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大学院段階における体育教師養成プログラムの開発 その 1

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(1)

1 .研究の主題

グローバル化や情報化,少子高齢化など社会 の急激な変化に伴い,学校教育に求められる人 材像が変化している中,教師養成では,必要な 知識・技能を絶え間なく刷新する「学び続ける 教員」の養成が肝要となる(教員資質改善会 議,2013)。本研究は,基本的な指導方略や技 術の理論や実践を学習した大学院生が,大学院 段階で学習内容に関する指導(教師行動)や子 どものつまずきに対処する指導技術といった Pedagogical Content Knowledgeの理論と実践 の学習を通じて,反省的実践力の基礎を習得す るプログラム開発を実践的に検討する。

筆者は,教育実習生が大学の講義で学んだこ とを,実際の授業で発揮できないケースに出会 うことがある。その場合の多くは,授業マネジ メントに問題があるよりも,運動学習場面で子 どもが学習課題に取り組んでいるとき,学習内 容に関わるフィードバックができず,消極的な 巡視をするか,授業を円滑に進めるための指示 を出すことに終始している。

対象となる大学院生は学士課程で,教育実習 までに「体育科教育」の講義内で模擬授業を実

施している。学生は,「体育科教育」の講義で 模擬授業だけを実施するのではなく,「体育の 目標・内容論」,「教材論」,「学習指導論」と い っ た 専 門 的・ 学 問 的 能 力(knowledge competency)である理論的知識(theoretical knowledge)を学習した後,模擬授業を省察的 に実施し,実践的能力(performance competency)

である実践的知識(practical knowledge)の獲得 を行った。

筆者は2006年から模擬授業を取り入れた教師 養成プログラムを繰り返してきたが,組織的観 察法のデータ,映像コンテンツによる評価分 析,学生のアンケート結果などを基に,教師養 成プログラムを修正し,図 1 のプログラムが

「基本的指導技術の獲得」や「よい体育授業の イメージづくり」に効果があることを明らかに した(福ヶ迫,2007;福ヶ迫・坂田,2008;佐 宗ほか,2011)。

しかし実際のところ,教育実習の授業におい て学生は,学習規律を確立しマネジメント時間 を削減したり,学習課題へ従事させたりするこ とはできても,学習内容に関するフィードバッ クを適切に行うことができない場合も少なくな い。マネジメント技術や学習課題へ従事させる 指導技術は,周到な指導によって獲得を可能に

《研究ノート》

大学院段階における体育教師養成プログラムの開発 その 1

福ヶ迫 善 彦 米 村 耕 平

Development of the Physical Education Teacher Education in Master’s Program YOSHIHIKO FUKUGASAKO

KOHEI YONEMURA キーワード

マイクロティーチング(Microteaching),理論的知識(theoretical knowledge),実践的知識(practical knowledge),Pedagogical Content Knowledge,意図した学習成果(Intended Learning Outcomes)

(151)

(2)

(152) するが,学習内容に関わった子どものエラーや それに対応する指導技術の獲得に時間を要する と考えられる。このような実態は筆者が指導す る 学 生 だ け で は な く,Birdwell(1980),

Bandall and Imwold(1989),Sidentop(1981),

Siedentop(1986)が報告するように,諸外国 においても同様である。

教師養成や教師教育の研究において,1980年 代以降,すぐれた教師の指導技術に関心が向け られた。指導技術に関して,1980年代以降の授 業成果に寄与する教師の教授スキルに関する授 業研究が,主に行動科学的アプローチを用いて 蓄積されてきた(高橋, 2000)。一方欧米では, すでに指導技術に関する研究から教師教育研究 が分離・独立し,教師の専門的力量を発展させ るための実践的研究成果を次々に生み出してい る。 教 師 の 専 門 的 力 量 の 中 で も,Shulman

(1987)は,これまでの研究成果を踏まえて教 師の知識カテゴリーを以下の 7 つにまとめて提 示している。

1 .教科内容についての知識   (Content Knowledge:CK)

