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この章では間脳と大脳をまとめて扱う。解説は問題ごとに行うが、最初に登場する主要な構造を概観しておこう。

間脳 diencephalon, midbrainは中脳の上前方に連なる部分で、視床と視床下部からなる。

視床THALAMUSは、脳の各部と大脳皮質を連絡する、多数の中継核からなる。

視床下部HYPOTHALAMUSは、自律神経系、内分泌系、ホメオスタシス調節(体温、PHなど)の最高中枢である。

やはり多数の核を持ち、周囲の大脳、視床、脳幹と線維連絡を持つ。また下垂体を支配する。

大脳 cerebrumは、外側に細胞体を含む灰白質(皮質)、内側に線維中心の白質(髄質)という基本構造を持つ。

脳底部や間脳周辺では、大脳基底核、嗅脳系や大脳辺縁系などの特殊な構造がみられる。

大脳基底核CEREBRAL BASAL NUCLEIは視床の周囲の白質の間に埋まった灰白質で、大脳皮質運動野と協調的には たらいて運動調節を担っている。

嗅脳系OLFACTORY SYSTEMと大脳辺縁系LIMBIC SYSTEMは系統発生的に古い構造で、嗅覚や本能的な情動を担って

いる。

以上の構造は互いに隣接して相互に 線維連絡を持っている。右図の前頭 断面と立体図では、主要な構造をほ とんど含んでいる(間脳は青、大脳 基底核は肌色、辺縁系は緑で示され ている)。この章ではこれらの位置 関係を把握することが極めて重要に なる。立体図をどう切断したら前頭 断図になるのか、また水平断すると どんな断面になるかを考えてみよう。

2008年度 問5

次の構造を簡単な図に描いて示し,機能的意義について述べよ.(8点×2)

1 ) 大脳辺縁系 2 ) 線条体

★1 ) 2 )とも、解説をもって解答にかえる(この章では、以下も同様にする)。

★大脳辺縁系 limbic systemは、大脳半球の内側面に、間脳を取り囲むように存在する。系統発生的に古い皮質 およびいくつかの神経核からなる領域であり、情動や本能行動に深くかかわるとされる。

大脳を構成する皮質について。大脳皮質は系統発生的に3つの種類に分けることができる。新皮質 neocortexは、

最も新しく発達した皮質で、全体の90%を占める。より古い古皮質 paleocortexや最も古い原皮質 archcortex は、ヒトでは脳底のごく一部に残っているにすぎない。大脳辺縁系と嗅脳系(4-3で述べた)は、主に古い皮 質(古皮質と原皮質)からなる。

#間脳、⼤脳基底核、⼤脳辺縁系の位置関係

http://hopes.stanford.edu /basics /braintut /ab5.htmlより

68

◆組織学的には、新皮質は原則として6層構造を示すのに対し、古皮質や原皮質は2~3層の単純な構造を持 つ。哺乳類の中でもウサギなどは、新皮質があま

り発達せず古い皮質が脳の多くの部分を占めてい る。

辺縁系の構造。上の左図では、脳の正中矢状断にみら

れる辺縁系の構造に色を付けて示してある。ここでは、大脳の内側で、脳梁の外側部をぐるりと取り囲むループ 状の脳回を見定めておこう。このループには各部で名称があり、順に梁下野 subcallosal area(脳梁の下にある 皮質)、帯状回 cingulate gyrus、海馬傍回 parahippocampal gyrus、鉤 uncus(「こう」、かぎづめの形の皮質)

と呼ばれる。

◆このループの内側面にある灰白質層(海馬傍回の上端部のギザギザ状の部分は歯状回 dentate gyrusと呼ば れる)をもう一つのループと考える場合もある。

上の右図は、辺縁系の構造を立体的に示した模式図である。この図では、先のループの内側にあって視床をぐる りと取り囲む、もう一つのループに注目しよう。つまり、乳頭体 mamillary body、脳弓 fornix、海馬 hippocampus である。

