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^ 人権としての性的自由をめぐる諸問題

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Academic year: 2022

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(1)

七 六 五 四

はじめに私通

( F o r n i c a t i o n )

・同棲

( C o h a b i t a t i o n )

姦通

( A d u l t e r y )

(

同性愛

(H om

o

x u a l i t y ) 売春

( P r o s t i t u t i o n ) 性的いやがらせ行為

( S e x u a l H a r a s s m e n t )  

おわりに

人 権 と し て の 性 的 自 由 を め ぐ る 諸 問 題

上 ^ 

(2)

西ドイツにおいては︑ を加えることを企図したものである︒ 国の法規と比較しながら検討を加えてきた︒ 筆者は︑人権としての性的自由ないしは性的自己決定権と呼びうるものが存在するのではないかと考え︑する研究として「人権としての性的自由と強姦罪欧米における強姦罪の改正をめぐってー—こ(香川法学七巻三・四号︶と﹁フランスの妊娠中絶法﹂︵香川法学八巻一号︶を発表してきた︒前者においては︑個人の性的行為︑とりわ別―――口すれば、「生む•生まない自由」は性的自由の中核を形成するものと考え、 け誰と性交するかは個人の性的自由に属することであることを前提にして︑それを踏みにじる典型的な犯罪行為である強姦罪について欧米における法改正問題に素材を求めて詳説した︒後者においては︑避妊の自由と妊娠中絶の権利︑

フランス法を対象にしてその他の諸外

それを承けて本稿は︑人権としての性的自由に関連すると考えられる諸問題のうち残された事項について順次検討

ところで︑わが国の法学界において﹁自己決定﹂ないし﹁自己決定権﹂という概念はかなりポピュラーになってき

(2 ) 

ており︑憲法学界でも﹁人権としての自己決定権﹂とか︑﹁憲法上の自己決定権﹂という概念が用いられはじめた︒そ

れに比して︑﹁性的自由﹂ないし﹁性的自己決定権﹂という概念はほとんど使用されることなく︑したがってその意味

内容も決して定着したものとはいえない現況にある︒

一九七三年の刑法改正によって﹁性的自己決定権﹂

( d i e s e x u e l l e   S e l b s t b e s t i m m u n g )  

念が新たに導入され︑刑法一七七条の強姦罪は﹁性的自由﹂

( d i e s e x u e l l e   F r e i h e i t )  

は じ め に

それに関

の概

に対する犯罪であると解釈され

(3)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

は︑プライバシーの一環としての るようになってきている︒

の観点から論じた著書の方が多いよ という概念を用いている︒そしてこの性的自由権 アメリカ合衆国においては︑多くの州法によって︑同性愛が禁圧されているが︑

州法の違憲性に関する先駆的な著作を発表した

B a

r n

e t

t は ︑

その著書に

S e

x u

a l

f r

e e

d o

m   a

n d

  t h e

o n   C

s t i t

u t i o

n と

うタイトルを付した︒しかしこのような

s e

x u

a l

f r

e e

d o

m という表現は珍しく︑むしろ

s e

x u

a l

p r

i v

a c

y あるいは

s e

, x

u a l   a

u t

o n

o m

という概念の方が多く用いられている︒本稿で論じる諸問題は︑アメリカ合衆国の判例や学説においてy

﹁性的プライバシー﹂との関連において議論されているケースが多い︒ これらの

イギリスにおいては性的自由に包摂されうると考えられる個々の問題については論議がなされているが︑性的自由

という概念が用いられることは非常に少ないようである︒その数少ない著者の一人である

To

ny

H o

n o

r e

S e

x L

aw

 

と題する書物の中で︑性的自由権

( t h e

r i g h

t o t  

e   s

x u

a l

  f r e e d

o m

)  

が次の三つの原理から成り立っていると分析している︒﹁まず第一に︑それは自らの選択にしたがって自らの肉体を使

用し︑かつ他人の肉体に触れる権利︑ならびに合理的な性的機会を確保することを意図した補助的な権利である︒第

ニに︑性的自由は成人に達した人によってのみ行使されうる︒成人年令は完全な責任を負う年令でもある︒第三に︑

性的自由の原理は︑教育の原理ではなく行為の原理である﹂と︒しかしながら同時に彼は今日のイギリスの社会にお

いて性的自由権が認められるか否かは疑問であるとしている︒イギリスでは性的自由という観点よりも︑むしろ避妊︑

妊娠中絶︑同性愛︑性的いやがらせ行為の問題を性差別

( S

e x

D i s c

r i m i

n a t i

o n )  

(5 ) 

うに思われる︒

フランスにおいても最近になって人権︑すなわち公的自由の一っとして性的自由

( l a

l i b e

r t e   s e

x u e l

l e )

を認める学

(6 ) 

説が主張されはじめている︒その一人である

R e

g o

u r

という人が書いた﹁性と公的自由﹂d

( S e x

u a l i

t e e t

  l i b

e r t e

s   p u

b l i   , 

q u e s

)

と題する論文によると︑性的自由すなわち性に結びついた自由は次のような特殊な性格を有し︑そのことが性

(4)

的自由の法的地位の秘密性

( c l a

n d e s

t i n i

t e )

を説明するとする︒まず第一に性的自由が保障されているということは︑

国家が干渉や介入をして規制することが許されないことを意味する︒第二は性的自由のアンビバレントな性格である︒

性的自由の行使が︑

たりする︒第三に︑性的自由の行使は他人の参加︑ ひそかになされたかあるいは公然となされたかによって︑同じ行為が自由になったり犯罪になっ

なる︒この著者は右のように性的自由を特徴づけた上で︑性行為

( s e x

u a l i

t e )

