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手話言語研究センター 研究成果報告会

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手話言語研究センター 研究成果報告会

第1期(2016~2018年度)事業期間

開催日時:2019年2月 24日 13:00~16:30 開催場所:関西学院大学大阪梅田キャンパス

主 催:関西学院大学手話言語研究センター

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手話言語研究センター 研究成果報告会

第1期(2016~2018年度)事業期間

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目 次

開会の辞 ... 1

今西 祐介(関西学院大学総合政策学部専任講師/手話言語研究センター研究員)

【発表】

①「大学における日本手話教育実施による

学生の手話認識の変化について(調査報告)」 ... 4

松岡 克尚(関西学院大学人間福祉学部教授/手話言語研究センター研究員)

②「関西学院大学『日本手話』履修生における日本手話習得プロセス」 ... 12

下谷 奈津子(関西学院大学手話言語研究センター専門技術員)

③「日本手話と日本語のバイモーダル児の言語使用について」 ... 24

平 英司(関西学院大学手話言語研究センター専門技術員)

④「視覚言語モデルからのアプローチによる日本の手話の分析」 ... 40

川口 聖(関西学院大学手話言語研究センター専門技術員)

⑤「日本手話の文末指さしに関する統語的研究」 ... 48

今西 祐介

閉会の辞 ... 56

松岡 克尚

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※今回、報告会に出席が叶わなかった研究員、客員研究員の研究成果を寄稿という 形で掲載する。

「音声言語と手話言語のバイリンガリズム:CODAの言語環境実態調査」 ... 59

山本 雅代(関西学院大学国際学部教授/手話言語研究センター長)

「手話話者・音声言語話者・通訳者を参加者とする相互行為の分析」... 63

森本 郁代(関西学院大学法学部教授/手話言語研究センター副長)

「日本の言語教育政策と日本手話」 ... 64

オストハイダ テーヤ(関西学院大学法学部教授/手話言語研究センター研究員)

「コーダの使用言語と心理」 ... 66 中島 武史(大阪府立中央聴覚支援学校教諭/手話言語研究センター客員研究員)

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1 開会の辞

今西 祐介 司会:川口 聖

〇川口 皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。

た だ 今 か ら 関 西 学 院 手 話 言 語 研 究 セ ン タ ー 主 催 、 研 究 成 果 報 告 会 を 開 催 さ せ て い た だ き ま す 。 私 は 本 日 の 司 会 を 担 当 い た し ま す 川 口 聖 と 申 し ま す 。 よ ろ し く お 願 い い た します。

で は 、 開 会 に あ た り ま し て 今 西 研 究 員 よ り 挨 拶 さ せ て い た だ き ま す 。 よ ろ し く お願 いいたします。

〇今西 こんにちは。ご紹介にあずかりました今西祐介と申します。

私 は 、 本 学 の 総 合 政 策 学 部 で 教 員 を 務 め て お り ま す が 、 数 年 前 か ら 縁 が あ り ま して 手話言語研究センターの研究員も務めております。

本日はお天気のいい中、わざわざ足をお運びいただきありがとうございました。天気 が良すぎ るの で研究 会 には向い ていな い日 で すけれど も、数 時間 お 付き合い くださ い。

本日は研究成果報告ということで、成果と言われると身が引き締まる思いがします。

私 の 研 究 分 野 の お 話 を さ せ て い た だ き ま す と 、 私 は 言 語 学 を 専 攻 し て お り ま し て 、 そ の 中 で も 世 界 的 に 知 ら れ て い る ノ ー ム ・ チ ョ ム ス キ ー と い う 言 語 学 者 が い ま す け れ ど も 、 彼 が 提 唱 し て い る 生 成 文 法 理 論 を 研 究 し て お り ま す 。 こ の 理 論 の 説 明 を し ま す と非常に複雑な話になりますので、簡単に説明させていただきます。

世 界 に は 色 々 な 言 語 が あ り ま す 。 そ れ ら は 音 も 変 わ る し 単 語 も 変 わ り ま す が 、 そ の 中 に は 普 遍 的 な 特 徴 や 特 性 が あ り ま す 。 そ し て 、 子 供 が 言 葉 を 獲 得 す る シ チ ュ エ ー シ ョ ン を 考 え ま す と 、 環 境 が 整 え ば 、 誰 も が ど の 言 語 を も 母 語 と し て 獲 得 で き る 、 習 得 できるということを提唱している理論です。

賛否両論はありますけれども、1950 年代からその理論が精緻化されてきておりまし て、チ ョムス キー 自身 、非常 に早い 段階 から 自然言 語とし ての 手話 言語の 重要性 を説 いてい ます。 そし て、 例えば アメリ カの 言語 学概論 の本を ひも 解く と、ほ とんど の言 語学の入門書には「Sign Language(手話言語)」がチャプターとしてあります。

私自身も昔、アメリカで言語学入門の授業を教えたことがありますが、本の中には必

ず「Sign Language」があるのです。恥ずかしながら、私自身はそういったところで初

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めて、自然言語としての手話言語というものに気づきました。

翻って日本はどうかというと、最近は事情が色々と変わってきていますが、言語学の 入門書 に手話 言語 が入 ってい るかと いう と、 アメリ カの言 語学 概論 に比べ ると非 常に 少ないの では ないか と 思います 。最近 は手 話 言語学の 入門書 も出 て きており ますの で、

これか らはど んど ん変 わって いくと 思い ます けれど も、そ うい う中 で、チ ョムス キー という人は手話言語の重要性を説いているわけです。

そ し て 、 言 語学 の 目 的 の 一つ に は 、 言 語 と い う レン ズ を 通 し て 、 人 と は何 か と い う ことを 解明す ると いう ことが ありま すの で、 多くの 言語を 見る ほど 、先程 言った よう な普遍 的な特 性が 分か る手掛 かりが 掴め るは ずです 。そう いう コン テキス トで考 えま すと、手話言語も自然言語である以上、その例外ではありません。

私自身もこの信念のもと、特に音声言語を中心に研究してきておりますが、中でも消 滅危機 言語と いう もの を中心 に取り 組ん でき ました 。つま り、 消え ゆく言 語とい うこ とです。明日からは奄美の喜界島へフィールドワークに行きます。

この危機言語ですが、世界には 6,000 ぐらいの言語があると言われていまして、今 世紀の 終わり には 、約 半分が 消える と言 われ ていま す。ど うい う状 況にな ると危 機言 語と言われるのかというと、その言語の話者が 100 万人を切ると危機言語の仲間入り をするわけですが、日本手話もそのカテゴリーに入っているとお聞きしております。

今 後 の 活 動 によ っ て そ の 流れ は 変 わ っ て い く と 思い ま す が 、 危 機 言 語 の研 究 で 一 番 大事な のは研 究、 記録 、そし て話者 の方 々の 活動、 教育、 色々 なも のがあ ります 。関 西学院 大学は 大学 とし て果た せる役 割の 一つ として 、研究 に重 きを 置いて 、特に 日本 手話と いうも のの 記録 、研究 、分析 とい った ものに 貢献し たい とい うこと で、こ のセ ンター の研究 員、 また はその 他にご 協力 いた だいて いる先 生方 、日 本手話 のコミ ュニ ティに関わる方々のご協力のもと、活動をしてまいりました。

本 日 は 、 そ う い っ た 研 究 の 成果 の 一 端 を お 披 露 目 した い と 思 っ て お り ま す。 本 日 は 色々な アプロ ーチ があ ります し、手 話言 語へ のアプ ローチ とい って も言語 学だけ では なく、 教育学 、福 祉の 面、言 語学の 中で も応 用言語 学など 色々 あり ます。 本日の お品 書きを見ますと非常にバラエティに富んだ内容になっております。

初めに、松岡研究員から本学における日本手話の教育実施状況報告、そして、下谷専 門技術員 によ ります 、 関学での 日本手 話履 修 生におけ る習得 プロ セ スといっ たよう に、

