博 士 ( 環 境 科 学 ) 永 岡 大 輔
学位論文題名
AnthropogenlCPbinmarlneSinkingpartiCleSStudied byStableiSOtopeofPbandbiomarker
(鉛同位体とバイオマーカーを用いた西部北太平洋における 海 洋 沈 降 粒 子 中 の 人 為 起 源 鉛 に 関 す る 研 究 )
学位論文内容の要旨
1920年 代 に 有 鉛 ガ ソ リ ン が 登 場 し 、 世 界 的 ぬ 鉛 汚 染 に 繋 が っ て し ま っ た 歴 史 が あ る 。 し か し 、 健 康 被 害 へ の 関 心 の 高 ま り か ら 先 進 国 で は1980年 代 に 有 鉛 ガ ソ リ ン は 廃 止 さ れ 、 中 国 で も90年 代 後 半 に 有 鉛 ガ ソ リ ン は 廃 止 さ れ る こ と と ぬ っ た 。 以 降 、 大 気 中 の 鉛 濃 度 は 減 少 し 、 問 題 は 解 決 し た か に 見 え た 。 し か し 、 近 筑 新 興 国 に お け る 経 済 活 動 の 拡 大 に 伴 い 石炭 消費 量が 増加 しつ っあ り、 石炭 燃焼 に起 源を も っと され る大 気汚 染 が 各 地 で 報 告 さ れ る よう にぬ って きた 。特 に中 国で は深 刻ぬ 健康 被害 も 報告 され るま でに ぬ っ て い る 。 石 炭 に はPAHイ オ ウ 酸 化 物 、 重 金 属 ぬど の多 くの 化学 物質 が 含ま れて いて 、燃 焼さ れる こと によ り大 気 に放 出さ れる 。中 国産 の石 炭の 鉛濃 度ばアメリカ産のおよそ1000轡も あり 急 激忽 石炭 消費 の 増加 は再 び世 界的 ナょ 鉛汚 染に 繋が る可能ピ助ミる。この鉛の究極的 な 除 去 源 は 海 洋 で あ る 。よ って 、近 海洋 で石 炭起 源の 鉛の 存在 を調 べ、 ど のよ うに 深海 に輸 送 さ れ る か を 調 べ る こ と は 、 社 会 科 学 的 に も 地 球 科 学 的 に も 重 要 で あ る と 考 え る 。 本 研 究 で は 、 西 部 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 のSt.KNOT (44°N,155°E) に2005 ‑‑2007年の 間、
770mと5100mの 二 層 に セ ジ メ ン ト ト ラ ッ プ を 設 置Iて沈 降粒 子を 捕集Iた 。 セジ メン トト うル プ は 海 洋 で の 時 系 列 観 測 を 可 能 に す る 唯 一 の 方 法 で あ る 。 サ ン プ ル に は 自 然 起源 と人 為起 源 鉛 が 含 ま れ て い る が 、自 然起 源鉛 はク オー ツの 結晶 格子 に閉 じ込 めら れ てい るた めに 、海 水 で も 溶 出 し な い こ と が知 られ てい る。 また ^為 起源 鉛は 大気 から 沈着 し た鉛 が海 洋で 溶解 し丶再粒子化したものなので、酸で抽出できること・カミ報告されている。よって、サンプ 恥ら人 為 起 源 鉛 を 抽 出 す る た め に 、1 rriol/Lo)HN03で 化 学 抽 出 を 行k丶 浸 出 液(Leachate)と 残渣 (Residue)フラ クシ ョン に分 けた 。^為起源 鉛は浸出液フラクションに含まれるので、浸出液の 鉛同 位体 比を 測定 した 。 付加 ´降 齦と して 、浸 出液 と残 渣の 微量金属も測定した。沈降粒子中 の 鉛 同 位 体 比 を 測 定 す るた めに 、四 重| 靈CP―MSを用 いた 。本 来、 四重 極 【CP―MSは同 位体 分析 には 不向 きで ある が 、導 入す るエ アロ ゾル を小 さく し丶 強固ぬプラズマを発生させること により、起源を推定するのに十分ぬ精度 が得られた(RSD=O.1〜0.3)。また、夕リウムを用いてI CP−MSに 内 在 づ ‐ る 不 感 時 間 と 質 量 分 別 効 果 を 補 正1た。 測定 結果 は、 標 準物 質と 誤差 内で 非 常 に よ く 一 致 し た 。 この 分析 方法 を用 いて 、沈 降粒 子の 鉛同 位体 を測 定 した とこ ろ、770m
