Title
集団強姦罪の制定過程における「性的自由」論議
Author(s)
髙良, 沙哉
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(12): 1-12
Issue Date
2009-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5993
沖縄大学法経学部紀要 第12号
【論文】
集団強姦罪の制定過程における 「
性的自由」論議
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非常勤講師 :高 良 沙 哉 (憲法)
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キー ワー ド :性的 自由 集 団強姦 被害者保護 1 は じめ に 筆者は、拙稿 「在 日米軍 人による性 的暴 力の提起す る諸問題」 1にお いて、2007(平成19)年10月 に広島県広 島市で発生 した集団強姦事件、2008(平成20)年2月 に沖縄県 で発生 した 中学2年 生の 少女 に対す る強姦事件、 同 じく同年2月に沖縄県 で発生 した フィ リピン人女性 に対す る強姦致傷事 件2とい う、在 日米軍 人 らによる女性 ・少女 に対す る性暴 力事件 を取 り上 げ、これ ら3つの事件か ら 導 き出され る、 い くつかの問題点 を指摘 した。 これ らの うち2007年10月に広 島市で発 生 した 当時19歳 の女性 に対す る性暴 力事件 は、 4名 の在 日 米軍人 らによる集 団強姦 の事案であったQ この事件 につ いて、広 島地方検察庁 は被害女性 の記憶 に 暖味な点がある として、加害米兵 らをいずれ も嫌疑不十分で不起 訴処分 とした 3。 ところで、強姦罪 (刑法177条) と集 団強姦罪 (同法178条 の2)には、次 のよ うな大 きな違 いが ある。刑法は 「暴行 又は脅迫 を用 いて13歳以 上の女子 を姦淫 した者」、 「13歳未満 の女子 を姦淫 した 者」 も同様 に強姦罪 とし (同法177条)、 「二 人以 上 の者 が現 場 にお いて共 同 して」 強姦、準強制わ いせつ (同法178条1項)4、準強姦 の罪 (同法178条2項)5を犯 した場合 には、 4年以上 の有期懲役 に処す る として集 団強姦罪規定 を設 けて いる (同法178条 の2)。強姦罪 が 「告訴がな けれ ば公訴 を 提起す る ことがで きな い」親告罪であるのに対 して (同法180条1項)、集 団強姦罪 は非親告罪 で あ る点 にお いて、大 き く異な る (同2項)0 この違 いは,強姦罪 の場合 は 「告訴な しに訴追 ・処 罰 をみ とめ る ときは、 かえって名誉そ の他 の 点で被害者 の不利益 を増大す る結果」 を招 くとの理 由か ら6、被害者保護 を重視 して いるの に対 し、 集 団強姦罪 の場合 はそ の 「凶悪性 ・危 険性 の高 い暴 力的 な共 同犯行 は、・・・犯 人 の処 罰 の必 要性 が大 きい」 とい う点 を、 「被害者 の個 人的利益以上 に」重視7して いるためだ とされ る。 この集 団強姦罪 は、20〔姓 (平成16)年 の刑 法改 正 の際 に創設 され た規 定 で あ る。そ れ 以 前 には 「集 団強姦」罪 とい う個別 の規定 はな く、 「二 人以上 の者 が現 場 にお いて共 同 して犯 した」強 制わ いせつ、強姦、準強制わ いせ つ、準強姦、 これ らの未遂 の罪 は、親告罪 の規定 を適用 しな い と規定 されて いた (20似 年改正前の刑法180条2項)。 このよ うに新たな罪 を創設す るにあた り、立法府 で は どのよ うな議論がな された ので あろ うか。-
1-集団強姦罪の制定過程における 「性的自由」論議 強姦であって も集 団強姦であって も、加害者が1人か 2人以上か という違いはあるものの,被害 者 の 「性的 自由」 に対す る強 い侵害であるという点でかわ りはない。 また、上記2CO8年2月の米兵 による強姦事件 にお ける被害少女 に向け られた社会の非難 の声のよ うに8、強姦であって も集団強 姦であって も、性暴力事件の被害者の置かれ る厳 しい状況 にかわ りはない。そ うであれば,それ ま で も非親告罪であった 「二人以上の者」が加害者 となる場合 を、「集団強姦罪」として新たに明確 に 規定す るに際 しては,憲法上の人権 としての 「性的 自由」 に関す る根本的な議論や、性暴力事件に お ける被害者の保護 の問題、セカ ン ドレイ プが指摘 され る法廷での証言 についての被害者への配慮 の問題な どの2似 年以前か ら問題 として指摘 されてきた事柄 に重点をおいた議論がなされたのでは ないか と期待 され る。 また、集団強姦罪 の創設 の背景 には、 いわゆる 「スーパー フリー」事件の発生があるとされ るO。 以下 に詳細 を示すが、 この事件は社会的 に大 きな打撃 を与えた有名大学大学生 らによる集団強姦の 事案である。 この事件の中心人物 に対す る東京地方裁判所判決 (準強姦被告事件平成16年11月 2日 判決)で示 され る、複数 の被害者 に対す る苛酷な人権侵害は、立法作業 に非常 に強 く影響 した と思 われ るため、前提 として触れ る。そ して、 この事件 において裁判所が被害者の 「性的 自由」 につい て どのよ うな判断を示 しているのか にも注 目す る。 そ して、集 団強姦罪規定 を含めた20M (平成16)年の刑法改正の審議過程 において、 「性的 自由」 が どのよ うに議論 されたのか、非親告罪の性暴 力事件の場合 の被害者の保護 につ いての議論な どに ついて、立法府が どのよ うな見方 を しているのかに注 目し、検討す ることを目的 とす る。 