【同志社大学刑事判例研究会】黙秘権告知が必要と される対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基 づき作成された供述調書の証拠能力
著者 笹山 文?
雑誌名 同志社法學
巻 66
号 1
ページ 139‑162
発行年 2014‑05‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014655
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一三九 ◆同志社大学刑事判例研究会◆
黙 秘 権 告 知 が 必 要 と さ れ る 対 象 者 の 範 囲 と 黙 秘 権 告 知 を 欠 く 取 調 べ に 基 づ き 作 成 さ れ た 供 述 調 書 の 証 拠 能 力
東京高裁平成二二年一一月一日第九刑事部判決 平二二(う)第一五四四号、 判例タイムズ一三六七号二五一頁、東高刑時報六一巻一~一二号二七四頁
笹 山 文 德
一 事実の概要と訴訟の経過
一 事実の概要 犯行当時一九歳の少年で、かねてから消防士にあこがれていた被告人Xは、平成二一年一月に(以下、月日はすべて平成二一年を指すものとする)、東京都杉並区O消防団へ入団した。Xが入団して暫くした後、五月二三日から六月一二日までの間、O消防団の受持ち区域内において、合計一一件の連続放火事件が発生した。O消防団の団長は、①Xが、
一三九
( )同志社法学 六六巻一号一四〇 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力消防署から消防団に対する出動要請がないときでも、火災現場に来ていたこと、②出動要請があったときでも、新入団員であるXには電話連絡が最後に回るはずなのに、いつもかなり早い時点で火災現場に来ていたことなど、挙動に不審な点があったため、連続放火はXの犯行である可能性が高いと考え、六月三日に、警察へその旨の情報提供を行った。これを受けて、警察がXについて調査したところ、①五月二三日発生の火災の際には、Xが初期消火者として記録されていたこと、②連続放火が発生していた場所は、いずれも、Xが地理的に詳しく、土地勘のあるところであったこと、③六月三日の夜には、Xが消防団の規律(消防団員は、消防団の服装を着用して単独で警戒活動などを行わないように注意・指導されていた)に背き、消防団の服装を着用して、一人で徘徊していたことが判明した。そこで、警察は、六月四日から、Xを連続放火事件の容疑者の一人であると考え、その動向を観察するため、行動確認を開始した。なお、その間、Xの姿が見失われた際に、放火が発生するということがあった。 そのような状況のなかで、六月一二日に、ごみ置き場での放火(以下、﹁原判示第三の放火﹂という)が発生した。当日Xは、消防団のポンプ操法訓練および夜間警戒活動に参加中、分団長の指示により、一人で火災のあったごみ置き場付近の自動販売機に缶コーヒーを買いに行った。そして、Xが消防団の詰所に戻り、消防団員らが缶コーヒーを飲み始めたときに、通行人が原判示第三の放火を知らせに駆け込んで来た。翌一三日に、警察は、Xを参考人として、黙秘権を告知することなく、取り調べた。そして、﹁缶コーヒーを買いに行った時と帰ってきた時には、誰とも会っていません﹂という供述録取書(以下、﹁本件警察官調書﹂という)を作成した。 Xに対する参考人取調べと前後して、消防団員からの事情聴取や放火現場付近の防犯カメラの解析が行われた結果、警察は、Xが原判示第三の放火を敢行したものであるとの疑いを強めた。そこで、六月一七日に、Xへの通常逮捕状の発付を得た上で、翌一八日には、任意同行を求め、任意取調べを行った。その取調べにおいて、Xは、一旦犯行を否認 一四〇
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一四一 したが、原判示第三の放火のほか、合計一〇件の放火を自供し、犯行を認める旨の上申書を記載した。この時点で、警察は、連続放火の犯人がXに間違いないと確信し、前記逮捕状による通常逮捕を行った。しかし、Xは、本件が家裁に送致されると、再び否認に転じてアリバイを主張するようになり、検察官送致され公判請求された後の原審公判廷でも、本件各起訴事実を否認した。