2 .一般的な教授方法についての知識   (General Pedagogical Knowledge:PK)

3 .カリキュラムについての知識   (Curriculum Knowledge)

4 .教科内容を想定した教授方法についての知識   (Pedagogical Content Knowledge:PCK)

5 .学習者と学習特性についての知識

   (Knowledge of Learners and their Characteristic :LK)

6 .教育的文脈についての知識

  (Knowledge of Education Contexts)

7 .教育目標・価値とそれらの哲学的・歴史的 根拠についての知識

   (Knowledge of Education ends, purpose, and values, and philosophical and historical grounds)

Shulman(1987) は,CKとPKを 統 合 し た

「教科内容を想定した教授方法についての知識

(PCK)」を特に強調し,その獲得の重要性を 示している。

わが国の体育教師養成の研究を見ると,日野

(2006)は,模擬授業を通して,「よい体育授業 の基礎的条件である『授業の勢い』や『授業の 肯定的雰囲気』についての認識を高めることが できた」と報告している。他方で,大学で行わ れる教科教育学の授業が教員の専門領域や座学 の授業で終始するという指摘もある(日野, 2006;高橋, 2003)。無論,講義形式の授業と 模擬授業を両立すれば,直ちに「即戦力として の新人教員養成」と「実践的な能力を持った教 員の養成」ができるわけではないが,先行研究 からも計画的に行えばその効果があることは明 らかである(日野, 2002;吉野, 2003,細越・

福ヶ迫, 2004;福ヶ迫, 2007)。とりわけ,体育

1 1

図 1 学 士 課 程 に お け る 教 師 養 成 プ ロ グ ラ ム 2

3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 3 1 4 1 5 1 6 1 7 1 8 1 9 2 0 2 1 2 2 2 3 2 4 2 5 2 6 2 7 2 8 2 9 3 0 3 1

指導案と実際の授業 ハの字型ハンドボールゲーム①

模擬授業① 14

7

さまざま教材,わかるとできる 教材論

13

6

模擬授業③の分析,①~③で変容した教師行動 授業中の教師の役割,学習形態

12

5

ハの字型ハンドボールゲーム 学習指導論(インストラクション技術、相互作用技術)

模擬授業③ 11

4

模擬授業②の分析,③への修正 学習指導論(マネジメント技術、学習従事)

10

3

ハの字型ハンドボールゲーム よい体育授業の基礎的条件

模擬授業② 9

2

模擬授業①の分析,②への修正 体育の目標内容論

8

講義 1

指導案と実際の授業 ハの字型ハンドボールゲーム①

模擬授業① 14

7

さまざま教材,わかるとできる 教材論

13

6

模擬授業③の分析,①~③で変容した教師行動 授業中の教師の役割,学習形態

12

5

ハの字型ハンドボールゲーム 学習指導論(インストラクション技術、相互作用技術)

模擬授業③ 11

4

模擬授業②の分析,③への修正 学習指導論(マネジメント技術、学習従事)

10

3

ハの字型ハンドボールゲーム よい体育授業の基礎的条件

模擬授業② 9

2

模擬授業①の分析,②への修正 体育の目標内容論

8

講義 1

授業の指導案作成(計画)

模擬授業(実践)

反省・討論会(評価)

■他の学生は児童役と観察者

VTRを再生して指導案と比べる

VTRで授業を再現し、教員が指 導する

□観察者の分析結果と考察

3回の模擬授業を授業者 A一人で行う

□児童役の主観的な意見 授業の準備、分析

データの解析、まと めなど前期と同様 の内容を90分間に 行う。

45

■授業者Aと教員間で意見 を交換する

■観察者の分析観点は前年度 と同じ

VTRで撮影

授業の再構成 授業の指導案作成(計画)

模擬授業(実践)

反省・討論会(評価)