以下 に、いわ ゆる 「スーパー フリー」事件 (準強姦被告事件)、2α光年の刑法改正に関する審議の 過程 を挙 げる。 2 準強姦被告事件 (東京地方裁判所平成16年11月 2日判決))o (1)本件は、有名大学 の学生等で構成 され るイベ ン トサークル 「スーパー フ リー」の代表者、同サー クルのスタ ッフ、OB、その他のサー クル関係者が共謀の上,同サークルの事務所で開催 された飲み 会や 同サー クルが主催す るパーテ ィ等の二次会 に出席 した、女性たちを泥酔 させ心神喪失ない し抗 拒不能状態 に陥 らせた上で、順次姦淫 した一連 の準強姦事件、 いわゆる 「スーパー フリー」事件の 中で も、 同サー クル の代表者 に対す る事案である。 この一連 の 「スーパー フ リー」事件で起訴 された者は13名にも上 り、同サークルが有名大学に在 籍 して いる学生で構成 され、一時は一流大学か ら公認 されていたサークル において、組織的 ・計画 的 に行われた複数の準強姦事件であった ことか ら、本件東京地裁判決で も 「期待 される大学生像 と の余 りにもかけ離れたその実体が社会 に大 きな衝撃 を与える とともに、関係各大学や大学生一般へ の信頼 も大 き く損なわれ ・・・社会的な悪影響 も深刻」 と指摘 された通 り、 このような本件の特徴 か ら、社会的 に大 きな注 目を集めた。 以下 に、本件 における性的 自由侵害の事実、被害 に対す る裁判所の判断をまとめる。 (2) サークル 「スーパー フリー」 と被告人に関す る事実 本件被告 人は1994 (平成6)年に大学に入学 して、同大学学生が設立 したイベン トの企画 ・運営 を目的 とす る、サー クル 「スーパー フ リー」 に加入 した。被告人が加入 した当時同サークルは/ト規
沖縄大学法経学部紀要 第12号 模な活動をお こな う団体であったが、1995 (平成 7)年6月に被告人が代表 に就任 して以降は活動 が活発にな り、事件の発生 した2003 (平成15)年 ごろには、東京だけではな く全国各地 に支部 を置 き、 1回あた り千数百名 も集客するはどの大規模なイベ ン トを企画 ・運営するサークル に成長 して いた。 被告人は1994年に大学 に入学 したが、留年や他学部への再入学をす るな どしなが ら大学 に在学 し 続け、継続 して同サークルの代表の地位 にいた.そのため、被告人 と同サークルの他のメンバー と の年齢の差が次第 に開き、被告人の 「発言権が飛躍的に強 く」な り、2002 (平成14)年 3月 ごろか らは同サークルが主催するイベン トの内容な どの最終的な決定は、すべて代表者である被告人が行 うようになっていた。 同サークルは、1999(平成11)年 ごろか ら、イベン トの二次会等 として開催する飲み会 において、 参加 した女性 に飲酒を強いるな どして泥酔 させ、カラオケボ ックス、居酒屋の非常階段な どの人 目 につかない場所 に女性 を連れ込み、「複数のスタッフ等で順次姦淫する行為 を繰 り返す」ようになっ た (サークルの相談役であった男 とともに、被告人が 自宅兼サークル事務所 として使用 していた事 務所内でも犯行が行われた)O このような複数のスタッフ等 による輪姦 を同サークルでは 「回 し」、 「回転」、 「ロー リング」な どと呼び習わ し、 「回 し」等 の始 まった1999年 ごろか ら被告人は一貫 し て、みずか ら中心 となって この組織的輪姦行為に参加 し続けた。 また、被告人は 「女は撃つための公共物」、輪姦 に参加す ることでサークルの 「連帯感が生まれ る。スタッフのやる気が出る」な どとして、女性の人格 を無視す る言動をし、 この輪姦への参加 を 同サークルのスタッフらに奨励 した。そ して新入生歓迎の時期には、 まだ飲酒に慣れてお らず、す ぐに酒に酔って しまう新入生を標的にした輪姦の実行 について、被告人は強い意欲 を示 していた。 被告人を中心 とする同サークルのスタッフらは、イベン トに参加 した女性 を早 く泥酔させ るため に、飲酒をしなければな らないような雰囲気 を作 り、 また 日本酒や焼酎 を多量に飲 ませた り、女性 たちに気づかれないように高濃度の酒 を多量に飲 ませるな どの手段 を使 って、女性たちを酪酎状態 に陥 らせていた.2001 (平成13)年4月ごろか らは、告人 と同サークルの相談役の男が、女性 を早 く酷酎させる目的で試行錯誤の末に、編み出 した調合の酒 をスタ ッフらに伝授 し、被告人の指示が 特にな くて もこの酒が女性たちのテーブルに配 られるようにな り、女性 を早 く酔いつぶれ させ る道 具 としていた。 また、酔いつぶれた女性 を輪姦行為の目的のために他の場所へ移動 させるときには、その女性の 友人に妨げ られないように工夫 し、そのような行為を 「ブロッキ ング」 と呼び習わ していた。犯行 を行 う際には見張 りを立て、姦淫 を終えた者が次 に見張 り役 に立つな ど、順次役割 を分担 しなが ら、 輪姦行為の実行 を確実に行 うために協力 ・連帯 していた。 (3)被害の態様 (a)本件第一の犯行 において被告人 と共犯者 らは、 当該被害女性 を姦淫する意図の下、サークル 事務所内で鍋パーティをするとして、被害女性の友人を通 じてその女性 を事務所 に誘 い出 し、 この パーティにおいて、被害女性 を完全に意識 を失 うまでに泥酔 させた。 そ して、泥酔 し意識を喪失 しているその女性 を事務所内の別室 に連れ込み、被告人を含む3名が 順次姦淫行為に及んだ。犯行の間、パーティに参加 していた他の女性 に対 しては、 「ブロッキング」