を法律による保障の態様に着目して次

のように二分している︒まず第一は宣言され保障された自由としての性行為であり︑これにはプライバシーに相当す

る﹁親密さへの権利﹂

( d r o

a i t

l ' i n

t i m i

t e )  

や結婚の権利が含まれる︒第二には許された行動としての性行為である︒

これは法律によって保障された権利ではなく︑ すなわち他人の同意を必要とする点において他の個人的自由と異

いわゆるフランスでいう寛容

( t o l

e r a n

c e )

であり︑これには妊娠中絶

や同性愛が含まれるとしている︒

右に述べてきたように︑性的自由︑性的自己決定権あるいは性的プライバシーといった概念が︑まだ萌芽的な状態

にあるとはいえ︑徐々に欧米の学界において承認される傾向にあるといえるのではないであろうか︒これらのカテゴ

リーの下で論究されるべき問題としては︑前述した強姦罪︑避妊︑妊娠中絶以外に次のようなものが存在すると考え

られる︒まず最初に︑私通︑同棲︑姦通︑売春を指摘することができよう︒人が自らの自由意思にもとづいて性交す

ることに対して︑国家権力がそれを犯罪として刑罰をもって禁圧することは︑刑事規則の限界をこえ性的自由を侵害

することになるから基本的には許されないであろう︒また人がどのような性に関する好み されていたが︑

( p r e

f e r e

n c e s

)  

( o r i

e n t a

t i o n

) をもつかは文字通り個人の勝手であり︑これもまた性的自由に属することがらである︒これに関して歴

史上最も長く論議されてきたものはいうまでもなく同性愛の問題である︒同性愛はかっては多くの国において犯罪と

一九

0

年代以降︑欧米諸国においては法律改正がなされ︑同性愛に対する刑事規制が弱められたり︑

四 や傾向

(5)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

さらには同性愛そのものが自由化されて犯罪とされなくなった国もある︒

( S e x

u a l  

H a

r a

s s

m e

n t

)

という見慣れない言葉が論文や著書の中で見かけるようになったの

フランス︑イギリス︑

フラ

ンス

は一九七

0

年代の中頃以降であろう︒イギリス︑

性が教師や職場の上司から地位や権限を悪用して肉体関係を結ぶことを強要されたり︑性に関する卑猥な言薬を公然

と浴びせかけられたりしていやがらせをされる現象が生じ始めた︒アメリカではついに一九八六年六月十九日に︑連

(9 )

1 0 )

 

邦最高裁判所が性的いやがらせ行為が一九六四年公民権法第四編の禁止する性差別に該当するという判断を下した︒

本稿では︑右のような性的自由に関連すると考えられる様々な問題を︑人権としての視角から検討を加えていくこ

アメリカ︑西ドイツの法制度を対象にするが︑それぞれの国においては

当該問題の社会的重要性に違いがあり︑それに応じて学界での関心の程度も異なるので発表される論文や著作の量も

相当に差異がある︒そのためにそれらを素材にして執筆した本稿においては︑国によって叙述の量に大きなアンバラ

( 1 )

山田卓生﹃私事と自己決定﹄︑町野朔﹃患者の自己決定権と法﹄︑高井裕之﹁医療における自己決定権の憲法論的考察﹂法学論叢一

二三巻一号︑四号︒

( 2 )

竹中勲﹃人権としての﹁自己決定権﹂﹄ジュリスト﹃憲法と憲法原理﹄所収︒

( 3 )

佐藤幸治﹃日本国憲法と﹁自己決定権﹂﹄法学教室九八号︒

( 4 )  

To

ny

  Ho

n o

r e

,   S

e x

  L a

w ,

  pp.174

17 5.

( 5 )

E d

w a

r d

s ,

F e

m a

l e

  S e x

u a l i

t y   a

n d

  t h e

  L

a w

,   P

a n n i

c k ,  

S e

x   D

i s e r

i m i n

a t i o

n   L a

w ,

  G o

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,   W

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  b o d

y ,  

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s  

r i g h

t ,  

M o r r

i s ,  

Wo

ma

n,

r   C

i m

e   a

n d

  C r

i m

i n

a

u s t i

c e

ンスが生じていることを付言しておきたい︒ とにする︒主として︑

﹁性的いやがらせ行為﹂

カナ

ダ︑

アメリカ合衆国等においては︑大学や職場で女

(6)

がらではないであろうか︒

しかもそれが﹁性革命

L に宗教や風習等が異なるとはいえ︑ 世界の国々の中にいか ていることを意味し︑同棲の中には私通という行為も 私通とは婚前性交のことを意味するが︑ (

6 )

 

( 7

)  

( 8

)  

( 9 )   ( 1 0 )  

い状態にあるといってよい︒同棲というのは法律上の婚姻が成立していないのにもかかわらず事実上の夫婦生活をし

含ま

れる

いわゆる内縁と同義であると解してよい︒当然のことながら︑

長い間墨守されてきた伝統的な性モラルが急激に弛緩した現在のような社会状況において︑

私通や同棲を犯罪にしている国が現に存在しているというのは驚嘆に値すること

の先進国といわれているアメリカ合衆国であるというのは更に驚

私通

未入手であるが︑

この言葉はわが国ではほとんど用いられなくなっており︑

( F o r n i c a t i o n )

・ 同

棲 ( C o h a b i t a t i o n )  

もはや死語に近 一九八四年に

0 . d

e  T i s s o t という人が

La l i b e r t e   s e x u e l l e   e t   l a   l o i

という著作を世に問うている︒

R e g o u r d , e   S x u a l i t e   e l i t   b e r t e s   p u b l i q u e s A ,   nn al es   de   l' u n i v e r s i t e   d e s   s c i e n c e s o s   c i a l e s   d e  T o u l o

u s e ,

1 

98 5.  