二 訴訟の経過 原審(東京地判平成二二年六月二五日・公刊物未登載)において、検察官は、刑訴法三二六条一項を根拠に本件警察官調書を証拠として請求したが、弁護人は、任意性を争い、不同意との証拠意見を述べた。そこで、検察官は、刑訴法三二二条一項による本件警察官調書の取調べを請求したところ、弁護人において、異議がないとしたため、原審は本件警察官調書を同条項により取り調べ、原判決の﹁証拠の標目﹂欄に掲記し、有罪認定の証拠として使用した。 これに対し、弁護人は、主として事実誤認を理由に控訴した。控訴趣意は、主に以下の四点であった。①本件警察官調書は、Xが逮捕される六月一八日以前の六月一三日に、参考人としての取調べを受けて作成されたものであるところ、黙秘権告知を欠いており、任意になされたものとはいえないから(証拠能力も認められない)、これを公判で取り調べたのは、事実誤認を招くことになる。②六月一八日に作成された自白調書(この自白調書について、黙秘権告知の有無は争点となっていない)は、Xに漢字を書く能力が乏しいにもかかわらず、難しい日本語が頻繁に使われており、任意になされたものとはいえないから、これを事実認定に用いた原判決には証拠の評価を誤った事実誤認がある。③そもそも各火災原因は、いずれも放火ではない可能性がある。④Xの母親らの証言によれば、Xには犯行時刻にアリバイがある。
一四一
( )同志社法学 六六巻一号一四二 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力
二 判決の要旨
控訴棄却(確定) 被告人の本件警察官調書は、﹁原判示第三の放火事件が発生した六月一二日の翌日に、同事件の捜査のために、被告人を参考人として事情聴取をして作成された供述録取書であるが、捜査機関は、連続放火犯人の容疑者の一人として六月四日から被告人の尾行をしていたのであり、被告人を六月一三日に参考人として事情聴取した際、原判示第三の放火事件について被告人の立件を視野に入れて被告人を捜査対象としていたとみざるを得ないが、この警察官調書については、捜査機関が、被告人に黙秘権を告げず、参考人として事情聴取し、しかも放火発生時の被告人の行動などに関して、被告人に不利益な事実の承認を録取した書面を作成したものであるから、この警察官調書は、黙秘権を実質的に侵害して作成した違法があるといわざるを得ず、被告人に不利益な事実の承認があるからといって、これを刑訴法三二二条一項により証拠として採用して取り調べ、被告人の有罪認定の証拠として用いることは、許されないといわなければならない。したがって、弁護人から不同意、任意性を争うとの証拠意見が述べられているこの警察官調書について、検察官からの刑訴法三二二条一項による取調べ請求に対し、弁護人が異議がないと述べても、原審が、これを証拠として採用して取り調べ、原判決の(証拠の標目)欄に掲げて、原判示第三の事実について、被告人の有罪認定の証拠として用いたのは違法であるといわなければならない。しかし、この違法は判決に影響を及ぼすほどの違法ではなく、この警察官調書だけを証拠から排除すれば足りるというべきである。そして、この警察官調書を除いた関係各証拠によれば、原判示第三の事実を認めることができ、前記認定を左右するものではない﹂。 一四二
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一四三 三 検 討
一 問題の所在 本件では、捜査機関が立件を視野に入れて被告人を捜査対象としながら、黙秘権を告げず、参考人としての取調べを行った場合、その供述を録取した警察官調書を証拠として採用することができるか否かが争われた。その争点は、大別すると、①黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲とはいかなるものか、②黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力は認められるかの二点である。 ①の点に関して、刑事訴訟法上、捜査機関は、必要があれば、﹁被疑者﹂(一九八条一項)や﹁被疑者以外の者﹂(いわゆる参考人︹二二三条一項︺)を取り調べることができると規定されているが、両者の取調べにおける取扱いは異なるものとなっている。すなわち、被疑者の取調べについては、﹁あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない﹂(一九八条二項)と定められ、黙秘権の告知義務が明記されているのに対して、参考人については、こうした規定を置いていないのである。しかし、そのような規定ぶりを素直に読めば、参考人については、取調べに際して、自己に不利益な供述を強制されないという今日の刑事訴訟法上の基本原則が十分に保障されないことになってしまう。被疑者とそれ以外の者(参考人)の間に生じるこのような差異が正当化されうるのは、一般的に目撃者や被害者といった参考人については自己に不利益な供述を強制されるおそれがないからである。ところが、参考人であっても捜査の対象とされ、被疑者と同等の地位に置かれる者については、そうした正当化根拠が当てはまらない。そこで、明確な規定によって保障されない参考人には、どこまで黙秘権が認められるべきかについての検討が必要になる。本件に即していえば、﹁容疑者の一人﹂として、捜査機関が﹁立件を視野に入れて被告人を捜査対象としていた﹂場合、
一四三
