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体育科教育学研究 35(2): 研究資料 倒立前転試行直前に教師が行う注意づけに焦点化した言語的行動に関する研究 米国における Instructional Cue の視点から 田中雄大 ( 神奈川県立大和高等学校 ) 白旗和也 ( 日本体育大学 ) 近藤智靖 ( 日本体育大学 )

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Academic year: 2021

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35(2):43-57.2019

倒立前転試行直前に教師が行う注意づけに

焦点化した言語的行動に関する研究

―米国における Instructional Cue の視点から―

田中 雄大

(神奈川県立大和高等学校)

白旗 和也

(日本体育大学)

近藤 智靖

(日本体育大学)

岡出 美則

(日本体育大学)

研究資料

1. 緒言

体育授業の質保証は,1990 年代末以降,世界 的な課題となってきた.そこでは,カリキュラ ム上の時間確保と教師教育の重要性が提案され てきた(ICSSPE, 1999).また,この質保証に向け た動きは,各国において体育のスタンダードや 評価法の開発を促進するとともに(NASPE, 1995, 2004, 2010, 2011, 2013),良質な体育の定義に関す るユネスコの提案を生み出してきた(UNESCO, 2015).我が国の新学習指導要領(文部科学省, 2017,2017a)もまた,この質保証の動きと無縁 ではない. さらに,英語圏での研究によると,良質な体育 授業の実現に向けては,意図的,計画的な授業計 画づくりが不可欠である.そのため,授業におい て子どもが従事している際に個人の技能における 成功率を 80%以上になるように課題設定する必 要性が指摘されている(Graham, 2008)とともに 意図的な学習成果が得られるという意味での効果 的な学習指導(Rink, 2002)という概念も提案さ れてきた.また,オールマイティな指導法が存在 しないことを認めたうえで,目的や子どもの実態 に対応させた指導方略の提案が試みられていく過 程では,学習指導モデルや教授スタイルという概 念が生み出されてきた(Metzler, 2011; Mosston and Ashworth, 1994).同時に体育授業中の運動技能の 習得には,教師によるフィードバックが重要な 役割を果たすことが指摘されてきた(Rink, 2002; シーデントップ,2003). 通常,フィードバックは,教師から子どもに対 する期待の表明と学習行動の改善に向けた情報提 供という 2 つの機能を有している(シーデントッ プ,2003).実際,体育授業における教師の相互 作用行動,特にフィードバック行動は,子どもの 学習行動や授業評価に強く影響すると言われ,優 れた教師のフィードバックは肯定的な表現や技能 に関する内容が多いと報告されてきた(深見ほか, 2015;高橋ほか,1989;高橋ほか,1997).また, フィードバックの表現方法や内容の具体性,タイ ミングが子どもの授業評価に肯定的な影響を与え ていると報告されてきた(深見,1997,2003;深 見,2004,2007;高橋ほか,1996;上江洲ほか,

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2011).さらに,教師は,子どもの技能水準を踏 まえてフィードバックの内容やその与え方を変え ていることも指摘されてきた(浅川ほか,2016; 深見ほか,2015;Rink, 2002).しかし,実際に子 どもが役立つと受け止めたフィードバックでもそ れが技能成果につながっていない事例も確認され てきた(深見ほか,2003).その理由として次の 3 点が考えられる. ①体育授業において与えられたフィードバック を子どもが覚えておらず,提供された情報が 使われないこと. ②子どもに理解できる内容,形式でフィード バックが提供されないため,子どもは何を意 識すればいいのかわからなくなり,試行前に かえって混乱してしまっていること. ③与えられたフィードバック情報は覚えていて も,次の試行でそれを活用しないこと. このような点が挙げられる論拠として,子ども の情報処理能力の制約があげられている.そのた め,情報過多に陥ることがないよう子どもに提供 するフィードバックを制約すること(Chase and Ericsson, 1982; Magill, 1993)や子どもの発達段階 や技能の習熟度に応じたフィードバックの提供が 重要になること(Rink, 2002)などが提案されて きた.しかし,子どもにとって適切なフィードバッ クを提供することは教師にとって容易ではない. 子どもの試行を確認し,極めて限られた時間の中 で提供する情報とその伝え方を決定することが求 められるためである.そこでは,教師が身につけ ている指導内容に関する知識と,それを子どもの 実態に応じて使い分ける能力が問われることにな る. このような問題を回避する方法として,子ども が何かを試行する直前にそこで意識すべき言葉を かけることが考えられる.この場合,教師は提供 する情報を事前に準備しておく必要がある.また, 課題やその解決方法に焦点化した,より適切な情 報提供が可能になると考えられる.その結果,子 どもの試行がより正確になり,技能的な成果の向 上も期待できると考えられる.学習カードや掲示 物に記されている技能的課題に関する情報は,運 動を試行する直前に意識すべきポイントを助言す るうえで基になる情報であると言える.実際,米 国においては,授業計画に技能的課題に関する情 報が明記され,授業での活用が期待されている (Mitchell et al., 2013). しかし,国内外を問わず,体育の授業中にこの ような情報を活用する教師の発話行動にはそれほ ど高い関心が向けられてこなかった.かつて英語 圏では,教師の発話行動としてではなく,指示− 子どもの反応−フィードバックというサイクルが 教授行為として紹介されていたこと(Siedentop et al., 2000)は,その例である.しかし,子どもに 対して教師が運動直前に与える情報は Learning Cue (Rink, 2002)あるいは Instructional Cue注 1)