色々な 観点か らの 発表 をして いただ きま す。 その後 、平専 門技 術員 からは 、日本 手話

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と日本 語のバ イモ ーダ ルの言 語使用 、そ して 、川口 専門技 術員 から は、視 覚言語 モデ ルから のアプ ロー チに よる日 本手話 の分 析と いうこ とで、 こち らも 興味深 いアプ ロー チかと思います。

そ し て 最 後 に、 私 か ら 日 本手 話 の 文 末 指 さ し に 関す る 統 語 的 研 究 、 と いう バ リ エ ー ション 豊かな プロ グラ ムにな ってお りま すの で、皆 様のご 意見 、お 知恵を 拝借い ただ きまして、活発な議論ができればと思っております。

それでは、よろしくお願いします。

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【発表①】

「大学における日本手話教育実施による学生の手話認識の変化について(調査報告)」

松岡 克尚(関西学院大学人間福祉学部教授/手話言語研究センター研究員)

司会:川口 聖

〇松岡 皆様、こんにちは。松岡と申します。人間福祉学部で教員をしております。

私の専門はソーシャルワーク、障害学です。私の報告はたいした内容ではありません が、に もかか わら ずト ップバ ッター とい うこ とで大 変恐縮 に思 って おりま す。先 程の 今西先 生のご 挨拶 がと てもア カデミ ック で専 門的な お話で あっ ただ けに、 なおさ ら恐 縮な思いなのですが、どうかよろしくお願いいたします。

私からの報告はタイトルのとおりで、関西学院大学の学生を対象に、学生達が手話や 手話の 授業に つい てど ういう 認識を 持っ てい るかを 調べま した ので 、ご報 告をさ せて いただきたいと思います。

今回の調査目的を説明いたします。2004 年に本学において、手話についてどう思う かという調査が行われました。その後、2008 年に人間福祉学部で1年生、2年生を対 象とした言語科目という位置づけで日本手話が開講され、更に 2015 年からは本センタ ーが関 わって いる 手話 言語基 礎、手 話言 語学 専門と いう科 目も 開講 されて おり、 この ように本学においても手話の授業が本格的に展開されるようになってきました。

ご存知だと思いますが、最近は多くの自治体で手話言語条例を制定する動きが起こっ ています。前回調査の 2004 年はまだそういうものがなかった時期になります。したが って大 学でも 手話 の授 業が開 講され てお らず 、手話 に関す る知 識も 一般に はあま りな かった という 時代 です 。そう いうと きに 行わ れた調 査です ので 、そ の後に 今のよ うな 動きが あった こと を踏 まえて 、学生 の認 識が どう変 わった かを 明ら かにし てみた いと いうことで、2017年度に調査を行なった次第です。

実は昨年、中間報告という形で既に報告させていただいたのですが、本日は最終的に まとめ たもの を報 告し たいと 思って いま す。 なお、 この報 告を 原稿 にまと めたも のが こ の 3 月 半 ば に 人 間 福 祉 学 部 の 紀 要 に 掲 載 さ れ る 予 定 に な っ て お り ま す 。 今 回 は 、

2,375の回答を得ることができました。以下、この 2,375の回答うち有効回答に占める

割合をもとに説明させていただきます。

性別 は 女 性 が 6 割 で す 。学 年 は 1 年 生 、 2 年 生を 合 わ せ て 3 分 の 2 にな っ て お りま

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す。所属 学部 は人間 福 祉学部が 3割 を占め る 一方、神 学部 、商学 部 は各2人 、理 工学 部は0人 とか なり偏 り がありま す、 1年生 、 2年生が 3分 の2を 占 めている とい うこ とも含め て、偏 りのあ るサンプ ルとい うこと を前提に お聞き いただ ければと 思いま す。

まず、「これまで手話を学んだ経験がありますか」という質問について「ある」と答

えた人が 46%、前回の 2004 年の調査では 27.5%でしたので、手話を学んだ学生の比

率は増 えてい ます 。手 話は使 えるか どう かと いうこ とにつ いて は「 使える 」と回 答し

た人が19%、前回は11.7%でしたので、若干は増えていると言えそうです。

どの程度、使えるかということについて、「手話を学んだ経験がある」と答えた人に

「どの 程度、 使え るか 」と聞 いてみ まし た。 前回は 「少し だけ 使え る」と 答えた 人が 98.1% でし たの で、 今 回の結 果を 見る 限り は それほ ど変 わっ てい な いと考 えて おりま す。

それから、聴覚障害がある方との関わりですが、「今まで、関わったことがあるか」

という質問についての回答は、「昔あったし、今もある」、または、「昔はあったが、今 はない」「なかったが、最近になって関わるようになった」という3つを合わせて全体

の47%になっております。「一度もない」というのが 43.7%です。

ここには載っていませんが、関わった時期について自由回答で聞いてみました。その 結 果 、「 ど こ で 関 わ る よ う に な り ま し た か 」 と い う 質 問 に 「 大 学 で 関 わ る よ う に な っ た」という答えが 262 ありました。そのうち「日本手話の授業で初めて関わった」と いうのが 220 でした。ちなみに「小学校、中学校の授業で関わった」という回答が 70 でした ので、 聴覚 障害 の方と の関わ り、 ある いは、 それを 通し ての 手話、 ろう文 化に 触れて いく機 会と いう ものに は、大 学も 含め た学校 教育が 大き な位 置づけ を占め てい るのではないかなと思われます。

それから手話への興味ですが、「どれくらい興味を持っていますか」ということでは

「とて も興 味が ある」「 どちら かと いう と興 味 がある 」を 合わ せる と 42.7% 。前 回は 53.7%でしたので、前回に比べると減っています。

次に、人間福祉学部の1年生、2年生を対象に、言語科目として日本手話が開講され ていま すが、 それ につ いて「 知って いま すか 」と聞 いたと ころ 「知 ってい る」と 答え てくれたのは 52%でした。この結果に対して、「人間福祉学部生」か、「人間福祉学部 生以外 」かで クロ スを かけて みまし た。 人間 福祉学 部生で 「知 って いる」 と答え た人

が 94.5%、一方で人間福祉学部生であっても「知らない」と答えた人が5%いたのは

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残念な ところ です 。そ して、 人間福 祉学 部以 外の学 生で「 知っ てい た」と 答えた 人が 33.3% 、つ まり 3分 の 1とい うこ とで すの で 、人間 福祉 学部 の学 生 が知っ てい るのは 当然とはいえ、全学的に見るとほぼ半分程度の認知度ということになります。

人間福祉学部の手話の授業に限らず「もし、自分の学部で手話が開講されたら受講し たいか」 と聞いた とこ ろ、「是非 受講し たい」、「どちら かという と受 講したい」、これ を合わせると 43.8%です。言い換えれば、受講に意欲的と思われる層が 43.8%となり ました。

ちなみに、前回は「受講したいか」と聞いたときに「はい」と答えたのが 50.7%で したので、今回の 43.8%というのは減ってしまったと受け取られるかもしれません。

しかし、「既に受講済み」「今、受講している」と答えた人が合わせて6.1%いますので、

これらを足すと、前回とあまり変わらないことになります。

「人間福祉学部で日本手話の授業が開講されていることをどう思いますか」というこ とで自由回答をお願いしたところ、1,500近くの回答がありましたが、この中で注目し たいの は「手 話は 言語 だから 、言語 科目 とし て開講 するの は当 然だ 」とい う答え が多 かった という こと です 。これ は、手 話を 言語 として 認識し てい る、 あるい は言語 とし て開講 されて いる とい うこと への認 識が 広ま ってい ること を意 味し 、その ことは 喜ば しいことではないかなと思います。

リストの中には「関学らしくていい」とか「人間福祉学部らしくていい」というもの もあり ます。 つま り、 手話と 関学の ミッ ショ ンとを 絡ませ て評 価し ている 声もあ りま した。更に「社会貢献の意味がある」「社会的意義が高い」ということもそこに絡ませ ると、 手話に 対す る本 学の役 割とい うも のが 意識さ れ、ミ ッシ ョン や社会 貢献と 結び つけて学生が理解している傾向もあるのかなと推測されます。

