博 士 ( 医 学 ) 伊 藤 浩 二
学 位 論 文 題 名
ラ ッ ト 培 養 肝 実 質 細 胞 か ら の Cu , Zn‑SOD 逸 脱 に つ い て の 検 討
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
臓 器虚 血 ・ 再潅 流 障 害 にフ リ ー ラジ カ ルが関与 するこ とが、近 年報告 されてい る。肝臓 外科 領 域 で も拡 大 肝 切除 時 や 移 植時 に は 虚血 ・再潅 流障害 は避ける ことがで きず、 このよう な病態 下 で の フリ ー ラ ジカ ル 産 生 やラ ジ カ ルス カベン ジャー の有用性 が検討さ れてい る。クッ パー細 胞 や 血 管内 皮 細胞 、好中球 は様々な 刺激に 対しスー バーオ キサイド (○2‑)を細胞 外に放出 する こ とが知 られてお り、肝虚 血・再 潅流時に はこれ らの細胞が○2.を放出するものと考えられる。
一 方、肝 実質細胞 は無酸素 ・再酸 素化を行 っても ○2. を放出せず、従って上記の様な病態下では 周 囲の非 実質細胞 や浸潤し た好中 球の産生 する02. により攻 撃され るものと 考えられる。この観 点 から培 養肝実質 細胞に02.を作用 させ、細 胞がど のように 変化す るかにつ いていくつかの報告 が なされ ている。 しかし、 作用さ せた02.の 変化、 即ち肝実質細胞が細胞外○2.に対してどの様 に 反応し たかの報 告はない 。本研 究では、 まず肝 実質細胞が細胞外〇2.に対してどの様な反応を 示 す か を検 討 した 。その結 果、肝実 質細胞 は02.消去 物質を 放出する ことが 判明した 。そこ でO 2. 消 去 物 質 の 同 定 を 行 い 、 そ の 経 時 的 な 放 出 バ タ ー ン に つ い て 検 討 を 加 え た 。 第 一に細 胞外02.に 対する 肝実質細 胞の反 応につい て以下 の実験を おこなっ た。Wistar雄性 ラ ットを 用い、既 報に従っ てコラ ゲナーゼ 潅流法 にて肝実 質細胞 を分離し た。肝実 質細胞はL‑15 mediumを用い空 気環境下 で培養 し24‑30時 間後に 実験に供 した。 細胞をphosphate buffer saline (PBS)にて 洗浄後、02.産生 速度が12閏M/minとなるよう調節したxanthine oxidase、hypoxanthine および5,5‐ dimethyl‑ l‑pyrroline‑N‑oxide(DMPO,spin trap剤)を1分間作用させ、その2分後より electron spin resonance法 を 用 い フ リ ー ラ ジ カ ル を 測 定 した 。ESR測 定 にはJEOL社 製REIX spectrometerを使用、flat cellを用い、室温で行った。測定条件は、microwave power lOmW、field modulation lOOkHz、amplitude O.lmT、scan time4分、time constant 0.03秒、magnetic field 334.4 士lOmTで 全 分 析 を 行 い 、 同 時 に 測 定し たMn0と の 間で シ グ ナル 強 度 を比 較 し た 。反 応 液 のみ を 測 定 し た 場 合 、 二 つ の シ グ ナ ル が 観 察 さ れ た 。 主 た る 成 分 は1:1:1:1の 強 度を も つ12 本 線 の シ グ ナ ル を 有 し て お り 超 微 細 構 造 か らDMPO‑OOH即 ちDMPOが02.を ト ラ ップ し た もの で あ っ た。 他 の シグ ナ ル はDMPO‑OHで あっ た が 強度 は 小 さく 、 前 者を02・に対 する反応 として 測 定した 。肝細胞 に02.を 反応させ た場合シ グナル は著明に 減少し た。Cu,Zn‑SOD阻害剤である diethyldithiocarbamate (DDC)で肝細胞を前培養するとこの減少は抑えられ、またfibroblastでは シ グナル 減少は軽 度であっ た。以 上のこと から肝 実質細胞 から02. 消去物質 が逸脱することが判 明 した。 この逸脱 には02. 刺激の有 無による 差異は みられな かった 。従って 、02.に対する特異 的 な も の で は な く 、 物 理 的 な ス ト レ ス が 逸 脱 の 要 因 で あ る と 考 え ら れ た 。 第 二に逸 脱物質の 同定を 行い、逸 脱のバタ ーンに ついて検 討した 。02.消去 物質を同定するた め に 反 応液 の 一部 を用い、Whiteら の方法に 準じ電気 泳動を 行った。 その結 果二本線 のパン ドが 検 出され 、02.消去 物質はCu,Zn‑SODであ ると考え られた。 確認の ため抗SOD抗体 を用いWestern
