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(1)

【同志社大学刑事判例研究会】無断で第三者に譲渡 する意図を秘して携帯電話機の購入等を申込む行為 と詐欺未遂罪

著者 楠田 泰大

雑誌名 同志社法學

巻 67

号 6

ページ 2809‑2827

発行年 2015‑11‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015629

(2)

     同志社法学 六七巻六号二三三二八〇九 ◆同志社大学刑事判例研究会◆

東京高裁平成二四年一二月一三日判決、平成二四年(う)第一〇二一号、詐欺被告事件、高刑集六五巻二号二一頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報六三巻一=一二号二六七頁、判例タイムズ一四〇八号二七四頁

           

【事実の概要】

  被告人XとYは、共謀の上、携帯音声通信事業者であるA株式会社の承諾を得ずに第三者に無断譲渡する意図を秘して、交付されるプリペイド式携帯電話機をそれぞれ自ら利用するように装って、携帯電話機販売店からプリペイド式携

( )

(3)

    同志社法学 六七巻六号二三四 二八一〇

帯電話をだまし取ろうと考えた。平成二三年六月四日にXとY両名は、販売店のB店長に対して、自己を契約者とする通信サービス契約を締結し、またプリペイド式携帯電話機二台購入し、計四台のプリペイド式携帯電話を手に入れた。翌日も同様にして計四台のプリペイド式携帯を手に入れた(両日合わせて八台)。

  このような事案につき、第一審(東京地判平成二四年三月一七日) 1

は、﹁B店長において、被告人両名が購入するプリペイド式携帯電話機を第三者に譲渡することなくそれぞれ自ら利用するものと誤信したとは認められないし、被告人両名において、購入するプリペイド式携帯電話機を第三者に譲渡することなくそれぞれ自ら利用するように装ったとも認められない﹂として無罪を言い渡した。これに対して検察側が控訴した。

【判旨】

⑴   欺 罔 行 為 の 有 無 に つ い て

﹂。を取てしと為行正不為扱渡譲断無るす反違にり行っにてるあでからりよ明拠証係関、はとこたい もにおいて時、本当既会社業式株Aるあでつ一の者事契に件約義約義のこ、め定てしと務務のの上同様で義務約款契を 族携に帯三第の外以等者を親でいな得諾承のこ)、項話一電て機を信通声音帯携、てしそ。るいし止禁を為行るす渡譲 法条七同(者あはに合場るす渡譲三か第の外以)者るいてしらにじ諾めづ務義をとこる得をけ承通帯音声携信事業者の を約契たし入購を。)む含式機話電帯携にドイペリプ(者く対(話じ同を計生は又族親等し族親を機話電帯携該当、機   ﹁電、話電帯携式ドイペリプはを法止防用利正不話電帯機含帯の携、めたる図を等止防用め利正不の機話電帯携た携

)、帯約契スビーサ信通声音携締で間のと者るすとうよを結入と条三法同(けづ務義をこすう行を認確人本に際るし購   ﹁止事信通声音帯携、は法防者用利正不話電帯携、た業まをド。)む含を機話電帯携式イ対ペリプ(機話電帯携、しに

(4)

     同志社法学 六七巻六号二三五二八一一 さらに、携帯電話機の譲渡等に基づき契約者の名義を変更する際にも、譲受人等につき本人確認を行うことを義務づけ(譲渡時本人確認。同法五条)、この確認を行った後でなければ譲渡の承諾をしてはならない旨を定めている(同法七条二項)。そして、これらの本人確認は媒介業者等に行わせることができるものとされ(同法六条)、携帯音声通信事業者は当該媒介業者等に対して必要かつ適切な監督を行わなければならないとされている(同法一二条)。これを受けて、A株式会社においても、同法上の媒介業者等に当たる代理店に対し、﹁統一審査基準﹂と題する文書を配布するなどして、携帯電話機の販売に際しては本人確認を徹底するよう指導し、契約約款にも、購入申込者につき本人確認ができないときは申込みを承諾しないことがある旨、さらに、携帯電話機を譲り受けようとする者につき本人確認ができないときは譲渡の承諾(承認)をしない旨の定めを置いていたことは、関係証拠により明らかである﹂。