( )同志社法学 六六巻一号一四四 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力その取調べに際して黙秘権告知の必要はないのかが問題となるのである。 本判決は、この問題につき、結論として、当時の捜査状況などから、被告人に黙秘権告知が必要であったと判断した。そこで、次に、②黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力の有無が問題となる。被疑者・被告人の自白の取扱いについて、憲法三八条二項は﹁強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない﹂と定め、刑訴法三一九条一項も﹁強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない﹂と自白法則について規定している。判例は、こうした自白法則と黙秘権不告知との関係について、黙秘権の不告知の事実があったとしても、黙秘権侵害に直結するとはせず、自白の証拠能力を認める余地を残している。それは、黙秘権告知は黙秘権の行使を実行あらしめるための重要な手続であるが、黙秘権不告知のみを根拠に自白の証拠能力を否定するのは行き過ぎであるとの考えによる (1)。ただし、例えば、被疑者が黙秘権の存在を知らないケースなど、黙秘権不告知によって、供述の自由を確保するという黙秘権の役割を実質的に欠いたとみられる場合には、任意性に大きな影響を与えることにもなる。そこで、こうした自白法則の規定と黙秘権不告知との関係が問われることになる。さらに、黙秘権の不告知が捜査過程の違法であると認められるならば、違法な捜査によって獲得された自白に対して違法収集証拠排除法則が適用されるかについても検討が必要となる。そこで以下では、①黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲を明らかにした上で、②黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力と違法収集証拠排除法則の適用の有無について考察を加えることにしたい。 一四四
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一四五 二 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲 ⑴ 判例 最判昭和二五年六月一三日は、司法警察職員が、被害者に対して参考人取調べを行う場合であっても、刑訴法一九八条を準用し、あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げる必要があるかが争点となった事案において、以下のように判示した。すなわち、参考人の取調べについて規定する刑訴法二二三条が﹁第一九八条第一項但書及び第三項乃至第五項の規定を準用する旨を規定し特に第二項の規定の準用を除外している点に鑑みれば被疑者以外の者の供述を録取するに当たつては供述を拒むことができる旨をあらかじめ告げる必要はない趣旨であると解すべきである )2
(﹂。また、東京高判昭和二六年六月二〇日は、他人の被疑事件につき、参考人として取り調べられた供述調書を自己の事件の証拠とすることができるかが争点となった事案において、その証拠能力についての判断に先立って、刑訴法﹁第一九八条の規定と第二二三条の規定とを対照して考えれば、同法は或る者を被疑者の資格で取り調べる場合にのみこの告知を取調の方式として要求しているものと解するのを相当とするから、参考人として取り調べた本件のような場合には、これを告げなかつたからといつて取調の方法に不備があるということはできない )3
(﹂とした。もっとも、これらの判決では、捜査機関が被告人に対する嫌疑があるにもかかわらず、被告人を被疑者としてではなく、参考人として取調べを行ったことについての適否が検討されたわけではなかった )4
(。そのため、黙秘権告知の必要な対象者の範囲については、具体的な言及は加えられてはいないのである。 しかし、近時、大阪高判平成二一年一〇月八日(いわゆる
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事件控訴審判決)は、捜査機関が取調べを被疑者ではなく参考人として行った点の妥当性について、以下のような判断を下した。すなわち、著作権法違反をした正犯者の捜査のために、被告人を参考人として取り調べた際に﹁正犯者のみならず、被告人の立件も視野に入れて被告人を捜査対象としていたとみざるを得ないが、この警察官調書⋮⋮については、捜査機関が、被告人に黙秘権を告げず、参考一四五
( )同志社法学 六六巻一号一四六 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力人として事情聴取し、しかも
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のインターネット上での提供に関しての被告人の主観的態様に関して、被告人に不利益な事実の承認を録取した書面を作成したものであるから、この警察官調書⋮⋮は、黙秘権を実質的に侵害して作成した違法がある)5