-3-集団強姦罪の制定過程における 「性的自由」論議 し犯行 を完遂 した。 その後、意識を失ったまま唱吐 した被害女性の生命の安全を省みず、事務所内の風呂場で女性の 身体 を洗 ったのみで、女性 を同風呂場の脱衣所に放置 し、 さらに被告人 と共犯者が順次姦淫 した。 (b)本件第二の被害は、毎年4月に開催 していた大学新入生歓迎イベン トの二次会において引き 起 こされたo 被告人は、飲み会や酒 に慣れていない新入生を狙い、 「4月は撃てる」、 「新入生の女は - ・す ぐ にで も回せるんだ」な ど、輪姦行為の実行 に強い意欲 を示 し、被告人およびスタッフらは、新入生 を狙って二次会への参加 を募った。 そ して、飲み会 の場で本件の被害女性 に狙 いを定めたスタ ッフ らは、組織的 ・計画的 に上記の (被告人 らの調合 した)酒を同女にすすめ、何度 も一気飲みを強要するな ど、無理や り飲酒させて 泥酔させ抗拒不能の状態 に陥 らせた。その上で、被告人やスタ ッフらは意識が もうろうとしている 同女 を二次会会場か ら人気のない場所 に連行 し、玄関マ ッ トの上で同女 を姦淫 した。各共犯者 らは 他 のスタ ッフへ も口伝て に輪姦が行われて いる ことを伝達 し、合計13名が順次同女 を姦淫するに 至った。
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本件第三の犯行では、被告人および同サークルのスタッフらは他の学生団体が主催するパー テ ィに参加 し、二次会の名 目で数名の女性 を居酒屋 に誘い出 し、被害女性 に狙いを定めて、上記の2
件の各犯行 と同様 に、同女を泥酔 させ抗拒不能状態に陥 らせた。そ して、被告人およびスタッフ らは、泥酔 し意識が もうろうとしている同女 を居酒屋か ら連れ出 して人気のない場所まで連行 した 上で、玄関マ ッ トの上で同女を姦淫 した。 犯行の間、 同女の友人たちに対 しては他のスタッフらが 「ブロッキング」 して妨げ、本件第二の 犯行 と同様 に、共犯者 らは口伝てに輪姦が行われている旨連絡 しあい、合計5
名が同女を順次姦淫 し、 または姦淫 しようとした。 その際、同女はアルコールによって身体の自由が奪われていなが らも、叫びなが ら精一杯の拒絶 の態度 を示 した。それ にもかかわ らず、被告人や共犯者 らはその拒絶の意思 を無視 して姦淫 し続 け、 さらに同女 を愚弄する言葉 まで吐いた。 (d) これ らの犯行 について東京地裁はスーパーフリーは、「条件さえ整えば、特段の打ち合わせ も ないままに、その場で直ちに輪姦行為に及ぶ ことのできる高度 に組織化 された輪姦集団」と表現 し、 その犯行 を 「周到な準備の下 に実行 した組織的かつ計画的犯行」としたO また、「各被害女性の貞操 を株欄す るな ど、陵辱の限 りを尽 くしている」 これ らの犯行 について 「各被害女性の人格や心情を 一顧だにすることな く、単なる自己の性欲のはけ口ないし快楽を得 る道具 としてのみ扱」 っている 態様 を 「冷酷非道」 と断 じた。 (4)本件犯行 による被害者たちへの影響 本件各犯行 の結果 について、東京地裁は各犯行 において被害女性 らが受けた多量の飲酒を強いら れた ことによる生命の危険、輪姦 による肉体的精神的苦痛、事件後 も続いている苦悩の被害を、「い ずれ も誠 に重大である」 とした。 本件第二の犯行 における被害女性 について、 「被告人 ら13名 もの男たちか ら相次 いで輪姦 される ことによって、性的 自由を徹底的に探潤 され、陵辱の限 りを尽 くされ」、 「その被 った精神的な衝撃沖縄 大学法 経 学 部紀要 第12号 や苦痛、恥辱感や喪失感 ・絶望感が余 りにも重大かつ深刻」 と述べた。そ して本件第三の犯行 につ いて も、「性的 自由を徹底的 に操欄 された」と表現 した。そ して、いずれの被害者 も被害 を受 けたあ と日常生活のさまざまな場面で、被告人 ら加害者 の ことが思 い出され る とい う苦痛が継続 し、本件 犯行 による精神的な傷 あ とが色濃 いo (5)判決 そ して東京地裁は、 同サークル を 「各人が暗黙の うちに回 しの完遂 に向けて相互 に連携 して行動 し合えるな ど、輪姦 を目的 とす る高度の組織的な犯罪集団」 だ とし、1999 (平成11)年 ごろか ら繰 り返 し敢行 されてきた輪姦行為 について、被告人が 「当初か ら、 自ら中心 とな って、一貫 して回 し に参加 し続けて」、同サークル内における 「地位や権勢 を利用 して、スタ ッフ等 を指導 しなが ら、回 しを容認 して 自己 目的化す るよ うな雰 囲気 の醸成 に努め、 回 しに積極的 に参加す る者 らと共 に、 自 らの欲望充足 という点か らは誠 に都合の良い組織 を形成 して、その頂点 にとどま り続 けた」 と述べ た。本件における各犯行 にお いて も、被告人の 「犯意は極めて強 固かつ積極的な もの」であ り、「被 害女性 らの人間性 をまった く無視 して、あたか も性的快楽 を得 るための道具であるかのよ うに扱」 い、 「下劣かつ醜悪な ものであ り、誠に悪質」 とした。 そ して、東京地方裁判所は、 このスーパー フ リー による輪姦事件 にお いて、主導的役割 を果た し た被告人に懲役14年の実刑判決 を下 した。 この判決は、従来の準強姦事件に対する量刑 と比較する と、相 当重いものであった11。 (6)被害者 らの 「落ち度」 裁判所は被害女性 らについて 「見ず知 らず の男性が居住す る事務所 を訪れた り、求 め応 じて酒 を 繰 り返 し、一気飲みす るな ど、不用意な面があった ことは否定 し難 い」と指摘 した。ただ、「本件各 被害 に直結す るよ うな落ち度があるとはいえない」 として いる。 (7)本件 につ いては東京地裁 も指摘す る通 り、有 名大学 に在籍す る学 生 らが、一時は大学 の公認 サー クルであった 「スーパー フリー」 のイベ ン トの二次会 において、参加 した女性 を意識が もうろ うとす るまで泥酔 させた上で、輪姦す るという犯行 を組織的 ・計画的、長期的、常習的に繰 り返 し 行 っていた という、常軌 を逸 した悪質な犯罪行為であ り、社会 に大 きな衝撃 を与え、注 目された事 件であった。 この事件で東京地裁は、 「貞操 を操珊」 し、 「陵辱の限 りを尽 くし」被害女性 らの 「人格や心情 を 一顧だにしない」犯行 を、「性的 自由を徹底的に疎開」す るもの として、被告人や共犯者 らの犯行 を 糾弾 している。 ただ、一点指摘 しておかなければな らないのは、被害 に遭 った女性たちを 「不用意」であるとし た点である。本件犯行が決行 されたのは、多 くの大学 にお いて学生たちが何の疑 いもな く行 い、参 加 している新入生歓迎の飲み会の居酒屋な どの場であ り、悪質 に高濃度 に調合 された酒や、強制的 に飲酒 をさせ られ るな どの、組織的 ・計画的な犯行 によって予期せぬ被害 にあった女性たちが果た して 「不用意」であった といえるのだろうか。友人を介 して誘われたか ら見ず知 らず の男性 の事務 所のパーテ ィへ行 った ことや、一気飲み を拒めなか った点 を、被害者が 「女性」だか ら取 り立てて 「不
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5-集団強姦罪の制定過程における 「性的自由」論議 用意」としたのではないか。 「落 ち度がある とはいえな い」としつつ も,このような悪質な犯行 を前 に して も、 このよ うな指摘 をす る点 には、女性 に対 しては特 に厳 しい貞操観念 を強 いる、 司法の伝 統的な観念 を感 じず にはい られない12。 本件 を契機 に して、刑法で 「二人以上の者が現場 において共同 して」お こなった輪姦行為 につい て (刑法
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条の2)
、規定 を設けるに至 った。 次 に、 「性的 自由」 に関す る議論や、非親告罪 における被害者の保護等 に着 目し、2∝姓 (平成16) 年の刑法改正の審議過程 をみ る。 3 集団強姦罪規定 に伴 う審議13 (1) 20似 (平成16)年 2月26日 衆議院内閣委員会 2号 2004年 2月26日の内閣委員会 における 「女性の安全」 の問題 に関 して、強姦罪罰則の強化、集団 強姦罪 の創設 に関す る質疑の中で、大 口善徳委員 (公明党)は女性の安全の実現 を図るために、「女 性が、・・・性犯罪 の被害 につ いて相談 しやす い環境、 これ をつ くっていかなきゃいけない」 と述 べ、 この点 に関す る答弁 を小野清子国務大臣 (当時) に求めた。 小野大臣は、性犯罪やDVな どの 「被害相談の体制」 として、被害者がその被害 を 「話 しやすい よ うに女性警察官 を、・・・登用 して頑張 っている」 と述べ、具体的 には、 「交番の女性相談員、そ ういう方 々、それか ら駅 に女性被害者相談所 を設けるな ど、女牲職員 によ ります被害相談体制の整 備 を今推進 している」 と答弁 した。 この性犯罪被害者の保護 の問題 において、被害者 として想定 されているのは、女性のみであ り「女 性な らではの問題」 としてお り、性犯罪 による権利侵害の客体 を女性 に限定 している。 (2)2∝姓 (平成16)年10月28日 参議院法務委員会2号 木庭健太郎委員 (公明党) は、参議院法務委員会 にお いて 「女性 の人権擁護の問題」 として、強 姦罪の罰則強化、集団強姦罪の創設の法案提出の趣 旨につ いて、南野知恵子法務大 臣 (当時) に質 問 した。 質問に対 し南野大 臣は、強姦罪 をは じめ とする凶悪 ・重大犯罪 についての 「現在定め られている 刑の長 さが国民感情 に合 っていないとい う指摘」があ り、 「凶悪 ・重大犯罪 に対 し適正 に対処できる よ う刑法等 を改正す るもの」 としている。 ここにおいて、刑法改正 に関す る今後 の審議が、法定刑の軽重 に重点 をおいてな され るであろう ことが示唆 されて いる。 (3) 2004 (平成16)年11月2日 衆議院本会議7号 20m 年11月2日の衆議院本会議 において、松本大輔衆議院議員 (民主党) は、刑法 「改正案で、 集 団強姦罪が新設 され、親告罪 の規定 を外 して被害者 の告訴がな くて も処 罰で きる ことに したの は、 一定の前進である」 として評価 した1
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しか し、集団強姦罪 を非親告罪 として規定す る場合 の、性犯罪被害者 に対す る配慮 をどうす るか な ど、重要な問題 には触れず この点 につ いては これ以上深入 りした発言はなかった。沖縄大学法経学部紀要 第12号 (4)2004 (平成16)年11月9日 衆議院法務委員会5号 2004年11月 9日の衆議院法務委員会 における議論の中心は強姦罪、集団強姦罪等 を強盗致傷罪 の 法定刑 と比較 し、なぜ前者が後者 よ り軽いのか という法定刑の問題であったが、 この委員会では、 性暴力について以下のよ うな発言がみ られた。 松島み どり委員 (自由民主党) は、集 団強姦罪 の制定その ものについては評価 した ものの、性暴 力については、 「望 まない相手 を暴力でね じ伏せ、行為 に及んだ場合、・・・そ の対象 となった女性 は体 も心 も激 しい痛みを感 じるものだ と思 います。