(Darst, 2013; Henkel, 2012)と呼ばれ(以下,Cue とする),それに関する研究成果も英語圏では蓄 積されてきた. Cue は,運動技能や運動課題を規定している重 要な要素を特定し,子どもに伝えられる言語と言 われる.また,好ましい Cue は①正確,②提示 された課題にとって重要,③少数,④学習者の年 齢や学習の段階に対して適切という特徴を備えて いると指摘されている(Rink, 2002).また,Cue は,道しるべとなる提案,もしくは想像力を活発 にする刺激と定義されており,重要な技能的課題 等に対して子どもの注意を喚起する短く,印象的 なフレーズとされている(Fronske, 2001).さらに, それには,技能的な課題や解決方法を子どもに理 解させ,その結果,技能を向上させる機能(Darst, 2013)や子どもの注意力を高める機能が期待され ている(Henkel, 2012).加えて,このような機能 が効果的に発揮されていくためには,明確な表現 や比喩表現,頭韻法注 2)を用いるなど,子どもの

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関心を引く多様な表現方法が望ましいとされてき た(Buchanan and Briggs, 1998).さらに,優れた 教師は,子どもに技能の習得を可能にさせる効果 的な Cue を提供していること(Graham, 2008)や 好ましい Cue を選択するために多大な時間をか けていることも報告されている(Rink, 2002).加 えて,Cue で子どもに注意を向けさせることに より子どもの技能が向上したこと(Fronske and Blakemore, 1997; Masser, 1993; Palmer et al, 2017)や 正確な Cue を提供することで子どもの技能が向 上することも報告されている(Rink, 2002, p.103). しかし,通常の体育授業中に教師が Cue をど のように発しているのか,その実態を明らかにし ている研究は,我が国ではみられない.そのため, 現状では,子どもに対する効果的な Cue の提供 方法を明らかにできずにいる.その理由として次 の 2 点が考えられる. ① Cue はフィードバックと比べ,より意図的 に使用しなければ出現しないと考えられる. そのため,Cue を使用できるような教師の選 定が難しく,実態を把握しにくかったと考え られる. ②これまでの相互作用行動研究では,運動直前 に教師の発する言葉が,励ましや指示として 処理され,「技能的な課題に子どもの注意を 向けさせる」という観点から教師が提供して いる情報を分析する必要性が自覚されていな かった.そのため,実態把握の必要性も自覚 されてこなかったと考えられる. 励ましは,「子どもの技能的な学習や認知的行 動,一般的行動を促進させるような言語的・非言 語的行動」(高橋ほか,2014)と定義され,指示は, 「主に直接的指導場面において相手の行動や思考 活動を直接コントロールするために行われる言語 活動」(坂田ほか,1995)と定義されている.こ れに対して本研究における Cue は,「教師が事前 に準備した,子どもの技能的な動作に対して注意 づけるための情報」(Rink, 2014)と定義され,技 能に関するポイントを子どもに意識,注意づけさ せる情報である.Cue とその他の相互作用行動と の違いは,表 1 に示した通りである.さらに,学 習カードに Cue に関する情報が記されるように, Cue は技能的な課題に対応して事前に準備しやす い情報であり,その効果的な活用は子どもの技能 成果の改善に貢献すると考えられる.実際 TGFU では,ボール操作やボールを持たない時の動きに 関連した Cue が,練習課題と関連づけて明示さ れている(Mitchell et al., 2013).そのため,学習 指導計画を作成する際には,励ましや指示といっ た行動と提供される Cue を区別することが必要 になる.しかし,それ以前に,体育の授業で活用 されている Cue の実態やその機能について検討 する必要がある. 表 1 Cue とその他の相互作用の定義   定義 具体例 Cue 教師が事前に準備した、子どもの技能的な動作に対して注意づけるための情報 「目線は下」「ピッと伸ばす」 フィードバック 実際に行われた運動に対して,技能パフォーマンスを評 価し,誤りを正すために与えられ,子どもが課題を解釈 できるようにするために行われる言語的・非言語的行動 「腕のあげ方がとてもよくなった」「うまい」 励まし 子どもの技能的学習や認知的行動,一般的行動を促進させるような言語的・非言語的行動 「もう一回やったらきっとできるよ」「いけ,いけ」「頑張って」 指示 主に直接的指導場面において子どもの行動や思考活動を直接コントロールするために行われる言語活動 「これから組み合わせ技を行います」「マットを準備しよう」

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2. 目的

そこで,本研究の目的は,Cue を「教師が事前 に準備した,子どもの技能的な動作に対して注意 づけるための情報注 3)」と定義し,体育授業中に 教師が発する Cue の実態を明らかにすることと した.そのために,次に示す 2 つの下位課題を設 定した. ①子どもの技能水準に応じて教師が発する Cue の頻度や内容の実態を明らかにすること. ②子どもが役立つと受け止める Cue について 検討すること.

