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神経系の障害は、神経細胞じしんの内発的な問題よりも、外傷や血管の閉塞など外部要因によって神経が損傷さ れる場合が多い。だから多くの場合は、神経系の複数の構造が同時に障害されて、複合的な症状がでる。もちろ んかなり限定的な障害で、「この神経が障害されたから、こういう症状が出た」のような1対1対応が明確に出 ることもある。だが「症状としてA、B、C、D、Eが出ているから、X、Y、Zの障害が考えられる」というよ うに、障害された構造と症状が多対多対応の場合は、パズル的に障害部位を推定する必要がある。

◆特定の神経細胞群のみが選択的に障害される有名な疾患としては、ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキン ソン病がある。前者は運動ニューロンのみ、後者は黒質のドーパミン分泌細胞だけ障害されるのだが、どう してそうなるかはまだはっきりと分かっておらず、治療も困難である。

脳幹は、明確に機能が分かっている構造が密に集まっている。だから脳幹の障害は、こういう臨床にかんするパ ズル的な推定の練習問題としてうってつけで、過去問でも頻繁に問われている。そこでこの章では、脳幹の断面 の問題と、臨床問題をセットで解いていこうと思う。

6-1、延髄断⾯のグループ分け

教科書には延髄や橋や中脳の断面にさまざまな構造物が書き込まれている図が載っている。当初これをみたとき、

「こんなにいろいろあって覚えられない!」という感じを、ふつうは持つとおもう。だが各構造物はてきとうに 並んでいるわけではなく、多くの場合、発生上の都合や配置そのものの合理性が、各構造物の配置を規定してい る。ここではまず、延髄断面を例として、そこに現れる配置のルールを探ってみよう。

基本パターンとしての脊髄。下図は1-2の続きで、脊髄と脳幹の発生途中を示す。将来の脊髄では、背側が感 覚性ニューロンとなって神経堤由来の後根神経節のシナプスを受け、腹側は運動性ニューロンとなり末梢に軸索 を伸ばす。また腹側-背側の軸の中央に境界溝があり、境界溝を基準として内側には臓性、外側には体性のニュ ーロンが分布する。結局、腹側から体性遠心(ふつうの運動神経)、臓性遠心(副交感神経)、臓性求心(内臓 モニタ)、体性求心(ふつうの感覚神経)の順に配置することになる。

◆なぜこの配置になるか? 詳しくは発生学の内容になるが、発生途中(下図)と発生後の脊髄、骨格筋、表皮、

消化管の配置を考えれば、「だいたいそんなふうになりそう」と予想できると思う(?)

#脊髄と脳幹の発⽣(再掲)

55 延髄の構造は、脊髄の基本パターンの延長線上にある。

上の右図に示すように脳幹では、脳室が肥大しつつ背側 に押しやられることで、脊髄を<背側で切って左右に開 いた様な形>となり、内側(正中より)が運動性、外側 が感覚性という配置に変わる。また「一般」核の間に、

頭頚部に特有の「特殊」核があらわれる。

以上の発生上の基本形を念頭におきながら、延髄断面(下図)

の構造を順に説明していく。

まず①脳神経の並びについて。延髄に脳神経核を持つ脳神経には、CN8(内耳)、CN9(舌咽)、CN10(迷走)、

CN12(舌下)などがあった。これらの脳神経核は背側にある第四脳室に沿って並んでおり、正中から外側へ向 かって

舌下神経核(体性運動)

迷走神経背側運動核(臓性運動)

前庭神経核(体性感覚)

の順に並ぶ。ただし「特殊臓性」の次の神経核は、鰓弓の発達にともない核じたいが腹外側(斜め前)に移動し ている。

孤束核(特殊臓性感覚)

疑核(特殊臓性運動)

また②脳神経の走行は、下小脳脚や錐体を避けるようにして腹外側(斜め前)に走って、延髄側方から出る。

次に上行/下行する神経路について。

延髄では背側に第四脳室と脳神経核があり、そこから斜め外側に線維を伸ばす。そのとき、③脊髄の後索を走る 後索内側毛帯路や側索を走る錐体路は、そのまま上行しては脳神経の核や線維とぶつかってしまう。そこでこれ らは、邪魔にならないよう、延髄の下部で交叉するときに内側・腹側よりに移動する。

また④前索や側索の腹側よりの線維はそのまま上行し、また三叉神経の温痛覚を伝える線維は、橋で脳幹に入っ たあと下行して三叉神経脊髄路核をつくる。これらは背側-腹側の軸では中央、外側よりに位置する。

最後に延髄上部に特有の構造について。

http://weblearningplaza.jst.go.

jp/taikei/639/yougo /sa/sokuban.htmlを改変 神経堤→末梢神経 神経管→中枢神経

体節→⾻格筋など 内胚葉→消化管など 表⽪→表⽪、感覚器

疑核

#延髄上部に脳神経の経路を⽰し、また延髄下部の⽑帯交叉と錐体交叉を投影

(解剖学講義 2版 P685を改変)

