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ジャガイモ

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 畑 谷 達 児

学 位 論 文 題 名

ジャガイモ Y ウイルスえそ系統と普通系統の 分子 性状 比較とゲノム RNA 間組換えに関する研究

学位論文内容の要旨

  ジ ャ ガ イ モYウ イ ル ス (PVY) は 、 ア ブ ラ ム シ で 非 永 続伝 搬 さ れる 屈 曲 性ひ も 状 ウイ ル ス で、 ジ ャ ガ イモ の 他 に、 夕 バ コ、 ト マ ト、 ト ウ ガラ シ に 被害 を 与 え る重 要 病 害ウ イルス で あ る 。 日 本 で は 病 原 性 の 異 な る 普 通 系 統 (PVY‑O) と えそ 系 統 (PVY‑T) が 知ら れ て お り 、PVY‑Oは 日 本 のジ ャ ガ イモ 品 種 に、 え そ 型症 状 や 、れ ん 葉 型 症状 を も たら す が、PVY‑T が 日 本 の ジ ャ ガ イ モ 品 種 にも た ら す症 状 は 一般 に 軽 微 であ る 。 しか し 、 タバ コ で はPVY‑O が モ ザ イ ク 症 状 を も た ら すの に 対 し、PVY‑Tは 激 しい え そ をも た ら す。 両 者 は宿 主 植 物に お ける 病 徴 の 生物 的 性 質の 他 、 耐保 存 性 など の 物 理的 性 質 やア ブ ラ ム シ伝 搬 率 の違 いも認 め ら れ 、PVY‑TPVY‑Oに 比 べ よ り 安 定 な ウ イ ル ス で あ る 。PVYの ゲ ノ ム は 約10 kbの プ ラ ス1本 鎖RNAで 、 単 一 の 読 み 枠 か ら 分 子 量 約350kの ポ リ プ ロ テ イ ン が 翻 訳 さ れ た 後 、 ウ イ ル ス ゲ ノ ム に コ ー ド され る3種の プ ロ テア ー ゼ に よっ て 切 断さ れ て 機能 タ ン パク 質 が 生 産さ れ る 。

  本 研 究 で は 、 ま ずPVY‑OPVY‑Tの 安 定 性 の 違 い に 着 目 し 、 主 要 な 構 成 夕 ン パ ク 質 で あ る 外 被 夕 ン パ ク 質 (CP) の 分 子 性 状 比 較 を 行 っ た 。CP遺 伝 子 に 対 す るcDNAの 塩 基 配 列 より 予 想 さ れる ア ミ ノ酸 配 列 を比 較 し た結 果 、 夕ン パ ク 質の 安 定 性 に関 与 す ると 考えら れ て い るN末 端 側 に 違 い が 多 く 存 在 し 、C末 端 側 は 共 通 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。   PVY‑OPVY‑Tを 判 別 す る に は 、 タ バ コ な ど の 判 別 宿 主 へ の 接 種 に よ る 検 定 の 他 、 モ ノ クロ ー ナ ル 抗体 (MAb) を 用い た 血 清学 的 手 法に よ る 特異的 判別が可 能であ る。そこ で、

次 にPVY‑O特 異 的MAb PVY0‑21H05お よ び PVY‑T特 異 的 MAb PVYT‑4E7に よ る 系 統 判 別 の 分 子 的 根 拠 を 明 確 に す る た め 、 各MAbが 認 識 す るPVY系 統 特 異 的 エ ピ ト ー プ の 解 析 を 行 っ た 。PVY粒 子 を ト リ プ シ ン で 限 定 分 解 し て 調 整し たCPコ ア 領 域は 、MAb PVYO21H05 お よ びMAb PVYT‑4E7に 反 応 し な く な り 、C末 端 側 は 共 通 で あ る こ と か ら 系 統 特 異 的 エピ ト ー プ はCPN末 端 側 に あ る と 考 え ら れ た 。 更 にCPコ ア 領 域 のN末 端20残 基 の ア ミ 丿 酸 配 列 を 解 析 し た 結 果 、 系統 特 異 的エ ピ ト ープ はN末 端30残 基内 に あ るこ と が わか っ た 。 PVY‑OPVY‑TCPア ミ ノ 酸 配 列 の 他 、 両MAbと 反 応 し な い 普 通 系 統 の 分 離 株PVY‑36CPア ミ ノ 酸 配 列 を 加 え 、 こ れ ら3種 のCPN末 端30ア ミ ノ 酸 の キ メ ラ ベ プ チ ド を 、 融 合 タ ン パ ク 質 と し て 大 腸 菌 で 発 現 さ せ 、 両MAbの 反 応 に 必 要 な 配 列 を 更 に 解析 し た 。 そ の 結 果 、PVY‑O特 異 的MAb PVY0‑21H05N末 端 側 の26か ら30番 目 の ア ミ ノ 酸 の

(2)

