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2008 年度 1 延髄の名称と説明 (15 点 ) 2 正誤問題 30( 主に 管系 脳室系 神経伝導路 脳神経 )(15 点 ) 3 多肢選択問題 30( 主に 律神経系と脳神経 )(30 点 ) 4 脳核とその 出 線維の説明 (10 点 ) 5 脳辺縁系と線状体の説明 (16 点 ) 6 視

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「神経解剖学」2009年度期末試験対策資料(解答解説編)

作成:⽊下貴⽂(2008年度⼊学)

◆2009.12.15 前半(5章まで)のみ公開 ◆2009.12.16 修正(5章、2007年度の問3の2の解答を修正) ◆2009.12.29 完全版として公開(後半を統合、2009年度の情報を追記) ★神経解剖学の過去問(2006年度〜2008年度本試験)の解答解説です。2009年度本試験の情報(コ メント、説明問題の解答例)も記載しました。 ★もし間違いを⾒つけられたら、ご指摘いただけるとうれしいです。またご要望や質問などもぜひどうぞ。直接 知らせていただくか、ホームページのアドレスまでメールをください。 ★資料の構成について。3年分の過去問をカテゴリーごとに分類して、理解にとって⾃然な順序となるような章 ⽴てに再編成しています。各章冒頭ではその章に関する内容整理をまとめて⾏い、そのぶん各問題についての解 説は簡潔なものとしました。 1、Introduction:神経解剖学の対象、神経系の発⽣ 2、髄膜、脳室系、脳⾎管系 3、脊髄を通る神経伝導路 4、脳神経 5、⾃律神経 6、脳幹の構造、神経内科の臨床問題 7、⼩脳 8、間脳と⼤脳 9、2009年度本試験の内容、コメント、記述問題解答例 ★未編集の過去問が欲しい⽅は⽮野さんの「公開主義」をご覧ください。2005年度過去問の解答解説やその 他の補⾜資料も公開されています。 ★参考⽂献について。 ① 講義配布資料 ② 「解剖学講義(2版)」 ③ 「神経科学〜コミュニケション障害理解のために〜(3版)」 神経解剖学は、講義と配布資料が⽐較的よくまとまっていました。また⾁眼解剖学の指定教科書である②も、神 経解剖学にかかわる部分(脳神経と中枢神経系)についてクリアな記述を与えています。復習として、①で取り 上げられたトピックについて②を読んでいくことを推奨します。③は詳細な説明と臨床についての豊富な記載を 含み、本資料作成時の調べ物に最もよく参照しました。 ★出題傾向について。本資料で取り上げた3年分(2006〜2008年度)の過去問ついて、出題内容と形式 は次のようになっていました。正誤問題と多肢選択式の問題が半分弱を占め(概して難しい)、残りの説明問題 はだいたい限られたパターンで出題されているようです(⼩脳、視床、⼤脳辺縁系、脳幹の断⾯など)。

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2 □2008年度 1、延髄の名称と説明(15点) 2、正誤問題×30(主に⾎管系、脳室系、神経伝導路、脳神経)(15点) 3、多肢選択問題×30(主に⾃律神経系と脳神経)(30点) 4、⼩脳核とその⼊出⼒線維の説明(10点) 5、⼤脳辺縁系と線状体の説明(16点) 6、視床核と視床下部の説明(14点) □2007年度(104点満点?) 1、中脳の構造の名称と説明(16点) 2、正誤問題×32(16点)(主に⾎管系、脳室系、神経伝導路、脳神経) 3、多肢選択問題×12(30点)(臨床問題、⾃律神経系と脳神経) 4、⼩脳の説明(⼩脳路、プルキンエ細胞、⼩脳核、⽚葉⼩節葉)(14点) 5、視床髄板内核、内包の説明(14点) 6、⼤脳正中⽮状断の断⾯図の図⽰と名称(視床下部と海⾺傍回)、側⾯図の図⽰と機能局在の説明(14点) □2006年度 1、視床の核または構造を5つ挙げ、機能と線維連絡する部位を説明(10点) 2、正誤問題×32(主に⾎管系、脳室系、神経伝導路、脳神経)(16点) 3、多肢選択式問題×17(主に⾃律神経系、脳神経)(30点) 4、⼩脳の説明(脊髄⼩脳路、原⼩脳、プルキンエ細胞)(10点) 5、(リッサウェルの)終帯、⼤脳辺縁系の図⽰と機能的意義(14点) 6-1、延髄の障害と神経徴候(障害部位から徴候を判断)(10点) 6-2、臨床問題(徴候から障害部位を推定)(10点)

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1,Introduction:神経解剖学の対象、神経系の発⽣

この章ではまず、資料全体の導入として「神経解剖学は何を対象とするか」を説明しよう。また、後の章で何度 か参照することになる、神経系の初期発生について、ごく簡単にまとめておく。 1-1、神経解剖学が対象とするもの 神経解剖学とは「神経系」の「構造」を扱う科目で ある……もちろんそれはそうなのだけど、もう少し 具体的に、「どんな対象を」「どのように」扱うの か。 ふつう神経系は、次のように大きく分類される: まず中枢神経系 central nervous sytem; CNS(脳+ 脊髄)と末梢神経系 peripheral nervous system; PNS に分類される。PNS は構造に着目すると脳神経 cranial nerves(脳から出る)と脊髄神経 spinal nerve(脊髄から出る)に分類され、機能に着目す ると体性神経系 somatic nervous system(動物機能、 つまり随意運動や感覚を担う)と自律神経系 autonomic nervous system(植物機能、つまり平滑 筋や腺などによる循環や体液の調節を担う)に分類 される(右図も参照)。 以上は「ニューロンの集まり」としての神経系につ いての分類であり、神経<解剖>学では、 中枢神経系の内部の空洞である脳室系 ventricle system 中枢神経系を囲む髄膜 meningis(硬膜+くも膜 +軟膜)や中枢神経系を栄養する脳血管系 といった、神経系に密接にかかわる構造も扱う。 いっぽう、肉眼解剖学、神経生理学、組織学との棲み分けがあるから、末梢神経の細かい走行、各神経組織の機 能や顕微鏡レベルの微細構造については、簡単にしか言及されないことが多い。 また神経解剖学は伝統的に、神経内科の臨床と密接な関わりを持ってきた。ごく簡単なイメージでいうと、神経 内科医は神経疾患の患者の症状を外側から観察し、また簡単な神経学的検査(腱をハンマーで叩いて反射をみる、 腕を屈曲する時の筋緊張をみるなど)を行うだけで原因となる疾患の種類や部位をかなり特定し、必要な処方を 行ってきた(もっともごく最近は、CT や MRI がかなり普及したことで、神経内科の現場はかなり変わってきて いるらしいけど)。神経解剖学で各神経の支配領域や神経伝導路 neural pathway の経路、交叉する高さ、局所 的な障害でどんな症状がでるかといった点を細かく扱うのは、こうした臨床実践に役立つ体系的な知識を提供す るためである。 1-2、神経系の発⽣

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4 神経系の発生の知識は、成熟した神経系の構造や機能を知る上で非常に役に立つので、ここで発生の初期段階を ざっとみておこう(発生学の予習にもなる!?) ◆後の解説でここを参照します。今のとこ興味ないやという人は後から返って読んでも構いません。 (上図)受精後6日ごろ子宮内膜に着床した 胚は、13 日頃には「2つの大福が、底をくっ つけている様な形」をとる(上図)。上の大 福の中空が羊膜腔、下の大福の中腔が卵黄嚢 であり、大福の底面は肥厚して上下の胚盤 embryonic disc(将来に胚になるところ)を つくる。次いで上胚盤葉の細胞が、上下の胚 盤葉の間に進入して中胚葉mesoderm とな り、18 日頃には内・中・外の三胚葉の構成が できる。 (右図)単層の外胚葉は、肥厚し、溝を作り、 落ち込んで環状の構造をつくる。これが神経 管 neural tube である。22日の図は外胚葉 の方(将来の背側)からみたもので、神経管 と体節 somite(脊椎や胸郭などの節構造をつ くる)が背側部の頭側から尾側までできてい る。また神経管の形成とともに、上胚盤葉の 一部の細胞が落ち込んで、神経堤 neural #初期発⽣をざっとみる #神経管と神経堤の形成

