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地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム ― 函館西高校の「探究 学びかたをつくる」の挑戦 ―

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(1)Title. 地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム ― 函館西高校の「 探究 学びかたをつくる」の挑戦 ―. Author(s). 中村, 吉秀; 山口, 好和; 藤島, 尚子; 石黒, 勝; 岡田, 敏嗣; 石崎, 洋志; 渡邊, 大地. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 10: 59-69. Issue Date. 2020-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11188. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第10号. 特集2. 地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム ― 函館西高校の「探究 学びかたをつくる」の挑戦 ― 中村 吉秀*1・山口 好和*2・藤島 尚子*3・石黒 勝*3 岡田 敏嗣*3・石崎 洋志*3・渡邊 大地*3. 1.問題と目的 2022年度からスタートする高等学校の学習指導要領では、旧来の「総合的な学習の時間」が「総合 的な探究の時間」へと改称された。小・中学校でも呼称はそのままだが、趣旨に「探究」の要素が盛 り込まれている。これらを見ても、幼児期から小・中学校、高等学校を経て大学以降の教育機会に至 るまで、新しい学びの姿に「探究」の柱を貫こうとする意図が明らかである。 まず『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編』 (以下、 『解説』 )から、 何を強調しているのかを拾ってみよう。 改訂の経緯として、 「横断的・総合的な学習とすることと同時に,探究的な学習や協働的な学習と することが重要」であり、 「特に,探究的な学習を実現するため, 『①課題の設定→②情報の収集→③ 整理・分析→④まとめ・表現』の探究のプロセスを明示し,学習活動を発展的に繰り返していくこと 「自己の在り方生き方を考えながら、 を重視してきた」とある(1)。そして『解説』8、9ページでは、 よりよく課題を発見し解決していく」の部分に下線を引き、小中学校との違いについて強調されてい る。ここから、自らの生き方と不可分の課題解決活動を、期待していることがわかる。その上で「質 の高い探究」が何を意味するのかについて、 「探究の高度化」と「自律的に行われる探究」の2点を 挙げている。 今回の改訂では、 「古典探究」 「世界史探究」 「理数探究」の科目設置が典型的に示すように、複数 の教科において「探究活動」を実施することが期待されている。それと並行して、 「総合的な探究の 時間」が設置されることの意味が、次の3点で述べられている。1つには学習の対象・領域が横断的 総合的なこと、2つには複数教科の「見方・考え方」を総合的統合的に働かせること、3つ目として 複雑な課題や「最適解」を探るような社会課題を対象とすることである(2)。目標(表1)を読んで一 目瞭然なのは、どの教科においても「○○の見方・考え方を働かせ,○○を通して,○○の資質・能 力を次のとおり育成することを目指す」というフォーマットが貫徹されていることである。 そのような様式が含む政策の理念・期待についてはさまざまな解釈ができるが、確かに広い意味で の「様式」を共通化することで、教科や領域を跨ぐ資質・能力の育成へと教育関係者の意識を向けや すくなるだろう。また逆に、そのことが個々の教科や領域の存在価値、成果を確かめる機会にもなる のではないだろうか。 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教育実践専攻)函館. *2. 北海道教育大学函館校 国際地域学科地域教育専攻. *3. 北海道立函館西高等学校 探究部等. 59.