(﹂。ここでは、捜査機関が、たとえ参考人として取調べを行った場合であっても、その際の捜査状況次第では黙秘権告知の必要性が生じるとの理解が明確に示された。 ⑵ 学説の状況 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲に関連して、取調べにおける刑訴法の定めは、﹁被疑者﹂と﹁被疑者以外の者﹂(いわゆる参考人)とでは異なっている。そのため、こうした相違に着目し、従来の学説においては、①﹁被疑者﹂概念を明らかにすることによって、黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲を決するアプローチが採られてきた )6
(。ところが、近時、②黙秘権の意義に立ち返って、黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲を決するアプローチも主張されている
)7
(。 刑訴法上、被疑者と参考人とでは、取調べにおいて異なった取扱いがなされていることから、﹁重要参考人﹂概念を用いるアプローチにおいては、被疑者の概念が重要となる。しかし、被疑者が何を示すのか定めた法律上の定義は存在しない。それゆえ、﹁重要参考人﹂概念を用いるアプローチを理解するためには、まず、そこで前提とされる被疑者概念についての判例・学説を整理しておく必要がある。 学説上、一般に、被疑者とは、捜査の対象となっている犯罪事実の犯人との嫌疑を受け、いまだ公訴提起のなされていない者などと定義される )8
(。また、被疑者の意義について検討した裁判例はごくわずかであるが、東京高判昭和四九年一〇月二日は、﹁被疑者とは犯罪の嫌疑を受け未だ公訴を提起されていない者をいうが、被疑者たる地位はいつから始まるかについて案ずるに、告訴・告発・請求・自首・現行犯逮捕によって捜査手続が始まった事件については、これが捜査機関に知られた時から被疑者となると解されるが、右以外の事件については、単に捜査官が主観的に嫌疑を抱いて 一四六
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一四七 取調べをしたというだけでは足らず、捜査官が、犯人としてその者の刑事責任の存否を決めるための手続を開始したと客観的に認められる時から、被疑者となるというべきである )9
(﹂と判示していた )₁₀
(。 こうした判例・学説をもとに、﹁重要参考人﹂概念を用いるアプローチは、被疑者と参考人を﹁刑事手続の存否を決めるための手続を開始した﹂か否かによって区別するのである )₁₁
(。ただし、こうした基準によると、参考人の中には、﹁刑事手続の存否を決めるための手続を開始した﹂とまではいえないが、一定程度の嫌疑があり捜査対象とされている者も存在することになる。そこで、同アプローチは﹁参考人﹂を﹁証人タイプ﹂の参考人と﹁被疑者タイプ﹂の参考人の二つに分類する )₁₂
(。ここでいう﹁証人タイプ﹂の参考人とは、被疑者以外の第三者で当該事件に関して何らかの情報を有すると思われる参考人であり、事件の被害者・目撃者・告訴人などが含まれる )₁₃
(。これに対して、﹁被疑者タイプ﹂の参考人とは、捜査の対象とされており、被疑者に移行する可能性のある者(いわゆる﹁重要参考人﹂)を指す )₁₄
(。そして、参考人であっても重要参考人は、被疑者と同視しうる存在であることから、それに応じて黙秘権告知の範囲を拡大する(一九八条を準用する)必要があると解するのである )₁₅
(。なぜなら、そもそも参考人に対しても黙秘権を保障する必要がないわけではない )₁₆
(にもかかわらず、黙秘権の告知を義務づける規定が置かれていないのは、取調べの対象が参考人にとって第三者、すなわち自己の犯罪ではなく他人の犯罪であるからにほかならないからである。 これに対して、黙秘権の必要性から﹁被疑者﹂概念を確定するアプローチは、条文上、被疑者と参考人の区別が明確ではなく、その境界を決するのは捜査機関側の事情であって、その判断時期を捜査機関の裁量に委ねることは妥当でないとの考えを前提とする )₁₇
(。その上で、黙秘権告知の対象者の範囲は、参考人と被疑者の区別ではなく、黙秘権の意義に着目して判断すべきであるとする )₁₈
(。つまり、従来の﹁重要参考人﹂概念を用いるアプローチのように、被疑者の定義を確定した上で、どの段階まで黙秘権の告知が必要であるのかを検討するのではなく、黙秘権の意義に着目し、黙秘権の
一四七
( )同志社法学 六六巻一号一四八 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力保障が必要とされる地位にあるか否かに留意して判断を行うのである。 ⑶ 本判決のアプローチ それでは、本判決は黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲について、いかなるアプローチから結論を導き出したのであろうか。 まず、本判決は、黙秘権告知の必要性の判断基準としては、