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5 crest という構造をつくる。神経管は中枢神経系に分化し、いっぽう神経堤は胚の各所に遊走して、末梢神経系 やグリア細胞、軟膜やクモ膜、皮膚のメラノサイトなどに分化する(次ページ上図)。 胚はこの後、腹側を内側にして丸まったような形をとる(前ページの上図の28日)。頭部の屈曲に鰓弓 (branchial arch)ができ、心臓や四肢の形成もはじまる。鰓弓は魚の鰓(えら)に由来し、ヒトでは顔面・下顎・ 咽頭の周辺に重要な構造をつくる(脳神経の理解に重要なので、後でまた言及します)。 右下図のように、神経管は頭側で串団子 のかたちに膨らみ、前脳胞brain vesicle・中脳胞・後脳胞を作る。これら はさらに発達して、それぞれ「前脳胞→ 終脳、間脳」「中脳胞→中脳」「後脳→ 脳幹(橋、小脳、延髄)」と分化する。 神経管の管腔も、脳の発達とともに拡 大・変形して、頭側(脳の内部)では複 雑な形態の脳室系 ventricle system を つくり、尾側(脊髄)ではあまり形をか えず中心管となる。 こうしてイモムシ形に丸まった胚の背側に神 経管と体節ができ、腹側には消化管ができる。 さらに頭側が膨らんで脳ができることで、将 来の腹側・背側、頭側・尾側ができあがって いる。これは脊椎動物に共通するbody plan であり、各神経がどういう走行をするかを決 定づける基本的な構造となる。 神経管を構成する神経上皮細胞は分裂・分化 して、神経管が厚くなり、機能局在がみられ るようになる。下図右のように、背側の翼板 は将来の感覚ニューロン、腹側の基板は将来 の運動ニューロンとなっていく。また神経堤 に由来する脊髄神経節が翼板の感覚ニューロ ンに投射し、運動ニューロンは末梢へと軸索 を伸ばす。こうして将来の脊髄の基本形(背 側から感覚神経が入り、腹側から運動神経が出て行く)が出来上がっていることを確認しておこう。

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2、髄膜、脳室系、脳⾎管系

この章では、神経系の全体にかかわる構造である髄膜、脳室系、脳血管系をとりあげる。 2-1、髄膜 meningis 中枢神経系は、脳実質(神経細胞+グリア細胞)が、髄膜menings(内側から軟膜、クモ膜、硬膜の3層構造) に覆われた構造をとる。それをさらに頭蓋骨または椎骨が囲む。下に脳の前頭断の模式図を示す。 硬膜dura mater は頭蓋骨の内側にぺったりと張り付く強靱な骨膜である。2層からなる硬膜は通常は癒着して 1枚の膜となっているが、ところどころで2 層がはがれて中空の構造をつくり、静脈血を容れる(静脈洞 venous sinus)。硬膜の一部は脳実質の溝へと板状に突出して、脳の構造を支えている(左右の大脳を分ける大脳鎌 cerebral falx、左右の小脳を分ける小脳鎌 celebellar falx、大脳と小脳を分ける小脳テント celebellar tentorium がある。)

クモ膜arachinoid mater は硬膜に、軟膜 pia mater は脳実質のほうに貼り付いている。クモ膜 arachinoid mater と軟膜pia mater の間には、結合組織性の線維が疎に張られたクモ膜下腔 subarachinoid space があり、ここに は後述のCSF(脳脊髄液)が環流し、また動静脈が走っている。硬膜静脈洞の付近には、クモ膜が静脈洞内へと 突出した構造(クモ膜顆粒)がみられ、CSF(脳脊髄液)はここで静脈に排出される。 ◆クモ膜「顆粒」というのは、脳の外側から肉眼でみたときに顆粒状(カリフラワー状?)にみえるから。 ●髄膜炎 meningitis:髄膜のうちとくに軟膜は感染をうけやすい。主に軟膜の感染による炎症性反応を髄膜炎 といい、発熱や脳圧亢進症状(頭痛・嘔吐)として現れる。診断や感染原因の特定(細菌性、ウィルス性、 真菌性など)には、後述のCSF を採取して、その結果をみて判断を行う。 2-2、脳室系 ventricle system 脳室系は脳実質内にある空洞で、無色透明の脳脊髄液(cerebrospinal fluid, CSF)の産生・循環・排出を行って いる。CSF は(豆腐パックの水と同じように)脳実質の水分量の調節や形態の保持にはたらいている。 成熟後の脳室系の構造は、脳の主要な構造と関連させると把握しやすい(右図と1-2の最後の図も参照)。上 から、左右の大脳半球に囲まれるように2つの側脳室があり、左右の室間孔(モンロー孔)を経て、間脳の視床

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7 に挟まれる薄い部分が第三脳室、中脳の背側を通る 細い管状の中脳水道、橋と小脳の間にある第四脳室 と続き、正中孔(マジャンディー孔)と外側孔(ル シュカ孔)で外部とつながっている。 脳室系を満たすCSF は、脳室内の脈絡叢 choroid plexus という構造で作られている。 ◆脈絡叢は、脳室の背側の、脳実質がなく 軟膜と 脳室が接するところで、毛細血管が脳室の内面を 覆う上衣細胞と軟膜を巻き込んで内側に突出した 構造である。 CSF が脳室系を流れる経路については、やや古い (2004年度の)次の過去問を題材として解説す ることにしよう: (2004年度 問1)脳・脊髄の正中⽮状断⾯の模式図を描き,その図を⽤いて脳脊髄液の産⽣,循環,吸収に ついて説明せよ.(12 点) <解答> 左下に模式図を示す。 CSF は脳室系の脈絡叢で産生される。 CSF は、側脳室→室間孔→第三脳室→中脳水道→第四脳室を経て、第四脳室の正中孔・外側孔から脳室系を 出て、脳と脊髄を囲うクモ膜下腔に入る。クモ膜下腔を循環したあと、(主に)硬膜静脈洞に突出するクモ 膜顆粒から静脈に排出される。 ★まずは、(間脳や脳幹など)脳の主要な構造と脳室系をセットで正しく配置できることが試される。正中矢状 断だから側脳室はみえないことに注意(図では脳梁と透明中隔のところに、側脳室の影が書いてある)。右の正 面図と対比して脳室系の立体的な形をよく確認しておこう。脳室系の 形状から逆に、大脳や間脳の構造 #脳室系を腹側からみる 前⾓ 下⾓

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8 や位置を正確に把握することができる: 前角は前頭葉、中心部は側頭葉、後角は後頭葉、下角は側頭葉のそれぞれ内側にある(大脳が発達して、各 葉の方向に伸びていくときに側脳室のかたちができるのである) 間脳は第三脳室の側壁をつくる。 あとは脳室系→クモ膜下腔→上矢状静脈洞というCSF の流れをたどる。CSF の循環障害である水頭症もあわせ ておさえておこう(脳室系の局所的障害で、どこにCSF が貯留するかがよく問われる)。 ●水頭症 hydrocephalia:何らかの原因(腫瘍、クモ膜下出血、髄膜炎など)でCSF の循環が障害され、頭蓋 内(主に脳室)にCSF が貯留した状態。障害部位によって、頭痛や嘔吐、精神症状、視神経の圧迫による視 力低下などの症状が出る。 2-3、脳⾎管系 脳に分布する血管系は、動脈と静 脈が伴走せずに、まったく異なる 経路をとることをまずおさえる。 脳の動脈系については、(1)頭 蓋にはいるところ、(2)脳底で の環状構造、(3)大脳の各葉へ の分布、の3点に分けてみていく。 まず右図のような視点(脳実質を 底面からみる)に慣れよう。図の 下半分は脳幹で、脳底動脈は橋の 中央を走っている。 (1)頚部から頭蓋内に向かう動 脈は2種類の左右で計4本しかな い。腹側よりの内頚動脈internal carotid a.と頚椎の横突孔を通る 椎骨動脈vertebral artery である。 (2)これらの動脈は、頭蓋内に 入ったあと、脳底部で左右と前後 がつながり、特徴的な環状の構造 (Willis 動脈輪)をなし、この周辺で大脳の栄養を分担する前・中・後の3つの大脳動脈が分岐する。より詳し く追ってみよう:内頚動脈は間脳の付近で、前方に向かう前大脳動脈 anterior cerebral a.; ACA と側方に向か う中大脳動脈 middle cerebral a.;PCA に分かれる。椎骨動脈は延髄の腹側で吻合して脳底動脈 basilar a.;BA と なり、中脳でまた左右に分かれて後大脳動脈 posterior celebral a.; PCA を作る。両者は前後の交通動脈で連 絡され、環状の構造をつくる(Willis 動脈輪)。 ◆Willis 動脈輪の機能的意義:この構造は局所的な血管障害の際には迂回路をなすと考えられるが、実際には その機能は不十分で、たとえば左内頚動脈が閉塞した場合に、他の動脈からの血流では十分にカバーできない らしい。Willis 動脈輪はむしろ、下記のような脳血管障害のリスク部位として知られる。 ●もやもや病:Willis 動脈輪に多発性の狭窄が起こり、めまいや頭痛、てんかんなどの症状がでる。これは正 式な疾患名で、英語名もmoyamoya disease という。脳血管造影をするとたばこの煙のようなもやもやとし た異常血管(側副路)がみとめられるが、疾患名はこのことに由来する。