2゜P…K¨の配列を認識していることを明らかにした。この認識配列は世界中の多くの普通 系統で保 存されて いるわけ ではなく 、実際PVY‑36が 反応しない 理由の1っ として30番目 のKがNに変 異 し てい るた めと考え られ、MAb PVY0‑21H05で は認識で きない普 通系統が 存在する ことを示 唆するとともに、その分子的根拠を明らかにした。一方、PVY‑T特異的 MAb PVYT‑4E7はN末端側 の10から17番 目の‥ST‑‑QI ̄の配列 を認識し ていることを明 らかにした。この…ST…‑‑QI 配列は、世界中の多くのPVYえそ系統で保存されており、MAb PVYT‑4E7が海外で も非常に 系統特異 性が高い と評価されていることを裏づけた。また、

ヨーロッ パ諸国で 大問題に なってい る新興系 統NTNは、えそ 系統であ るが、ジ ャガイモ 塊茎にえそ症状をもたらすもので、…ST‑‑‑‑‑QI の配列はNTN系統の分離株にも保存されて いることから、NTN系統も検出できると考えられる。

  次に、ゲノムの3|末端の塩基配列解析から、PVY‑TI3分離株のゲノムは、CP遺伝子の途 中から下流の3|非翻訳領域(3|NTR)が普通系統の配列に置き換わった組換え体であるこ とを明ら かにした 。PVY‑T13株は、原株PVY‑TH株に普通系統が混合感染したために、感染 植物体よ りPVY‑Tとして 再分離し たもので ある。こ のことから、混合感染の際にRNA‑RNA 組換えが 起こって 、PVY‑T13ゲノムが生じたものと推察し、これを以下のように実験的に 検証した 。まずPVY‑OH分 離株とPVYTJT分 離株の混 合感染植 物を作り、 感染葉から得た PVYゲ ノ ム の3.末 端 領域 のcDNAを クロ ー ニン グ し た。得 られたク ローンからPVYのCP を大腸菌 で発現さ せ、系統 特異的MAbに よるCPアミ ノ酸配列型 の判別を 行うとともに、

PVY‑OHまたはPVY‑TJTの ゲノムに 特異的な 合成オリ ゴヌクレオチドプローブによって3. NTRの塩基配 列型を判 別した。 その結果 からキメ ラ構造をし ていると 考えられ るクロー ンを選抜 し、塩基 配列を解 析した。 その結果 、新たに2種 類のCP遺伝 子内にお ける組換 え ク ロ ー ン を 得 、 混 合 感 染 に よ るPVYゲ ノ ム 間 のRNA‑RNA組 換 え を 実 証 し た 。   またPVY‑T13ゲノ ムは多くの部分が未解析のため、未解析領域で更に組換えが生じてい る可能性が考えられた。また、両系統間の病原性の違い等を解明していく上で重要な礎と なるため 、PVY‑OHとPVY‑T13ゲノムの未解析領域を解析し、全塩基配列(PVY‑OH: 9699塩 基、PVY‑Tば9703塩 基)を明らかにした。5.末端の塩基を詳細に解析した結果、PVY‑T13 とPVY‑OHで は末 端32塩 基 は共 通 配 列で 、 初め てPVY全塩基配 列が報告 されたえそ 系統 フラ ン ス 株の5t末端1塩基 が解析で きていな い可能性 を示唆し た。PVY‑OHとPVY‑T13ゲ ノム の 全 塩基 配 列を 外 国産4分離 株と比較 解析した 結果、PVY‑T13ゲ ノムではCP遺 伝子 領域の他 に組換え の痕跡は 認められ ず、CP遺伝 子の上流の配列は外国産えそ系統スイス 株に 最 も 近縁 で あっ た 。 一方 、PVYーOHは、 普 通 系統 カナダ株 に最も近縁 であった 。   また、分子系統進化学的解析により、えそ系統フランス株のゲノムはその大部分の配列 が普通系 統の配列 型で、NIb遺 伝子領域 内の2箇所 と3 NTR内の1箇 所の組換 え部位でえ そ系統の 配列に置 き換わっ ている組 換え体で あることを明らかにした。更に、新興系統 NTN1分 離 株 であ る ハン ガ リ ー株 の ゲノ ム で も3箇所 の組換え 部位が検出 された。 そ のゲノムは、5|側の5|NTRからHC‑Proまでの遺伝子領域(約2.4 kb)はえそ系統の配列、

中央部のP3から6K2まで の遺伝子 領域(約3.3kb)は普通系統の配列、その下流のNIa遺 伝子領域 からCP遺伝 子の5t側約2/3(約3.4kb) まではえ そ系統の配 列、またCP遺伝子

248

(3)

の3 側約1/3 から3 .NTR (約0.6 kb )は普通系統の配列になっており、モザイク構造をし

た 組換え 体で ある こと を明 らか にし た。 これ らの こと から、PVY 系統間でのゲノムRNA

組 換えが 自然 界で 通常 起こ り得る現象で、NTN 系統のような新たな病原性を獲得した新

ウイルスが出現するーつの機構であることを示唆した。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ジャガイモY ウイルスえそ系統と普通系統の 分 子性状比 較とゲノ ム RNA 間組 換えに関する研究

  