3. 方法

3.1 データの収集方法 3.1.1 対象教師の設定 上記の目的に対応するには実際に Cue を活用 できるであろうと思われる教師を選定することが 必要になる.そのため,本研究では教職経験が 10 年以上であること並びに,体育の授業実践に 関して高い評価を受けていることを選定基準とし て,目的別に対象教師をサンプリングした.その 結果,X 大学において長期研修教員としての経歴 を持つ男性教師 A(教師歴 12 年)並びに Y 市に おいて体育の研究員としての経歴を持つ女性教師 B(教師歴 18 年)の 2 名に本研究の目的並びに 手続きを説明し,協力を依頼した.その結果,当 該教師 2 名並びに該当校より了承が得られたため A,B 両教師の行う授業を対象にデータを収集す ることとした. 3.1.2 対象授業 教師 A のデータは 2017 年 1 月 26 日から 2 月 14 日にかけて,教師 A と Z 小学校 6 年生 1 クラ ス 32 名(見学や質問紙未記入の関係から 30 名が 分析対象)を対象に,教師 B のデータは 2017 年 5 月 24 日から 6 月 2 日にかけて,教師 B と W 小 学校 6 年生 1 クラス 23 名を対象に収集した.授 業の単元はどちらもマット運動 6 時間であり,主 な課題は倒立前転であった.そのため,対象単元 では,全ての子どもが倒立前転に取り組むことと なった.マット運動を選定した理由として,子ど もの動作が一回ずつ止まるので,教師が言葉をか けやすいと判断したためである.両単元の単元計 画は,表 2 の通りである. 表 2 対象校の単元計画   Z 小学校単元計画(教師 A) W 小学校単元計画(教師 B)   1時間目 2時間目 3時間目 4時間目 5時間目 6時間目 1時間目 2時間目 3時間目 4時間目 5時間目 6時間目 0∼5分 集合・整列・挨拶・準備運動・場の準備 集合・整列・挨拶・準備運動・場の準備 5∼10分 補助運動(脚の入れ替え・ゆりかご・前転・後転) 補助運動(ゆり かご・背倒立・ カエルの足う ち・手押し車か らの倒立前転) 補助運動(ゆりかご・背倒立) 10∼30分 開脚前転・開 脚後転・側方 倒立回転 課題別練習(倒立前転) 倒立前転 壁登り倒立から前転 課題別練習(倒立前転) 30∼40分 補助付きでの倒立前転 組み合わせ技練習 組み合わ せ練習 補助倒立前転 倒立前転に挑戦 発表会 発表会 40∼45分 片付け・学習カード記入・まとめ・挨拶 学習カード記入・まとめ・挨拶・片付け

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3.1.3 対象児童の選定 フィードバックと同様,Cue も子どもの技能水 準によって頻度や内容に差があるかを検討するた めに,それぞれの教師に,クラスの子どもを,器 械運動の技能を基準として上位児,中位児,下位 児に分類するよう単元終了後に依頼した.その結 果,表 3 のようになった.教師による子どもへの 働きかけは,教師による子どものとらえ方に大き く影響すると考えられる.そのことから,今回は 教師による印象評価で子どもの技能水準を分類し てもらった.その方が,より子どもの技能水準ご とに教師が与えようとした Cue を検討すること ができると考えたためである. 3.1.4 教師行動におけるデータの収集方法 対象単元では,教師行動及び教師言語を VTR 及びワイヤレスマイクで収録した.また,子ども の行動は,VTR のみで収録した.その撮影には, デジタルビデオカメラ(SONY社製:FDR-AX55, SONY社製:HDR-CX630,SONY社製:HDR-CX630, SONY 社製:HDR-CX675)計 4 台を使用した.そ の際,教師を 1 台のビデオカメラとワイヤレスマ イク(SONY 社製:ECM-HW2)で撮影し,残り 3 台は固定カメラとして,授業全体を死角がない ように撮影した. 3.1.5 子どもからの情報収集 対象授業に対する子どもの印象を確認するため に,毎回の授業直後に形成的授業評価(高橋ほ か,1994)を実施し,Cue に関して焦点を絞るた めに追加項目として,深見(1997,2003,2007, 2015)のフィードバック研究を参考に「運動直前 に先生から声をかけてもらいましたか」「それは 役に立ちましたか」「それはなぜですか」という 項目を加えて質問紙への回答を求めた. また,子どもによる Cue やフィードバックの 受け止め方を明らかにするために,単元終了後に 質問紙調査を実施した.質問紙には,「体育授業 中先生から声をかけられたと思います.倒立前転 直前と直後では,どちらの声かけが役に立ちまし たか」「それはなぜですか」という項目への回答 を求めた. 3.2 データの分析方法 3.2.1 教師の発するCue及びその他の相互作用行 動 映像に収録された教師の相互作用行動を分析し た.分析は,高橋ら(1991)が作成した教師行動 観察法に示されている「相互作用」の分析カテゴ リーから受理を削除し,Cue を追加した分析カテ ゴリー(表 4)に基づき行った.受理を削除した 理由として,本研究では教師による子どもへの積 極的なかかわりが主な分析対象となるためであ る. Cue の分析に際しては,KJ 法(川喜田,1967) を用い分類し,分析カテゴリー(表 5)を作成し た.手続きとしては,全時間の Cue をカウントし, 一定数以上の Cue が確認された 3,4,5 時間の 3 単位時間分(教師 A)を抽出した.その後,逐語 記録から,教師の発した Cue に当たる言語を全 て取り出し,それぞれを付箋に記入した.その付 箋を意味のまとまりごとに分類し,小カテゴリー から大カテゴリーを作成する方法をとった.カテ ゴリーの作成に際しては,全ての Cue を意味の まとまりごとに切片化した.その後,切片化した Cue について意味のまとまりを踏まえて分類し, カテゴリーの名称を検討した.その際,体育科 教育学を専門とする大学教員 1 名,体育科教育学 表 3 子どもの技能水準内訳   教師 A 教師 B 上位児 9 人(30%) 7 人(30.4%) 中位児 5 人(16.7%) 8 人(34.8%) 下位児 16 人(53.3%) 8 人(34.8%) 計 30 人(100%) 23 人(100%)