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事件控訴審判決と同様に、﹁立件を視野に入れて被告人を捜査対象としていた﹂か否かを問題とした。この点について、従前の判例をみてみると、もっぱら自己の犯罪としての立件を視野に入れていたとはいえない(被害者などの参考人である)ケースでは、端的に黙秘権の告知は不要との判断をしてきた )₁₉(。また、被告人が正犯者の著作権違反被疑事実で自宅の検証を受け、同日に参考人として取調べを受けた
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事件のように、自己に対する刑事手続が客観的に開始されており、その立件を視野に入れていたといえるケースでは、黙秘権の告知が必要であるとの判断を示してきた )₂₀(。しかしながら、一定程度の嫌疑は受けているが、強制捜査など自己に対する刑事手続は開始されておらず、いまだ容疑者の一人にとどまるような、いわば中間的なケースについての判断は、これまで示されていなかった。本判決は、このような中間的なケースでも﹁立件を視野に入れて被告人を捜査対象としていた﹂場合に当たることを確認し、黙秘権の告知が必要であるとしたものであって、被告人が実質的な被疑者であったと判断したものと思われる。 では、本判決はどのような事情を考慮し、本件警察官調書作成時に、黙秘権告知を要する、すなわち﹁立件を視野に入れて被告人を捜査対象としていた﹂と判断したのだろうか。その具体的な事情として、次の二点を挙げることができる。 第一に、被告人に参考人としての取調べが行われるまでの捜査経緯に関連し、消防団長からの情報提供を実質的な告発とみることができるという点である。すなわち、消防団員は特別職非常勤の地方公務員であるため、告発が義務づけ 一四八
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一四九 られている者(刑訴法二三九条二項)からの申告であったとも考えられるのである。この点について、本判決は、被告人が被疑者であるか参考人であるかを明確に判断していないため、消防団長からの情報提供を告発と捉えたか否かは定かではない。しかし、消防団長からの情報提供を告発と同視し、その情報をきっかけに警察による調査・行動確認が行われていたという捜査の経緯を踏まえ、裁判所は捜査機関側が被告人を立件する意思が強いことを示す事実であると判断したことは疑いがない。 第二に、被告人に対する参考人取調べの実質的内容が、被疑者取調べと同様のものであった点である。この点について、本判決では、取調べの実態がもっぱら放火事件当時の被告人の行動に関するものであり、加えて、﹁缶コーヒーを買いに行った時と帰ってきた時には、誰とも会っていません﹂という被告人に不利益な事実の承認を録取している(原判示第三の放火が行われた時間帯にX以外の者がごみ置き場付近に立ち寄っていないこと、すなわち、X自身が犯人であることを示す間接事実であるという点で不利益な事実といえる)ことからも、実質的に被疑者としての取調べが行われていたことが裏付けられよう。 さらに、本判決は、本件警察官調書作成時点で、黙秘権の告知が必要であったと判示したが、すでに本件警察官調書が作成された時点で、﹁被疑者﹂に該当して一九八条二項が適用されるという趣旨であるのか、一定の場合には、参考人であっても一九八条二項が準用されるという趣旨であるのか、明確にしなかった。 したがって、本判決は、黙秘権告知の必要な対象者の範囲について、参考人と被疑者の区別とは別の基準で、黙秘権の趣旨に立ち返って、どの段階で黙秘権を告知する必要があるのかを端的に判断したと解することができる )₂₁
(。そうだとすれば、本判決は、黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲について、参考人と被疑者の区別の如何ではなく、黙秘権の告知が必要か否かという実質的判断を重視していることになる。
一四九
( )同志社法学 六六巻一号一五〇 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力三 黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 ⑴ 判例 黙秘権の不告知と自白法則の関係について、最判昭和二八年四月一四日は、﹁被疑者の取調にあたつて供述拒否権のあることをあらかじめ告知しなかつたからといつて、その取調に基く被疑者の供述がただちに任意性を失うということにはならない )₂₂
(﹂と述べ、黙秘権の不告知は憲法違反ではなく、黙秘権告知を欠く取調べによって得られた自白であっても、黙秘権告知の欠如のみでその証拠能力を否定するべきではないとした )₂₃