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9 ●動脈瘤aneurysm:動脈輪をつくる動脈は、血管がこぶのように膨らむ動脈瘤の好発部位である。クモ膜下 出血subarachnoid hemorrhage はその破綻により生じることが多い。 (3)3つの大脳動脈の各々が大脳のどこに分 布するかを右の模式図でみよう: 内頚動脈 ICA から分かれた前大脳動脈 ACA は、左右半球の間(大脳縦裂)を走り、前 頭葉~頭頂葉の内側面を栄養する。 中大脳動脈 MCA は大脳半球の側面を走り、 側頭葉を中心に大脳外側部の広い範囲に 分布する。 脳底動脈 BA から分かれた後大脳動脈 PCA は後方 に向かい、側頭葉や後頭葉の内側 面に分布する。 脳の静脈系については、硬膜がつくる静脈洞が 幹線となっている。脳実質に分布する静脈はす べて静脈洞に流れこみ、脳の後方に向かって流れて正中に合流し、最終的に左右の内頚静脈で頭蓋から出て行く ……という概要をまずおさえよう。 右図では主な静脈洞と大脳鎌、小脳テントが 示されている。重要な経路をみていこう: 上矢状静脈洞(大脳鎌の上縁)は、大脳 の静脈を受けつつ正中外側面を前方か ら後方へ走る。 下矢状静脈洞は、同じく大脳の静脈を受 けつつ大脳の正中内側面(脳梁の上)を 走り、間脳や脳底の静脈を集めた大大脳 静脈を受けて直静脈洞と名前を変えて 後方に走り、後頭部で上矢状静脈洞と合 流する(静脈洞交会)。 その後に左右に分かれて、横静脈洞→S 状静脈洞を経て内頚静脈となって頭蓋 外に出て行く。 他に重要なものとして、海綿静脈洞は下 垂体の左右にある網状の静脈洞であり、 眼球周辺の静脈血を受ける。ここは目や 顔面の感染などが脳に波及しやすい上 に、内頚動脈や脳神経(CN3、4、5、 6)が存在する重要な場所にあるため、 リスク部位として知られる。 ●海綿静脈洞症候群:静脈炎、動脈瘤、周辺 の腫瘍などでこの部位が障害されると、上記の脳神 経が障害され、複合的な症状をきたす。

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10 ★ここまでで前振りは終了で、以下でようやく問題の解答解説に入ります。何やってんだと思うかもしれないけ ど、実は解説はだいたい終わっている! 問題と解答解説 2008年度の問2より 下の各文について,以下のいずれかを解答欄(省略)に記入せよ.なお,問題の性質上,文中で言う「障害」は 「その部分の機能が完全に損なわれた状態」を意味する。 ○…正しい ×…誤りである △…どちらともいえない (◆以下はこの指示を省略する。) 1) 側脳室と第三脳室の脈絡叢は表裏の関係にあり,同じ構造物の両面である. 2) 両側の室間孔が閉塞すると第三脳室の内圧が高まり,水頭症になる. 3) クモ膜下腔は頭頂後頭溝の深部にも存在し,脳脊髄液で満たされる. 4) クモ膜顆粒は硬膜を貫通して動脈内腔に突出する. 29) 大脳半球の大脳鎌に面した部分の大半は前大脳動脈で栄養される. 30 ) 間脳付近の血液は無対性の大大脳静脈を経由して海綿静脈洞に流入する. <解答> 1)×。「解剖実習の手引き」で「第三脳室とその周辺」の項を参照してほしい。まず脈絡叢は膜状の脈絡組織 が静脈を巻き込んで突出した構造であった。側脳室と第三脳室の脈絡組織は同じ1シートの脈絡組織からなり、 室間孔周辺ではそれが折り返されて、裏表に貼り合わされた関係になっている。その間に静脈が通り、それが 側脳室側と第三脳室側に突出して脈絡叢をつくる。つまり問題文の前半は正しく、後半は「同じ構造物の同じ 面である」ならば正しい。たぶん覚えてなくていいマイナーな内容だが、実習の手引きはなぜかこの点をフィ ーチャーしていたので、「実習はまじめにやりましたか」という問いなのだろう。 2)×。脳室系の構造とCSF の流れる方向をおさえる。両側の室間孔が閉塞すると側脳室の内圧が高まる。 3)○。硬膜とクモ膜は頭蓋骨にぺったり張り付き、軟膜は脳実質の方に張り付いている。よって大脳の溝では、 むしろクモ膜下腔が広くなっている。大脳の溝や大脳と小脳の間などではクモ膜下腔がかなり広くなるところ があり、これをとくにクモ膜下槽 subarachinoid cistern と呼ぶ。 ●クモ膜下槽の中でも、第四脳室正中孔の出口付近の小脳延髄槽は最大のもので(図「#脳脊髄液の循環」を 参照)、ここで麻酔や脳脊髄液の採取を行うことがある(とはいえ危険な場所なので、ふつうはL4-L5 間で 腰椎穿刺を行う)。 4)×。クモ膜顆粒は、クモ膜下腔から硬膜を貫通して硬膜静脈洞に突出した構造であり、ここからCSF が静 脈へと排出される。 29)○。前大脳動脈の走行と大脳鎌の位置をおさえる。 30)×。間脳と海綿静脈洞の位置の見当がつけば、問題文が誤りだとわかる。「直静脈洞に流入する」だと正 しい。 2007年度の問2より 1) 側脳室と第3脳室の脈絡叢は一つの脈絡叢の両面であり,その間にクモ膜下腔は介在 しない. 2) 片側の室間孔が閉塞しても水頭症にはならない. 3) クモ膜下腔は小脳テントに沿って,大脳底面にも存在し,脳脊髄液で満たされる. 4) 上矢状静脈洞に沿って見られるクモ膜顆粒は軟膜を貫通して血管内に突出する. 29 ) 大脳半球の下面の大部分は前大脳動脈で栄養される. 30 ) 横静脈洞に集められた血液は,直静脈洞,大大脳静脈を経由して内頚静脈に入る.

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11 <解答> 1)×。解説済み。 2)×。CSF は片側の室間孔が閉鎖すると、同側の側脳室に CSF が貯留する。 3)○。小脳テントは硬膜が脳の内側に向かって突き出した構造で、大脳と小脳を分けている。こうした場所で はむしろクモ膜下腔がかなり広くなっていることを、図(#脳脊髄液の循環)で確認してほしい。 29)×。大脳半球下面に分布するのは主に後大脳動脈。 30)×。問題文はかなりデタラメ。正しくは「静脈洞交会に集められた血液は、横静脈洞、S 状静脈洞を経由 して内頚静脈に入る」となる。 2006年度の問2より 1)側脳室前角の脈絡組織が破れると,脳脊髄液は第3脳室に流れ込む. 2)中脳水道が完全に閉鎖しても,脳脊髄液は第4脳室外側口や正中口から出て行くこと ができるので,水頭症にはならない. 3)小脳延髄槽はクモ膜下腔の一部であり,脳脊髄液が存在する. 4)少数ながら下矢状静脈洞の沿ってもクモ膜顆粒は存在する. <解答> 1)×。1-2の図(#脳室系の概観)を確認すると、前角は前頭葉まで伸びてかつ左右に分かれており、ここ が破れても第三脳室には流れ込まない。 2)×。CSF の流れをおさえる。中脳水道が閉塞するとその前の第三脳室で CSF が貯留する。 3)○。 4)○。クモ膜顆粒は主に上矢状静脈洞に注ぐが、他の硬膜静脈洞に沿っても存在する。 ◆この点を複数の教科書で調べても、GOOGLE先生に日本語で聞いても、明快な解答は得られなかったのだ が、英語で聞いてみるとようやく解答が得られた:”Largest granulations lie along the superior sagittal sinus, a large venous space running from front to back along the centre of the head (on the inside of the skull). They are, however, present along other dural sinuses as well.”「クモ膜顆粒のうち最も大きいもの たちは上矢状静脈洞、つまり頭部の中央で頭蓋内を前から後ろに向かって走る静脈血を容れる空洞に沿って ある。しかしそれらは、他の硬膜静脈洞にも同様に存在する」(from en.wikipedia.org, “arachinoid