ととらかとこるあでのもす的て目をとこるせさ立成を係しるも合、あで方見の常通たし致るに理等述した上解経験則が 話携帯電を購機の入等も、まそもそ、た。るえいといし申の込提む約契な的続継る係に供関行役信通声音帯携、は為務 拠関係証こに照らせばて、てっあでのるいれさ請要てし、とのとこてみとのもたいてっなよ実の知周に既時当件本は事 無三者にこ断譲渡するを機約れこ、が者契たし入購をなと第く上自提前の然当も上令法もと約、はとこきべす用利ら契 もいるべのと理解すてるし表をとこあで思意るすでき明あか利話電帯携、にうよならるらかろことたべ述に既。用に当 者自くなとこるす渡譲無に三利第を機話電帯携るす入購ら断用に正すいおに任責のら自、てるあする思で意ること、要 、、が人本たしをみ込申申は為行む込しを。)ういと帯携も音前声い従に令法るなと提、そ者通信事業のと契約及のび 携に伴う声帯音こ通信サれ入び及購の。)ー含を機話電帯むスビて﹁契﹂等入購の機電帯携話めこ約と締結(のの二つをま 応証分身の義名己自てじみにめ求の認確人本、ばれ提をで示電え携式ドイペリプ(機話帯す携義名己自、てしどなるて   ﹁ま置携のてけ受をれこび及措音制規の上律法なうよの帯声踏社を等況状扱取るけおに会通式株Aるあで者業事信こ

(5)

    同志社法学 六七巻六号二三六 二八一二

いえる。

  そして、自己名義で携帯電話機の購入等を申し込んだ者が、真実、購入する携帯電話機を第三者に無断譲渡することなく自ら利用する意思であるのかどうか、換言すれば、本当は第三者に無断譲渡する意図であるのに、その意図を秘しているのかどうかという点は、申込みを受けた携帯音声通信事業者あるいはその代理店が携帯電話機を販売交付するかどうかを決する上で、その判断の基礎となる重要な事項といえる。関係証拠によれば、本件当時既にA株式会社においても、自己名義で携帯電話機の購入等を申し込んだ者が第三者に無断譲渡する意図であることが分かっていれば、その申込みに応じて携帯電話機を販売交付することはしないという取扱いをしていたことが認められる﹂。

﹂。と欺罔行為に当たるり解ることができるす す利用にるよう自ら帯を機話電携るれさう装にもうまつ為行く欺を人いの交罪欺詐、てしと付、為が体自為行のそ、は   ﹁渡譲と断無に者三第、こるすらかろるとたし討検上す以意機行む込し申を等入購の話図電帯携で義名己自し秘をて

⑵   B 店 長 の 認 識 に つ い て

的いのす貸にフッタスのるてはし営経、がら人告被、はで店ないいのそ、てしとたっかな目て可えというか能しか考性 まれらをて買とめいし、こ目てっもを的のから何、いるいでのた長B。るれらめ認がとこ店いし有を識認のとうろあて にの用途目使用する自己名れぞれそ、が三ら人告被で的はこく合じ通を思意にい互、なれででのるいてし入購をら、点 販日てし介をCの員店に時一計、え加にとこるいてし売合目六を台し付交括一にY人告被た機イ話プリペのド式携帯電 目てし対に名両人告被に二日二、つず台れぞれそてしそれぞリにを機話電帯携式ドイペプれの台〇一計合、つず台二対   ﹁)名判公審原がX(Zび及両協人告被に目日、一は長店で力者一用引内弧括:物人の人うをもたいてし述供とため求B

(6)