(3) 中村 吉秀・山口 好和・藤島 尚子・石黒 勝・岡田 敏嗣・石崎 洋志・渡邊 大地. 表1 新指導要領「総合的な探究の時間」の「目標」 第1 目標 探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学. そして 「総合的な探究の時間」 の場合には、 〈横断的・総合的な学習〉を通して〈自己理 解と課題解決〉の資質・能力を育成すること. 習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えな. がねらいとされる。たとえば林ほか(2019). がら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・. でも、 「探究や課題研究を支える要素」とし. 能力を次のとおり育成することを目指す。. て「批判的思考」 「メタ認知」 「心の理論」を. (1)探 究の過程において,課題の発見と解決に必. 挙げている(3)。つまり「探究」を経験した生. 要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる 概念を形成し,探究の意義や価値を理解する ようにする。 (2)実 社会や実生活と自己との関わりから問いを 見いだし,自分で課題を立て,情報を集め, 整理・分析して,まとめ・表現することがで きるようにする。 (3)探 究に主体的・協働的に取り組むとともに,. 徒自身は、どのようにメタ認知の力を伸ばせ るのか、どんな批判的思考枠組みを身に付け られるのか、という「自己理解」のアングル で意義が語られている。ただ学びの意義は、 必ずしも個々の生徒の内面だけでなく、ある 問題について思考する生徒間や、教師・生徒 の立場にかかわらず話題や空間を共有する構. 互いのよさを生かしながら,新たな価値を創. 成員それぞれで生じうる。 あえて違う角度で、. 造し,よりよい社会を実現しようとする態度. 「総合的な探究の時間」の意義に思いを馳せ. を養う。. てみよう。 まず、科学リテラシーの向上によって、社 会問題への対応力が高まる。それは社会的コ ストの軽減にも通じる。近年頻発する災害や 健康不安など、生活上のリスクに冷静に対応 できる教養の習得に寄与できるだろう。2つ めに、学校内外での物理的なコミュニケー ション量の増加が、質の向上へと通じる可能 性をひらくはずである。追究問題の設定から 情報の収集・整理、発信を経て次の課題獲得 へと進むサイクルで生じる複数のコミュニ ケーション機会が、 「良質な情報活用」の関 心や経験値を高めてくれる。3つめには「地 域課題」をひとつの媒介項として、教員の生 徒理解(の手段)が進展することである。地 域との連携によって探究活動を進めること で、生徒の課題追究支援を通じて生徒の思考 や関心を教員自身が多面的に把握できる。 「高 大接続」が制度レベルだけでなく学習指導法. 図1 『解説』で示されるカリキュラム構造図. や教材レベルで接合するためには、高校での 「探究」を充実させるのが好ましい。これは. 「アカデミックライティング」に代表される大学の初年次教育のあり方へとつながる課題である。 このような青少年の資質・能力の育成と、2030年代の日本社会が抱える課題解決に向けたアプロー チ、地域社会の持続可能性などを考えた場合、高校における「探究」カリキュラムのあり方はとても 60.

(4) 地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム. 重要な意味を持つ問題である。 そこで本論では、北海道函館西 高校が取り組み始めた「探究」. 到達目標 探究の学習をはじめとして、教科の授業、特別活動、部活動などす べての学習や活動を通して北海道函館西高等学校の3年間で身に付け. における学びの姿から、実践的. てほしい力は次の5つです。. な課題を見出していきたい。. ●自己開示力:自分を知り、学ぼうとすることができる ●課題設定力:疑問を持ち、課題を見出すことができる. 2.西高等学校が目指す「探 究」の目標と活動像. ●段 取 力:先を見通して、物事を勧めることができる ●思 考 力:要点をつかみ、多面的多角的に考えることができる ●発 信 力:状況に応じて、わかりやすく伝えることができる. 函館西高校では、「探究」を 中核として、高校で形成したい 資質・能力を表1のように捉え ている(『探究テキスト2019 HOP 1年次前期 「学び型」 をつくる』からの抜粋) 。さら に全体を見通した「探究アウト ライン」を設定している。これ は高校3年間を、 「1年次前期」 「1年次後期~2年次前期」 「2 年次後期~3年次前期」 「3年 次後期」の4つに分け、それぞ. 図2 函館西高校が示す目標と「アウトライン」 (テキストp.4より抜粋). れ【HOP】、 【STEP】 【JUMP】 、 、 【CHALLENGE】 と学びの段階を設定し、 生徒たちに取り組みやすい環境をつくっていた。