(。また、参考人として取り調べられた供述調書を、自己の犯罪の証拠とすることができるかについても、東京高判昭和二六年三月一四日は、﹁他人の被疑事件について参考人として取り調べられその供述の内容が自己の被疑事件と必然的関聨性を有する事項であつてもそれが任意に為されかつその内容について真実性を認められる以上⋮⋮被疑者取り調べに関する刑事訴訟法第一九八条第二項を準用して所謂供述拒否権の告知がなかつたとの一事をもつて該供述調書が違法調書として証拠能力がなく若しくは信用すべき情況を欠如すると為すことはできない )₂₄
(﹂とした。これら判例を踏まえると、一般に裁判所は黙秘権の告知義務違反があっても、証拠能力を認める余地を残してきたといえよう。 ただし、近時の下級審判決の中には、黙秘権告知に対して、従来の判例とは異なる判断を下したものもある。例えば、浦和地判平成二年一〇月一二日は、外国人に対する取調べにおける黙秘権・弁護人選任権の告知の在り方が問題となった事案で、黙秘権・弁護人選任権の告知の方法に問題があることを重視し、こうした告知方法の問題が自白の虚偽性に結びついたり、供述の任意性に影響を与えたりしたかといった点にまで深く立ち入らないまま、証拠を排除した )₂₅
(。また、浦和地判平成三年三月二五日は、黙秘権不告知を含む捜査官の違法・不当な言動が重大なものであったことを強調し、それが取調べを受ける被疑者に及ぼす心理的影響について一般的には論じるが、当該事案における違法・不当な取調べが被告人の意思にいかに作用したかについては検討せずに証拠を排除した )₂₆
(。これらの下級審判決も、黙秘権不告知や捜 一五〇
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一五一 査の違法・不当を指摘するが、そうした違法を理由に自白の証拠能力を否定しておらず、黙秘権不告知の事実や捜査の違法・不当な点を総合し、自白の任意性に疑いがあるとしてその証拠能力を否定したものであるから、両判決が従来の判例の考え方を基礎としていることに疑いはない )₂₇
(。とはいえ、黙秘権告知の意義についての判示は、黙秘権の告知を欠くとしても、直ちに自白の任意性は失われないとする従来判例の判旨とは明らかにニュアンスが異なり、事案に即した判断であって、これが下級審の一般的な傾向であるとまでは断言できないが、黙秘権不告知の事実そのものを重視したものであるとの評価も可能であろう )₂₈
(。 さらに、違法に収集した自白に対して、違法収集証拠排除法則が適用されるか否かの点についても判例の動向を確認しておきたい。この点について判断を示した最高裁判例は、いまだ存在しないが、いわゆるロザール事件において、一審の千葉地判平成一一年九月八日 )₂₉
(および、控訴審の東京高判平成一四年九月四日 )₃₀
(は、いずれも自白への違法収集証拠排除法則の適用を肯定した。例えば、控訴審である東京高裁は、﹁自白を内容とする供述証拠についても、証拠物の場合と同様、違法収集証拠排除法則を採用できない理由はないから、手続の違法が重大であり、これを証拠とすることが違法捜査抑制の見地から相当でない場合には、証拠能力を否定するべきであると考える )₃₁
(﹂と判断した。 ⑵ 学説の状況 自白排除の理論的根拠をめぐっては、①虚偽排除 )₃₂
(、②人権擁護 )₃₃
(、③違法排除の大きく三つの観点が挙げられる )₃₄
(。虚偽排除と人権擁護の両方の観点から、供述者の心理状態に着目して、任意性を欠く疑いがある場合にその自白は排除されるとするのが任意性説(併用説 )₃₅
()であり、判例もこの立場から任意性判断を行うものと一般的に解されている )₃₆
(。なかでも、自白採取過程に違法が認められる場合には、別途、判例上確立された違法収集証拠排除法則を適用するとの見解(任意性二元説)が多数の支持を集めている )₃₇
(。 一方、違法排除の観点から、捜査機関側の態様に着目して、自白の採取過程に違法が認められるならば、自白との因
一五一
( )同志社法学 六六巻一号一五二 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力果関係は問わず、その自白は排除されるとする違法排除説 )₃₈
(も学説においては有力である。そのほか、虚偽排除・人権擁護・違法排除の観点を総合して考慮する総合説も主張されている )₃₉
(。 ⑶ 本判決の判断枠組み それでは、本判決はどのような見解に立ち、本件警察官調書の証拠能力を排除したのであろうか。これまでに公表されてきた本判決への批評を整理すると、本判決に対する理解としては、違法排除説に親和的な部分と任意性説に親和的な部分があり、どのような立場に立つものか判然としないと解するものが大多数である )₄₀
(。確かに、判文のみを見る限り、いずれの見解からも説明が可能といえよう。 このうち、違法排除説に親和的な部分としては、①本判決が、﹁黙秘権を実質的に侵害して作成した違法がある﹂と判示し、違法の存在を根拠に証拠能力を否定していること )₄₁
