プラ イバ シー の権 利と 表現 の自 由︵ 一︶
阪 本 昌 成
は じ め に︱
︱本 稿の 問題 設定 第一 章 異例 の法 制と して のプ ライ バシ ー法 第二 章 自由 な情 報流 通の 国︱
︱例 外の 国ア メリ カ 第三 章 プラ イバ シー 権を se co nd ar yr ig ht だと する 国︱
︱例 外の 国ア メリ カ 第四 章 プラ イバ シー 権の 履歴
︵以 上、 本号
︶ 第五 章
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ と表 現の 自由 第六 章
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ にお ける 法準 則 第七 章
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ と不 法行 為︱
︱p ri ma fa ci ec as eの 要件 第八 章 公衆 の関 心事 Pu bl ic In te re st また はp ub li cc on ce rn お わ り に
は じ め に︱
︱本 稿の 問題 設定
ઃ
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ 型プ ライ バシ ー侵 害
⑴ プラ イバ シー
︵権 は︶
、わ が国 の実 定法 上の 根拠 規定 を欠 くだ けで なく
、そ の意 義や 実体 につ いて すら
、法 学界 に合 意が ない
。に もか かわ らず
、わ が国 の判 例・ 学説 は、 プラ イバ シー 保護 に積 極的 で、 実際
、そ の保 護領 域 は実 に広 範囲 とな って きて
( )
いる
。そ れど ころ か、 学説 のな かに は、 不法 行為 法上 のプ ライ バシ ー権 を、 結果 不法 の 救済 にと どめ る法 原則 に満 足し ない で、 情報 プラ イバ シー
︵い わゆ る自 己情 報コ ント ロー ル権 ま︶ で保 障す るこ とが 望ま しい かの よう な論 調に でる もの もみ ら
( )
れる
。 本稿 で私 は、
︽わ が国 の判 例・ 通説 はプ ライ バシ ー保 護に 傾き すぎ てい る︾ と論 じて いく が、 この 主張 を一 般化 する つも りは ない
。本 稿は あく まで
、表 現の 自由 と対 立す る局 面で ある
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂
︵p ub li cd is cl os - ur eo fp ri va te
( )
fa ct s︶ とい う伝 統的 な不 法行 為法 上の プラ イバ シー 事案 に焦 点を 絞っ て、 この 傾向 を批 判し てい く。 批判 にあ たっ て本 稿は
、
︽わ が国 の判 例・ 通説 は、 プラ イバ シー 概念 を広 範囲 に拡 大し すぎ てい る︾
、 その た め、
︽表 現の 自由 とプ ライ バシ ーと の対 立の 調整 に、 不法 行為 の成 立要 件の 析出 の段 階で 失敗 して いる
︾、
!︽ 免責
("
)
事由 の段 階で の調 整に も成 功し てい ない
︾、 とい う点 を論 証し てい く。 論証 にあ たっ て本 稿は
、ア メリ カに おけ る 不法 行為 プラ イバ シー の概 念、 成立 要件
、免 責事 由等 と日 本法 の現 状を 比較 対照 する
。
⑵ 本稿 のこ の展 開の 裏に は、 本稿 の主 題と 関連 する
、次 の二 点に つい ての 私の 危惧 が隠 され てい る。 第一 は、
$自 己情 報コ ント ロー ル権 とし ての プラ イバ シー が公 式の 権利 とな った とき には
、表 現の 自由 はさ らに 危機 に瀕 す るだ ろう
%と いう 危惧 で
(&
)
あり
、第 二は
、﹁ 氏名
・肖 像等 の無 断利 用﹂ 事案 にお ける 日本 法の プラ イバ シー 概念 も拡 大さ れて おり
、こ れも 表現 の自 由と の調 整問 題を 真剣 に受 け止 めて いな いの では ない か、 とい う危 惧で
(' )
ある
。
本稿 は、 情報 プラ イバ シー およ び氏 名・ 肖像 等の 無断 利用 の問 題点 には 直接 ふれ ない
。本 稿の いう
﹁プ ライ バシ ー﹂ とは
、私 生活 上の 利益 と関 連す る、 不法 行為 法上 の伝 統的 な意 味で 用い るこ とと する
︵情 報プ ライ バシ ーと の 区別 を明 確に する ため に、 本稿 は、
﹁不 法行 為プ ライ バシ ー﹂ との 表記 にで る︶
。ま た、 不法 行為 プラ イバ シー の隣 接分 野で ある 名誉 毀損 の問 題点 も採 りあ げる が、 これ も、 原則 とし て、 不法 行為 法領 域を 指す