渡辺圭﹃今アメリカで何が起っているのか﹄という書物の中の﹁パワー社会が生む性的いやがらせ﹂の章に︑その状況がリアルに

描かれている︒

釜田泰介﹃﹁性的いやがせら行為と公民権法第七編﹄法学教室七五号八三頁以下︒

職場の女性の上司が男性の部下に肉体関係を迫ったため︑その男性が性的圧迫を受けたとして損害賠償を求める訴を提起してそ

の主張が認められ約五千万円の賠償金を得たケースがある︒下村満子﹃アメリカの男たちは︑いま﹄二五七頁︒

またケンプリッジ大学では女子学生が男子のチューターに悪い点をつけると脅かされて肉体関係をせまられたり︑アメリカで

はカリフォルニア大学の教授会で女子学生と肉体関係をもたないようにすることが話題になったことが報告されている︒

'  

/'¥ 

(7)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

わけではない︒たとえば離婚する場合には︑ くべきことではなかろうか︒受けたからであるが︑ アメリカの多くの州でこのような禁止規定が設けられたのはピューリタンの影響を強く

しかしながら現在ではこれらの州法の規定はほとんど執行されることがなくほとんど死文化し

同じキリスト教国でかつ同じ法系のイギリスにおいては︑私通に対して中世には領主裁判所の下で罰金刑が科され

たし︑清教徒革命の時代には投獄された︒またある時期まで私通は教会裁判所の管轄に属するとされ︑違反者に対し

ては苦行︵宮

n a

n c

e )

の罰が科せられたが︑コモン・ローの上では犯罪ではなかった︒現在でも非公然に行なう等のい

くつかの条件付きではあるが︑私通は犯罪ではない︒後述するようにイギリスでは姦通ですら犯罪でなかったのであ

るから︑私通や同棲が罰せられてこなかったのは当然のことといえよう︒

フランスおよびイタリアにおいては︑姦通はごく最近まで犯罪であったが︑私通

や同棲は犯罪とはされてこなかった︒民事婚主義を採用しているフランスの家族法では︑正規の婚姻を

m a

r i

a g

e あ

いは

u n

i o

n l e

g i t i

m e というのに対して︑

u n

i o

n l i

b r e  

(自由な結合︶と呼ばれている同棲が非常に増えてきている︒こ

u n

i o

n l i

b r e

は法律によって禁止されているわけではないから違法ではない︒とはいえ︑

もとより

u n

i o

n l i

b r e

は正

規の婚姻とは異なるわけであるから︑財産上の関係においても人的関係においても︑法律上婚姻と同じ扱いを受ける

ヨー

ロッ

パ大

陸︑

とく

にド

イツ

てしまっているのは後述する通りである︒

一九七五年の離婚法によって一定の条件が必要とされているが︑

u n

i o

n

l i b r

e の場合には文字通り自由で拘束されない結合であるから︑条件に拘束されずに自由に別れることができるのが原

則である︒もっとも判例は︑この場合においても︑内縁の夫に有責事由が認められるという条件付きで︑遺棄された

内縁の妻に損害賠償を認めてきている︒さらに一定の場合に内縁の妻を保護するために︑立法や判例によって妻に対

するのと同じ法的処遇をしている︒

l o i

Q u i l

l o t

と呼ばれている一九八二年六月二二日法は︑家の賃借人である内縁の

(8)

内縁の妻がこうむった物的ないしは精神的な損害が現実のものであるという理由によって︑内縁の妻は損害賠償を獲

得することができると判示した︒さらには社会立法の分野においても︑内縁関係にある者に有利な立法措置が講じら

れている︒たとえば婚姻している者と同じように家族手当が給付されることになっているし︑死亡一時金も学説によ

って受給できると解釈されている︒

フランスでは右に述べたように︑社会の意識や風習の変化によって

u n

i o

n l i

b r e

に対する評価が変化してきており︑

現在では非常に寛容になってきているといえよう︒したがって︑

名な破毀院の判決の一節である﹁内縁は法律上保護される正当な利益の価値を示していない﹂という定義は︑現実の

実定法にはもはや符合しなくなってきているといわなければならない︒

前述したように︑私通や同棲が犯罪とされ厳しく禁圧されてきたのはアメリカ合衆国である︒もともと聖書では︑

モーセの十戒に示されているように︑私通を厳しく非難していたが︑とりわけピューリタンは性に関して厳格であり

潔癖さを要求した︒十七世紀のニューイングランドの法律は︑姦通に対しては死刑︑私通に対しては鞭打ち刑を科し

( 1 0 )  

