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向社会的行動を支える脳と遺伝子の働きを探る

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Academic year: 2021

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10 研究内容  慈善団体への募金や、震災復興の際のボランティア活 動といった、見ず知らずの他者に対する利他性(他者に 対する思いやり)は、人間を特徴づける傾向の一つで す。何故、人々は見ず知らずの他者に対して利他的に振 る舞うのかという問いに対し、進化的な観点からの説明 を行おうという試みが人類学者や経済学者などによって 2000 年代初旬から始まりこれまで多くの研究が行われ てきました。またそれと同時に、人々の向社会的行動(利 他行動、協力行動、信頼行動、罰行動)を支える脳、ホ ルモン、遺伝子の役割について検討する研究も数多く行 われるようになりました。  玉川大学社会心理学研究室では、町田市周辺に住む 20 代から 50 代までの成人、約 500 名を対象に、人々が 示す向社会的行動の生物学的基盤(脳の働きや遺伝子の 働き)を明らかにする研究を進めています。実験はこれ まで 8 回行われ、約 500 名の参加者が繰り返し実験に参 加しました。実験では、囚人のジレンマゲーム、独裁者 ゲーム、信頼ゲーム、公共財ゲームといった向社会的行 動を測定する経済ゲーム(お金のやり取り)を用い、性 格特性を測定する心理尺度、脳画像、遺伝子多型との関 連を検討しています。 向社会的行動と遺伝子  人々が示す向社会行動と関連する遺伝子として我々は まずオキシトシン受容体遺伝子( )rs53576 に注 目しました。 rs53576 は、オキシトシンという ホルモンの作用に関与する遺伝子の一つであり、オキシ トシンと同様に他者への信頼、共感性、養育行動といっ た人々が示す向社会性との関連が指摘されてきました。 rs53576 は第三染色体に位置し、AA、AG、GG という 3 つの多型があることが明らかになっています。 男子大学生を対象にしたこれまでの研究では、AA を持 つ人よりも GG を持つ人の方が信頼ゲームで他者を信頼 する傾向が高いことが明らかにされてきました。そこ で私たちは、20 代から 50 代といった幅広い年齢の男女 441 名を対象に、先行研究の結果が再現されるのかどう か、そして、 rs53576 と信頼の関連がより幅広 い年齢の人々でも見られるのかどうかを検討しました。  実験の結果、男性においては AA を持つ人よりも GG を持つ人の方が信頼ゲームで他者を信頼する傾向が高い という先行研究の結果が再現されましたが、女性におい ては rs53576 と信頼行動の間の関連は見られま せんでした。遺伝子と行動の関連はメカニズムが不明 な点が多いため、今後は MRI 装置によって撮像した脳 画像を含めた分析を行うことによって、 rs53576 がどのようなメカニズムを通じて信頼行動に影響を与え ているのかを検討する予定です。また信頼行動以外の向 社会的行動(利他行動、協力行動、罰行動)と関連する 遺伝子についても明らかにしようと考えています。 向社会的行動の発達的変化  私たちは一般人サンプルを対象とした実験だけではな く、子どもの向社会的行動の発達に関する研究も進めて います。人々が示す利他行動に関するこれまでの研究で 明らかになった重要な知見として、私たち人間は他者 研究室紹介 9

向社会的行動を支える

脳と遺伝子の働きを探る

高岸治人 研究室

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11 から監視されていると 他者に対して利他的に なる傾向を持っている という実験結果があり ます。興味深いことに、 実際に他者が監視して いるのみならず、人の 顔の写真、目の絵といった些細な刺激が提示された場合 でも、人々は影響を受け、他者に対して利他的になるこ とがわかっています。これらの結果は、人々は他者から の評価に敏感であり、それが悪くならないように気をつ ける傾向があることを示しています。これまでの研究で は、主に成人を対象にした研究のみが行われており、利 他行動における監視の効果が成人と同様に子どもでも見 られるのかどうかは明らか にされてきませんでした。 そこで、私は大学院生と一 緒に、5 歳の子どもを対象 に実験を行うことで、5 歳 児の子どもでは実際に他者 が目の前にいて監視してい る場合においては他者に対する利他性は促進されました が、目の絵といった刺激では利他性は促進されないこと を明らかにしました。今後は、何故、子どもと成人で利 他行動を促進する要因が異なるのか? そして、それを 支えている脳の働きの差について検討したいと考えてい ます。 研究体制 一般人サンプルを対象にした実験は、山岸俊男教授(一 橋大学)と共同で行い、数名のポスドク研究員、大学院 生などによって進められています。実験はすべて玉川大 学社会心理学研究室(玉川大学脳科学研究所施設)で行っ ています。参加者数が多いため、様々な研究スタッフが 一丸となって一つの実験を数ヶ月かけて行います。子ど もを対象にした実験は、岡田浩之教授と共同で進めてい ます。実験は、玉川大学にある赤ちゃんラボで行う場合 や玉川大学付近にある幼稚園、保育園で行う場合もあり ます。 略歴 2010 年北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。博 士(文学)。日本学術振興会特別研究員 PD(東京大学 大学院医学系研究科)を経て、2013 年より玉川大学脳 科学研究所・助教。専門は社会心理学。所属学会は、 日本社会心理学会、Society for Personality and Social Psychology など。

参考文献

• Nishina, K., Takagishi, H., Inoue-Murayama, M., Takahashi, H., & Yamagishi, T. (2015). Polymorphism of the Oxytocin Receptor Gene Modulates Behavioral and Attitudinal Trust among Men but not Women.

. 10 (10) : e0137089

• Fujii, T., Takagishi, H., Koizumi, M., Okada, H. (2015). The Effect of Direct and Indirect Monitoring on Generosity Among Preschoolers. , 5: 9025.

参照

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