。
プラ イバ シー
︵権
︶の 脆弱 さ
⑴ わが 国の 場合
、実 定法 上の 明文 規定 を欠 くプ ライ バシ ー︵ 権︶ は、 名誉 毀損 とい う明 文規 定に よっ ても 保護 され てき てい るこ とを 考え ると
、プ ライ バシ ー概 念を 不法 行為 法に 持ち 込む こと 自体 が不 要な のか もし れな い。 特 に、 表現 の自 由と 対立 する プラ イバ シー 関連 のわ が国 裁判 例を みる と、 私は
、わ が国 のプ ライ バシ ー概 念の 捉え 方 を$ 有害 無益
%だ とい いた くな って くる
。こ の点 の詳 細な 理由 を、 プラ イバ シー 権の 母国
、ア メリ カに おけ るプ ラ イバ シー 権論
︵判 例・ 学説 を︶ 参照 しつ つ日 本法 に照 射し て、 明ら かに して いく こと が、 本稿 のね らい であ る。
⑵ 日米 とも に、 プラ イバ シー
︵権 の︶ 歴史 は、 名誉 権と 比べ れば
、実 に短 い。 実際 のと ころ
、プ ライ バシ ー権 は、 その 母国
、ア メリ カに おい てさ え、 確固 とし た基 盤に 支え られ ては いな いの であ る。 その 証左 は、 次の とお りで ある
。 第一
。プ ライ バシ ー事 案と して 処理 され てき た判 例に は、 何ら の統 一性 はな く、 雑多 な法 益の 寄せ 集め にす ぎな い、 との コメ ント は不 法行 為法 の大 家、 W・ プロ ッサ ー︵ W. Pr os se r︶ をは じめ とし て、 今で も消 え去 るこ とが
(* )
ない
。後 にも ふれ るよ うに
、プ ロッ サー の四 類型
︱︱
①私 生活 上の 事実 の公 表︵ pu bl ic di sc lo su re of pr iv at ef ac ts
︶、
②私 事へ の侵 入︵ in tr us io ni nt op ri va te af fa ir s︶
、③ 誤認 を生 ぜし める 公表
︵p ub li ci ty pl ac in go ne in fa ls el ig ht
︶、
④氏 名・ 肖像 等の 営利 的無 断利 用︵ ap pr op ri at io no fn am eo rl ik en es s︶
︱︱ は、
$プ ライ バシ ー権 の侵 害だ
%と され てき た
判例 には
、統 一的 な法 益が 発見 でき ない から こそ
、侵 害方 法を 記述 して みよ うと いう 視点 から 雑多 な先 例を 束ね て
(, )
みた
、と いう 成果 であ る。 第二
。ア メリ カの 相当 数の 学者 は、
﹁プ ライ バシ ー権
﹂を 法哲 学的 に精 査し たと き、 そこ には 確固 たる 論拠 が欠 けて いる
、と 論じ て
(- )
いる
。あ る者 は、 li be rt yと して 論ず れば 足る と
( )
いい
、別 の論 者は pr op er ty ri gh tと して 論ず
10
べき だと いう かと 思
( )
えば
、さ らに 別の 者は co nf id en ti al it yに 代替 させ るほ うが よい と
( )
いい
、ま たあ る者 は、 プラ イ
11
12
バシ ーは 明ら かに 誤記 であ り、 人間 の尊 厳に 書き 換え るべ
( )
きだ
、と いう よう に。
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第三
。ア メリ カの 五〇 州の うち
、判 例法 また は制 定法 によ って
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ を不 法行 為と して いる のが 四一 州。 残り の州 は、 プラ イバ シー 概念 の曖 昧さ を理 由に
、成 立を 拒否 して いる
︵ヴ ァー ジニ ア、 ミネ ソタ
、ネ ブラ スカ
、ニ ュー ヨー ク、 ノー スキ ャロ ライ ナの 五州 は、 この タイ プを 不法 行為 とす るこ とを 明確 に拒 否し てい る、 とい う。 ちな みに
、プ ライ バシ ー侵 害の 四類 型す べて を、 判例 法ま たは 制定 法に よっ て、 不法 行為 とす る法 域は
、五 四の うち 二 九だ と
( )
いう
。︶ この 慎重 な態 度の 背景 には
、表 現の 自由 との 対立 問題 が流 れて いる
︵本 稿は
、こ の点 の詳 細を 次第 に論
14
じて いく だろ う︶
。特 に注 意す べき は、 承認 州に おい ても
、﹁ 私生 活上 の事 実の 公表
﹂が 不法 行為 にあ たる と判 断さ れる こと は、 極め て少 ない とい う点 で
( )
ある
。
15
અ