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3,脊髄を通る神経伝導路

神経系をつくる神経細胞たちは、同じ機能を担う神経細胞どうしでまとまって存在するのがふつうである。そこ から伸びる軸索も、機能ごとのまとまりを保持したまま束になって走行する。そこでたとえば、「大脳皮質運動 野の足の指を動かす部位」から「足の指の筋肉」まで、神経線維束の走行を追うことができる。このように機能 ごとに束になった神経が走る経路を「神経伝導路 neural pathway」という。 ◆こうした機能的に連関した神経細胞の集まりを中枢神経系では神経核 nucleus、末梢では神経節 ganglion と呼 ぶ。また機能的に連関した神経線維の束は、「路 tract、束 fasciculus、毛帯 lemniscus」などと呼ばれ、場 所によりこの束がさらに集まって索 funiculus をつくる(つまり脊髄の「側索」や「後索」は神経線維束の集 まり)。なお脳表面の皮質=灰白質は神経核とは言わないから、「白質中にある細胞体の集まり」というのが 神経核についての別の捉え方になる。 ◆逆に、こうした機能的に分化した構造が見られないのが網様体 reticular formation である。細胞体と神経線 維が不規則に混じり合うところ、というのが網様体の構造的な定義だが、「中枢神経系のうち明確な構造を持 たないところが網様体」といった概念のゴミ捨て場みたいな言及のされ方もする。 神経伝導路の問題は、とてもややこしいと思う。本章の目的は、神経伝導路の中では比較的単純な、脊髄を通る 一般体性伝導路(簡単にいうと、脊髄を通って全身に分布する感覚や運動の経路)の問題を、すっきり解けるよ うにすることである。まずは初歩的な導入を行い、次いで感覚神経や運動神経が脊髄に出入りするところを整理 するところからはじめよう。 3-1、脊髄を通る神経伝導路の⼀般的な構成 たとえば道を歩いていたとき、「(A)不意 に肩を叩かれて(B)後ろを振り向くと」友 人が微笑んでいたととする。このとき(A) では肩の皮膚にある感覚受容器で感知した情 報を大脳皮質に伝え、(B)では大脳皮質が 発した情報を筋に伝えている。これらの情報 はどのような経路を通って伝わるのだろう か? 右図では、中枢神経系の冠状断面に、伝導路 をごく模式的に示している。 (A)感覚神経路は基本的に3つのニューロ ンから構成される: ①1次ニューロンは、樹状突起で末梢の皮膚 などに分布する感覚受容器から刺激を受け 取る。脊髄後根に細胞体を持ち(脊髄神経 節)、軸索を脊髄の内部に伸ばし、2次ニ ューロンにシナプスする。 ②2次ニューロンはすぐに交叉して上行し、 視床の3次ニューロンにシナプスする。 ③3次ニューロンは大脳を上行して皮質感覚野に終わる。

#神経伝導路の基本的な構成

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13 (B)また、運動神経路は基本的に2つのニューロンから構成される:

①上位運動ニューロン upper moter neuron;UMN は大脳の皮質運動野の細胞体に発し、途中で交叉しつつ下行し て、脊髄前角の運動ニューロンにシナプスする。

②下位運動ニューロン lower moter neuron;LMN はすぐに脊髄の外に出て、末梢を走って神経筋接合部で筋肉に シナプスする。 これらの経路を構成するニューロンは、感覚伝導路の1次ニューロンのみ偽単極性 pseudounipolar ニューロン で、その他のほとんどは、最も一般的な多 極性multipolar ニューロンである。経路図 ではたいてい省略されるが、実際には樹状 突起で多数のニューロンの軸索末端から入 力を受けることに注意しよう。 ◆特殊感覚(視覚、聴覚、平衡覚、嗅覚) の1次ニューロンには、単極性 monopolar や双極性 bipolar ニューロ ンがみられる。 経路ごとに異なる点や例外もあるが、(脳 神経も含め)多くの感覚神経路・運動神経 路はこの(A)(B)と共通の構成をとって いる。これを<基本パターン>として知っ ておくと後でいろいろなものがでてきたと きに覚えることが少なくてすむ。 また、どういう目的でこの基本パターンが このように切り出されたか、も理解してお こう。第一の目的は、経路のどこかが障害されたときに、どのようなマクロな身体症状がでるかという点を明確 にすることである。運動神経路を例にすると、 UMN(上位運動ニューロン)の交叉前で障害があると、反対側の半身に痙性麻痺が出る. UMN(上位運動ニューロン)の交叉後で障害があると、同側の半身に痙性麻痺が出る LMN(下位運動ニューロン)に障害があると、同側の半身に弛緩性麻痺が出る。 となる(下記参照)。神経内科の臨床では、患者の訴えと症状をみて、逆方向の推論により障害部位を特定する 材料とするのである。 ●体性運動路の障害では、上位(UMN)と下位(LMN)のどちらのニューロンが障害されるかで異なる徴候が でる。おおまかにはUMN は LMN を制御し、LMN は末梢での運動の発動を担うという関係にあるから、各々 の障害は次のような徴候になる。 UMN 症候群:痙性麻痺(つっぱる)、筋緊張の増強、反射の亢進(バビンスキー反射など異常反射あり)、 複数の筋や四肢に障害。 LMN 症候群:弛緩性麻痺(ぐにゃぐにゃ)、筋緊張の減弱、反射の減弱(異常反射なし)、特定部位のみ障 害。 ●バビンスキー反射:「足裏をひっかくと親指が足背(足の甲)の方に屈曲する」という反射で、脊髄反射のひ とつ。乳幼児にみられるが2歳ごろで消失し、それ以降の年代にこの反射がみられる場合は病的反射で、錐体 路障害(=UMN 障害)を疑う。

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14 3-2、脊髄に神経が出⼊りする様⼦ 右図で脊髄の各部の名称を 復習してほしい。ここでは 運動神経と感覚神経が脊髄 を出入するところを整理し ておこう(記述の都合上、 情報の流れとは別に中枢か ら末梢への方向をたどる)。 感覚神経路の1次ニュ ーロンは、脊髄の後角 から出て後根 dorsal root で脊髄神経節 spinal ganglion をつ くる。 下位運動ニューロンは、 脊髄の前角 anterior

horn に細胞体を持ち、 前根 anterior root へと 軸索を伸ばす。前根と後根はすぐに合流して1本の脊髄神経 spinal nerve をなし、そこで脊柱の椎間孔を出 る。 脊髄神経はすぐに前枝 ant. ramus と後 枝 post. ramus に分かれるが、両者はどちらも混合性(感覚神 経と運動神経を含む)で、太い前枝は体幹の外周を通って腹側へ向かい、細い後枝は背中のみに分布する。 さて右図のように、脊髄実質(白質+灰白質)は、腰椎L1 の少し下の高さで終わっている(これは発生時に、 脊髄に対して脊柱の方がよぶんに伸長することによる)。脊柱のL2 以下のレベルでは、前根と後根が下方へし ばらく走り、その後で各レベルの椎間孔から出て行く。この前根と後根が垂れ下がった構造を、その形状から馬 尾 cauda equina という。脊柱内にある馬尾はまだ中枢神経系の構造であることを理解しておこう。CSF の採取 や麻酔は腰椎L3~S1 あたりで行うことが多いが(腰椎穿刺 lumbar puncture)、このレベルでは脊髄は馬尾に なっており、神経束(前根と後根)は針を刺しても勝手によけてくれるからである。 3-3、主要な神経伝導路の整理 まずは、主要な神経伝導路としてどんなものが存在するかを一瞥しておこう。ここであげる二十数個の伝導路は、 経路をあるていど細かく覚える必要がある。 ◆「一般/特殊」「体性/臓性」などの用語は、次章(脳神経)で改めて説明する。 (1)一般体性運動路(GSE) 錐体路:骨格筋による随意運動を担う。 頭頚部を除く全身に分布する経路は皮質脊髄路ともよばれる。運動性の脳神経核へ分布する皮質延髄路 も含める。 錐体外路:錐体路以外の運動路の総称で、大脳基底核や小脳とのかかわりが深い。 赤核脊髄路、網様体脊髄路、視蓋延髄路、視蓋脊髄路、前庭脊髄路、オリーブ脊髄路、内側縦束などが ある。 ふつう錐体路と同時にはたらき、運動の不随意的な調節を担う。詳しい経路は覚えなくていいが、「こ ういう経路がある」ということを知っておくと、大脳基底核や小脳のところで面食らわなくて済む。