の 鉛 同 位 体 は207b/206Pb〓0.860土0.001;208Pb/206Pb=2111.6土 矼002( 平 均 土95% 信 頼 限 荊 で あ り 、 近 年 の 石 炭 燃 焼 に 起 源 を 持 つ 中 国 都 市 エ ア ロ ゾ ル の 鉛 同 位 体 比 に 近 か った 。ま た、 マス バラ ン ス式 に基 づく と、770mでの 沈降 粒子 の鉛 は約90%が人為起源で あり、
5100mで は 約78% が 人 為 起 源 で あ っ た 。 さ ら に 、 鉛 同 位 体 比 とPb濃 度 で 規 格 化1たA価 濃 度 の間 に相 関が あり 、鉛 直 的に 増カ ロす るM衄餅匕物に海水起源の鋤§吸着され、その鋩め ミ下層 の沈 降粒 子に 寄与したものと考え られる。このことは、Mh酸化物が海洋の鉛のキャリアと して、
溜堀 への 輸送 に重 要ぬ 役 害lJを持 つこ とが 示唆 され た。 しか し、 下層 で劇 的に 増 カnするMnの 走 醐 こ つI丶 て は 、 再 懸 源 バ ク テ リ ア 酸 イ ヒ 、 水 平 移 流 縦 勁 湾 え ら れ る が : 群 魄 起 源 に つ い て は わ か ら ぬ か っ た 。 ま た、 鉛同 位体 比の 季節 変 化は 有意 では ぬい が、 夏か ら秋 に高 く、
冬 に 低 く ぬ る 傾 向 が 見 ら れ た。 この 変化 につ いて 調 べる ため に、 いく っか の沈 降粒 子中 のバ ィオ マー カー (アルケノン)を測 定し比較を行った。その結果、アルケノン古水温計は表 層の沈 降 粒 子 中 の 鉛 同 位 体 比 と 似 た 変 動 を 示L虎 。 こ れ は 鉛 と 円石 藻が 同じ 物理 プロ セス によ って 支 配 さ れ て い る 可 能1熾 示 唆 す る 。 っ ま り 、 鉛 は 、 夏 場 の浅 い混 合層 の時 には 、海 洋表 層で 鉛が蓄積1ー人為起源のシグナルが強くなり、冬になり混合層が深くナょると.、・徐々に希釈を受け、
|為 起源 のシ グナ ´レ が 弱く ぬる ため だと 考え られ る。 対し て、 円石藻のアルケルも海 洋表層 の成 層が 強化 する 間、 ア ルケ ノン 古水 温計 がヒ 昇Iっ づけ 、冬 にな り混 合層 が深 くぬ ると 、徐 々 に 水 温 を 下 げ る が 、 ブ ル ーム 時の 粒子 が比 較的 表 層に 残っ てい ると 考え られ る。 海洋 にお ける 鉛同 位体 比を 考察 す る上 で、 混合 層深 度の 物理 プロ セス も大 きナょ撹乱要因である ことが 示された。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 南 川 雅 男 副査 教 授 乗 木新 一郎 副 査 教 授 田 中 俊 逸 副査 准 教 授 豊田 和弘
学 位 論 文 題 名 ● ●
AnthropogenlCPbinmarlneSinkingpartiCleSStudied byStableiSOtopeofPbandbiomarker
(鉛同位体とバイオマーカーを用いた西部北太平洋における 海 洋 沈 降 粒 子 中 の 人 為 起 源 鉛 に 関 す る 研 究 )
近年、発展途上国の経漓活動の拡大に伴い、石炭燃焼によって放出される重金属による大気汚 染が報告されるようになってきた。しかし、この石炭起源の重金属汚染は海洋では未だに確認され ていない。本研究は、鉛をトレーサーとして用いて、海洋で見出される鉛が石炭起源であるかどう かを調べ、その鉛どのように海洋深層に輸送されるのかを明らかにする目的で研究された。試糾と して分析した沈降粒子は、西部北太平洋亜 寒帯域のSt. KNOT (440N,155°E冫に2005〜2007年 の問、770mと5100mのニ層にセジメントトラップを設置して捕集された。セジメントトラップは海洋沈 降粒子を連続的に捕集し、時系列観測を可 能にする唯一の方法である。全粒子束(TMF)は、初夏 に高く、70%が生物起源Opalで構成されていた。