     同志社法学 六七巻六号二三七二八一三 が正当なものであると信じていたかのように証言しているが、そのように限定して考え、無関係の第三者に無断譲渡する目的を有している可能性を考えなかったことについて合理的理由が説明されているとはいえない﹂。また、﹁その他、所論が種々指摘するところを検討しても、この点に関するB店長の証言をそのまま信用することはできないとした原判決の判断が不合理であるとまではいえない。このようにみてくると、B店長は、被告人両名が第三者に無断譲渡する意図であることに薄々感づいていながら、たとえそうであったとしても構わないとの意思でプリペイド式携帯電話機を販売交付したのではないかとの合理的疑いを払拭できない。つまり、B店長が被告人両名にプリペイド式携帯電話機を販売交付したのは錯誤によるものであると認めるには合理的疑いが残るといえる﹂。

⑶   詐 欺 未 遂 罪 の 成 立 に つ い て

﹂。をと定することに合理的疑い認差しるえいといなは地余む挟 る携帯電利話機を自らされ図付交、し秘を意るす渡譲す用うる、よた当に為行罔欺がれこるてとるあでのもたっ装にみ て照らしわ不合理とい等にの則験経、はるみとたっかるざてを名得無に者三第、は為行の断両た人な。しいがっ、被告 信等誤とるあでみ込申の電入購の機話帯携な当正、るがす分具めならす性険危の体、れらそ認はと危険性的十にあった い者当担の店理代のそはるることす照にどなとま被どとにたしをみあ、ら告携者業事信通人音帯声、行名の両為により る、で囲範の限制数台売販内けおに社会式株Zたし述日一、にそ込申そつず台四計合れぞれので台間れれ二ぞずつ二日 るこ入いでん込し申を等帯購の機話電携で義名己自にとみ加電ぞ前、もてを数台の機話帯え携る係にみ込申のそ、てれ   ﹁れり応にめ求の認確人本、おてとの述前、は名両人告じそそ提、で上たしどなるす示をれ証分身の義名己自れぞ被

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    同志社法学 六七巻六号二三八 二八一四

【評釈】

一  問題の所在   詐欺罪が成立するための客観面としては、欺罔行為↓相手方の錯誤↓財物の交付またはその他の財産的処分行為↓財物または財産上の不法の利益の取得があり、それぞれが因果関係を有することが必要である

)2

。本件においては、プリペイド式携帯電話機を第三者に無断で譲渡するという被告人らの意思に、販売店の店長Bが気づいていなかったということに合理的疑いが残る、すなわちプリペイド式携帯電話機の交付は錯誤に基づくものではないとされた。したがってここでは詐欺既遂罪が成立せず、XとYの無断でプリペイド式携帯電話機を第三者に譲渡する意図を秘して、自己名義での携帯電話機の購入等を申し込む行為が欺罔行為にあたり、詐欺未遂罪が成立するか否かが問題となる。

二  欺罔行為   欺罔行為とは、﹁財物交付に向けて人を錯誤に陥らせる行為をいい、相手方が財産的処分行為をなすための判断の基礎となる事実を偽ること、すなわち、相手方がその点を錯覚しなければ財産的処分行為をしなかったであろうような重要な事実を偽ること﹂ 3

と解される。本件に関していうと、第三者に無断譲渡することなく、交付される携帯電話機を自ら利用するものであると、販売店の店員に誤信させるものかどうかということになろう。この点、Xらは﹁自分で携帯電話を使用する﹂﹁第三者に無断譲渡する意図はない﹂というように述べるなどして、積極的にその意図を外部に表示いたわけではない。そのため、Xらの行為はなんら人を欺いているとはいえないとも解しうるところである。したがっ

(8)

     同志社法学 六七巻六号二三九二八一五 て、第三者に無断譲渡する意図を秘して携帯電話機の購入等の申込みをする行為が、携帯電話の自己使用の意図を通常伴っているといえ、態度・挙動による欺罔として評価しうるのかどうかが問題となる 4

⑴   態 度 ・ 挙 動 に よ る 欺 罔

  態度や挙動による欺罔行為としては、無銭飲食・無銭宿泊行為が挙げられる 5

。また、近時の本判決の参考になる判例としては、預金通帳を第三者に譲渡する意図を秘して、自己名義の預金口座の開設等を申し込み、預金通帳やキャッシュカードの交付を受けた事案について、﹁預金通帳及びキャッシュカードを第三者に譲渡する意図であるのにこれを秘して上記申込みを行う行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかなら﹂ないとしたもの 6