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15 (2)一般体性感覚路(GSA) 後索内側毛帯路:精細触覚と意識できる固有感覚(深部感覚) 脊髄視床路:温痛覚(外側脊髄視床路)と粗大触覚(前脊髄視床路) 脊髄小脳路:下半身の意識しない固有感覚(後脊髄小脳路)、上半身(副楔状束核小脳路) (3)自律神経:交感神経と副交感神経 (4)特殊感覚路 視覚路、聴覚路、平衡覚路(体性感覚) 味覚路、嗅覚路(臓性感覚) (5)脳神経(脊髄ではなく脳から出る神経のことで、上記の分類と重複する) CN1~12 この章では一般体性運動路(1つ)と一般体性感覚路(4つ)を取り上げて説明する(比較のため自律神経系の 経路にも少し触れる)。他にも体性伝導路はいろいろあるが、経路を細かくみるのはこれだけでいいと思う。 次ページ図のようにごく単純化した各経路を横並びにして比較してみると、各経路に共通する一定の傾向がある ことに気づくとおもう: 大脳を含む伝導路は交叉する。中枢神経系を構成する各構造の中では、大脳のみが左右の半球に明確に分か れて、交連線維が発達し、機能的な左右差が存在する。交叉とはこの点に関連のある構造だと推測される。 意識的で精密な制御を行う伝導路ほど、各中枢が高いレベルにあり、また高いレベルで交叉する。ここで「高 いレベル」とは、中枢-末梢の軸で中枢により近いという意味とする(大脳皮質が最も中枢よりということ になる)。②と③を比べてみると、②精細触覚の延髄レベルで2 次ニューロンへの交代と交叉が起こってい るが、③粗大感覚では1次ニューロンと同じ高さで起こっている。また④と⑤をみると、これも2次ニュー ロンへの交代のレベルが、上半身(主に腕)の方が下半身(主に足)より高い。 こうした傾向は、自律神経にも同じように適用できる。錐体路以外の5つを表でまとめてみよう。 動物の感覚-運動系は、おおまかに「無意識的で粗大な制御」から「意識的で精密な制御」へ向かって進化し、そ れに伴って中枢神経系のより高次の構造が発達してきたとすれば、そこからこの傾向を説明できるかもしれない。 ◆以上の整理と説明は著者の着想(思いつき)なので、論述問題では使えない! 以上を念頭におきつつ、5つの伝導路について個別にみていこう。 ①錐体路 piramidal tract(皮質脊髄路):一般体性運動路の中では、全身のほとんどの骨格筋に分布する錐体 路が圧倒的に重要である。錐体路を構成するのはたかだか2つのニューロンにすぎない。

上位運動ニューロン(upper motor neuron、UMN):大脳皮質の運動野に発し、延髄下部腹側で交叉し(錐 体交叉)、脊髄の側索を下降して、脊髄前角でLMN とシナプスする。

下位運動ニューロン(lower moter neuron、LMN)は脊髄前角に発し、前根から脊髄の外に出る。 ◆一部(平均15%)の線維は錐体で交叉せずにそのまま下降する(前皮質脊髄路)。 評価軸 種類 神経の種類(細目) 中枢 交叉 2番目のニューロンが交代する位置 意識的 精密 ↑ ↓ 無意識的 粗大 体性感覚 精細触覚 意識できる固有感覚 大脳 延髄 延髄 粗大触覚 温痛覚 大脳 脊髄 脊髄 意識されない固有感覚 小脳 なし 脊髄 自律神経 交感神経 脊髄側角 なし 脊髄を出てすぐ(交感神経幹) 副交感神経 脊髄側角 なし 支配臓器の直前

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16 ◆延髄の錐体を通るからこの名称があるのだが、脳幹の運動性神経核を支配し、頭部の運動を担う皮質延髄路

も、途中までの経路や機能が共通していることから錐体路に含めることがある。

◆神経内科の臨床で「錐体路障害」といったら、ふつうは上位運動ニューロンの障害を指すことに注意しよう。

②後索内側毛帯路 dorsal colomn-medial lemniscal pathway は、精細で識別性のある触覚、意識できる固有感 覚を伝える。

1次ニューロン(偽単極性):末梢の感覚受容器の刺激は、脊髄後根神経節dorsal root ganglion の細胞体 を経て脊髄に入り、後索を上行して、延髄中部の後索核にいたる。

2次ニューロン:後索核に発してすぐに交叉して内側毛帯を上行し、視床VPL 核にいたる。 3次ニューロン:視床VPL 核に発して大脳皮質の感覚野へいたる。

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17 ◆「後索」とは「楔状束」「薄束」をあわせた部分である。楔状束は上半身、薄束は下半身の感覚を伝えるの だが、このことは次節で詳しく解説する。 ③脊髄視床路 spinothalamic tract は温痛覚と粗大で識別性のない触圧覚の伝導路である。②と異なるのは、脊 髄に入った一次ニューロンが、脊髄後角ですぐに二次ニューロンに交代し、すぐに交叉して、反対側の側索を通 って上行してそのまま視床VPL 核に入るという点である。 ●脊髄空洞症 syringomyelia:脊髄での2次ニューロンは、交叉するときに脊髄灰白質のまんなか(中間質中 心部)を通って、反対側の側索にはいる。何らかの原因(腫瘍、炎症、血管障害、奇形など)により脊髄の 中心管にCSF が貯留して脊髄を内側から圧迫されておこる脊髄空洞症では、特徴的な徴候として、脊髄視 床路の障害による温痛覚症状が出る(他に障害がなければ、精細触覚や意識できる固有感覚は無事)。 ④⑤の脊髄小脳路 spinocerebellar tract は、意識されない固有感覚を小脳へと伝え、小脳性運動制御のインプ ットとしてはたらく。この伝導路は大脳ではなく小脳に入るので、(ほとんど)交叉しない。また上半身の知覚 と下半身の知覚で、2次ニューロンと交叉の位置が異なる点に特徴がある。ここでも上記の<傾向>に当てはま ることに注意しよう: ・下半身の感覚:1次ニューロンは脊髄に入ったあと少しだけ上行して、後角の胸髄核(クラーク氏柱ともいう。 主に胸髄レベル、T1~L3 にのみ存在)で2次ニューロンに交代し、延髄の下小脳脚を経て旧小脳に入力する。 ・上半身の感覚:1次ニューロンは脊髄に入ったあと、後索をそのまま上行して、延髄の副楔状側核で2次ニュ ーロンに交代し、同様に延髄の下小脳脚を経て旧小脳に入力する。 3-4、体部位的局在(薄束と楔状束の区別を例にして) さて②の後索内側毛帯路で紛らわしいのは、上半身と下半身の感 覚で伝導路の途中の経路(名称)が微妙に変わることである。面 倒なら丸暗記で勝負してもいいかもしれないけど、かなりのとこ ろまで理論的に理解することもできる。またこの点の説明は、後 述する体部位的局在がどのように組み立てられるか、を理解する いい例となる。体部位的局在は神経系のいろいろな局面でみられ るから、ここで理解しておけば、後の章で問題を解くときにかな り楽をできるはずだ。 まず薄束と楔状束の名前と構造をイメージで結びつけておこう。 右図の頚髄C5 レベルの脊髄断面では、後正中溝の側に<細い長 方形の>薄束 gracile fasciculus があり、外側よりに楔状束 cuneate fasciculus が斜めに楔(くさび)を打ち込んだような形 で位置する。どちらが上半身でどちらが下半身の感覚だろうか? 答えを先に言ってしまおう。薄束が下半身からで、上半身の感覚を受ける楔状束はT1 より上のレベルで、<ま るで楔(くさび)を打ち込むような形で>現れるのである(つまり、T2 以下は薄束しかない)。

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18 なぜこのような構造になるのかは簡単に理解で きる。右に、身体の各レベルの精細触覚および 意識できる固有感覚の伝導路をまとめた図を示 す。図で腰髄と頚髄のところをみよう。1次ニ ューロンは脊髄の後角にはいり、交叉せずにそ のまますぐに隣接する後索に入り、上行する。 脊髄の下から順に線維が入ってくるから、より 上位の線維ほど後角に近い方から入り、より下 位の線維は内側(後正中溝の方)に押しやられ ていく。そこで薄束は腰髄からずっと存在し、 T1 より上位(これは腕神経叢 brachial plexus の位置!)で後角側に楔状束がしだいに形成さ れていくのである。よって頚椎レベルでみると、 下半身からの線維ほど後正中溝より、上半身の 線維ほど後角よりに並ぶことになる。このよう に、中枢神経系のニューロンやその軸索が、身 体のマクロな構造の相似形で規則的に配置する とき、これを体部位的局在 somatotopic organization と呼ぶ。思い切ったいいかたをす ると、<中枢神経系の中に身体の縮小マップが あらわれる>、というわけだ。 少し先取りになるが、顔面の精細触覚を伝える 三叉神経(CN5)の経路もあわせて考えてみよ う。この経路は橋で神経核をつくり、交叉して、 中脳レベルでは後索内側毛帯路と隣り合って走 行するようになる。ここで下半身をL(Leg)、 上半身をA(Arm)、顔面を F(Face)として、 それぞれの感覚の経路を追うと、経路の全長に 渡りL-A、L-A-F の配置が保持されているので ある。つまり、途中で一部だけねじれたり、散 り散りになってしまったりしない! いま例にとっている経路では、L-A、L-A-F の 関係が、末梢側から、視床の3次ニューロンの細胞体までほぼそのままで維持される。 ◆視床の後外側腹側核VPL 核と後内側腹側核 VPM 核はとも に体性感覚の中継を担うが、ここにも次のような体部位局在 がみられる(Lateral は外側、Medial は内側): 下半身→視床VPL(後外側腹側核)の外側 上半身→視床VPL(後外側腹側核)の内側 顔面→視床VPM(後内側腹側核) そして3次ニューロンの走行中に半回転のひねりが入って、大脳 皮質にいたる。大脳皮質でこのL-A-F の配置をより細分化して、

