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(サケの嗅覚記銘・回帰に関する機能形態学的研究)

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(1)

博 士 ( 環 境 科 学 ) 坂 東    洋

     学 位 論文 題名

Functional cytological studies on olfactory imprinting     and homing in salmon

(サケの嗅覚記銘・回帰に関する機能形態学的研究)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  サ ケ 科 魚 類 の母 川 回 帰 に つVヽ て は 、Wisby and Hasler (1954)に よって 撼昌さ れた嗅 覚仮説 を始 めとし て、母 川 記銘 メ カ ニ ズ ムの 解 明 や 母 川 ニオ イ 成 分 の 探索 を 目 的 と して 、 数 多 く の電 気 生 理 学 的 およ び行 動学的 研究が 行 われ て き た 。 現在 で は 、 サケ科 魚類iま剛I| 固有の ニオイ 成分を 降河 時に記 銘し、 親魚はi己 憶した ニオ イ成分 を 想起 す る こ と によ っ て 母 川 へ と回 帰 す る と 考え ら れ て お り、 サ ケ の 記 銘す る 母 川 固 有 のニ オイ として 、河川 中 の 溶 存 遊 離 ア ミ ノ 酸 の 組 成 が 重 要 で あ る と 考 え ら れ て い る(Ueda et鹹 ,2007)。こ の よ う な サケ 科 魚 類 の 母ゴu記銘 ・回帰行動と嗅覚椦鴾艝との関係から、母IIのニオイ情報の言己銘・想起には、嗅覚中枢である嗅耐とおよび 終 脳が 深 く 関 係 して い る こ と が 推測 さ れ る 。 その メ カ ニ ズ ムを 解 明 す る ため に は 、 嗅 球 韜よ ぴ糊 畄内に おける 母 川の ニ オ イl嫐 に 対 す る中 枢ネ中 経系 内の神 経活動 を解析1墓 聴拘な 知見を 収集 してい く必要 がある 。し かし、

モ 剄|Iのニ オイ 情報の 投射 処理に 関す る中枢 ネ申経 系にお ける神 経生 理学齣 報告は ほとん ど無 いbま た、 高次中 枢 であ る 終 脳 に おけ る 脳 機 能 イ メー ジ ン グ に よる 神 経 生 理 学的 な 知 見 も 少な く 、 高 等 脊 椎動 物で ある哺 乳類等 と 比ベ 、 魚 類 終 脳内 の 各 饋 曦 に 茄け る 機 能 的 な詳 細 は 明 ら かに さ れ て い なぃ 。 こ の よ う な魚 類終 脳にお ける研 究 の背 景 に つ い ては 、 魚 類 の 持 っ脳 の 発 生 段 階に お け る 特 異性 か ら 、 他 の脊 椎 動 物 と の 機能 的な 相同性 に関す る 解 剖 学 齣 比 較 が 困 鰕 あ っ た こ と 、 従 来 の 魚 類 の 柑#鼎 擂 噺 で は 、 細 胞 レ ベ ル の 詳 細 な 神 経 応 答 を 解析 で き る微 刀 丶 議 を 用い た 電 気 生 理 学的 手 法 が 主 であ ったた めに 、終脳 をはじ めとす る中 枢神経 系にお ける広 しヽ範 囲 の神 経 応 答 を 解析 す る こ と が 困難 で あ っ た こと が考え られ た。. そこで 本研究 では 、サケ の母川 回帰に おいて 重 要 な 働 き を 担 う 、 母 川 水 の ニ オイ 情 報 の 投 射・ 処 理 黼 を 明ら か と す る こと を 目 的 と し て、 脳 内 の 広 い範 囲 に お け る 神 経 活 動 の 角晰 を 行 う こ との で き る 、Functional Malpetic Resonance Imagin$MRI:機 能 的 磁 気共 鳴 画像 法)に よる母 川水ニ オイ 朿噸知 寺の終 脳にお ける神 経活 動角争 听を行 った。 また 終脳内 におけ る神経 の走行 船 よび 嗅 弼 劼 ゝ ら終 脳 へ の 嗅 覚 情報 の 投 射 経 路を 明らか にす ること を目的 とし、 神経 トレー サーと してカ ルポシ アニン系脂溶陸螢光台.素DiI(I,1 ‑Dioctadecy1_3,3,3,3.T観rame出ヅbdoc甜賦ツ珊inepemdo嚠めを用いて、局 所的螢光染色を行い神経組織の追跡をおこなった。

