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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 環 境 科 学 ) 稲 飯 洋 一

     学位論文題名

Cold Trap Dehydration in the TroplCalTropopauSe     LayerEStimatedfromtheWaterVaporMatCh      (水蒸気 match により評価された熱帯対流圏界層における      水平移流に伴う脱水)

学位論文内容の要旨

成層 圏水 蒸気 は地 球の 放射 収支 や大気 化学 、極 域に おけ るオ ゾン 層破壊過程に深く関与 する重要な大気組成である。その存在量および変動は、主に熱帯対流圏界層(TTL)における 大気の水平移流に伴う脱水過程により支配される(Holton and Gettelman,2001)と考えられて いる。この脱水過程は北半球冬季西太平洋領域に韜いて最も効率的に駆動されていると考え られている(Hatsushika and Yamazaki,2003)。簡略化された脱水過程を用いてラグランジュ的 に見積もられた下部成層圏における水蒸気量は衛星観測された水蒸気量をよく再現するもの であった(Fueglistaler etal.,2005)が、近年の多くの研究によってTTLにおける極度の過飽和 が頻繁に報告されており(例えばPeter etal.,2006など)、TTLにおける脱水過程については 多くの謎が残されている。本研究は、過去5年にわたり蓄積されてきた北半球冬季西部熱帯太 平洋 領域 にお ける 鏡面 冷却 型水 蒸気ゾ ンデ・オゾンゾンデ観測(SOWER)データに対して同 一大気塊が複数回観測され藤事例(match)を同定する事により、観測データに基づいて水平 移流に伴う脱水量および脱水効率を定量化することを目的とする。

TTLを 水 平 移 流す る大 気塊に は断 熱近 似が 有効 であ るた め、 脱水 過程 の記 述に は温位 座 標系が便利であるが、ゾンデ観測に含まれる気圧・気温の測定誤差が温位の値に誤差をもた らす。そこで、ゾンデ搭載の全球測位システムによる高度(GPS高度)と測高公式の積分から得 られる高度(PTU高度)とを比較することにより、ゾンデ観測値に含まれる温位バイアスを評価す る方法を提案した。この解析の結果、SOWERで用いられているRS80ラジオゾンデに有意な気 圧バ イア スが 見い 出さ れ、 その 値は、 高度15 krn、16 km、17 kmでそれぞれ0.28K、0.38 K、0.49Kの温位パイアスに相当することが明らかにされた。この結果を用いてrnach解析に用 いるゾンデデータが補正された。

match解析 にお いて 、ゾ ンデ 観測 され た大気塊は等温位条件の下で客観解析場から計算さ れた流跡線を用いて追跡される。この際、ゾンデ観測値が十分な空間的代表性を持っている 必要がある。また、matchの精度を低下させる要因である、移流時間の長期イ匕に伴う流跡線誤 差の蓄積、客観解析場と現実場の差異、対流に伴う大気混合による影響の少ない事例の抽出     ―lolOー

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をど、いくっもの注意すべき点がある。そこで、観測された大気塊にっいて高い空間代表性を 保持しているものを抽出した上で、TTLにおけるオゾン混合比の保存性を利用することで、等 温位条件が有効とみなされる移流時間、match温位高度におけるゾンデと客観解析との気温差、

そし て移 流す る大 気塊直下の対流雲頂温度と大気塊気温との差にっいてそれぞれ臨界値を 決定した。得られた臨界値に基づき抽出された事例のみを対象に解析を行うことにより、脱水 量の評価における精度を高めることに成功した。こうして特定されたmachのうち、いくっかの事 例 はTTLに お け る 水 平 移 流 に 伴 う 脱 水 の 証 拠 を 初 め て 直 接 的 に 示 す もの で あ っ た 。 同定されたmatchについて、ゾンデ観測された水蒸気混合比と流跡線計算により評価された 移流 中の 飽和 水蒸 気混 合比 を対 応さ せた 解析 の結果、温位370K付近で相対湿度約135%に 相当する過飽和を経験しても有効な脱水が生じなかった事例が見出された。一方、温位350ー 360Kでは相対湿度が約130%に達するまでに氷晶形成が開始され、最終的に100%以下にまで 脱水されたと解釈し得る事例が見出された。また、原因の特定は困難であるものの、水蒸気量 の増加が示された事例も数例含まれていた。