■他の学生は児童役と観察者

VTRを再生して指導案と比べる

VTRで授業を再現し、教員が指 導する

□観察者の分析結果と考察

3回の模擬授業を授業者 A一人で行う

□児童役の主観的な意見 授業の準備、分析

データの解析、まと めなど前期と同様 の内容を90分間に 行う。

45

■授業者Aと教員間で意見 を交換する

■観察者の分析観点は前年度 と同じ

VTRで撮影

授業の再構成

図 1  学士課程における教師養成プログラム

(3)

(153) 科教育学の授業に限って言えば,高橋(2000)

が提唱するよい体育授業の基礎的条件である

「学習の勢い」や「肯定的な学習の雰囲気」に ついての認識が高くなり,教授技術が高まるこ とを報告している。福ヶ迫(2007)は,模擬授 業を取り入れた体育科教育学の授業を実施し,

その効果を以下のようにまとめた。

1 .体育科授業観が変容する。

2 .体育授業観察力を育成することができる。

3 .授業を改善する力を育成できる。

とはいうものの,教師養成段階において,学習 内容に関わった子どものエラーや,それに対す る指導技術は獲得することが困難であると予想 できる。よい体育授業を実施できる優れた教師 は,マネジメント時間を削減したり,ALT-PE

(成功裡な学習従事)を高めたりする指導法略 や指導技術を発揮でき,且つ,上で述べた学習 内容の指導に関する知識(PCK)を有し,子 どもの失敗(エラー)やつまずきを修正するた めに指導できる(Metzler et al., 1985;Rife et al., 1985)。

米国の体育教師教育を見ると,2004年「Moving into the Future」のナショナルスタンダードに連 用するように「National Standards & Guidelines for Physical Education Teacher Education」

(NASPE, 2009)が発表された。その中で,「進 歩的な体育教師教育のスタンダードのアセスメ ント」や「進歩的な教師実習生のパフォーマン ス評価」が示され,Content Knowledgeと Pedagogical Knowledgeの学習,そして,実践 的にPedagogical Content Knowledgeの習得を 明示している。このように,諸外国では教師の 質的保証の一環として,教師養成段階での実践 的・理論的フレームワークづくりの研究が迫ら れている一方で,わが国においては未開拓なと ころが多い。

そこで本研究は,大学院課程において,前期 に, 意 図 し た 学 習 成 果(Intended Learning Outcomes)(以下,「ILOs」とする)を高める ためのPCKに関する理論的実践を行い,後期 にマイクロティーチングと協力校での実践を通

じたPCKに関する省察的学習を行い,学士課 程での学習を踏まえつつ,学習内容に関する知 識の獲得とPCKに関する実践的指導力の育成 を目指した教員養成プログラムに関して事例的 に検討した。

2 .研究の方法

2 . 1 .期日・対象

201X年 4 月上旬から 7 月下旬までに開講し たA大学「授業A」の受講生10名と,同年度10 月上旬から 1 月下旬までに開講した「授業B」

の受講生 4 名を対象に実践・分析した。

2 . 2 .授業の概要 2 . 2 . 1 .「授業A」の概要

子どもが学習課題につまずいた様子を編集し た映像コンテンツを用いたり,子どもがつまず いた様子を言語によって伝えたりして,「子ど もをどのような方法で指導し課題解決へ導く か」をテーマに,それぞれのケースをディベー ト形式で議論した。この学習を通じて,学生に はILOsを高めるためのPCKを構造的に捉える ことを課題とした。

授業Aでは教師の意図した学習成果を達成す るために,教師のPCKが重要であることを示 した。なお, 1 時間目と 2 時間目にILOsにつ いて説明し,「ILOsを高めるために必要なこ と」をKJ法によって構造化させた.