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19 また直行する軸も加えて2次元的にみれば、手や唇がでかいことで有名なあの人(感覚ホムンクルス、右図)が 姿をあらわすのである。 以上をまとめて、次の点をおさえておこう: 脊髄の下方からたどると、各レベルの脊髄神経を順次入れていくところで体部位的局在(の一次元)が形成され る。体部位的局在は神経伝導路の全長にわたって維持される。 問題と解答解説 2008年度の問2より 5 ) 脊髄神経後根には感覚神経の軸索が含まれる. 6 ) 脊髄神経前枝には樹状突起は含まれない. 7 ) 馬尾は前根と後根の両方を含む. 8 ) 胸髄下部には楔状束が存在しない. 9 ) 副楔状束核を形成する神経細胞の軸索は中小脳脚を通って同側の小脳に到達する. 10 ) 足の指先の意識される固有感覚を伝える二次ニューロンの細胞体は脊髄灰白質にあり,軸索は視床に到達す る. 11 ) 脊髄神経節にある神経細胞の樹状突起が脊髄硬膜外に出ることはない. 12 ) 薄束核の神経細胞の樹状突起は,脊髄神経節に細胞体がある神経細胞の軸索とシナプスを形成する. 15 ) 延髄上部の左半分に障害があると,下半身の運動麻痺は左側に生じる可能性が高い 21 ) 錐体路内の体部位的局在は中脳レベルでは明瞭でない. <解答> 5)○。脊髄神経後根の神経節には1次感覚ニューロンの細胞体(偽単極性)があり、抹消からは樹状突起が、 中枢(脊髄の方)には軸索が伸びる。 6)×。脊髄前枝は運動・感覚・自律の各神経が通り、1次感覚ニューロン(偽単極性)の樹状突起が含まれる。 偽単極性ニューロンの場合、樹状突起の定義は実はあいまいだが、本資料では3-1の図のように樹状突起を 定義しているので、確認しておこう。 7)○。前根と後根はまだ中枢神経系(つまり硬膜の内側)で、両者が合して脊髄神経となってから椎骨の外に 出て行く。馬尾は脊柱管内の中枢神経系の構造であることは、前期の肉眼解剖でも観察した。 8)○。後索内側毛帯路(精細触覚と意識できる固有感覚を伝える)では、下半身の知覚は脊髄後索の内側より の薄束、上半身の知覚は外側よりの楔状束を通る。 9)×。副楔状束核小脳路は、上半身の意識できない固有感覚の伝導路。脊髄から小脳への入力は、延髄の下小 脳脚を通る。 10)×。意識できる固有感覚を伝える後索内側毛帯路は、脊髄の後索にはいった後はそのまま上行し、延髄の 後索核でニューロンを交代し、直後に交叉して視床→大脳皮質に達する。 11)×。脊髄神経節には体性感覚路の1次ニューロン(偽単極性ニューロン)の細胞体があり、末梢の感覚受 容器から中枢に向かって「樹状突起→脊髄神経節→軸索」の順で情報を伝える。よって樹状突起は末梢まで分 布するから、題意は当然あやまり。 12)○。延髄の薄束核は、精細触覚と意識できる固有感覚を伝える後索内側毛帯路の1次ニューロンの細胞体 がある。体性感覚なので、1次ニューロンの細胞体は脊髄神経節にあり、1次ニューロンの軸索が脊髄後索を 上行して、薄束核にある2次ニューロンの樹状突起とシナプスを作る。 15)×。錐体路は延髄下部で交叉する(錐体交叉)。よって延髄上部の片側性の障害では、反対側の運動麻痺 症状が出る。

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20 21)×。体部位的局在は神経伝導路の全長で保持される、と考えていい。 2007年度の問2より 5 ) 脊髄神経後根には運動神経と感覚神経の軸索が含まれる. 6 ) 脊髄神経前枝には樹状突起は含まれない. 7 ) 馬尾には感覚神経の成分は含まれない. 8 ) 胸髄下部には薄束が存在しない. 9 ) 副楔状束核を形成する神経細胞の軸索は中小脳脚を通って同側の小脳に到達する. 10 ) 足の指先の意識される固有感覚を伝える一次ニューロンの細胞体は脊髄後角の基部にあり,軸索は視床に到 達する. 11 ) 脊髄後角の中に細胞体のある感覚神経の軸索が直接軟膜に被われることはない. 12 ) 薄束核の神経細胞の樹状突起は,脊髄神経節に細胞体がある神経細胞の軸索とシナプスを形成する. 15 ) 延髄上部の左半分に障害があると,下半身の運動麻痺は左側に生じる可能性が高い. 31 ) 筋委縮は上位運動ニューロンより下位運動ニューロンの障害で起こりやすい. <解答> 5)×。脊髄前根を通るのは運動神経と自律神経、後根は感覚神経のみ。 6)×。解説済み。 7)×。馬尾は前根(運動神経+自律神経)と後根(感覚神経)を含む。 8)×。脊髄後索の内側(後正中溝)よりの薄束は、下半身の精細触覚と意識できる固有感覚を伝えるから、胸 髄以下のレベルにも存在する。 9)×。副楔状束核小脳路(上半身の意識できない固有感覚を伝える)は、副楔状束核でニューロンの交代を行 い、その軸索は交叉せずに延髄の下小脳脚を通って小脳にはいる。脊髄から小脳への入力は一般に延髄の下小 脳脚である。 10)×。意識される固有感覚を伝えるのは後索内側毛帯路で、1次ニューロンは脊髄にはいったあとそのまま 上行して、延髄の後索核で2次ニューロンに交代し、視床VPL へ達する。 11)×。脊髄視床路を例にすると、脊髄の後角にある2次ニューロンの細胞体の軸索は、すぐに交叉して視床 までそのまま上行する。「軟膜に直接覆われる」のは、1次感覚ニューロンの軸索(脊髄の外、椎間孔を出る 前)である。 12)○。解説済み。 15)×。解説ずみ。 31)○。下位運動ニューロンLMN は筋を直接支配するのだから、その障害が弛緩性麻痺と筋萎縮をもたらす のは自然な連想だとおもう。 2006年度の問2より 5)脊髄神経後枝には運動神経の軸索と感覚神経の樹状突起が含まれる. 6)脊髄神経前枝には樹状突起は含まれない. 7)頚髄には中間質外側部が存在しない. 8)仙髄には楔状束が存在しない. 9)胸髄核を形成する神経細胞の軸索は小脳に到達する. 10)手の指先の意識されない固有感覚を伝える一次ニューロンは,脊髄神経節に細胞体があり,軸索は副楔状束 核に到達する. 11)脊髄後角にある神経細胞の軸索が脊椎管の外に出ることはない. 12)楔状束核の神経細胞から出た軸索は,反対側の視床の後外側腹側核に到達する.