・・・男性 の中には、・・・性犯罪 の ことを、例 えば交通事故 に遭 うよ うな ものだ とか、 どうせ減 るもの じゃないだろ うとか、女だって楽 しんだだ ろうとか、ひ どい、 聞 くにたえない軽 口をたた く人が いました り、 あるいはポル ノ映画やポル ノ雑 誌の中には、女性が暴力ず くで犯 されて喜 びを感 じる、最初嫌が っていて も、そ の後何か喜んで し まうんだみたいな間違 った観念 に基づ く表現が しば しば見 られ ます。 こういった ことが未成熟な青 少年 に悪 い影響 を与えて、罪の意識 を持たず に性 に関す る犯罪 を犯す、そ うい うおそれが高い」 と 強 く批判 し、 「そ うした中で、強盗致傷 よ り罪が軽 い場合があるとい うのは一体 どういう考 えなの か」、 「・・・法制審議会のメンバー というのは、 この法案 をつ くった人は男性ばか りなのかO男性 だ として も、 もし自分の娘や妻が強姦 された らという、そ うい う想像 力を働かせた ことがないので しょうか」 と強い怒 りを述べた。 法定刑について、松島委員か ら質問を受 けた大林宏政府参考人 (法務省刑事局長 当時)は、量刑 については 「- ・ケースケースによって、- ・強姦罪 の方が悪質だ というケース ももちろんあ り ます し、強盗罪 も、かな り被害者 に対 してダメー ジを与えるよ うな強盗罪の形態 もあ」る、「強盗罪 が財産的な ものを対象 とす る、それか ら強姦罪 については、女性 の尊厳その ものを、かな り大 きな ダメージをその後 も与える」 という点 を踏 まえ、今後 さ らに検討 を加えるとして課題 を残 した。 また、江 田康幸委員 (公明党) は、 「- ・強姦罪や強制わ いせつ罪等 の性犯罪は、暴力によって 被害者の人格や人間性、人権 を著 しく破壊す るものであ りま して、このよ うな犯罪 に対 しましては、 加害者の刑事責任 を厳正 に追及す る必要がある」、 「婦女暴行等 の事件 につきまして検察官 の求刑12 年を上回る懲役14年の判決が出された との ことであ りますが、近年の強姦罪 に関す る裁判所の科刑 状況は どのよ うになって いるか」 と質問 し、続 けて 「・・・私大生 らがサー クル を利用 して女性 を パーテ ィーに誘 って泥酔 させて集団で強姦 をしていた、 いわゆるスーパー フ リー事件 の主犯格 の判 決」の結果 に触れた。そ して、「強姦罪、婦女暴行事件 に関 して、検察官 の求刑では甘過 ぎる とい う ことで、裁判所の判断はさ らなる長期 の判決が出ている、そ うい う現状 にある」 とし、特 に 「スー パー フリー事件 というのは集団強姦罪 として まことに許せない事件で ございま して、そのよ うな事 件 に対 しまして、女性の人権 を擁護す る ということのためには、強姦罪 の罰則 を強化 して集団強姦 罪 を新たに創設す るな ど、強姦罪の罰則強化、性犯罪 の罰則強化 に取 り組む必要がある」述べた⊥5。 その上で、強姦罪の法定刑が強盗罪 よ りも低 い ことを指摘 し、強姦等が 「女性 の人権」「人間性 を破 壊」す るという点 を強調 し、法定刑の再検討 を促 した。 (5) 2(X性 (平成16)年11月10日 衆議院法務委員会6号 2∝姓年11月10日の衆議院法務委員会 にお いて、参考 人の大塚明 (日本弁護士連合会副会長 当時) は、法定刑 については 「強姦罪 あるいは強制わいせつが人格の尊厳の根本 に触れ る重大な犯罪であ
ー7-集団強姦罪の制定過程における 「性的自由」論議 るということについては全 く異論」はないが、「強姦罪あるいは強制わいせつと他の罪 とを比較する ときに、単純 に年数で比較することがよろしいのか どうか。その内容に立ち入って、その刑が妥当 なのか どうか、 この検討が必要だ」 16。 そ してさ らに大塚参考人は、性差の問題 に触れ 「確かに強制わいせつのうちほとんどは男性の女 性 に対する犯罪です。 ・・・ただ、少数ではあ りますが、女性か ら男性 に対する性犯罪が存在す る ということ、それを今の強制わいせつ という形で くくっていていいんだろうか。・- 性犯罪につい ての再検討が根本的に必要なのではないか」 と述べ、よ り長期的な視野での検討の必要性 を指摘 し た17。 (6) 2∝姓 (平成16)年11月30日 参議院法務委員会10号 20(池年11月30日の参議院法務委員会 において、松岡徹委員 (民主党)は、刑法改正の 「提案の大 きな動機 になったのは、・- 、早稲田大学のス-フリによる集団強姦事件 とかが大きなきっかけ」で あると指摘 した。 神洋明参考人 (日本弁護士連合会刑事法制委員会委員長 当時)は、「強制わいせつ罪 と強姦罪の犯 罪類型については、法定刑の問題以前に、その規定の在 り方 を根本的に見直す必要がある」 と前置 き した上で、「刑法の強姦罪は、行為主体 を男性、客体 を女性 に限ってお り、男仕が客体 となったと きには強制わいせつ罪 しか成立 しません。 ところで、性的 自由の侵害に係る罪については、世界の 趨勢は、男女間に差 を設けない方向にあ ります。 フランス、アメ リカ、カナダ、 ドイツなどにおい て、被害者を女性 に限定 しない形での法改正が行われてお り、男性被害者について も強姦罪が成立 するようになっています。現時点で、刑法の強姦罪等の改正を行 うのであれば、 まず、 こうした世 界の趨勢に合わせた性犯罪全般の見直 しが行われるべきだ と思います。 日本 において、性犯罪の被 害者は女性がほとんどだか ら現行の規定のままでよいという議論があ りますが、 これは近い将来の 変化 を視野に入れてお らず、少数者であっても回復 し難 い精神的 ショックを受けた男性の性犯罪に 対する差別 にもな りかねない」 と指摘 した。 