ていた︒独立する前のアメリカの刑法は︑﹁道徳の保護﹂を目的としていた︒すなわち︑それはピューリタンの刑法で

あり︑﹁神と宗教に対する犯罪﹂を規定していたのである︒換言すれば︑宗教上の罪である

s i n

が刑法上の犯罪

c r

i m

e

であったのである︒したがって︑﹁神と宗教に対する犯罪﹂の中で姦通と私通が大きなウエイトを占めていたことは想 っ

てい たた め︑

夫が死亡した場合に︑賃貸借喫は彼と同棲していたことが周囲に知られていた内縁の妻に移転されると規定している︒

また内縁の夫が事故によって死亡した場合︑

訴訟を提起できるか否かについて︑

これまで指導的な意味をもっていた一九三七年の有 とりわけ多いのは交通事故死の場合であるが︑内縁の妻が損害賠償請求

ホットな論争が展開されてきた︒民事裁判所の判例と刑事裁判所の判例とが異な

一九

0

年二月二七日の破毀院の合同部の判決によって一本化された︒すなわち︑死亡事故の場合に︑

J¥ 

(9)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

リノイ マサチューセッツ州のミドルセックスというところでは︑像に難くない︒ある記録によると︑四年の間に三七

0

件の起訴がなされたが︑そのうちニ︱

0

件が私通に対するものであった︒ただし︑嫡出でない子ど

( 1 1 )  

もをもつ母親︵未婚の母︶だけが裁判にかけられた︒

私通は建国当時はすべて州で犯罪とされていたが︑

ニューヨークその他いくつかの州が私通罪を廃止した︒

In st it ut

)が模範刑法典を作成した時に︑大人の間の婚姻外の性的行為に対する刑罰を廃止した︒それに見倣って︑

リフォルニア(‑九七五︶︑

規定を廃止した︒しかし︑

ら ず

イナ

︶︒

もっ

とも

その後徐々に廃止されていった︒まず第二次世界大戦中に︑イ

一九五五年にアメリカ法律協会

( A

m e

r i

c a

n インディアナ(‑九七六︶︑

ネブ

ラス

カ(

‑九

七七

︶︑

アラスカ(‑九八

0 )

が順次私通罪

一九七八年現在では︑なお十五州とコロンビア

D.C

において私通罪が犯罪とされ︑十六

( 1 2 )  

州で同棲が犯罪とされている︒

ところで︑これらの私通罪と同棲罪を規定している州法の中には︑滑稽なほど複雑な定め方をしているものがある︒

たとえば︑私通︑すなわち実際の性交を裁判において証明することが困難であることにかんがみて︑﹁公然とかつ周囲

に知られて同棲している﹂場合に私通罪を限定している州がある︵アイダホ︑アラバマ︶︒また夫婦でないにもかかわ

ホテルで偽って夫婦として宿帳に記名した場合に私通罪に該当すると規定している州がある︵ノース・カロラ

( 1 4 )  

いずれの場合にも︑小額の罰金か短期間の禁固刑に処せられることになっている︒また裁判所の法

律解釈によって︑私通罪の規定を﹁公然たる同棲﹂

( 1 4 )  

する

州も

ある

の場合︑もしくは﹁異人種間のカップル﹂

の場合に限定して適用

これらの私通罪や同棲罪の規定は死文化した法

( d e a

d

l e t t

e r  

l a w )

といわれており執行されることはほとんどな

いが︑それに反比例して︑現実の私通や同棲は著しく増加している︒その実際の状況は我妻洋﹃性の実験﹄にリアル

La

一七

0

年から一七七

(10)

②  いとして合憲判断を下した︒ この二つの事件において︑ ①  減額されたりする場合があるので︑

( 1 6 )  

に描写されているが︑それは単に性的欲求の変化という文化人類学による分析によって解明しつくせるものではなく︑

他の要因も加味する必要がある︒たとえば︑正規の婚姻をしている場合には︑年金や扶養手当が支給されなかったり

それらの事態を避けるために同棲という手段に訴えるケースも増加している︒

そのケースが七

00

パーセント増えたとされている︒九六

0

年から一九七

0

年の十年間に︑

さて前述したように︑私通罪や同棲罪の規定がほとんど死文化しているとはいえ︑全く起訴されないわけではなく

( 1 8 )  

いくつかの判例がある︒

で は

S t a t e  

v .  

C l a r k   (

19 71 ) 

S t a t e  

v .  

L u t z   (

19 71 ) 

ニュー・ジャージー州の最高裁判所は︑私通を罰する州法はプライバシー権を侵害しな S t

a t

e  

v .  

S a u n d e r s   (

19 77 ) 

この事件もニュー・ジャージー州で起きたものであるが︑ニュー・ジャージー州では私通罪で起訴されたケースは

一 九

0

七年以来わずか三件である︒私通罪で起訴されることが少ない理由として︑私通のような行為に対しては公衆

( 1 9 )  

が寛容であることや︑私通がひそかに行なわれるので証拠の収集が困難であることなどが指摘されている︒この事件

たまたま︑ある男がさみしい駐車場で二人の女性と肉体関係をもったところを発見され起訴されたのである︒

加の予防︑第三に夫婦関係と家族の保護︑第四に公衆道徳の保護である︒それに対して︑ 州当局は︑私通罪規定が合憲である理由として︑次の四点を主張した︒まず第一に性病の予防︑第二に非嫡出子の増

ニュー・ジャージー州の最

高裁判所は︑右の四つの理由はいずれも根拠がないとして︑次のような反論を加えた︒まず第一に性病を予防すると

1 0

 

(11)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(一)(上村)

的に禁止することは不可能であるし︑ いう理由であるが︑この目的を達成するために私通を禁止することは適当な方法ではない︒また婚姻外の性交を実効

ましてや刑事訴追はそのための効果的な方法とは考えられない︒第二の非嫡出

子の増加を予防することについても︑私通の禁止がこの目的のために果たして貢献しうるか否かは疑問であるとして

いる︒第三の夫婦関係と家族の保護についても︑私通を禁止することは婚姻関係を保護するための正当な手段ではな

いと評価している︒最後に公衆道徳を守るためには私通罪の規定に欠陥がある︑というのは︑そもそも私通罪の禁止

( 2 0 )  

規定は私的道徳を規制することを目的としているからであると︒

右のように︑保護すべきやむにやまれぬ州の利益は存在せず︑他方︑﹁親密な性的関係は個人の自律に関する基本的

な選択を含む﹂と解した上で︑私通罪規定は性的プライバシー権を侵害するという理由のために違憲であるとの判断

( 2 1 )  

を下した︒その際に︑州の最高裁判所は︑一九七二年の連邦最高裁判所の判決

E i s e n s t a d t

v .  