2 . 2 . 2 .「授業B」の概要

「授業B」は,表 1 に則りマイクロティーチ ング(以下,「MT」とする)を実施したが,

MTとは,教員志望の学生や現職教員を小中高 の児童生徒に見立て,学校現場で展開される実 際の授業現場を想定しながら,指導技術に焦点 を当てて行われるトレーニングである。10分間 のMTの教師行動は,組織的観察法を用いた分 析の他に,学習内容に関わって,「だれに」「何 を」「どのように」指導し,その後,その学生 が「どのように修正されたか」を記述的分析し た。MTは, 1 名 を 教 師 役, 3 名 を 生 徒 役 と し,体育館で10分の指導活動を行った。運動の

(4)

(154) 内容は簡易でありながらも,大学生にとって興 味・関心の高まるものを実施した。 1 時間の授 業の中で 2 名が教師役を実施し, 2 つのMTが 終わった後に約20分程度の省察を行った。省察 では学習内容にかかわってどれだけフィード バックできたかや,伝わりやすく簡潔な言語内 容であったかについて検討した。参画型授業と は,一般校で行われている授業において,大学 院生が教師として授業に参画し,一般校の教師 とともに学習指導することである。具体的に は,A県B小学校 2 年生男子20名女子12名授業

(ゴール型バスケットボール系単元)におい て, 8 時間完了の 6 時間目に大学院生が参画 し,T・T形式で大学院生がT1を担当し,学習 指導を行った。なお,大学院生は, 1 時間目か ら 5 時間目までの 5 時間を観察し,授業後に教 師と学習内容の観点から教材や学習指導につい て省察した。

2 . 3 .教師の相互作用の分析方法

体育授業中に教師が行っている指導行動は,

大きく①直接的指導②マネジメント③観察④相 互作用の 4 つに区分される(深見ほか,1997)。

このうち相互作用の中でも,フィードバック行

動について, 4 時間計 8 回のマイクロティーチ ングと 1 回の参画型授業を,表 2 の評価内容

「肯定的・矯正的・否定的」の観察次元を抽出 し観察・記録した。なお,教師のフィードバッ ク行動はVTR撮影し,ワイヤレスマイクで集 音して録音したのち,研究室に持ち帰り記録・

分析した。

2 . 4 . 参画型授業後に行った省察の記録方法 と分析方法

参画型授業について,共同実践者である現職 教師A,大学教員A,大学院生(A,B,C,

D),の他に大学教員の連携者としてK大学教 育学部准教授大学教員Bが行った省察を,

VTR及びワイヤレスマイクで収録し,研究室 に持ち帰り記録分析した。

3 .結果と考察

3 . 1 . ILOsを高める効果的な指導に関する認 識の変容

図 2 は,「授業A」の 1 時間目と 2 時間目に

「ILOsを高めるための効果的な指導」につい て,KJ法に基づいて作成したものであり,図 表 1  授業Bの指導計画

時間 内容

1 - 2 技術及び課題の抽出と指導プランの作成

3 マイクロティーチングの説明

4 - 7 マイクロティーチングの実施 8-10 参画型授業の観察と省察

11 参画型授業の実施

12 省察

13-15 省察内容の整理と課題の抽出

表 2  教師のフィードバック行動の評価内容と観察次元

カテゴリー 定義

評価内容 肯定的 子どもの技能的なできばえや応答・意見に対する言語的・非言語的行動(承認・賞讃)

例:「うまい」,「よかったね」,「腕の上げ方がよくなった」,拍手

矯正的 子どもの技術的なできばえや応答・意見に対する修正的な言語的・非言語的行動(助言・課題提示)

例:「もうちょっと」,「腕の振りが足りないね」,「膝を曲げてごらん」

否定的 子どもの技能的なできばえや応答・意見に対する言語的・非言語的行動(叱責・批判)

例:「だめだ」,「何考えているんだ」,顔をしかめる

(5)

(155)

図2 ILOsを高めるための効果的な指導(プレ) 4

1 2 2 ILOsめるための効果的な指(プ) 3 4 5

学習過程

・教師がその、授業で身に付けたいこ を明 確にす ・誰もができ題をまず設定する ・レベルによ(個人の)成度

教材研究 指導要領 ・運動 ・バイ カニク

運動特性 ・教材 材を単にする ・教材工夫 ・教材工夫 ・いい材を 教材観 子どもの実態を知る ・子どチャレンジ できレベ ・発達 ・子ど実態にあっ 材選び ・時期