石塚伸一参考人 (龍谷大学法学部教授 当時)は、 「現実の場面で、・・・一番今現場で困っている ことは、被害者の方が告訴 をするということには非常 に大きな障害があって、 とりわけ御家族の方 が、告訴なんか しないで もう忘れた らどうか というふ うにおっしゃる ・・・。 ということは、親告 罪 にしなければ秘密 を守ったままで証言 も保障 しなが ら対応ができるのに、そ こに一つの女性 に大 きな負担が掛かっているという現実があ りますので、そ こを解決 した方が法定刑だけに頼っていく よ りは望 ましいのではないか」 という、性犯罪被害者の背負 う重圧 について言及 し、法定刑の厳罰 化のみに頼 らない、事件後 に性犯罪被害者が追わされる負担について検討 し対応すべきことを指摘 した。 これに対 し、江田五月委員 (民主党)は、証人尋問のや り方の工夫な ど 「・・・様々な被害者の 人に余計な負担 を掛けずに刑事司法が進行できるようなそ ういう手だてを講 じてきて」いるものの、 「・・・とにか く傍聴禁止の措置 を取るとして も、それに して も余 りにも生々 しい証言を被害者に 法廷で求め」、 「被害者の方々に二次、三次の被害を与えるということになっていた」 と指摘 し、被 害者の保護の現在の状況や今後の更なる工夫の必要に触れたが、それ以上の議論はな く、法定刑の 問題へ移 って しまった。
沖縄大学法経学部紀要 第12号 また浜四津敏子委員 (公明党)は、「性犯罪の厳罰化 と集団強姦罪 の創設」について、性犯罪 の厳 罰化 を求めた理 由を 「日本の現行 の刑事法では強盗罪 の法定刑よ りも強姦罪 の法定刑の方がはるか に低いと。つ ま り、女性 の性的 自由が物 よ りも軽 く扱われている と。 これがおか しいではないか」、 女性団体等 か らも批判がでて いると述べた。 これ に対 し神洋 明参考 人は、 「性的 自由に対す る侵害 について私が問題 に しているのは、下限 を上げる必要はないとい うこと」だ と強調 した。 さらに、浜四津委員は集団強姦の場合には、改正前の刑法にお いて も親告罪か ら除外 されている 点 について質問 した。 これ に対 し、大林宏政府参考人 (法務省刑事局長当時)は、「一般 の強姦は、犯 罪の性質上,起訴 によって事が公 にな ります と被害者 の精神的苦痛等 の不利益が一層増大す るおそ れ もあるため、被害者保護の観点か ら、告訴がなければ訴追できない という親告罪 とされて いる」 が、1958 (昭和33)年の刑法改正の際に、「強姦の うち二人以上の者が現場 において共 同で犯 した場 合、すなわちいわゆる集団的形態の強姦 については、暴力的犯罪 としての凶悪性が著 しく強度であ ること等の理 由によ り、親告罪の対象か ら除外 された」 と述べた。 先に性犯罪被害者の負わ され る負担 の問題 についての言及があ り、親告罪、非親告罪 に関す る論 点が出た ものの、その後法定刑の議論へ と移行 し、これ らの問題 については深 く検討 されなか った。 (7) 2∝お く平成18)年2月24日 衆議院法務委員会2号 上記の審議を経た刑法改正の後、2(雌 年2月24日の衆議院法務委員会 にお いて、松島み どり委員 (自由民主党)は,強姦致死傷罪の法定刑について
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「刑法の中で、強姦致死傷、これは無期 または 懲役五年以上になってお ります。普通の人の感覚で いいます と、必ず刑務所 に入れて もらわな いと 困 ります。情状で執行猶予つきの判決 にな らないためには法定刑が懲役七年超でなければだめだ と 伺 ってお ります。 この刑法改正 を速やか にや っていただきた いと考 えてお ります。そ して また、強 盗致傷は懲役六年以上で ございます。 この強姦致死傷 と強盗致傷 の逆転、私は許せない。- ・性犯 罪については被害者の方が声 を上げに くい。大臣, この刑法の規定 につ いて どうお考 えになるか、 改正の必要があると考 え られないか」 と質問 した。 これ に対 して杉浦正健法務大臣 (当時)は,2(X沌年 の刑法改正 の際の強姦罪等 の法定刑や集団強 姦罪の制定 を評価 した上で、「この間題 について、軽視 して いるとい うわけではあ りませんC性犯罪 を軽んず るという気持ちは、私 どもは全 くございません」 と述べた上で、 この時点での改正 の検討 の必要性 を否定 し、 「次 の改正の時期 にまた改めて検討 させていただきたい」 とした。 松島委員の質問に対 して、法務大臣は法定刑 については述べた ものの、「被害者 の方が声 を上げに く い」 という点 については、一切触れなか ったO (8)以上、2004年の刑法改正の審議 における、集 団強姦罪の創設 をとりま く議論 について、性的 自 由や性暴力の被害者の抱える負担な どに着 目した。 これ ら議論は、強姦罪等 の法定刑 と強盗罪等 の法定刑 とを比較 し、前者が後者 よ りも低 い刑 にと どまる ことか ら、それ に対す る批判 と弁解が 中心 となっているQ確か に、上記2CKA年11月30日の参 議院法務委員会10号 における浜四津委員 の 「女性 の性的 自由が物 よ りも軽 く扱われている」 という 批判は、侵害 され る 「性的 自由」 の重大性 を考えたな らば、 当然であるC ただ、今回 「集 団強姦罪」 の創設の審議 を取 り上げたのは、強姦罪 と異な り集団強姦罪が非親告-9-集団強姦罪の制定過程における 「性的自由」論議 罪である ことか ら、被害者の保護 について もよ り多 く語 られたのではないか との期待があったか ら で あるO しか し、そ の点 につ いて は2CXh年11月30日の参議 院法務委員会10号 にお いて石塚参考 人 が、親告罪 にお いて告訴 をす るか しないか とい う決断の際 に、性暴力被害者の負わされ る負担 につ いて言及 した ものの、被害者 の保護、被害者 の重圧 を取 り除 くためにどうすればよいのか という点 についての深 い議論はまった くな されて いない。 