や、他者を搭乗させる意図を秘して、自己についての搭乗券の交付を請求し、搭乗券の交付を受けた行為について、﹁自己に対する搭乗券を他の者に渡してその者を搭乗させる意図であるのにこれを秘して本件係員らに対してその搭乗券の交付を請求する行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかなら﹂ないとしたもの 7

、暴力団であることを秘してゴルフ場の利用申し込みをした行為について、﹁入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上、利用客が暴力団関係者かどうかは、本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかなら﹂ないとしたもの 8

、同種の事案について﹁暴力団関係者であるビジター利用客が、暴力団関係者であることを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名を含む所定事項を偽りなく記入した﹃ビジター受付表﹄等をフロント係の従業員に提出して施設利用を申し込む行為自体

(9)

    同志社法学 六七巻六号二四〇 二八一六

は、申込者が当該ゴルフ場の施設を通常の方法で利用し、利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められず、本件各ゴルフ場の各施設利用申込み行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである﹂としたもの

)9

が挙げられる。なお、本判決と同じく無断で第三者に携帯電話を譲渡する意図を秘して携帯電話購入等の申し込みをした事案としては、大阪地判平成二三年二月一四日・仙台地判平成二三年六月一三日・京都地判平成二四年一月一〇日・東京地判平成二五年二月二一日の四件があり、いずれも詐欺罪の構成要件該当性は認められているようである ₁₀

  被告人らの行為が態度や挙動による欺罔行為として評価しうるかどうかの前提として、この行為の持つ意味が問題となろう。本件被告人らの行為について、原審は、携帯電話不正利用防止法が、親族または生計を同じくする者に無断譲渡をすることを禁じておらず、個人的・一時的な貸与することも禁じていないこと、A社においてはプリペイド式携帯を一人につき五台まで販売を許容しており、複数台購入する客に対してその理由を聞くよう指導することもしていないこと、店長B自体、被告人ら以外の者が利用することを想定しながら、プリペイド式携帯を売っていたことを挙げ、プリペイド式携帯電話については、契約者本人に利用されるべきことが契約上も法令上も当然の前提とされているわけではないとし、さらに同一店舗において二日間連続で一人四台も購入する行為自体、契約者以外の者の利用を示唆していることや、被告人らが店員に対して﹁自分で使うんじゃないから別に何色でもいい﹂と言ったことを認定して、被告人らが自らプリペイド式携帯電話を利用するように振舞っていたとはいえないとした。

  他方で本判決は、携帯電話不正利用防止法が無断で第三者に携帯電話を譲渡することを禁止しており、A社においても無断譲渡行為を不正行為としていること、携帯電話不正利用防止法を受けて、A社においては同法上の媒介業者等にあたる代理店に対して、本人確認を徹底するように指導し、携帯電話を譲りうけようとする者につき本人確認ができな

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     同志社法学 六七巻六号二四一二八一七 いときには譲渡の承諾をしない旨の定めを契約約款においていたこと、上記二つを前提とすると法律上及び契約上、携帯電話の自己使用が要請されており、そのことは本件当時周知の事実となっていたから、本人確認の求めに応じてプリペイド式携帯電話購入する行為は、自ら利用する意思であると示していることから、被告人らの行為は当該携帯電話を本人が利用するという意思を表しているとした ₁₁

  このような本判決の理解に対しては、事後に不正な行為を行うことを告知する義務を行為者に課すということは考えられず、財物取得の段階で﹁事後に適法な行為を行うこと﹂を行為者が表示しているとの解釈も困難であり、携帯電話不正利用防止法には、携帯電話は契約者自身が利用すべきであるとの直截な明文規定は存在せず、契約者自身が利用する旨の表示があったとはいえないとし、可罰的な行為として類型化されているわけではない携帯電話の無断譲渡のような行為を一般的に詐欺罪として取り込むことは妥当ではないと批判されている ₁₂