社会性 生徒同士の 人関係 はずかしさの 男女(性別) 班づくりの工

どもの実態教師と生徒の 関係(言う事を聞 ) ドリル→タスク→メイン・達成場面 のつながりをもたせ・克服場面 ・挑戦場 ・多くのことをつめこまない ・指示することを1点に絞・教具 ・道具の工夫・施設 ・安全性 ・学習カード

・まず説明する前に 動いてみせる ・学習前段階と後の 映像を見せる

示範 ・子ども 考えさせる・メインゲーム 間を多くする ・説明を短くす ・準備時間を減らす ・準備等、役割を決め ・時間(学習)十分に 使えるよう準備、片付け ・子どもの運動時間を 多くす 競争

運動量 ・表 ほめる 1人1人 声か アドバイス ほめる ・見 ありのままを 受け止める

支援かかわり ・つまづ ・運動ができ への指 ・できないと とっておく ・音楽

技術指導

・子どもが自に運 できる工夫 ・子どもがで授業 ・スポーツの 楽しませる ・子どもが楽 ・評価 ・評価方法の工 具体的

抽象的

指導計画をた

ILO高めの効果的な

(6)

(156)

図3 ILOsを高めるための効果的な指導(ポスト) 5

1 3 ILOsめるための効果的な指導(ポスト) 2 3 4 5 6 7

PCK ・教育に関す 一般的知 ・体育に関す 専門的知 ・ゲーム構造

小、、高格年で 学習容の違い 小、、高で 学習容の違い ・単元 教材研究

学習ポント 把握 ・学習に関す 識ポイン 習内容の一貫性 授業の評価

・単元 ・下位教 ・多様なきをす

・ゲームのルルの ・インストラショ ・認知学 ・運動学 ・運動学 ・主運動の学時間 多くする ALT展開 学習モルの使い 学習指モデ DIRECT学 誘導発学習

・モデル ・用具の ・用具の設置

用具 HOWWHAT

ども実態把握・子ども特性 子どねらいとども 師のらい ・学者(ディス)発達 ・学習内に対して質なによ の予備知め合

ども 準備・片付けする 時間 ・集合隊 用具準備 用具片付け ・集合場

ルーテーン化

・示範 VTR視 かかわる オノマト

指導場

・学習者の変 ・観察(授業) ・授業観 ・学習者のつ

(ラー) 対す指導 指導時の言葉が 導と評価の一体 自分自身での確 ック 学習内容に合っ フィバッ

成的評価 で競 姿で走てみ 模範と動き見て 運動知る

腕振バラバラ 腕輪のよのを はめ肘を心と振り 意識

体例

無意識的運動か 識的運動へ 自信を持つ ・指導と評価 一体 ・省察行

ILOs学習内容 マネジメント

PLANdo授業案業の評

観察

(7)

(157) 3 は「授業A」の講義を受けた上で,14時間目 と15時間目に「ILOsを高めるための効果的な 指導」について,KJ法で同様に作成したもの である。

図 2 に比べて図 3 は,計画から実践を意図し ており,また,学習内容とマネジメントについ て区分されている。さらに,図 3 の構造図の中 心には子どもがあり,子どもの実態に照らし合 わせ,学習指導や教材を使い分けることの必要 性が理解されている。図 3 には,具体的事例が 示されていることも注目すべきである。子ども が学習指導に対してエラーを起こすことを予測 し,教師が直接指導することの必要性が示され た。他方で図 2 は,「抽象的-実践」次元に全 く記述がなく,「ILOsを高めるための効果的な 指導」について,十分な理解がはかられていな いことが予想できる。図 3 は,構造的に図示さ れている一方で,図 2 では,例えば「具体的-