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を専門とする大学院生 2 名の 3 名で,同一カテゴ リーとして結合できるものは統合し,同じ項目で は比較できないものや,他の相互作用行動のカテ ゴリーと混同してしまうものは取り除き,できる 表 4 教師の相互作用行動分析カテゴリーと Cue 相 互 作 用 発問 フ ィ ー ド バ ッ ク ①肯定的 ・技能的 ・一般的 ・具体的 ・認知的 ・一般的 ・具体的 ・行動的 ・一般的 ・具体的 ②矯正的 ・技能的 ・一般的 ・具体的 ・認知的 ・一般的 ・具体的 ・技能的 ・一般的 ・具体的 ③否定的 ・技能的 ・一般的 ・具体的 ・認知的 ・一般的 ・具体的 ・行動的 ・一般的 ・具体的 励まし Cue 表 5 教師の発した Cue の分類カテゴリー カテゴリー 規定概念 例 一般 ・子どものパフォーマンス直前に行われる具体的情報を伴わない言語 「丁寧にやるんだよ」「意識してみよう」 身体部位 ・子どものパフォーマンス直前に行われる身体部位を含んだ言語 「腕で押すんだよ」「背中までゆっくりついて」 運動投企※ 感覚語 ・子どものパフォーマンス直前に行われる感覚語やオノマトペでイメージをつけさせる言語 「グッと押してみよう」「ピッと倒立だよ」 運動経過 ・子どものパフォーマンス直前に行われる叙述的に運動の流れを述べてイメージさせる言語 「壁蹴って、顎引いて、前転」「手をついてから脚を振り上げる」 比喩表現 ・子どものパフォーマンス直前に行われる何かに例えてイメージさせる言語 「目の前に氷の壁があると思って倒立してごらん」 非言語 ・子どものパフォーマンス直前に非言語で意識するポイントを伝える ※運動を行う前に表象される運動過程の図式と定義されている。Gehlen, A. は 単に感触や可能性を探るだけで、同時に 予見できる運動であり、将来ならびにその状況をめざした方向のなかで可能性を感じ取れるであろう運動 と述べている。 連続している同じカテゴリーのものは 1 カウント 別々のカテゴリーの言語を連続している場合はダブルカウント 運動経過は 1 カウント だけ簡易化を図った.同時に,本単元で出現した 全ての Cue が当てはまるよう分類を行った.山 口(2013)の研究では,これまで児童間での発語 内容の研究が行われていなかったことから,KJ 法を用いた分析カテゴリーづくりを行っている. 本研究でも Cue に関して探究的な研究となるた め,山口の研究を参考に分析カテゴリーを作成し た.また,相互作用並びに Cue のいずれも,イ ベント記録法(シーデントップ,2003)を用いて 記録した. なお,フィードバックに関しては,矯正的フィー ドバックが子どもの運動学習におけるつまずきの 改善や運動技能の獲得・向上に果たす役割の大き さが指摘されている(深見ほか,2003).そのため, 技能的な助言である Cue と矯正的フィードバッ クの頻度を比較した.それにより,Cue の出現頻 度を明らかにできると考えたためである. どのようなものを Cue として分析したのか, 具体例を以下に示す. 例) C くんが倒立前転の試技を行おうとしてい るとき,教師はこれまでに述べていたポイ