サンフンレには岩石起源鉛(自然起源)と人為起源鉛 の二種類が含まれているため、人為起源鉛 を抽出するために、1 mol/LのHN03、室温、24時間の 条件で化学抽出を行い、浸出液(Leachate)と残渣(Residue)フラクションに分けた。LeachateとResidu の両フラクションの微量金属(Pb,Mn,La,Th,Sc,Yb)の濃度を測定し、Leachableの鉛同位体比を四 重ICP‑MSを用いて測定した。PbやMnはLeachateフラクションに多く含まれているが、ScやTh等 の陸起源金属はResidueに多く含まれていることを明らかにした。また、Mnは下層でおよそ10倍フラ ックスが増加していた。La,Yb,Th,Scを用いて、沈降粒子中の陸起源粒子の起源を見積もったとこ ろ、60%がアジア古土壌起源で、残りが千島一一カムチャッカ火山´陸物質の二成分から構成されてい ることがわかった。さらに、Pbの濃縮係数(EF)を見羅恕られた陸起源粒子の値をReference値として、
計算したところ上層ではおよそ10〜15程度であり、沈降粒子中の鉛は人為起源であることを示唆し た。本研究では、さらに鉛の起源を調べるために、四重極ICP一MSを使って鉛同位体比を測定した。
四重極ICPMSは同位尉髟淋斤には不向きであるが、同車由型のマイクロフローネブライザを用いて、
自己吸引モードで溶液を導入しペリスタックポンプの周期的なノイズを除去し、同時に導入される
ー987−
エアロゾルの粒径を小さくし、強固なプラズマを発生させた。また、分析の最適条件を決定してやる ことで鉛の起源を推定するのに十分な精度が得た(RSD=0.1〜0.3)。さらに、四重極ICP一MSに内在 する不感時間(Dead time)と質量分別効果(Mass bias)をTl標準物質(NIST998)用いて補正L虎。鉛同 位体標準物質の測定結果は、誤差内で 非常によく一致し、精度と確度が保障された。この分祈方 法を用いて、沈降粒子の鉛同位体を測定したところ、770mのLeachateの鉛同位体は207Pb/20SPb= 0.860土0.001; 208Pb/206Pb=2.116土0.002(平均土95Yo信頼限嗣であり、近年の石炭燃焼に 起源を持つ中国都市工アロゾルの鉛同位体士匕にi丘かった。また。5100mでは20rPb/206Pb=0.857 土0.001; 208Pb/206Pb=2.107土0.002であり、上下層で鉛同位体比に有意た差があることを明らか にした。鉛同位体比に基づいたマスバ ランス劫ゝら、770mでの沈降粒子の鉛は約90%が人為起源 であり、5100mでは約78Yoが人為起源であることを推定した。上下層の鉛同位体比の差異の原因を 調べるため、測定した各微量金属と鉛同位体比を比較研究L虎ところ、鉛同位体比とPb濃度で規格 化したMn濃度の間に相関があり、Mn酸 化物が鉛同位体比に一部影響を与えていることを示唆した これは、海水中でMn酸化物は表面に溶 存の鉛を吸着し除去する働きを持っている為、鉛を吸着し たMn酸イ匕物が下層の沈降粧|子に寄与した,ものと結論した。この結果は、Mn竣化物が淘洋の鉛の キャリアとして、深層への輸送に対して重要な役割を持っことを示唆する。また、沈降粒子中の鉛 同位体比(20rPb/206Pb)は夏〜秋により高く、春先に低うゝった。この鉛同位体比の季節変化を調べる ために、海洋表層水温のプロキシになるアルケノンを測定し、沈降粒子中の各測定したデータと比 較研究を行った。その結果、PbとMnのEFはアルケノン水温と正の相関を持ち、Opdと逆相関を持 っことを明らかにしたこれらは、海洋表層の成層がより発達し、生物生産の低いH寺期には、大気 由来の可溶陸金属であるPbとMnが海洋 表層に蓄積され、粒子化したものが沈降粒子に反映される ため、EFが高くなるためであると考えられた。そのため、同時期には鉛同位体比も、より人為起源 な値になったと結論付けた。将来的に 、これらのデータは人為起源鉛の大気海洋間の循環像をよ り明らかためにモデルに組み込むことが期待される。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大学院博 士課程における研鑽や修得単位なども あわせ,申請者が博士(環境科学)の学位を受けるのに充 分な資格を有するものと判定した。