同時にルー ブリックも示されており、生徒・教師の双方にとって考えるための手掛かりとなっている。 表2 「卒業までに身に付ける5つの力のルーブリック」(テキストp.5、体裁のみ一部変更) 探究の 過程. 段階力. ☆. ☆☆. ☆☆☆. ☆☆☆☆. 探究の 始まり. 自己開示力. 自分を高めたいという気 持ちがある. 自分の長所を理解しよう としている. 自分の長所を理解し長所 を伸ばすために積極的に 学ぼうとしている. 自分の長所と他人の長所 を理解し、協同的に学ぼ うとしている. 探究の 課題設定. 課題発見力. 日常生活で「なぜ?」を 感じることができる. 感じた疑問に対して仮説 を立て、解決する方法を 考えることができる. 感じた疑問を探究の過程 に則って、論理的に考え ることができる. いろいろな立場や方向か ら考えを深め、新たな疑 問を持つことができる. 段取力. 物事や行動の結果を、考 える習慣が身についてい る. よりよい結果を出すため に、どのような段取りで 進めるべきなのかを考え ることができる. よりよい結果を出すため に、段取りよく物事を進 めることができる. 状況の変化に対応して、 目的を達成するために段 取りよく物事を進めるこ とができる. 思考力. 相手の発信を受け止めな がら、要点を整理するこ とができる. 相手の発信から、自分の 考えと比較・整理しなが ら受け止めることができ る. 相手の発信を受け止め、 自分の考えを振り返りな がら深めることができる. 多様な価値観を受け止 め、自分の考えを再構築 することができる. 発信力. 情報を整理し、問題点や 課題をみつけ伝えること ができる. 情報を整理し、、自分の 考えを組み立てて伝える ことができる. 自分が伝えたいことを、 わかりやすく工夫して伝 えることができる. 相手の立場に立って、状 況に応じて相手が理解し やすいように伝えること ができる. 探究の 調査. 探究の まとめ. 探究の 発表. 61.

(5) 中村 吉秀・山口 好和・藤島 尚子・石黒 勝・岡田 敏嗣・石崎 洋志・渡邊 大地. 3.導入の経緯:「探究」を軸に学校をつくる 3-1.「探究」学習導入の背景と新設校のコンセプト 本章では、函館西高校におけ る「探究」カリキュラムの構想 から実施にいたる経緯につい て、簡単にまとめておきたい。 2019年4月に、旧函館西高校 と函館稜北高校が統合され、校 名は「函館西高校」 を引き継ぎ、 全日制単位制普通科として開校 した(6学級240名) 。両校の教 員で構成された統合推進委員会 で、統合新設校のあり方につい て検討を重ねてきた。 そこでは、. 図3 学校統合時の「探究」コンセプト. 新設「函館西高校」の基本コン セプトとして、 「探究」を軸にした学校づくりを進めることとした。そのことによって両校の学校評 議員、PTA会長、 同窓会長等からの 「これまでの両校のよいところを活かした学校つくりを期待する」 という要望にも応えることができると考えた。 函館稜北高校では、道や国の研究指定校として10年間にわたって「探究の技法をベースにしたアク ティブ・ラーニング(当時は“協同的な学び合い”と呼んでいた) 」の実践を積み重ねてきた。これは、 総合的な学習の時間を中心に、探究の技法を学ぶことでベースをつくり、各教科・科目のアクティ ブ・ラーニングで活かす実践である。しかし、函館市の郊外に近い立地ということもあり、稜北高校 では、地域に出て活動を行うという点では課題があった。一方、函館西高校では、函館市の旧市街の 中心にあり、徒歩や市電・バスで企業や施設等に出かけることができ、キャリア教育として地域の社 会人の方々との交流を進めていた。この実践は、文部科学省から平成30年度教職員実践表彰を受賞し ている。 この両校の統合による新設校では、 「アクティブ・ラーニング」と「地域」を核にして、両校のこ れまでの実践の良いところを引き継ぐことで、新学習指導要領の目指す「探究」を実現できるのでは ないかと考えた。新学習指導要領の目指す「探究」では、考えるための技法を習得して違う場面でも 活用できることが求められている。その上で、地域の課題等を自分事として考え、最終的には自分の キャリアをデザインする力を身につけることが求められている。まさに、両校のこれまでの実践を組 み合わせることで、 「探究」が実現できると考え、教育活動の中心に「探究」を置くこととした。こ れにより、学校教育目標、育成を目指す資質・能力、分掌再編、校章・校歌の作成、総合的な探究の 時間等の共通のコンセプトとなった(4)。 3-2.統合に至るまでの両校の実践 函館稜北高校では、単一教科での実践ではなく、 「総合的な学習の時間」を実践研究の中心とした ことで、全教員が係わる実践を進めていた。この実践は「Wisdomプロジェクト」として、研究指定 元が変わっても継続された。実践は「Wisdomプロジェクト委員会」が中心となり、各分掌・学年を 62.