もう一つ注目しておきたいのは「ろう者の助けになる」という回答です。日本手話の 言語科 目が開 講さ れる という ことは 、ろ うの 人たち のプラ スに なる という 答えが 多か ったの です。 ここ で皆 様に考 えてい ただ きた いのは 、これ から 大学 で英語 の科目 が開 講され るとい うと きに 、英語 を話す 人の ため になる からそ の授 業を 受けた いと思 うも のでし ょうか 。普 通、 言語科 目を選 択す る際 にはそ のよう には 思い ません ね。そ れに もかか わらず 、言 語科 目とし て日本 手話 を開 講して いると 認識 され る一方 で、自 分が 言語としての手話を学びたいということだけではなくて、「ろうの人たちのためになる から」と答えている学生がいるということには、注目しておきたいと思います。

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さて次に、本センターは 2016 年から「手話言語学基礎・専門」という授業を、3、

4年生対象に開講していますが、これらについて「知っていた」と答えた人は 17.3%

にとどまりました。それから「受講したいか」ということに関しては「是非とも」「ど ちらかというと」という人が、合わせて40.4%でした。

また、「手話言語条例についてどう思いますか」と聞きましたところ「知っていた」

という人は 8.7%で、「どう思うか」ということについては「いいと思う」と答えた人 は3分の 2で 、3分 の 1は「分 からな い」 と 答えてい ます。 手話 言 語条例に ついて は、

自由回 答で「 言語 を保 障する から、 いい こと だ」と いう答 えが 多く 出てい て、授 業を 通して こうい う理 解が できて きてい るの であ れば、 それは 喜ば しい ことで はない かな と思います。

更に、関西学院大学が、その単位をとれば手話通訳国家試験の受験資格が与えられる と い う プ ロ グ ラ ム を つ く る こ と に つ い て 「 ど う 思 い ま す か 」 と い う 質 問 に つ い て は

「良いと思う」と答えた人が7割でした。それから、「ろうの学生が授業での要約筆記 で合理 的配慮 を受 けて います が、手 話通 訳を 配置す ること につ いて どう思 います か」

という 質問 につ いて は 、52.9%が 「い いと 思 う」と 答え てい ます 。 ただ、 両方 の質問 ともに 「分か らな い」 という 答えが 多か った ことも 覚えて おい てい ただけ ればと 思い ます。

ところで「合理的配慮として、手話通訳を提供することをどう思いますか」というこ とでは 、否定 的な 意見 も出て きまし たの で、 そこを 取り上 げた いと 思いま す。な ぜ、

合理的配慮として手話通訳を提供することに否定的なのか、その理由として、「要約筆 記があるからいい」とか「お金がかかるから」、あるいは「音声変換技術があるから、

そちら でいい ので はな いか」 という 答え が上 がって います 。ま た「 大学で 、そこ まで やるべ きか」 とい う声 もあり ました 。先 にミ ッショ ンとの 関連 で手 話が受 け入れ られ ている ことを 述べ まし たが、 ここで はむ しろ リアル な現実 主義 的な 思考が 否定的 な背 景に存在している様子です。

ここまでを受けて、次に考察に入りたいと思います。全体を通してのまとめというこ とでは 、学ん だ学 生の 割合は 増えて いる 。手 話を使 えると 回答 した 割合も やや増 えて いる。 しかし 、手 話へ の興味 という 意味 では 減って おり、 受講 意欲 につい ては大 きな 違いは ありま せん でし た。ま た、手 話の 授業 開講に は全体 的に 好意 的な意 見が増 えて います。

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先程の自由回答のところを見ていただくとお分かりいただけますように、手話は言語 であると いう 認識が 広 まってい るとこ ろは 認 識できそ うです し、 言 語的な多 様性と か、

共生と いうと ころ が、 これら は手話 を開 講す ること につい ての 先行 研究で 指摘さ れて いる効 果なの です が、 そうい った点 も自 由回 答で上 がって おり ます し、大 学の授 業を 通して 聴覚障 害の 人と 初めて 触れ合 った とい う学生 もいる こと を考 えると 、そう いう ところにも大学で手話を学ぶという意味があるのではないかと考えています。

ただ残念ながら、実際に興味があるとか、受講意欲があるかということに関しては前 回の調 査とは それ 程変 わって いない とい う結 果で、 4割程 度の 数字 でした 。潜在 的に は、それぐらいの割合がベースかととらえることができると思います。

今回の調査に限って言うと、日本手話、手話言語学基礎・専門、手話言語条例、手話 通訳士 養成プ ログ ラム 、合理 的配慮 とし ての 手話通 訳、こ れら につ いては いずれ とも に肯定的な反応が多かったです。しかし「分からない」「どちらともいえない」という 答えも 結構多 かっ たの で、全 体的に 学生 はこ ういう 質問を され ると 、是非 の判断 に迷 うこと が多い とい うこ とを意 味して いま す。 つまり 言い換 える と、 判断の 情報が 足り ないと いうこ と、 情報 不足と いうと ころ があ るのか なと思 いま す。 更に言 えば、 下手 をする とこう いう 学生 は情報 次第で ネガ ティ ブな方 向に変 わっ てい く可能 性もあ り得 ると考 えられ ます ので 、これ からの 手話 教育 に関す る情報 戦略 をし っかり 考えな いと いけないのではないかと思わされた次第です。

最後に、今後の取り組みのポイントとなるところを申し上げたいと思います。

特に自由回答を見るとよく分かるのですが、本学のミッションと手話教育を結びつけ ている 人たち が結 構い ました 。もう 一つ 特徴 的なの は、手 話の 開講 はろう 者のた めに なると いう答 えも 見ら れまし た。こ れは 純粋 に言語 を学ぶ 機会 にな るとい うより は、

ここで はパタ ーナ リズ ムとい う言葉 を使 わせ ていた だきま した が、 聞こえ る者が 聞こ えない 人のた めに 「何 とかし てあげ よう 」と いう恩 恵的な 思い がこ こに表 れてい るの ではな いかと も解 釈で きます 。これ ら2 つの 流れを 合わせ て考 える と、つ まり、 ミッ ション とパタ ーナ リズ ムがス パイラ ルな 関係 を構築 してお り、 それ らがら せん状 に働 くこと で結果 的に 本学 では手 話が知 られ るよ うにな ってい ると いう 理解も できる ので はない かと思 いま す。 パター ナリズ ムと いう のは「 何とか して あげ よう」 という 思い を指しているのですが、この思いの逆にあるのは「どうしてそこまでするのか」「その コスト はどう する のか 」とい うリア リス ト的 な思考 がある と思 いま す。そ のよう に考

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え れ ば 、 ミ ッ シ ョ ン 意 識 と パ タ ー ナ リ ズ ム で あ る と い う こ と は 、 そ れ ら の 反 対 に は

「大学は、どうしてそこまでするのか」「人材の確保やコストはどうするのか」という 現実意 識が常 に存 在し ている ことも 覚え てお かない といけ ない ので はない かと思 いま す。

逆 に 言 う と 「 大 学 は 、 ど う し て そ こ ま で す る の か 」 と い う 意 識 に 対 抗 す る た め には

「私た ちには この よう なミッ ション があ るか ら」と いうミ ッシ ョン 意識と くっつ くこ とによ って、 先の 現実 意識を 抑えて いけ ると いう解 釈もで きる かと 思いま す。も ちろ んパタ ーナリ ズム とい うと否 定的な とら え方 がされ るかも しれ ませ んが、 手話へ の入 口は広く ても いい、 結 果的にす そ野が 広が っ ていけば いいと いう 理 解もでき ますの で、

パター ナリズ ムが 一概 に悪い わけで はな いと 思いま す。で すか ら、 ミッシ ョンと それ をうま くつな げる こと で手話 を広げ てい く可 能性は 広がっ てい くで はない かと思 いま す。

冒頭に申し上げましたように、今回はサンプリングの問題もあって、回答者に偏りが あるこ とが課 題と して 残りま したの で、 次回 に調査 すると きは サン プリン グをし っか りしな いとい けな いと 思いま す。そ れか ら、 こうい う調査 を定 期的 に行な って、 時系 列的な変化を見ていくことも必要ではないかと思っています。私の報告は以上です。