(、②本判決は取調べにおける黙秘権不告知の問題点のみを指摘し、取調べにおける被告人の心理状態については深く立ち入らず、捜査機関の態様に着目して証拠能力を否定していること )₄₂
(の二点が挙げられる。 しかし、第一に、本件で指摘された警察官調書作成過程における違法の具体的内容は、黙秘権不告知それ自体ではなく、黙秘権不告知により生じた黙秘権の実質的な侵害とされているのである )₄₃
(。黙秘権の実質的な侵害があったとする点からすれば、本判決は、違法排除説だけではなく、人権擁護の観点から理解することも可能であろう。第二に、本判決が取調べにおける被告人の心理状態について、具体的な検討を加えていない点については、確かに虚偽排除説的な考え方を採っていないことを示す根拠にはなりうるが、このような消極的な根拠から、これで違法排除説を採ったものとまで評価できるかには疑問が残る。 他方、任意性説に親和的な部分としては、本判決が実質的な黙秘権侵害を違法の理由としていることが挙げられる。というのも、人権擁護説(もしくは、任意性説に立ち、人権擁護の観点から排除した)によれば、前述のとおり被疑者 一五二
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一五三 の黙秘権を損なうような態様でその自白がなされたかという基準で不任意自白か否かの判断が下されるが )₄₄
(、本判決も黙秘権が実質的に侵害されたことを指摘しているからである。 しかし、任意性説に立つものと理解したのでは、黙秘権告知の欠如のみをもって証拠能力を否定しないとする従来の判例と矛盾が生じる。確かに、本判決は、①捜査機関が被告人を容疑者の一人としていたこと、②一週間以上にわたって行動確認を行っていたこと、③原判示第三の放火事件の翌日に、参考人として取り調べた上で、放火発生時の被告人の行動に関して、不利益な事実を承認した供述録取書を作成していることなど、黙秘権の実質的な侵害があったと見ることができる事情を挙げているが、これら三つの事情は当時被告人が被疑者と同等の立場にあったことを示すものにすぎないとの理解も可能だからである。そうであれば、単なる参考人ではなく、被疑者と同等の立場にあった者に対する黙秘権告知の欠如のみをもって、証拠能力を否定したものと本判決を解することもでき、その場合は、従来の判例との整合性についての検討が必要となる。そこで、この点の考察をすすめてみる。 黙秘権告知の欠如のみで、自白の証拠能力を否定しないとする判例のリーディングケースは、最判昭和二三年七月一四日 )₄₅
(である。しかし、同判決は刑訴法応急措置法下に出されたものであるため、現行刑訴法下においてどれほどの判例としての拘束性を有するかについては疑問がある。なぜなら、応急措置法一〇条 )₄₆
(は黙秘権を保障する一方で、黙秘権を告知することを義務づける規定は存在しなかったためである )₄₇
(。また、現行刑訴法下である昭和二〇年代に出されたいくつかの最高裁判決 )₄₈
(も存在するが、当時と現在では黙秘権告知の重要性に関する理解が大きく異なっている。近時の下級審判決 )₄₉
(の中には、従来の最高裁判例とは明らかに異なる方向性を示すものがあることも、黙秘権告知の重要性の高まりを示す事実といえよう。 もっとも、本判決が黙秘権告知の欠如のみならず、前記①~③の事情を踏まえ、刑訴法一九八条二項の趣旨に反する
一五三
( )同志社法学 六六巻一号一五四 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力ような捜査手法を問題として、黙秘権侵害を認定したものと解することもできよう )₅₀
(。なぜなら、本判決は、捜査機関の取調べに至る経緯、特に﹁捜査機関が、取調べの対象とされた被疑事件につき、既に被告人を捜査対象としていたにもかかわらず、被告人を同被疑事件の参考人として、黙秘権を告げずに、取調べしたことを重視 )₅₁
(﹂しているといえるからである。その場合には、本判決が黙秘権告知の欠如のみで、証拠能力を否定したとはいえないため、そもそも従来の判例との整合性について検討する必要はない。いずれの理解に立ったとしても、本判決が任意性説を採ったと解することと、黙秘権告知の欠如のみで証拠能力を否定しないとする従来の判例との整合性に問題はないものと思われる。 なお、任意性説に立った上で、判例において確立された違法収集証拠排除法則が適用されたとする余地はないであろうか。先の違法排除説の検討の際に、任意性説を採用してきたこれまでの判例の蓄積を根拠に、違法排除説を採用したものではないとしたが、任意性説を採った上で、違法収集証拠排除法則を適用することについては、判例・学説ともに承認されているといえよう )₅₂