実践」次元のように並列に図示されるなど,そ れぞれの内容に関係性が見られない。

このことから,「授業A」の受講生は,学習 を通じて,「ILOsを高める効果的な指導」につ いて,構造的・理論的に理解したと言えよう。

3 . 2 . マイクロティーチングにおける教師役 のフィードバック行動

表 3 は,MTを行った際に, 3 カテゴリーの

フィードバック行動(肯定的・矯正的・否定 的)(以下,「FB」とする)を観察・記録し,そ れぞれのMTの出現頻度を示している。

すべての大学院生(A,B,C,D)のFB は, 1 回目に比して 2 回目で向上が見られた。

とかく,「授業A」で重視した学習内容におけ るエラーに対する矯正的FBは高い値を示した。

このことから,MTにおいて教師役や生徒役 を行い省察を繰り返すことは,FBに関する知 識(PK)を習得させるとともに,学習内容や 教材を理解(CK)して,教師行動として実施

(PCK)できるようになる可能性を示唆した。

3 . 3 . 参 画 型 授 業 に お け る 大 学 院 生 A の フィードバック行動

深見ら(1997)によると,体育授業における 教師の相互作用,中でもフィードバックに限定 すると,平均で肯定的フィードバックが47.6 回,矯正的フィードバックが43.8回体育授業で 出現する。

表 4 は参画型授業における大学院生AのFB の結果を示している。深見ら(1997)の結果と 比較すると,大学院生AのFBの頻度は高くな い。だが,大学院生Aは,継続的に当該授業を 担当しているわけではなく,参画型授業のみを 担当したことに鑑みれば,決して低い値であっ たともいえない。

表 3  マイクロティーチングにおけるフィードバック行動

MT 1 回目 2 回目 3 回目 4 回目

教師役学生 A B C D A B C D

FB 肯定的(回) 11 7 8 10 15 13 12 9

矯正的(回) 11 8 7 10 12 14 15 15

否定的(回) 0 0 0 0 0 0 0 0

表 4  参画型授業におけるフィードバック

授業時間 参画型

教師役 大学院生A

FB 肯定的(回) 32

矯正的(回) 43(24)

否定的(回) 0

※( )内は,中心的学習内容に関するFBの出現頻度

(8)

(158) 特に,矯正的FBは値が高く,中でも学習内 容 に 関 わ るFBも 多 い。「 授 業 A 」 に お い て ILOsを高める効果的な指導を学び,「授業B」

でMTを行い省察を繰り返し実践的に行ったこ とは,実際の中学生を対象にした50分の参画型 授業で発揮されたのだろう。

3 . 4 .参画型授業後に行った省察の内容 参画型授業後に行った省察の構成は,授業を 実践した大学院生Aの考察→それに対する観察 者(特に,大学教師A,大学教師B,現職教師 A)の感想→Content Knowledge(CKに焦点 化)→Pedagogical Knowledge(PKに焦点化)

→CKとPK を 合 わ せ たPedagogical Content Knowledge(PCKに焦点化)→大学院生Aへ のアドバイスであり,その中でも「Content Knowledge→Pedagogical Knowledge→CKと PKを合わせたPedagogical Content Knowledge」

に多くの時間を費やした。

参画型授業(以下,「授業」とする)の切要 な問題点は,学習内容がバスケットボール経験 者や運動の得意な生徒にとっては,容易なもの であるのに対して,経験のない生徒や運動の不 得意な生徒にとって,非常に難しいレベルで あったことである。授業を行う上で大切にする べきことは,技能水準の高い生徒に合わせて進 行するのではなく,できない生徒に焦点を合わ せて,指導者の指示なしでも,自ら動ける生徒 を求めるような授業を作ることである(大学教 師B)。子どもの発育・発達段階に適した学習内 容を設定するべきであり,学習内容の構造や教 材作りは課題を残した。

課題を解決するためには,生徒の実態をとら え,どんな学習段階を踏めば,生徒がスキルを 身に付けることができるかを考えながら教材を 創出できる,教師の教材解釈力が大切である

(大学教師A)。

ただ,生徒の実態をとらえて教材を創出でき ても,その教材から生まれる生徒のエラーや課 題に対して教師が正しいフィードバックができ なければ,よい実践にはつながらないことか

