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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 吉 岡 伸 也

     学位論文題名

Soft Mode Dynamics of KH2P04 Studied by Impulsive     Stimulated Raman Scattering

(パルス誘導ラマン散乱によるKH2P04 のソフトモードダイナミクスの研究)

学位論文内容の要旨

  強誘電 体KH:PO。 (KDP)は水 素結合型強誘電体の代表物質であるが、その相転移機構 は秩序・無秩序型なのか、変位型なのかぃまだに明らかにされておらず、永年の間論争が 続 いて い る 。KDPの相 転 移機 構の大 きな特徴 は、水 素Hを 重水素Dに置 換するこ とによ って相 転移温度 が100K近く 上昇する著しい同位元素効果である。それを説明するために ミクロな相転移機構としてプロトントンネリングモデルが提案された。すなわち、相転移 温度の 差をHとDの質量の 差のみによって量子力学的に説明しようとするモデルである。

プロトントンネリング運動と格子モードの結合を考慮したモデルはソフトフォノンモード が存在するモデル(変位型モデル)を示唆しており、これに基いて多くの実験結果が解析 された。しかしながらプロトントンネリング運動の存在に関しては実験的証拠が現在まで 得られておらず、むしろ最近では否定的な実験事実が報告されていて、変位型の相転移機 構は確立されていない。

―17― 図1丘=808 cm−1で 観 測さ れ た 振 動     型 の 強 誘 電 性 ソ フ ト モ ー ド 。ATは 相     転 移 転 点 か ら の 温 度 差 を 示 す 。

あ 理 ス る 電 ミ

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18 ‑

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授 助教授

八 木 駿 郎 井 上 久 遠 徳 永 正 晴 塩 崎 洋 一 辻 見 裕 史

    学 位 論 文 題 名

Soft IVIode Dynamlcs of KH2P04 Studied by Impulsive     Stimulated Raman Scattering

く パ ル ス 誘 導 ラ マ ン 散 乱 に よ るKH2P04の ソ フ ト モ ー ド ダ イ ナ ミ ク ス の 砌 ウ 尠

  近 年 、 物 質 の 相 転 移 機 構 の 解 明 に 関 す る 研 究 が 盛 ん に行 わ れ てい る 。 その 中 で も 水素 結 合 を 持 つ 物 質 に お け る 相 転 移 の 動 的 機 構 ( ダ イ ナ ミ クス ) を 解明 す る こと は 、 自然 界 の 物 質中 に 広 く 存 在 す る 水 素 結 合 が そ れ を 含 む 物 質 の 物 性 発 現機 構 に どの よ う に関 わ る かと い う 基 本的 問 題 を 相 転 移 機 構 を 通 じ て 直 接 明 ら か に す る こ と が でき る の で極 め て 重要 で あ る。 従 来 の 研究 に お い て は ダ イ ナ ミ ク ス の 解 明 に 光 散 乱 分 光 法 が 多 く用 い ら れ、 相 転 移に お け るス ペ ク ト ル波 形 の 異 常 を 観 測 て ソ フ ト モ ー ド の 振 動 数 の 異 常 減 少 およ ぴ 減 衰の 異 常 増加 を 間 接的 に 求 め るこ と で 相 転 移 機 構 解 明 の 議 論 が な さ れ て い た 。 し か し なが ら こ れら 従 来 の分 光 学 的方 法 は 周 波数 領 域 で ダ イ ナ ミ ク ス の 情 報 を 得 る の で 、 そ の 相 転 移 機構 の 特 徴を 現 す 素励 起 の 運動 に 関 す る結 論 は 間 接 的 に な ら ざ る を 得 な か っ た 。 水 素 結 合 を 持 つ代 表 的 な強 誘 電 体で あ るKH:PO。の 相 転 移機 構 も 約4半 世 紀 に わ た る 研 究 の 対 象 で あ り な が ら 、 そ の ダ イ ナ ミ ク ス は 変 位 型 な の か ある い は 秩 序 ・ 無 秩 序 型 な の か ま だ 解 明 さ れ て い な か っ た 。

