の 広 が り か ら 予 想 さ れ る よ う に 、 全 失 語 や ブ ロ ー カ 失 語 で 出現 し や す い 。 流 暢 失 語 で は 希 で あ る 。 7-8
2 . 2 意 味 性 失 読 ( 直 接 性 失 読 ) 図 7 - 1 に は 概 念 意 味 シ ス テ ム を 介 さ な い 読 字 過 程 の 存 在 が 想 定 さ れ て い る 。 他 の 過程 が 障 害 さ れ 、 こ の 印 字 - 音 韻 変 換 シ ス テ ム の み が 保 た れ て い る 患 者 は 規 則 的 綴 り の 語 も不 規 則 な 綴 り の 語 も 正 し く 音 読 出 来 る が そ の 意 味 を 理 解 出 来 な い と 予 想 さ れ る 。 こ の 仮 説を 支 持 す る 症 例 が 報 告 さ れ て い る 。 シ ュ ワ ル ツ ら の 症 例 は 以 下 の ご と く で あ る 。 発 話 は 流暢 で 復 唱 も 保 た れ て い た 。 呼 称 と 言 語 理 解 で 重 度 の 障 害 を 示 し た 。 音 読 は 規 則 綴 り 語 、 不規 則 綴 り 語 、 特 殊 綴 り 語 ( 通 常 患 者 の 母 国 語 で は 存 在 し な い 綴 り の 語 ) の 全 て に お い て 正し い が 、 語 と 画 像 と の 照 合 は 不 良 で あ っ た 。 図 7 - 1 の 文 字 入 力 レ キ シ コ ン を 介 し た 読 字で は 特 殊 綴 り 語 は 音 読 出 来 な い の で 、 こ の 症 例 で は 印 字 か ら 直 接 音 素 へ ア ク セ ス す る 過 程を 介 し て 読 み が な さ れ た と 考 え ら れ る 。 従 来 読 字 に つ い て は 、 ① 文 字 入 力 レ キ シ コ ン → 音韻 → 意 味 、② 文 字 入 力 レ キ シ コ ン → 意 味 、の 二 つ の 過 程 が あ る と 考 え ら れ て き た 。読 字 の「 二 重 経 路 仮 説 」で あ る 。上 記 の よ う な 症 例 の 存 在 は 読 字 の「 第 三 の 経 路 」の 存 在 を 示 唆 す る 。 こ の 第 三 の 経 路 の 存 在 に つ い て は 否 定 的 な 研 究 者 も い る が 、 音 読 に 障 害 が な く 意 味 理 解の み に 障 害 を 示 す 症 例 は 他 の 研 究 者 に よ っ て も 報 告 さ れ て い る 。 ラ ン ボ ル ン ら の 症 例 は 語を 黙 読 さ せ る と そ の 意 味 を 理 解 出 来 な い 。 し か し 音 読 は 正 常 で あ り 、 聴 覚 言 語 理 解 や 書 字に 障 害 は な か っ た 。 著 者 ら は 文 字 入 力 レ キ シ コ ン が 概 念 意 味 シ ス テ ム か ら 離 断 さ れ 、 音 読は 非 意 味 的 経 路 を 介 し て な さ れ た と 考 察 し て い る 。 欧 米 の 研 究 者 は こ の 類 型 を 印 字 か ら 直 接 音 韻 に ア ク セ ス す る と い う 意 味 で「 直 接 性 失 読 」 と 呼 ぶ が 、 症 状 の 特 徴 か ら 「 意 味 性 失 読 」 と 呼 ぶ 方 が 適 切 で あ る 。 症 状 か ら 推 測 さ れ る よ う に 、 意 味 性 失 読 は ウ ェ ル ニ ッ ケ 失 語 や 超 皮 質 性 失 語 で 認 め られ る 。 従 っ て 損 傷 部 位 は 左 側 頭 葉 、 頭 頂 葉 領 野 例 が 多 い 。 2 . 3 音 韻 性 失 読 1979 年デゥローネらによって最初に記載された。この類型の失読では語の頻度によって 読 み の 成 績 が 影 響 さ れ 、 出 現 頻 度 の 低 い 語 で 成 績 が 低 下 す る 。 実 在 語 と 非 実 在 語 で も 差が あ り 、 後 者 の 読 み が 障 害 さ れ る 。 低 頻 度 語 や 非 実 在 語 の 音 読 が 特 に 著 し く 障 害 さ れ る 。同 じ 非 実 在 語 で も 綴 り の 複 雑 な 語 ほ ど 障 害 が 重 度 で あ る 。 ま た 、 実 在 語 に 似 た 発 音 を す る非 実 在 語 で は 、そ う で な い 語 よ り 成 績 が 良 好 で あ る 。非 実 在 語 の 音 読 の 誤 り は 、脱 落 、置 換 、 目 標 語 に 類 似 し た 実 在 語 へ の 置 換 な ど で あ る 。 以 上 の 症 状 は そ れ ぞ れ の 言 語 体 系 に 特 有 な 文 字 と 音 韻 と の 結 合 規 則 を 利 用 す る こ と の 障 7-9
害 ( 図 7 - 1 で は 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン の 障 害 ) と し て 説 明 さ れ る 。 実 在 語 の 情 報 は 概 念意 味 シ ス テ ム に 貯 蔵 さ れ て い る の で 、 文 字 入 力 レ キ シ コ ン → 概 念 意 味 シ ス テ ム の 経 路 で 読解 が 可 能 で あ る 。 さ ら に 概 念 意 味 シ ス テ ム が 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン の 活 動 を 促 進 す る こ と によ っ て 音 読 も 可 能 に な る 。 低 頻 度 語 や 非 実 在 語 の 情 報 は 概 念 意 味 シ ス テ ム に は 存 在 し な いの で 、 文 字 入 力 レ キ シ コ ン → 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン → 概 念 意 味 シ ス テ ム の 経 路 で 処 理 さ れ る。 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン に 障 害 が あ れ ば 読 み 、 特 に 音 読 の 成 績 が 低 下 す る こ と に な る 。 深 層性 失 読 と の 違 い は 、 音 韻 性 失 読 で は 概 念 意 味 シ ス テ ム が 保 た れ て い る 点 に あ る ( 上 述 の よう に 深 層 性 失 読 で は 抽 象 語 の 読 み に 障 害 が あ る 。 こ れ は 概 念 意 味 シ ス テ ム に も 何 ら か の 障害 が あ る こ と を 意 味 す る ) 。 従 っ て 、 音 韻 性 失 読 の 読 み の 誤 り は 視 覚 的 に 類 似 し た 語 と して 読 む 誤 り お よ び 活 用 の 誤 り で 、 意 味 的 な 読 み の 誤 り は 生 じ な い 。 具 体 語 よ り 抽 象 語 が 障害 さ れ や す い こ と も な い 。 な お 、 両 者 の 違 い は 量 的 な も の で あ り 、 深 層 性 失 読 が 回 復 し て音 韻 性 失 読 に 移 行 す る と 考 え る 研 究 者 も い る 。 フ リ ー ド マ ン に よ れ ば 、 音 韻 性 失 読 に は 二 つ の 下 位 類 型 が 存 在 す る 。 第 一 は 機 能 語 の読 み に 障 害 が あ る が 非 実 在 語 の 復 唱 は 良 好 な 類 型 、 第 二 は 機 能 語 の 読 み は 良 好 で あ る が 非実 在 語 の 復 唱 が 障 害 さ れ る 類 型 で あ る 。 こ の 下 位 類 型 分 類 は 必 ず し も 一 般 的 に は 支 持 さ れて い な い が 、 音 韻 性 失 読 に は 機 能 語 の 読 み が 障 害 さ れ て い る 症 例 と 保 た れ る 症 例 が 存 在 する こ と は 他 の 研 究 者 に よ っ て も 確 認 さ れ て い る 。 