ら,教師のPCKの獲得は専要となる。ともに 実践した現職教師Aも同様に,「生徒はバス ケットボールを知っていても,ゲームの本質を 理解しておらず,やるべきことがわからないま まプレーしているため,やるべき事に焦点を当 ててあげる事が大切であり,授業作りは難し い」と感じていた。

実践者である大学院生Aは,中学生を対象に 50分間実践した後,「自分からいいすぎた」,

「もっと生徒の意見からキーワードを聞き出せ れば生徒にきちんと課題が落ちた」,「意識して 声をかけてもなかなか聞いてもらえなかった り,伝わらなかったり,フィードバックする際 の環境づくりが大切だ」と反省した。

これに対し,大学院生が多くのフィードバッ クを行おうとした姿勢は,現職教員Aや大学教 員Bも評価した一方で,現職教員Aにみられる

「指示を出す際の言葉の抑揚」「褒める事」で生 徒もやるべきことが理解しやすいとアドバイス を行った。

授業観察者や実践者の意見が集まった内容に 鑑みると,よい体育授業を実践するためには,

CKかPKのどちらかだけを学習・習得するので はなく,どちらも含むPCKの獲得が肝要であ り,PCKの獲得・向上のために省察的に意識す ることが求められる。

4 .まとめ

本研究の目的は,大学院課程において,前期 に,ILOsを高めるためのPCKに関する理論的 実践を行い,後期にMTと協力校での実践を通 じてPCKに関する省察的学習を行い,学士課 程での学習を踏まえつつ,学習内容に関する知 識の獲得とPCKに関する実践的指導力の育成 を目指した教員養成プログラムに関して,事例 的に検討することであった。

教師の実践的認識論(practical epistemology)

による反省的思考(reflective thinking)の研究 から,現代の専門職概念が「科学技術の合理的 適用」(technical rationality)の原理から「活動

(9)

(159) 過程での省察」(reflection in action)の原理への 捉えなおしを迫られている(佐藤ほか,1990;

秋田ほか,1991)。教師の「実践的知識」は,

特定の子どもの認知(cognition specific),特 定の教材の内容(content specific),特定の文 脈(case-knowledge)として,蓄積され伝承さ れることに鑑みれば(佐藤ほか,1991),教職 課程,とかく,大学院段階では,既存の学問の 知識の枠組みを超えて,不確定な状況で探りを 入れて未知の問題の解決へ向かう知識を探求 し,その状況に包括されている多様な可能性を 洞察し,よりよい方向を探求する知識の習得が 求められる(佐藤ほか,1990)。学習計画は,

指導内容を決定し,教材・学習の場づくり,あ るいは教師の指導方略や指導技術を決定する意 味から極めて重要な教師の役割になるが,一度 授業が始まると,計画は後方に位置し,授業過 程で生起する表象と解決に向けて,様々な意思 決定を行う。吉崎(1990)によると,教師は 2 分に 1 回の割合で意思決定を行い,重要な意思 決定は, 1 つの授業で数回ある程度と指摘す る。大学院生が授業を計画し実践すること,そ して実践について省察すること,もっと言う と,実践中の省察行動を明らかにすることは切 要となる。本研究で検討した大学院生のFB は,参画型授業において,学習内容に関する具 体的なフィードバックが多く見られ,これまで の学習成果が十分に発揮でき,実践的指導力は 向上したといえる。

とはいえ,行動科学に基づく研究から,効果 的な教師は,子どもにより高い要求をする,指 導技術をより多く持つ,教科に関する知識がよ り多い,規律維持によりすぐれていると言われ るが,理論と実践を融合する体育教師養成プロ グラムの開発には,今後,養成段階のプレ教 師,新任教師,熟練教師の実践的思考様式を明 らかにし,その形成過程を明示するとともに,

教師の持つ信念との関係を明らかにすることが 須要となる。

引用・参考文献

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参照

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