(6) 地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム. 調整・整理することで推進していた。各分掌・学年の隙間を埋めてつないでいくイメージであり、委 員会であっても校務運営会議にも参加していた。総合的な学習の時間では、 最初に「思考ツール」(思 考スキル、または考えるための技法)を学び、グループ学習のベースをつくる。このベースがあるこ とにより、各教科・科目でのアクティブ・ラーニングができる。総合的な学習の時間から各教科・科 目へという流れを構築したことが、函館稜北高校の実践の特徴である。この実践については、統合の 前から函館西高校の各教科の先生方が視察に訪れ、函館西高校の総合的な学習の時間にも取り入れら れていた。 函館西高校の総合的な学習の時間でのキャリア教育の取組は、地域の社会人の方々の協力で、生徒 たちがたくさんの大人と交流する機会があり、成果をあげていた。2年生の「ワールドカフェ」で は、生徒6人くらいのグループに1人の社会人の方が入って、1つのテーマについて(道南地域の活 性化について等)対話をするという取組を行っていた。そこで出た企画を同窓生の支援を得て、「函 館クリスマスファンタジー」の企画として実行するということもあった。その他にも、 「キャリア教 育講演会」として地元で活躍する方のお話を聞く機会をもったり、企業訪問をしたり、地域の経済界 の協力を得ていた。また生徒会主催で、全校生徒が入り交じって対話するシンポジウムや、3年生が 1・2年生に進路希望を話す機会が総合的な学習の時間で設けられるなど、これを「探究」としてブ ラッシュアップする素地はできていた(5)。したがって、統合後の「探究」の基本コンセプトを全くの ゼロから作り上げるというよりは、 両校のこれまでの良いところを整理・統合したというものであった。 3-3.活用できる資質・能力: 「学び型→学び形→学び方」をつくる 3年間の総合的な探究の時間は4段階に分けて設定した。 【HOP】 (1年次前期)→【STEP】(1 年次後期~2年次前期)→【JUMP】 (2年次後期~3年次前期)を経て、 3年次後期の【CHALLENGE】 へとつないでいく。【HOP】では探究の基礎として「学び型」をつくる。探究活動のための思考、調 査、整理・分析、発表のための技法や手段の「型(Model) 」を身につける。具体的には、思考スキ ル(考えるための技法)を学び、 「学校の周りを探究しよう」という単元で、各自の興味・関心ごと にグループに分かれ、地域に出て行って話を聞いたり、調査を行ったりという活動を行い、まとめて 発表するという一連の活動を体験した。【STEP】の段階(1年次後期~2年次前期)では「学び形 (Form)」として、地域をフィールドに実践を進め、課題の設定等の探究の実践をグループで行うこ とで、実践的な探究を体現し、自分のものとしてどこでも探究の技法を応用できるようにする。活動 としては、地域の課題から自分なりの提言ができるようになることを目標としている。さらにこの活 動を通じて、協働や自分の将来についても考えを深めることを目指したい。 【JUMP】では「学び方 (Style) 」として、個人課題研究として探究を深め、自分の将来の在り方・生き方を考える機会と し、自分の「学び方」をつくることを目指す。そして最後の【CHALLENGE】は各自の進路目標に 向かって取り組むことで、キャリアをデザインできる力を身につけていくことを目指している。現 在、 【STEP】の段階まで学習が進み、学校教育目標の育成を目指す資質・能力のルーブリック評価 において生徒による自己評価を行っている。育成を目指す資質・能力として、自己開示力・課題発見 力・段取力・思考力・発信力の5つを設定している。このうち、 【HOP】ではあまり取り組んでいな かった「課題発見力」と「発信力」の自己評価が低く、 次の【STEP】段階での課題として見えてきた。 3-4.推進のための体制づくり 探究を推進するために、 分掌として新たに「探究部」を設立した。これは函館稜北高校の「Wisdom 63.