B a i r

d に依拠しつつ︑プ

ライバシー権は夫婦関係に限定されず個人にも拡張されうるし︑家族関係と生殖における利益に限定されないとした︒

ヴァージニア州の私通法の合憲性が争われた本件において︑連邦第二審裁判所

( f e d e r a l t r i a l   c o u r t )

は︑プライバ

シー権が婚姻している二人の間の性行為に限定されること︑ならびに私通法に対してやむにやまれぬ政府の利益が存

在するから合憲であるとする州の論拠を却下した︒

私通や同棲を刑罰をもって禁圧することは︑性的自由に対する抑圧以外の何物でもない︒したがって︑多くの国で

それらが犯罪とされていないのは当然のことである︒ピューリタン刑法の残滓であるアメリカのいくつかの州法に対

しても右に述べたように違憲判断が下されているし︑ ③ 

Do

v•

D u l i n g

( 

19 86 ) 

その消滅も時間の問題であろう︒

(12)

( 4

)  

( 5

)  

( 1 2 )

  C a r b o 法的研究﹄所収ニ︱二頁︒ 係としての地位を︑確保しているということができる﹂と指摘されている︒本沢巳代子﹁西ドイツの事実婚﹂前掲﹃事実婚の比較 棲が若者を中心にして激増してきている︒﹁⁝・・・西ドイツ社会では︑すでに︑同棲は︑社会的に広く承認された男女の共同生活関 二宮周平﹁フランスの事実婚﹂太田・溜池編﹃事実婚の比較法的研究﹄所収︱一九頁以下参照︒同じように西ドイツにおいても同

n n i e r , r   D o i t   c i v i l ,   t om e  2 ,   p .   2 9 3 .   C a r b o n n i e r

̀ 

 

i b i d . ,   p .   2 8 5 .  

E周平・品即掲論文一五七頁以下参照︒

( 6

)  

We il   e t   T e r r e ,

r   D o i t   c i v i l ,   5 e d . ,   p p .   5 9 2

5 9

3 . (7)二宮周平•前掲論文一八八頁。

( 8 )   We il   e t   T e r r e ,

  i b i d . ,  

p p .   5 8 7

5 8

8 . ( 9 )

﹁汝︑姦淫するなかれ﹂という戒めは︑男性を対象にして言われたものである︒

( 1 0 )

亀井俊介﹃ピューリタンの末裔たち│ー̲アメリカ文化と性ー﹄八頁︒

( 1 1 ) N   e l s o n ,   E me rg in g  n o t i o n s   o f   mo de rn r   c i m i n a l   l aw  i n   t h e   r e v o

l u t i o n a r y   e r a :

An  

h i s t o r i c a l   p e r s p e c t i v e , N  ew  Yo rk   U n i v e r s i t y a  L w  R e v i e w ,   1 9 6 7 ,   v o l .   4 2 ,   p .   4 5 2 .   N o t e s ,   F o r n i c a t i o n , o   C h a b i t a t i o n   an d  t h e   C o n s t i t u t i o n ,   M ic hi ga n  L aw   Re v i e w ,   1 9 7 8 , o l   v .   7 7 ,  

p .   2 5 4 .   もっとも︑鈴q

t

﹃ 性 i

実験﹄(‑九八0年発行︶六九ー七0

頁によれば︑私通は十八州において︑同棲は二四州で禁止されているとされている︒違反し

た場合に科せられる刑罰も州法によって異なる︒

B a s s i o u n i , u   S b s t a n t i v e   C r i m i n a l   L aw ,  p p .   3 6 8

  │ 

3 6 9 .   ( 1 3 )   ( 1 4 ) M  ac Na ma ra   an d  S a g a r i n ,

  S e x , r   C im e  a nd   th e   L aw ,  p .   1 8 8 .   ( 1 5 ) P   l o s c o w e ,   Re p o r t   t o   t h e   H ag ue   Su g g e s t e d   R e v i s i o n s f     o P e n a l a  L w  Re l a t i n g o     t Se x  C ri me s  a nd   Cr im es   a g a i n s t

h   t e   F a m i l y ,  

( 3

)  

( 1

)

稲本洋之助﹃フランスの家族法﹄十七頁以下参照︒

ユニオンリープルを自由婚と訳す人もいる︒林瑞枝編﹃いま女の権利は﹄一頁︒法律家の論文では

u n i o n l i b r e

という表現は

0年代に登場した︒同棲を意味する

c o h a b i t a t i o n

u n i o n l i b r e

と同義であるが︑後者の方が若者向きの表現だとされてい

( 2 )   C o

r n e l l   L aw   Qu a r t e r l y ,

9 6   1 5 ,   v o l .   5 0 ,   p .   4 2 9 .  