  MR亅 実 験 で は 、 北 海 道 大 学 動 物 用MR亅 実 験 装 置 (v繃 間 謦 ℃7T冫 を 使 用 し 、 実 験 魚 と し て 北 海 道 大学 洞 爺 臨 湖 実 験 所 産 の ヒ メ マ ス 向 惚 翻 り 励 継 贓 鬮4歳 魚 を 用 い 、 そ の 母 川 水 と し て 洞 爺 湖 実 験 所 飼 育 水 を使 用 し た 。 淬 珂f究 で 確立 し た 魚 類 のnu実 験 系で は 、 ヒ メ マ ス歳 魚 の 終 脳 を、34枚 の 前額 断 面 ス ラ イス と し て 撮 影 で き 、 各 ス ラ イ ス 上の300umう の ピ ク セル の 空 間 分 解能 で 神 経 活 動を 解 析 で き る こと が 分 か っ た。 こ の 空 間 分 解能 は ヒ メ マ ス終 脳 に お け る 解剖 学 的 な 鎮 喊の 区 分 け に も対 応 で き る こと か ら 、 本 手 法が 魚類 終脳に おける

(2)

神経活動解析法として有効な空間分解能を有していると考えられた。魚類における一艢約なニオイ物質である しセリン(10‑3 M) によるニオイ朿ヰ激では終脳における有意な嗅覚応答は出現しなかった。一方で1 圏りi! 水によ る ニオイ 刺激時 では、

10‑3M

のL −セリン溶液に比q 容存遡難アミノ酸の合計濃度が2 万倍近く薄いにもかかわ ら ず、綱 畄にお ける有 意な嗅 覚応答が強く広範囲に出現していir これは、母川水が濃度差によるニオイ強度 と は異な るニオ イ情報 として 終脳で 処理され たため である と考え られた 。また、終脳は解剖学的に背側野

(D)

と腹側野(V) にわけらオk さらに背側野は

ietlliI

蜀R 外イHiy6jj# (DD 、背側野内側領域(Dm) 、背便閤;背

fAi

頗 域

(Dd)

そ し て、 背 側 野 後部 領 域

(Dp)

に 区画 され、 腹側野で は腹側 野背側 領域(Vd) と腹側野 内側領 域

(Vv

に 区 画 さ れ る 。 剛

If

水 に 対尹 る 囎 銃 苔は 、 主 に 絢畄 の 背 タ

H

螂 啣 )で 出 現 し てい 也 ま た 、し か し、しセリンに対する嗅覚応答では、これらの鎮哦での応答は出現しなかった

  DiI

を用い た神経 トレース 宍験で は、終 脳のVVIV 心Dl ,Dm ,帥において、嗅球と連絡する神経が観察され た 。 ま た 、同 側 だ け でなく 前交連 仏C )を 介した逆 側の終 脳のVv ,

V

心DLDp ^ の神経 連絡も 確認さ れた。

過去の報告による他の感覚膚報と比べ、嗅覚情報は、嗅球からの終脳内ーニューロンを介して終脳剤則野丶腹 側野への広範囲における投射が確認された。このことは魚類における嗅覚情報に基づく様々な行動(索餌、生 殖 ・繁殖 、誘引 忌避 、群形 成等)の発現、制御に韜ける解剖学的な裏付けといえる。また、終脳Dl 領域に 入 出カする神経線維では、嗅球との違陪には外側嗅索00t )を介したものが多く観察され、終脳内の神経網で ほ 同 側 の

Dm

の ほ か 、AC を 介 して 逆 側 の

D1

m

と の連絡 が確認 された 。また 、同側 の視床前 核(nH )との 連絡も確認された。他魚種では逆側の視耕経からの投射を受けたPIH を介して、D1 鬱湖冫丶と視覚情報を投射し て い る と 考え ら れ て おり 、 ヒ メ マス に お い ても 視 覚 情 報が

Dl

領 域; ヘ 投射さ れてい ると考 えられ る。

  

近年の分子生物学的報告から魚類の終脳背側部は、他の脊椎動物の外套(p 拙unl )に相当すると考えられてい る 。繃鞘 鋤報告 で|鑷 鵝や髄 に瀉ヽ カ劫ゝわ りを持 つこと で知ら れる恥 のA 型グ ノレタ ミン醗 熔体も 馴職 に分布していることが報告されており、脳の破壊実験による報告では学習や記憶の成立に|ヨDl が重要な働きを 担 っていることが報告されている。これらの近年の研究から、魚類における海馬に相当する領域は、D 聆域に 含まれていると考えられている。本研究において、ヒメマスで母川水のニオイ情報がD 】領域・I へ投射・処理され ていることが示唆され、D 】囀誠が母川の記銘や想起に韜いて重要な役割を果たしていることが示唆された。ま た視議晴報の投射領曦であることから、Dl 領域において外部環境からの嗅覚・視覚情報を統合・処理し、1 剛lJ および非剛lI の判断をするための情報として処理していることが示唆された。