(。そのため、違法の存在を根拠に証拠能力を否定していること、捜査機関の態様のみを問題としていることからすると、本判決が黙秘権不告知という取調べ経緯に重大な違法があったとし、違法収集証拠排除法則の適用により、証拠能力を否定した可能性を排除することはできないものと思われる。 以上検討したように、本判決は、①任意性説に立ち、人権擁護の観点から証拠能力を否定したものか、②任意性説に立ちつつも、判例上確立された違法収集証拠排除法則を適用して、証拠能力を否定したものか、いずれかの見解を採用したものであると考えるのが妥当であろう。 一五四
( ) 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 同志社法学 六六巻一号一五五 四 おわりに 一 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲 本判決は、立件を視野に捜査対象とされていた被告人に対する黙秘権告知の要否について、被疑者であるか、参考人であるかを区別せずに判断を下した。そして、たとえ捜査機関が被告人を参考人として扱っていたとしても、当時の捜査状況や参考人取調べの内容などから、黙秘権告知が必要と判断される場合があることを示した。本判決は、事例判断ではあるが、いまだ容疑者の一人として行動確認をされていたにとどまる場合でも、黙秘権告知が必要であることを明確に示した。本判決を踏まえると、捜査機関が仮にある者を参考人として取り調べる場合であっても、当該供述調書を将来的にその者の刑事責任を問うための資料として利用する可能性を認めるにいたったときには、被疑者として黙秘権告知を行うことが要請されるようになっていくものと思われる )₅₃
(。 なお、すでに述べたが、従来は黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲について、捜査の状況を基準として、重要参考人概念を用いて決するものとされていた。しかし、本判決も示すように、被疑者であるか参考人であるかの区別ではなく、今後は取調べを受ける者が、黙秘権など刑事訴訟法上、﹁被疑者としての保護を受けるべきか﹂どうかに留意して、黙秘権告知の対象者の範囲を決するのが妥当であるように思われる。 なぜなら、﹁重要参考人﹂概念を用いるアプローチが主張するように、確かに、参考人であっても、立件を視野に入れ、その者の犯罪に関する取調べを行うのであれば、黙秘権告知が必要であると解すべきであろうから、﹁重要参考人﹂概念を用いて、黙秘権告知を必要とする対象者の範囲を決しようとするアプローチ(いわゆる重要参考人に対しても黙秘権告知の必要性があること)に理由がないわけではない。しかしながら、﹁重要参考人﹂概念を用いるアプローチでは、
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( )同志社法学 六六巻一号一五六 黙秘権告知が必要とされる対象者の範囲と黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力参考人と被疑者を区別する基準と黙秘権告知の要否を区別する基準との間にズレが生じていた。条文上、参考人に対しては黙秘権の告知を要しないが、被疑者に対しては告知を要すると規定されており、黙秘権告知を必要とする参考人は、想定されていない。それならば、両者の基準を一致させるべく、そもそもの出発点である被疑者の定義について再検討する方が素直な解釈である。つまり、被疑者の定義を確定した上で、どの段階まで黙秘権の告知が必要であるのかを検討するのではなく、黙秘権の意義に着目し、黙秘権の保障が必要とされる地位にあるか否かに留意して判断するべきである。すなわち、少なくとも、﹁黙秘権告知が必要な者=被疑者﹂であるとすることが、条文に沿った解釈なのである )₅₄
(。
二 黙秘権告知を欠く取調べに基づき作成された供述調書の証拠能力 黙秘権不告知と供述の証拠能力の関係については、前述のとおり、①任意性説に立ち、人権擁護の観点から、証拠能力を否定したのか、②任意性説に立った上で、判例において確立された違法収集証拠排除法則を適用して証拠能力を否定したのかいずれの理解によるかは、明らかではないが、黙秘権告知を欠いた取調べにより得られた本件警察官調書は、黙秘権を実質的に侵害して作成した違法があるとして、証拠を排除している。いずれの見解に立ったとしても、本判決が黙秘権告知の重要性を示したものと考えられよう。なぜなら、①の理解に立つ場合、人権擁護の観点から、﹁黙秘権を実質的に侵害し﹂たという黙秘権不告知がもたらした結果に着目した任意性判断を行っているが、被告人の黙秘権を具体的にどのように侵害する危険性があるかなど心理状態についての検討は加えられていないからである。そのため、任意性説に立ちつつも、黙秘権不告知の事実自体や自白採取過程の違法という客観的事情から、被告人の主観面の判断を加えているものと解することもできよう。次に、②の理解に立つ場合、違法収集証拠排除法則(最判昭和五三年九月 一五六