る ︒

(13)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

せられる刑罰は︑

ィニアヌス法典では︑

姦婦

は︑

﹁姦通は不道徳な事件ではなく︑

姦通

とは

姦通

( 1 6 )

その他に︑上前淳一郎﹃世界の性革命紀行﹄︑立花隆﹃アメリカ性革命報告﹄等がある︒

( 1 7 )

N o  

t e s ,

  M i

c h

i g

a n

  La

w  R

e v

i e

w ,

  1

97 8,  p .  

25 4.  

( 1 8 )   T

r u

b o

w ,

  P r

i v

a c

y   L

aw

  an

d  P

r a c t

i c e ,

o l   v

.   3

, 

0

8 3‑ ‑

‑ ‑, 8

4.  

( 1 9 )

R o  

s s ,  

R i

g h

t   o

f   P

r i

v a

c y

F o

r n

i c

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i o

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u t i o

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e v .  

S a

u n

d e

r s

,   B

u f

f a

l o

a  L

w  Re

v i

e w

,  

19 78 , 

v o l .

 

27 , 

p .  

40 3.  

( 2 0 )

C  

o v

e r

,   C

AS

E  C OM ME NT S 

̀ 

s t

a t e  

v .  

S a

u n

d e

r s

,   S

u f f o

l k   U

n i v e

r s i t

Ly  

aw

  Re v

i e

w ,

  1 97 8,

v o  

l .   X

I I ,  

pp . 

1321

13 23 .

( 2 1 )

この事件については︑橋本公亘﹁プライバシーの権利﹂﹃アメリカ憲法の現代的展開﹄所収一九頁以下︑阪本昌成﹁道徳とプライ

バシー

( 1

) ﹂政経論叢二三巻一号五九ー六0

頁 ︒

日姦通罪規定

( A

d u

l t

e r

y )

 

罪とされてきたわけではない︒古代ローマ法においては︑

(l ) 

との性関係は姦通とはみなされなかった︒

終身

の間

夫には性的自由があり︑夫に関しては姦通罪は存在しなかった︒

(2 ) 

他人の財産を盗んだという︑盗難事件なの﹂であった︒しかも︑妻の姦通に対して科

異常ともいえるほど苛酷であった︒ハンムラビ法典によれば姦婦とその情夫は溺死であり︑

(3 ) 

修道院に監禁された︒ つ

まり

このように姦通罪はその起源から女性に対して差別 妻の違法な性関係のみが姦通とみなされ︑ 既婚者が自己の配偶者以外の異性と性交することをいう︒

このような行為が︑

ユス

夫と未婚の女性 いつでもどこでも常に犯

(14)

ところで︑姦通罪の規定の方式は一様ではなく︑ ない国も多数存在することはいうまでもない︒ 的であった︒中世ヨーロッパにおいては姦通は犯罪ではなかったが︑しく非難された︒ キリスト教道徳の下では︑宗教上の罪として厳

この姦通罪が第二次世界大戦後においても︑相当数の国において生き残っていたり︑なお現在も一部の国に残存し

ていることは︑姦通罪などは時代錯誤もはなはだしく︑既に世界からは消滅してしまっているものと信じている人に

(4 ) 

とっては大いに戸惑わせるようである︒勿論︑イギリスや社会主義国︑さらには戦後の日本のように︑姦通が犯罪で

欧米においては︑すくなくとも近代以降︑姦通は配偶者に対する犯罪ではなく︑家族に対する犯罪であると考えら

れてきた︒すなわち︑夫の子でない子︑つまり非嫡出子が姦通した妻の家族のメンバーとして受け入れられる危険性

があり︑夫の父子関係の嫡出性が損われることを排除する必要があると考えられた︒したがって︑夫の姦通よりも妻

の姦通の方がより大きな悪であるということになり︑このような理由のために二重の基準が長く受け入れられ︑現在

でも一部の国で採用されてきたのである︒姦通が犯罪とされたもう︱つの理由は︑姦通が家庭の不和をもたらし︑延

いては社会の平和を乱すということである︒

いくつかのタイプに分けることができる︒第一の類型は︑奥平教

授にならって﹁両罰主義﹂とも呼びうるもので︑夫も妻も同じように処罰されるものである︒現在の韓国の刑法︑お

(8 ) 

よび一九六九年の刑法改正によって廃止される前の西ドイツ刑法の一七二条が︑この両罰主義を採用している︒

第二の類型は︑再び奥平教授にならえば﹁人妻主義﹂と呼びうるものである︒第二次世界大戦後廃止されたわが国

刑法の一八三条の﹁有夫ノ婦姦通シタルトキハニ年以下ノ懲役二処ス⁝⁝︵中略⁝⁝︶﹂という規定はその典型例であ

る︒この規定は︑妻の姦通が戦前の家族制度の下における夫権を侵害するものであることにかんがみ︑それを禁圧す

一 四

(15)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

ことができない︒

三三六条 が女性を差別するものであったことはいうまでもない︒

ユスティニアヌス法を継受したもので︑姦通した妻に対し ることを目的としたものであったこと︑ならびに新憲法の平等原理に反するものとして削除されたことは指摘するま

(9 ) 

でも

ない

( 1 0 )  

一九六八年︱二月一九日に︑イタリア憲法裁判所によって違憲判決が下された︑イタリア刑法五五九条は少し変則的

( 1 1 )  