  

今後は剛Il 情報の詳細な処理臓溝を明らかにしていくことで、母川記鉛幇到新預カの発現機溝のさらなる解 明が期待され、我が国の重要な水産資源となっているサケ科魚類が、環境指標種としてサケ科魚類が様々な環 境にどのように適応しているのかたど、環境科学の分野においても重要な知見を提供することが期待される。

  

ま た、本研究で用いた蜘は、主に人やラットといった高等脊椎動物で用いられr くいるが、魚類に導入した 脳 機能の 神経科 学的研 究は、 これま でに、ベ ルギー でコイ(OP 働ゞ卿ゆL .)のストレスに対する脳内の活 動 解 析 を 行っ た 報 告 (vanderL 脚

en

酊心2000 ;

VandenBu

曙甜 鹹,2004 2006 )、 がある のみで あり、M 附 による魚類のイビ籌感覚牽轍に対する脳内の応衛晰は世界でも前例がなb 丶。今後、高度な情報(記憶、学習、

行動の発現など)処ヨ里に関わるニオイ物質の嗅覚応徭罅閤P 敬様々な感覚牽撒による応答解析において、本研 究で確立したMR 亅システムを応用することによって、魚類終脳における領域ごとの機能的な役割と働きをさら に解明することができると期待される。

1176 ‑

(3)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨

主査   教授    上 田   宏 副査   教授    東    正 剛

副査   准教 授   工藤 秀明( 大学院水産科学研究院)

副 査    教 授    庄 司 隆 行 ( 東 海 大 学 大 学 院      生 物科 学研 究科 )

副 査    研 究 員    黄 田 育 宏 ( 東 京 都 精 神 医 学      総 合研 究所 )

     学位論文題名

Functional cytological studies on olfactory imprinting     and homing in salmon

(サケの嗅覚記銘・回帰に関する機能形態学的研究)

  

サケの母川回帰につしゝては、1950 年代に米国のHasler らにより提唱された嗅覚仮説により、

サケ 稚魚 が母 川固 有 のこ オイ 成分 を降 河時 に記銘し、親魚は記銘したニオ イ成分を想起する こと によ って 母川 へ 回帰 する と考 えら れて いる。サケは、嗅覚中枢である 嗅球および終脳に おい て、 母川 のニ オ イ情 報を 記銘 ・想 起し ていると考えられており、その メカニズムを解明 するためには、嗅球およ乙聯冬脳内に おける母川のニオイ刺激に対する神経活動を詳細に解析 し、 基礎 的な 知見 を 収集 して いく 必要 があ る。しかし、サケの嗅覚中枢神 経系における母川 のニ オイ 情報 の投 射 経路 ・処 理機 構に 関す る神経生理学的研究は少なく、 また脳機能イメー ジングによる研究もほとんど無い。

  

本 研究 では 、サ ケ の母 川記 銘・ 回帰 機構 に関与する嗅覚中枢神経系にお ける母川水のニオ イ情 報の 投射 経路 ・ 処理 機構 を解 明す るた め、脳内の広い範囲における神 経活動を詳細に解 析す るこ とが でき るfunctional Magnetic Resonance Imagmg (舳u :機能的 磁気共鳴画像法)

を用 いて 母川 水二 オ イ刺 激時 の嗅 覚中 枢神 経系、特に終脳における神経活 動解析を行った。

さら に、 嗅球 から 終 脳へ の嗅 覚情 報の 投射 経路、および終脳内における神 経走行を明らかに する ため 、神 経ト レ ーサ ーの ひと つで ある カルボシアこン系脂溶l 生螢光色素DiI を用いて、

局所的螢光染色による神経走行の解析 を行った。

  

実 験魚 とし て北 海道大学洞爺臨湖実験所産の ヒメマス(伽c 〇吻肌むw 門gH 観)4 歳魚を用い た。

m

{R 亅実 験で は 、北 海道 大学 動物 用MR 亅実験装置(VaaI 一oVA 、7 テス ラ)を使用し、母 川水 とし て洞 爺湖 実 験所 飼育 水を 使用 した 。本 研究 で確 立し た魚 類の 蜘u 実験系では、ヒヌ