音 韻 性 失 読 で は 読 み は 文 字 入 力 レ キ シ コン → 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン → 概 念 意 味 シ ス テ ム の 経 路 で 処 理 さ れ て い る と す れ ば 、 機 能 語 の読 み は 保 た れ て い る は ず で あ る ( 機 能 語 は 「 実 在 語 」 で あ る ) 。 機 能 語 の 読 み が 障 害 さ れて い る 音 韻 性 失 読 の 存 在 は 音 韻 性 失 読 が 文 字 素 ― 音 韻 結 合 規 則 利 用 の 障 害 以 外 の 機 序 で も生 じ る こ と を 示 唆 す る 。 フ リ ー ド マ ン は 「 一 般 的 音 韻 処 理 障 害 」 を 想 定 し た 。 し か し 非 実在 語 の 読 み が 障 害 さ れ て い る が そ の 他 の 音 韻 処 理 は 保 た れ て い る 症 例 が 報 告 さ れ て お り 、フ リ ー ド マ ン の 考 え は そ の ま ま で 受 け 入 れ 難 い 。音 韻 性 失 読 の 機 序 解 明 は 今 後 の 課 題 で あ る 。 音 韻 性 失 読 は 復 唱 障 害 を 示 す 症 例 で し ば し ば 認 め ら れ る 。 す な わ ち 伝 導 失 語 で 音 韻 性 失 読 が 生 じ や す い 。実 際 、音 韻 性 失 読 の 損 傷 部 位 は 左 シ ル ビ ウ ス 溝 周 辺 領 野 、特 に 上 側 頭 回 、 角 回 、 縁 上 回 領 野 で あ り 、 伝 導 失 語 の 損 傷 部 位 と 重 な る 。 2 . 4 表 層 性 失 読 1973 年マーシャルとニューカムによって最初に報告された類型である。不規則綴りの語 や 例 外 的 な 文 字 素 ― 音 韻 変 換 規 則 を 利 用 す る 語 の 音 読 が 障 害 さ れ 、 以 下 の 症 状 を 呈 す る 。 7-10
1 ) ア ル フ ァ ベ ッ ト の 1 文 字 の 読 み は 保 た れ て い る 。 2 ) 語 の 綴 り の 規 則 性 、 実 在 性 に 関 係 な く 、 文 字 素 ― 音 韻 変 換 規 則 に 基 づ い て 音 読 し よ う と す る た め 、 不 規 則 綴 り 語 で 誤 り が 生 じ る 。 綴 り が 規 則 的 で あ れ ば 非 実 在 語 で も 音 読可 能 で あ る 。従 っ て 、音 読 の 誤 り は 不 規 則 綴 り 語 を 規 則 綴 り 語 と し て 音 読 す る(「 規 則 化 」) 音 韻 性 の 誤 り が 多 い 。 3 ) 読 解 は 音 読 の 結 果 に 依 存 す る 。 音 読 に 成 功 す れ ば 読 解 も 正 し い 。 他 の 語 と し て 音 読 す る と そ の よ う に 理 解 さ れ る 。 4 )不 規 則 綴 り 語 の 読 解 成 績 は 出 現 頻 度 に 依 存 し 、高 頻 度 語 は 低 頻 度 語 よ り 良 好 で あ る 。 表 層 性 失 読 は 図 7 - 1 に 従 え ば 次 の よ う に 説 明 さ れ る 。 文 字 入 力 レ キ シ コ ン か ら 概 念 意 味 シ ス テ ム へ の ア ク セ ス が 障 害 さ れ 、 読 字 は 文 字 入 力 レ キ シ コ ン → 印 字 ― 音 韻 変 換 シ ステ ム → 音 韻 バ ッ フ ァ → 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン → 概 念 意 味 シ ス テ ム の 経 路 で 行 わ れ る 。 そ の 結果 不 規 則 綴 り 語 の 音 読 が 障 害 さ れ る 。 ( た だ し 上 記 4 ) の 事 実 は 概 念 意 味 シ ス テ ム へ の アク セ ス が 完 全 に 遮 断 さ れ て は い な い こ と を 示 し て い る ) 。 こ の 他 に も 、 ① 文 字 検 出 器 の 障害 に よ る 文 字 形 態 の 知 覚 障 害 、 ② 概 念 意 味 シ ス テ ム の 障 害 、 ③ 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン の 障 害、 な ど で も 音 韻 性 失 読 の 症 状 が 出 現 す る と 考 え ら れ る 。 表 層 性 失 読 は 流 暢 失 語 や 語 彙 失 書 ( 後 述 ) に 合 併 す る 。 原 疾 患 は 頭 部 外 傷 、 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 な ど の 変 性 疾 患 が 多 く 、 脳 血 管 障 害 な ど の 局 所 病 変 例 が 少 な い た め 、 責 任病 巣 を 決 定 す る こ と は 困 難 で あ る 。 2 . 5 第 三 の 失 読 ( 前 頭 葉 性 失 読 ) 1977 年ベンソンらは個々の文字の名称を呼称出来ないブローカ失語例を報告した。患者 は 個 々 の 文 字 を 処 理 出 来 な い が 、 語 を 全 体 と し て 処 理 す る こ と は 可 能 で あ り 、 語 の 読 解は 障 害 さ れ な い 。 彼 ら は 、 過 去 の ブ ロ ー カ 失 語 文 献 例 の 検 討 か ら 、 上 記 の 症 状 を 呈 す る ブロ ー カ 失 語 が 他 の 研 究 者 に よ っ て も 報 告 さ れ て い る こ と を 確 認 し 、 従 来 知 ら れ て い る 種 々の 中 心 性 失 読 と も 純 粋 失 読 ( 後 述 ) と も 異 な る 失 読 類 型 と し て 「 第 三 の 失 読 」 と 呼 ん だ 。そ れ 以 降 類 似 の 症 例 が 数 例 報 告 さ れ 、 「 前 頭 葉 性 失 読 」 と も 呼 ば れ て い る 。 第 三 の 失 読 は、 ① 文 字 呼 称 が 障 害 さ れ る 、② 語 の 読 解 は 保 た れ る 、③ 重 度 の 失 書 を 伴 い 写 字 も 不 良 で あ る 、 ④ 綴 り を 聴 い て も 意 味 を 理 解 出 来 ず オ ー ラ ル ・ ス ペ リ ン グ も 不 良 で あ る 、 な ど を 特 徴 とす る 。 カ ー ス ナ ー と ウ ェ ッ ブ は 文 字 素 ― 音 韻 変 換 シ ス テ ム の 障 害 ( 図 7 - 1 で は 文 字 入 力レ キ シ コ ン か ら 音 韻 出 力 レ キ シ コ ン へ の ア ク セ ス の 障 害 ) と 解 釈 し て い る 。 損 傷 部 位 は 左前 7-11
頭 葉 領 野 で あ る 。 3 . 周 辺 性 失 読 3 . 1 純 粋 失 読 3 . 1 . 1 定 義 と 臨 床 症 状 純 粋 失 読 は 1892 年デジェリンにより確立された臨床類型である。文字の音読と読解が 障 害 さ れ 、 他 の 言 語 機 能 は 正 常 範 囲 で あ る 失 読 で あ る2 。 後 頭 葉 失 読 、 失 認 性 失 読 、 失 書 な き 失 読 、 語 盲 、 逐 次 読 み 、 な ど と 呼 ば れ る こ と も あ る 。 る ン は 、 字 性 失 読 は 脳 の 前 方 病 変 で 生 じ 、 語 性 失 読 は 脳 の 後 方 病 変 で 生 じる 報 告 が 多 い 。 他 方 純 粋 失 読 で は 何 ら かの 純 粋 失 読 の 症 候 学 は 字 性 失 読 と 語 性 失 読 に 分 け て 論 じ ら れ る こ と が 多 い 。 字 性 失 読 と は 単 一 文 字 の 読 み の 障 害 で あ っ て 、 高 度 の 場 合 に は 逆 転 し た 文 字 、 裏 返 し に な っ た 文 字 を見 て も 気 が 付 か な い こ と が あ る 。M と W、d と b、「く」と「へ」のような形態的によく似 た 文 字 の 弁 別 は 特 に 困 難 で あ る 。 ま た 、 他 方 で は 音 韻 の 類 似 に 基 づ く と 思 わ れ る 誤 り も出 現 す る 。F と V、G と K、「あ」と「か」、「み」と「め」などの混同が見られることが あ る 。 