  本 論 文 は 、 強 誘 電 体KH:PO。 の 相 転 移 機 構 の ダ イナ ミ ク スを 解 明 する た め 、 相転 移 を 直接 支 配 す るB: 光 学 型 ソ フ ト モ ー ド を 人 為 的 に 励 起 し て そ の 運 動 を 実 時 間 で 観 測 す る こ と を目 的 と し た も の で あ る 。 そ の た め 第1段 階 と し て は 、 フ ェ ム ト 秒 モ ー ド 口 ヅ ク レ ー ザ ー シ ス テム を 基 に し た バ ル ス 誘 導 ラ マ ン 散 乱 シ ス テ ム の 構 築 が なさ れ た 。そ の 結 果、 チ タ ンサ フ ァ イ アレ ー ザ ー か ら の120フ ェ ム ト 秒 の 時 間 幅 を 持 つ 波 長800nmの 励 起 バ ル ス を 等 強 度 に2分 割 し 、 生 じ た 2個 の 可 干 渉 性 光 バ ル ス を 温 度 制 御 セ ル 中 で 一 定 の 温 度 に 保 た れ た 強 誘 電 体KH:PO。 単 結 晶試 料 内 部 で 時 間 的 か つ 空 間 的 に 合 致 さ せ る こ と で 、強 誘 電 性の 発 現 を担 うB2光 学 型 ソ フト モ ー ド の 人 為 的 な 励 起 に 成 功し た 。 こ れはKH:PO。 のB: 光 学型 ソ フ トモ ー ド の励 起 と し ては 世 界 最初 の 成 功 例 で あ る 。 励 起後 のB: 光学 型 モ ード の 時 間発 展 は 、励 起 バ ルス 入 射 時か ら の 遅 延時 間 を

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   バラメータとして入射されたプローブバルス光の回折強度の時間変化として検出された。それ    によるとB2 光学モードは相転移温度から約 30K 上の常誘電相においてさえすでに数値的にほ    ぼ完全な指数関数型の減衰を示すことが明らかになった。これより強誘電体KH :PO .の強誘電    性ソフトモードは緩和型のダイナミクスを示すことが明らかになり、相転移機構に関して秩    序・無秩序型が強く示唆された。

     さらに本論文では第2 段階として、試料結晶の温度を常誘電相中において任意に制御し、相    転移温度の直上に至るまでB :光学モードの人為的な励起を行い、その時間発展を温度の関数と    して精密に観測することに成功した。これにより常誘電相領域の広い温度範囲で、秩序・無秩    序型の相転移に特徴的な臨界緩和を明確に示すB :光学モードの時間依存性が存在することを    見いだした。これにより初めて、強誘電体KH :PO 。の相転移機構におけるB :光学モードの物理    的本質が、振動子型の素励起(フオノン)が本質的役割を担う変位型であるのか、それとは全    く異質な緩和型の集団励起モードが本質的である秩序・無秩序型であるのかという問題に対し    て、初めてその運動の実時間依存性が指数関数型減衰を示す秩序・無秩序型のものであること    が示された。これによりKH :PO 。の相転移機構が秩序・無秩序型であるという明確な結論が下    された。

     さらに本論文では最終段階として、KH :PO 。が変位型相転移機構であるとする主張の根拠であ    った、小波数領域におけるラマン散乱スペクトルのボラリトンビークに対して、秩序・無秩序    型相転移機構においてもその小波数領域における実時間運動からスペクトルにビークが現れう    ることを示すことに成功した。これは波数を精密に制御して光学フオノンを励起できる本研究    方法の利点を充分に利用して、極めて精度の高い実時間運動の分散関係を求めることに成功し    たことによる。その結果、秩序・無秩序型相転移機構においてもフオノンボラリトン分散関係    に類似な分散関係が存在すること、またその分散関係は以前の前方ラマン散乱で報告されてい    た結果を改めて秩序・無秩序型の相転移機構で矛盾なく説明できることが結論された。これに    より四半世紀にわたる論争の続いたKH :PO 。の相転移機構の解明の問題に決着をっけることに    成功した。

     これらの結果を要するに、著者はバルス誘導ラマン散乱を用いてKH : PO 。におけるB ユ光学ソ    フトモードのダイナミクスを実時間領域において解明したものであり、相転移機構解明の研究    に対して貢献するところは大なるものがある。

     よって 著者は、北 海道大学博 士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。

参照

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