。しかしながら、個人間での携帯電話の無断譲渡が処罰されていない ₁₃

ことは詐欺罪の成否とは無関係であり、携帯電話不正利用防止法が事業者に契約締結時及び契約者による他人への譲渡時に本人確認を義務づけ(三条・五条)、契約者が他人に譲渡する場合にはあらかじめ事業者の承諾を得なければならない(七条二項)としているのは、携帯電話機の把握を徹底して匿名の電話機を排除し、ひいては振り込め詐欺等の犯罪に携帯電話が用いられるのを防止することにあることに鑑みると、例外を除けば、本人による利用が前提とされていると解するのが自然であるように思われる ₁₄

。もちろん、携帯電話不正利用防止法の解釈自体が、欺罔行為の成否にあたって決定的であるわけではない。第三者への無断譲渡の禁止が一般に知られていなければ、被告人らの行為がそのような無断譲渡しない意思を含んでいるとは言い難いからである。この点、本件当時において、プリペイド式携帯電話が振り込め詐欺等に用いられていることは周知の事実であり、契約時において本人確認がなされていることからして、携帯電話を無断で第三者に譲渡することが禁止されていることは、社会において当然の前提とな

(11)

    同志社法学 六七巻六号二四二 二八一八

っていたといえよう ₁₅

。そうだとすると、本件被告人らの行為をことさら不作為と解する必要はなく、態度・挙動による欺罔として評価しうるであろう。その意味で、被告人らの行為は、自ら携帯電話を利用するという意思表示を含むとした本判決の結論は妥当である。

  ただし、被告人らの行為が上記のような偽った意思表示をなすものであるとしても、それを欺罔行為と評価するにはまだ不十分である。この行為が欺罔行為(実行行為)と評価されうるためには、財産上の損害を生じさせうるものでなければならない。

⑵   財 産 上 の 損 害

  財産上の損害について、判例は、市版で容易に手に入る電気あんま器を一般には入手困難な特殊治療器であるように偽ったが、その価格自体は相当であった事案 ₁₆

について﹁たとえ価格相当の商品を提供したとしても、事実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において、ことさら商品の効能などにつき真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は、詐欺罪が成立する﹂として、相当価格の反対給付をした場合でも詐欺罪の成立を認めている。判例は、欺かれなければ交付しなかったであろう財物を結果的に交付したということを財産上の損害と捉えていると理解されてきた ₁₇

。しかし、たとえば、汚泥が正規に処理された旨記載された内容虚偽の建設業汚泥排水処理券を作成した上、これを真正なもののように装って提出し、処理券は真正で、汚泥はすべて正規に処理された旨誤信させて工事完成払金として七二八八万円を本来よりも早く受領した事案 ₁₈

について最高裁は、﹁請負人が本来受領する権利を有する請負代金を欺罔手段を用いて不当に早く受領した場合には、その代金全額について刑法二四六条一項の詐欺罪が成立することがあるが、本来受領する権利を有する請負代金を不当に早く受領したことをもって詐欺罪

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     同志社法学 六七巻六号二四三二八一九 が成立するというためには、欺罔手段を用いなかった場合に得られたであろう請負代金の支払とは社会通念上別個の支払に当たるといい得る程度の期間支払時期を早めたものであることを要すると解するのが相当である﹂としており、実質的な損害がない場合には詐欺罪の成立を否定(詐欺罪の成立に実質的な財産上の損害を要求)しているとも解しうるところであり、評価が分かれてい ₁₉

₂₀

  詐欺罪の財産上の損害について学説は、詐欺罪が個別財産に対する罪であることを前提に、財産的損害を個々の占有ないし財産上の利益の喪失であるとする形式的個別財産説 ₂₁

、個別的な財産の喪失について実質的な損害が生じていることを要するとする実質的個別財産説 ₂₂

、詐欺罪も背任罪と同様に全体財産に対する罪であるとする全体財産説 ₂₃

が対立している。なお、形式的個別財産説と実質的個別財産説の対立が、錯誤に基づく交付行為があった場合に財産上の損害という結果の観点から制限を加えるか否かという点にある、と捉えるのは必ずしも正確ではないように思われる。というのも、もし実質的個別財産説が欺罔行為とそれにもとづく錯誤による交付を認めながら、財産上の損害を否定するという見解であれば、それはもはや個別財産の喪失の有無ではなく、全体財産を問題にしていることと変わりないからである ₂₄

