博 士 ( 理 学 ) 門 出 健 次
学 位 論 文 題 名
Structures and Biosynthesis of Cruciferous Phytoalexins
(アブラナ科植物ファイトアレキシンの構造と生合成)
学位論文内容の要旨
植 物が 微 生物 に 接触 し た際 、 植物 自身 に より 新た に産生される 抗菌性化合物フ ァイトアレキ シンは、病 害 抵抗 機構 を 説明する物質と して植物病理 学の立場から 重要視されて いる。当研究室 では、罹病ハ クサイより アブラナ 科植物として最初のファイ卜アレキシンbr assini n (1 )|metho xybras sinin( 2) .cyc lobras sinin( 5) を単離 し 、そ の構 造 を報 告 して い る。 これらは 2 個の硫黄原子 を含むインド ール化合物であ り、全く新し いタイブの フ ァイ トア レ キシ ン であ る (図 1 )。―方 、アブラナ科 植物には、正 常成分としてグ ルコシ丿レ― トと称され る ―連 の含 硫 配糖 体 が多 数 含ま れており 、酵素加水分解 によりisothiocyanates を主 成分とするカ ラシ油を与 え るこ とが 知 られている。こ れらグルコシ 丿レ―トのう ち、インドー ル環をもつglucabrassicin(15) は、その 構 造的 特徴 か らインド―ルフ ァイトアレキ シンとの関連 が注目されて いる。申請者は アブラナ科植 物ファイト ア レキ シン の 全体像を理解す るために新規 ファイトアレ キシンを探索 し、さらにファ イトアレキシ ンの相互関 係 お よ び イ ン ド ー ル グ ル コ シ ノ レ ― ト と の 関 連 を 明 ら か に す る た め に 、 以 下 の 実 験 を 行 っ た 。
H Ri=H, R2=S: brasslnln (1) cyclobrasslnln (5) R1=OCH3, R2=S: methoxybrasslnln (2) Ri=H, R2=0: brassltln (3)
Ri=OCH:, R2=0: methoxybraultln (4) .
H
dloxlbrasslnln (6)
HON 6CH3
brasslcanal A (8)
CH3 R=pOCH::methoxysplrobrasslnol brasslcanal B {9) methyt ether (10)
H . splrobrasslnln (7)
R=o‑OH:methoxysplrobrasslnol (iia) R,p‑OH:methoxysplrobrarslnol (11b)
図1 ア ブラ ナ科 植 物フ ァ イト ア レキ シ ンと グル コ シノ レ ート の 構造
ハクサイ、ダイ コンのファイ 宀アレ羊シン の草廟rt ・欄 睦艶を定
レタ ス 腐敗 病 菌Pseudomonas cichorii を接 種 した ハ クサ イの ア セト ン 抽出 物 から 、前 述の3 種のイン ド― ルフ ァ イト アレキシン(1 ,2 ,5 )と共 に3 種の新規イ ンドールファ イトアレキシン を単離した。 NMR を中 心と した 各 種ス ペ クト ル から 各々 、その構 造を418 ,9 と決 定した(図1 )。この内、methoxybrassitin(4) は 先に 単離 さ れた 主ファイトアレ キシンmethoxybrassinin(2) の側鎖の構造 がdithiocarbamate からthiocarbam‑
ate に代わった ものであり、 brassicanal A(8) 及びB く9 ) は共に硫黄原 子を1 個有する ファイトアレ キシンであ
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同 様 な 方 法 に よ り 属 の 異 な る ダ イ コ ン か ら 、 既 に 単 離 さ れ た4種 の イ ン ド ー ル フ ァ イ ト ア レ キ シ ン(1, 2,4,8)と 共 に4種 の 新 規 イ ン ド ー ル 系フ ァ イ ト ア レ キシ ンく3,7|10|11a,b) を得た (図1) 。Spirobrassinin(7) は オ キ シ イ ン ド ― ル 型 の 最 初 のフ ァ イ ト ア レ キ シ ン で あ り、 そ の 構 造 上 の 特 微 か らbrassinin(l) よ り 生 合成 さ れ る こ と が 推 定 さ れ た 。Methoxyspirobrassinol(lla,b) は 単 離 不 可 能 な 平 衡 混合 物 で あ り 、 そ のmethyl ether 体10と 共 に 、 後 に 述 べ るジ オ ー ル 生 合 成 中 間 体 を 支持 す る 構 造 を 有 し て い た 。
フ ァ イ 宀 ア レ 羊 シ ン お よび グ ゅ コ シ ノ レ‑宀 の 起僻 変 化 .
