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この章では小脳の問題を解いていく。小脳の問題は毎年出題され、問われる内容も重複する。よく問われる内容 について、最初に整理しておこう。

7-1、⼩脳の⼊出⼒に注⽬した整理

小脳の構造と機能。

小脳は橋の背側にあり、上、中、下の3つの小脳脚CEREBELLAR PEDUNCLEという神経束でそれぞれ中脳、橋、

延髄と接続する。

小脳は大脳と同様に、外側に皮質(灰白質)、内側に髄質(白質)という構造を持ち、髄質内部にある灰 白質塊(細胞体の集まり)を小脳核CEREBELLAR NUCLEIという。

小脳は、みずから運動を起動しないし、意識される感覚を生み出すこともなく、運動機能の支援機構とし てはたらく。その処理は、①運動にかかわる情報が入力され、②小脳内でそれを処理して、③運動制御情 報を出力として返す、という手順で行われ、制御情報は最終的に遠心性(運動性)の神経核に入る。

小脳にかかわる経路の基本パターン。

運動にかかわる感覚情報は、(中、下)小脳脚から小脳の皮質に入る。

皮質の唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞は、処理された情報を小脳核へと伝える。

小脳核の神経細胞の軸索は、上小脳脚を通って小脳を出て、いくつかの経路を経て運動神経に情報を伝え る。

次の経路を基本パターンと考えておこう:

(運動関連の感覚情報)→(中、下)小脳脚→小脳皮質→プルキンエ細胞→小脳核→上小脳脚→(運動神経)

小脳の分類。さて、小脳をいくつかの部分に大きく分ける、二つの分類方法がある。第一の分類では、小脳への 入力と出力およびそれが担う機能に着目して、小脳を次の3つに分ける。

① 前庭小脳 vestibulocerebellum:前庭神経系からの入力を受けて、身体平衡や眼球運動の制御を行う。

② 脊髄小脳 spinocerebellum:全身の固有感覚の入力を受けて、四肢の緊張や単純な運動制御を行う。

③ 橋小脳 pontocerebellum:大脳小脳ともいう。大脳皮質運動野からの入力を、橋を経て受けて、複雑な随意 運動の制御を行う。

第二に系統発生的な分類方法がある。はじめ小脳は、前庭神経系の前庭神経核に連なる、平衡覚の処理を行う構 造として生じる。魚類の小脳はこの段階で、これを①原小脳 archicerebellumと呼ぶ。両生類、爬虫類、鳥類で はさらに、運動器からの固有感覚を脊髄から受けて、脊髄へ出力して運動器の調節を行う②古小脳

paleocerebellumという部分が加わる。哺乳類ではさらに、大脳皮質運動野から入力を受けて、大脳皮質運動野 から入力を受けて大脳皮質運動野に出力する、③新小脳 neocerebellumという部分が発達する。ヒト小脳では、

新小脳が著しく発達している。

◆archi-とpaleo-の訳語は文献により異なるが、本資料で紹介した訳がいいとおもう。arhe-は「起源」や「原 型」といった意味を持ち(例:archeology考古学、alchemy錬金術)、いっぽうpaleo-は学問的、歴史学的 な区分として「古い、古代の」という意味(例:Paleozoic Era古生代、paleobiology古生物学)を持つから だ。この訳語は、大脳皮質の区分の際にも同様に用いる(原皮質archicortex、古皮質paleocortex、新皮質 neocortex)。

63 この第一の方法による分類と、第二の方法による分類は、ほぼ重なる。これを小脳の解剖学的な部位名に対応さ せると、下表のようになる:

主な機能 入出力による分類 系統発生的な分類 解剖学的な部位名 身体平衡と眼球運動の調節 前庭小脳 原小脳 片葉小節葉

四肢緊張と単純な運動の調節 脊髄小脳 古小脳 小脳虫部、虫部傍部 複雑な随意運動の調節 橋小脳 新小脳 小脳半球外側部 また右図(#小脳と小脳核の連絡)をみて、「前庭小脳」