。結局のところ、実質的個別財産説は、なにかしらの観点から錯誤の内容を実質的な損害に関わるものに限定しようとする見解であるといえる ₂₅

。したがって、形式的個別財産説と実質的個別財産説の対立の本質は、欺罔行為の内容をいかに解するかにあるのである ₂₆

  相手方が錯誤に陥らなければ財産的処分行為を行わなかったであろうという関係が認められれば、財産上の損害を肯定する形式的個別財産説からは、他人に無断譲渡する意図が、財物交付にあたっての重要な事実であったかどうかが問題となろう。次に、実質的個別財産説に関しては、何をもって実質的な損害をもたらす錯誤と捉えるのかについて、被欺罔者が財産処分により達成しようとした目的が達成されなかったことに求める見解 ₂₇

や客観化可能で具体的給付に内在

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    同志社法学 六七巻六号二四四 二八二〇

し、かつ経済的に重要な目的に関する錯誤に求める見解 ₂₈

、財物・財産上の利益そのものについての経済的価値に錯誤がなくても、付随的に発生する経済的損害について錯誤があれば、その錯誤に基づいた財産処分そのものが損害であると認められることに求める見解 ₂₉

等が主張されているところである。実質的個別財産説によると、本件において欺罔行為が認められるか否かは、その実質的損害の捉え方如何によるものとなろう。全体財産説からは相当対価を払っている以上、本件において財産的損害は認められないのではないかという指摘がなされている ₃₀

が、全体財産説から前述の最決平成一九年七月一七日刑集六一巻五号五二一頁において、名義人と利用者が異なることから、預金通帳が振り込め詐欺やマネーロンダリング等の犯罪に用いられ、そのような事態に対処するために銀行が多大な経済的負担を負うことになっているという点に財産的損害を認められるとしており ₃₁

、本件のような事案でも財産的損害を肯定する余地もあると考えられる。

  本判決は結論において詐欺未遂罪の成立を肯定したが、これについて実質的個別財産説の立場から評価が分かれている。携帯電話が身元不明者によって悪用されると、それに対処するための経済的負担が事業者側に発生するといえることから、財産上の損害が生じえた ₃₂

として肯定的な評価もなされている。一方で、営利性や公共性等に基づいて企業の信頼低下を前倒し的に損害と捉えると、損害概念が財産犯としての限定解釈機能を果たさず、全体財産に対する罪への接近を許し、一般国民および行為者に詐欺罪処罰の公正な告知を与えられないといったことになりかねず、振り込め詐欺等の他の犯罪への道具供給阻止のために詐欺罪を予備罪化することは避けるべきである ₃₃

とか、携帯電話機の真の利用者が誰なのかを把握する利益が、財産的利益であり、このような利益の侵害が経済的利益の損害との評価は疑問である ₃₄

という批判がなされているところである ₃₅

  実質的個別財産説が、財産上の損害の観点から欺罔行為について制限を加え、詐欺罪の成立を限定しようとする点は

(14)

     同志社法学 六七巻六号二四五二八二一 評価に値するものの、一項詐欺は具体的な財物に対する奪取罪(占有移転罪)であり、その保護法益は財物の占有にあると解するべきであるから、やはり個々の財物の占有の侵害を問題とする形式的個別財産説が妥当であろう。したがって、既述の通り、形式的個別財産説からすると、本件において欺罔行為が認められるか否かについては、無断で第三者に携帯電話を譲渡するということが、販売店にとって財物交付の可否の判断に関する重要な事実であるかどうかが問題となる。