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21 29)バビンスキー反射は上位運動ニューロン障害の徴候である. 30)筋萎縮は上位運動ニューロンより下位運動ニューロンの障害で顕著である. <解答> 5)○。前根(運動神経)と後根(感覚神経)が合流して脊髄神経となり、前枝は腹側へ、後枝は背中に向かう。 よって前枝と後枝は混合性で、ニューロンの方向性を考えると、運動神経の軸索と感覚神経の樹状突起を含む。 6)○。5)と同様。 7)×。脊髄灰白質は「前角」「中間質」「後角」に分かれるから、「中間質の外側部」は存在するに決まって る。ただし交感神経の中枢が存在するT1-L2 の中間質外側部は側方に突出し、「側角 lateral horn」とよば れる。逆にT1~L2 以外のレベルでは側角は存在しないので、「頚髄には側角が存在しない」なら正しい。 8)○。楔状束は上半身の精細触覚と意識できる固有感覚を伝えるから、T1 以上(腕神経叢のレベル)にしかな い。 9)○。後脊髄小脳路(下半身の意識されない固有感覚を伝える)は、脊髄後角の胸髄核(クラーク氏柱)でニ ューロンを交代し、すぐに交叉して後索を上行して、下小脳脚から小脳へ入る。 10)○。副楔状核小脳路(上半身の意識されない固有感覚を伝える)では、1次ニューロンは脊髄に入ってそ のまま後索を上行し、延髄の副楔状核でニューロンを交代して、下小脳脚から小脳に入る。 11)○。2007年度 問2の11)と同様。 12)○。後索内側毛帯路(精細触覚と意識できる固有感覚を伝える)の2次ニューロンである延髄の後索核(上 半身の知覚は楔状束核)は、延髄ですぐに交叉して、反対側の視床VPL 核へと達する。 29)○。バビンスキー反射陽性は錐体路障害を疑う。反射が起こる≒下位運動ニューロンは正常だから、上位 運動ニューロンの障害。 30)○。解説済み。

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4,脳神経

この章では、まず脳神経について解説し、ついで各年度の問2(正誤問題)の残りの問題(多くの問いは脳神経 から)を扱う。脳神経について、付録として別ファイルで「脳神経まとめ」を用意したので、本資料の記述とあ わせて参照してほしい。 ◆この表は、細かい事柄をいちいち説明する煩雑さを避けるとともに、それぞれの脳神経の経路や機能につい てみていくときに参照することで、脳神経の全体像を俯瞰的にみてもらうことを意図している……ので、と にかくこの表を丸暗記しろ!というわけではありません。 4-1、脳神経の定義、おおまかな分類 脳神経 cranial nerves は(脊髄ではなく)脳からでる末梢神経である、と定義される。ただしCN1(嗅神経) とCN2(視神経)は、脳から出るというより中枢神経系の一部をなす。残りの CN3~12は脳幹から出る。 機能成分によるおおまかな分類。12本の脳神経は、機能に着目して(1)純感覚性、(2)純運動性、(3) 混合性、と大きく3つに分類すると分かりやすい。 (1)純感覚性:CN1(嗅)、CN2(視)、CN8(内耳) いわゆる「特殊感覚」。特にまぎらわしいところはないが、各々が特異な経路を持つから、別個に見てい く必要がある。 (2)純運動性:CN3(動眼)、CN4(滑車)、CN6(外転)、CN11(副神経)、CN12(舌下神経) 骨格筋を支配するだけなので非常に簡単。 ただしCN3(動眼神経)については、内眼筋を支配する副交感成分を持ち、視覚関連の反射(対光反射、 調節反射)にかかわる点が重要。 (3)混合性:CN5(三叉)、CN 7(顔面)、CN 9(舌咽)、CN 10(迷走) このグループは感覚、運動、副神経の複数の成分を含むというだけでなく、いろいろな点でとにかくやや こしいことが多い。脳神経がらみで何か例外的なことが出てきたらたいていこのグループだと思っていい。 本資料ではこのグループを「ややこしい脳神経たち」と呼ぶことにする。 ややこしさの一因は、これらの脳神経とその支配領域が、発生時の鰓弓(後述する)に由来することによ る。 4-2、経路の基本パターン 「脳神経」というのは末梢神経に着目した用語だが、意識できる感覚や随意運動を支配する脳神経は、当然なが ら中枢側(皮質と脳神経核の間)の経路が存在する。ここでは、中枢~末梢まで経路全体の基本パターンを示す。 感覚路の多くは、脊髄を通る感覚神経と共通のパターンをとる。つまり、3つのニューロンで構成され、1次ニ ューロン(偽単極性)は中枢神経系の外に神経節を持ち、中枢内の脳神経核にシナプスする。2次ニューロンは すぐに交叉して視床に達し、3次ニューロンは視床から皮質にいたる。ただし特殊感覚の中には例外的な経路を 持つものが多い: CN1(嗅神経)と CN2(視神経)は中枢神経系の一部。 CN1(嗅神経)の経路はかなり特殊で、視床を通らず、大脳辺縁系と密接なかかわりを持つ。 CN8(内耳)のうち蝸牛神経の経路は、多数(4~6個)のニューロンで構成される。

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23 運動路は、皮質から延髄へ向かうから皮質延髄路、または脳幹の運動神経核へ向かうことから皮質核路と呼ばれ る。皮質延髄路は、2つの基本パターンがあると考えると分かりやすい。 ②純運動性の脳神経は、反対側支配のパターンをとる。 ③混合性脳神経は、両側支配のパターンをとる。 ②は、脊髄を通る運動神経とかなり共通したパターンを示す。それに対して脳神経でだけみられる③のパターン は、片側の大脳皮質からの経路が、末梢の手前で両側に分かれる。つまり末梢の筋は、左右の皮質からの運動神 経を受けていることになる。②のような経路を反対側支配というのに対して、③のような経路を両側支配という ことを覚えておこう。両側支配の経路の特徴は、片側の上位運動ニューロン障害が起こっても、もう片方からの 神経があるので、麻痺が起こらず機能が温存されることである。 ◆「純運動性→反対側支配、混合性→両側支配」という原則の例外はCN7(顔面)で、「顔面上部は両側支 配、顔面下部は片側支配」となる。 ●たとえば左半球の運動野が広範に障害された場合、 ・CN12(舌下)は純運動性、つまり反対側支配なので、右側の舌筋に麻痺がでる。 ・CN9(舌咽)の嚥下にかかわる成分は、両側性支配なので、一定の機能低下はみられるものの機能は温存さ れる. 4-3、脳神経の各論(1)純感覚性の脳神経 このグループはおもに特殊感覚からなる。各々の経路がかなり異なるので、個別にみていこう。 CN1:嗅神経 olfactory nerve 鼻腔の天井にある1次ニューロンの嗅覚受容細 胞(嗅 神経細胞)が、匂い物質をキャッチする。 その軸索は、頭蓋骨の篩板を通って嗅球に終わ る。 2次ニューロン(僧帽細胞)の細胞体の集まり が嗅球をなし、その軸索が嗅索をつくる。 2次ニューロンは大脳辺縁系の一次聴覚中枢(前有孔質、鉤皮質、梁下野)に終わる。

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24 嗅覚の伝導路は特殊感覚のなかでもとりわけ特殊である。嗅覚系は大脳のうち系統発生的にかなり古い部分に属 し、視床には入らない。大脳のうち嗅覚に関連する領域を嗅脳というが、これは嗅球+大脳辺縁系にほぼ相当す る。原始的な動物(魚類レベル)では大脳のほとんどが嗅脳であり、嗅覚や大脳辺縁系が動物としての基本的な 部分を担っていることをうかがわせる。 CN2:視神経 optic nerve 1次ニューロンである網膜の神経節細胞の軸索 (視神経)は、視交叉を経て視索という名称に変 わり、視床の外側膝状体 LGB に終わる。 LGB の2次ニューロンの軸索は、マイヤーのルー プ~視放線をなして一次視覚野に終わる。 視覚経路については、その局所的な障害がどういう視野 障害として出るかを判断できるように、右図の経路を正 確に再現できるようにしておこう。対象からの光線は、 水晶体で上下左右がさかさまになって網膜に映る。 左眼の右視野は、左の網膜に入り、視交叉で交叉 しないで左の視床LGB でニューロンを交代し、左 の一次視覚野に入る。 左目の右視野は交叉せず左皮質へ、右目の右視野 は交叉して左皮質に入り、結局、両眼の右視野が 左皮質で統合されることになる …などの点を、経路を追って理解しておくこと。 CN8:内⽿神経 vestibulocochlear nerve 内耳神経はvestibulocochlear nerve という名前 の通り、平衡覚をつたえる前庭神経 vestibular nerve と、聴覚をつたえる蝸牛神経 cochlear nerve からなる。 聴覚の経路は、「音が聞こえる」わけだから当然、 上行して大脳の聴覚野に向かう。この経路は、1 次と2次と最後のニューロンは他の感覚経路と共 通の構成だが、2次と最後のニューロンの間でい くつかに分岐し、左右の交通や中継ニューロンを 多く含む独特の経路をとる。 1次ニューロンは蝸牛内、コルチ器の近傍 のラセン神経節にある。その軸索である聴 神経は、延髄の(背側・腹側)蝸牛神経核 に終わる。 2次ニューロンは蝸牛神経核を出て、延髄 の上オリーブ核を通り、脳幹部で外側毛帯 を上行して、中脳下丘を通って、視床の内