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ントを意識させようと C くんの試技の直 前に「目線を意識するんだよ.絶対目線を 意識するんだよ」=(注意喚起) と助言しました. =本研究ではこれを,Cue とする.その理 由は,目線を下に向けるという助言は単元 前半の直接的指導場面で述べており,子ど もたちにとって共通したキーワードだった からである.さらに,その助言が試行の直 前に述べられていたため,Cue とカウント した. 教師:その後に「さっきより目線を意識で きていたね」 =肯定的フィードバック(Cue と一貫性が ある) と述べていた. 3.2.2 子どもの技能水準からみた教師が発する Cue 子どもの技能水準に応じた Cue の提供のされ 方を検討するため一元配置分散分析を用いて提供 された Cue の頻度の差を上位児,中位児,下位 児の 3 群間で比較した.また,各技能水準内で提 供された Cue の内容の差について検討するため χ2検定を実施した. なお,対象授業では,全ての子どもが倒立前転 に挑戦する時間が決められ,全ての子どもがメイ ン課題として倒立前転に取り組んでいた.その ため,分析では倒立前転に挑戦している際の Cue のみを分析対象とした.また,倒立前転に挑戦 している間,Cue の非言語カテゴリーについては 上位児に対して 1 度カウントされたのみであるた め,本研究では,分析対象から外した. 3.2.3 子どもが役立つと回答した Cue 子どもが役立つと受け止めた Cue を明らかに するために,形成的授業評価票の自由記述欄より 得た,役立つと回答していた Cue の中で,収録 された VTR で確認された Cue のみを対象に,そ の内容ごとの頻度の差をχ2検定で検討した.なお, ここでも分析に際しては,倒立前転に挑戦してい る時の Cue のみを分析対象とした. 3.2.4 子どもに対する単元終了後の質問紙調査 単元終了後に実施した質問紙調査において「体 育授業中先生から声をかけられたと思います。倒 立前転直前と直後では,どちらの声かけが役に立 ちましたか?」「それはなぜですか?」という項 目を主な分析対象とした.分析に際しては,倒立 前転直前の言葉かけが役立つと回答した子どもと 倒立前転直後の言葉かけが役立つと回答した子ど もとの差を χ2検定で検討した.また,倒立前転 直前の言葉かけを Cue とし,倒立前転直後の言 葉かけをフィードバックとしてそれぞれが役立つ 理由を意味ごとに分類した.その分類に際しては, 先行研究で示されている Cue の機能(意識づけ, 注意づけ,イメージ喚起)とフィードバックの 機能(動機付け,修正)(Fronske, 2001; Graham, 2008; Henkel, 2012; シーデントップ,2003)のいず れの機能かを評価した. 3.2.5 分析の信頼性 Cue を含む相互作用の分析結果の信頼性を確保 するために,体育科教育学を専門とする大学教 員 1 名,体育科教育学を専門とする大学院生 2 名 の 3 名でトレーニングを繰り返し,分析結果にお ける観察者間の一致率を「(一致/一致+不一致) × 100」(シーデントップ,2003)から算出した. その結果,観察者間の一致率は 81.8% となり,基 準となる 80% を超える一致率が得られた.その ため,その後の分析は,筆頭筆者が行った. 3.2.6 統計処理 本研究における一連の統計処理には IBM 社の SPSS Statistics 24.0 for mac を使用し,結果の統計

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的有意差については危険率 5% 未満の水準で判定 した.

4. 結果

4.1 教師の発するCue及びその他の相互作用行動 両教師の相互作用行動は,表 6 の通りである. 両教師とも 1 授業平均 200 回以上の相互作用行動 が確認された.高橋ら(1996)の先行研究では, 平均 168.4 回の相互作用行動が営まれていたと報 告されていることから,どちらの教師も積極的に 相互作用行動を行っていたと言える(両教師平均 273.75 回).また,それらの大部分は肯定的フィー ドバックと矯正的フィードバックであり,否定的 フィードバックはほとんどみられなかった.さら に,フィードバック行動の情報内容(技能的・認 知的・行動的)の 9 割程度が技能的な内容に向け られていた.本研究の対象となった体育授業では, 技能に関わる肯定的かつ矯正的な働きかけが多く みられたと言える. これに対し,Cue の出現頻度は,フィードバッ クと比べると少数であった(両教師平均 39.7 回). また,表 7,表 8 は倒立前転に挑戦している際の 両教師の矯正的フィードバックと Cue の平均頻 度を対応のある t 検定を用いて比較した結果であ る.その結果,両教師による矯正的フィードバッ クと Cue の平均頻度との間には有意な差がみら れ,Cue はフィードバックよりも少ないことが示 された(t(5) = -15.130, p = .000;t(5) = -17.324, p = .000). 4.1.2 教師が発するCueの内訳 教師 A,教師 B 共に Cue の総数では,身体部 位に分類される Cue が最も多くカウントされ, 両者とも運動投企注 4)に分類される Cue がそれに 続いた(表 9).運動投企に関する Cue では,両 表 6 相互作用行動の推移(両教師) 教師 A 教師 B 1 時 間目 間目2 時 間目3 時 間目4 時 間目5 時 間目 合計6 時 1授業平均 間目1 時 間目2 時 間目3 時 間目4 時 間目5 時 間目 合計6 時 1授業平均 発問 7 23 27 15 23 15 110 18.3 14 12 7 5 1 0 39 6.5 フ ィ ー ド バ ッ ク 肯定的 技能的一般 53 85 79 67 75 76 435 72.5 68 61 76 83 84 76 448 74.7 具体 9 9 38 13 13 16 98 16.3 2 6 6 5 9 2 30 5 認知的一般 2 3 2 1 2 0 10 1.7 0 3 1 2 0 1 7 1.17 具体 0 0 0 0 1 1 2 0.3 0 0 1 1 0 0 2 0.33 行動的一般 2 0 1 2 0 0 5 0.8 1 0 0 1 0 0 2 0.33 具体 1 0 0 0 1 2 4 0.7 0 0 2 2 0 0 4 0.67 矯正的 技能的一般 36 35 31 40 60 32 234 39.0 15 36 35 33 37 33 189 31.5 具体 71 94 124 90 100 69 548 91.3 69 63 76 96 84 70 458 76.3 認知的一般 0 2 0 0 0 0 2 0.3 0 0 1 0 0 0 1 0.17 具体 0 0 1 0 0 0 1 0.2 0 1 1 2 0 0 4 0.67 行動的一般 3 1 2 3 4 1 14 2.3 4 5 6 3 2 3 23 3.83 具体 0 1 0 1 2 5 9 1.5 2 16 2 1 2 4 27 4.5 否定的 技能的一般 0 0 0 0 1 0 1 0.2 0 3 3 3 4 4 17 2.83 具体 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 4 8 4 18 3 行動的一般 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 具体 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 認知的一般 0 0 0 0 0 0 0 0 4 3 3 2 3 2 17 2.83 具体 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 2 2 2 2 10 1.67 励まし 0 1 1 2 5 4 13 2.2 4 5 5 2 5 6 27 4.5 Cue 13 26 44 55 49 21 208 34.7 17 21 49 68 70 43 268 44.7 総数 197 280 350 289 336 242 1694 282.3 202 236 277 315 311 250 1591 265.2