脱水が示された温位高度において、match事例から脱水過程に関する統計的解析を行った。

大気 塊が 保持 して いた水蒸気混合比と移流中に経験した最低飽和水蒸気混合比とを比較し た結 果、 気温 約195―210Kである下部TTLの大気塊は相対湿度167土54%(1げ)までに氷晶 形成 が開 始さ れる こと が示 され た。 この 値は 過飽和 に関 する 過去 の研 究結 果(例えば、

ぬaemereta1.,2009)と整合的である。一方:移流後に観測された水蒸気混合比と移流中の 最低飽和水蒸気混合比との比較によれば、大気塊は相対湿度84土27%(10)にまで脱水され ていることになる。この値は、相対湿度100%より小さい値にまで脱水されることを統計的有意性 を持って示すものではたいが、客観解析場で表現されていない温度変動など、現在のmatch解 析では考慮されていない過程の寄与を示唆している。

水平移流に伴う脱水効率を、氷晶形成の開始される臨界相対湿度(臨界値[%])と過飽和状 態から飽和相対湿度に漸近するのに要する時間(過飽和緩和時間匸hユ)の値として見積もった。

これらは、仮定された様カな臨界値に対し、match大気塊として観測された水蒸気量および移 流中に経験した飽和水蒸気混合比の履歴から、最適た過飽和緩和時間を数値的に定めること により評価された。この結果、見積もられた温位高度350ー360Kにおける過飽和緩和時間の 値は 最大 でも8時 間以下であり、多くの研究で報告されている過飽和の値(相対湿度130− 200%)を臨界値とした場合、1−1.5時間程度であることが示された。この値は大気の水平移流 の時間スケールに比べて十分短いものであり、下部TTLにおける水平移流に伴う脱水効率が かなり高いことを示唆している。

  今 回 の 解 析 で は 、 残 念た が ら 温 位 高 度370―380Kで脱 水 を 示 す 事 例 は 見 い . 出さ れ な か っ た が 、 今 後 の 観 測 デ ー タ の 蓄 積 と 本 研 究 で 確 立 さ れ たTTL水 蒸 気matchの 適 用 に よ り 、 成 層 圏 に 流 入 する 水 蒸 気 量 を 決 定 し て いる 高度 域に 韜い ても 脱水 効率 の定 量 化が可能となるであろうb

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査    教授    長谷部文雄 副査    教授    山崎孝治 副査    教授    藤吉康志 副査    准教授    藤原正智

副査    領域長    今村隆史(国立環境研究所      大気圏環境研究領域)

     学位論文題名

Cold Trap Dehydration in the TroplCalTropopauSe     LayerEStimatedfromtheWaterVaporMatCh      (水蒸気match により評価された熱帯対流圏界層における      水平移流に伴う脱水)

  水蒸気は強カな温室効果ガスであるだけでなく、極域オゾン破壊の鍵になる極成層圏雲の 生成や水素酸化物による触媒的オゾン消失反応を通して、地球環境に様々な影響を与える。

その成層圏混合比は、対流圏大気が成層圏へ流入する際に経験する温度により第ー義的に決 定される ため、そ の変動は大気大循環の変調を映し出す指標ともなっている。1940年代 のBrewerによる先駆的研究以来、対流圏大気が熱帯対流圏界面を通過する際に曝される低温 により成層圏水蒸気量が決まるという考え方は一貫して支持されてきたものの、「成層圏の 泉」仮説と矛盾する観測事実が見出され、また、熱帯対流圏界層(TTL)概念の導入を契機と して、上昇流に伴う冷却にではなく、′rTL内を水平移流する際に遭遇する低温条件に注目す るHoltonーGettelmanのColdTrap仮説が提示されるに到った。本論文は、この仮説を観測的 に検証し、この過程による脱水効率を定量化する試みの報告である。その特徴は、過去数年 間 に わ た り 熱 帯 西 部 太 平 洋 域 で 実 施 さ れ て き たS0und血gsofoZoneandWaterinthe EquatodむReむ1(sOWER)プロジェクトによる高精度の水蒸気・オゾンゾンデデータの中 から、同一大気塊が複数回観測された事例(matc11)を抽出し、その大気塊に含まれる水蒸気 量の変化により脱水量を直接的に評価しようとする点にある。