延髄上部

蝸⽜神経核

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25 側膝状体 MGB に至る。これらの経路の途中で、左右で交叉したりしなかったり、中継核を介在させたりさ せなかったりと、多様な経路をとる。 視床MGB を出た最後のニューロンは、聴放線となって内包を通り、側頭葉の聴覚野に終わる。 いっぽう平衡覚の経路は、教科書的に「平衡覚を伝える」と書くと、何かバランスの感覚みたいなものが大脳に 伝えられる気がしてしまうが、実際には身体の平衡を維持するための、<反射的な感覚-運動システム>の一部 としてはたらく経路がメインであり、内耳を出た後は小脳、脳幹の網様体や運動核に接続する。 ・1次ニューロンは内耳で前庭神経節をつくり、延髄の前庭神経核におわる。 ・2次ニューロンの主な行き先とその機能は…… (1)前庭小脳路(小脳による平衡の制御):延髄の下小脳脚を通ってを小脳の古い構造(片葉小節葉、虫部) に向かう。 (2)前庭脊髄路(骨格筋の緊張を調節して姿勢を保持):脊髄を下行して前角の運動ニューロンに投射する。 (3)内側縦束(外眼筋を調節して、頭部が動いても対象への視点を維持する):脳幹正中部の内側縦束に向か い、CN3(動眼)、4(滑車)、6(外転)の神経核に投射する。 ●乗り物酔いや目眩(めまい)は、平衡神経の障害により起こる一般的な症状。 視覚、聴覚、平衡覚の経路の区別を問う正誤問題、多肢選択式問題が多く出題されている。各経路の特徴を整 理しておこう。 視覚は、中脳レベルでほぼ水平に伝わる。視床の外側膝状体LGB を通り、後頭葉の一次視覚野にいたる。 聴覚は、延髄上部(内耳は頭蓋内のだいたいこのレベルにある!)の蝸牛神経核に入り、外側毛帯を上行 して、中脳下丘を通り、視床の内側膝状体MGB を通り、側頭葉の一次聴覚野にいたる。 ◆内側毛帯は精細触覚を伝える後索内側毛帯路の経路。中脳上丘はCN3(動眼)が関与する視覚反射の 経路。 平衡覚は、延髄上部の前庭神経核に至り、小脳、脊髄、内側縦束などに投射する。 4-4、脳神経の各論(2)純運動性の脳神経 純運動性の5つの脳神経は、CN3(動眼)の副交感性成分を除けば非常に単純。大脳皮質に発する1次ニュー ロンが脳神経核に終わり、2次ニューロンが支配筋に投射するというだけである。下に各脳神経の脳神経核とそ のレベル、支配筋をまとめる。 CN3 動眼神経 oculomotor n. 動眼神経核(主核) 中脳 下記以外の外眼筋×4+上眼瞼挙筋 CN4 滑車神経 trochlear n. 滑車神経核 中脳 上斜筋(滑車を通る!) CN6 外転神経 abducens n. 外転神経核 橋 外側直筋(眼球の外転!) CN11 副神経 accessory n. 脊髄前角C1-C5 脊髄 胸鎖乳突筋(頭部回旋)、僧帽筋(肩の挙上) CN12 舌下神経 hypoglossal n. 舌下神経核 延髄 舌筋群 眼球を動かす筋(外眼筋)がどういう作用を持つかを、次の図で復習しておこう。外側直筋→眼球の外転はすぐ わかると思う。上斜筋→眼球の下方外側への回転、というのは大丈夫? (筋の付着位置と引っ張る方向を正確に 把握すること) 脳神経の走行については、次の2点が例外的。 CN4は、神経核から交叉しつつ後方に向かい、脳幹の背側から出る。

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26 CN11は、C1~C5の脊髄前角からの線維が上行しつ つ融合して、頭蓋の中に入り、もう一度頭蓋の外に出て 行く。 さてCN3(動眼)には、上記の主核の他に副核 (Edinger-Westphal 核、EW 核)を持ち、毛様体神経節を経て 内眼筋(平滑筋)である毛様体筋と瞳孔括約筋に副交感性の支 配を及ぼす経路がある。これは、日常的に作動している次の二 つの反射にかかわる: 対光反射LIGHT REFLEX:片側の眼に光が入射すると、両側 の眼の瞳孔が収縮する。同側の瞳孔収縮を直接反射、反 対側の瞳孔収縮を共感性反射といい、これは反射経路の 一部が左右で連絡しているため。この反射は、まさに機 械としての視覚系の自動的な作動というべきもので、大 脳を介さず無意識的に起こる。 調節反射ACCOMMODATION REFLEX(遠近調節性輻輳反射とも): 近づいてくる物体に対して水晶体の厚さを調節する反射 で、大脳の視覚野を介する経路をとる(動く物体の注視 は、いかにも意識的で脳の高次機能を使いそう な操作である)。 右図で対光反射の経路を追跡しよう。(1)視床の外 側膝状体LGB の前で視索のごく少数が分かれて、中 脳上丘(視蓋前域)に入る。(2)視蓋前域の核は、 左右で交通しつつ、副核(EW 核)に入る。(3)EW 核からの動眼神経(節前ニューロン)が、毛様体神経 節にいたる。(4)節後ニューロンが瞳孔括約筋に達 する. ◆なお共感性反射は、視交叉の存在と、中脳の視蓋前 域とEW 核のところで左右の交通があることによ り起こっている。 ◆右図には、眼球の瞳孔調節を拮抗支配する交感神経 も描かれているので、あわせて確認しておこう。こ の交感神経の節後ニューロンは、脊髄の側角の節前 ニューロンが上頚神経節にシナプスし、節後ニュー ロンが上行して瞳孔散大筋を支配する。 また調節反射は、視床LGB→大脳視覚野を経て、同様 に中脳上丘(視蓋前域)に入る。その後は対光反射と 同じ経路で毛様体筋と瞳孔括約筋を支配する他、動眼 神経核を介して外眼筋である内側直筋も支配する(物 体が近づくときは当然寄り目をするから!)。以上2

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27 つの反射経路について、下のチャートで比較で両者の違いを確認しておこう。 ◆ちなみに上記の2つの反射とよく対比される角膜反射は、CN5(三叉)と CN7(顔面)が関与し、CN2 やCN3は無関係。その経路を以下に示すが、CN5の温痛覚を伝える経路と、CN7の運動成分が脳幹で連 絡するのが特徴。 角膜→CN5-1(眼神経)→三叉神経節→三叉神経脊髄路→三叉神経脊髄路核 →顔面神経核→CN7(顔面)→眼輪筋 4-5、脳神経の各論(3)混合性の脳神経(ややこしい脳神経たち) CN5:三叉神経 trigeminal nerve Ⅴ1:眼神経 ophthalmic nerve Ⅴ2:上顎神経 maxillary nerve Ⅴ3:下顎神経 mandibular nerve CN7:顔面神経 facial nerve CN9:舌咽神経 glossopharyngeal nerve CN10:迷走神経 vagus nerve 「ややこしい脳神経たち」はとにかく面倒なことが多く、それぞれについて順に説明していくと情報量や例外が 多く混乱しがちなので、分布と機能についておおまかなイメージを作ることを目指そう。 1-2で、胚発生の18日目頃に、胚が腹側の方に屈曲し、頚部のあたりに鰓弓(branchial arch) ができるこ とに言及した。鰓弓とは軟骨魚類の鰓(えら)に由来する期間で、かつては並んだ鰓(軟骨や筋からなる)を開 閉して、水から食物をろ過したり酸素を吸収したりしていた。その後、鰓弓の一部から顎ができ、ヒトでは顔面 ~頚部腹側の、表情筋や嚥下・咀嚼・発声・頭部回旋・肩の挙上などにはたらく筋となった。頭部回旋・肩の挙 上にはたらく筋はCN11(副神経)支配で、残りの表情筋、嚥下・咀嚼・発声にはたらくのが、この節で説明す る混合性の脳神経たちである。 次ページ左図は発生第5週の胚の模式図で、第1~第4鰓弓にそれぞれCN5の枝、CN7、CN9、CN10が 分布している。いっぽう右図は、発生が進んだあとの、鼻腔・口腔・咽頭・喉頭の知覚神経の分担を示した図で、 これらの4つの脳神経でこの周辺を分担していることがわかる。また下図は顔面~頚部にある筋を由来別に色分 けた図で(筋の色は上の左図と対応)、CN7が支配する筋群が顔面中央に T 字型に大きく広がり、CN5は周辺 部の咀嚼にかかわる筋のみを局所的に支配し、またCN10が喉頭部の筋を支配していることをみよう。

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