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blot分 析 を 行 っ た 所 、16kDaの パ ン ド が 検 出 さ れ 上 記 の 結 果 が 証 明 さ れ た 。 さ ら に 、DDC. potassium cyanide (KCN)による抑制効果につ いても検討したが、02.消去能は両者により完全に 抑 え ら れ 、 本 実 験 系 で 認 め ら れ る02. 消 去 物 質 はCu,Zn‑SOD一 種 類 で あ る と 判 断 さ れ た 。 従 って 、肝 実質 細胞 から 物 理的 スト レス によ り、02・ 消去 物質 とし てCu,Zn‑SODが 逸脱するこ とが判明した 。
次に 逸脱のバタ ーンについて逸脱酵素として知られているlactate dehydrogenase (LDH)と比較 し 検討 を加 えた 。肝 実質 細 胞培 養後0‑24、24‑48、48‑72時 間を 各々 、Dayl、2、3. とした。各 Dayに お い てmedium中 お よ び 細 胞lysate中 のSODお よ びLDH活 性 を 測 定 し た 。Medium中 の SOD活 性 測 定 に は 電 気 泳 動 後 、NIH image programを 用 い た 。 細 胞lysate中 のSOD活 性測 定に は チ ト ク ロ ー ムc還 元 法 を用 い、LDH活性 測定 は 、medium中、 細胞lysate中 とも にKyokuto MTX
LDH Kitを 用 い た 。 ま す 、Day1に お い てmedium中 のSOD、LDHを 経 時 的 に 測 定 し た 。24 時 間 後 を100% と し て 比 較 検 討 す る と 、1,3,6,12時 間後 のSOD逸脱 は各 々48.8土3.1、58.9 土2.8、66.8土3.2、76.9士0.9%であった。一方LDHのそれは13.6土2.1、14.9士1.7、20.3土0.8、39.1 土1.6% で あ り 、 い ず れ の ポ イ ン ト で もSODの 逸 脱 率 が 有 意 に 高 か っ た 。 従 っ て、SOD逸 脱は 早 期に 起こ るこ とが 判明 し た。 次に 、各Dayでの 逸脱 を 比較 した。各々の酵素の逸脱率を(Dayn に お け るmedium中 の 酵 素 活 性 ) / (Daynに お け るmedium中 の 酵 素 活 性 十Daynに お け る 細 胞lysate中 の酵 素活 性) で 計算 した。Day1、2、3の逸脱率はSODで16.7士1.8、13.0土1.8、21.8 士2.9% で 、LDHで27.8士3.6、21.3土6.7、40.3土5.8% で あ っ た 。SOD、LDHと もにDaylから Day2に か け て 減 少 し 、Day3で 上 昇 す る 同 様 の バ タ ー ン を 示 し た 。 即 ち 、SODは 日単 位で みる とLDHと 同 様 の 逸 脱 傾 向 を示 すが 、時 間単 位で は非 常に 早く 逸脱 する こと が わか った 。ま た、
各Dayに お い て 残 存 肝 実 質細 胞のSOD濃度 を測 定 する と各 々17.6土1.7、16.9士1.2、18.5土1.5 U/mg proteinで あ り 、 差は なか った 。従 って 、SOD逸脱 は障 害細 胞か らの も ので ある と考 えら れた。
こ れ ま で に 肝 実 質 細 胞か らのSOD逸 脱を 測定 、検 討し た報 告は ない 。本 研 究に より 肝実 質細 胞 か ら 物 理 的 ス 卜 レ ス によ り早 期にSODが 逸脱 する こと が判 明し た。 肝移 植 時や 肝切 除時 に起 こ る虚 血・ 再潅 流の 病態 下 では 虚血 時に 生じ た肝 実質 細胞 障害 に加 え、 再潅 流の 物 理的ストレ ス に よ りCu,Zn‑SODがbollousに 逸脱 する と思 われ る。 これ は周 囲非 実質 細 胞や 浸潤 好中 球に よ り〇2・が産生されるのとほぽ同時と考えら れ、02.は消去される。これにより一酸化窒素等を 介 する ヒド ロキ シラ ジカ ル 生成 経路 がプ ロッ クさ れる もの と考 えら れ、Cu,Zn‑SOD逸脱は受動 的であっても 細胞保護的に作用し合目的なものと考えられた。
