九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
低級エステル化合物を原料とした環境調和型化学反 応の開発
中武, 大貴
http://hdl.handle.net/2324/2236163
出版情報:九州大学, 2018, 博士(創薬科学), 課程博士 バージョン:
権利関係:やむを得ない事由により本文ファイル非公開 (3)
(様式5)
氏 名 :中武 大貴論文題名 :低級エステル化合物を原料とした環境調和型化学反応の開発
区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
安価で入手容易な化学原料を用いた環境調和型化学反応は、有用化合物の合成における地球環境 負荷の最小化と経済性の最大化を目指すグリーンケミストリーにおいて重要な研究課題である。本 論⽂では、安価で⼊⼿容易な低級エステルを原料とした環境調和型化学反応についての研究成果を 報告する。第⼀章では、エステル交換反応に⽤いる⾼機能亜鉛触媒の開発研究についての内容を報 告する。第⼆章では、亜鉛触媒を⽤いた低級不飽和エステルと⾼級アルコールのエステル交換反応 の開発研究についての内容を報告する。第三章では、チオノエステルを⽤いた分⼦間ヘテロ双極⼦
環化付加反応の開発研究についての内容を報告する。それぞれの実験⽅法や化合物データは実験項 に記載する。
第一章に記載する触媒的エステル交換反応は、医薬化学や材料⼯学分野に利⽤される⾼級エステ ル化合物を環境調和的に合成する優れた⼿法である。しかしながら、本反応に利⽤されてきた従来 の⾦属触媒は、毒性やコストや着⾊性などの問題を抱えていた。⼀⽅で、当研究室は低毒性かつ安 価で無着⾊性の亜鉛を⾦属種とした亜鉛四核クラスター触媒1を開発しているが、触媒活性や再利⽤
性などにおいて改良の余地を残していた。また当研究室は、含窒素配位⼦が亜鉛四核クラスター1 の触媒活性を⼤幅に向上させることを報告しているが、依然として亜鉛四核クラスター1の潮解性や 触媒の再利⽤性に課題を残していた。以上の背景のもと、私は亜鉛触媒と含窒素配位⼦の錯体形成 による亜鉛四核クラスター1の改良研究を⾏い、トリフルオロ酢酸亜鉛–ビスイミダゾール配位⼦錯 体2の開発に成功した。さらなる検討の結果、本亜鉛錯体2が従来の亜鉛四核クラスター1よりも⾼い 安定性や触媒活性、化学選択性を⽰すことを⾒出した。続いて、私は亜鉛触媒と固相担持した配位
⼦との錯体形成によって固相触媒の開発研究を⾏い、トリフルオロ酢酸亜鉛とイミダゾール担持ポ リスチレン樹脂を⽤いて亜鉛担持型固相触媒3の開発に成功した。様々な検討の結果、本固相触媒3 は優れた再利⽤性と汎⽤
性を有しており、固相表
⾯において触媒作⽤を⽰
すことを確認した。これ ら第⼀章に記載する⾼機 能亜鉛触媒の開発研究に よって、触媒的エステル
OR2 O R1 OMe
O
R1 + HOR2
亜鉛四核ク ラ スタ ー 1
エ ステル交換反応
Zn(OCOCF3)2
亜鉛錯体 2
固相触媒 3 昇華 ビ スイ ミ ダゾール配位子
亜鉛触媒
先行研究
N N N N
tBu
N N
本研究成果
ビ スイ ミ ダゾール配位子
イ ミ ダゾール担持樹脂 イ ミ ダゾール担持樹脂
第一章 エ ステル交換反応に利用する 高機能亜鉛触媒の開発
錯体形成
交換反応の環境調和性および汎⽤性の向上に貢献した。
第二章において、私は亜鉛触媒を 低級アクリル酸エステルと高級アル コールのエステル交換反応に適用す る検討を行った。⾼級アクリル酸エ
ステルは機能性アクリル樹脂製品の原料であり、⼯業規模において⼤量に合成されているにも関わ らず、アシル化や脱⽔縮合等の従来の⾼級アクリル酸エステル合成法は環境調和性や基質⼀般性な どに課題を抱えていた。⼀⽅、低級アクリル酸エステルと⾼級アルコールのエステル交換反応は⾼
い環境調和性を⽰す有⽤な⾼級アクリル酸エステル合成法であるが、強酸や強塩基触媒を⽤いた報 告例が多く、基質⼀般性に改善の余地を残していた。また、本反応に有機触媒や⾦属触媒を⽤いた 報告例があるが、副反応として1,4-付加反応が競合する点に課題を抱えていた。そこで私は、亜鉛 触媒を⽤いた際の想定活性種である亜鉛アルコキシド中間体のハード求核性に着⽬し、低級アクリ ル酸エステルを⽤いた化学選択的なエステル交換反応について検討を⾏った。その結果、亜鉛四核 クラスター1/含窒素配位⼦系が本反応に対して優れた化学選択性を⽰し、多様な⾼級アクリル酸エ ステルの合成に適⽤可能であることを⾒出した。
第三章の研究において、私は低級エス テルの新規⽤途開発を⽬的として、低級 エステルの硫⻩化によって得られるチ オノエステルを⽤いた分⼦間ヘテロ双 極⼦環化付加反応について検討を⾏っ た。カルボニル化合物を⽤いたヘテロ双
極⼦環化付加反応は、医薬化学分野等において有⽤な複素環化合物を効率的に合成する⼿法である が、チオカルボニル化合物は⼀般に不安定で汎⽤性に乏しいため、本⼿法を⽤いた含硫複素環化合 物の合成法は発展が遅れていた。様々な検討の結果、チオノエステルとドナーアクセプターシクロ プロパンとの分⼦間環化付加反応の開発に成功した。さらに、環化付加体のアセタール構造の⽴体 選択的な変換を達成し、チオノエステルがチオアルデヒドやチオケトンの代替品として利⽤できる 可能性を⾒出した。本研究において、私は安価で⼊⼿容易な低級エステルの硫⻩化によって得られ るチオノエステルが、含硫親双極⼦として有⽤であることを⽰した。今後、多様な含硫複素環化合 物への応⽤展開が期待される。
上記のように、私は安価で入手容易な低級エステルを原料とした既存の化学反応に使用する触媒 の改良および新規化学反応開発に関する研究を行った。詳細な検討結果は本文に記載する。