ア ブ ラ ナ 科 植 物 の フ ァ イ ト ア レ キ シ ン の 生 成 と 代 謝 の 過 程 を 経 時 的 に 追 跡 す る た め 、 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー に よ る 分 析 条 件 を 詳 細 に 検 討 し た 。 そ の 結 果 、C18カ ラ ム と ア セ ト ニ ト リ ル . メ タ ノ ー ル・ 水 の 複 雑 な 濃 度 勾 配 法 を 組 み 合 わ せ 、 温 度 を 厳 密 に 制 御 す る こ と に よ り ,13種の イ ン ド ー ル 系 フ ァ イ ト ア レキ シ ン と 3種 の 関 連 イ ン ド ー ル 化 合 物 の 再 現 性 よ い 分 析 が 可 能 に な っ た 。 こ の 分 析 法 を 用 い 、 紫 外 線 を 照 射 し た カ ブの ス ラ イ ス に つ い て フ ァ イ ト ア レ キ シ ン の 経 時 変 化 を 追 跡し た 結 果 、brassinin(l) が 最 初 に 生 成 し た 後、cyclo‑
brassinin (5),spirobrassinin(7)が 次 第 に 増 加 す る こ と が 判明 し た 。 ま た 、 同 一 の サ ン プル に つ い てグ ルコ シノ レ ― ト の 分 析 を 行 っ た と こ ろ 、 紫 外 線 非 照 射 お よ び 紫 外 線 照 射 カ ブ ス ラ イ ス のど ち ら に お い て も | 脂 肪 族 系の グ ル コ シ ノ レ ― ト の 滅 少 に 伴 い イ ン ド ー ル 系 グ ル コ シ ノレ ー ト 、 特 にglucobrassicin(15) が 急 増 す る る こ と が 明 か と な っ た 。
7ブ ラ ナ 科 艫 勧フ ァ イFア レ 手 シ ン の 生合 成
次 に 、 先 の 経 時 変 化 及 び 構 造 上 の 特 微 か ら 推 定 さ れ る 主 フ ア イ ト ア レ キ シ ン の 生 合成 的 関 連 を 明 か に す る た め 、 童 水 素 で標 識 し たbrassinin(l) ,cyclobrassinin(5)及 びdioxibrassinin(6)の 取り 込 み 実 験を 試みた 。そ の 結 果 、cyclobrassinin(5)及 びspirobrassinin(7)は そ れ ぞ れ 独 立 にbrassinin(l) よ り 生 合 成 さ れる こ と が 判 明 し た ( 図2) 。 ま た 、 そ の イ ン ド ― ル 環 はL‑tryptophan由 来 で あ る こ と が 、 重 水 素 標 識 し たL‑tryptophanの取 り 込 み 実 験 か ら 明 か と な っ た 。 次 い で 、2位 を13Cで 標 識 し たDL‑tryptophanの 取 り 込 み 実 験 を 行 っ た と ころ 、 こ の 炭 素 原 子 は 転 位 反 応 に よ りspirobrassinin(7)の イ ミ ノ 炭 素 に 取 り 込 ま れ るこ と が 判 明 し た 。 こ の こ とは 、 こ れ ら イ ン ド ー ル 系 フ ァ イ 卜 ア レ キ シ ン が グ ル コ シ 丿 レ ー ト と 同 様 な 生 合 成 経 路 に よ り 合 成 さ れ る こ とを 強 く 示 唆 し て い る ( 図2)。
中 間 体 と し て 想 定 さ れ るindoト3‑ylmethyl isothiocyanate(16) は 不 安 定 な た め 未 だ 天 然か ら 単 離 さ れ た 報 告 は な い 。 そ こ で 、2つ の 方 法 に よ り 、 中 間 体 と し て の 存 在 を 検 討 し た 。 ま ず , メ タ ン チ オ ー ル の 存在 下 に カ プ を 粉 砕 し た とこ ろ 、 生 成 す る indol‑3‑ylmethyl isothiocyanate(16) がbrassinin(l)と して 捕捉さ れた 。次 に、
isothiocyanate中 聞 体 の モ デ ル 化 合 物 と し て 、 比 較 的 安 定 なbenzylisothiocyanateを 選 び 、 メ タ ン チオ ー ル 非 存 在 下 に 取 り 込 み 実 験 を 行 っ た と こ ろ 、 対 応 す る フ ァ イ ト ア レ キ シ ン PhCH2NH‑CS‑SCH3を 単 離 す る こ と が で き た 。
想 定 中 間 体16に メ チ ル チ オ 基 が 付 加 す れ ば 、 形 式 的 にbrassinin(l) が 生 成 す る 。 こ の メ チ ル チ オ 基 が methionineよ り 直 接 導 入 さ れ る こ と が 以 下 の 実 験 よ り 明 か と な っ た 。 即 ち 、L‑P5S]methianineとL‑[methyl‑
