教育におけるミメーシスに関する研究-Ch.ヴルフのミメーシス論における身体性に着目して-
89
0
0
全文
(2) 目次. 序章 第1節. 問 題. の 所. 在. ・. 第2節. 先. 行. 研. 究. の 検. 討. 第3節. 論. 文. 構. 成. ・. ・. 第 一 章. ・. ・ ・. と 本 ・. ・. ・. ・. 研. 究. ・. ・ ・. ・. の. 意 ・. ・. ・. 義 ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・ ・. ・. ・ ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・ ・ ・. ・ ・. ・. ・. ・. ・. ・ ・ ・. ・. ・ ・ ・. ミ メ ー シ ス概 念 の 誕 生 一 ミメ ー シ ス と して の芸 術 一. 第2節. ミメー シ ス概 念 の衰 退一. 第3節. ミ メ ー シ ス 概 念 の 復 活 一 近 代 理 性 へ の批 判 一 ・ ・ ・ ・ ・ ・. 第 二 章Ch.ヴ. 「 似 姿 モ デル 」 の否 定一. ヴル フ の歴 史 的教 育 人 間学. 第2節. ヴル フ の ミメー シス 概 念. 第3節. 認 識 論 と して の ミメー シ ス過 程. 第 三 章Ch.ヴ. ・ ・ ・ ・ …20∼21 …22∼29. ・30^-31. ・・. ・32^37. …. ・38^-42. ・43^-47. ・ ・ ・ ・・ ・ ・ …. ・48^-52. 第2節. 図像 の 拡 大. 第3節. 内 的 世 界 の形成. 第 四 章. ・ ・ ・ …16∼19. ・ ・ ・・ …. 生活 世 界 の美 学化. ・53^-56. ・ ・ ・ ・・ …. ミ メ ー シ ス の 身 体 性. 第1節. 「身 体 」 と い う 問 題 領 域. ・57^-64. ・・・・…. ・65^69. 意 識 的 ミ メ ー シ ス と無 意 識 的 ミ メ ー シ ス. 第3節. ミメー シ スの創 造 性. 章. 用. …14∼15. ル フ の 美 的 人 間形 成 論. 第1節. 引. ・ …4∼13. ル フ の ミメ ー シ ス論. 第1節. 終. …1∼3. ミ メ ー シ ス概 念 の歴 史. 第1節. 第2節. ・. ・. ・ 参. 考. ・. 文. ・. 献. ・. ・. ・70^-75. ・ ・・ ・ ・ ・ …. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. …. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・76^80. …81∼86.
(3) 序章 第1節. 問題 の所在. 本 研 究 の 目的 は 、Ch.ヴ ル フ の ミメ ー シ ス論 を 手 が か りと して 、新 た な 人 間 形 成 の あ り方 を 探 求 す る こ と に あ る。 そ の 主 要 な 論 点 は 、 主 体 の 自 己実 現 や 自 己成 長 の プ ロ セ ス と して 語 られ て き た 従 来 の 人 間 形 成 論 の 限 界 を 明 ら か に し 、 他 者 へ の 同 化 、 他 者 と の 差 異 化 とい う ミ メー シ ス の 過 程 の 中 で 自己 を 拡 大 させ る、 人 間 形 成 の 可 能 性 を示 す こ と に あ る 。 そ の 際 に 注 目す る の が 、 ミ メー シ ス の 身 体 性 で あ る。 ミメー シス とは 、一般 に 「 模 倣 」 と訳 され る 。 これ ま で 模 倣 に は 、 負 の イ メ ー ジ が付 与 され て き た 。 学 校 教 育 に お い て も 、 他 人 の 模 倣 は 個 性 の 欠 如 、 創 造 性 の 欠 如 の表 れ と して 排 除 され て き た(1)。 模 範 が示 す 所 与 の枠 組 み に 子 ど も を は め 込 む の は よ くな い と考 え られ て き た か らで あ る。 し か し 、 近 年 の 歴 史 的 人 間 学 の 研 究 に よ れ ば 、 ミ メ ー シ ス は 単 な る コ ピ ー と は 見 な され な い 。 例 え ば 、 「自 分 自 身 を 何 か に 似 せ る こ と 」(sich臧nlichmachen)、 (zurDarstellungbringen)、 る こ と 」(vorahmen)と 訳323頁)。. 「表 現 す る こ と 」(ausdr. ken)、. 「描 写 す る こ と 」. 「結 果 を 先 取 り し て 模 倣 す. い っ た 意 味 が そ こ に は 含 ま れ て い る の で あ る(ヴ. ル フ2008、. 松山. こ の よ うな 新 た な 定 義 が 示 唆 す る よ うに 、 ミメ ー シ ス を創 造 的 な過 程 と して捉. え な お す こ とが で き る な ら ば 、 そ こ か ら人 間 形 成 の 新 た な 可 能 性 が 切 り開 か れ る も の と考 え られ る。. ヴル フ は 、 人 間 形 成 を 「 広 義 の 美 的 人 間 形 成 、 ア イ ス テ ー シ ス(Aisthesis)に 形 成 、 内 的 な イ メー ジ の形 成 」(ヴ ル フ2005、. 高 松 訳148頁)と. よ る人 間. して 捉 え る こ と を 主 張 し. て い る。 そ う した 文 脈 に お い て 、 ヴル フ は 、 次 の よ うな ミ メ ー シ ス の 働 き を 明 らか に して い る 。 す な わ ち 、 人 間 は 、 自 らの 身 体 を 介 して 、 モ ノ や 人 、 世 界 とい っ た 「 他 者 」 に 自己 を 同 化 させ る こ と に よ っ て 、 「 他 者 」 の意 味 世 界 を 自 己 の 中 に 取 り込 み 、 「 他 者 」 を知 る と 同時 に 自己 と 「 他 者 」 の 差 異 を 明 らか にす る こ とが で き る。 ま た 、 人 間 は ミメ ー シ ス に よ っ て 習 得 した 事 柄 や 世 界 を 身 体 に よ っ て 表 現 す る こ とで 、 既 存 の 世 界 の 変 換 を も た らす 可 能 性 を 持 つ 。 つ ま り、 人 間 形 成 の 過 程 にお い て ミメ ー シ ス は 、 自 己 の 世 界 の 拡 大 と多 様 化 を も た らす だ け で は な く、 外 界 へ の働 きか け も 可 能 に す る の で あ る 。 しか し、 これ ま で の 人 間 形 成 論 は 、 西洋 中 心 の進 歩 史 観 、 一 元 史 観 に支 え られ た 「 進歩 」 や 「 発 達 」 を 自 明 の 前 提 と して き た 。そ こ で は 、 「 主 体 」が 目的 合 理 的 に 「自 己 実 現 」や 「自 己 成 長 」 を遂 げ て い く人 間 形 成 の あ り方 が 主 題 とな っ た。 人 間 形 成 論 が 目指 す 「人 間 」 を. 1.
(4) 問 題 とす る 人 間 学 に お い て も 、 そ の 人 間 像 は 、 近 代 の 理 性 、 主 体 中心 の 思 考 シ ス テ ム に よ っ て 支 配 され て い た(M.ヴ. ィ マ ー2001、140頁)。. しか し、す で に ニ ー チ ェ の 生 の哲 学 や フ. ッ サ ー ル の 現 象 学 、 ハ イ デ ッガ ー の 基 礎 的 存 在 論 、 シ ェ ー ラ ー の哲 学 的 人 間 学 な どは 、 い ず れ も人 間 の 直 線 的 な 発 達 観 を支 え る西 洋 中心 の 進 歩 史 観 、 一 元 史 観 に 疑 問 を提 示 して い た 。 ま た 、 特 にM.フ. ー コー の 『言 葉 と物 』(1974)以. 降 、 これ ま で 自 明 視 され て き た 「 人. 間 な る も の 」 の 虚 構 性 も 明 らか に され 、 そ こか ら、 こ の 「 人 間 な る もの 」 へ と 向 か う人 間 形 成 の プ ロセ ス も ま た 「 大 き な 物 語 」 で あ っ た こ とが 、 リオ タ ー ル を は じめ とす る ポ ス ト モ ダ ン論 者 らに よ っ て 指 摘 され る こ と と な った 。 こ う した 思 想 状 況 の 下 で 、 現 代 の 教 育 人 間 学 は、 「 人 間」 と 「 人 間 形 成 」 とい う双 方 の 概 念 を新 た に構 築 す る必 要 に 迫 られ て い る の で あ る。 ま た 、 従 来 の 人 間 形 成 論 に お い て は 、 デ カ ル ト以 降 の 心 身 二 元 論 思 想 を基 盤 に して 精 神 や 知 性 の 酒 養 が 目指 され て きた(,)。そ の た め 、 身 体 は 機 能 的 ・客 観 的 に捉 え られ 、軽 視 され て き た 。 も ち ろ ん 、 身 体 を教 育 の 中 心 に 据 え、 こ の 心 身 二 元 論 の 克 服 を試 み た 汎 愛 派 や プ ラ グ マ テ ィ ズ ム の 教 育 実 践(3)を 看 過 す る こ とは で き な い 。 しか し、 一 般 的 に言 え ぱ 、 近 代 に お い て 身 体 は 労 働 と結 び 付 け られ 、 労働 の 資 本 と し て道 具 的 に 扱 わ れ た と言 え る 。 今 目に お い て も な お 、 教 育 現 場 に お い て は言 語 的 知 識 が 重 視 され 、 身 体 は 「 悲 鳴 を あげ てい る」 状 態 に あ る と言 っ て も よ い ④。 そ こで本 研 究 で は、本 来社 会形 成 や知識 形成 の基 礎 としての意 味 を持 ってい た ミメー シ ス 概 念 の 身 体 性 に着 目 し、 身 体 を介 した ミメ ー シ ス過 程 を人 間 形 成 過 程 と して 捉 え な おす 。 そ の こ とに よ っ て 、 近 代 教 育 に よ っ て 見 落 と され て き た 人 間 形 成 の諸 側 面 を 明 ら か に し、 そ こ に 新 た な 人 間形 成 の あ り方 を 求 め たい と思 う。. 註 (1)例 え ば 、奥 美 佐 子 「 保 護 者 ・小 学 校 教 諭 の子 どもの 描 写過 程 に お け る模 倣 に対 す る意 識 調 査一 模 倣 の位 置 づ け と対 処 法 に つ い て一 」『名 古屋 柳 城 短 期 大 学紀 要 』 第29号. 、2007年. 、49-59頁. 。. (2)例 え ば生 田 久美 子 は 、 ギ リシ ア のテ ア イ テ トス の 「真 実 な る思 い な し に言 論 を付 け加 え た もの 」 とい う 知 識 の規 定 が 、 現 代 にお い て も知 識 観 と して 受 け継 がれ て い る と指 摘 す る。 そ して現 代 の学 校 教 育 に お い て も、 知 識 は言 語 活 動 に よっ て計 られ る こ とを指 摘 して い る(生 田1999、174-175頁)。 (3)例 え ば 、18世. 紀 に お け る汎 愛 派 に よ る 「 体 育(K. rperezriehung)」. は 、 身 体 の 形成 を 目指す 運 動(ギ. ム ナ ス テ ィー ク)に よ る全 人 形 成 を理 念 と して掲 げ て い た。 しか しそ れ は結 局 、身 体 を 支配 す る こ とに よ. 2.
