博 士 ( 理 学 ) 吉 岡 伸 也
学位論文題名
Soft Mode Dynamics of KH2P04 Studied by Impulsive Stimulated Raman Scattering
(パルス誘導ラマン散乱によるKH2P04 のソフトモードダイナミクスの研究)
学位論文内容の要旨
強誘電 体KH:PO。 (KDP)は水 素結合型強誘電体の代表物質であるが、その相転移機構 は秩序・無秩序型なのか、変位型なのかぃまだに明らかにされておらず、永年の間論争が 続 いて い る 。KDPの相 転 移機 構の大 きな特徴 は、水 素Hを 重水素Dに置 換するこ とによ って相 転移温度 が100K近く 上昇する著しい同位元素効果である。それを説明するために ミクロな相転移機構としてプロトントンネリングモデルが提案された。すなわち、相転移 温度の 差をHとDの質量の 差のみによって量子力学的に説明しようとするモデルである。
プロトントンネリング運動と格子モードの結合を考慮したモデルはソフトフォノンモード が存在するモデル(変位型モデル)を示唆しており、これに基いて多くの実験結果が解析 された。しかしながらプロトントンネリング運動の存在に関しては実験的証拠が現在まで 得られておらず、むしろ最近では否定的な実験事実が報告されていて、変位型の相転移機 構は確立されていない。
―17― 図1丘=808 cm−1で 観 測さ れ た 振 動 型 の 強 誘 電 性 ソ フ ト モ ー ド 。ATは 相 転 移 転 点 か ら の 温 度 差 を 示 す 。
あ 理 ス る 電 ミ
― 18 ‑
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授 助教授
八 木 駿 郎 井 上 久 遠 徳 永 正 晴 塩 崎 洋 一 辻 見 裕 史
学 位 論 文 題 名
Soft IVIode Dynamlcs of KH2P04 Studied by Impulsive Stimulated Raman Scattering
く パ ル ス 誘 導 ラ マ ン 散 乱 に よ るKH2P04の ソ フ ト モ ー ド ダ イ ナ ミ ク ス の 砌 ウ 尠
近 年 、 物 質 の 相 転 移 機 構 の 解 明 に 関 す る 研 究 が 盛 ん に行 わ れ てい る 。 その 中 で も 水素 結 合 を 持 つ 物 質 に お け る 相 転 移 の 動 的 機 構 ( ダ イ ナ ミ クス ) を 解明 す る こと は 、 自然 界 の 物 質中 に 広 く 存 在 す る 水 素 結 合 が そ れ を 含 む 物 質 の 物 性 発 現機 構 に どの よ う に関 わ る かと い う 基 本的 問 題 を 相 転 移 機 構 を 通 じ て 直 接 明 ら か に す る こ と が でき る の で極 め て 重要 で あ る。 従 来 の 研究 に お い て は ダ イ ナ ミ ク ス の 解 明 に 光 散 乱 分 光 法 が 多 く用 い ら れ、 相 転 移に お け るス ペ ク ト ル波 形 の 異 常 を 観 測 て ソ フ ト モ ー ド の 振 動 数 の 異 常 減 少 およ ぴ 減 衰の 異 常 増加 を 間 接的 に 求 め るこ と で 相 転 移 機 構 解 明 の 議 論 が な さ れ て い た 。 し か し なが ら こ れら 従 来 の分 光 学 的方 法 は 周 波数 領 域 で ダ イ ナ ミ ク ス の 情 報 を 得 る の で 、 そ の 相 転 移 機構 の 特 徴を 現 す 素励 起 の 運動 に 関 す る結 論 は 間 接 的 に な ら ざ る を 得 な か っ た 。 水 素 結 合 を 持 つ代 表 的 な強 誘 電 体で あ るKH:PO。の 相 転 移機 構 も 約4半 世 紀 に わ た る 研 究 の 対 象 で あ り な が ら 、 そ の ダ イ ナ ミ ク ス は 変 位 型 な の か ある い は 秩 序 ・ 無 秩 序 型 な の か ま だ 解 明 さ れ て い な か っ た 。
本 論 文 は 、 強 誘 電 体KH:PO。 の 相 転 移 機 構 の ダ イナ ミ ク スを 解 明 する た め 、 相転 移 を 直接 支 配 す るB: 光 学 型 ソ フ ト モ ー ド を 人 為 的 に 励 起 し て そ の 運 動 を 実 時 間 で 観 測 す る こ と を目 的 と し た も の で あ る 。 そ の た め 第1段 階 と し て は 、 フ ェ ム ト 秒 モ ー ド 口 ヅ ク レ ー ザ ー シ ス テム を 基 に し た バ ル ス 誘 導 ラ マ ン 散 乱 シ ス テ ム の 構 築 が なさ れ た 。そ の 結 果、 チ タ ンサ フ ァ イ アレ ー ザ ー か ら の120フ ェ ム ト 秒 の 時 間 幅 を 持 つ 波 長800nmの 励 起 バ ル ス を 等 強 度 に2分 割 し 、 生 じ た 2個 の 可 干 渉 性 光 バ ル ス を 温 度 制 御 セ ル 中 で 一 定 の 温 度 に 保 た れ た 強 誘 電 体KH:PO。 単 結 晶試 料 内 部 で 時 間 的 か つ 空 間 的 に 合 致 さ せ る こ と で 、強 誘 電 性の 発 現 を担 うB2光 学 型 ソ フト モ ー ド の 人 為 的 な 励 起 に 成 功し た 。 こ れはKH:PO。 のB: 光 学型 ソ フ トモ ー ド の励 起 と し ては 世 界 最初 の 成 功 例 で あ る 。 励 起後 のB: 光学 型 モ ード の 時 間発 展 は 、励 起 バ ルス 入 射 時か ら の 遅 延時 間 を