⑶   重 要 な 事 実

  本判決は、本件販売店において﹁自己名義で携帯電話機の購入等を申し込んだ者が第三者に無断譲渡する意図であることが分かっていれば、その申込みに応じて携帯電話機を販売交付することはしないという取扱いをしていたことが認められる﹂と認定している。しかし、販売店の現実的な関心はあくまで携帯電話機の販売による売り上げの確保であり、真の占有者が誰なのかという点は販売店にとってさしたる関心事ではないと思われること ₃₆

や、銀行等に比べると本件の交付者・被害者である販売店は店頭での対応にばらつきがあると考えられること ₃₇

から、交付の判断となる重要な事実といえないのではないかという指摘もなされている。

  この辺りは事実認定次第なところではあるが、少なくともB店長が被告人らの意図に気づいていたという点は、第三者への無断譲渡の意図が販売店の店員一般にとって重要な事実であることを否定することに、必ずしも繋がらないように思われる。というのも、被告人らの中には暴力団関係者も含まれており、重要な事実についての偽りに気づいたとしても、下手に指摘してトラブルが起きるのを避けるために、気づかないふりをして交付したということも考えられうる。   また、販売店ごとに取り扱いが異なっていたとしても、当該欺罔の内容が重要な事実にあたるかどうかは、一概に否

(15)

    同志社法学 六七巻六号二四六 二八二二

定されないであろう。たとえば、前述の暴力団であることを秘してゴルフ場の利用を申し込んだ事案につき、最判平成二六年三月二八日刑集六八巻三号六四六頁(長野事件)において、欺罔行為が認められた一方で、同種の事案の最判平成二六年三月二八日刑集六八巻三号五八二頁(宮崎事件)では、欺罔行為が否定された。宮崎事件においては、暴力団関係者の利用を拒絶する看板を設置していたが、それ以上の措置を講じておらず、同種の看板を設置している他のゴルフ場においても、実際には暴力団関係者の利用を許可・黙認しているところが多数あり、被告人らも同様の経験をしており、また本件当時、ゴルフ場において警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではなかった。他方、長野事件においては、ゴルフ場利用約款に暴力団員の入場および施設利用を禁止する旨を規定し、入会審査にあたって暴力団関係者を同伴・紹介しない旨の誓約を書かせていたほか、長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上、予約時または受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいた ₃₈

。このように、重要な事実といえるか否かは、具体的状況下において決せられる、すなわち、当該販売店にとって重要であったかどうかによって判断されることになるのである。

  これに対しては、確かに、実行行為性の判断は類型的な判断であるから、重要な事実かどうかは、当該事実が販売店一般において重要な事実となっているかどうかが問題であるとも考えうるところである。しかし、一項詐欺が個々人の物に対する占有を保護しており、その物の使用・収益・処分は所有者の自由である以上、重要な事実の判断については、やはり被欺罔者(本件では当該販売店)にとって重要であったかが問われなければならない ₃₉

。結局のところ、本件事実認定を前提とする限りでは、無断で第三者に譲渡するかどうかは本件販売店にとって財物交付の判断についての重要な事実といえる。そして、被告人らの行為が具体的な状況下で一般人を錯誤に陥らせる具体的危険性があれば、欺罔行為

(16)

     同志社法学 六七巻六号二四七二八二三 を肯定しうる ₄₀

ので、被告人らの行為は欺罔行為(実行行為)に該当するといえ、店長Bが被告人らの意図に薄々気づいており、錯誤に陥っていないという合理的疑いがあるとしても、詐欺未遂罪の成立は否定されないというべきであろう ₄₁

。また、それは結論においても妥当である。

三  おわりに   本判決は、不正な第三者への無断譲渡の意図を秘して携帯の申込みを行う行為が、詐欺罪における欺罔行為にあたるとしたひとつの事例判決にすぎないが、前述の最決平成一九年七月一七日(刑集六一巻五号五二一頁)、最決平成二二年七月二九日(刑集六四巻五号八二九頁)等の延長線上にある判決といえ ₄₂

、これまでであれば詐欺罪とはされなかったであろう行為を、詐欺罪で捕捉する流れの一端であるとも考えられる。その意味で、時代の潮流を示すものとして重要であるといえよう。

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    同志社法学 六七巻六号二四八 二八二四

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参照

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