さら に、 このCu.Zn‑SOD測定 を様 々な 病態 下で 用い るこ とに より 、フ リー ラジ カ ルの役割を さらに解明す ることができると期待される。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ラット培養肝実質細胞からのCu , Zn‑SOD 逸 脱 に つ い て の 検 討
臓器虚血・ 再灌流障害にフリーラジカルが関与し、スーバーオキサ イド(02―)やこれ を起点とする活性酸素種 に関し多くの研究がなされている。クッバ一細胞や血管内皮細胞 は 無酸 素・ 再酸 素化 時に02ー を放 出す るこ とが 知 られ てお り、 この 様な 病態 ではSOD が重要な役割を果たすも のと考えられる。申請者は培養肝実質細胞が無酸素・再酸素化を 行っても02〜を放出しないことから各種の細胞が放出する02ーによ り攻撃されるものと 考え、「肝 実質細胞は細胞外02−を消去する」という仮説を検証し た。実験はラット培 養肝細胞を用い、 02―を作用させた時の変化、02一 消去物質の変化が02ーに特異的なも のか否か、さら消去物質の同定を行い、その逸脱のバターンについてLDHと比較検討した。
そ の結 果ESR法 によ る 検討 で肝 実質 細胞 は細 胞外02― をす ぼや く消 去し た。 こ の消去 は02―に特 異的なものではなく、物理的な要因が大きいことが判明 した。電気泳動およ びWestern blot分析から この物質はCu,Zn‑SOD一種類であることが判明した。LDHとの比 較で早期にb olusに逸脱 することが判明した。これらの実験事実は虚血・再濯流時等の病 態下で逸脱したCu,Zn−SODが他の細胞の産生する02−を消去し、他の有害なラジカルの 産 生 を 抑 え る 可 能 性 を 示 唆し 、さ らに 検討 を加 える 意義 があ るも のと 考 えら れた 。 審査にあたって、浅香教 授から研究の目的、他の細胞種での検討、 Cu,Zn―SODの局在、
DDCの 薬理 作用 、逸 脱 が受 動的なものかどうか、NOの関連について 質問があった。申請 者は虚血・再灌流に関す る文献、 02一やCu,Zn‑SODに関する文献、申請者自身の実験テ ータを用いて、虚血・再 濯流障害に関しては議論も多いが肝実質細胞に関してはフリーラ ジカルを放 出するとぃう報告がほとんど無いことから細胞外02―に 攻撃される可能性が 高いこと、他の細胞種に ついては今後の検討が必要なこと、 Cu,Zn‑SODは主として細胞 質に存在すること、DDCは酵素の活性中心であるCu,Znを抑えること、逸脱は本実験系か らは受動的 であるが意義を持つ可能性があること、NOについては今 後の検討が必要なこ
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省 博
之
正 紘
堂 香
藤
藤 浅
加
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
とを回答した。次いで、加藤教授よりin vivoの実験結果をin vitroにどう結びっけて考え るのか、また臨床応用の可能性についてはどうか質問があった。申請者は肝虚血・再灌流 に関する文献、申請者自身の実験データを用いて、臓器虚血・再灌流障害では再濯流時に 血液が流入するため好中球などの細胞が関与し、,また各々の細胞でcell contactの障害や腰 障害の程度カ 異なるため今後さらに検討が必要なこと、Cu,Zn‑SOD逸脱は肝障害を早期 にとらえる指標となる可能性 があること、ある種の病態下でIよ適切なCu,Zn‑SOD投与に より臓器保護の可能性があることを回答した。最後に、藤堂教授から本実験の今後の発展 性についての質問があった。申請者は肝虚血・再灌流に関する文献、各種培養細胞を用い た02一、NO産生に関する文献 、自身の実験データから肝虚血・再灌流時における門脈中 や肝静脈中のCu,Zn−SODの活性の変化やラシカルの検出、さらにCu,Zn‑SOD投与による 臓器保護の可能性、0.2→やNOを産生すると考えられているクッバ一細胞や血管内皮細胞 と 肝 実 質 細 胞 と のco‑cultureに よ る 病 態 の 解 明 の 可 能 性 な ど を 明 快 に 答 え た 。 審査員一同はこれらの成績を高く評価し、申請者が博士[医学)の学位を受けるのに十 分な資格を有するものと判定した。
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