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刑法における中止未遂の研究

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Academic year: 2021

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全文

(1)

刑法における中止未遂の研究

著者

伊藤 真里

33

発行年

1997

(2)

学 位 の 種 類

学 位 記 番 号

学位授与年月 日

学位授与 の要件

研 究 科 ・専 攻

学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員

士(法

学)

法 博 第33号

平成10年3月25日

学位規則第4条 第1項 該 当

東北大学大学院法学研究科

(博士課程後 期3年 の課程)公 法学専攻

刑法 におけ る中止未遂 の研究

(主査)

助教授

論 文 内 容 の 要

我 が 国 に お い て は 、 犯 罪 の 実 行 に着 手 した に もか か わ らず 、 自己 の 意 思 に よ り そ れ を 中 止 し た 場 合 に は、 必 要 的 減 軽 又 は 裁 量 的 免 除 に処 す る こ とが 認 あ られ て い る(刑 法43条 但 書)が 、 ドイ ツ や フ ラ ン ス に お い て は、 不 処 罰 と さ れ る。 本 論 文 は 、 こ の 中 止 未 遂 規 定 の存 在 根 拠 及 び 体 系 的 地 位(中 止 未 遂 の 本 質)に 対 して 、 ドイ ッ刑 法 理 論(立 法 、 学 説 及 び判 例)な ど を も参 照 しな が ら本 格 的 な考 察 を 加 え て い る。 旧 来 、 中 止 未 遂 に対 す る減 免 に っ い て は 、 犯 罪 論 体 系 上 、 未 遂 犯 の 違 法 性 も し くは 有 責 性 或 い は そ れ ら両 者 が 減 少 ・消 滅 す る た め に減 免 され 得 る と説 く 「法 律 説 」 に対 して 、刑 事 政 策 的 理 由 に よ り減 免 さ れ 得 る もの とす る 「刑 事 政 策 説 」 が 有 力 に主 張 さ れ て き た。 本 論 文 は、 中 止 未 遂 の 成 否 の 判 断 にお い て刑 事 政 策 的 考 慮 が 有 用 な判 断 材 料 た り得 な い の で は な い か と の問 題 意 識 か ら、 刑 事 政 策 説 を批 判 的 に検 討 した上 で 、 中止 未 遂 の本 質 と整 合 性 を 有 す る 中止 未 遂 の成 立 要 件 の 解 釈 を提 示 す る こ とを 目的 と し て い る。 本 論 文 は、 ま ず 第 一 章 に お い て、 問 題 の 所 在 及 び考 察 の 視 座 ・方 法 を示 した 上 で 、 第 二 章 に お い て は、 刑 事 政 策 説 の 理 論 的 系 譜 を 、 我 が 国 に お け る 旧刑 法 下 の学 説 や、 これ に対 して少 な か ら ぬ 影 響 を 及 ぼ した ドイ ツ及 び フ ラ ン ス の理 論 を素 材 に して 探 求 して い る。 そ こで は、 中 止 未 遂 を 犯 罪 論 体 系 の 内 部 に お い て 説 明 す る こ との 困 難 さ を 自覚 す る、 い わ ば 消 極 的 な 刑 事 政 策 説 が 支 持 を 集 め て い た との 傾 向 を指 摘 した 上 で 、 と く に ドイ ツ に お い て は、 中 止 未 遂 を め ぐる議 論 が 中 止 一54一

(3)