(7) 中村 吉秀・山口 好和・藤島 尚子・石黒 勝・岡田 敏嗣・石崎 洋志・渡邊 大地. プロジェクト委員会」をイメージし、委員会という位置付けの弱点を取り除くために独立した分掌と して立ち上げた。「Wisdomプロジェクト委員会」の弱点として、分掌ではないので、委員は何かし らの分掌に所属しているという点があった。この委員会の設立時には、いろいろな分掌の先生方が入 ることで、分掌や学年の隙間を埋めて調整する役割が果たしやすいというメリットがあった。しかし、 年が経つことで、権限が不明確になり分掌ではないことによる曖昧さがメリットからデメリットへと 変わっていったことは否めない。 新設校である函館西高校の「探究部」は、総合的な探究の時間の企画運営と、探究活動に係わる各 分掌・年次の調整の役割がある。本来、校務分掌であれば探究部長の下で、各学年に部員を配置しな ければならないところだが、初年度の今年は教員数がまだ少ないため、1年次主任と探究部長を兼務 し、全学年・年次に教員を配置することはできていない。探究部長は、 「実際に総合的な探究の時間 の授業を担当する先生方がやりやすいようにコーディネートする」をこと意識して取り組んでいる。 分掌としたことで、毎週の「総合的な探究の時間」のカリキュラムをワークシートと授業案の作成ま での担当が明確になっている。また、他校の実践についての情報収集と研修会での周知、中学校への 説明も探究部の役割としている。初年度の配置人数が4名であるので、仕事量が多かった点は反省点 であるが、担当者の献身的な働きにより、役割は果たせている。今後は、担当者の働き任せではなく、 人員配置から役割分担まで組織体制として整備していくことが課題である。 3-5.西高版「探究」今後の展開にむけて 「総合的な探究の時間」の取組は全体の指導計画の中に位置付けられおり、教員用テキスト「HOP 編」, 「STEP編」を作成し、単発のイベントで終わることはないようにしている。生徒たちは、単元 ごとに振り返りを行い、身につける5つの資質・能力のルーブリック評価で成長を追いかけている。 しかし、毎時間の取組が全体としてどのようにつながっていくのかというイメージの共有と理解はま だ十分ではない。探究部長の言葉を借りれば、 「3年間かけてできていくものだから、長期的な視点 も必要」なのだと言える。 現在、「総合的な探究の時間」を補うようにして、1年次の「情報」の授業において、思考ツール やグループ学習の手法に取り組んで成果をあげてきている。これを他の教科・科目でもグループ学習 のトレーニング場面として活用して、 より一層授業改善に取り組む必要がある。教員集団も 〈探究的〉 になることで、将来にわたって活用できる力を生徒に身につけさせたいと考えている。. 4 「探究」での学びの様子 4-1.1年次前期【HOP】で生徒が抱いた実感 ここでは今年度実施された「探究」活動で、生徒がどんな意識をもって学びにむかっているのかを 部分的だが確かめてみたい。 まず、4月から9月までの 「探. 表3 前期【HOP】の主な活動. 究」の授業は、進路指導と横断. ・4月26日(金)探究 HOP段階のガイダンス . する形で取組が展開していた。. ・5月17日(金)グループ活動の型【敬意・対等・否定しない・. 生徒たちは、かなり時間をかけ. 傾聴スキル(演習)・ワールドカフェ(映像)】. ながら、調べ方・整理の仕方等 のスキルも身に付け、学びを深 64. ・6月25日(火)身近な人の職業調べについて ・9月11日(水)「身近な人の職業調べ」発表・交流.