(5) っ て 、 自立 的 な 主 体 を 形 成 す る こ と を 目 的 と し て お り 、 そ の 意 味 で 身 体 の 道 具 的 使 用 に す ぎ な か っ た(釜 崎2007、48頁)。. 成 田 十 次 郎 『近 代 ドイ ツ ・ス ポ ー ツ 史1学. 校 ・社 会 体 育 の 成 立 過 程 』 不 昧 堂 、1997. 年参 照 。 (4)鷲 田 清 一 は 、 『悲 鳴 を 上 げ る 身 体 』 の 中 で 、 自分 の 「自 然 」 す な わ ち 身 体 を 傷 つ け る こ と な し に は 自分 の 存 在 を 確 認 し に く く な っ て い る 状 態 を 、 《パ ニ ッ ク ・ボ デ ィ 》 と名 づ け て い る 。 例 え ば 若 い 女 性 の ダ イ エ ッ トや 、 異 常 な ほ ど の 健 康 志 向 に 代 表 され る よ う な 、 「 観 念 で が ち が ち に な っ た 身 体 」(鷲 田1998、36頁) の こ とで あ る。. 3.
(6) 第2節 1.ド. 先 行 研 究 の検 討 と本 研 究 の 意 義 イ ツ に お け る美 的 人 間形 成 論 の 研 究 動 向. 教 育 学 に お け る 「ポ ス トモ ダ ン 」 論 が 活 発 に 議 論 され る よ うに な り、 近 代 教 育 の 、 さ ら に は 教 育 そ の も の の 自明性 が 疑 わ れ る よ うに な っ た 。 と りわ け ドイ ツ に お い て 、1980年. 代. 半 ば以 降、教 育 学 にお け る 「 ポ ス トモ ダ ン」 的 主 張 へ の様 々 な 対 応 が な され て きた(1)。さ ら に 、90年. 代 に お け るポ ス トモ ダ ン論 議 は 、 三 っ の 関 心 に よ っ て 方 向 付 け られ て い る とい う. (今井1992、365頁)。 ま ず 第 一 に 、 近 代 教 育 思 想 史 の 再 構 築 を 目指 す よ うな 、 思 想 史 研 究 へ の 関 心 が 挙 げ られ る 。 そ う し た 再 構 築 の試 み は 、 ポ ス トモ ダ ン論 議 の 中 に お い て 積 極 的 に な され た 教 育 学 の 相 対 化 を 起 点 と して い る(今 井1992、365頁)。. 第 二 に 、ハ ー バ マ ス や ル ー マ ン に よ っ て 提. 唱 され た シ ス テ ム論 へ の 関 心 で あ る 。 シ ス テ ム 理 論 を 教 育 学 に 取 り入 れ る こ と に よ っ て 、 教 育 的 な も の一 例 え ば 「 授業 」や. 「 理 解 」 とい っ た も の一 に 対 す る 、 因 果 論 的 で も 目的 論. 的 で も な い 説 明 可 能 性 を得 る こ と が で き る か ら で あ る(今 井1992、368-370頁)。. そ して. 最 後 に 、「 美 的 な も の 」へ の 関 心 で あ る。例 え ば 、「 『美 的 な も の』 に依 拠 す る こ とに よ っ て 、 近 代 の 否 定 的 側 面 に 対 す る何 らか の教 育 学 的対 応 を構 想 し よ うとす る」K.モ やD.レ. ン ツ ェ ン 、Ch.ヴ. レン ハ ウア ー. ル フ らの試 み は 代 表 的 で あ る(今 井1992、366頁)。. 「 美 的 な も の 」、 と りわ け芸 術 が 人 間 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て は 、 す で に 古 代 か ら問 われ て き た。 さ らに18世. 紀後 半以降 、 「 内 面 形 成 の プ ロ セ ス 」(ヴ ル フ2005、133頁)と. 「 美 的 人 間 形 成 論 」 が成 立 した(、 》 。 例 えば 、Rシ. して の. ラー は、 「 美 的 な も の 」 に よ る人 間 形 成 に. よっ て 「 理 性 と感 性 の融 和 」、 「自 己 自身 と の人 間 の 内 部 分 裂 の 解 消 」、 「自 由 の 経 験 」 が 達 成 され る と考 え た(パ ル メ ンテ ィエ ー2007、 今 井 訳139頁)。. シラー に とって 「 美 的 な もの 」. と は 、 人 間 を 道 徳 的 か つ 理 性 的 な 存 在 へ と高 め 、 ま た 同 時 に 内 的 調 和 の 保 た れ た 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 備 え た 存 在 に す る と い う可 能 性 を持 つ も の で あ り、 さ らに は 人 間 を理 性 国 家 に ふ さわ しい 政 治 的 存 在 に す る た め の 手 段 で あ っ た とい え る(パ ル メ ンテ ィエ ー2007、 今 井 訳139頁. 、 野 平2007、105頁)。. しか し この よ うな 美 的 教 育 は 、 芸 術 に社 会 的 、 政 治 的 な 有 用 性 を 求 め 、 「 政 治 的 な もの の 改 善 の た め の 手 段 」 と して の役 割 を 与 え た こ とに 問 題 が あ る と し て い る(パ ル メ ン テ ィエ ー2007. 、 今 井 訳140頁)。. 教 育 にお い て 、 美 的 な 作 用 の 有 用 性 は 期 待 で き な い だ け で な く、. 目的 合 理 的 な 授 業 活 動 に お い て も折 り合 い が付 か な い もの で あ る こ とは 既 に 指 摘 され て い る。 そ れ は 、 古 典 的 な 美 術 教 育 と芸 術 実 践 を 乗 り越 え よ う とす る試 み で あ っ た バ ウハ ウス. 4.
(7) に お け る 実 践 や 、 ミ ュ ー ズ 教 育 、 解 放 教 育 の 失 敗 な ど か ら も 明 ら か で あ る(,)。. しか しな が ら 、 近 年 再 び ドイ ツ に お い て 「 美 的 な も の 」 へ の 関 心 が 高 ま りつ つ あ る。 そ れ は 例 え ば カ ン トが 感 性 を理 性 と悟 性 よ りも 低 位 に位 置 づ け 、 「 美 的 な もの 」 に よ っ て科 学 的 合 理 性 を 補 完 し よ う とす る試 み で は な く、 近 代 的 理 性 の 他 者 と して の 「 美 的 な も の」 に よ っ て 科 学 的 合 理 性 を 包 括 し、 理 性 と非 理 性 との 境 界 を 問 い 直 し、 人 間 と世 界 との 関係 や 人 間 の 行 為 把 握 の よ り広 い 枠 組 み を 見 出 そ う と して い る の で あ る 。 つ ま り、 近 年 の 人 間 形 成 、 また は教 育 にお け る 「 美 的 な もの」へ の関心 は、 「 美 的 な も の 」 を 教 育 の本 質 的 構 成 要 素 と して 捉 え る教 育 哲 学 的 視 点 か ら、 そ の 人 間 形 成 一 般 に と っ て の意 義 を 問 い 直 し、 「 美的 な も の 」を近 代 教 育 お よび 教 育 学 の 自明性 を 問 い 直 す 契 機 と して 捉 え る こ と こ ろ に あ る(今 井1992、367頁,西. 村1996、362頁,野. 平2007、110頁)。. 例 え ば ヴル フ は 、 科 学 的 な も の に対 す る 美 的 な も の 、 とい う区 別 以 前 の 人 間 の 根 源 的 な 対 象 との 関 係 を 「ミ メ ー シ ス 」 概 念 に 見 出 し、 人 間 の 行 為 理 解 の 準 拠 枠 と して 復 権 させ る こ と に よ っ て 、 他 者 の 道 具 的 使 用 や 対 象 と の道 具 的 関係 を 克 服 す る こ と を試 み て い る(ヴ ル フ2001、. 今 井 訳44頁,今. 井1992、366頁)。. ま た レ ン ツ ェ ン は 、 ア リス トテ レス 以 降 、. 芸 術 や 陶 冶 が 対 象 の 製 作 と して 理 解 され て き た 以 上 、 科 学 に よ る 自然 支 配 と同 様 の 構 想 を もつ も の で あ っ た と指 摘 す る 。 そ の 上 で 、 現 実 の 存 在 とイ デ ア との 「 分 有(Teilhabe)」 い う意 味 を 持 つ. 「メテ ク シ ス 」 概 念 を用 い る こ と に よ っ て 、 芸 術 と陶 冶 を 「主 観 と世 界 と. の 双 方 向 の構 成 作 用 」(野 平2007、110頁)と 375-376,野. と. して 捉 え な お す こ とを 主 張 す る(西 村1996、. 平2007、109-110頁)。. 一 方 モ レ ンハ ウア ー は. 、「 美 的 な も の」 を科 学 的 合 理 性 に対 立 す る もの と して 捉 え る の で. は な く、ハ ー バ マ ス が 「 近 代 とい う未 完 の プ ロ ジ ェ ク ト」 と呼 ん だ 「 真 ・善 ・美(真 実 性 ・ 正 当 性 ・美)の. 三 領 域 を分 化 させ 、 そ れ ぞ れ を 高 度 に発 展 させ た うえ で 、 コ ミュ ニ ケ ー シ. ョン 的 理1生へ と統 合 して い く過 程 」(西 村1996、. 頁)と. しての 「 近 代 」 を 前 提 と して 、 「 美. 的 な も の 」 が 教 育 お よび 教 育 学 に 対 して い か な る可 能 性 を示 し う る の か とい う こ と を 問題 に して い る。 そ れ 以 外 に も 、 現 象 学 的 心 理 学 の 立 場 か ら 、 人 間 形 成 の 身 体 的 、 感 覚 論 的 基 盤 に 注 目す る リ ッ テ ル マ イ ヤ ー(Rittelmeyer,C)の. 研 究 や 、 ア リ ス トテ レ ス の 感 性 論 に 立 ち 返 り 、 近. 代 美 学 を 乗 り越 え るた め 、 美 学 を ア イ ス テ ー シ ス の 論 と して 再 確 立 しよ う とす る ヴ ェル シ ュ(Welsch,W)の. 試 み な ど もあ る。. 5.