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教師ともに感覚語注 5)に分類される Cue を最も使 用していた. 4.2 子どもの技能水準からみた教師が発した Cue の頻度 4.2.1 子どもの技能水準からみた教師が発した Cue の頻度 教師が与える Cue の頻度には,技能水準の間 で有意な差は認められなかった(図 1). 4.2.2 子どもの技能水準からみたCueの内容 子どもの技能水準に応じて教師が与える Cue の内容に関する差を検討した結果が図 2 である. 上位児の中では,各 Cue の内容のうちで身体部 位に分類される Cue が有意に多く与えられてい た(χ2=45.971, df=4, p=.000).多重比較(Bonferroni) の結果,感覚語,運動経過,比喩表現<身体部位 に有意差がみられた.中位児,下位児では,身体 部位と感覚語に分類される Cue が有意に多くみ 表 7 矯正的フィードバックと Cue の 1 授業あたり平均値比較(教師 A)   矯正的 FB Cue FB と Cue の差 t 値 有意差 M SD M SD 教師 A 130.33 24.06 34.67 16.96 95.66 -15.130 * (M:平均値,SD:標準偏差) p <.05 表 8 矯正的フィードバックと Cue の 1 授業あたり平均値比較(教師 B)   矯正的 FB Cue FB と Cue の差 t 値 有意差 M SD M SD 教師 B 107.83 16.13 44.67 22.51 63.17 17.324 * (M:平均値,SD:標準偏差) p <.05 表 9 教師が発する Cue の内訳(両教師)   教師 A 教師 B カテゴリー 間目1 時 間目2 時 間目3 時 間目4 時 間目5 時 間目 合計6 時 % 間目1 時 間目2 時 間目3 時 間目4 時 間目5 時 間目 合計6 時 % 一般 3 5 7 10 14 5 44 21.5% 1 11 3 5 3 9 32 12.0% 身体部位 7 14 27 23 17 11 99 47.5% 10 4 28 37 34 19 132 49.3% 運動投企 感覚語 2 7 6 11 10 2 38 18.2% 3 6 18 20 29 14 90 33.6% 運動経過 1 0 4 0 0 1 6 2.8% 1 0 0 1 2 0 4 1.5% 比喩表現 0 0 0 11 8 2 21 10.0% 0 0 0 5 2 1 8 2.9% 非言語 0 0 0 0 0 0 0 0% 2 0 0 0 0 0 2 0.7% 合計 13 26 44 55 49 21 208 100.0% 17 21 49 68 70 43 268 100.0% 図 1 技能水準別 Cue の頻度(n=53)

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られた(中位児:χ2= 143.845, df=4, p=.000;下位児: χ2= 131.655, df=4, p=.000).多重比較(Bonferroni) の結果,中位児では一般,運動経過,比喩表現< 身体部位,感覚語に,下位児では一般,感覚語, 運動経過,比喩表現<身体部位と一般,運動経過, 比喩表現<感覚語に有意差がみられた. 対象教師は,技能水準の区別なく共通して身体 部位に関する Cue を多く与えていたこと,加えて, 中位児,下位児には感覚語も多く与えていたと言 える. 4.3 子どもが役立つと回答したCue 図 3 は,子どもが形成的授業評価の自由記述欄 で役に立ったと回答し,実際の VTR で確認でき た Cue の内訳を示している.Cue の総数は 111 で あった.その内訳は,一般,身体部位,感覚語, 運動経過,比喩表現の 5 項目であった.また,身 体部位と感覚語に分類される Cue がその他の Cue と比べて有意に多くみられた(χ2=62.288, df=4, p=.000).多重比較(Bonferroni)の結果,一般, 運動経過,比喩表現<身体部位,感覚語に有意差 がみられた. 4.4 子どもに対する質問紙調査 子どもに対する質問紙調査の結果は,表 10, 表 11 の通りである.表 10 は,子どもが倒立前転 を行う直前と直後でどちらの言葉かけを役立つ と回答したのか分類した結果である.χ2検定を 図 2 子どもの技能水準からみた Cue の内容 図 3 役立つと回答した Cue の分類

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行ったところ,倒立前転直前の言葉かけを役立つ と答えた子どもが有意に多くみられた(χ2=8.321, df=1, p=.004).また,自由記述欄から倒立前転直 前が役立つと選択した回答を Cue の回答,倒立 前転直後が役立つと選択した回答をフィードバッ クの回答と解釈し,選択した理由を分類した(表 11).表 11 に示したように,Cue を選択した理由は, 意識,注意づけとイメージ喚起の 2 つであった. これに対し,フィードバックを選択した理由は, 動機づけと修正の 2 つであった.子どもは,先 行研究(Fronske, 2001; Graham, 2008; Henkel, 2012; シーデントップ,2003)で示されている知見と同 様,Cue とフィードバックに異なる機能をみいだ していたと言える.