ご協力いただきました先生方と学生の皆様には、改めてお礼を申し上げたいと思いま す。ご清聴ありがとうございました。

〇川口 松岡先生、ありがとうございました。

ただ今の発表に関して何か質問はございますでしょうか。

〇質問者 発表ありがとうございました。

学生の認識について調査をされたということですが、手話を単語程度で使える人が多 数を占めている一方で、通訳者の養成も必要だという回答が 70%近くあるわけですが、

現状で 学生が 習得 して いる手 話のレ ベル を考 えたと きに、 そこ には 大きな 乖離が ある と思わ れます 。そ の差 をどの ように 埋め てい くか、 大学と して の案 がござ いまし たら お聞かせください。

もう一つ、例えば、英語を学ぶ人は「英語話者のために役立ちたい」という思いはな く英語 を学ぶ と思 いま す。一 方、手 話で は、 先程の ように 「ろ う者 を助け たい」 とい う思い がある とい う、 その辺 の認知 は学 生だ けでは なくて 、社 会に 大きく 関連す るこ とかと 思うの です 。そ の辺も 含めて 先生 のお 考え、 また大 学と して 今度ど のよう な取

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組みをさ れて いくの か を教えて いただ きた い と思いま す。よ ろし く お願いい たしま す。

〇松岡 ご質問ありがとうございます。

どこまでご質問に対する答えになるか分かりませんが、私の理解では、ご質問は、手 話を学ん でも スキル が 身につい ていけ ない の ではない かとい うこ と かと思う のです が、

そういう理解でよろしいですか。

仮に通訳士の養成コースができたとして、学生は授業の存在を知っているし、それを 受講し たいと 思っ たと しても 、実際 には 使え るレベ ルまで に達 して いない 、手話 通訳 士のコ ースが でき ても 皆は肯 定的に とら えて いるけ れども 、ス キル が追い ついて いけ ないのでは、というご質問でよろしいですか。

これは大学としてではなくて私個人の答えになりますが、手話を学びたいという理由 は様々 だと思 うの です 。純粋 に会話 能力 を高 めたい という 学生 もい れば、 ろうの 方と 関わっ ていき たい とか 、文化 を知る こと で満 足する 学生も いる し、 とりあ えず手 話の 世界に 触れて みる だけ で十分 だとい う学 生も います 。中に は、 もっ ともっ と手話 のレ ベルを高 めて 、将来 は 通訳がで きるま でに な りたいと いう学 生も い ると思い ますの で、

それら様 々で ある全 員 のニーズ を一度 に満 た すのは難 しいの では な いかなと 思いま す。

どうしても、それらのニーズの中でどこに重きを置くかということになってくるのでは ないか なと思 うの です が、私 個人と して は、 まずは 手話を 知っ ても らいた い、手 話の 世界に 触れて もら いた い、そ こを第 一に 重き を置く ことを 考え たい と思い ますし 、結 果的に それで スキ ルが 身につ いてい けば いい し、あ るいは たっ た2 年では スキル は身 につか ないと 思い ます ので、 次のス テッ プを 考えて いくこ とも 、こ れから の課題 とし て考えていかなければいけないのではないかと思います。

よろしいでしょうか。

〇川口 他にご質問はございますでしょうか。

〇質問者 非常に興味深い調査結果をありがとうございます。小、中学校時代にろう者と 関わったことのある方が 70%とありましたが、非常に興味深いなと思いました。なぜ なら私 自身、 小、 中と ろう学 校には 通っ てお らず、 手話と いう もの を知ら ないま ま育 ったか らです 。今 は、 小、中 学生で も手 話と 関わる 方が以 前に 比べ て増え てきて いる と思い ます。70% とい うと、 ほとん どの 方が ろう者 と出会 い、 手話 に触れ るきっ かけ を持てるわけです。

これから手話言語条例などをきっかけに、小学校から手話に触れる機会が社会で増え

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ていくと想像しますが、実際に手話言語条例というものを知っている人の数字が7.1%

という ことで 、手 話へ の理解 も社会 に広 まっ ていな いこと も証 明さ れたと 思いま す。

とても興味深く聞かせていただきましたので、今後も10年、20 年と継続して調査をし ていただければと思います。

もう一つは、合理的配慮について理解する以前に、障害者差別解消法を知っているか どうかという調査もされたのかどうか教えていただきたいです。

〇松岡 ご質問ありがとうございました。

差別解消法に関しては、今回の調査ではデータをとっておりません。ただ、参考にな るかど うかわ かり ませ んが、 本学で は差 別解 消法に 基づい て、 障害 のある 学生さ んた ちを支 援する 部署 とし て、総 合支援 セン ター ・キャ ンパス 自立 支援 室があ ります 。本 日の要約筆記の学生も、そこを通して来ていただいています。

「障害と人権」という科目があるのですが、その授業に出ている学生に対して「キャ ンパス自 立支 援室の こ とを知っ ていま すか ? 」と聞く と、誰 も手 を 上げませ んでし た。

ですか ら、直 接、 差別 解消法 を知っ てい るか と聞い たわけ では ない のです が、こ の法 律に基 づく部 署が 関学 にある ことも 知ら ない し、そ の部署 が合 理的 配慮を 提供し てい ることも知らなかったということです。

もちろん、その授業だけの話ですので、一般化するのは難しいと思いますが、残念な がら、 おそら く一 般の 学生の 認識は その レベ ルでは ないか と思 って います 。差別 解消 法もそ うです し、 手話 言語条 例もそ うな ので すが、 根本に は情 報不 足とい うのが ある のでは ないか なと 思い ます。 この情 報不 足を いかに 埋めて いく かと いうこ とがこ れか らの課 題では ない かな と思っ ていま す。 ただ リスク もあり 、情 報の 伝え方 や中身 を間 違えるとネガティブな反応が強くなることを少し心配しています。

ありがとうございました。

〇川口 それではお時間になりました。松岡先生、ありがとうございました。

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【発表②】

「関西学院大学『日本手話』」履修生における日本手話習得プロセス」

下谷 奈津子(関西学院大学手話言語研究センター専門技術員)

司会:川口 聖

〇下谷 皆様、こんにちは。下谷と申します。先程、松岡先生から関西学院大学での日本 手話の 授業に 関し ての 調査報 告があ りま した が、私 の研究 テー マは 、その 中で、 人間 福祉学 部で日 本手 話を 実際に 履修し てい る学 生の皆 様がど のよ うに 日本手 話を習 得し ているのか、その習得プロセスについてです。

このテーマを選んだのは、私自身も大学生と同じ年齢の頃、手話を勉強し始めたので すが、 当時、 大学 で手 話を勉 強でき る環 境が ありま せんで した ので 、今の 学生は どの ように勉強しているのかなということに興味を持ったからです。

まず初めに、第二言語習得と指導の関係の話からさせていただきます。白畑(2010)

から図を引用させていただき説明いたします。

教室で行われる指導というのは、まず学習者が取り入れるインプット、次にインタラ クショ ン、そ して アウ トプッ トの3 項目 に働 きかけ ること によ り言 葉を習 得して いく ことになります。

そのために様々な指導をしなければならないのですが、まず文法や語彙の指導、これ は明示的な指導や暗示的な指導の両方があります。

また、コミュニケーション・ストラテジー指導というものもありまして、これは社会 的・文 化的に 見て 適切 に言語 を使用 でき るか どうか 、とい うス キル を伸ば す指導 にな ります。

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第二言語を学習する人というのは、その習得過程において、学習者の母語の性質とも 違う、また、学習しようとする第二言語の体系とも異なる、「中間言語」というものを 持っていると、セリンカーという研究者は述べています。

手話で言いますと、日本語の体系でもなく、学習しようとしている日本手話の体系で もない、 その 中間言 語 というも のが学 習者 に はあって 、イン プッ ト されるこ とによ り、

その中 間言語 シス テム の中で 新たな 言語 知識 が加わ り、シ ステ ムが 再構築 される と言 われてい ます 。これ は 例えば、 生活の 中で 自 然に言語 を習得 する と いう環境 とは違 い、