数 字 の 読 み は 文 字 よ り 良 好 で あ る の が 通 例 で あ る 。 字 性 失 読 に お い て 注 目 さ れ るこ と は 、患 者 は 1 文字 1 文字が認識しえなくても、それらが語を形成している場合、読み違 い は あ っ て も 意 味 的 に は 正 解 に 近 い 錯 読 が 生 じ る こ と で あ る 。 こ れ と 関 連 し て 実 在 語 は非 実 在 語 や 機 能 語 に 比 べ て 読 解 の 良 い こ と が 知 ら れ て い る 。 語 性 失 読 は 個 々 の 文 字 は 読 め る が 語 全 体 の 意 味 が 理 解 出 来 な い 症 状 で あ る 。 た だ し 、 文 字 の 読 み も 完 全 に 正 常 で は な い 。患 者 は 1 文字 1 文字を辿りながら読んで語全体の意味を 理 解 す る 読 み 方 を す る3。 ( 視 覚 的 に ) 簡 単 な 語 は 読 め て も 複 雑 な 語 は 読 め な い 。 ま た 、 文 章 の 理 解 は 困 難 で あ る 。 数 字 は 2~3 桁のものは読めるが、桁数の多いものは困難であ 。 字 性 失 読 と 語 性 失 読 の 関 係 に つ い て 、 鳥 居 は 質 的 な 違 い で は な く 、 程 度 の 差 で あ る と し て い る 。 ベ ン ソ と し て い る 。 純 粋 失 読 で は 、 文 字 の 形 態 把 握 は 必 ず し も 悪 く な く 、 例 え ば 与 え ら れ た 文 字 が 漢 字 か平 仮 名 か 片 仮 名 か な ど の 分 類 は 正 確 に 出 来 る と す る 2 こ の 故 に 「 純 粋 」 失 読 と 呼 ば れ る 。 3
最 近 よ く 用 い ら れ る 「 逐 次 読 み ( letter by letter reading) 」 の 名 称 は こ の 点 に 注 目 し た 命 名 で あ る 。
文 字 形 態 把 握 の 障 害 が あ る す る 研 究 者 も い る 。 患 者 に 指 で 文 字 を た ど ら せ る と 読 み が 可 能 に な る こ と が あ る 。 こ れ は 「 な ぞ り 読 み 」と 呼 ば れ る 。 ま た 、 印 欧 語 で は 口 頭 で ス ペ ル を 言 わ れ れ ば 、 そ れ を 認 識 出 来 る 。 こ れ ら の事 実 、 左 手 の そ れ は か な り 良 好 で あ る こ と を 見 出 し て お り 、 山 鳥 も 同 様 の 観 察 を して い 的 誤 り 、 意 味的 失 読 も 存 在 す る 。 一 方 、 色 彩 呼 称 、 色 彩 認 識 に 障 害 を も た な い症 も 報 告 さ れ て い る 。 は 純 粋 失 読 で は 文 字 入 力 レ キ シ コ ン は 保 た れ て い る こ と を 示 し て い る 。 写 字 は 強 く 障 害 さ れ る と い う 説 と 多 少 と も 保 た れ る と い う 説 と あ る が 、 全 く 正 常 で あ る こ と は な い 。 倉 知 ら は 純 粋 失 読 の 写 字 に つ い て 詳 細 に 検 討 し 、 右 手 の 写 字 は き わ め て 不良 で あ る が る 。 自 発 書 字 、 書 き 取 り は 写 字 よ り は 保 た れ て い る 。 従 っ て 、 患 者 は 自 分 で 書 い た も の が 読 め な い と い う 特 異 な 症 状 を 呈 す る 。 た だ し 、 書 字 は ま っ た く 正 常 と い う わ け で は な い 。岩 田 は 純 粋 失 読 の 書 字 の 誤 り と し て 、 形 態 的 な 誤 り が 最 も 多 く 、 次 い で 音 韻 誤 り を あ げ て い る 。 す な わ ち 、 読 字 で の 誤 り に よ く 似 た 誤 り 方 を す る 。 純 粋 失 読 に 合 併 し て 生 じ る 症 状 と し て は 、 右 同 名 半 盲4、 色 彩 失 認 、 軽 度 の 物 体 失 認 、 語 健 忘 、 軽 度 の 失 行 、 筆 算 の 障 害 、 な ど が あ る 。 こ の う ち 、 純 粋 失 読 の 機 序 の 理 解 に 重要 な 意 味 を も つ の は 半 盲 と 色 彩 失 認 で あ る 。 純 粋 失 読 に お け る 右 同 名 半 盲 の 存 在 は す で にデ ジ ェ リ ン に よ っ て も 気 付 か れ て い る( た だ し 彼 の 症 例 は 完 全 な 右 同 名 半 盲 で は な か っ た )。 ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド と フ シ オ は 彼 ら の 失 読 理 論 の 構 築 ( 後 述 ) に あ た っ て 、 右 同 名 半 盲 の 存在 を 重 視 し た 。 し か し 、 右 同 名 半 盲 の な い 純 粋 失 読 症 例 は 多 数 報 告 さ れ て お り 、 純 粋 失 読に 必 発 の 症 状 で は な い 。 次 に 色 彩 失 認 で あ る 。 純 粋 失 読 に 見 ら れ る 色 彩 失 認 症 状 と し て ゲシ ュ ヴ ィ ン ド と フ シ オ は 色 彩 の 呼 称 障 害 を あ げ 、 色 彩 の 認 識 自 体 は 障 害 さ れ て い な い こ とを 強 調 し た 。 し か し 純 粋 失 読 で は 色 彩 の 認 識 障 害 が 全 く 見 ら れ な い と い う こ と は な く 、 色名 を 言 わ れ て そ れ に 対 応 す る 色 を 指 示 す る こ と の 障 害 や 脳 性 色 盲 ( 脳 損 傷 に 伴 う 色 盲 、 第9 章 参 照 ) を 合 併 す る 純 粋 例 3 . 1 . 2 純 粋 失 読 の 機 序 3 . 1 . 2 . 1 視 覚 ― 言 語 離 断 症 候 群 純 粋 失 読 の 機 序 に つ い て デ ジ ェ リ ン は 次 の よ う に 考 え た ( 図 7 - 4 参 照 ) 。 右 同 名 半盲 の た め 視 覚 情 報 は 直 接 左 大 脳 半 球 に は 達 せ ず 、 他 方 右 大 脳 半 球 の 情 報 も 左 後 頭 葉 病 変 のた 4 半 盲 な ど の 視 野 障 害 に つ い て 詳 細 は 第 9 章 参 照 。 7-13
め 左 角 回 に 達 し な い 。 左 角 回 は 読 字 中 枢 で あ り 、 こ こ に 視 覚 情 報 が 到 達 し な い た め 失 読と な る 。 彼 の 症 例 で は 脳 梁 膨 大 に も 損 傷 は あ っ た が 、 彼 は 脳 梁 の 機 能 は よ く 知 ら れ て い ない し て 、 失 読 と の 関 係 を 論 じ る の を 避 け た 。 と 図 7 - 4 A:外 側 部 、 B: 内 側 部 ) と 彼 上 図 : た が 、 死 亡 直 前 に 生 じ た 二 度 目 の 損 傷 ( 点 ) に 、 ② 脳 梁 、 ③ 下 縦 束 、 損 傷 は X に あ り 視 覚 情 報 は 角 回 に 到 達 し な い 。 デ ジ ェ リ ン の 純 粋 失 読 患 者 の 損 傷 部 位 ( に よ る 純 粋 失 読 の 発 症 機 序 ( 下 段 ) 。 楔 部 ( C) 、 舌 状 回 ( O2) 、 紡 錘 状 回 ( O1) に 損 傷 ( 黒 い 影 ) が 認 め ら れ る 。 患 者 は 当 初 失 読 症 状 の み を 呈 し よ っ て 失 書 症 状 も 出 現 し た 。 下 図 :Angular gyrus:角回、①視放線 7-14