本 論 文 は 、

4

章 で 構 成 さ れ 、 図

71

、 表

26

、 引 用 文 献

304

、 総 頁 数

23 3

の 和論文で、他に参考文献

7

編が添えられている。本研究は、ジャガイモ

Y

ウ イルス (

PVY)

の系 統比 較を行 い、 ウイルス新興系統出現の要因としてRN

A

組 み 換 え 現 象 を 提 唱 し た も の で 、 内 容 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。

  

日本の

PVY

には、病原性の異なる普通系統(

PVY

O)

とえそ系統(

PVY

T)

が存在する。

PVY

−O はジャガイモ品種に、えそ型症状や、れん葉型症状をもた らすが、

PVY

T

は一般に軽微な病徴を誘導する。しかし、

PVY

―T はタバコで 激 し い え そ を もた ら し 、 重 要 病 害とな って いる。

PVY

は 、長 さ約

730nm

の ひ も 状 ウ イ ル ス で 、 そ の ゲ ノ ム は 約

10 kb

の プ ラ ス

1

本 鎖

RN'A

で あ る 。

  PVY

O

PVY

T

を 判別 するに は、 モノク口ーナル抗体(MAb) を用いた血 清学的手法による特異的判別が可能である。そこで、エピトープ解析によって、

PVY

O

特 異的

MAb PVYO

21H05

および

PVY

T

特異 的MAb PVYI' −

4E7

によ る 系統判別の分子的根拠を明確にした。PVY 一

O

PVY

ーT の外被夕ンパク質(CP) アミノ酸配列の他、両MAb と反応しない普通系統の分離株PVY ー

36

CP

アミノ 酸配列を加え、これら3 種の

CP

N

末端アミノ酸のキメラベプチドを、融合夕 ンパク質として大腸菌で発現させ、両MAb の反応に必要な配列を解析した゛。そ の 結果、

PVY

O

特異 的MAb PVYO ―

21H05

N

末端側の26 から

30

番目のアミノ 酸の26P −ー̲K30 の配列を認識していることを明らかにした。一方、PVY −T 特異 的

MAb PVYT

4E7

はN 末端側の10 から17 番目のIoST ー――−―Q17 の配列を認識し ていることを明らかにした。この配列は、世界中の多くのPVY えそ系統で保存 さ れており、

MAb PVYT

4E7

が海外でも非常に系統特異性が高いと評価され ていることを裏づけた。・

  

次に、ゲノムの

3

.末端の塩基配列解析から、PVY ―

T13

分離株のゲノムは、C

250

郎 税

徳 男

   

田 田

戸 藤

(5)

P

遺伝 子の途 中から3t 非翻訳領 域(

3

|NTR) にかけて 、普通系統の 配列に置 き換わった組換え体であることを発見した。PVY ―T13 株は、原株PVY ーTH 株に 普通系統が混合感染した植物体よりPVY ―T として再分離したものである。この こ とから、混合 感染の際にRNA −RNA 組換えが起こって、

PVY

―T13 ゲノムが生 じたものと推察し、これを実験的に検証した。まず

PVY

一OH 分離株とPVY −TJT 分 離 株の混 合感染植物を 作り、感染葉 から得た

PVY

ゲノム の

3

,末端領域の

cDNA

をク 口ーニングし た。得られたク 口ーンから

PVY

のCP を大腸菌で発現さ せ 、系統特異的

MAb

に よる

CP

アミノ酸配 列型の判別を行うとともに、系統特 異的な合成オリゴヌクレオチドプ口ープによるハイブリダイゼーションで、3t

NTR

の塩基配列型を判別した。その結果からキメラ構造をしていると考えられ る ク口ーン得た 。これにより、混合感染によるゲノム間のRNA −RNA 組換えを 実証した。

  

また

PVY

―OH とPVY ―T13 ゲノムの未解析領域を解析し、全塩基配列(

PVY

OH

:9699 塩基 、

PVY

―T13 :9703 塩基)を明らかにした。これらゲノムの全塩 基 配列を外国産

4

分 離株と比較し た結果、PVY −T13 ゲノムではCP 遺伝子領域 の他に組換えの痕跡は認められず、CP 遺伝子の上流の配列は外国産えそ系統ス イス株に最も近縁であった。一方、PVY ―OH は、普通系統カナダ株に最も近縁 であった。

  

また 、分子 系統進化学的 解析により、海 外で報告され ている2 つのPVY 分 離株が普通系統とえそ系統のモザイク構造をした組換え体であることを明らか に した。これら のことから、PVY 系統間でのゲノムRNA 組換えが自然界で通常 起こり得る現象で、病原性を獲得したウイルス新興系統が出現するーつの機構 であることを示唆した。

    

本 研 究 は 、

PVY

ゲ ノ ム の 系 統 比 較 を お こ な い 、

RNA

組 み 換 え が

PVY

新興系統出現の要因のーつであることを実証したもので、学術上の貢献が大き く,学会においても高く評価されるものである。

    

よって審査員一同は、畑谷達児氏が博士(農学)の学位を受けるのに十

分な資格を有するものと認めた。

参照

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