教室活動の中で習得していくシステムとなっています。

で は 、 研 究 の 背 景 に つ い て お 話 し ま す 。1960年 代 に 手 話 が 言 語 で あ る こ と が 科 学 的 に証明 されて から 、手 話言語 研究は 盛ん にな ってい きまし た。 それ に伴い 、手話 を第 二言語 として 習得 する 学習者 にも焦 点が 当て られる ように なり まし た。こ の第二 言語 教育と しての 手話 に関 しての 経緯は 、市 田・ 木村(1998)で詳 しく 紹介さ れてい ます 。 松岡(2018)の調査によりますと、2018年度の時点で、日本手話を全学部、全専攻対

象の言語 科目 として 開 講してい る大学 とし て 7校の名 前が挙 げら れ ています 。そし て、

その中 から開 講ま での 経緯や カリキ ュラ ム、 実践な どにつ いて の報 告が幾 つかさ れて います。

ま ず 、 御 茶 の 水 女 子 大 学 で は 、2011年 度 に 手 話 学 入 門 と い う 授 業 が 開 講 さ れ 、 小 谷

(2011)に より 報告 さ れてい ます 。手 話、 空 書、ジ ェス チャ ーな ど 、様々 なス トラテ ジーを用いてろう者とコミュニケーションを取れるようになった様子が分かります。

慶応義塾大学では2015年度に日本手話の授業が開講され、松岡ら(2018)がカリキュ ラムや クラス 運営 など ににつ いて報 告を して います 。学生 が手 話と いうも のは日 本語 とは独 立した 、異 なる 言語だ という 認識 をも って学 習に臨 んで いる ことが 分かり まし た。一 方で、 手話 が持 つ「同 時性」 とい う特 性の習 得が決 して 容易 ではな いとい うこ とも述べられています。

立教大学では、2010年度から日本手話の授業が開講されていまして、細野(2018)は、

主に日 本手話 の授 業を 履修し た後の 、学 生の 感想を 中心に 報告 して います 。それ を見 ると、「レベルが上がるにつれて読み取りができるようになった」や「講師の手話がわ かるようになった」「表情豊かに表現できるようになった」という報告がされています。

以上のことから、学生の手話力がアップしたことや、ろう者に対する意識が変わった ことは 確認で きま すが 、いず れも、 講師 とど のよう にイン タラ クシ ョンを 行なっ てい

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るのか 、どの よう なエ ラーを 表出し てい るの か、ま た、ど のよ うな 学習ス トラテ ジー を持って手話を習得していくのかということについては鮮明に記述されていません。

成 人 聴 者 の 手 話 学 習 の プ ロ セ ス を 細 か く 記 述 し た 報 告 は あ ま り 見 当 た り ま せ ん でし たが、 日本手 話を 第一 言語と しない 、聴 覚障 害児の 手話習 学習 程を 記述し たもの に鳥 越・前 川(2017)が あ ります 。こ ちら には 講 師・生 徒間 、ま たは 生 徒同士 の細 かいエ ピソー ドが紹 介さ れて います 。1年 間の 指導 を通し て、例 えば 、音 声や聴 覚中心 のコ ミュニ ケーシ ョン だっ たのが 、視覚 、ま た手 を使っ たコミ ュニ ケー ション 中心に 変わ っていっ たこ と、身 振 りがだん だん減 って い ったこと 、以前 は空 書 を用いて いたの が、

指文字 を使う よう にな ったこ と、ま た、 単な る受け 答えだ けで はな くて、 話題に 拡張 が見られたことなど、様々な発達過程の様子が報告されています。

ただ、こちらは調査対象者が小学生ですので、成人聴者とは母語自体の発達状況や、

メタ言 語能力 とい う面 で、習 得過程 にか なり 違いが 出てく るの では ないか と考え てい ます。

そこで本研究のリサーチ・クエスチョンを、「成人聴者はクラスルームという学習環 境でど のよう に日 本手 話を習 得して いく のか 」とし ました 。こ れま で音を 介して 情報 を得、 口から 音声 を発 してコ ミュニ ケー ショ ンを取 ってい た聴 者が 、いき なり目 で言 語をキ ャッチ して 、手 と体を 使って コミ ュニ ケーシ ョンを 取る 世界 にほう り込ま れる わけで す。そ のよ うな 環境下 でどの よう なス トラテ ジーを 用い て、 ろう者 とコミ ュニ ケーションをし、手話を習得していくのかを中心に見ていきました。

研究方法についてです。対象者は関西学院大学人間福祉学部「日本手話Ⅰ~Ⅳ」を2 年間履修 した 学生15名 です。本 学の日 本手 話 の授業は 週2回 あり ま して、1 回が実 技、

1回が 講義と なっ てい ます。 講義は 「手 話Ⅰ 」で手 話やろ う社 会に まつわ る様々 なト ピックを取り上げた概論、「手話Ⅱ~Ⅳ」では、視覚教材を用いての読解授業が行われ ていると聞いています。今回は、実技の授業の調査をいたしました。

基本的に1クラス15名という構成ですが、時々、合同で30名になることもありました。

授業の 邪魔に なら ない ように 、ビデ オカ メラ を前方 と後方 に1 台ず つ設置 し、講 師と 学生 の両 方を 撮影 しま した 。収 録時 期は2017年4 月か ら2018年11月 まで 、収 録し た授 業は計33回、収録時間は、1回が90分授業ですので、計49.5時間です。

撮影した動画の中から、講師と学生のインタラクション、または学生同士の会話練習 の様 子を 中心 に記 述し まし た。 その 後、 関口 (2007) およ び鳥 越・ 前川 (2017) を参

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考に、 オープ ンコ ード 法を用 いて、 質的 に分 析をし ました 。そ の中 から、 本日は 「コ ミュニケ ーシ ョン・ ス トラテジ ー」「 否定を あ らわす表 現」「 会話の 広 がり」の 3つの カテゴリーの習得状況を報告いたします。

そ の前 に ま ず 、 講 師 の 指 導ス ト ラ テ ジ ー を 紹 介 いた し ま す と 、 ろ う 講 師2 名 と も に、

ナチュ ラル・ アプ ロー チ教授 法を基 本と した 指導を 行って いま した 。これ は、幼 児の 母語習得過程を参考にした、インプットを優先にした教授法です。

講師があらわす手話のスピードはごく自然で、また、音声日本語の介入は一切ありま せんで した。 視覚 教材 として は、手 話Ⅰ 、Ⅱ の講師 は主に 板書 、手 話Ⅲ、 Ⅳの講 師は パワー ポイン トと 絵カ ードを 用いて いま した 。テキ ストは 使わ ず、 主にイ ンタラ クシ ョンを中心に授業が行われていました。

更 に 、 言 語 指 導 だ け で は な く 、 例 え ば 肩 を た た い て 人 を 呼 ぶ 方 法 や 、 目 線 を 合 わせ ること の大切 さな ど、 ろう文 化やろ う者 と接 すると きのマ ナー に関 する指 導も時 々入 れていました。

そのような中、学習者はどのようなストラテジーを使って手話を習得しているのかを 見てい きまし たが 、言 語がま ったく 違う 、聞 こえな い講師 が突 然教 室に入 って来 て、

手話で 授業を 始め るわ けです から、 最初 は自 分たち の母語 であ る日 本語が 使えな いと いうこ とで、 かな り戸 惑った 様子が 観察 でき ました し、講 師が 出す 手話を そのま ま、

まねを してい る学 生が ほとん どでし た。 です が、授 業回を 重ね てい くごと に、講 師に 対して 手話を 表出 し、 講師の 反応を 見る よう な行動 が見ら れま した 。また 、スラ イド に「メ タ言語 能力 の活 用、既 習の知 識か らの 類推」 と書い てい ます けれど も、こ れま での経 験から 、自 身が 持って いる知 識を 分析 し、確 認しな がら 表出 してい る様子 が観 察できました。例えば、日本手話の /なるほど/ と/黄色/ は非常によくにていますね