未 遂 と未 遂 犯 と の 関 係 の 解 明 に 重 点 を 置 い て きた 状 況 が 、 フ ォ イ エ ル バ ッハ を 中 心 に して 理 論 史 的 に 実 証 的 に 跡 付 け られ て い る。 第 三 章 に お い て は、 ドイ ッの 判 例 理 論 に お け る 刑 事 政 策 説 の 系 譜 と最 近 の 動 向 に っ き綿 密 な 考 察 を加 え 、 そ こで は、 刑 事 政 策 説 が 司 法 実 務 に お い て 果 た して き た役 割 に っ き、 帝 国 裁 判 所 以 来 ドィ ッ の 判 例 が 、 中止 未 遂 の成 否 を判 断 す る際 に刑 事 政 策 説 を 採 用 して き た との結 論 を導 出 して い る。 な か で も第 三 節 以 下 で は、 中止 未 遂 論 に お い て 極 め て 重 要 か っ 難 解 な論 点 で あ り続 け て き た 問 題 、 例 え ば 、 行 為 者 が 当 初 の 行 為 目 標 を達 成 した と の 理 由 か ら更 な る行 為 を 中 止 し た場 合 に 中 止 未 遂 の成 立 を 認 め 得 るか 否 か と い う問 題 、 並 び に、 行 為 が 失 敗 に終 わ っ た こ とか ら中止 した 場 合 及 び 行 為 者 が 失 敗 した と考 え て 中 止 した場 合(い わ ゆ る失 敗 未 遂 の 事 例)に 中 止 未 遂 の 成 立 を 認 め 得 る か 否 か と い う問 題 に 対 して 、 詳 細 に分 析 ・検 討 を 加 え、 そ の結 論 と して 、妥 当 な 解 釈 を導 こ う と努 力 して き た判 例 の 姿 勢 を あ る程 度 評 価 しっ っ も、 そ の 解 釈 の 中 に刑 事 政 策 的 考 慮 を ス トレー トに と り入 れ よ う とす る見 解 に対 して は、 成 立 要 件 自体 の 解 釈 と刑 事 政 策 的 考 慮 と を 峻 別 す べ きで あ る と の基 本 的立 場 か ら理 論 的 に根 本 的 な 疑 問 を呈 して い る。 第 四 章 に お い て は、 中 止 未 遂 の 各 成 立 要 件 、 並 び に中 止 未 遂 の成 否 と量 刑 との 関 係 を 問 題 に し な が ら、 中 止 未 遂 を め ぐる我 が 国 の 判 例 の状 況 を分 析 して い る。 そ こで は と くに、 我 が 国 の 判 例 に お い て 中 止 が 刑 の 量 定 に い か な る影 響 を及 ぼ して い るか が 明 らか に さ れ、 ま た、 そ れ とは逆 に、 量 刑 の基 準 を 中止 未 遂 の成 否 の 判 断 に安 易 に持 ち込 む こ と の 問 題 性 が 指 摘 さ れ て い る。 最 後 に、 終 章 で あ る 第 五 章 に お い て は、 刑 事 政 策 説 を 中 心 とす る従 来 の 中止 未 遂 論 に 対 す る批 判 的 立 場 を基 礎 に据 え な が ら、 筆 者 独 自 の 、犯 罪 論 体 系 内 に お け る中 止 未 遂 の 法 律 的 構 成 が 模 索 さ れ て い る。 そ こで は 、従 来 の 議 論 が 、 中止 未 遂 論 に お け る刑 事 政 策 の 実 体 と中 止 未 遂 成 立 要 件 との 関 係 を厳 密 に把 握 して こな か っ た た め に、 中 止 未 遂 の成 否 の 問 題 と減 免 の いず れ を選 択 す る か と い う刑 事 政 策 的 問 題 と を混 同 す る傾 向 に あ った こ とが 鋭 く指 摘 さ れ、 更 に、 こ の 混 同 を 避 け た上 で の 中止 未 遂 論 の 在 り方 が 提 示 さ れ て い る。 そ れ は、 中止 未 遂 の 成 立 根 拠 す な わ ち必 要 的 減 軽 の 根 拠 と して は、 先 行 す る未 遂 と中 止 行 為 とを 一 体 の もの と捉 え た 上 で 、 全 体 の 中 止 行 為 の 違 法 及 び責 任 の 減 少 を論 じ、 他 方 、 減 軽 に す るか 免 除 にす るか の 判 断 段 階 に お い て の み全 て の 量 刑 事 情 を甚斗酌 した 刑 事 政 策 的 考 慮 を 払 うべ きで あ る とす る も の で あ る。 筆 者 は、 そ れ に よ って 、 成 立 要 件 の解 釈 に 対 す る刑 事 政 策 的 考 慮 の 有 害 な 影 響 の排 除 と、 減 免 の判 断 に お け る 十 分 な 刑 事 政 策 的 配 慮 が な さ れ 得 る もの と して い る。 一55一

(4)