(8) 2.日. 本 に お け る 美 的 人 間 形 成 論 の 研 究動 向. ドイ ツ に お け る ポ ス トモ ダ ン論 議 は 日本 の 教 育 学 研 究 に も多 大 な影 響 を 与 え て お りω、特 に 「 美 的 な も の 」 へ の 関 心 は 、 ドイ ツ語 圏 の 美 的 人 間 形 成 論 の 伝 統 へ の 関 心 か ら 引 き続 き 高 い とい う こ と が で き る。 今 井 は 日本 の 教 育 学 研 究 に お い て 「 美 的 な も の」へ の 高い 関心 は 、 思 想 史 的 ・文 化 比 較 的 関 心 と、 現 代 的 な 関 心 と の 結 び っ き に よ る も の で あ る とい う。 思 想 史 的 ・文 化 比 較 的 関 心 とは 、 と りわ け ドイ ツ に お い て 美 的 人 間 形 成 論 の 構 想 が 歴 史 的 に も 、 論 理 的 に も展 開 され 、 受 容 され た こ とへ の 関 心 と、 日本 に お い て も 「 芸 道 」 とい う 言 葉 が 示 す よ うに 、 日本 に お い て も美 的 な も の の 人 間 形 成 論 的 な 意 味 を 想 定 す る伝 統 が あ る こ とか ら く る 文 化 比 較 的 な 関 心 の こ とで あ る。 ま た 、 現 代 的 関 心 とは 、 「日常 生 活 の美 学 化(トsthetisierungdesAlltagslebens)」 今 井(1997)は. とい う現 状 認 識 か ら来 る も の で あ る とい う。. 、 学 問 レベ ル の み な らず 日常 レベ ル に ま で 及 ぶ 美 的 な も の の 比 重 の 増 大. を 「 生 活 の 美 学 化 」 と呼 び 、 そ の 一 翼 を担 う映 画 や テ レ ビ と い っ た メ デ ィ ア に 着 目 し、 美 的 な も の の 経 験 が 人 間 形 成 に い か な る 意 味 を 持 つ か とい う こ と を 考 察 して い る⑤。 ま た 、藤 川(2001)は. 、 芸術 家 を 「 第 三者 」 と して 学 校 内 に 呼 び 寄 せ る こ とで 「 荒 れ た」 学校 を立. て 直 す こ と に 成 功 した 実 践 の 内 に 、 近 代 教 育 を乗 り越 え て い く新 た な 人 間 形 成 の 可 能 性 を 探 求 して い る 。 そ の 他 に も 、 日本 の伝 統 的 な 「 芸 道 」 に お け る 人 間 形 成 プ ロ セ ス か ら、 自 己 形 成 は 内 的 世 界 と外 的 世 界 の 関 係 、 な い し接 触 の 質 に よ っ て 規 定 され る とい う立 場 を示 した 、 西 村(2008)の. 研 究 な どが あ る(6》 。. 本 研 究 は ヴル フ の ミ メー シ ス 論 に 依 拠 し な が ら、 従 来 の 人 間 形 成 論 に お い て ほ と ん ど注 目が な され て こ な か っ た 模 倣 に 着 目 し、模 倣 過 程 に お け る 身 体 性 とそ の 創 造 性 か ら新 た な 人 間 形 成 の 可 能 性 を探 る も の で あ る。 「 美 的 な も の 」 に よ る 近 代 教 育 の 乗 り越 え を 目指 す 点 に お い て 上 記 の 研 究 と問 題 を 共 有 して い る。 しか し 、 ヴル フ の 美 的 人 間 形 成 論 は 、 従 来 の 美 的 人間形 成 論 が 「 美 的 な もの 」 の 対 象 と して き た 芸 術 作 品 に 限 る もの で は な く、 歴 史 的 ・ 文 化 的 な 行 動 形 態 を もそ の 対 象 と し て い る と こ ろ に 特 徴 が あ る。 そ こ で 、 本 研 究 で は ヴル フ の ミ メ ー シ ス論 に お け る 身 体 性 に着 目 し、 人 間 形 成 の あ り方 を考 察 す る こ とにす る。. 3.日. 本 に お け る ミメ ー シ ス に 関 す る 先 行 研 究. 近 年 、 美 的 な も の や 芸 術 に 注 目が 集 ま る 中 で 、 日本 の 教 育 学 にお い て も 、 ミメ ー シ ス概 念 に 言 及 した 研 究 が 多 くな され て い る(,)。 そ の領 域 は 多 岐 に 渡 っ て い るが 、 大 き く三 つ に 分 類 で き る だ ろ う。 す な わ ち、. 6.
(9) ①. 教育を 「 物 語 」 と して 捉 え る物 語 論 に お け る ミメ ー シ ス 研 究 と、. ②. 近 代(主. ③. ミメ ー シ ス の身 体 性 に着 目 した研 究. 観 主 義)批. 判 と して の ミメ ー シス 概 念 の復 権 を 唱 え る研 究 、 そ して. で あ る 。以 下 、① に 関 して は 鈴 木 剛 「 経 験 と ミメ ー シ スー 教 育 の 物 語 論 的 考 察 へ 」(1996)、 ② に 関 して は 久 保 田健 一 郎 「 人 間 生 成 論 研 究 序 説 一 自然 ・美 ・ミメ ー シ ス 」(2005)、 関 して は小林 恭. 「ミ メ ー シ ス と人 間 形 成 一 存 在 論 的 陶 冶 論 へ の 序 一 」(1996)を. ③に. 取 り上 げ 、. 本 研 究 の 特 徴 を 明 らか にす る。. ① 教育 を 「 物 語 」 と して 捉 え る物 語 論 に お け る ミメ ー シ ス 概 念 例 え ば 、 鈴 木(8)は、 教 育 を 物 語 論 と して と ら え 、 ア リ ス トテ レ ス と リ ク ー ル の ミ メ ー シ ス 論 に 依 拠 し な が ら 、 ミメ ー シ ス に 教 育 的 意 義 を 見 出 して い る。 鈴 木 は ミ メー シ ス を 行 為 と 教 育 関 係 行 為 と の 類 比 的 思 考 を 許 す 媒 介 的 概 念 」(鈴 木1996、471頁)と. 「物 語. して 、 ア リ. ス トテ レ ス が 示 し た 美 的 制 作 に お け る 〈 模 倣 〉 と い う意 味 を 超 え て 、 物 語 行 為 へ と 連 な る 概 念 と して 捉 え る。 さ らに 鈴 木 は 、 「 作 者 ・テ ク ス ト ・読 者 」 間 で な さ れ る 相 互 作 用 で あ る 「ミ メ ー シ ス の 循 環 」(・)(鈴 木1996、483頁. 〉を. 「大 人 ・テ ク ス ト(物. 語)・ 子 供 」 と の 間. に 生 じ る 教 育 的 関 係 と して 考 察 す る。. リ ク ー ル の い う 「ミメ ー シ ス の 循 環 」 と は 、 テ ク ス トを創 造 す る作 者 が 行 う ミ メ ー シ ス (ミ メ ー シ スII)と. そ れ を 受 容 す る 読 者 に よ る ミメ ー シ ス(ミ. メ ー シ ス 皿)と. の相 互作 用. の こ とで あ る 。 リ クー ル に よ る と、 これ ら性 質 の 異 な る ミ メ ー シ ス の 前 過 程 と し て 、 作 者 と読 者 との 双 方 が 前 提 に して い る行 為 の 世 界 の 前 提 理 解(ミ シ ス1を. メ ー シ ス1)が. あ る。 ミメ ー. 前 提 と して ミ メ ー シ スIIと 皿 が遂 行 され る。 ま た ミ メ ー シ ス 皿 に お い て 読 者 が 作. 者 の 物 語 の 筋 を 理 解 し、 テ ク ス トが 示 す 主 題 や 思 想 を 自身 の 状 況 に 即 して 解 釈 す る こ と を 通 し て 、 新 た に 前 提 とな る 世 界(ミ か ら ミ メ ー シ スH、. メー シ ス1)を. 再 形 成 す る。 こ の よ うな ミ メ ー シ ス1. ミメ ー シ ス 皿 を 経 て 新 た な ミ メ ー シ ス1の 形 成 とい う循 環 の こ とを リ. クー ル は 「ミメ ー シ ス の 循 環 」 とい っ た の で あ る 。 鈴 木 は、 「 作 者 ・テ ク ス ト ・読 者 」 の 関 係 構 造 を. 「大 人 ・テ ク ス ト ・子 供 」 と し て 捉 え る. こ と に よ っ て 、 リ ク ー ル の 物 語 論 を 教 育 論 と し て 捉 え な お す 。 行 為 の 筋 を 語 り、 創 造 す る 作 者 と し て の 大 人 は 、 悲 劇 の 持 っ 「普 遍 性 」(1。)を 持 っ た 物 語 を創 造 し な け れ ば な らな い。 こ の 物 語 が ミ メ ー シ ス 的 な創 造 性 を 持 っ こ とが で き る の は 、 子 ど も が 浄 化 」(鈴 木1996、486頁)を. 「カ タ ル シ ス=感. 情の. 実 現 した とき で あ る。 カ タ ル シ ス の 実 現 が され た物 語 は 、行. 7.