(/ / は手 話ラベ ルの意)。あ る授業で 、/なるほど/ という手 話 が出てきた とき に、あ る学生 が、 おそ らく「 黄色と いう 手話 を前に 習った な、 ちょ っと似 ている な」

と思ったのでしょうか、/なるほど/ と /黄色/ を、独り言のように何度も繰り返して いました。

一方で、既習事項がネガティブに作用した例もありまして、例えば、数字の表現を学 習した とき に、/10、20、30/ など のよ うに 、 一の位 が「0」に なる と きは、 手首 を左 右に小 刻みに 振る ルー ルを習 いまし た。 講師 は指導 法の特 性上 、そ のよう なルー ルを 明示的 に説明 する こと は基本 的にし ませ んの で、中 には「10以 上は 手首を 振る」 と、

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自分な りのル ール を作 り上げ た学生 がい たよ うです 。後の 授業 で /11分/ と いう 表現 を講師に伝える際、/10/ のところで手首を振る動きを付け、それから /1/ /分/ と 表出した学生が複数いました。

そ の よ う な 、 様 々 な 学 習 ス ト ラ テ ジ ー を 用 い て 、 日 本 手 話 と い う 言 語 を 学 ん で いる 様子が観察されました。

では、分析対象としましたカテゴリーのうち、まずは「コミュニケーション・ストラ テジー 」につ いて の結 果です 。まず 手話 語彙 が分か らない とき 、学 生は様 々な方 法を 用いて 講師に 伝え よう として いまし た。 板書 、空書 、口パ ク、 他の 学生に 聞く、 など がその例 です 。他に も 、例えば /グレ ー/ と いう手話 を忘れ てし ま ったので 、代わ り に自分の服のグレーの部分を指す方法を取った学生もいましたし、/京都/ という手話 を忘れて、五重塔を身振りで一生懸命、表現してみたりする学生もいました。

学 習 が 進む に つ れ て 、例 え ば 、 /主 婦/ と いう 手 話 が分 か ら な く て、/家/ /料 理/ という手話に置き換えることで、「主婦」の概念を伝えようとする学生も出てきました。

また、「手話Ⅰ」の最初の頃は日本語の語彙を口パクで発していたのが、授業が進むに つれて 、まだ 身振 りで はあり ますが 、口 と一 緒に何 かしら 手も 動く ように なって きま した。例えば、「スーツケース」「手紙」「本」など、基本的に四角い形をしたものはほ ぼ、人差 し指 で四角 い 輪郭を作 る程度 でし た が、手の 動きが 伴う よ うになっ たこと も、

何かしらの習得が促されたのではないかと思います。

「手話Ⅲ」では、指文字も出てくるようになりました。そして、これまでは、何らか のスト ラテジ ーを 用い て、相 手に概 念が 伝わ れば、 それで 目的 が達 成され ていた ので すが、「手話Ⅲ」の後半になってくると、それに加え、手話の表現そのものを聞きたい という 気持ち が芽 生え てきた かなと いう 事例 が幾つ かあり まし た。 それを 一つ紹 介し たいと思います。

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(T:講師 S1:学生1 S2:学生2)

「アルバイト」をテーマとした授業が行なわれていたときに、「シフト制」の手話表 現が分 からな くて 、講 師に聞 くとい う場 面で す。ま ず、S 1が 講師 を手招 きで呼 びま して、 シフト の「 シ」 を指文 字で表 すの です が、そ の次の 「フ 」が 出てこ なくて 、う

~ ん と 考 え て い ま す 。 そ れ を 見 て 講 師 が 推 測 し た ん で し ょ う ね 。/時 間? /休 み/ /選 ぶ?/ (日本語訳:時間のこと?休みを選ぶってことかな?) と学生に聞きました。

すると、S2が、講師に正しく伝わっているかどうかが判断できないため、別の方法 で 伝 え よ う と 、/間/ の よ う な 手 話 を 繰 り 返 し ま す 。 そ れ を 見 た 講 師 が /1 週 間 ?/

(日本 語訳: 1週 間っ てこと ?)と 聞き 直し ます。 どうや ら正 しく 伝わっ ていな いと 判断し たS2 は少 し考 え、手 型も変 えな がら 空間を 利用し て伝 えよ うとし ます。 そう すると講師が 「ああ 、」 と、理解した ようにう なずき、/希望/ /希望/ /選ぶ/ /で きる?/(日本 語訳 :希 望を選 べると いう こと ?)と 確認し ます 。最 後にS 1がS 2の 表現を真似てから、日本語の口型と一緒に、/固定/ /違う/ と表現しました。そこで よ う や く 講 師 に 「 シ フ ト 制 」 の 概 念 が 伝 わ り 、「/固 定/ /違 う/ /バ ラ バ ラ/ /自 由/ /選ぶ/ /でき る/ 」、 と「シフト 制」にあ た る手話表現 を指導す る 場面があり ました 。 こ の よ う に 、 手 話 の 語 彙 そ の も の を 聞 く 様 子 は 、 特 に 2 年 目 の 「 手 話 Ⅲ 」 か ら 観察

されるようになってきました。

続いて、2つ目のカテゴリー、「否定をあらわす表現」です。日本語の否定表現は、

語尾に 「な い」 を付 け るのが 代表 的で すが 、 日本手 話で は、 松岡 (2015) によ ります と、否 定に関 する 表現 は8種 類ぐら いあ るこ とがわ かって いま す。 その中 から本 日は

/NEG-1(ない)/ 、これは両手の5手型をひらひらさせる「ない」、/NEG-3(違う)

/、そして/不要/ の3つを主に紹介します。

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「手話Ⅳ」の授業は四コマ漫画や無声動画を扱う内容が多く、否定表現を使う場面が ほとんど見られなかったため、「手話Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」を段階的に追いました。

ま ず 、/NEG-1/ は 、「 日 本 手 話 Ⅰ 」 の 2 回 目 で 講 師 が 明 示 的 に 導 入 を し た の で 、 学 生 も 毎 回 使 う 機 会 が あ り ま し た 。 名 詞 や 動 詞 の 後 に /NEG-1/ が 来 る 、 単 文 の よ う な ものが主でした。ただし誤用も見られまして、例えば、「分からない」と伝えたいとき や、「違う」と言いたいときにも、この /NEG-1/ を多用することが多かったです。

お そ ら く 、 こ の 時 点 で は ま だ 、 /NEG-3 ( 違 う )/ が 明 示 的 に 指 導 さ れ て い な い の で、/NEG-1/ を代用していた可能性が考えられます。

また、この当時はジェスチャーもたくさん見られました。例えば、日本人の聴者でも、

申し出 を断る とき や遠 慮する ときに 、手 を顔 の前で 振るよ うな ジェ スチャ ーをす る人

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が多 いと 思い ます が、 その ジェ スチ ャー をし たり 、他 には 両人 差し 指で 「×」 の形を 作って 表した り、 欧米 でよく 見られ る、 人差 し指を 左右に 揺ら すよ うな表 現など 、否 定の意味を伝える必要が出た状況下で、様々な方法を用いていました。

「 日 本 手 話 Ⅱ 」 に な り ま す と 、 複 文 の 中 で /NEG-1/ が 出 る よ う に な っ て い き ま し た。その例を紹介したいと思います。

「日本手話Ⅰ」では、

上記のような単文が多く見られましたが、「日本手話Ⅱ」では、例えば講師から、お 菓子は毎日食べるかどうか聞かれた学生が、

と表現したり、クリスマスにどこへ行きたいかを決める練習をしていて、ペアの学生 から、「神戸はどうですか」と聞かれた学生が

と表現しており、複文で表現ができるようになっていきました。

同時期に、誤用も出始めました。/NEG-3(違う)/ や /不要/ に該当する部分に、

/NEG-1/ を代用する現象が観察されました。この段階ではまだ /NEG-3(違う)/ や

/不要/ という手話がまだ明示的に導入されていないので、おそらく /NEG-1/ で済ま

せてい たのか なと いう 推測が できる ので すが 、実は 誤用と とも に、 先程紹 介した よう なジェ スチャ ーの 使用 頻度が どんど ん減 って きたの です。 ジェ スチ ャーは 手話で はな