(8) 地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム. めていたと思われる。 さらに、生徒たちの一部に「身に付けたい力」についてどのような展望を持っているのか自由記述 形式で尋ねてみた(2019年6月実施) 。表4に示したものがその回答の一部である。 「語彙力」 「会話」 「文章に書き表す力」といった具体的な記述内容から、前向きな様子がうかがえた。 表4 1年4組の生徒による「身に付けたい力」への期待(一部) ・1つのことについて深く考えてまとめる力を身につけたいと思います。 ・今後、社会を知るためには,本とニュースとか新聞を見なきゃだめだなって思いました。探究の時間で は、語彙力の向上、意欲の向上、発言力を身につけたいです。 ・私は、今回の新聞の活動を通して、自分の気持ちを言葉にして相手にどう伝えるか、とても難しかった と思いました。私は普段から難しい言葉も使わないし、自分の気持ちを相手に伝えられません。すんな り会話もできないし、手ぶり身振りを使って会話をするので、今回の活動は本当に大変でした。なので、 この「探究の時間」で「相手に自分の気持ちを言葉で伝える力」を身に付けたいです。普段、気持ちを 伝えられないように、しっかりとこのような力を身につけ、相手を困らせたり、疲れさせたりしないよ うにしたいです。また、「人前ではきはき発言する力」も身につけていきたいです。 ・私はあまり自ら発言したり、人前で意見を言ったりすることが苦手なので、3年間でそれらのことを苦 手なものではなくしたいです。そして、私はこの時間のような文章を書くことは好きなので、自分の考 えをそのまま文字にできるような文章能力をもっとつけたいです。 ・自分の思っていることや意見が率直に文章に書き表す力をつけたいなと思っています。今回の活動で も、新聞についての自分の意見をうまく書けずにとても時間がかかってしまったので、そのような能力 を探究の時間で身につけることができればなと思いました。. 4-2.「生徒自己評価」での結果と後期【STEP】にむけて 図4は、「育てたい資質・能力」について、生徒の「自己評価」を学校が自主的に調査したもので ある。全く同一の項目と尺度を用いて、 4月当初と10月初旬に実施をした。ごく大まかな傾向として、 以下の点が指摘できる。 まず、すべての項目について得点の上昇が見られる。つまり生徒の自己評価が高くなったことがわ かる。項目間の「伸び方」に違いはあるものの、得点の減少した項目は見られない。次に、項目のう ち上昇の幅が比較的大きいものは「自己開示力」 「発信力」である。一方で「伸び」が他に比べて小 さいものは「課題発見力」である。これは「探究」 【HOP】での学習が、まず思考ツールの利用や新 聞記事の分析読み、地域からの情報取材とまとめ、という体験・発信を重視した活動であることをき れいに反映したものだと解釈できる。 「探究」活動やその他の学校行事などを経て、 「自己開示力」「発 信力」などの自己評価がわりと容易に高められるのであれば、 以降のカリキュラム展開を「課題発見」 や「思考力、段取力」のトレーニングへと重点化できるだろう。もう1つ議論の価値がある点とし て、 【HOP】段階では、地域での取材を除けばクラスごとの活動が多くを占めていた。しかしこの「生 徒自己評価」の結果を見れば、同一項目の中でクラス間のばらつきが若干見受けられる。これはむし ろ、チームによるカリキュラムづくりを継続する上では、議論の好材料となるように思われる。生徒 の学習成果物や交流時のやりとりなどを手掛かりに、同じような学習課題・学習形態でも生徒によっ てどのような受け止め方の違いがあるかなどを、担当教員間で共有していくことが大切であろう。 ちなみに、2019年度秋季以降の「探究」カリキュラム( 【STEP】段階)については、以下のよう な学習が計画されている(各項目約50分で実施、前期報告会のみ100分を予定) 。 65.

(9) 中村 吉秀・山口 好和・藤島 尚子・石黒 勝・岡田 敏嗣・石崎 洋志・渡邊 大地. 図4 生徒による「育てたい資質・能力」への自己評価結果(4月、10月実施). ・前期反省自己評価+STEP段階ガイダンス(体育館) ・学校の周辺を探究しよう:クラス発表会(各教室) ・学問調べガイダンス(体育館) ・学問調べ作業1:各クラスワークシート記入 ・学問調べ作業2:各クラスワークシート清書提出 ・学問調べ作業3:ポスター制作 ・学問調べ作業4:ポスター制作 ・学問調べ作業5:発表練習+配付資料帳合 ・学問調べクラス発表会1 ・学問調べクラス発表会2. 図5 前期の成果報告会の様子(10月8日). 生徒にとって、自己を見つめ、自分の未来を構想し、その達成に向けての課題発見は、頭で理解で きていても、なかなか「これだ!」と1年生が把握することは難しいとも予想されるが、何を利用し てどのような整理を行っているのか、教員側で分析的に読み取ることが望まれる。. 5. 「探究」カリキュラムを支える教員間の学び合い 最後にカリキュラムを継続的に運営して成果を確認するための教材づくり、組織づくりについて、 簡単に論点をあげておきたい。 1つめは、生徒の学びに対する実感や達成感をどのような学習環境で支援するのかである。生徒の 学習(探究活動)が進むにつれて、どのような支援が必要になるのか、探究テーマが多岐にわたるほ どに難しい問題になる。とりわけ初期段階では、後の課題探究にむけての思考スキルや達成感を多く 66.