(10) 為 を 単 な る 再 編 成 す る だ け で は な く、 行 為 を 高 め る よ うに 再 構 成 す る の で あ る 。 カ タル シ ス の 実 現 を 目指 す 考 察 は 、 「 大 人 の 物 語 能 力 と子 ど も側 の物 語 能 力(受. 容・ 構 想)相. 互 の問. 題 」 と して 教 育 論 の 中 で 考 察 す る こ とが 可 能 な の で あ る。 鈴 木 は 教 育 そ の も の を物 語 と捉 え 、 物 語 る 大 人 と受 容 しつ つ 再 構 成 す る 子 ど も 関係 を ミメ ー シ ス に よ る 相 互 関 係 に お い て 説 明 し よ う と し て い る。 さ らに 神 話 や 夢 や 幻 想 とい っ た 無 意 識 的 な 物 語 も同 様 に教 育 的 作 用 と して 働 い て い る こ と も指 摘 す る。 鈴 木 は 教 育 を物 語 論 的 な 観 点 か ら、 大 人 の 示 す 行 為 の 筋 を 子 ど もが ミ メ ー シ ス 的 に再 構 成 し て い く過 程 とす る。 こ こで は 子 ど も が カ タ ル シ ス を 実 現 し、 よ り高 貴 な 物 語 と して 作 り変 え る た め に 、子 ど もの 「 心 的 な 成 長 」(鈴 木1996、489頁)が. 求 め られ る の で あ る。 す. な わ ち 、 子 ど も が 物 語 を 理 解 し、 再 構 成 す る 能 力 の 養 成 が 問 題 と な っ て く る。 鈴 木 は い か に して 子 ど も の 能 力 を 高 め る か とい っ た こ とは 言 及 して は い な い 。 鈴 木 は 無 意 識 的 な ミメ ー シ ス の 次 元 に お け る教 育 作 用 の 重 要 性 を 見 て い る か らで あ る。 無 意 識 的 な ミ メ ー シ ス の 次 元 に お け る 、 文 化 や 制 度 や 慣 習 に規 定 され た 物 語 へ の 考 察 が 必 要 で あ る とい う。 ヴル フ の ミ メ ー シ ス 論 は物 語 論 的 な ア プ ロー チ で は な い が 、 文 化 や 制 度 、 慣 習 と い っ た 歴史的・ 文 化 的 な も の の 多義 性 や 差 異 性 を保 持 しつ つ 、 新 し く作 り変 え る こ とを 目指 して い る 点 に お い て 、鈴 木 と 目的 を 共 有 して い る と言 え る。 しか し、行 為 の 筋 と して の 物 語 に は、 生 身 の 身 体 に よ っ て 行 為 を 自 らが 遂 行 し、 自 己 と の 反 省 的 な 関 わ りを 可 能 とす る と い う視 点 が 欠 け て い る の で は な い だ ろ うか。 本 研 究 は 、 行 為 の 筋 を 自 らが 振 舞 うこ と に よ っ て 生 ま れ る創 造 性 に 着 目す る こ と に よ っ て 、 物 語 を新 た に 作 りか え る 契 機 とな る こ と を示 す も の で あ る。. ② 近 代(主. 観 主 義)批. 判 と して の ミ メ ー シ ス概 念 の 復 権. 久 保 田(11)は 、従来 の教 育学 を 「 形 成 の教 育 学 」 と名 づ け 、 そ の 根 源 的 暴 力 性 を 明 らか に し た 上 で、新 た な 「 生 成 の 教 育 学 」 を構 想 す る。 「 生 成 の 教 育 学 」 と は 、 幼 児 期 に 獲 得 す るイ マ ー ゴ の 力 に よ っ て構 造 化 され た 、 欲 望 に よ っ て 生 き る 「 脆 弱 な 主 体 」 の 生 成 や 変 容 の作 用 へ の 思 索 が 中 心 的 な 位 置 を 占 め る教 育 学 の こ とで あ る。 久 保 田 は 、 形 成 の 教 育 学 が 人 間 の主体を 「 脆 弱 な 主 体 」 と して 認 め て こ な か っ た と こ ろ に 問 題 が あ る と指 摘 す る。 そ の 上 で 久 保 田 は 、 ヴ ル フ の ミ メー シ ス 論 に依 拠 しな が ら、 こ の 「 脆弱 な主体 」 の生成 過 程 にお い て 、 「主 体 か ら対 象 へ の支 配 的接 近 を乗 り越 え た 関係 を 可 能 に す る」 ミ メー シ ス が 重 要 な 役 割 を果 た す とす る(久 保 田2005、166頁)。. しか も、 これ ま で 教 育 され る側 の 変 容 が議 論. 8.
(11) の 中 心 と され て き た の に対 し、 「 生 成 の教 育 学 」 で は 、 教 育 す る側 、 大 人 側 の 変 容 を も思 索 の 対 象 と され る の で あ る。 よ り具 体 的 に言 え ば 、 久 保 田 は 、 「 形成 の教 育学 」 におい て 「 教 育 の 必 要 性 と可 能 性 」 の 根 拠 と して 語 られ て き た ア ヴ ェ ロ ン の 野 生 児 を 描 い た 、F.トリュ フ ォ ー の 映 画 『野 生 の 少 年 』 を用 い て 、 こ の 作 品 の 監 督 兼 主 役 で あ る トリュ フ ォ ー に お け る ミ メー シ ス過 程 に 着 目す る。 久 保 田 に よ る と 、 トリ ュ フ ォ ー は 教 育 者 イ タ ー ル を演 じな が ら、 教 育 され る側 の 野 生 児 に ミメ ー シ ス し て しま う。 そ の 一 方 で 、 監 督 と して の役 割 を果 た す こ と に よ っ て 、 再 び 教 育 者 、 製 作 者 へ と戻 っ て く る。 そ こ で は 教 育 す る側 と され る側 、 とい う教 育 関 係 が崩 壊 し て お り、 さ らに 、 ト リュ フ ォ ー が 役 者 と して で は な く、 監 督 と して の 役 割 を 果 た す こ とに よ っ て 、 新 た な 作 品 が 作 られ て い る 、 と され る 。 す な わ ち 、 教 育 す る 側 の 教 育 され る側 へ の ミ メー シ ス に よ っ て 、既 存 の 教 育 関係 や 教 育 観 の 崩 壊 が 起 る 。 さ ら に 、 自身 が あ く ま で も 教 育 す る 側 に い る とい う事 実 を 肯 定 す る こ と に よ っ て 、 以 前 とは 質 の 異 な る教 育 観 が 現 れ る とい うの で あ る。 これ ま で の 教 育 関係 論 にお い て も、 教 師 一生 徒 の 教 育 的 関 係 は 教 師 に よ る 生 徒 支 配 とい う権 力 関 係 が 指 摘 され 、 批 判 され て き た 。 久 保 田 の 研 究 も、 教 育 的 関 係 の 見 直 し を 迫 る意 図 が あ る。 ま た 久 保 田 は 、 ミ メー シ ス に よ っ て 教 師 自身 が も つ 教 育 関 係 や 教 育 観 の 転 換 が な され る こ と を 明 らか に して い る。. ③ ミ メー シ ス の 身 体 性 へ の 着 目 必 ず し も教 育 学 にお け る ポ ス トモ ダ ン論 議 の 文 脈 に 属 す る と は 言 え な い が 、 ミメ ー シ ス にお ける 「 ふ るまい」 と 「 語 り」 に 言 及 した 研 究 と して小 林(1の が あ る。 小 林 は 、 ア リス トテ レ ス の 『詩 学 』 と ガ ダ マ ー の 芸 術 論 を ひ き な が ら、 ミ メ ー シ ス 概 念 を 「 人 間経 験 の根本様 式 あ る い は 実 存 様 式 」(小 林1996、279頁)と へ の 変 容(verwandlung)」 (m騁amorphose)」(13)概. 定 義 す る。 そ して 小 林 は 、 ガ ダ マ ー の 「 形態. 概 念 と 同 義 と捉 え た メ ル ロ=ポ. ン テ ィ の 「メ タ モ ル フ ォ ー ゼ. 念 に 、 知 覚 に お い て 既 に 開 始 して い る ミメ ー シ ス の 本 質 を 見 出 し. て い る。 メ ル ロ=ポ ン テ ィ は 、 「 画 家 を通 して 世 界 を絵 画 に 変 え る メ タモ ル フ ォ ー ゼ 」、 「 画 家 自身 が 揺 藍 期 か ら成 熟 に お い て 変 わ っ て い くメ タ モ ル フ ォ ー ゼ 」、 「 過 去 の あ る種 の作 品 に 、 そ れ ぞ れ の 時 代 に 応 じた 新 しい 現 代 的 意 味 を 与 え る こ と に よ っ て 作 品 が 変 わ る メ タ モ ル フ ォ ー ゼ 」の 三 っ の 局 面 を示 した。 小 林 は これ ら三 つ を そ れ ぞ れ(1)「 と し て の 世 界 か ら作 品 へ の変 身 、(2)自. 存 在 の本 質 呈示 」. 己 が 本 来 あ るべ き 自己 に な る とい う意 味 の 自己 か. 9.
(12) ら 自 己 へ の 変 身 、(3)作. 品 か ら作 品 へ の 変 身 とい う三 つ の 局 面 と解 釈 し、 これ ら の 局 面 が. 一 つ に 結 び つ く こ とに よ っ て 人 間 の 経 験 の 根 本 様 式 と して の ミ メ ー シ ス が 構 成 され て い る とす る(小 林1996、282頁)。 まず 、 一つ 目の 「 世 界 か ら作 品 へ の 変 身 」 とは 、 画 家 の 描 く作 品 に よ っ て 世 界 が 一 つ の 作 品 へ と変 容 し、 「 世 界 の本 質 」(小 林1996、280頁)が. 示 され た こ とを 意 味 す る。 次 に 「自. 己 か ら 自 己へ の 変 身 」 と は 、 芸 術 家 自身 が 、 っ ま り人 間 が 世 界 との 出 会 い を通 して 、 世 界 に ふ さわ しい 存 在 へ と 自 己 を変 容 させ る こ と を意 味 し て い る。 存 在 す る もの と の 出 会 い を 通 し て 、 本 来 あ る べ き 自 己 を復 活 させ る こ と を意 味 し て い る。 そ して 「 作 品 か ら作 品 へ の 変 身 」 とは 、 過 去 の 作 品 とい っ た 過 去 か ら存 在 して い る も の が 、 時 代 的 空 間 的 状 況 か ら新 し く作 り変 え られ る こ と を意 味 す る。 こ の よ うな 三 っ の 局 面 か らな る 変 容 が ミメ ー シ ス を構 成 して お り、 ミメ ー シ ス の 過 程 に 含 ま れ る 「自 己超 出 的 秘 義 」 を陶 冶 論 に お け る 人 間 経 験 に も適 用 す る こ とを 主 張 す る。 さ らに 、 小 林 は 、 「メ タモ ル フ ォ ー ゼ 」 を 西 谷 の 「うつ し論 」 と重 ね 合 わせ 、 ミ メ ー シ ス を 実 現 す る た め の 条 件 と して 「 我 が 空 ぜ られ る こ と」(小 林1996、286頁)を. 導 く。 ミメー. シ ス の 自覚 的 な 遂 行 の た め に は 「 空 と して の 我 、無 と して の 我 の 自 覚 」(小林1996、286頁) が 必 要 で あ る とす る。 そ して の 陶 冶 論 の 立 場 に お い て 「自覚 」 を 問 題 に す る。 小 林 は 、 上 田 閑 照 の 「自覚 」 概 念 か ら、 「自覚 」 は具 体 的 な 場 所 に お い て 生 じ、 ま た 自己 が 今 自 分 を於 い て い る場 所 か ら、 よ り広 い 場 所 へ と開 か れ る 動 性 とそ の 反 復 の こ とで あ る と定 義 付 け る。 っ ま り小 林 に よ る と、 具 体 的 な 状 況 にお い て 、 常 に 動 的 な 「自覚 」 の 状 態 の うち に 、 す な わ ち 自我 を虚 空 とす る とい う条 件 が 満 た され た 時 、 自 己 の本 質 呈 示 と して の真 の ミメ ー シ ス が 達 成 され る とい う。 小 林 は 陶 冶 理 論 の第 一 原 理 と して ミメ ー シス を 人 間 の 行 為 の 基 礎 と して位 置 づ け 、 ミメ ー シ ス の 三 つ の 局 面 を行 為 の 目標 とす る. 。 人 間 の 行 為 の 基 礎 と して ミ メ ー シ ス を 置 い て い. る と こ ろ は 、 本 研 究 と共 通 して い る。 し か しな が ら小 林 に よ る ミ メー シ ス へ の 言 及 は 、 あ くま で も従 来 の 陶 冶 論 の 枠 組 み の 中 に ミ メ ー シ ス を 導 入 し よ う とす る と い う試 み で あ る。 そ の た め 、 小 林 は 真 の ミメ ー シ ス の条 件 を実 現 す る こ とが 行 為 の 目標 で あ る と論 じて い る。 小林は 「 何 も の か を 作 る こ と と、 自己 が 自己 に な る こ と と 、伝 統 を創 造 的 に 継 承 す る こ と」 (小林1996、287頁)と 林1996、287頁)で. い う 「 ふ る ま い 」 にお い て 目標 と され る の は 、 自己 の 「 転 身 」(小 あ る。 小 林 の言 う ミメ ー シ ス は 「 ふ る ま い 」 の過 程 に お い て 目指 す べ. き 目標 を 見 出 す の で は な く、 「 ふ る ま う」 前 に 虚 空 を は た す とい う条 件 と 目標 が あ り、 そ の. 10.