「脊髄小脳」「橋小脳」が、解剖学的な小脳の区分ではど こに当たるかを確認しておこう.。以降では、入出力で分類 したこの名称を使っていくことにする。

今度は、これらの3つの小脳に対する入出力をみていこう。

右上図では皮質プルキンエ細胞から小脳核への投射を、ま た右下図では主要な入力路を示す。入出力の経路について は、前庭小脳と橋小脳は比較的簡単で、脊髄小脳は少し面 倒なところがある。

前庭小脳系:前庭小脳は、前庭神経系の前庭神経核 から平衡覚の入力を受ける。小脳内皮質のプルキン エ細胞から小脳核を経ずに前庭神経核に出力して、

脊髄前角の運動ニューロンや外眼筋支配の脳神経

(CN3、4、6)へ制御情報をおくる。

脊髄小脳系:全身の意識されない固有感覚は、脊髄 小脳路などを通り、脊髄小脳の皮質に送られる.。

ここから経路が分かれて、虫部のプルキンエ細胞 は室頂核に出力し、そこからは脳幹網様体と前庭 神経核にいたる。虫部傍部のプルキンエ細胞は栓 状核と球状核に出力し、そこから中脳赤核→視床 VLを経て皮質運動路にいたる。

橋小脳系:大脳皮質運動野のリアルタイムの運動 情報は、皮質橋小脳路を通って、橋小脳の皮質に 送られる。橋小脳皮質のプルキンエ細胞から歯状 核に出力し、中脳赤核や視床VLに投射する。後者 はその後再び皮質運動野に戻る。

以上の3つの経路を下ページの図にまとめておく。交叉 の様子は複雑なので細かく覚える必要はないと思う。小 脳と末端の運動器の間は原則として交叉なしか2回交叉 で、結局小脳の障害は同側に運動障害が出る、という点 だけおさえておけばいい。

小脳の障害。当然ながら、小脳の障害により出る症状は、小脳の正常機能の特徴と裏表の関係にある。よって症 状から逆に、小脳ってこんな機能なんだなということをつかむようにしたい。まず小脳障害の一般的な特徴とし ては:

感覚麻痺や運動麻痺はなく、運動の機能にかかわる障害が出る。

⽪質橋⼩脳路は 中⼩脳脚へ

橋核

脊髄胸髄核 延髄

オリーブ核

#⼩脳への⼊⼒路まとめ

前庭神経 核

(改変)

脊髄、延髄から 下⼩脳脚へ

64 代償性が高い(障害されても、小脳の他の部分がかなりカバーするため、一定の回復がみられる)

障害と症状は原則として同側に出る。

また、上記の3つの小脳のうちのどれが障害されたかで、症状が変わってくる。

前庭小脳の障害は、眼振(意図に反して、眼球がリズミカルに動いてしまう)がおき、またまっすぐ立つ ことができなくなる。

脊髄小脳の障害は、体幹と四肢の運動と平衡の障害が出る。歩行ができない、転びやすいなど。

橋小脳の障害は、ひとことでいうと「複数の筋を使って随意的に行う複雑な動作」ができなくなる。たと えば「コーヒーカップをとる」「鼻先に指を持ってくる」といった一見簡単そうにみえる動作の背景には、

精妙な小脳による制御がかかわる、ということが具体的に想像できるだろうか?。小脳は、身体の姿勢や 固有感覚、腕を伸ばす運動感覚をモニターしつつ、眼球や腕や指など運動にかかわる多数の筋を協調した 動員を可能にし、また不必要な不随意運動を抑制する。などなど。こうしてはじめて「コーヒーカップを とる」という私たちのマクロな認識では単純と思われる動作が可能になっているのである。

こうした機能の破綻は臨床症状として整理されている。多数の筋の協調制御が破綻すると共同運動失調(ぎ こちない動き)になり、また不要な不随運動を抑えられなくなることから企図振戦(細かい動作のときに 手が震える)が起こる。また構音障害(話すことの障害)は、話すという動作に小脳が深くかかわること をうかがわせる。この障害では話すとき単語や音節がバラバラになって、「こんに ち は。きょ う は とて も さむい で すね」のようなぎこちない話し方になる。