(10) 地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム. 得ることが好ましいだろう。 たとえば池田ら(2019)は、 「実践ワークブック」の中で生徒が安心感を得るための活動とテンプレー トを豊富に用意している。同級生へのインタビュー( 「他己紹介」 ) 「私の履歴書」 、 作成、 「エゴグラム」 による自己の性格分析、名刺作成、一人暮らしの生活シミュレーションなど、 「私が私であること」 を存分に安心・自覚させる手立てが盛り込まれている。また鈴木ほか(2019)の提案では、課題図書 のブックトーク、ディベート練習、図書資料にもとづく情報カード作成、研究テーマのブレーンストー ミングなど、いわゆる学術論文作成の基礎をたどる形で「探究」教材が提案されている(6)。函館西高 校では、個々のバインダーに学習成果が蓄積されている。 どのアプローチを採るのかは、学校事情に即 して工夫がなされるべきだが、とりわけ地域と の連携を視野に入れた場合、学校周辺のリソー スを盛り込んだ形の「思考ツール」が生徒とと もに作成できると、以降の学年へと継承できて 好循環を生む可能性が高まる。函館稜北高校で の実践から蓄積されてきた「思考ツール」につ いては、たとえば塩谷(2016)や高見ら(2019) などを参考に、まさしく「ツール」として日常 生活で使いこなすための選択肢を増やすことが 求められる(7)。地域を重視した学びについては、 村松・渡邉(2019)が紹介する高校教育数事例. 図6 西高探究部、教育大教員との学習会. のうち、東京都立高島高校や愛媛県立長浜高校. (2019年8月初旬). (8). の実践が参考になるだろう 。 2つめは、学びの成果をどのような手段で確かめるのかである。上述のように、函館西高校の「3 年間で付けたい力」 は5つの項目で明瞭に示されているので、 理屈の上ではその習得に向けて 「PDCA」 を回せばよい。しかしカリキュラムが扱う内容量や活動の形式が多様になるほど、成果を確認する術 は複雑になる。俗にいう「アンケート調査」でも、 活動の質が高まれば「なぜそのように感じるのか、 言えるのか」に焦点をあてる必要が生じる。さらに、すべての教育活動が明瞭な「エビデンス」でス マートに説明できるとは限らない。 「探究」カリキュラムの進行と並行して得られた情報を、生徒の どんな活動・成果と関連付けて解釈するのか、関係教員のどんな取り組みと重ねて価値を確かめるの か、時には「アブダクション(仮説形成) 」あるいは「物語」としてのカリキュラム評価も求められる。 保護者の理解度や意識の把握、訪問調査先の反応、地域の関係団体によるデータ収集・分析などを通 じて、「探究」のカリキュラムを多面的・継続的に解釈する取り組みが必要となろう(9)。 3つめは推進体制の問題である。カリキュラム運営に無理が生じないような継続的な組織づくりに は、そのしごとの価値を認めるための分析枠組みも必要となる。たとえば近年の学校経営分野で注目 されている「分散型リーダーシップ」理論では、 「総量モデル(校長の変革的リーダーシップが部下 のリーダーシップ行使に影響を重要な及ぼすなど) 」と「実践モデル」 (リーダーシップを地位に付随 して与えられる役割ではなく,リーダー・フォロワー・状況の相互作用の構成物としてみなす)があ るとされる(溝口 2011)(10)。「探究」活動のように、都度の地域課題を取り込み、教員間の共同性に 頼ることが大きい授業づくりには、後者の「実践モデル」利用がふさわしいだろう。菅原(2016)は 中学校での実践を「実践モデル」で分析して、新しい学校経営の姿を描こうとしている(11)。扱う実 67.