(13) 目 標 を 達 成 し 、 自 己 を新 し く、 よ り本 質 的 な存 在 へ と変 容 させ る こ と が 要 求 され て い る の で あ る。. そ こ で 本 研 究 で は 、 ミ メ ー シ ス を人 間 の 感 覚 や 身 体 と密 接 な 関係 を 持 ち 、 世 界 と 自己 と を 非 道 具 的 に 結 び つ け る も の と して 捉 え る 。 そ して 、 ミメ ー シ ス の過 程 を人 間 の 世 界 の認 識 的 レベ ル か ら詳 細 に検 討 す る こ とに よ っ て 、 世 界 と個 人 を 結 ぶ ミメ ー シ ス 的 な 関 わ りが 明 らか に な る と考 え る。 そ の 上 で 世 界 と 自 己 を共 に 作 り変 え て い く ミメ ー シ ス の あ り方 を 考 察 す る こ とが 可 能 とな る だ ろ う。 ミメ ー シ ス を 目的 や 手 段 と して 捉 え る の で は な く、 ミ メ ー シ ス の 内 部 構 造 や 世 界 と 自己 の 関 係 、 そ して 内 的 世 界 と身 体 との 関 係 に 着 目す る こ と に よ っ て 、 ミメ ー シ ス の過 程 を 人 間形 成 論 と して 捉 え な お す 点 に あ る。 ヴ ル フ の ミ メ ー シ ス論 は 、 偶 然 性 、 多 義 性 を特 徴 と して い る。 身 体 は 操 作 され る の で は な く、 身 体 性 を 伴 う人 間 形 成 の 可 能 性 を ヴル フ の ミ メー シ ス 論 の 中 に 見 出す こ とが 、 本 研 究 の 特 徴 で あ る 。 日本 の 教 育 学 研 究 の 中 で 、 ヴル フ の ミ メー シ ス 論 の 身 体 性 に 着 目 した研 究 は ほ とん ど な され て い な い 。 ヴル フ の ミ メ ー シ ス 論 に お け る 身 体 性 に 着 目す る こ とに よ っ て 、 あ ら か じ め 与 え られ た 目標 の 遂 行 で は な く、 ふ る ま い の 中 で 目標 や 意 義 を 見 出す よ うな 人 間 形 成 の 可 能 性 を明 らか にす る こ とが で き る と考 え る。. 註 (1)ド イ ツ に お け る ポ ス ト ・モ ダ ン 論 議 に つ い て は 、 今 井 の ほ か に 、 藤 川 に よ っ て 、 ドイ ツ 教 育 学 に お け る ポ ス ト ・モ ダ ン 論 の 受 容 が 紹 介 され て い る(藤. 川信夫. 「80年 代 ドイ ツ 教 育 学 に お け る ポ ス ト ・モ ダ ン の 受. 容 一 そ の 概 観 、 評 価 、 展 望 」、 日本 教 育 学 会 編 『教 育 学 研 究 』 第60巻4号 (2)近 代 に お い て. 、1993年. 、337-346頁. 参 照)。. 「美 的 な も の 」 とい う語 は 、 ドイ ツ の バ ウ ム ガ ル テ ン 、 カ ン トら に よ っ て 、 学 問 的 に 体 系. づ け られ た 。 (3)18世. 紀 後 半 に お い て 成 立 した. 「美 的 人 間 形 成 論 」 に つ い て の 詳 細 は 、Parmentier,M.トsthetische. Bildung,in:Benner,D.ノOelkers,J.(Hrsg.):且istorischesW Weinheim/Basel:Beltxcvbnmz2004,S.11-32.(今 学研究室. 『研 究 室 紀 要 』 第33号. rterbuchderP臈agogik, 井康雄訳. 、2007年131-150頁. 「 美 的 人 間 形 成 」、 東 京 大 学 大 学 院 研 究 科 教 育. 。)に 記 さ れ て い る 。. (4)例 え ば 増 渕 ・森 田 編 『現 代 教 育 学 の 地 平 一 ポ ス トモ ダ ニ ズ ム を 超 え て 一 』 南 窓 社 、2001年. な どが 挙 げ ら. れ る。 (5)今 井 康 雄. 「メ デ ィ ア ・美 ・教 育 一20世. 紀 ドイ ツ 教 育 思 想 史 序 説 一 」、 教 育 思 想 史 学 会 編 『近 代 教 育 フ ォ. 11.
(14) 一 ラ ム 』 第6号. 、1997年. 、81-98頁. な ど。. (6)以 下 で 取 り上 げ る も の を 除 け ば 、 例 え ば 、 藤 川 信 夫 増 渕 、 森 田 編 『現 代 教 育 学 の 地 平 』 南 窓 社 、2001年. 「 近 代 学 校 教 育 の 実 践 に お け る ポ ス トモ ダ ニ ズ ム 」. 、98-121頁. 、及 び 、藤 川 信 夫. 「ドイ ツ に お け る美 的. 人 間 形 成 の 展 開 一 芸 術 活 動 に よ る 暴 力 克 服 の 試 み 」、 佐 藤 ・今 井 編 『子 ど も た ち の 想 像 力 を 育 む 一 ア ー ト教 育 の 思 想 と 実 践 』東 京 大 学 出 版 会 、2003年. 、135-153頁. Education,JapaneseandEuropeanPerspectives,MUnster/NewYork/M. 。YasuoImai/ChristophWulf(eds.):ConceptsofAesthetic chen,2007所. 収 の 藤 川 と 原 に よ る論 文. AStudyofEducationalPerfbrmanceinComparisonwithInitiationRitesandTheatre(「. 教 育 パ フォ ー マ ンス に 関す. る研 究. 加 入 式 及 び 演 劇 と の 比 較 」)や 、 鈴 木 に よ る 論 文BrushCalligraphy.MimesisandPoiesisin. Rinsho(「. 毛 筆 で 書 く一 模 倣(Mhnesis)と. 創 造(Poiesis)の. あ わ い を な す 『臨 書 』 を め ぐ っ て 」)な ど が. あ る。 (7)以 下 に 取 り上 げ る 論 文 以 外 に も 、 ミ メ ー シ ス 概 念 に 注 目 し て い る 論 文 ・著 作 に は 次 の よ うな も の が あ る 。 高橋勝. 『経 験 の メ タ モ ル フ ォ ー ゼ. 〈 自己変 成 〉 の教 育 人 間 学 』. (8)鈴 木 剛 「 経 験 と ミ メ ー シ ス ー 教 育 の 物 語 論 的 考 察 へ 」『教 育 学 年 報5教 469-494頁. 育 と市 場 』、世 織 書 房 、1996年. 、. 。. (9)鈴 木 に よ る と 、 リ ク ー ル は 、 「作 者 ・テ ク ス ト ・読 者 の 解 釈 学 的 な 循 環 に お い て ミ メ ー シ ス の 把 握 を こ こ ろ み 」、 ミ メ ー シ ス を 構 造 的 に 捉 え る た め 、 三 っ の 段 階 に 分 け る 。 第 一 段 階 と し て の 動 に っ い て の 前 提 ・先 行 理 解(ミ ー シ スII)」. メ ー シ ス1)」 、 第 二 段 階 と し て. 、 そ して 第 三 段 階 と して の. (10)悲 劇 の 持 つ. 「 作 品 受 容 の レベ ル(ミ. 「 著 者(語. り手)と. 行. 「筋 立 て 行 為 と い う模 倣 再 現 活 動(ミ. メ. メ ー シ ス 皿)」 で あ る 。. 「普 遍 性 」 と は 、 「生 起 す る か も し れ な い 出 来 事 を 語 る こ と 、 す な わ ち 、 い か に も 納 得 の で. き そ う な 蓋 然 性 に よ っ て な り 、 ま た は ど う して も そ うな る筈 の 必 然 性 に よ っ て な り して 生 起 し う る 可 能 的 事 象 を 語 る こ と 」(ア リ ス トテ レ ス1997、 (11)久 保 田 健 一 郎. 松 本 ・岡 訳43頁)で. あ る。. 「ミ メ ー シ ス に よ る 教 育 の 再 構 築 一 野 生 児 に つ い て の 語 り を 手 が か り に 一 」、 教 育 哲 学 会. 編 『教 育 哲 学 研 究 』 第87号. 、2003年. 、67-82頁. 。 久 保 田健 一 郎. 「 人 間 生 成 論 研 究 序 説 一 自然 ・美 ・ミ メ. ー シス」 、 大 阪 大 学 大 学 院 人 間 化 学 科 編 『大 阪 大 学 大 学 院 人 間 科 学 科 研 究 科 紀 要 』 第31号 -178頁. (12)小. 、161. 。 林恭. 「ミ メ ー シ ス と 人 間 形 成 一 存 在 論 的 陶 冶 論 へ の 序 一 」、 和 田 修 二 編 『教 育 的 日常 の 再 構 築 』、 玉. 川 大 学 出 版 部 、1996年 (13)メ. 、2005年. 、273-291頁. タ モ ル フ ォ ー ゼ(m6tamorphose)と. 。 は 、 変 身 や 変 態 を 意 味 す る語 で あ る。 メ ル ロ=ポ. の 語 を 画 家 た ち の 創 造 の 経 験 を 説 明 す る 中 で 、 鍵 概 念 と し て 用 い て い る。 メ ル ロ=ポ. ンテ ィ に よ る と、美. 術 表 現 は 人 間 の 主 観 に あ る の で は な く 、作 品 の側 か ら 「 表 現 さ れ よ う と す る 要 求 」(メ ル ロ=ポ. 12. ンテ ィは こ. ン テ ィ1979、.
(15) 滝 浦 ・木 田訳106頁)と. して立 ち現 れ て く る所 与 を 人 間 が認 識 す る こ とで あ る。そ して芸 術 家 に よ って 客観. 的 な 出 来 事 が表 現 す る次 元 へ と変 容 さ られ た とき 、 も の の側 か ら現 れ た所 与 は 、 芸 術 家 に よ る美 術 表 現 と して メ タモ ル フ ォー ゼ され た とメ ル ロ=ポ ンテ ィ は言 うの で あ る。. 13.