彩 の 呼 称 障 害 を も 引 き 起 こ す は ず で あ る 。 こ れ が ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド の 理 論 の 大要 で 品 呼 称 障 害 を 示 し た 患 者 も 報 告 さ れ て い る が 、 そ れ は 純 粋失 読 あ る と す る 説 が提 出 の 。 古 典 的 な 意 味 で の 純 粋 失 読 に 対 応 る 傷 は あ る が 脳 梁 膨 大 は 保 た れ て い る 。 右 同 名 半 盲 が 型 。 角 回 深 部 白 質 に 病 変 が あ る 。 右 同 名 半 盲 は な い か 右 四 半 盲 が 見 ら れ そ れ か ら 70 年後、ゲシュヴィンドは脳梁膨大損傷を純粋失読の発症機序理解に最重要 視 す る 理 論 を 展 開 す る 。 純 粋 失 読 は 視 覚 情 報 が 書 字 言 語 認 識 中 枢 で あ る 左 角 回 に 伝 達 され な い た め に 生 じ る 。 右 視 野 か ら の 情 報 は 左 後 頭 葉 損 傷 に よ る 半 盲 の た め に 左 角 回 に 到 達せ ず 、 左 視 野 か ら の そ れ は 脳 梁 膨 大 の 損 傷 に よ り 同 じ く 左 角 回 に 到 達 し な い 。 す な わ ち 純粋 失 読 は 視 覚 情 報 の 角 回 か ら の 離 断 症 状 で あ る 。 そ し て こ の よ う な 視 覚 一 言 語 離 断 は 失 読だ け で な く 色 あ る 。 こ の 説 が 正 し い な ら 純 粋 失 読 に お い て は 常 に 、 ① 右 同 名 半 盲 、 ② 脳 梁 膨 大 損 傷 、 ③ 色 名 呼 称 障 害 が 認 め ら れ る は ず で あ る 。 上 述 の よ う に 右 同 名 半 盲 の な い 純 粋 失 読 は 多 数 報 告さ れ て お り 、 デ ジ ェ リ ン の 症 例 も 真 の 意 味 で の 右 同 名 半 盲 で は な か っ た ( 右 半 側 色 盲 で あっ た ) 。 ま た 、 脳 梁 膨 大 に 損 傷 の な い 純 粋 失 読 は 複 数 の 報 告 例 が あ る 。 さ ら に 色 彩 呼 称 障害 も す べ て の 純 粋 失 読 に 見 ら れ る わ け で は な い ( 上 述 ) 。 呼 称 障 害 が 何 故 色 名 だ け に 生 じる の か も 疑 問 と し て 残 る 。 も し 視 覚 一 言 語 離 断 が あ る な ら 物 品 に つ い て も 呼 称 障 害 が 生 じて 然 る べ き で あ ろ う 。 実 際 、 物 の ご く 一 部 に す ぎ な い5。 以 上 の ご と く 、 ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド の 説 は そ の ま ま で は 受 け 入 れ 難 い 。 そ の た め い く つ か の 修 正 案 が 提 出 さ れ て い る 。 例 え ば 、 右 同 名 半 盲 の な い 純 粋 失 読 、 脳 梁 膨 大 損 傷 の な い 純粋 失 読 の 存 在 を 基 に 、 純 粋 失 読 が 生 じ る 機 序 は 単 一 で は な く 複 数 の 機 序 が さ れ て い る 。 グ リ ー ン ブ ラ ッ ト は 純 粋 失 読 を 次 の 4 型 に 分 類 す る 。 第 1 型 ~ 脳 梁 膨 大 ・ 後 頭 葉 型 で 右 同 名 半 盲 を 伴 う も し 、 ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド の 説 が そ の ま ま 当 て は ま る 。 第 2 型 ~ 脳 梁 膨 大 ・ 後 頭 葉 型 で 右 同 名 半 盲 を 伴 わ な い も の 。 脳 梁 膨 大 に 損 傷 は あ る が 、 左 鳥 距 溝 領 野 は 保 た れ て い る 。 後 頭 葉 深 部 白 質 の 損 傷 に よ り 角 回 の 線 推 連 絡 が 絶 た れ てい た め 失 読 と な る 。半 側 視 野 の み の 失 読( 半 側 性 失 読 、後 述 )は こ の 型 の 亜 型 と 見 ら れ る 。 第 3 型 ~ 後 頭 葉 型 。 後 頭 葉 内 側 面 に 損 あ り 、 回 復 が 早 い の を 特 徴 と す る 。 第 4 型 ~ 下 角 回 5 視 覚 的 に 提 示 さ れ た 物 品 の 選 択 的 呼 称 障 害 を 視 覚 失 語 と い う ( 第 9 章 参 照 ) 。 視 覚 失 語 を 合 併 し た 純 粋 失 読 例 は 報 告 さ れ て は い る が ご く 希 で あ る 。 7-15
る 呼 称 障 害 は な い 。脳 室 周 辺 の 白 質 、 視 も 後 頭 葉 内 で 大 脳 半 球 交 連 線 維 の 損傷 あ れ ば 、 純 粋 失 読 が 生 じ る こ と を 認 め て い る 。 3 。 純 粋 失 読 に お け る 色 名 呼 称 障 害は な る 解 剖 学 的 な 離 断 症 状 と し て は 説 明 し え な い 。 こ と が あ る 。 ダ マ ジ オ と ダ マ ジ オ は 純 粋 失 読 を 3 型 に 分 け る 。 第 1 型は 右 同 名半盲 と 色 名呼称 障 害 を 有 す る も の で 、 鳥 距 溝 、 脳 梁 膨 大 、 側 頭 葉 内 側 面 に 病 巣 が あ る 。 第 2 型 は 右 同 名 半 盲 があ る が 色 名 呼 称 障 害 は な い 。 視 放 線 ま た は 鳥 距 溝 、 後 頭 葉 内 部 の 大 脳 半 球 間 交 連 線 推 の 損傷 が あ る 。第 3 型 は 右 上 四 半 盲 と 右 下 半 色 盲 が あ り 、色 名 放 線 の 下 部 、 視 覚 連 合 野 の 下 部 に 損 傷 が あ る 。 両 者 の 見 解 に 共 通 す る 点 は 損 傷 部 位 を 左 後 頭 葉 や 脳 梁 膨 大 に 限 局 す る こ と な く 、 結 果 と し て 角 回 と 視 覚 入 力 と の 離 断 を 生 じ さ せ る 損 傷 が あ れ ば 純 粋 失 読 が 生 じ る と い う 考 え あ る。 基 本 的 に ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド の 立 場 を 支 持 す る ベ ン ソ ン が . 1 . 2 . 2 純 粋 失 読 と 色 名 呼 称 障 害 純 粋 失 読 が 視 覚 ― 言 語 離 断 に よ り 生 じ る と す る な ら 、 視 覚 刺 激 全 般 に つ い て 離 断 症 状 が 生 じ る は ず で あ る 。 上 述 の ご と く 、 純 粋 失 読 で は 色 名 呼 称 障 害 の み が 生 じ 、 一 般 的 な 物品 名 の 呼 称 は 保 た れ る の が 普 通 で あ る 。 こ れ は ど う し て か 。 こ の 問 題 に つ い て は ゲ シ ュ ヴィ ン ド も 気 が 付 い て お り 、 文 字 や 色 彩 以 外 の 物 品 は 他 の 感 覚 情 報 と も 結 合 し て お り 、 そ れら を 介 し て 呼 称 が 行 わ れ る と 説 明 し た 。 ス ト コ ウ ィ ッ ク と ペ ッ ク は 次 の よ う に 考 え た 。 色名 は 物 品 の 属 性 を 示 す 形 容 詞 で あ り 、 視 覚 表 像 を 物 品 ほ ど 強 く 喚 起 せ ず 、 こ の 点 で 文 字 に類 似 し て い る 。 す な わ ち 文 字 と 色 名 は 視 覚 情 報 と し て の 類 似 性 が 高 い た め 、 両 者 が 同 時 に障 害 さ れ る と 考 え た 。 一 方 、 倉 知 ら は 純 粋 失 読 に は 単 な る 色 名 呼 称 障 害 だ け で な く 、 色 彩認 識 障 害 が あ る の で は な い か と 述 べ て い る 。 純 粋 失 読 で 色 名 呼 称 障 害 が 合 併 し な い 例 に つい て 、 カ ミ ン グ は 文 字 情 報 の 右 大 脳 半 球 か ら 左 大 脳 半 球 へ の 転 送 に は 脳 梁 膨 大 全 体 が 必 要な の に 対 し 、 色 彩 情 報 の そ れ は 脳 梁 膨 大 背 側 部 の み で 可 能 な の で あ ろ う と の 説 を 提 出 し 、グ リ ー ン ブ ラ ッ ト や エ イ ジ ャ ッ ク ス は こ れ を 支 持 し た 。 ダ マ ジ オ と ダ マ ジ オ は 、 色 名 呼 称障 害 は 後 頭 側 頭 葉 接 合 領 野 内 側 部 の 損 傷 に よ り 視 覚 情 報 が 海 馬 か ら 離 断 さ れ た こ と に よ り生 じ る と し 、 そ の 出 現 に 脳 梁 膨 大 の 損 傷 は 必 ず し も 必 要 で は な い と し て い る 。 ド テ ィ ら の研 究 に よ れ ば 、 サ ル で は 脳 梁 を 切 断 し て も 前 交 連 が 保 た れ て い れ ば 色 彩 情 報 の 両 大 脳 半 球間 の 転 送 は 可 能 で あ る と い う 。 ヒ ト に お い て も 脳 梁 や 後 頭 葉 損 傷 が そ の ま ま 色 彩 情 報 の 左言 語 野 か ら の 離 断 を 意 味 す る と は 限 ら な い 可 能 性 が あ る 単 7-16