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

旧来 、 我 が 国 に お け る 中 止 未 遂 論 は、 論 理 的 に 必 ず し も精 密 と は言 い難 い 中止 未 遂 の 本 質(存 在 根 拠)論 と、 「自 己 の 意 思 」 に よ っ た か ど うか と い う任 意 性 の要 件 の 議 論 を重 視 す る傾 向 にあ っ た。 そ れ に対 して 、 筆 者 は、 以 前 発 表 した 修 士 論 文 に お い て、 「中 止 」 行 為 の 要 件 に 関 す る 問 題 (と くに 終 了 未 遂 と未 終 了 未 遂 と の 区 別 の 問 題)の 重 要 性 を 説 い た が 、 そ の 鋭 い 問 題 意 識 を 中 止 未 遂 論 全 体 に及 ぼ した の が 本 論 文 で あ る。 本 論 文 は 、 中 止 未 遂 の 各 成 立 要 件 及 び 減 免 根 拠 と の 関 連 を 明 確 に意 識 し な が ら、 と くに我 が 国及 び ドイ ツ に お け る立 法 ・学 説 ・判 例 の 極 め て 綿 密 な 分 析 と透 徹 し た洞 察 を 通 して 、 従 来 さ ほ ど緻 密 な検 証 に 付 され て こ な か った 刑 事 政 策 説 の 実 体 とそ の 限 界 と い う根 本 的 な 問題 に対 して 肉 迫 した 労 作 で あ る と言 っ て よ い。 まず 、 一 に お い て既 に 紹 介 した よ うに、 本 論 文 は、 我 が 国及 び ドイ ッ に お け る中 止 未 遂 に 関 す る学 説 ・判 例 を ほ ぼ 網 羅 的 に渉 猟 し、 そ れ ら に対 して 、 綿 密 か っ 明 快 な分 析 と批 判 的 総 括 を 加 え て い る。 そ の 論 埣 は極 め て 誠 実 か っ 的 確 で あ る。 第 二 に、 本 論 文 は、 中 止 未 遂 に お け る い わ ゆ る 刑 事 政 策 説 の展 開 を細 密 に 分 析 し、 フ ォ ィ エ ルバ ッハ を 礪 矢 とす る刑 事 政 策 説 に も様 々 な 内 容 も の が あ る こ とを 厳 密 に分 析 ・提 示 し得 た点 に お い て、 更 に は 、 ドイ ッ判 例 に お け る中 止 未 遂 論 に つ き、 我 が 国 で は初 め て 体 系 的 に整 理 し全 体 的 概 観 を与 え た 点 に お い て 、 従 来 の我 が 国 の刑 法 学 界 の水 準 を 凌 駕 す る もの で あ る と評 価 で き る。 第 三 に、 本 論 文 の 主 張 す る実 践 的 提 言 も、 中 止 未 遂 論 に 曖 昧 な ま ま に安 易 に刑 事 政 策 的 思 考 を 持 ち 込 も う とす る我 が 国 の学 説 の最 近 の 傾 向 に対 し て鋭 く警 鐘 を打 ち 鳴 らす もの と して 有 益 で あ る。 第 四 に、 中 止 未 遂 の 成 立 要 件 の 問 題 と減 免 の 選 択 の 問 題 と を峻 別 す べ きで あ る との 本 論 文 の 主 張 は、 理 論 的 に厳 密 か っ 的 確 で あ り、 ま た、 先 行 す る未 遂 と中 止 行 為 と を一 体 と して 考 察 す べ きで あ る とす る根 拠 も極 め て示 唆 に 富 む 。 これ らは、 従 来 の 中 止 未 遂 論 を 打 破 し新 た な 地 平 を 拓 き得 る もの で あ る と言 って よ い。 も っ と も、 本 論 文 に お い て 提 示 さ れ た筆 者 の 試 論 に は 、 先 行 す る未 遂 と中 止 行 為 と を一 体 と して捉 え る根 拠 な ど の 点 に お い て 、 若 干 の 理 論 的 な 脆 弱 さ が 看 取 さ れ る こ と は否 め な い。 例 え ば 、Jakobsの 見 解 に 対 し て も、 本 来 な らば 徹 底 的 な 批 判 的 検 討 が 加 え られ るべ きで あ っ た ろ う。 ま た、 「具 体 的 な 危 険 の 消 滅 」 に よ る違 法 減 少 説 も、 と く に未 終 了 未 遂 に お け る 中止 を め ぐ り未 だ 問 題 を 残 す も の と言 え よ う。 今 後 、 筆 者 の 一 層 の理 論 的 深 化 が 望 ま れ る所 以 で あ る。 しか し、 こ の こ と は、 本 論 文 の 現 在 的 な 学 問 的 意 義 を何 ら損 な う もの で は な い。 上 述 し た よ う に、 現 在 の 刑 法 学 界 の 水 準 か らみ て、 本 論 文 に、 学 界 に 禅 益 す る と こ ろ大 な る もの が あ る こ と は疑 い得 な い か らで あ る。 ま た 、 筆 者 が 若 手 研 究 者 と して 今 後 と も本 論 文 に見 られ る よ う な本 格 的 な 研 究 を続 け る こ と に よ って 、 刑 法 学 の発 展 に 大 い に 貢 献 して い くで あ ろ う こ と は想 像 す る に難 くな い。 以 上 に よ り、 本 論 文 は、 博 士(法 学)の 学 位 を授 与 され る に値 す る もの と認 め られ る。 一56一

参照

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