(16) 第3節. 論文構成. 本 研 究 は以 上 の よ うな先 行 研 究 を踏 ま え て 、Ch.ヴ ル フ に依 拠 しな が ら ミメ ー シ ス 行 為 の 創 造 的 な 側 面 を 明 らか に し、 人 間 形 成 の新 た な 可 能 性 を探 求 す る も の で あ る。 そ こ で 、 本 研 究 は 大 き く五 章 に よ って 構 成 す る こ と に した 。 ま ず 、 第 一 章 で は 、 古 代 ギ リシ ア を 起 源 とす る ミメ ー シ ス 概 念 が 、 ミメ ー シ ス(模 倣) の 教 育 的 意 義 を 見 出 しな が ら も ミメ ー シ ス(模 倣)へ ス(再. 現)の. 制 限 を設 け た プ ラ トン と、 ミ メー シ. 創 造 的 側 面 を 強 調 した ア リス トテ レ ス を 取 り上 げ る。 と く に ア リス トテ レス. の 美 的 活 動 の 本 質 を表 す 理 論 と して ミメー シ ス 論 は 、 西 欧 芸 術 論 の 中 心 的 な理 論 と な っ た 。 し か しな が ら、18世. 紀 後 半 に お い て 、 自律 した 美 を 扱 う学 と して の 美 学 が 成 立 し、 芸術 論. は 美 を 感 ず る人 間 の 内 面 の 探 求 へ と移 行 した こ とで 、 ミメ ー シ ス 理 論 は 芸 術 理 論 の 中 心 的 な 理 論 で は な く な っ た の で あ る。 だ が 再 び 現 代 に お い て 、 ベ ン ヤ ミ ン 、 ア ドル ノ らに よ っ て ミメ ー シ ス 概 念 は 、 管 理 社 会 や フ ァ シ ズ ム とい っ た 理 性 に よ る 自然 の 支 配 か ら人 々 を解 放 す る 可 能 性 を もつ 概 念 と して 再 び 注 目 され る こ と とな っ た 。 次 に 第 二 章 で は 、 ベ ン ヤ ミ ンや ア ドル ノ の ミ メ ー シ ス 概 念 を継 承 し、 人 間 形 成 の 問題 へ と発 展 させ た ク リス トフ ・ヴル フ の ミメ ー シ ス 論 に つ い て 言 及 す る 。 ヴル フ は 文 化 的 、 社 会 的 な 側 面 か ら ミメ ー シ ス の 概 念 を検 討 し、 広 義 な 概 念 と し て捉 え な お して い る 。 さ らに ヴル フ は 、 ミ メ ー シ ス の 過 程 を 人 間 が 言 語 を獲 得 す る以 前 に お い て 、 無 意 識 的 に す で に行 っ て い る 能 力 で あ る と し、 対 象 の知 覚 ・認 識 の過 程 と して 位 置 づ け る。 そ して 第 三 章 で は 、 ヴル フ の 人 間 形 成 が 芸 術 作 品 だ け で は な く、 歴 史 的 ・ 文 化 的 に規 定 さ れ た 人 間 の 行 動 形 態 を も対 象 と した 広 義 の 美 的 人 間 形 成 で あ る こ とを 示 した 。 現 代 社 会 の 特徴 で あ る 「 生 活 世 界 の美 学 化 」 は 過 剰 な 欲 望 を生 み 出 し、 想 像 力 を 溺 死 させ る危 険 が あ る 一 方 で 、 ヴル フ は 肯 定 的 側 面 も 見 出 して い る。 ヴル フ は 像 へ の ミメ ー シ ス に よ る 自己 の 内 的 世 界 の 形 成 を 人 間 形 成 の 基 礎 と置 き 、 外 界 との 関 わ りの 中 で 常 に 内 面 世 界 を作 り変 え る こ と を 要 求 す る。 さ らに 第 四 章 で は 、 ミ メー シ ス 的 行 為 で あ る歴 史 的 ・ 文 化 的 に 意 味 づ け られ た 身 振 りや 、 儀 礼 を 取 り上 げ 、 ミメ ー シ ス の創 造 的 な 側 面 を 明 ら か にす る 。 今 日に お い て も心 身 二 元 論 的 な 身 体 観 は 根 強 く、 人 間形 成 論 へ も影 響 を 与 え て い る。 ミ メ ー シ ス は 精 神 一身 体 とい う 二 項 対 立 に 収 敏 され な い 人 間 形 成 の 可 能 性 を含 ん で い る 。 ま た 、 日本 の 伝 統 的 な 芸 道 に見 られ る模 倣 を 通 した わ ざ の 習 得 と、 西 洋 を 起 源 とす る ミ メ ー シ ス の 過 程 との 文 化 的 な 比 較 を 通 し て 、 両 者 の 人 間 形 成 へ の 可 能 性 と限 界 を 明 らか に した い 。 そ して 、 ミ メー シ ス に よ. 14.
(17) る身 体 の 行 為 遂 行 性 が も た らす 創 造 的 側 面 を 明 らか にす る。 最 後 に 終 章 で は 、 従 来 の 人 間 形 成 論 にお い て ほ とん ど注 目 され て こ な か っ た ミ メ ー シ ス が 、 人 間 形 成 に お い て 重 要 な 意 味 を持 つ こ とを 明 らか に す る。 身 体 的 ・ 感 覚 的 レベ ル に お い て な され る ミメ ー シ ス に よ る 人 間 形 成 は 、 従 来 の 人 間 形 成 を どの よ うに 克 服 す る 試 み で あ る の か 、 ま た そ の 限 界 も 明 らか に す る 。. 15.
(18) 第 一章. ミメー シ ス概 念 の歴 史. ミ メ ー シ ス 概 念 の 起 源 は 古 代 ギ リ シ ア に あ る 。 ヴ ル フ の 見 解 に よ る と、 ミ メ ー シ ス (Mimesis)概. 念 は 、 役 者(Mime)の. 故 郷 で あ る シ チ リ ア に 生 ま れ 、 よ うや く紀 元 前5世. 紀 の プ ラ トン の 時 代 に お い て 、 広 く 用 い ら れ る よ う に な っ た と い う(ヴ 325頁)。. 『国 家 』 の 翻 訳 者 で あ る 藤 沢 も 、 ミ メ ー シ ス 概 念 は 紀 元 前5世. 念 と な っ た と し て い る(藤. ル フ2005、. 松 山訳. 紀 ご ろ か ら有 力 な 概. 沢1979、442頁)。. 本 章 で は 、 ミ メ ー シ ス 概 念 の歴 史 を概 観 す る こ とに よ っ て 、 人 間 形 成 に お い て ミメ ー シ ス 概 念 が これ ま で 歴 史 的 に い か な る意 味 を 与 え られ 、 用 い られ て き た の か を確 認 す る。. 第1節. ミメ ー シ ス 概 念 の誕 生 一 ミメ ー シ ス と して の 芸 術 一. プ ラ トン は 、 若 者 が 社 会 へ 適 応 す る過 程 に ミメ ー シ ス 概 念 が 重 要 な 役 割 を 持 つ こ と を認 め て い た 。 『国 家 』 第 三巻 にお い て 、 プ ラ トン は 、 詩 人 が 次 世 代 の教 育 に重 要 な役 割 を果 た す とい う前 提 の 下 、 若 者 た ち の ミメ ー シ ス に対 す る 統 制 を要 求 す る(ヴ ル フ2005、. 松 山訳. 326頁)。 ん …・ ぞ 乙 τ ち 乙其 盟 ナ6の であ ノZな'1疲ち ノ こふ さ力 乙い ちの 、ナ な わ ち2蓼気 あ6ノ し々 、 鰻. あ るス 々 、,rG一な ス 々 、 β的 翻. 早 ぐ子群 の 、 妻き か ら賜1ナ. のノし々、 そ し で ナ ベ で こ の よ クな 荏 勢 の らの こそ 、. ベ き であ っ で、 逆 〆 ご礎 乙い 倥 勢 の 物 專 は 、 タ霧 ぎ ノ ご存 っ て もな ら. な い 乙、 そ れ を頁 衡 る の がー 手 で あ る よ ラ なス 周 であ っ で らな ら な い の 蔦. ……一. 勲. と い ク の んオ、 若 い と きか らあ ま クい つ ま で らつ づ グ で い る ま、 身'体や声 の 面 で ら、,艀神 面' で ら、 そ のス の 習 賀 ま本 盤 の 中!こナ っか ク鰭 (上)』1979、. し で しま ラ らの だ ・ … ソ(プ ラ トン 『国 家. 藤 沢 訳201-201頁). 他 者 の 望 ま しい 行 為 や 理 想 像 を 真 似 す る こ とで 、 他 者 の 持 つ 要 素 が い つ の 間 に か 自分 の も の と な っ て い る と して 、 プ ラ トン は 模 倣 に 人 間 形 成 の 契 機 を認 め て い る 。 プ ラ トン の 意 図 は 、 若 者 が 国 家 の 守 護 者 と して の 任 務 を 遂 行 す る よ う導 くた め 、若 者 が 目指 す 像 を 望 ま し い 内 容 と そ の 描 写 の も の に 限 定 し、 国 家 に と っ て 有 用 な 若 者 を 育 て る こ と で あ っ た(ヴ ル フ2005、. 松 山 訳326頁)。. しか し、 プ ラ トン は 『国 家 』 第 十 巻 に お い て 、 芸 術 家 は イ デ ア か ら一 番 遠 い も の を真 似 る者 と して 低 位 に置 く。 さ ら に プ ラ トン は 、 絵 画 や 詩 に は 「 感 情 を た か ぶ らせ る 性 格 」(プ ラ トン 『国 家(下)』1979、. 藤 沢 訳332頁)が. あ る こ とか ら、低 劣 な部 分 と関 わ る も ので あ. る と し て 、 国 家 か ら追 放 す る。. 16.