3 図 7 - 1 ) に お け る 視 覚 特 徴 検 出 器 か ら 文 字 検 出 器 へ の ア クセ ス の 障 害 と 理 解 さ れ る 。 . 1 . 2 . 3 純 粋 失 読 に お け る 視 覚 情 報 処 理 以 上 の ご と く 、 純 粋 失 読 は 視 覚 一 言 語 離 断 群 と し て の み 理 解 す る こ と は 困 難 で あ る 。 そ も そ も 読 字 過 程 は ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド が 考 え た よ う な 単 純 な 過 程 で は な い 。 本 章 第 1 節 で 述べ た ご と く 、 読 字 過 程 に つ い て は 最 近 種 々 の 認 知 心 理 学 的 モ デ ル が 提 出 さ れ て い る 。 そ れに よ れ ば 複 数 の 読 字 過 程 が 存 在 す る 。そ れ は 画 像 機 能 解 析 研 究 の 結 果 か ら も 支 持 さ れ て い る 。 こ れ ら の 読 字 過 程 に 関 す る 最 近 の 研 究 結 果 を 背 景 と し て 、 純 粋 失 読 を 視 覚 情 報 処 理 障 害と し て 説 明 す る 試 み が 種 々 提 出 さ れ て い る 。 例 え ば 、 エ ペ ル バ ウ ム ら は 以 下 の 考 え を 提 出し て い る 。本 章 第 1 節 で 述 べ た ご と く 、左 紡 錘 状 回 に は 語 に 特 異 的 に 反 応 す る 領 野 が あ り「 視 覚 的 語 形 態 野(VWFA)」(図7-5)と呼ばれている。エペルバウムらの拡散強調 MRI 研 究 に よ れ ば VWFA と左縁上回および後頭葉との間には相互に密接な線維連絡がある。 VWFA と後頭葉との連絡線維は下縦束に対応する。彼らはてんかん治療のため VWFA 後 方 の 皮 質 切 除 後 に 典 型 的 な 純 粋 失 読 を 呈 し た 症 例 を 報 告 し た 。 そ し て 純 粋 失 読 の 機 序 の一 つ と し て VWFA と左後頭葉の離断を指摘している。これは離断の生じる段階を視覚処理と 言 語 処 理 の 中 間 段 階 で あ る 語 形 態 認 識 の 段 階 ま で 絞 り 込 ん だ 考 え で あ る 。 こ の 学 説 に よれ ば 、 純 粋 失 読 は 読 字 過 程 ( 図 7 - 5 視 覚 的 語 形 態 野 (VWFA、白い矩形で囲まれた領野) 7-17
純 粋 失 読 で は 、 実 在 語 を 構 成 す る 文 字 ( “word”の“w”)の処理は非実在語を構成す る 文 字(“wkrd”の“w”)の処理より成績がよい。提示された語が実在語か否かの判断 は あ る 程 度 可 能 で あ る 。 提 示 時 間 を 延 長 す る と 成 績 は 向 上 す る 。 こ れ ら の 事 実 は 、 純 粋失 読 の 文 字 処 理 能 力 は 完 全 に 失 わ れ て い る の で は な い こ と を 意 味 す る 。 そ こ で 、 ① 純 粋 失読 で は 文 字 特 異 的 な 視 覚 情 報 処 理 、 た と え ば 文 字 の 視 覚 表 象 の 想 起 に 障 害 が あ る 、 ② 純 粋失 は 右 大 脳 半 球 の 文 字 処 理 機 能 の 表 れ で あ る 、 な ど の 考 え も 提 出 さ れ て い る 。 ド は そ れ ま で に 報 告 さ れ た 純 粋 失 読 の 剖 検 例 17 例の所 見 は そ の 一 部 の 損 傷 が 多 い 。 楔 状 回 、 鳥 距 溝 の 一 部が 同 脳 梁 膨 大 損 傷 が 必 須 と いう こ 内 側 に つ い て は CT、MRI 所見を中心に多数の報告がある。 そ よ っ て も 純 粋 失 読 は 生 じ る が 、 そ の 症 状 は 典 型 例 と はや で 右 同 名 半 盲 は 生 じ な い が 、 左 右 視 覚 野 と 角 回 の 線 維 連 絡 は 絶 た れ る の で 失 読と 半 盲 が 生 じ る が 、 よ り 腹 側 に あ っ て 視放 読 3 . 1 . 3 解 剖 学 1969 年 ベ ン ソ ンとゲ シ ュ ヴィン を 以 下 の ご と く ま と め て い る 。 1 ) 後 頭 葉 ~ ほ と ん ど 全 例 で 左 後 頭 葉 病 変 が あ る 。 部 位 は 後 頭 葉 の 内 側 お よ び 腹 側 の 皮 質 、 特 に 舌 状 回 、 紡 錘 状 回 全 体 あ る い 時 に 損 傷 さ れ て い る こ と も あ る 。 2 ) 脳 梁 膨 大 ~9 例に脳梁膨大の損傷を認める。しかしこれは他の症例では脳梁膨大が 損 傷 さ れ て い な い と い う こ と で は な い 。 ま た 純 粋 失 読 の 成 立 に と で も な い 。 後 頭 葉 深 部 白 質 病 変 で も 純 粋 失 読 は 生 じ る 。 3 ) そ の 他 ~ 視 床 、 海 馬 、 頭 頂 葉 に 病 変 を 認 め た 症 例 も あ る 。 手 術 例 な ど で 後 頭 葉 面 損 傷 に よ り 純 粋 失 読 と な っ た 症 例 が 報 告 さ れ て い る が 、 そ の 詳 細 は 不 明 で あ る 。 こ の 論 文 以 降 純 粋 失 読 の 責 任 病 巣 の 大 要 は 以 下 の ご と く で あ る 。 1 )右 同 名 半 盲 、色 名 呼 称 障 害 を 伴 う 典 型 的 な 純 粋 失 読 は 後 大 脳 動 脈 梗 塞 を 原 因 と す る 。 紡 錘 状 回 、楔 状 回 、鳥 拒 溝 な ど 後 頭 葉 内 下 面 の 損 傷 と 脳 梁 膨 大 の 損 傷 と が 同 時 に 見 ら れ る 。 後 頭 葉 内 側 部 の 損 傷 、 切 除 な ど に や 異 な り 一 過 性 の も の が 多 い 。 2 ) 右 同 名 半 盲 を 伴 わ な い 純 粋 失 読 で は 後 頭 葉 深 部 白 質 に 病 変 が あ る 。 鳥 距 溝 は 保 たれ て い る の な る 。 3 ) グ リ ー ン ブ ラ ッ ト の 第 4 型 ( 下 角 回 性 ) の 純 粋 失 読 で は 、 角 回 深 部 白 質 に 病 変 があ る 。 損 傷 が 背 側 に あ り 、 視 放 線 を お か せ ば 右 同 名 7-18