(11) 中村 吉秀・山口 好和・藤島 尚子・石黒 勝・岡田 敏嗣・石崎 洋志・渡邊 大地. 図7 「分散型リーダーシップ:実践モデル」による実践活動の分析例(菅原 2016). 践の単位がやや細かすぎるようにも見えるが、この視点・分析枠を「探究」カリキュラムのPDCAに 応用することはとても重要に思える。 こうした議論のポイントを踏まえながら、現在「探究」活動を通じて日々刻々と得られる情報の分 析と意味理解を継続していきたい。 注および参考文献 (1)文部科学省(2018) 『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編』p.6 (2)前掲書 p.10 (3)林創・神戸大学附属中等教育学校 編著 (2019) 『探究の力を育む課題研究 中等教育における新しい学びの実践』 学事出版 pp.10-46 (4)廣瀬志保(2019) 「『探究』を軸に学校をつくる」『月間 高校教育 2019年10月号』pp.64-67 において、教員、 生徒の声が読みやすくレポートされている。 (5)以下で、教科・領域をこえて生徒の学びを支える函館稜北高校での実績紹介がなされている。次期学習指導 要領が求める方向を先取りした事例と考えてよい。稲井達也(2019) 「カリキュラム改革による学校づくり」 『高 校授業「学び」のつくり方 大学入学共通テストが求める「探究学力」の育成』東洋館出版社 pp.114-129 (6)鈴木俊裕 編(2012) 『高校生のための「研究」ノート 総合的な学習・課題研究で育む新たな学力』学事出版、 および、 池田靖章 編著(2019) 『 「総合的な探究」実践ワークブック 社会で生き抜く力をつけるために(第2版) 』 学事出版 を参照のこと。 (7)塩谷京子 編著(2016) 『すぐ実践できる情報スキル50 -学校図書館を活用して育む基礎力-』ミネルヴァ書 房 および、高見京子・稲井達也(2019) 『 「探究」の学びを推進する高校授業改革 学校図書館を活用して「深い 学び」を実現する』学事出版 pp.67-102や、岩波ジュニア新書編集部(2019) 『ホンキのキホン 岩波ジュニア新 書読書ガイドブック』に所収の実践紹介(宮崎三喜男「 『お薦め新書発表』授業」 (pp.23-25) 、片岡則夫「『新書 回転寿司』-中学生が知識の扉をひらく-」(pp.26-28))を参照のこと。 (8)村松灯・渡邉優子(2019) 『 「未来を語る高校」が生き残る アクティブ・ラーニングのその先へ』学事出版 に「事例⑴高校生のアイデア!高島平に『にぎわい』を取り戻すために」 (東京都立高島高校・大畑教諭 pp.138-147) 、 「高校生が地域と学校を活性化する」 (愛媛県立長浜高校水族館部・重松教諭 pp.107-117)の実践 紹介がある。 (9)最近のものでは、樋田ら(2018)の報告に高校の教育課程に沿って分析を行った事例が紹介されている。樋 田大二郎・樋田有一郎(2018) 『人口減少社会と高校魅力化プロジェクト 地域人材育成の教育社会学』明石書店 (10)露口健司(2011) 「学校組織における授業改善のためのリーダーシップ実践:分散型リーダーシップ・アプロー チ」 『愛媛大学教育学部紀要』第58巻 pp.21-38 (11)菅原至(2016) 「分散型リーダーシップ実践に着目した学校改善に関する研究」 『学校教育研究』31巻 pp.74-87 を参照。このほかに、次の論考なども参考になる。菊地均(2018) 「『チーム学校』としての意識のもと、主体 的に学校運営に参画する教職員の育成」 『宮城教育大学紀要』52巻 pp.297-312、中西美香(2018)「学校改善を志. 68.

(12) 地域と校内でともに支え合う「探究」カリキュラム. 向する学校組織のあり様に関する一考察:先行研究のレビューからの展望」 『佐賀大学大学院学校教育学研究科 研究紀要』Vol.2 pp.166-181. 69.

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