(19) 勲. 薯 を ナ{5/稼6寿. シリ. も また 、ノt甥ひ ど クひ ま ク の魂 の な か 〆 ご悪 しき鮒. ま ゲ る の だ と 、 われ わ れ ぽ 言 ラベ き だろ ラ、 一 魂1の.療か な 紛 さ い か ら謝. で きず〆 こ、 同 じ もの を と き〆 こなガ・ 、 と、 依 ラ よ ラな 謝. 瑠 か らな るか に還 ぐ脚 トン 『国 家(下)』1979、. で、雛. を炸 〃. 、 ど ち らが よ ク大 き 〃、 か4・ の鰍. を、 と ク、 β分 ノ 填. の よ ラな児 か グ の 影 段 を 作 ク出 ナ こ と 〆 ごよ っ でカ ノ(プ ラ. 藤 沢 訳332頁)。. プ ラ トン に よれ ば 、 詩 人 は 画 家 と同 様 に 真 理 の 低 級 な 階 段 に と どま る の み な らず 、道 徳 的 に 有 害 な 影 響 を与 え る。 プ ラ トン は 、 他 人 の 悲 歎 な 状 況 に 同 情 した り、 滑 稽 な 、 恥 ず べ き 言 行 を 笑 っ た りす る と き に感 じ る 快 楽 は 、人 を 堕 落 に 導 く と考 え て い た 。 そ れ ゆ え 、 プ ラ トン は 、 詩 や 芸 術 作 品 が 表 す も の は 、 悦 ば しい も の で あ る と同 時 に 、 国 家 や 人 生 に とっ て 有 益 無 用 な も の で な け れ ば な ら な い と し た の で あ る。 プ ラ トン は 芸 術 活 動 を 、 真 理 認 識 の 観 点 に お い て 、 イ デ ア を 志 向 す る 職 人 の 製 作 活 動 よ りも劣 る と し、 さ ら に芸 術 作 品 に触 れ る と道 徳 的 規 範 が 脅 か され る と して 芸 術 家 を 国 家 か ら追 放 す る の で あ る(、 》 。 ア リス トテ レス もプ ラ トン と同 様 、 芸 術 を模 倣 とみ なす が 、 ア リス トテ レス は 悲 劇 を例 に挙 げ 、模 倣 は 「 可 能 的 な もの や 普 遍 的 な もの の 造 形 」(ヴ ル フ2008、. 松 山 訳328頁)と. 関 わ る概 念 で あ る と し、 単 な る 模 写 とは 見 な さ な い 。 ア リス トテ レ ス に お い て 、 行 為 の模 倣 ・再 現 と し て の ミメ ー シ ス は 、 詩 の 根 源 的 な 概 念 で あ る ば か りで は な く、 普 遍 性 を 獲 得 す る た め の 悲 劇 論 にお い て 重 要 な概 念 な の で あ る。 ア リ ス トテ レ ス は 、 『詩 学 』 に お い て 、 ミ メ ー シ ス を プ ラ トン よ り も積 極 的 な 意 味 で 用 い て い る 。 ま ず 、 叙 事 詩 や 悲 劇 、 喜 劇 と い っ た 詩 作 は 、 人 間 の 完 結 し た 一 つ の 行 為 の 再 現(ミ メ ー シ ス)で. あ る と い う(ア. リ ス トテ レ ス1997、. 松 本 ・岡 訳21頁)。. ま た 、 再 現 と して の. 詩 作 は 、 人 間 の 本 性 に 根 ざ し た 二 つ の 原 因 に よ っ て 生 み 出 さ れ て い る と い う。 一 つ 目 は 、 模 倣 は 子 供 の こ ろ か ら そ な わ っ て い る 自 然 な 傾 向 で あ る と い う こ と 、 二 つ 目 は 、 再 現 され た も の を 喜 ぶ の も 、 人 間 の 自 然 な 傾 向 で あ る と す る(ア -28頁). リ ス トテ レ ス1997、. 松 本 ・岡 訳27. 。 ア リ ス トテ レ ス は 、 ミ メ ー シ ス は 人 間 の 自 然 な 傾 向 、 す な わ ち 人 間 の 本 性 で あ る. と し 、詩 作 は そ の 人 間 の本 性 に 由 来 す る も の で あ る とい うの で あ る。 詩 作 の 中 で も 特 に ア リ ス トテ レ ス が 高 い 価 値 を 与 え て い る の は 、 悲 劇 で あ る 。 ア リ ス ト テ レ ス は は じ め に 喜 劇 と 好 情 詩 と 悲 劇 を 比 較 し 、 喜 劇 が 、 「比 較 的 劣 っ て い る 人(・)たち を 再 現 す る も の 」(ア. リ ス トテ レス1997、. 「高 貴 な こ と が ら の 再 現 」(ア. 松 本 ・岡 訳32頁)で. リス トテ レ ス1997、. あ る の に 対 し、 好 情 詩 と悲 劇 は. 松 本 ・岡 訳32頁)で. あ る と して 、拝 情. 詩 と 悲 劇 が 勝 っ て い る と す る 。 次 に 拝 情 詩 と悲 劇 を 比 較 し 、 悲 劇 の ほ うが 、 形 式 と 長 さ(、)に. 17.
(20) お い て 、 勝 っ て い る と す る 。 ア リ ス トテ レ ス は 、 「一 定 の 大 き さ を そ な え 、 完 結 し た 高 貴 な 行 為 、 の 再 現(ミ. メ ー シ ス)」(ア. リス トテ レ ス1997、. あ わ れ み とお そ れ を 通 して 、 人 々 に感 情 の 浄 化(カ. 松 本 ・岡 訳34頁)で. タ ル シ ス)を. あ る悲 劇 は 、. 達 成 させ る とす る。. つ ま り 、 ア リ ス トテ レ ス は 悲 劇 に お い て 再 現 さ れ る も の は 、 「完 結 し た 高 貴 な 行 為 」(ア リ ス トテ レ ス1997、. 松 本 ・岡 訳34頁)な. 模 倣 す る こ と に よ っ て 、 模 範 よ りも. の で あ り 、現 実 の コ ピ ー を 意 味 す る の で は な く 、 「よ り美 し く 」 「よ り 良 く 」 変 化 さ せ る こ と を 目 標 と し. た 像 の 生 産 を 意 味 す る(ヴ ル フ2008、. 松 山 訳328-329頁)。. ア リ ス トテ レ ス は 、芸 術 を 「生. 命 を 生 み 出 す 力 を 内 在 させ た 」 「生 き た 自 然 」(ヴ ル フ2008、 し て い た 。 芸 術 家 に よ っ て 、 自然 の 力 につ い て の像 を (ヴ ル フ2008、. 松 山 訳328頁)と. 松 山 訳328頁)の. 模 倣 とみ な. 「自 ら の 内 に 有 し て い る よ う な 何 か 」. して描 写 す る こ と に よ っ て 、 芸 術 作 品 と な る。. 竹 内(、)に よ る と、 プ ラ トン とア リス トテ レス の 芸 術 の 捉 え 方 の 相 違 は 、 次 の よ うに ま と め られ る 。 プ ラ トン に お い て 、 す で に 現 実 の 感 覚 的 世 界 もイ デ ア 世 界 の 模 倣 で あ っ た が 、 芸 術 は これ を さ ら に ま た 模 倣 す る も の で あ り、 い わ ば模 写 の模 写 で あ る に す ぎ な い と され た 。 そ れ ゆ え プ ラ トン に よ っ て 芸 術 作 品 は 、 現 象 界 よ り も な お 一 層 真 の 実 在 界 か ら遠 ざ か っ た も の と して 、 最 低 の 段 階 に 置 か れ る。 そ れ に対 し、 ア リス トテ レス に と っ て 芸 術 は 、現 実 そ の もの の 模 倣 で あ っ た 。 しか し 、 ア リス トテ レス は 、 現 実 の 芸 術 表 現 で あ る か ら こ そ 、 現 実 の 世 界 よ り も真 実 な 、 さ らに 高 い 世 界 を創 造 す る も の で あ る と高 く評 価 した の で あ る (竹 内1969、230頁)。 プ ラ トン と ア リス トテ レス は 芸 術 に対 して 対 極 的 な 評 価 を 下 した とい え る。 しか しな が ら、 両 者 は い ず れ も芸 術 は 芸 術 家 の 自然 へ の ミメ ー シ ス に よ っ て 作 り出 され る も の で あ る とい う認 識 で は 一 致 して い た 。 ミメ ー シ ス概 念 は こ の 時 代 、 社 会 的 、 教 育 的 な 意 味 と美 学 的 な 意 味 が 区 別 され ず に 用 い られ て い た が 、 そ の 後 、 美 学 的 意 味 と して 独 立 して い くの で あ る(ヴ ル フ2008、. 松 山訳331頁)。. さ らに 、 近 代 主 観 主 義 美 学 の 成 立 と共 に 、 ミメ ー シ. ス は 芸 術 論 の 中 心 的 な概 念 と して は 用 い られ な く な る の で あ る。. 註 (1)『 国家 』 の 訳者 で あ る藤 沢令 夫 は 、詩 や 絵 画 や そ の他 が ミメー シ ス に よ って 成 立 す る とい う、 〈真 似 〉 (ミ メー シ ス)の 概 念 は 、 プ ラ トン以 前 の 紀 元 前5世. 紀 か ら有 力 と な った と して い る(プ ラ トン 『国家 』. 訳 者 注 、442頁)。 藤 沢 は 『国 家 』 にお け るプ ラ トンの ミメー シ ス概 念 を次 の よ うに整 理 してい る。. 18.
(21) 1.作. 者 が 作 中 人 物 の 言 葉 を 真 似 る 一 直 接 話 法 的 に 再 現 す る一 こ と(392D∼394D). 2.役. 者 、 俳 優 が あ る人 物 を 真 似 る 一 演 ず る こ と一 こ と(395A). 3.観. 客 ・聴 衆 が 登 場 人 物 の 役 柄 を 真 似 る 一 自 己 を そ の 人 物 に 同 化 す る 一 こ と(395C∼396B). 4.第10巻. に お い て 、 存 在 論 的 、 形 而 上 学 的 な 役 割 と意 義 を 与 え る. (2)藤 沢 は 、 プ ラ トンは 芸術 に よ る教 育 的 意義 を全 否 定 して い る わ けで は な い とす る。 プ ラ トン は 、詩 に よ る教 育 を、 作 家 が 「 思 慮 ぶ か く平 静 な性 格 」 を対 象 と して 選 び 、 それ が外 的 な 変化 に とぼ しく描 写 しに く い とい う困 難 な 条 件 を技 術 的 に克 服 した とき に 限 っ て、 とい う条 件 付 き で 、 そ の効 果 を認 めて い るの で あ る。 (3)「劣 っ て い る」 とは 、 ア リス トテ レス に よ る と、 あ ら ゆ る劣 悪 さ とい っ た も ので は な く、 区 も与 えず 、 危 害 も加 え な い 醜 さ とい う欠 陥 を持 った 「 滑 稽 な も の」 で あ る ゆ え に 、醜 い もの で あ る とい う意 味 で あ る (ア リス トテ レス1997年. 、 松 本 ・岡訳32頁)。. (4)こ こで い う長 さ とは 、上 演 時 問の 長 さで は な く、 再 現 され る行 為 の 時 間 的 長 さ の こ とで あ る と考 え られ ている。 (5)竹 内 敏 雄 『ア リス トテ レス の藝 術 論 』 弘 文堂 、1969年 。. 1s.