S: /PT-1(私)/ /家/ /晩ごはん/ /食べる/ /NEG-1/(私は家で晩ごはん を食べない。) (日本手話I:2017.5.28)

/陸上/ /試合/ /NEG-1/ /食べる/(陸上の試合がないときは食べます。)

(日本手話Ⅱ:2017.5.28)

/免許/ /NEG-1/ /歩く/ /大変/ /寒い/ (免許持ってないから歩くの大 変。寒いし。) (日本手話Ⅱ:2017.11.21)

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いので 「誤用 」と は見 なして いませ ん。 です ので、 たとえ 誤用 であ っても 、ジェ スチ ャーが 減り、 手話 とい う「言 語」を 用い て伝 えよう として いる 様子 は大変 興味深 かっ たです。

「日 本手話 Ⅱ」の 後半部分 で、ク リスマ スに欲し いプレ ゼント を当てる ゲーム があ り、そ こで /NEG-3/ が講師 より 明示 的に導 入され 、学 生に 使い方 が定着 した 様子 が 見られました。更に驚いたことに、同時期に、実技の授業では扱っていない /NEG-3/

を用いた手話の構文が複数の学生から観察されるようになりました。

講義の担当講師に伺うと、講義の読解授業の際、手話動画の中に /NEG-3/ を用いた 手話の 構文が 出て きた ので、 解説を した との ことで した。 つま り、 講義の 授業で 得た 既有知識が実技の授業で活かされたと考えられます。

「日本手話Ⅲ」になってくると、/NEG-1/ /NEG-3/ /不要/ の使い分けに迷いが 生じ、 複数の 表現 を交 互に表 す学生 が複 数見 られま した。 その 様子 を理解 してか 、講 師がペ ア練習 やイ ンタ ラクシ ョンの 際に 、明 示的に 使い分 けの 指導 や訂正 を行っ てお り 、 ま た 、「 日 本 手 話 Ⅳ 」 の 後 半 に 、「 否 定 表 現 」 と い う ト ピ ッ ク を 取 り 上 げ 、 松 岡

(2015)で 示さ れて い る8種 類の 否定 表現 を 紹介し 、学 生に 例文 を 作らせ なが ら定着 を図っていました。

最後に、「会話の広がり」について紹介します。1年目の「日本手話Ⅰ」と、2年目 の「日本手話Ⅲ」で、「デートゲーム」というアクティビティがありました。これは、

学生が 曜日の 入っ た用 紙を渡 され、 クラ スメ ートと 会話を しな がら 、毎日 、違う 人と 違った 内容の デー トを 決めて いくと いう もの です。 全く同 じゲ ーム を異な る時期 に収

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録できたおかげで、学生同士の会話の運び方を比較することができました。

まず、「日本手話Ⅰ」の段階では、

このようなシンプルな会話でした。ですが、1年後の「日本手話Ⅲ」では、会話に 広がりが出ているのが分かります。

ただ単純に内容を決めるだけでなく、車の免許を持っているかどうかの確認をし、相 手が持っ てい ること を 確認した うえで 、提 案 をすると いうや り取 り が観察さ れまし た。

まとめです。

今 回 、 初 の 試 み と し て 、 関 西 学 院 大 学 「 日 本 手 話 」 履 修 生 の 2 年 間 の 手 話 学 習 過程 を観察 、記述 し、 学生 がどの ような スト ラテ ジーを 用いて 、ろ うの 講師や クラス メー トとやり 取り を交わ し ながら、 日本手 話を 習 得してい くのか を見 る ことがで きまし た。

本日は「 コミュニ ケー ション・ ストラテ ジー」、「否定を あらわ す表現 」、「会話の 広が S1: /木曜日/ /空いている?/ (木曜日、空いてる?)

S2: (うなずき) (空いてる。)

S1: /映画?/(映画はどう?)

S2: /OK/ (OK)

(日本手話I:2017.5.9)

S1: /土曜日/ /空いている?/ (土曜日、空いてる?)

S2: (うなずき)/空いている/ (空いてるよ。)

S1: /する/ /何?/(何しようか。)

S2: (首をかしげる) /車/ /免許/ /ある?/ (車の免許 持ってる?)

S1: /ある/ (持ってるよ。)

S2: /ドライブ?/ (ドライブはどう?)

S1: /OK/ (OK)

(日本手話Ⅲ:2018.4.30)

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り」の 習得に つい ての 段階別 な発達 を紹 介い たしま した。 また 、講 義で行 なわれ てい る読解 の授業 で学 んだ ことが 、実技 の授 業に 活かさ れてい るこ とも 、デー タから 確認 することができました。

今 後 は 、 例 え ば 、 手 話 が 持 つ 同 時 性 の 習 得 プ ロ セ ス な ど 、 他 の 要 素 も 見 て い き たい と思っています。

更 に 、 日 本 手 話 を 第 一 言 語 と す る ろ う 児 の 日 本 手 話 獲 得 過 程 と の 比 較 も し た い と思 っています。

以上で報告を終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

〇川口 では、質疑応答に入ります。

〇質問者 ご講演、ありがとうございました。メタ言語ということで、過去に学習したも のを踏 まえて 、今 、学 習をさ らに積 み重 ねる という ことだ った と思 うので すが、 デー タを分 析され てい くな かで、 メタ認 知能 力の 高い学 生が共 通し て持 ってい るもの につ いて、気づきがあれば教えていただきたいです。

〇下谷 ご質問ありがとうございます。

メ タ 認 知 力 が 高 い 学 生 に 見 ら れ た 共 通 点 が あ っ た か ど う か 、 と い う こ と で す ね 。お 答えに なるか どう か分 かりま せんが 、講 師の 発話を 真似す る学 生は 、一生 懸命、 自分 の中に それを 取り 込ん で、そ の後、 隣の 学生 と確認 しあっ たり 、語 彙を一 緒に練 習す るとい う姿は よく 見ら れまし た。そ れも 「メ タ言語 能力が 高か った 」と言 えるの でし ょうかね。

そのような学生は、他の学生と比べて発話もたくさんありましたし、先程の /NEG-3

(違う )とい う手 話の 習得に ついて も、 講師 がまだ 明示的 に指 導や 訂正を してい ない

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段階で 真似を して いく 様子は 観察で きて いま した。 それが 結果 につ ながっ たのか 、そ のような学生は、/NEG-1/ と、 /NEG-3/ を「日本手話Ⅰ」の時点から使い分けて表 出していました。

そ れ を 見 て い る と 、 講 師 の 真 似 を し た り 、 自 分 か ら ジ ェ ス チ ャ ー を 使 っ て み た り、

色々な表現をしながら講師の反応を見て、「あれ、違うのかな」と思ったら訂正する、

という様子が見てとれたかなと思います。お答えになっていますでしょうか。

〇川口 ご質問ありがとうございます。

時間になりましたので、下谷さんの発表はこれで終了させていただきます。ありがと うございました。

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【発表③】

「日本手話と日本語のバイモーダル児の言語使用について」

平 英司(関西学院大学手話言語研究センター専門技術員)

司会:川口 聖

〇平 よろしくお願いいたします。

本日は「日本手話と日本語のバイモーダル児の言語使用について~量的な分析によ るモデリング仮説の検証~」というタイトルで発表いたします。

まず、はじめにこの研究の対象となるバイモーダル児についてご説明します。聞こ える親のもとにろう児が生まれた場合、そして親がろう児を手話で育てようと考えた 場合、その家庭では日本語に加えて手話が家庭の言語として加わります。日本手話と 日本語のバイリンガルの家庭になるわけです。更に、そこに聞こえる兄弟姉妹が存在 する場合、その子供は、日常的に日本語と手話にふれる環境で育ちます。このような 子供を本研究ではバイモーダル児と呼びます。