そ して、法改正か ら2年後 の2(Xお年 にお いて も、やは り法定刑の軽重 に焦点が絞 られ、「被害者の 方が声を上げにくい」 という性犯罪被害の特徴 にいての問題が提起 されたにもかかわ らず、一切触 れ られなかった。 また、法改正後の実態な ども明確 にされず、 まだ改正の時期ではないとして、深 い言及が まった くな されなかった点は,非常 に残念であ り、2CXA年の改正審議の際 に提起 されてい た さまざまな問題 につ いての、発展的な検討は進んで いないのではないか と疑われ る。 また、 この刑法改正の契機が既述のいわゆる 「スーパー フ リー」事件 にあ り、 あのように社会的 にも大 きな影響 を与 えた卑劣な人権侵害事件 を契機 とした法改正の審議であることか ら、性暴力に つ いてよ り根本的で詳細な議論がなされてのではないか と期待 された。 2(氾4年11月10日衆議院法務委員会 6号で大塚参考人が、2∝沌年11月30日参議院法務委員会10号で は神洋参考人が、刑法 の強姦罪規定 において性的 自由侵害の主体 を男性、客体 を女性 としている点 を指摘 し、性 に中立な規定 にす るよ うな根本的な改正の必要 を示唆 した。 これは 「性的 自由」の侵 害 について.現在 「性的 自由」が憲法上の人権 と考 え られ るにもかかわ らず、強姦罪が 「女性の人 権」に対す る侵害 にとどまって いる現在 の刑法の根本問題 に対 して、疑問を投 げかけた ものであ り、 非常 に有意義な指摘であった。 しか し、 これ らの発言 に対 して も発展的な議論がな されていない。2αお年の衆議院法務委員会 に おお いて も、 まった くその点が触れ られず、長期的な視野で 「性的 自由」 に対す る罪 についての議 論が必要であるとした問題提起以降、議論の進展はみ られないよ うである。 4 おわ リに 以上、本稿では 「性的 自由」 に着 目して、 いわゆる 「スーパー フ リー」事件の東京地方裁判所判 決および20(池 (平成16)年の刑法改正 に関す る国会での審議 について検討 してきた。 サークル 「スーパー フ リー」 のメンバー らによる一連 の集団強姦事件 において、一貫 して中心で あ り続 けた同サー クルの代表者 につ いての東京地裁判決 において明 らか にされた、 この事件におけ る被害の態様は、被害女性たちの人格 を踏み にじり、「貞操 を疎開」し 「陵辱の限 りを尽 くし」た、「性 的 自由を徹底的 に操閑」す る犯行であった。東京地裁 は、組織的 ・計画的 に長期 にわたって繰 り返 し女性たちの性的 自由を踏みに じり続 けた、 同サー クルの代表者 に懲役14年の実刑判決 という、そ れ まで準強姦罪で下 されて きた量刑 に比べ重 い判決 を下した。 しか しこの判決 において も、やは り 他 の性犯罪事件 と同様 に、被害者である女性たちの 「落 ち度」 を探 し、本件では 「被害 に直結する よ うな落 ち度があるとはいえない」 とい う結論 にた どり着 いて いるものの、被害女性たちに 「不用 意な面があった ことは否定 し難 い」 としている。女性 に対 しては厳 しい貞操義務 を課 し、 「落ち度」 がある女性はふ しだ らである として非難 の 目を向けよ うとす る伝統的な見方が、本件のように輪姦 行為の 目的で計画的 に誘 い出され、泥酔 させ られ、徹底的 に性的 自由を侵害 された被害者たちにま で向け られよ うとした点 は、批判 しなければな らない。
沖縄大学法経学部紀要 第12号 この事件 を契機 とした集団強姦罪 の制定過程では、現行 の強姦罪 の規定のあ り方 に疑 問を投 げか け、性的 自由侵害の客体 を女性 に限定 しない、性 中立的な規定への性犯罪規定改正 の必要性が指摘 されたにもかかわ らず、その点 について深 く議論がな されなかった。強姦罪等が性的 自由の保護 を 目的 とす るのであれば、両性 の性的 自由保護 のためやは り性 中立的な規定であるべ きであるO また、刑法改正 に関す る審議の過程では、性犯罪被害 に対す る社会の見方、性犯罪被害者が被害 を告訴 しに くいとい う現状 を指摘す る発言がみ られ たが、そ の点 につ いての深 い議論はな されな かった。集団強姦罪が非親告罪であることか ら、被害者のプライバ シーの保護や法廷での証言の際 な どの被害者への配慮な ど、被害者保護 をいかに保護す るか にいての議論がよ り必要であった と思 われる。 しか し、 これ ら点 につ いては発言があった として も議論が深 ま らず、法定刑の軽重 の議論 に重点が置かれ議論が集 中 していた。 刑法改正後数年が経過 したが、 当時議論すべき項 目として挙がった ものの放置 されて しまった多 くの課題は、現在 も解決 された とはいえない。刑法 における性的 自由侵害その ものの規定のあ り方 や、女性 にのみ厳 しい貞操義務 を課す社会、 司法の伝統的な考 え方、被害者の保護 の問題 に 目を向 けた根本的な議論が必要である。 1 「在 日米軍人による性的暴力の提起す る諸問題」 『沖大法経学部紀要第11号』29-41頁 (2∝)8年 12月) 2 本件については、2009 (平成21)年 2月14日に米軍嘉手納基地内で高等軍法会議が開かれ、即 日結審 した。加害米兵は、買春、軍 の命令違反等 について罪 を認めた。 しか し、強姦 について は、証拠が不十分 として棄却 された (琉球新報2009年 2月25日朝刊) 3 朝 日新聞2∝)7年11月 6日朝刊