  近年の全球測位システム(GPs)の発達により、ゾンデ観測された気圧・温度とは独立で高 精度の高度情報が同時に得られるようになってきた。そこで、ゾンデデータの解析を始める 前に、測高公式の積分により算出される高度とGPS高度との比較を行い、ゾンデ観測値に含 まれる気圧と温度の誤差について検討した。その結果、日射補正の不要な夜間データから系

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統的 な誤 差を 見出 した 。こ れ を気 圧バ イア スとして同定するとと もに、鏡面冷却型水蒸気ゾ ン デ に 不 可 避 な 応 答 遅 延 の 効 果 も 考 慮 し て 、 観 測 デ 一 夕 に 補 正 を 加 え た 。   特 定の 大気 塊に 注目 したmatchを探 索す るた めに 、観 測 点の 周囲(match円内)に多数の点 伏気素片・)を配置し、全球客観解析場に 基づく流跡線計算の手法により、観測時刻を起点と する 大気 素片 の移 動を 追跡 す る。 その 結果 、別の時刻に観測点上 空に達してゾンデ観測され たと 判断 され る大 気素片をmatch大気塊候補とする。これらの中に は、全球客観解析場に表現 されない対流の影響を受けて移流中に変質 したものなど解析に適さなしゝ例が含まれている。

そこ で、match円内 にお ける 温度 分布 と大 気素 片配 置を 参 照し なが ら統 計的手法に基づいて match大気 塊の 代表l生 を検 討 した 。さ らに 、TTLに おけ る オゾ ン混 合比 の保存性に注目し、

等温 位条 件の 仮定 が許される移流時間 、matcb温位高度におけるゾ ンデ観測値と客観解析値と の温 度差 、移 流中 の大 気塊 温 度と 直下 の雲 頂温度との差について そ捫ぞれ許容可能な臨界値 を決 定し た。 これ ら臨 界値 に 基づ くス クリ ーニングを全て満足す る事例を抽出することによ り、理想的なm鮒1大気塊に対して脱水量の 定量化を行った。

  同 定さ れたm鮒1大気 塊に つ いて 、ゾ ンデ 観測された移流前後の 水蒸気混合比と流助線計算 によ り評 価さ れた 移流中の飽和水蒸気 混合比とを対応させた解析の結果、温位350.360Kの高 度域で脱水の観測された事例からは、氷晶 が形成されず過飽和状態で存在可能な大気の(氷に 対 す る ) 相対 湿度 田肚 みの 上限 、脱 水後 の水 蒸気 混合 比の 最小 飽 和水 蒸気 混合 比(sMRnヰ に対する比などが評価された。その結果、 温位高度350・360KではRI轟ceが167リ.54%に達す るま でに 氷晶 形成 が開始され、SMRH血 に対して84+/.27%にまで 脱水されるという結果を得 た。

  続 いて 、観 測さ れた 初期 水 蒸気 混合 比と 流助線に沿った温度履 歴に基づき、氷晶形成の開 始さ れる 臨界 相対 湿度 母H襾 と過 飽和 緩和 時間 (で )に よ る脱 水効 率の 定量化を試みた。そ の 結 果 、130%以 下のRH面 を仮 定す る とで が数 時間 とな る例 が見 出さ れた が、140% 以上 の RHぱ .に 対し てで は2時間以下と求まった。この結果は、臨界値を 越えて脱水が開始されると 移 流 時 間 に 比 べ て 十 分 短 い 時 間 内 に 脱 水 が 進 行 す る こ と を 示 し て い る 。   観 測事 実に 基づ くこのような脱水過 程の記述は、matdh大気塊を 用いた今回の解析により初 めて 可能 にな った ものである。現在の 所、温位高度370.380Kで脱 水を示す事例は見出されて いな いが 、観 測デ ータ の蓄 積 によ りこ れを 見出すことができれば 、今回開発した手法を適用 する こと によ り、 成層 圏へ 流 入す る水 蒸気 量を最終的に決定して いる高度域においても脱水 効率の議論が可能になると期待できる。

  審 査委 員一 同は 、こ れら の 成果 を高 く評 価し、大学院博士課程 における研鑽や修得単位な どもあわせ、申請者カ斗15汢 (環境科学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定 した。

参照

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