第四脳室

内側⽑帯

上オリーブ核 下⼩脳脚

錐体

②脳神経の⾛⾏

③錐体交叉

④そのまま 上⾏、下⾏

①脳神経核 の並び

③⽑帯交叉

疑核

#延髄上部に脳神経の経路を⽰し、また延髄下部の⽑帯交叉と錐体交叉を投影

(解剖学講義 2版 P685を改変)

第四脳室

内側⽑帯

上オリーブ核 下⼩脳脚

錐体

56 延髄では小脳に関連する構造(下小脳脚、オリーブ核)があらわれる。小脳は背側の左右にあり、下小脳 脚はそれに連絡する位置におかれる。オリーブ核は脊髄や中脳赤核からの運動情報(原則的に腹側よりを 走る)の投射を核外側部で受けて、核内側部から反対側の小脳へ投射するから、このような配置、形状に なる。

原始的な構造であり他の部分のいわば土台となる網様体は、脳幹の左半分、右半分のそれぞれの中央付近 に広がる。

内側縦束は、外眼筋を支配する脳神経核(CN3,4,6)を連絡する。外眼筋=体性運動だから、内側(正中よ り)にあるのは原則どおり。

まとめると、延髄断面の諸構造は次の4つに分類することができる:

① 脳神経核と脳神経:背側に核を持ち、腹外側に線維を伸ばす。

② 錐体路と内側毛帯:全身の運動と感覚の幹線。腹側・内側に追いやられる。

③ そのまま上行・下行する線維:温痛覚などのマイナー(?)感覚路。外側中央付近。

④ 延髄特有の構造:小脳関連、網様体、内側縦束。

以上のように、延髄断面にあらわれた構造は、いくつかのグループに分けて整理することができ、それらの配置 には発生的、構造的な理由がある。この点を理解しておけば、丸暗記せずともだいたいの位置関係を推論で当て られると思う。

問題と解答解説

2008年度 問1

1.延髄上部を水平断した図を示す.

① A~E で示す構造の名称を漢字で書き入れよ.(誤字 は減点する.)(5点)

② A,C の構造が障害された場合に出現すると思われる 症状について,左右どちら側に起こるかも含めて(それ ぞれ)説明せよ.(5点×2)◆カッコ内の太字は著者 が追記。

<解答>

①A.内側毛帯medial lemniscus B.第四脳室the fourth ventricle C.下小脳脚inferior cerebellar peduncle D.オリーブ核olivary nucleus E.錐体pyramis

②Aが障害されたとき、頭部を除く左半身の精細な触圧覚が麻痺する。

Cが障害されたとき、左半身に小脳症状(運動失調、筋緊張の低下、平衡障害など)がでる。

★Aの内側毛帯は、頭頚部を除く全身の精細触覚および意識できる固有感覚の伝導路(後索内側毛帯路)の一部。

延髄下部(内側毛帯の少し下)で交叉が起こるから、障害されると反対側の半身の感覚麻痺が出る。

Cの下小脳脚は、脊髄、前庭神経核、網様体などから小脳への入力線維の経路であり、この部位が障害されると、

57 同側に小脳性の運動失調、筋緊張の低下、平衡障害などがみられる。小脳がかかわる経路は非交叉性または2回 交叉するため、原則としてこれらの症状は同側にでる、と覚えておこう。

2007年度 問1

1.中脳を上丘の高さで水平断した図を示す

① 3ヶ所以上の名称を漢字で書き入れよ.(名称ごとに1点,最高7点まで加点;ただし,

名称の誤り,誤字や部位の著しい誤りは-1点とする.)

◆おそらく、中脳断面の輪郭のみが問題用紙に示され、そこに構造と名称を書き込む方式だったと思われる。

② ①で名称を書いた部位の中から3つを選び,それらが障害された場合に出現すると思 われる症状,病気について簡単に述べよ.(3点×3)

◆下に中脳断面図を示すので、空欄を埋めてみよう。

<解答>右図の構造名とその主要な機能を以下に示す。

1. 上丘superior colliculus: 視覚反射を中継路するEW核が存在する。

2. EW核(動眼神経副核):CN3(動眼)がかかわる、対光反射や調節反射の中継路。

3. 脊髄視床路:頭部を除く全身の粗大触覚、温痛覚の伝導路。交叉レベルは脊髄。

4. 動眼神経核(主核):4つの外眼筋と上眼瞼挙筋の運動支配、毛様体筋や瞳孔括約筋の副交感支配。

5. 内側毛帯medial lemniscus:後索内側毛帯路の一部で、頭部を除く全身の精細感覚、意識できる固有感覚を

伝える。後索内側毛帯路の交叉レベルは延髄。

6. 内側縦束medial longitudinal fasciculus;MLF:眼球運動にかかわる脳神経核(CN3、4、6)を連絡し、

協調運動にはたらく。

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