線 生 じ る と の 報 告 が あ る 。 左 紡 状 回 損 傷 に 伴 う 純 粋 失 読 で は か な り の 回 復 が 見 ら れ る 。 3 デ ル を 考 え 、 語 中 心 座 標 に お い て 生 じ た 半 側 無 視が 無 視 性 失 読 」 、 左 大 脳 半 球 損 傷 に 伴 う も の を 「 位 置 性 失 読 」 とし て 区 別 す る 場 合 も あ る 。 が 保 た れ て い れ ば 右 同 名 半 盲 は み ら れ な い 。 4 ) こ の 他 、 左 紡 錘 状 回 限 局 性 の 損 傷 に よ っ て 純 粋 失 読 が 錘 . 2 無 視 性 失 読 一 側 大 脳 半 球 損 傷 に 伴 っ て 、対 側 刺 激 の 処 理 が 障 害 さ れ る 症 状 が「 半 側 無 視 」で あ る6。 文 章 や 語 に 生 じ る 半 側 無 視 が 無 視 性 失 読 で あ る 。 文 章 で は 左 側 の 語 の 処 理 、 語 で は 左 側の 文 字 の 処 理 が 障 害 さ れ る 。 両 者 は 同 時 に 生 じ る が 、 一 方 が 単 独 で 生 じ る 場 合 も あ る 。 文章 の 場 合 、 患 者 は 文 章 の 中 央 部 か ら 読 み 始 め る 。 語 の 場 合 、 ① 刺 激 語 に 類 似 し た 語 へ の 置換 (“yellow”→“pillow”)、②刺激の単純な見落とし(“clove”→“love”)、③文字の添加 (“ate”→“date”)、などの誤りが見られるが、①が最も多い。語の長さは成績に影響し な い 。 提 示 時 間 も 影 響 し な い 。 文 字 の 無 視 は 実 在 語 よ り 非 実 在 語 で 生 じ や す い 。 語 の 音読 に 先 立 っ て 意 味 判 断 を さ せ る と 音 読 の 成 績 が 向 上 す る 。 多 く の 症 例 で は 半 側 無 視 に 伴 って 生 じ る が 、 半 側 無 視 を 伴 わ な い 無 視 性 失 読 の 症 例 も 報 告 さ れ て い る 。 こ れ ら の 事 実 は 無視 性 失 読 が 単 な る 視 覚 刺 激 の 無 視 に 起 因 す る も の で は な い こ と を 示 し て い る 。カ ラ マ ザ ら は 、 語 認 識 に 関 し て 図 7 - 6 に 示 す 多 段 モ 視 性 失 読 で あ る と 考 察 し て い る 。 無 視 性 失 読 は 右 大 脳 半 球 損 傷 に 伴 っ て 生 じ る 場 合 が 多 い が 、 左 大 脳 半 球 損 傷 に 伴 う 左 側 の 無 視 性 半 側 例 も 報 告 さ れ て い る 。 こ の 場 合 無 視 は 語 だ け に 出 現 す る 。 右 大 脳 半 球 損 傷に 伴 う 無 視 性 失 読 を 「 半 側 無 6 第 9 章 参 照 。 7-19
図 7 - 6 カ ラ マ ザ ら に よ る 語 の 読 字 過 程 の 多 段 階 モ デ ル 3 の 研 究 者 に よ っ て も 報 告 さ れ 、注 意 性 失 読 の 概 念 字 い る 別 の 文 字 を 呼 称 す る 、 ② 提 示 さ れ て の 語 が 融 合 も あ る (“flip”と“shop”が提示され“ship”と反応)。 な す る フ ィ ル タ ー 機 構 に 障 害 が あ る と 考 え て い る 。 デ ニ ス ら も 同 様 の 見解 を 位 と し て は 、 ① 左 前 頭 葉 ・ 頭 頂 葉 領 野 、 ② 両 側 大 脳 半 球 後 方 領 野 、 な ど の 報 告 が あ る 。 . 3 注 意 性 失 読 注 意 性 失 読 は 語 が 単 独 で 提 示 さ れ る 条 件 で は 正 常 に 処 理 出 来 る が 、 他 の 語 や 文 字 列 と 同 時 に 提 示 さ れ る 条 件 で は 失 読 が 出 現 す る と い う 特 異 な 症 状 を 呈 す る 。 最 初 の 症 例 は 1977 年 シ ャ リ ス と ウ ェ リ ン ト ン に よ っ て 報 告 さ れ た 脳 腫 瘍 例 で あ る 。 語 が 単 独 で 提 示 さ れ る条 件 で は 音 読 正 答 率 90%であるのに対し、他の三つの語と同時に提示される条件では正答率 は 80%に低下した。その後類似の症例が他 が 確 立 さ れ た 。 注 意 性 失 読 の 症 状 は 、 1 ) 同 時 に 提 示 さ れ る 刺 激 の 属 性 が 成 績 に 影 響 す る 。 文 字 の 音 読 は 数 字 よ り 文 字 が 同 時 提 示 さ れ る 条 件 で 成 績 が 低 下 す る 。 提 示 文 字 が 大 文 字 か 小 文 字 か は 結 果 に 影 響 し な い 。文 の 処 理 は 語 の 同 時 提 示 の 影 響 を 受 け ず 、 語 の 処 理 は 文 字 の 同 時 提 示 の 影 響 を 受 け な い 。 2 ) 複 数 同 時 提 示 さ れ た 語 の 音 読 は 障 害 さ れ て も 意 味 処 理 は 保 た れ て い る 場 合 も あ る 。 3 ) 文 字 呼 称 課 題 の 場 合 の 誤 り は 、 ① 提 示 さ れ て い な い 文 字 の 名 称 を 呼 称 す る 、 の 二 つ が あ る 。 4 ) 二 つ の 語 の 同 時 提 示 で は 一 方 の 語 の み が 音 読 さ れ る 誤 り が 多 い が 、 二 つ し た 語 が 音 読 さ れ る 場 合 ど の 特 徴 を 有 す る 。 注 意 性 失 読 の 機 序 に つ い て 、 シ ャ リ ス と ウ ェ リ ン ト ン は 非 言 語 的 処 理 段 階 か ら 言 語 的 処 理 段 階 へ の 移 行 の 障 害 と 考 え た 。 コ ス レ ッ ト は 、 注 意 性 失 読 で は 提 示 さ れ た 刺 激 か ら 必要 な 情 報 だ け を 抽 出 示 し て い る 。 注 意 性 失 読 の 損 傷 部 3 . 4 半 側 性 失 読 半 側 視 野 の み に 認 め ら れ る 失 読 で あ る 。 通 例 左 視 野 で 見 ら れ る 。 脳 梁 の 損 傷 で 半 側 視野 に 失 読 が 生 じ る こ と は 1892 年デジェリンによって既に指摘されている。1960 年代スペリ ー に よ っ て 行 わ れ た 分 離 脳 患 者 の 研 究 は こ の こ と を 明 確 に し た7。 左 視 野 に 提 示 さ れ た 語 の 音 読 が 障 害 さ れ る 。 読 解 は あ る 程 度 可 能 で あ る 場 合 も あ る 。 脳 梁 の 後 部 、 脳 梁 膨 大 の部 7 詳 細 は 第 1 2 章 参 照 。 7-20
分 的 損 傷 で も 左 半 側 の 失 読 は 出 現 す る 。 一 方 右 視 野 の み に 出 現 し た 失 読 例 も 報 告 さ れ てい 。 を 報 告 し て い る 。 バ ー チ メ イ ヤ ーら 症 例 は 先 天 性 視 覚 障 害 者 で 脳 出 血 後 に ウ ェ ル ニ ッ ケ 失 語 と な り 、 点 字 の 失 読 症 状 を 示し の 方 が 機 能 語 よ り 良 好 で あ っ た 。 な ど ) の 弁 別 が 困 難 とな 、 な ど の 障 害 が 出 現 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 数 字 の み の 失 読 は 希 で は あ る が 報 告例 障 害 に つ い て は 第 1 0 章 で 詳 し く 検 討 す る 。 盲 」 は ま だ 知 ら れ て い な い 。 文字 覚 え た り 、 鍵 盤の 置 を 教 え て も ら っ た り し て き た 。 文 字 の 読 み 書 き も 得 意 で は な い が 、 楽 譜 の 読 み ほ どは 譜 認 識 に 特 異 的 な 発 達 障 害 と 考 え ら れ て い る 。 る 4 失 読 の 特 殊 型 4 . 1 点 字 の 失 読 視 覚 障 害 者 に お い て 点 字 の 読 み が 障 害 さ れ る 。 グ ロ ー ニ ン グ ら は 、 後 天 性 の 視 覚 障 害者 で 、 右 頭 頂 葉 脳 腫 瘍 摘 出 後 に 点 字 の 失 読 を 呈 し た 症 例 の た 。 実 質 語 の 読 み 4 . 2 数 字 盲 失 語 性 失 読 、 中 枢 性 失 読 、 純 粋 失 読 で は 数 字 の 音 読 や 読 解 も 障 害 さ れ る 。 こ の 他 、 後頭 葉 損 傷 に 伴 い 、 数 字 の 位 取 り が 解 ら な い 、 類 似 し た 数 字 ( 6 と 9 る が あ る 。 