⽚葉

⼩節葉

⾍部

⾍部 傍部

⼩脳半球 外側部

⽪質運動野 脊髄⼩脳路 前庭神経系

交叉

⽪質運動野 視床VL 交叉

⽪質運動野 視床VL

交叉 中脳⾚核

脊髄前⾓

⻭状核 球状核 室頂核

栓状核

中⼩脳脚 下⼩脳脚 下⼩脳脚

前庭神経核

前庭神経核

脊髄前⾓ CN3, 4, 6 中脳⾚核 網様体

⼊⼒

処理

出⼒

橋⼩脳≒新⼩脳

(複雑な随意運動の制御)

脊髄⼩脳≒古⼩脳

(単純な運動の制御)

前庭⼩脳≒原⼩脳

(平衡調節、眼球調節)

交叉

③橋⼩脳系 ②脊髄⼩脳系 ①前庭⼩脳系

上⼩脳脚 上⼩脳脚 下⼩脳脚

脊髄前⾓

交叉

脊髄前⾓ 脊髄前⾓

交叉

上⼩脳脚

交叉 交叉

脊髄前⾓

交叉

#⼊出⼒からみた⼩脳の分類まとめ   橋

65 2008年度 問4

小脳核にはどのようなものがあるか.各小脳核の入出力線維の特徴を小脳の機能と関連させて説明せよ.(10 点)

<解答>

小脳核には、正中から外側に向かって、室頂核 fastigialnucleus、中位核(栓状核 emboliform nucleusと球状 核 globosenucleus)、歯状核 dentate nucleusがある。正中側の核ほど、系統発生的に古い構造である。小脳核 には、小脳皮質の唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞がシナプスする。それを受けた小脳核の神経細胞の軸索 は、上小脳脚から小脳の外にでて、脳幹の神経核や視床にシナプスし、運動の制御にかかわる。4つの小脳核は それぞれ異なる機能と入出力を持っており、前庭神経系からの平衡覚の経路も含めて、これを下記にまとめる。

入力する感覚 皮質の部位 小脳核 出力先 機能 前庭神経系からの

平衡覚

片葉小節葉 橋の前庭神経核 眼球調節を含む平衡制御

脊髄小脳路からの 固有感覚

小脳虫部 室頂核 橋の前庭神経核 脳幹の網様体

運動制御(四肢の筋緊張の調節)

小脳虫部傍部 球状核 栓状核

中脳の赤核 運動制御(四肢の屈筋の緊張)

皮質橋核小脳路か らの入力

小脳半球外側部 歯状核 視床VL核 複雑な随意運動の制御

2007年度 問4

小脳について,次の問に答えよ.

(A) 小脳に入力する小脳路について,機能的意義も含めて説明しなさい.(8点)

(B) 小脳に関わる以下の言葉を簡単に説明しなさい.(2点×3)

1 ) プルキンエ細胞 2 ) 小脳核 3 ) 片葉小節葉

<解答>

(A)

平衡覚の情報は、前庭神経核から下小脳脚を通って前庭小脳へ伝えられる。平衡制御(眼球運動の調節も 含む)にはたらく。

全身の固有感覚は、脊髄小脳路から下小脳脚を通って脊髄小脳に伝えられる。四肢の筋緊張の調節、運動 制御にはたらく。

大脳皮質運動野のリアルタイムの運動情報は、皮質橋小脳路~中小脳脚を通って、橋小脳に伝えられる。

複雑な随意運動の制御にはたらく。

延髄のオリーブ核は、脊髄・中脳・大脳皮質からの線維を中継して、小脳に投射する(オリーブ小脳路)。

(B)

1)小脳皮質に存在する細胞で、皮質に入る情報や皮質で処理された情報を統合して出力する、皮質唯一の出力 細胞。皮質表面を皮質に平行に走る平行線維や、オリーブ核からきた登上線維からの興奮性の入力を受けて、

小脳核へと投射する。

2)小脳髄質の内部に存在する神経核で、正中から外側に向けて室頂核、球状核、栓状核、歯状核の4種類から なる。プルキンエ細胞からの入力を受けて、上小脳脚を通って小脳の外に出て、脳幹の赤核や網様体などに投 射する。

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