‑ 1177 ‑

(4)

マス4 歳魚の終脳を、3‑4 枚の前額断面スライスとして撮影でき、各スライス上の300 lIIT12 の ピクセルの空間分解能で神経活動を解析できることを確認した。この空間分解能はヒヌマス 終脳における解剖学的な領域の区分けにも対応できることから、本手法が魚類終脳における 神経活動解析法として有効な空間分解能を有していることが明らかとなった。魚類における 一般的なニオイ物質であるしセリン (10‑3 M) によるこオイ刺激では終脳における有意な嗅 覚応答は得られなかった。一方、母川水によるニオイ刺激では、10‑3M のL 一セリン溶液に比 ベ溶存遊離アミノ酸の合計濃度が2 万分の 1 程度であるにもかかわらず、終脳における有意な 嗅 覚 応 答 が 主 に 終 脳 の 背 側 野 外 側 領 域 (DD で 得 ら れ る こ と を 明 ら か に し た 。   DiI を用しゝた神経トレース実験では、終脳の腹側野内側領域 (Vv) 、腹側野背側領域(V d )、 Dl 、 背側野内側領域(Dm) 、背側野後部領域(Dp) において、嗅球と連絡する神経を 観察した。また、同側だけでなく前交連(AC) を介した逆側の終脳のVv 、Vd 、Dl 、Dp への 神経連絡も確認した。過去の報告による他の感覚情報と比ベ、嗅覚情報は、嗅球からの終脳 内へニューロンを介して終脳背側野と腹側野への広範囲に投射してしゝることを確認した。こ れらの部位は、魚類における嗅覚刺激が誘発する様々な行動(索餌、生殖・繁殖、誘引・忌 避、群形成等)の発現・制御に関与していることが示唆されている。また、Dn こ入出カする 神経線維では、嗅球との連絡に外側嗅索くlot) を介したものを多く観察し、終脳内の神経網 では同側のDm のほか、AC を介する逆側のDl やDm との連絡を確認した。また、同側の視床 前核くPTH) との連絡も確認した。他魚種では逆側の視神経からの投射を受けたPTH を介し てDl へと視覚情報を投射していると考えられており、ヒヌマスにおいても視覚情報がDl へ投 射されてしゝる可能性を示唆した。

   近年の分子生物学的研究により、魚類の終脳背側部は他の脊椎動物の外套(pallium) に相当 すると考えられている。分子組織学的報告により、記憶や想起に深いかかわりを持つことで 知られるNMDA 型グルタミン酸受容体がDl 領域に分布してしゝることが報告されており、脳の 破壊実験による報告では学習や記憶の成立にはDl 領域が重要な働きを担っていることが報告 されている。これらの研究から、魚類における海馬に相当する領域は、Dl であると考えられ ている。本研究により、ヒメマスで母川水のニオイ情報が嗅球を介して終脳のDl 領域へ投射 され処理されていることが明らかになり、Dl 領域が母川の記銘や想起において重要な役割を 果たしていることを示唆した。また視覚情報の投射領域であることから、Dl 領域において外 部環境からの嗅覚・視覚情報を統合・処理し、母川および非母川の判断をっかさどる部位で ある可能性を示唆した。

   今後は、サケ終脳のDl 領域における母川水のニオイ情報の詳細な処理機構を分.子組織学的 手法などを併用して明らかにしていくことで、サケの母川記銘・回帰機構が解明されること が期待される。我が国の重要な水産資源となっているサケ科魚類が、環境指標種として様々 な環境にどのように適応しているのかなど、環境科学の分野においても重要な知見を提供す ることが期待される。

   本研究で用いた fMRI は、主にヒトやラットといった高等脊椎動物で用いられている。一

方、魚類に導入した脳機能の神経科学的研究は、ベルギーでコイ(Cypr:inus caipio L.) のス

トレスに対する脳内の活動解析を行った報告があるのみであり、flVtRl による魚類の化学感覚

(5)

刺激に対する脳内の応答解析は世界でも前例がない。今後、様々なニオイ物質によるニオイ 情報の処理に関わる嗅覚応答解析や、種々感覚刺激による感覚応答解析において、本研究で 確立したflvlRI システムを応用することによって、魚類終脳における領域ごとの機能的な役割 を解明することができると期待される。

   審査委員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、大

学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ、申請者が博士(環境科学)の学位を受

けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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