3H3]methioneの 混 合 溶 液 を 取 り 込 ま せ た 結 果 、 単 離 さ れ たbrassinin(l) とspirobrassinin(7)中 の3SS/3Hの 割 合 は 、 取 り 込 み 前 と 比 較 し て 顕 著 な 差 は み ら れ な か っ た ( 図2) 。 ま た 、 も う ー つ の 硫 黄 原 子 はL‑cysteine由 来 で あ る こ と が 、L‑e5S]cysteineの 取 り 込 み 実 験 か ら判 明 し た 。
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岬S −キ C02H
図 2 ア ブラ ナ 科 植 物 フ ァ イト ア レ キ シン の生 合成経 路
H
cyclobrauln:n (5) 鬮3
07)
最後 に、こ れら インド ール 系ファ イ卜 アレキ シン の多様 性を 説明す るた めに、 brassinin(l )からその他 のイン ドー ル系フ ァイ 卜アレ キシ ンへの 生合 成共通 中間 体を想 定し、モデル化合物の取り込み実験により中間 体の構 造の 情報を 得る ことと した 。2 位を メチ ル基でブ口ックした2‑methylbrassinin(12 )を合成し、紫外線を 照射し たカ ブに投 与し たとこ ろ、 側鎖の 転位 した化 合物 14 を得 た。化 合物 14 はピナ コー ル転位 より 生成した もの と 考 え ら れ、 これ よルジ オ― ル中間 体13 ( 或い はその 等価 体)の 存在 が推定 され た(図 3 )。 天然 体の 場合、 相当 するジ オ― ル中間 体17 ( 或い はその等価体)によりbrassinin (1 )からcyclobrassinin(5) 、spiro‑
brassinin(7) 等の生 合成 を合理 的に 説明で きる (図2 ) 。ま た、ダ イコ ンより 単離 された 10111 の 構造からも その存 在が 支持さ れる 。以上 、L‑tryptophan か らアブ ラナ 科植物 のフ ァイト アレ キシンへの経路は図2 の様に まとめ られ る。
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図3 2‑Methylbrassinin(12 )の取り込み実験
H 14
H N)C SCHa O
r―
――
――
―
―― L
、→
−
S ( 餌・
…
2
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Structures and Biosynthesis of Cruciferous Phytoalexins
( ア ブ ラ ナ 科 植 物 フ ァ イ ト ア レ キ シ ン の 構 造 と 生 合 成 )
植物が微生物に接触した際に、植物自身がファイトアレキシンと総称される抗菌性物質を産生・蓄積 する現象は植物の動的病害抵抗性の視点から重要視されている。アブラナ科には多くの重要作物が含ま れるが、 1986 年に当研究室よ ルブラシニンが報 告されるまで、こ の科のファイトアレ キシンは全く 知られていなかった。本研究は、アプラナ科植物ファイトアレキシンの全体像を理解する目的で新規フ ァイトアレキシンを単離、構造決定するとともに、生合成経路を明らかにしたものである。その主要な 内容および新知見を以下に要約する。
新規 アプ ラ ナ科 植物 フ ァイ トア レキシンの単1 と構造決定 Pseudonon8s ガcborii を接種 したハ クサイの 抽出物にっいて抗菌性物質を注意深く探索し、新たに3 種の新規インドール系含硫ファイトア レキシンを単離し構造を決定した。また、戸ピんルロ」イメを接種したダイコンから4 種の新規含硫ファイ トアレキ シンを単離し構造を 明らかにした。これらファイトアレキシンのうちspirobrassinin はオキ シ イン ド― ル 構造 を有 す る点 で、 brassicanalA およ びbrassicanalB は硫黄原子 を 1 個含む 点で、
methoxyspirobrassinol は生合成経路を示唆する構造を有する点で特に注目される。申請者は、これま でに共同 研究者とともにキャベツおよびカブから7 種の新規ファイトアレキシンを単離しており(参考 論文)、 これらの結果を総合 して、アブラナ科植物のファイトアレキシンがいずれも1 ないし2 個の硫 黄原子を含むインドール系化合物であり、アプラナ科植物が他の科とは構造的に全く異なるタイプのフ ァイトアレキシンを産生することを明らかにした。
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