であ

る︒

姦通の相手方は︑同一の刑に処する︒

姦通を継続した場合には︑二年以下の懲役に処する︒

このように継続して姦通を犯した場合の重罰規定を設けている点が異色であった︒

ロー

マ法

次にフランスに移る︒古代のフランス法は︑

ては︑修道院において終身懲役を科していた︒二年経過後︑夫の許しがない限り︑

( 1 2 )  

また相姦者に対しても重罰が科せられた︒

一九七五年七月十一日法によって廃止されたフランスの姦通罪規定は︑故滝川幸辰博士によって︑﹁条件付両罰主義﹂

( 1 3 )

1 4 )

 

と命名されていた︒この姦通罪規定は︑﹁風俗の壊乱﹂の罪の中に入れられていた︒

三三七条 妻の姦通は︑夫だけが告訴することができる︒夫といえども︑第三三九条に規定する場合は︑告訴する

姦通の罪を犯した妻は︑三月以上二年以下の拘禁に処する︒

夫は︑妻の引取りを承諾して︑この刑の言渡しの効力を停止させることができる︒ 三項 二

項 一項姦通した妻は︑一年以下の懲役に処する︒

一 五

いずれにしろ︑この﹁人妻主義﹂

さらに鞭打ちの刑に処せられた︒

(16)

以下の罰金に処する︒ 姦通した妻の相姦者は︑同一の期間の拘禁及び三六

0

フラン以上七二

00

フラン以下の罪金に処する︒

相姦の被告人に対して認めることのできる証拠は︑現行犯のほかは︑被告人の記した信書その他の書類だけとする︒

三三九条フランスの姦通罪規定が妻に対して差別的であるのは︑右の条文を読めば一目瞭然である︒妻の場合には︑

も夫以外の男性と性交すれば姦通罪が成立する即成犯であり︑かつ科される刑罰が拘禁刑であったのに対し︑夫の場

合には︑夫婦の住居に女性をかこうことが姦通罪の成立には必要である︑すなわち継続犯であり︑しかも刑罰が罰金

刑で妻に対する刑罰よりも軽かった︒また︑ローマ法︑ユスティニアヌス法の伝統を引きついで︑夫に宥恕権を認め

ていた︒そのために︑﹁条件付両罰主義﹂と命名されたのであるが︑それではなぜ︑このような変則的な立法が制定さ

れたのであろうか︒それについては種々の説明がなされている︒ある人は︑夫婦の住居で行われた夫の姦通は︑社会

( 1 5 )  

的により大きな犯罪であると立法者が評価したからであると述べている︒別の人は︑十八世紀の法律家である

P o

t h

i e

r

が︑その理由を家族を奪い︑財産を姦生子に渡してしまうからであると説明し︑以後それが引き継がれたからである

( 1 6 )  

と述

べて

いる

差別的な内容の立法をより平等に適用するため︑判例は種々の工夫を重ねて夫の姦通罪に対する可罰性の可能性を

拡大してきた︒たとえば︑三三九条は﹁妾を置き﹂と規定しているが︑その資格や身分を徐々に問わないようにして

きた︒下女︑妻が家に同居させた人︑同じ屋根の下で暮らしている家族のメンバー等に拡大してきた︒また﹁夫婦の

同居する住居﹂という概念も︑夫が姦通罪を免れるために用いる術策に対抗するため︑あるいは住宅事情等の社会的・

( 1 7 )  

経済的変化に対応するために︑徐々に拡大され広く適用されるようになった︒ 三三八条

一 六

一度

夫婦の同居する住居に妾を置き︑妻の告訴により有罪とされた夫は︑三六

0

フラン以上七二

00

フラ

(17)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

一 七

一九五四年のハーグ国際刑法会議も姦通

一九

0

年には四六

00

件であったが︑

一九

0

年には五五四件

( 1 8 )  

いずれにしろ解釈を拡大するのにも自ら限度がある︒したがって︑﹁性にもとづく不平等の最も有名なもの﹂と評さ

( 1 8 )  

れた姦通罪規定の廃止が具体的な日程にのぼるのは時間の問題であった︒そしてついに一九七五年七月十一日の離婚

法改正によって︑姦通罪と後述する妻および相姦者殺害免除規定が廃止されたのである︒姦通罪規定が廃止された理

由としては︑まず第一に︑姦通罪規定が女性差別であるため︑裁判官が有罪宣告をするのを嫌がったという事情が指

( 1 9 )  

摘されている︒姦通罪で有罪宣告をうけたものは︑

へと激減している︒また伝統的な風習が弛緩し︑社会も姦通に対して寛容な見方をするように変化してきた︒そして

何よりも︑姦通罪が離婚裁判における証拠として悪用され︑本来の目的から大きく逸脱して利用されてきたことが指

摘されている︒すなわち︑離婚を望む夫婦は︑改正前の離婚法の下では容易に離婚できなかったために︑配偶者を姦

通罪

で告

訴し

そして離婚が認められたならば告訴を取下げるという状況が生じた︒これは﹁刑事訴訟のパロディ﹂

( 2 0 )  

と呼ばれ︑姦通事件を担当する裁判官の不興を買ったという事情もあった︒また姦通に対する社会の意識の変化にと

もなって︑姦生子に対する見方も変わり︑法の実例の上では姦生子と嫡出子とを法的に平等に扱うようになった︒こ

のように姦生子が昇格した結果︑家族に関する公序というものが︑嫡出性︑すなわち夫婦の貞節だけではなくなった︒

いずれにしろ︑姦通罪が時代錯誤的なものであることはいうまでもなく︑

罪の廃止を勧告したが︑フランスの立法者も遅ればせながらこの勧告にしたがったわけである︒したがって︑姦通の

( 2 2 )  