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「人の心神喪失若 しくは抗拒不能 に乗 じ,又は心神 を喪失 させ、若 しくは抗拒不能 にさせて、わ いせつな行為 をした者」は、強制わ いせつ罪 (刑法176条)の例 による 5 「女子の心神喪失若 しくは抗拒不能 に乗 じ、又は心神 を喪失 させ、若 しくは抗拒不能 にさせて、 姦淫 した者」は、強姦罪 (刑法177粂)の例 による 6 団藤重光 『刑法綱要各論 改訂版』 (1985年 創文社)480頁 7 川端博 『刑法各論講義』 (2007年 成文堂)148頁以下 8 この事件は、米兵による中学生の少女に対する性暴力事件であったため、1995年 9月に発生 し た少女暴行事件 を思 い出させ、注 目が集 まった。そのためか、加害米兵が逮捕 された直後か ら、 イ ンターネ ッ ト掲示板では被害者 を責め、 中傷す る書 き込みが多 くみ られた (朝 日新 聞2∝)8年 2月17日) また、 この事件では20時 ごろ少女が米兵の誘いに応 じてバイクに乗った という事件 の経緯か ら、「誘 いに乗 った少女が悪 い」、「深夜排桐 を許す家庭 に問題がある」な ど少女 を責め、 追い詰めるよ うな見方が多 くあった (琉球新報2(X冶年5月17日社説)。 また、広島市で集団強姦の被害 にあった女性 に対 しては、広 島県知事が 「朝の3時 ごろまで 未成年が盛 り場 にいる ということが どうか と思」 う、 と発言す るな ど (沖縄 タイムス2(カ7年10 月22日朝刊)、性暴力事件において被害者は、事件 によって負わ される痛みに加え、社会 の厳 し い批判 に晒 されるという、理不尽な現実がある。 - i]‖-集団強姦罪の制定過程における 「性的自由」 論議 9 判例 タイムズ1168号99頁 (2005年3月1日)
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J'p/ 11 前掲注8 判例 タイムズ1168号99貞 12 性 的暴 力事件 にお いて、被害者 に向け られ る 「疑 いの 目」、 「落 ち度」 を指摘す る声、女性 に対 して厳 しい貞操義務 が課せ られ、 「ふ しだ ら」 とみな されれ ば法的 に保護 しな い とい う、社会、 司法 の状況 に対す る指摘 として、宮地 尚子 「性暴 力 とPTSD」
『ジュ リス ト 特集 ジェンダー と法』1237号 (2003年1月 有斐 閣)170頁以下13 国 会 会 議 録 検 索 シ ス テ ム
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SSION=26359 14 続 けて松本議員 は 「強姦が、被害者 の人格や人間性 を著 しく否定す る点 で殺 人 に も劣 らな い重 大 な犯罪 であ るに もかかわ らず、懲 役刑 の下限が二年か ら三年 に引き上げ られただけでは、強 盗罪 の五年 に比べて も余 りに も軽 いのではな いで しょうか。- ・人の尊厳 に対す る侵害が物へ の侵害 よ りも軽 く扱われ た ままでよいのか」 として、南野知恵子法務 大 臣 (当時) に答弁 を求 めた。 これ に対 し、南野大 臣は 「強姦罪 の法定刑 につ いてお尋ねが あ りま した。 強姦罪 の法定刑 は刑 法 の中では重 い ものであ り、悪質な事件 につ いては強盗罪 と同 じ重 い刑 に処す る こともできま す ので、今 回の法改正 によ り、適正 な科刑 をな し得 る もの と考 えて います」 とした。 法定刑 の問題 に重点 がおかれ た。 15 犯罪 の厳罰化 に犯罪 の抑止 力がな い、 とい う指摘 は2(X沌 (平成16)年11月30日の参議院法務委 員会 10号 にお いて、神洋明参考 人 (弁護士 当時)が、 「例 えば、殺 人 を犯そ うとい う者が刑法 の 法定刑 の下限 を引き上 げ られたか らといって犯罪 を思 い とどまる ものでな い ことは、多 くの心 理学者が述べて いる」と指摘 した上で、「真 の犯罪対策 は、長期 的な視野 に立 って、犯罪が増 え た原 因等 を調査研究 し、そ の原 因を除去す るための政治的 ・経済的 ・社会的方策が検討 され る ところか ら始 め るべ きで あ ります。 犯罪 を犯 した者 に対 しては、社会復帰が可能 な刑務所 にお ける矯正処遇 と、犯罪者が社会 に戻 って きた ときに再 び犯罪 に手 を染めず に済 むよ うな、 これ らの人 を受 け入れ る社会資源 も不可欠であ ります。 人権 と大 きなかかわ りのある刑事罰の重罰 化 は、刑法 の謙抑性 か らして も補充的な形で検 討 され るのにす ぎな いもので あ」 る と述べて い る。 16 大塚 明参考 人は続 けて、「現在 の強盗罪、もっ と幅 を広 げて言 います と財産犯 について の 日本 の 法定刑は若干下 限が重 いので はな いか。そ の結果 として、強姦罪 あるいは性犯罪 と比較 して格 差 が あるよ うに見 える」 と述べた。 17 金城清子 教授 は、現在 の強姦罪規定 を 「被 害者 につ いて、性 に中立的な ものに改正 し、性交 と い う形態 での性 的 自由の侵害行為 につ いて、男女 を平等 に保護 して いかな けれ ばな らない」 と 主張 して いる (金城清子 「性 的 自由の保障 と強姦罪」『法学セ ミナー 430号』 日本評論社 19獣) 年10月32頁以下)。 君塚正 臣教授 も、 日本 国憲法14条 の平等原則 に基づ くな らば、 「性 中立的な 強姦罪でな けれ ば違憲」 で ある と主張す る (君塚正 臣 『性差別 司法審査基準論』信 山社 出版 1993年9月 245頁以下)