バイモーダル児とは、2つのモダリティーを有する子供という意味です。音声言語の 場合は 音声/ 聴覚 モダ リティ ー、手 話言 語の 場合は 手指( 身体 )/ 視覚モ ダリテ ィー ですが 、バイ モー ダル 児はこ の2つ のモ ダリ ティー を有し てい ます 。そし て、こ の2 つのモ ダリテ ィー を有 すると いうこ とは 、3 つの話 し方( モー ド) をもつ ことに もな ります。つまり、1つは音声モード(手指を伴わず音声で話す)、もう1つは手指モー ド(音声を伴わず、手指で話す)、そして、第3に併用モード(音声と手指を同時に使 いなが ら話を する )で す。こ れは例 えば 、日 本語と 英語な ど音 声言 語同士 のバイ リン

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ガルの 子供や アメ リカ 手話と 日本手 話の バイ リンガ ルの子 供な どに は見ら れない 特有 の現象となります。

実際のイメージがわくように動画を持ってきました。バイモーダル児Kの2011年11月 14日の データ です 。あ るとき には声 で話 をす る、あ るとき は声 をつ けずに 手話で 話を するといった状況をご覧ください。(動画流す)

【*動画掲載不可のため発話例を掲載しました。1つの発話を2行で示し、音声と手 指が重なっている箇所は併用モードです。】

このように、バイモーダル児は、意識、無意識に関わらず、話し方(モード)を切替 えながら話を進めていきます。私の研究活動で一番興味があるところは、バイモーダ ル児の3つのモードが、どのように選択されているのか、また、どのように切替えら れているのかということです。

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さて 、音声 言語 のバ イリン ガル児 の言 語選 択につ いて、 モデ リン グ仮説 という もの があ りま す(Comeau他2003な ど)。バ イリ ン ガル の子 供は 、相 手 がど ち らの 言語 が得 意 なのか 、どち らの 言語 をよく 使うの か、 など 相手の 言語使 用の 状況 に応じ て言語 の選 択や言語の切替え(コードスイッチ:CS)を行なうという仮説です。

モ デ リ ン グ 仮 説 は 、 音 声 言 語 の コ ー ド ス イ ッ チ の 研 究 か ら 生 ま れ た 仮 説 で す が 、音 声言語 と手話 言語 のバ イリン ガル児 につ いて 、8人 のコー ダ( KO DA) を対象 にし た2017年に発表されたLauraたちの研究があります(Laura他(2017))。コーダというの は 、 ろ う の 親 を 持 つ 聞 こ え る 子 供 の こ と で 、 通 常 は C O D A (Chirdren Of Deaf Adults) と 書 く こ と が 多 い の で す が 、 K O D A と い う と 年 齢 が 若 い 子 供 (Kids Of Deaf Adults) とい う 意 味で す 。Lauraた ちは 、 ろう の 親 が併 用 モー ド を使 っ て 話し か けをし なくて も、 子供 は併用 モード を使 用す る状況 を明ら かに し、 手話言 語と音 声言 語の能 力を用 いて 、子 供は自 然に併 用モ ード を構築 してい ると 論じ ました 。そし て、

親が併 用モー ドを 使わ なくて も、子 供が 親に 対し併 用モー ドで 話し かける ことが ある という 事実か ら、 併用 モード の場合 は、 モデ リング 仮説は 当て はま らない と述べ てい ます。

Lauraたちの研究と今回の研究の違いですが、今回は7名のバイモーダル児を対象と

してい ますの で、 そも そも親 は聞こ えて いま す。つ まり、 1人 の親 が、例 えば聞 こえ る子供 と1対 1の とき などは 音声言 語で 話し 、ろう 児も一 緒に いる ときに は手話 言語 で話すという状況があります。

また、Lauraたちの研究では、ろうの親と1名の聞こえる大人がいる場面が中心です が 、 今 回 の 研 究 は 、 例 え ば 母 親 と 調 査 者 と い う 、 モ ー ド の 使 用 の 状 況 が 異 な る 複 数 の 聴 者 を 含 ん だ 相 手 が そ の 場 に い る 中 で 、 バ イ モ ー ダ ル 児 が そ れ ぞ れ の 相 手 に ど の よ う に対応するかをみていきます。

更に、併用モード以外の音声モードや手指モードについても分析をしました。

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27 本研究のリサーチクエスチョンです。

1 つ 目 は 、 バ イ モ ー ダ ル 児 が 併 用 モ ー ド を 使 う 場 合 、 そ れ は 話 し 相 手 の 言 語 モ ー ド に 関 係 し て い る の か 、 ま た 、 音 声 モ ー ド や 手 指 モ ー ド で は ど う な の か と い う こ と で す。

モ ダ リ ン グ 仮 説 が 成 立 す る の で あ れ ば 、 併 用 モ ー ド で バ イ モ ー ダ ル 児 に 話 し か け る 割 合 の 高 い 相 手 に は、 バ イ モ ー ダ ル 児 も 併用 モ ー ド で 話 し か け る割 合 が 高 い は ず で す 。 ま た 、 音 声 モ ー ド で バ イ モ ー ダ ル 児 に 話 し か け る 割 合 が 高 い 相 手 に は バ イ モ ー ダ ル 児 も 音 声 モ ー ド で の 話 し か け の 割 合 が 高 く 、 手 指 モ ー ド で バ イ モ ー ダ ル 児 に 話 し か け る 割 合 が 高 い 相 手 に は バ イ モ ー ダ ル 児 も 手 指 モ ー ド で 話 し か け る 割 合 が 高 く な る と 考 え られます。

2 つ 目 と し て 、 バ イ モ ー ダ ル 児 が 同 じ 相 手 に 「 一 連 の 」 会 話 の 中 で 、 モ ー ド を 切 替 え る コ ー ド ス イ ッ チ に つ い て で す 。 モ ー ド を 切 替 え る 場 合 、 ス ラ イ ド の よ う な 6 つ の パターンが考えられます。

モードの使用の状況が異なる聞こえる2人の話し相手がいる場合、それぞれに対して、

バイモーダル児はこれらの6つのパターンについて、異なる様相をみせるのでしょうか。

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分析対象となるデータですが、過去10年ほどデータを撮っています。すべての家庭 を10年間追っているわけではないのですが、5つの家庭で7名のバイモーダル児につ いてデータを集めました。バイモーダル児が話しかけようとした相手が視野に入って いない場合には、バイモーダル児は相手に手話で話しかけるという選択ができません ので、それぞれのモードが平等に選択できる環境を整えるため、家族や調査者がテー ブルを囲んで会話をする食事場面をビデオ収録しました。バイモーダル児の年齢や場 の参加者等から21のデータ群に分けています。また、口の中に食べ物が入っていて音 声が使えなかったり、お箸を持っていて手話が使えなかったりという場合は、分析か ら除外するようにしました。

こうして得られたデータをコード化していきました。インターバル記録法という方 法を使い、10秒ごとに誰が誰に、どのモードで話したのかを記録しました。

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例えばJ/Wというのは、1つの発話の中で音声モードから併用モードへ切替えた場 合 に 「 / 」 を つ け て い ま す 。10秒 の 間 に 音 声 モ ー ド と 併 用 モ ー ド の 両 方 が み ら れ て 、 その間に間がある場合は「,」をつけています。誰に話しかけたかという相手の選定に つ い て は 、 1 人 で の判 断 が 困 難 な 場 合 に は複 数 の 分 析 協 力 者 で 確認 を し 決 定 し ま し た 。 中には、同時に複数の相手に話しかけている場合もありました。

それでは、リサーチクエスチョン1について、報告します。

複 数 の 相 手 に 対 し て の モ ー ド 使 用 の 比 較 を し て い き ま す の で 、 バ イ モ ー ダ ル 児 の 話 し相手がろう児と母親の2人しかいないデータ④⑥⑧は、分析から除外しました。

母 親 と 調 査 者 の 比 較 を し て い く わ け で す が 、 例 と し て ス ラ イ ド に デ ー タ ③ を 挙 げて みました。

左 側 は 、 母 親 、 ろ う 児 、 調 査 者 が バ イ モ ー ダ ル 児 に 対 し て 、 各 自 が 話 し か け て い る

割合を100%として、どのモードを何%使用しているのかの割合です。右側は、バイモー

S

W

J

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参照

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