問題は刑法から家族法へと移行したのである︒

コモン・ローの上では姦通は犯罪ではなかったが︑植民地時代のアメリカでは︑ピューリタンの強い影響をうけた

刑法によって︑姦通は犯罪●された︒しかも夫に対する不法行為としてよりも︑むしろ道徳と貞節に対する犯罪とみ

なされていた︒性に対して厳しかったピューリタンは姦通に対して死刑をもってのぞんだが︑有罪宣告をうけること

(18)

イナ

イオ

ワ︑

ニュー・ハンプシャー︑

バー モン ト︑

ケンタッキー︑

アメリカにおける姦通といえば︑すぐに想起されるのがホーソンの

のボストンである︒ 書かれたのは一八五

0

年であるが︑設定されている舞台はその二世紀前の一六五

0

年頃のニュー・イングランド地方

ヒロインのヘスター・プリンヌは︑夫の長期不在中に︑

し︑パールという名の女の子を生んだ︒そのため彼女は三時間だけ人前で晒し台に立つという刑に処せられ︑胸の上 に恥の表象である緋色の布で作った

A d

u l

t e

r y

(姦通︶の頭文字のA

を生涯つけておくことが強制された︒この小説は 当時のピューリタンの社会を見事に描写したものであるとの評価をうけているが︑

とえば︑私通︑獣姦︑姦通︑売春等に関する規定は非常に厳しかったが︑実際は﹁性に関する法律は︑破られるため にあるかの観があった﹂といわれている︒姦通で死刑が執行されたのは三件であるとか︑ボストンにはたくさんの私

( 2 4 )  

生子がいたということがその実態を反映しているように思われる︒

姦通を犯罪にするのが時代錯誤的であるのは論じる余地がないほど明らかであるが︑アメリカでは︑

アメリカ法律協会が模範刑法典において︑姦通を非犯罪化することを勧告した︒それを承けて︑カリフォルニア︑

カン

ザス

サウス・ダコダ︑

コロ

ラド

︑ ネブラスカ︑

ミネ

ソタ

しかし性に関する法律の規定︑

ノース・ダコダ︑オレゴン︑

( 2 5 )  

ワシントンの十二州が姦通罪を廃止した︒しかしながら︑

フロリダ︑ジョージア︑イリノイ︑

アイ

ダホ

︑ ニューヨーク︑

メリーランド︑マサチューセッツ︑ミシガン︑

オクラホマ︑ヴァージニア︑ウィスコンシン︑

ミネ

ソタ

サウス・カロラ

ロード・アイランドの十九州とワシントン

D.C

において姦通は犯罪とされている︒これらの州においては︑

姦通罪は軽罪

( m

i s

d e

m e

a n

o r

) とされているところが多い︒しかもこれらの州法はほとんど執行されていない︒その

ニュー・ジャージー︑

一九八六年現在において︑ ペンシルバニア︑ ア 一九五五年に

こともあろうに牧師テムズデールと姦通

( 2 3 )  

はまれであったとされている︒

﹃緋

文字

﹄ という有名な小説である︒この本が

一 八

(19)

人権としての性的自由をめぐる諸問題(‑) (上村)

ため︑遵法精神がうすれるとか︑ゆすりのための材料を提供している等の副次的な効果が生じているといわれている︒

( 2 6 )  

しかしながら︑まれではあるが︑姦通罪による起訴は行なわれているようである︒

( 2 7 )  

姦通罪の合憲性に言及した判決として次のものが引用されている︒

P o

e   v .  

U l

l m

a n

n  

(1961) ① 

結婚している男女が避妊器具を用いることを禁止している州法の合憲性が争われた本件において︑違憲の主張をし

( 2 8 )  

た少数意見のハーラン判事は︑姦通に対する刑事制裁については合憲性を支持した︒

( 2 9 )  

G r

i s

w o

l d

 

v .  

C o

n n

e t

i c

u t

  (1965) 

C o

m m

o n

w e

a l

t h

 

v .  

S t

o w

e l

l  

(1981) 

一 九

姦通罪禁止規定は﹁疑問の余地のないほど﹂合憲であると主張した︒

秩序だった自由

( o

r d

e r

e d

l i l e

r t y )

の概念の中に含まれる個人の

基本的なプライバシー権の中に姦通は入らないとして︑姦通罪規定の合憲性を支持した︒

( 1

)  

M i r v a h a b i , '   L a d u l t e r e

  ; E

tu de   c o m p a r a t i v e   d e s   s a n c t i o n s   p e n a l e s ,   Re vu e  d e  d r o i t   i n t e r n a t i o n a l   e d t   e  d r o i t   co m p a r e ,   1 97 8,  

p .  

21 5.  

(2)プラッシュ著・堀たお子訳『性11男と女ー~それはいかにして始まったか』

( 3

)

プラッシュ前掲書・︱二六ー︱二七頁︒

( 4

)

中谷瑾子﹁性行為に関する刑事規制の限界│ーとくに姦通罪と近親相姦について││̲L杏林社会科学研創刊号十一頁以下参照︒

( 5 )   H o n o r e ,   i b i d . ,   p .  

28 . 

( 6

)  

P i o 咎

o w e , i b i d . ,   p .  

429は︑四類型に分けている︒

この事件において︑

マサチューセッツの下級審は︑ ③  この事件において︑

ゴールドバーグ判事は︑ ② 

参照

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