数 字 認 識 4 . 3 楽 譜 盲 失 語 や 失 読 に 伴 っ て 楽 譜 の 認 識 障 害 、す な わ ち 楽 譜 盲 が 生 じ る こ と は よ く 知 ら れ て い る 。 文 字 認 識 が 保 た れ 楽 譜 認 識 の み が 障 害 さ れ た 「 純 粋 楽 譜 認 識 は 障 害 さ れ 楽 譜 認 識 が 保 た れ て い た 症 例 は 報 告 さ れ て い る 。 こ れ ま で に 報 告 さ れ た楽 譜 盲 の 多 く は 左 大 脳 半 球 病 変 、 特 に 後 方 病 変 が 多 い 。 楽 譜 認 識 の 学 習 が 選 択 的 に 障 害 さ れ る 「 発 達 性 楽 譜 盲 」 と 考 え ら れ る 症 例 が ゴ ー ド ンに よ っ て 報 告 さ れ て い る 。 症 例 は 12 歳の少女である。4歳からピアノを始めて演奏面では 順 調 な 伸 び を み せ た に も か か わ ら ず 、 現 在 ま で 楽 譜 を 読 む こ と が 出 来 な い 。 音 符 を 見 ても 意 味 の な い 点 の 固 ま り と し か 認 識 出 来 な い 。 曲 を 覚 え る た め に は 聴 い て 位 障 害 さ れ て い な い 。 楽 4 . 4 交 叉 性 失 読 交 叉 性 失 語 に 対 応 し て 交 叉 性 失 読 が 存 在 す る 。 こ れ は 右 手 利 き で 右 大 脳 半 球 損 傷 に 伴 う 7-21
純 粋 失 読 で あ っ て 、 左 同 名 半 盲 と 共 に 失 読 症 状 を 呈 す る 。 右 大 脳 半 球 損 傷 に よ っ て 失 読が 生 じ る 理 由 に つ い て は 、 ① 左 手 利 き の 遺 伝 的 素 因 が あ る 、 ② 左 大 脳 半 球 に も 病 変 が あ る、 ② 視 空 間 認 識 障 害 に よ る 二 次 的 な 失 読 で あ る 、 な ど が 指 摘 さ れ て い る 。 口 頭 言 語 の 優 位大 半 球 は 左 で あ り 、 書 字 言 語 に 関 す る 大 脳 優 位 半 球 の み が 右 に あ る と 考 え ら れ る 症 例 も報 字 の 大 き さ が 小 さ す ぎ る 、病 の 読 字 能 力 に 比 し て 課 題 の 難 易 度 が 高 す ぎ る 、 な ど ) 、 ② 病 前 か ら の 読 字 能 力 の 障 害、 く は 詐 病 、 な ど が あ げ ら れ る 。 究 に よ れ ば 、 ア メ リ カ で は 学 童 の 5~17%が発達性読字障害である。 認 め ら れ る こ と か ら 、 発 症 に は 遺 伝 的 要 因 が 関 与 し て い る と 考 え ら れ る 。連 脳 告 さ れ て い る 。 4 . 5 偽 失 読 本 来 失 読 で は な い が 、 現 象 的 に 文 字 の 音 読 や 読 解 の 障 害 が 存 在 す る よ う に 見 え る 場 合が あ る 。 原 因 と し て は 、 ① 不 十 分 な あ る い は 不 適 切 な 検 査 ( 文 前 ③ 半 側 無 視 、 ④ 心 因 性 も し 4 . 6 発 達 性 読 字 障 害 読 字 の 発 達 障 害 で あ る 。 「 十 分 な 知 的 能 力 を 有 し 、 普 通 の 社 会 文 化 的 環 境 で 生 育 し 、適 切 な 指 導 ・ 教 育 を 受 け た に も 拘 わ ら ず 読 字 を 習 得 す る こ と が 困 難 で あ る 障 害 」 と 定 義 され る 。 精 神 疾 患 診 断 統 計 マ ニ ュ ア ル 第 4 版 (DSM-IV)で は、小児の 暦年齢と一 般知能水準 を 基 準 と し て 読 み の 正 確 さ と 理 解 力 が 少 な く て も 2 標 準 偏 差 以 上 低 い こ と が 診 断 基 準 とさ れ て い る 。 疫 学 的 研 古 く か ら 男 児 で 発 症 率 が 高 い と 考 え ら れ て き た が 、 最 近 性 差 は 認 め ら れ な い と す る 研 究も 報 告 さ れ て い る 。 家 族 発 症 が 鎖 解 析8の 結 果 に よ れ ば 、 2 番 、 3 番 、 6 番 、 1 5 番 お よ び 1 8 番 染 色 体 と の 関 連 が 報 告 さ れ て い る 。 発 達 性 読 字 障 害 の 機 序 に つ い て は 、 ① 心 理 学 、 ② 解 剖 学 、 ③ 生 理 学 、 の 各 方 面 か ら のア プ ロ ー チ が 試 み ら れ て い る 。 1 ) 心 理 学 か ら の ア プ ロ ー チ ~ 発 達 性 読 字 障 害 児 で は 音 韻 と 文 字 あ る い は 文 字 列 を 対応 8 遺 伝 子 座 間 の 遺 伝 地 図 距 離 を 組 み 替 え に 基 づ い て 推 定 す る 方 法 。 二 つ の 対 立 遺 伝 子 が 染 色 体 上 で 離 れ て い れ ば い る ほ ど 組 み 換 え が 起 き る 頻 度 が 高 く な る 。 二 つ の 遺 伝 子 の 間 の 距 離 は 、 二 つ の 連 鎖 し た 遺 伝 的 形 質 を も つ 生 物 の 子 孫 で 、 二 つ の 表 現 型 が 共 に 現 れ な い 個 体 の 割 合 か ら 計 算 出 来 る 。 こ の 割 合 が 高 い ほ ど 、 二 つ の 対 立 遺 伝 子 は 染 色 体 上 で 離 れ て い る と 考 え ら れ る 。 親 兄 弟 や 親 族 の 間 で 形 質 を 比 較 す る こ と に よ り 、 あ る 形 質 の 遺 伝 子 が ど の 染 色 体 上 に あ る か を 推 定 す る こ と が 可 能 で あ る 。 7-22
さ せ る こ と に 障 害 が あ る 。 こ の 点 に つ い て は 諸 家 の 見 解 は ほ ぼ 一 致 し て い る 。 で は こ の障 害 は 何 故 生 じ て く る の か 。 ① 視 覚 情 報 処 理 、 特 に 低 空 間 周 波 数 刺 激 の 処 理 障 害 、 ② 視 床巨 細 胞 層 の 病 変 に よ る 運 動 知 覚 障 害 に 起 因 す る 読 字 時 の 眼 球 運 動 障 害 、 ③ 聴 覚 に お け る 時間 分 解 能 の 低 下 、 ④ 聴 覚 に お け る 周 波 数 弁 別 閾 の 低 下 、 な ど の 知 見 が 報 告 さ れ て い る 。 これ ら の 所 見 は 全 て の 発 達 性 読 字 障 害 児 に 等 し く 認 め ら れ る 訳 で は な い 。 す な わ ち 発 達 性 読字 障 害 は 単 一 で は な く そ の 機 序 か ら い く つ か の 類 型 に 分 類 さ れ る と 考 え ら れ て い る 。 類 型は 減 少 、 ③頭 の 相 関 が 高く る が 、 発 達 性 読 字 障 害 児 で は こ の 所 見 が 認 め ら れ ず 、 む し ろ 右 大 脳 半 球 領 野 間 の 相 関が 連 脳 領 野 の 活 性 化 の 程 度 は 読 字 課 題 の 成 績 と 相 関 す る 。 書 字 、 書 取 の み が 障 害 さ れ て 、 他 の 言 語 機 能 が 比 較 的 保 た れ て い る 症 例 の 存 在 は古 く 研 究 者 に よ り 異 な る が 、 少 な く て も ① 音 韻 情 報 処 理 に 障 害 の あ る 類 型 、 ② 語 の 視 覚 的 処理 に 障 害 の あ る 類 型 、 の 2 型 の 存 在 は 明 か と さ れ て い る 。 2 ) 解 剖 学 か ら の ア プ ロ ー チ ~ 発 達 性 読 字 障 害 児 の 脳 に 特 異 的 所 見 は 存 在 す る か 。 この 点 に つ い て は 多 く の 研 究 報 告 が あ る 。 第 6 章 で 述 べ た ご と く 、 健 常 者 で は 左 右 大 脳 半 球間 に 解 剖 学 的 差 異 が 認 め ら れ 、 側 頭 平 面 の 面 積 は 左 大 脳 半 球 で 大 で あ る 。 