◆扁桃体は両方のループの下部末端にあるが、これらのループとは区別される構造である。

最後に2つのループの確認を兼ねてパペッツの情動回路をみておこう。これは海馬にはじまり、脳弓、乳頭体、

視床前核、中核、帯状回、海馬傍回を経て、ふたたび海馬へと戻る経路であり、情動を高めるといわれる。試験 では、正中矢状断の模式図中に脳弓~乳頭体を書いて、パーペツの情動回路の構成部品をすべて示せば、解答と して十分だとおもう。

◆パペッツの情動回路は、アメリカの神経解剖学者Papezが、動物実験や臨床データをもとに1937年(!)

に発表した、情動にかかわる神経回路モデルの一部である。このモデルでは、(1)私たちが情動を感じる 中枢は視床であること、(2)上記の閉回路が持続的に興奮することで情動が生まれる、などと考えられた。

70年以上も前のモデルが現在の研究水準で意味を持つのかは疑問で、歴史的なモデルとみなすべきだとおも う。ただし、このようなマクロな神経回路についての研究は現在にいたるまであまり進展していないから、

過去のモデルがこうして引っ張りだされるのだろう。

大脳辺縁系に含まれる構造の中で、海馬体や扁桃体は、とくに機能的に重要だと考えられかつよく研究されてい る。

海馬体HIPPOCAMPUS(海馬、海馬傍回、歯状回)は、大脳皮質の感覚連合野の広い領域からの入力を受けて、

視床や大脳皮質連合野に出力している。海馬体は学習や記憶形成において重要な機能を提供すると考えら

#脳の正中⽮状断で辺縁系の⼀部をみる

「神経科学 コミュニケーション障害理解のために 3版」P319を改変

http://www.brain-science.jp / brain03.index.html を改変 扁桃体

脳⼸

乳頭体 中隔 帯状回

海⾺

側坐核

海⾺傍回

69 れており、左右の海馬の障害は前向性健忘(昔のことは覚えているが、新しいことを覚えることができな い)を示す。

扁桃体AMYGDALOID BODYは各種の感覚系からの入力を受けて、視床下部や脳幹などに出力している。動物実験

で扁桃体を電気刺激すると怒ったような素振りをみせ、また破壊するとおとなしくなるという結果が出て おり、情動の発現や本能行動にかかわりを持つらしい。

◆情動 emotionとは、「快・不快や恐れといった生物としての基本的な感情である」、簡単にいえばそういう ことなのだが、もう少し詳しい(しかしテクニカルではない)説明を与えてみよう。

私たちの精神現象の側からみれば、それは現在の気分を全体的に支配するような、意識的に操作しがたい 精神の動きだと感得される。たとえば「(ゲテモノ料理は)生理的に受け付けない!」という表現は、こ うした情動のはたらきを正確に報告しているとおもわれる。

いっぽう、私たちの認知を低次から高次へと順に考えていく立場からすると、情動とはある物体や音が「単 にみえている」「単に聞こえている」のではなく、快不快などの生理的な弁別を伴って(心地よいものと して、また気持ち悪いものとして)感じられている、ということである。扁桃体を後天的に障害された症 例では、ある人がAさんであることは分かるし、「笑い」の表情をしていることも分かるが、感情が理解 できなくなったという(Aさんが楽しんでいるのか、怒っているのかという観点からのありありとした感 覚が存在しない)。

また情動の変化は、身体の変調を伴うことも重要な特徴である。本番が近づいて緊張するとき、心臓の鼓 動ははやくなり、手には汗がにじんでくる、といったように。

以上のように、情動は単にいろいろな感情の1つではなく、私たちが世界を体験する際の基調を構成するも のである。辺縁系の線維連絡の特徴(各種の感覚の入力を受けて、視床や大脳皮質に投射して意識のはたら きに影響を及ぼし、また視床下部や脳幹に投射して自律神経による調節や本能行動を引き起こす)は、こう した情動の機能の一端を説明する。こんなふうに日常的な経験と解剖学的構造が結びつくと、神経解剖はと ても楽しくなるとおもう。