5. 考察

Rink(2002)によると,好ましい Cue は,①正 確,②提示された課題にとって重要,③少数,④ 学習者の年齢や学習の段階に対して適切という特 徴を備えていた.特に,子どもが幼少期には,子 ども自身の運動経験の少なさや言語の未発達に対 する配慮が必要になると言われている.そのため, 体育の教科書や学習資料に記されている言葉は, 彼らにとってほとんど意味を成さなくなると指摘 されている.また,「膝を曲げて腕を引き上げて」 といった過程を分析的に伝える言葉よりも「でき るだけ高く跳んでごらん」や「空中で伸びてごら ん」といった動きを全体的に伝える方が効果的で あると指摘されている.さらに,全体的な動きが できた後に動きを洗練する Cue に対応できるよ うになっていくといった指摘もみられる.ここで 述べる動きを洗練する Cue とは先に述べた「膝 を曲げて腕を引き上げて」といった動きを分析的 に伝える Cue などである.そのため子どもが全 体的な動きをできていない状態の場合,教師は課 題の意図を理解できるようにする必要があると言 われている.また,Cue が子どもに適した形で配 列され,その配列を試す機会が保証されると Cue を使えるようになっていけると言われている. では,これらの観点からみた場合,上記の結果 はどのように解釈できるのであろうか. 今回,対象教師が発した Cue の頻度は,フィー ドバックのそれと比べると少数であった.しか し,Cue が一定数用いられていたことは,教師が フィードバックのみを用いて子どもに情報提供を 行っているわけではなく,子どもが技能的課題に 取り組む直前にも Cue を通して技能的な課題や, その練習に取り組む際,必要な課題を個人的に意 識させていたと言える.同様に,Cue の使用に関 しては,教師がフィードバックを与える際と同様 の配慮を行っていることが示唆された.なぜなら, 子どもに提供される Cue の内容は,身体部位に 関する内容が多く,それが子どもにおける技能水 準の区別なく提供されていた.また,中位児,下 位児に対しては,身体部位に加えて感覚語も多用 し,子どもの技能水準に応じて提供する Cue を 使い分けていたからである.一般に,中位児・下 位児の多くは,運動の苦手な子どもであり,身体 部位を伝えられるだけでは,その部位をどう動か 表 10 倒立前転の前と後ではどちらの言葉かけが役立つ か(n=53)   観測度数 χ2値 (1) 運動前 37 8.321* 運動後 16 合計 53 *:p<.05 表 11  Cue やフィードバックを選んだ理由とその内訳   Cue(運動前) 数 フィードバック(運動後) 数 役立つ 理由 意識,注意づけ 28 修正 14 イメージ喚起 7 動機付け 1 その他 2 その他 1   計 37 計 16

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るタイミングの難しさや,学習者の試行前に提供 すべき情報を短時間で判断することに起因してい ると考えられる.それはまた,Cue の効果的な活 用には教師が指導内容に関する知識(Cochran et al., 1993)を構造化して身に付ける必要性を示唆 している. このことは,子どもに対して技能の改善に関わ る課題を意識させるためには,提供する情報とそ のタイミングを事前に検討することが必要になる ことを示唆している.これは,指導方略に関わ る課題と言える.例えば,学習カードや掲示物を 活用して事前に Cue に関する内容を提供するこ とやモニタリングと連動させてその効果的な活用 を図ることが必要となる.学習カード等で重要な Cue に関する内容を事前に子どもへ提供するとと もに子どもの試技をモニタリングし,子どもの試 技の直前に Cue を提供するという指導方略を取 ることで,Cue をより効果的に機能させることが 可能になると考えられる.また,バレーボールで フローターサーブを行う際に「トス−バック−伸 ばす−止める」といった一連の複雑な動きを手短 な言葉でつなげる Summary Cue は,教師が子ど もを観察する際の Cue としても利用可能であり, フィードバックの際に用いる共通言語になると言 われている.さらに,教師と子どもがそれを共 有することで意味を持つようになるという指摘も みられる(Rink, 2002).これらの指摘は,Cue と フィードバックが一貫性を持つように教師が授業 計画段階でそれらの言葉を準備する必要性を示唆 するものである.なぜなら,与えた Cue に応じ たフィードバックを適切に与えることが重要であ ると考えられるためである. 体育授業中,子どもに対して課題を効果的に伝 えることの必要性やそれに関わる教師の技能は, 繰り返し指摘されてきた(Siedentop and Tannehill, 2000; Tannehill et al., 2015).授業で子どもが成功 裡な経験を得ていくためには,課題やその行い方 したらよいのかわからないという可能性が考え られる(村田,2008).そのため教師は,中位児, 下位児に対して身体部位を伝えるだけにとどまら ず,動き方のコツを伝えるために子どもの感覚に 訴えかけるような Cue を与えていたと考えられ る. 加えて,子どもが Cue とフィードバックによ る機能の違いを認識していたことは,教師が Cue とフィードバックの異なる機能を使い分けていた ことを示唆している.この結果は,米国におけ る Cue の機能に関する指摘を支持するものであ り(Henkel, 2012; Fronske, 2001),我が国の教師が 行う授業においても同様の機能が発揮されていた と考えられる.さらに,子どもは,身体部位に分 類される Cue,感覚語に分類される Cue を特に役 立つと受け止めていた.これらの結果は,教師の 発していた頻度の多い Cue が子どもに役立つと 受け止められていたことを意味する.このように 特定の Cue を役立つと回答したことは,そのよ うな Cue を意図的に提供していく必要性を示唆 する結果となった. なお,子どもは提供されたフィードバックを必 ず適切に理解するわけではない.また,その情報 を効果的に活用する機会を必ず保証されるわけで はない.特に,フィードバックを受けた後に次の 試行に至る時間的な制約は,フィードバックの効 果を低減させる可能性がある.Cue はこのリスク を回避し,子どもが提供された情報をより効果的 に活用できるようにする可能性を秘めている.ま た,今回の調査で,子どもはその可能性を認識し ていた. このように,子どもが Cue とフィードバック による機能の違いを認識していたことは,両者が 違いを補足し合う形で子どもに対して課題や課題 の解決方法に関する情報を伝えることが可能であ ることを示唆している.しかし,フィードバック と比較した Cue の少なさは,教師が Cue を発す