そ こ で 発 達 性 読字 障 害 児 で は こ の 側 頭 平 面 の 左 優 位 性 が 認 め ら れ な い か 右 優 位 で あ る と す る 仮 説 が 提 出 され た 。 実 際 の 研 究 結 果 で は 、 個 人 差 が 大 き く 仮 説 は 必 ず し も 支 持 さ れ な か っ た 。 一 方 、 発達 性 読 字 障 害 児 の 大 脳 半 球 に は 種 々 の 解 剖 学 的 異 常 が 存 在 す る こ と は 多 く 研 究 に お い て 認め ら れ て い る 。 ① 大 脳 半 球 後 方 領 野 の 右 優 位 傾 向 、 ② 大 脳 後 方 領 野 の 左 優 位 性 の 頂 葉 弁 蓋 部 の 脳 回 形 成 の 異 常 、 ③ 前 頭 葉 弁 蓋 部 、 側 頭 葉 、 後 頭 頂 葉 / 後 頭 葉 領 野 容 積 の増 大 、 ④ 皮 質 下 諸 核 で は 健 常 児 と 差 異 は な い 、 な ど の 所 見 が 報 告 さ れ て い る 。 3 ) 生 理 学 か ら の ア プ ロ ー チ ~ 語 と 音 韻 と の 照 合 課 題 遂 行 時 、 発 達 性 読 字 障 害 児 で は全 般 に 左 大 脳 半 球 後 方 の 活 性 化 が 低 下 し て い る 。 特 に 、 上 側 頭 回 後 方 、 角 回 、 第 一 次 視 覚野 な ど の 活 性 化 が 低 下 し て お り 、 逆 に 下 前 頭 回 の 活 性 化 は 増 大 し て い る 。 読 字 課 題 遂 行 時、 健 常 児 で は 上 側 頭 回 後 方 、 角 回 、 第 一 次 視 覚 野 な ど の 読 字 関 連 領 野 の 活 動 性 な 高 く な る 。 読 字 関 5 . 中 心 性 失 書 5 . 1 純 粋 失 書 自 発 か ら 知 ら れ て お り 、 「 純 粋 失 書 」 と 呼 ば れ て き た 。 純 粋 失 書 の 臨 床 症 状 は 次 の よ う であ る 。 7-23
1 ) 文 字 を 書 き 始 め る こ と に 困 難 さ が あ り 、 書 く こ と に 非 常 に 時 間 が か か る が 、 文 字 そ の も の は 正 し く 書 け る 。 文 字 と 音 韻 と の 対 応 も 保 た れ て い る 。 2 ) 文 字 を ま と め て 語 あ る い は 文 章 に す る こ と に 困 難 さ が 伴 う 。 意 図 し た も の と 異 なる 文 字 を 書 い た り 、 文 字 の 配 列 を 誤 っ た り す る 。 文 字 の 保 続 、 置 換 、 省 略 な ど も 出 現 す る。 ば 読 字 も 含 め て 他 の 言 語 症 状 は 見 ら れ な い は ず で あ る が 、 実 際 に は構 音 す る 。 結 局 、 純 粋 失 書で 障 害 が 存 す る の は 文 字 素 の 選 択 や そ の 結 合 に 関 連 す る 過 程 、 図 7 - 3 で は 意 味 概 念 シ ステ ム か ら 文 字 出 力 レ キ シ コ ン へ の ア ク セ ス の 障 害 と 考 え ら れ る 。 オ ー ラ ル ・ ス ペ リ ン グ は 可 能 で も 、 そ れ を 文 字 化 出 来 な い 。 す な わ ち 、 文 字 の 選 択 に 障害 が あ る 。 3 ) 写 字 は 保 た れ る の が 普 通 で あ る が 、 自 発 書 字 と 同 程 度 に 写 字 が 障 害 さ れ た 症 例 も報 告 さ れ て い る 。 4 ) 定 義 か ら す れ 障 害 、 喚 語 障 害 な ど の 失 語 症 状 、 視 空 間 認 識 障 害 、 失 行 な ど の 症 状 を 軽 度 で は あ る が有 す る 症 例 が 多 い 。 純 粋 失 書 の 発 症 機 序 は ど の よ う で あ ろ う か 。 図 7 - 3 を 手 が か り に 検 討 し て み よ う 。 純 粋 失 書 で は オ ー ラ ル ・ ス ペ リ ン グ は 可 能 で あ り 、 文 字 素 バ ッ フ ァ は 保 た れ て い る 。 書 取に 障 害 が 見 ら れ る こ と は 音 素 一 文 字 素 変 換 シ ス テ ム の 障 害 を 思 わ せ る 。 し か し 、 ド ゥ ボ アら は 純 粋 失 書 の 書 字 障 害 に つ い て 詳 し い 分 析 を 行 い 、 文 字 と 音 韻 と の 対 応 関 係 は 保 た れ てい る こ と を 見 出 し て い る 。 ま た 、 杉 下 ら の 症 例 で は 口 頭 で 指 示 さ れ た 文 字 を 文 字 ブ ロ ッ クか ら 選 択 す る こ と は 可 能 で あ っ た 。 す な わ ち 音 素 一 文 字 素 変 換 シ ス テ ム に も 障 害 は な い もの と 思 わ れ る 。 純 粋 失 書 で は 写 字 は 保 た れ 、 読 字 も 可 能 で あ る 。 こ の こ と は 文 字 の 形 態 的な 記 憶 並 び に 書 字 に 係 わ る 動 作 そ の も の は 保 た れ て い る こ と を 意 味 7-24
図 7 ― 7 エ ク ス ナ ー の 書 字 中 枢 ( 灰 色 の 円 ) 19 世紀末、純粋失書の責任病巣としてエクスナーは左中前頭回をあげた。以来この部位 は 「 エ ク ス ナ ー 中 枢 」 と し て 知 ら れ て き た ( 図 7 - 7 ) 。 そ の 後 、 ペ ン フ ィ ー ル ド と ロバ ー ツ は 左 中 お よ び 下 前 回 の 切 除 例 で 一 過 性 の 失 書 を 認 め た 。 エ カ ン と コ ン ソ リ は 5 例 の左 中 前 頭 回 限 局 性 の 病 変 例 で 比 較 的 書 字 に 限 定 さ れ た 障 害 が 出 現 し た と 述 べ て い る 。 ア ーマ ー ド ら は 脳 腫 瘍 例 で 左 中 前 頭 回 脚 部 の 手 術 後 純 粋 失 書 を 呈 し た 症 例 を 報 告 し た 。 左 中 前頭 回 は 純 粋 失 書 の 責 任 病 巣 で あ る と 判 断 し て よ い で あ ろ う 。 7-25
図 7 - 8 ロ エ ル ト ゲ ン の 書 字 過 程 モ デ ル 傷 に よ る 純 粋 失 書 が 報 告 さ れ て い る 。 こ の よ う な 多 数の 領 ラ ミ ン グ に 関 係 す る 。 従 っ て 、 こ れ ら の 領 野 の 損 傷 は 共 に 純 粋 失 書 を 引 き 起 こ す こ とに 一 方 、 頭 頂 葉 病 変 に よ る 純 粋 失 書 も カ プ ア と ゴ ー ド ン を は じ め 10 例以上の報告例があ る 。 そ の 他 、 ① 視 床 、 ② 後 シ ル ビ ウ ス 領 野 、 ③ 内 包 お よ び 尾 状 核 、 ④ 後 頭 葉 、 ⑤ 頭 頂 後頭 葉 領 野 白 質 、 な ど 様 々 な 領 野 の 損 野 の 損 傷 で 純 粋 失 書 が 生 じ る こ と は 、 図 7 - 3 で は 文 字 出 力 レ キ シ コ ン と し た 過 程 がさ ら に い く つ か の 下 位 過 程 に 分 か れ 、 そ れ ぞ れ に 異 な る 領 野 が 対 応 し て い る 可 能 性 を 示 唆す る 。 ロ エ ル ト ゲ ン は 図 7 - 8 に 示 す よ う な モ デ ル を 提 案 し て い る 。 こ の モ デ ル に 従 え ば、 文 字 素 は 左 頭 頂 葉 領 野 に 存 在 し 、 エ ク ス ナ ー 中 枢 を 含 む 左 中 前 頭 回 領 野 は 文 字 素 出 力 プロ グ な る 。 5 . 2 語 彙 失 書 語 彙 失 書 で は 図 7 - 3 に お け る 文 字 出 力 レ キ シ コ ン に 障 害 が あ る 。 こ こ に は 語 の 視 覚 表 象 が 存 在 す る の で 、 障 害 さ れ る と 語 の 視 覚 的 形 態 が 想 起 出 来 な く な る 。 従 っ て 、 書 字 は音 7-26