★線条体striate corpusは、大脳基底核のひとつ。大脳基底核cerebral basal nucleiは、大脳半球の基底部、

視床の外側の白質の中にみられるいくつかの灰白質塊である。視床および大脳皮質運動野との間で回路をつくり、

主に運動の抑制性の調節にはたらく。

右図に、前頭断面における大脳基底核 の主要な構造と、立体的な模式図を示 す。狭義の大脳基底核は、主に尾状核 caudate nucleus、被核putamen、淡蒼 球globus pallidusの3つからなる。こ のうち発生上同じ構造に由来する尾 状核と被核をあわせて線条体striate corpusと呼び、位置的に隣接する被核 と淡蒼球をその形状からまとめてレ ンズ核lenticular nucleusと呼ぶ。ま た線維連絡や機能的な関連性から、視 床下部の視床下核

subthalamicnucleusや、中脳の黒質substantia nigraも、広義の大脳基底核に含める。

◆大脳の基底部にある神経核という解剖学的定義では、前障claustrumや扁桃核も大脳基底核に含む。

◆尾状核と被核の間のハシゴ状の部分には、後述の内包の線維が通っている。

#⼤脳基底核(前頭断⾯と模式図)

視床下核

尾状核

淡蒼球

被核

視床

http://www.brain-science.jp /brain03.index.html を改変

⿊質

70 大脳基底核の機能については、右図で線維

連絡をみながら確認していこう。

大脳基底核が主にはたらく経路(主経路)

は、皮質運動野→線条体→淡蒼球→視床VA

+VL→皮質運動野という閉鎖回路をなす。

また線条体と黒質、淡蒼球と視床下核との 間には双方向性の副経路がある。

主経路についてみると、大脳基底核への入 力を線条体が受け、線条体は淡蒼球に抑制

性の出力を送り、淡蒼球から視床へ抑制性の出力を送るという、抑制-抑制の回路になっている。よって大脳基 底核の作用は、大きく分けて「運動の抑制」と「運動の抑制の解除」の2通りである。

●パーキンソン病は、黒質から線条体へのドーパミン作動性(興奮性)の経路の障害で起こり、主に「運動の 抑制」の症状がでる。いっぽうハンチントン病は、線条体そのものの障害で起こり、主に「運動の抑制の解 除」の症状がでる。

◆右図には小脳による大脳皮質運動野を介した運動調節の経路も示した。みてわかるように、視床VA+VL→大 脳皮質運動野という経路を共有しており、また機能はどちらも皮質性の運動調節である。両者の役割分担は 難しい問題だが、疾患についていえば、「小脳の疾患は協調運動の破綻」「大脳基底核の疾患は運動の亢進 または減少、精神症状をともなう」とおおまかに整理できるとおもう。

2008年度 問6

6.間脳について以下の問に答えよ.

1 ) 視床を構成する核のうち3つを挙げ,入力・出力,機能的意義について説明せよ.(6点)

2 ) 視床下部の存在場所を分かりやすい図を描いて説明し,機能的意義について述べよ.(8点)

★1 )下図左(間脳周辺の正中矢状断)に、視床と視床下部のだいたいの位置を破線で示す。

⼤脳基底核

⿊質

⾚核

(改変)

#冠状断⾯で視床と周囲の位置関係を把握する

解剖学講義 2版 P729を改変 視床下部

視床

線条体

⿊質 淡蒼球

視床下核

⼩脳

⼤脳基底核(機能的分類)

#⼤脳基底核と⼩脳による運動調節

視床VA+VL 視床VA+VL

⼤脳⽪質運動野 ⼤脳⽪質運動野

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