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のみならず,授業の手続きに関しても多くの情報 を理解していくことが必要になるからである.こ れらの指摘を踏まえると,授業中に発せられる 教師の Cue を単体で問題にするのではなく,課 題提示という文脈の中で Cue の内容や表現方法, フィードバック等との一貫性などを検討する必要 性が示唆されたことになる. しかし,今回は,2 単元 12 授業と対象授業数 が限られていた.そのため今後は,対象者を増や したうえで本研究の結果を追証していくことが求 められる.また,本研究では,マット運動のみで 分析を行ったため,他の領域や他学年での分析を 行っていくことが必要である.その際に,作成し たカテゴリーが適用できるのか,検討する必要が ある.さらに,Cue の頻度のみではなく,カテゴ リーごとの役立つ割合なども対象者を増やして検 討していく必要がある.これらの検討については, 今後の課題としたい. 【注】 1) Instructional Cue は子どもの技能的課題に対してあら かじめ準備された 情報 である.Instruction はすべ ての子どもを対象にして,教師から子どもに学習内容 に関わった情報が伝達される 行動 を意味する(高 橋,2014).また,結果に関する情報としてのフィー ドバックに対して,予見できる失敗を抑制するために 提供されるフィードフォワードが用いられる(杉原, 2008). 2) 頭韻法とは連続する単語が同じ音の子音または文字で 始まるものを指す.Cue の例では Aim shoulder,Big step,Cross body throw(throwing) のように頭文字の ABC で覚える方法などがある(Henkel, 2012). 3) 本来 Cue には,学習カードや掲示物に示されるような 非言語的な要素も含まれるが,本研究では,教師の発 話行動における Cue について検討することを目的とし たため,Cue の定義を「教師が事前に準備した,子ど もの技能的な動作に対して注意づけるための情報」と した. 4) 運動投企とは,運動を行う前に表象される運動過程の 図式と定義されている.Gehlen, A. は単に感触や可能 性を探るだけで同時に予見できる運動であり,将来並 びにその状況をめざした方向のなかで可能性を感じ取 れるであろう運動と述べている(マイネル,1981). 5) 本研究では,感覚語を「マットをつかむように倒して ごらん」のように,動いている感覚のイメージを高め る概念として用いていた.また,オノマトペは「グッ と押してごらん」というように,擬音で動きのイメー ジを高める概念としていた.しかし,いずれも子ども の身体的な感覚のイメージを高めるという機能では共 通していること,また,並記することで二つの違いが 協調されてしまうこともあり,概念としては「感覚語」 に統一することとした. 【引用・参考文献】 1) 浅川孝太・松本健太・岡田雄樹・針谷美智子・近藤智 靖(2016)小学校体育授業における運動技能水準上位 児・下位児に関する事例的研究:学習課題・教師・仲 間との関わりに着目して.日本体育大学スポーツ科学 研究,5:1-11.

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フィードバック行動に関する検討.筑波大学博士論文. 12) 深見英一郎・田中祐一郎・岡澤祥訓(2015)体育授業 における熟練教師と新任教師の指導技術の比較研究― 教師のフィードバックと授業場面の期間記録及び子ど もの受け止め方との関係を通して―.スポーツ教育学 研究,34 (2) :1-16.

13) Graham, G. (2008) Teaching children physical education (3rd ed. ). Human Kinetics: Champaign, pp.100-136. 14) Henkel, S. A. (2012) Instructional Cues: Example of Cues.

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(15)

験授業の分析を通して―.スポーツ教育学研究,17(2): 73-83. 43) 高橋健夫・中井隆司(2014)教師の相互作用行動を観 察する.高橋健夫編著(2014)体育授業を観察評価す る 授業改善のためのオーセンティックアセスメン ト.明和出版:東京,pp.49-52.

44) Tannehill, D., van der Mars,H., and MacPhail, A. (2015) Building effective physical education programs. Jones & Bartlett Learning: Burlington, pp.258-259.

45) 上江洲隆裕・岡澤祥訓・木谷博記(2011)教師の言語 活動による「継続的フィードバック」が技能成果,運 動有能感に及ぼす影響に関する研究.教育実践総合セ ンター研究紀要,20:159-166.

46) UNESCO (2015) Quality of physical education guidelines for policy-makers. http://unesdoc.unesco.org/images/0023/002311/231101E. pdf, (参照日 2018 年 2 月 28 日). 47) 山口孝治(2013)体育授業における児童間の言語的相 互作用に関する研究.佛教大学教育学部論集 24:53-68. 2018 年 4 月 28 日受付 2019 年 5 月 16 日受理

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