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ の不 法行 為
⑴ 連邦 最高 裁ま で争 われ た﹁ 私生 活上 の事 実の 公表
﹂事 案は
、数 少な く、 サン プリ ング に不 十分 では ある が、 連邦 最高 裁に おい て、 プラ イバ シー 権の 側が 勝利 した 例は
( )
ない
。こ のタ イプ の事 案は
、真 実情 報の 公表 につ き法 的
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責任 を問 おう とす るも ので ある だけ に、 最高 裁判 例は
、表 現の 自由 また は自 由な 情報 流通 保護 との 対立 に神 経質 と なっ てい る︵ アメ リカ 法は
、虚・ 偽・ 情・ 報・ の・ 公・ 表・ が原 告の go od re pu ta ti on を毀 損す るこ とを 名誉 毀損 とし て法 処理 し、 真・ 実・ 情・
報・ の・ 公・ 表・ が原 告を あま りに em ba rr as sさ せる とき 典型 的な プラ イバ シー 侵害 とし て法 処理 する ので ある
︶。 連邦 最高 裁判 例は
、次 章で ふれ るよ うに
、﹁ 異形
﹂の
︵o dd ly 不︶ 法行 為領 域で ある 名誉 毀損 法を
、表 現の 自由 の 観点 から みて
、正 常化 させ よう とし た。 この 最高 裁の 姿勢 は、 真偽 の判 断の つき がた い言 明に つき
、被 告に 真実 性 の証 明を 負担 させ てお きな がら も、 原告 には
、そ の被 る損 害の 証明 も被 告側 の fa ul tも 証明 不要 とし てい る法 制 を、 表現 の自 由に とっ て危 険だ
、と みた こと と関 連し て
( )
いる
。ア メリ カの 名誉 毀損 の不 法行 為法 は、 不法 行為 法の
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なか では 異形 だっ たの であ る。
⑵
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ の不 法行 為法 は、 名誉 毀損 法よ りも
、も っと 異形 とな って いる
。こ の疑 義が
、ア メリ カの 法学 者全 般に 行き わた って いる
。あ る論 者は
、不 法行 為法 理論 の本 質か ら外 れた
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ 事案 は、 不法 行為 から 消え 去る だろ う、 とま で予 言
( )
した
。こ の予 言は 的中 した とは いい がた いも のの
、別 の論
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者は
、︽ 連邦 最高 裁判 決を みる と、 消滅 のサ イン がい くつ か発 信さ れて いる
︾と
( )
いう
。
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名誉
・プ ライ バシ ーの 不法 行為 のど こが
、異 形だ とい うの か、 そし て、
﹁私 生活 上の 事実 の公 表﹂ の不 法行 為の どこ が格 別に 異形 だと いう のか
。表 現の 自由 にと って
、ど の点 が危 険だ とい うの だろ うか
。
( ) 後掲 注︵
︶参 照。 105 ( ) この 点に つい ては
、後 掲注
︵
︶と 注︵
︶で ふれ る裁 判例 およ び学 説を 比較 せよ
。 105
136 ( )﹁ 私生 活上 の事 実の 公表
﹂は
、論 者に よっ ては
﹁私 生活 の公 表﹂ また は﹁ 私事 の公 表﹂ と表 現す るこ とも ある
。本 稿で は、 特段 の事 情の な いか ぎり
、﹁ 私生 活上 の事 実の 公表
﹂と 表記 する
。 ("
) 不法 行為 法に おい ては
、﹁ 違法 性阻 却事 由/ 責任 阻却 事由
﹂の 別を 重視 しな いで
﹁免 責事 由﹂ とい う用 語に よる こと が多 い。 本稿 でも
、ひ ろく
﹁免 責事 由﹂ と表 記す るこ とと する
。 (&
) (不 法行 為プ ライ バシ ーと は異 なる
︶情 報プ ライ バシ ーが 表現 の自 由を 浸食 する だろ うと 論じ たア メリ カの 代表 的論 攷と して
、S ee E. Vo lo kh ,F re ed om of Sp ee ch an dI nf or ma ti on Pr iv ac y: Th eT ro ub li ng Im pl ic at io ns of aR ig ht to St op Pe op le Fr om Sp ea ki ng Ab ou tY ou ,5 2ST
AN
.L .