(22) 第2節. ミ メ ー シ ス概 念 の 衰 退 一 「 似姿 モデル 」 の否定一. 近 代 に お い て 美 や 美 的 な も の を独 立 した 研 究 領 域 と して 構 築 す る こ と と な っ た の は 、17 世 紀 末 ま で に 、 美 を判 断 す る能 力 と して の 意 味 を持 つ 「 趣 味 」概 念 の 確 立 が 契 機 とな っ た こ と が あ げ られ る 。18世 紀 にバ ウム ガル テ ン(Baumgarten,A.G.)や. カ ン ト(Kant,1.)ら. に よ っ て 美 学 と し て の 学 問 が 成 立 し、 芸 術 論 の 中 心 は ミメ ー シ ス か ら、 人 間 の 内 面 表 出 の 探 求 へ と大 き く転 換 す る こ と と な っ た。 こ の芸 術 に 対 す る 思 索 形 式 の 転 換 に 大 き な影 響 を 与 え た と され る の が 、 デ カル トに よ る 合 理 主義 の確 立 で あ る(1)。 古 代 ギ リシ ア 以 来 の 伝 統 的 な 認 識 論 で あ る 「 素 朴 実 在 論 」 を 否 定 す る た め 、 デ カ ル トは 『省 察 』 に お い て 考 察 を試 み る。 「 素 朴 実 在 論 」 とは 、 人 間 が 共 通 の 認 識 を持 つ こ とが 可 能 で あ る の は 、 理 論 で あ る。 私 た ち は リン ゴ を見 た ら、 皆 リ ン ゴで あ る と認 め る こ とが で き る。 し か し、 りん ごを 見 る人 の 見 方 や 色 彩 の捉 え方 な どは 決 して 同 一 で は な い 。 そ れ ぞ れ が 異 な る 知 覚 を 持 っ て い る に もか か わ らず 、 共 通 理 解 が 可 能 な の は 、 知 覚 に よ っ て 実 物 と 類 似 し た 像 を獲 得 す る こ と が で き る か ら で あ る と一 般 に 考 え られ て き た 。 ま た 、 そ の 実 物 に類 似 した 像 は 実 物 を 言 葉 や 絵 な ど に よ っ て表 現 す る こ とが で き る。 こ の よ うな 「 素朴実 在 論 」 にお け る知 覚 の モ デ ル は 、 「 似 姿 モ デ ル 」 と呼 ば れ て い る。 デ カ ル トは 、 こ の 「 似 姿モ デル 」 を 「 第 三 省 察 」 で 考 察 す る。 こ の 「 似 姿モ デ ル 」は 、 類 似 とい う感 覚 に 制 約 され て い る た め 、 思 考 が感 覚 を越 え た 対 象 を 表 現 す る 可 能 性 を失 う とデ カ ル トは 考 え る(植 村2008、51頁)。. デ カ ル トは 、 外 に あ る 何 か か ら、 観 念 と して何. か の 似 姿 が 私 に 送 り こ まれ る とい う判 断 は 、 確 か に 妥 当 な 考 え で あ る と した 上 で 、 次 の よ うに 「 似 姿 モ デ ル 」 を 否 定 す る。 ズこノ防 ξで秘 が 、1域か私 とな ちが った らの が 存 庄 し、 ご轟 が 私 の感 購. 庁 を遍 じ で、 あ. る 〃、 な な ん らか ぼ か の 仕 方 〆 こよ つ で、 み ずか らの 翻 念・ あ る 〃、 な 形 像 を私 の7ち 〆 こ送 ク こむ の だC%F7Ciて. き た の な 、 礎 か な ≠獅/こ よ っ で でな な ぐ、 た ん 〆 こ、 あ る 酵 β的 な 鰯. 〆 こよ. っ で であ った ノ(デ カ ル ト2002、 井 上 訳58頁)。 例 え ば 、 熱 さ と冷 た さ とい う感 覚 観 念 に つ い て 考 え る と、 「 冷 た い 」 と感 じ る た め に は 、 外 の 世界 に 「 冷 た さ」 とい う観 念 が あ り、 それ を経 験 して い な けれ ば な ら な い 。 しか し、 冷 た さ は 、 熱 の 欠 如 で あ る と も考 え られ る。 こ の場 合 、 外 の 世 界 に は 「冷 た さ」 は 存 在 し な い とい うこ とに な る。 だ が 、 冷 た さは 熱 の欠 如 で あ る の か 、 「 冷 た さ」 とい う実 在 的 な 性 質 を 持 つ も の で あ るの か 、 とい うこ とは 、 類 似 に基 づ く捉 え方 で は 判 別 す る こ とが で き な い 。 この よ うな 「 似 姿 モ デ ル 」 に よ る認 識 に は 、 「 質 料 的 虚 偽 」(デ カ ル ト2002、 井 上 訳64. 20.
(23) 頁)が. 生 ま れ る とデ カ ル トは 言 う。. こ の よ うな 実 在 す る も の と、 感 覚 に よ っ て 得 た も の との 差 異 を 克 服 す る た め 、 デ カル ト は 「 表 現 的 実 在 性(realitasobjectiva)」(虻. い う概 念 に よ っ て 、そ の誤 りを克 服 し よ うと試. み る。 「 表 現 的 実 在 性 」 とは 、 観 念 と して の 「 冷 た さ」で あ り、 「 私 の意 識 の 一 様 態 」(デ カル ト2002、 井 上 訳60頁)と. い う意 味 で 。 「 冷 た さ」 とい う観 念 も ま た は 「 堅 い 」 とい う観 念. も 同 等 の も とす る。 デ カ ル トの 「 観 念 」の 存 在 は 、 思 考 に 属 す る こ と(,〉 に よ っ て 規 定 され て い る 。 観 念 は 無 か ら生 じる こ とは 無 い が 、 新 た な観 念 が 生 ま れ る 原 因 は 、 「 観 念 自身 が表 現 的 に 含 ん で い る 実 在 性 と少 な く と も 同 等 の 実 在 性 を形 相 的 に含 む 」(デ カル ト2002、 井 上 訳 60頁)も. の で あ れ ば よい と した。 っ ま り、 観 念 が 思 考 様 態 で あ り さ えす れ ば 、 観 念 は観 念. と し て 存 在 し続 け る こ とが で き る の で あ る。っ ま り、 「 熱 さ」が 「 冷 た さ」の 欠 如 で あ るか 、 も しくは 「 冷 た さ」が 「 熱 さ」 の 欠 如 で あ る か 、 と い う問 題 は 、 も は や デ カ ル トに とっ て 問題 な ので は ない。 「 熱 さ1や. 「 冷 た さ」 は 、 思 考 の 一 様 態 で あ る観 念 と して 、 ど ち ら も存. 在 す る の で あ る。 デ カ ル トは 、 す べ て の観 念 に 「 表 現 的 実 在 性 」 と い う実 在 性 を 認 め た こ と に よ り、外 界 の 世 界 に あ る も の に 類 似 す る 像 を 、 自己 が 受 容 して 形 成 す る の で は な い と した。 デ カル ト は 、 外 界 は す べ て 観 念 に よっ て 表 現 され て お り、 そ の観 念 を 「 表 現 す る 記 号 」(植 村2008、 56頁)と. して 、 誰 も が 能 動 的 に使 うこ とが で き る と した の で あ る④。. 註 (1)例 え ば 、 鈴 木 昌子 「 趣 味」、教 育 思 想 史 学 会編 『教 育 思 想 事 典 』 勤 草 出版 、2001年. 、387-388頁. 。. (2)「表 現 的 実 在 性 」 は 、 「 観 念 にお いて 表 現 され て い る限 りの 実在 性 」、 も しくは 「 観 念 に よっ て 表 象 され る事 物 の 存 在 、 そ の存 在 が観 念 の 内 に あ る 限 りに お い て 」 とい う定 義 が な され て い る。 (3)「形 相 的 実 在 性 」 とは 、 「もの が そ れ 自体 にお い て もっ と ころ の 実 在性 」 を意 味 して い る。観 念 の 形相 的 実 在 性 とい う場 合 は 、 「 思 考 に 属す る何 か」 が しそ れ に 当 た る。 観 念 そ の も の 存 在 を規 定 す る も の で あ る。 (4)後 に デ カ ル トは 、す べ て の観 念 を創 造 す る神 の 存 在 を認 め る こ と にな る。 つ ま り、 神 に よっ て 観 念 は明 晰 判 明 な 、 真 な る 実 在 を持 った もの と して意 味 づ け られ るの で あ る。. 21.
(24) 第3節. ミメ ー シ ス の復 権 一 ベ ン ヤ ミ ン とア ドル ノ を 中 心 に一. 1933年. に ヒ トラー 政 権 が 樹 立 した こ と を受 け 、 共 に ユ ダ ヤ 人 で あ るベ ン ヤ ミ ン(1》 とア ド. ル ノ(2)は、 ベ ン ヤ ミ ン は パ リへ 亡命 を余 儀 な く され 、 ア ドル ノ も ま た ニ ュ ー ヨー クへ と本 拠 地 を 移 した 。 政 治 的 詳 細 な説 明 は 加 え る こ と は で き な い が 、 ヒ トラ ー 政 権 の 下 で 目の 当 た り に した 残 虐 な 事 実 が 二 人 の 思 想 に 強 く反 映 して い る こ とは 確 か で あ る。 と りわ け 、 ア ド ル ノ は 合 理 的 理 性 と野 蛮 の 結 託 を徹 底 的 に批 判 す る 。 この よ うな 歴 史 的 背 景 の 下 で 、 ミメ ー シ ス は 近 代 批 判 の 可 能性 を もつ 概 念 と して 、 再 び 光 を 当 て られ る こ と とな っ た の で あ る。. 1.ベ. ン ヤ ミ ン の ミメ ー シ ス. ベ ン ヤ ミ ン((Benjamin. ,W)は. 、 「模 倣 の 能 力 に つ い て 」(1933)に. お い て 、 人 間 は 自然. や 動 物 よ り も 、 「類 似 を 生 み 出 す 最 高 の 能 力 を 持 っ て い る 」 と し、 「ミ メ ー シ ス の 能 力(das mimetischeVermogen)」(ベ. ン ヤ ミ ン1996、76頁)が. 人 間 の あ らゆ る能 力 の 起 源 とな っ. て い る とす る 。 ベ ン ヤ ミ ン に よ る と 、 「 個 体 発 生 論 的 な 意 味 」(ベ ン ヤ ミ ン1996年. 、76頁). す な わ ち 、 個 別 的 で 、 具 体 的 な 意 味 に お い て 、 この ミ メー シ ス 能 力 は 、 特 に 子 供 の 遊 び に 顕 著 に 現 れ る とす る 。 ま た そ れ に 対 し 、 「系 統 発 生 的 な 意 味 」(ベ ン ヤ ミ ン1996、76頁)に お い て は 、 ミ メ ー シ ス の 能 力 は 歴 史 の 変 遷 の 中 で 変 化 し て い る と い う。 そ れ は 、 天 体 を 人 や 国 家 の 運 命 に な ぞ り 、 占 っ て い た 占 星 術 の よ うな 模 倣 は 、 も は や 近 代 科 学 に よ っ て 弱 め られ た よ うな こ とを 意 味す る。. 子 供 の 遊 び に 見 られ る ミメ ー シ ス に 着 目 し、 そ の構 造 を 明 らか に した うえ で 、 ベ ン ヤ ミ ン の 著 作 の 中 に 見 られ る子 供 の 遊 び を取 り上 げ 、 考 察 して い き た い 。 ベ ンヤ ミンは、 「 子 供 の 本 を 覗 く」 の 中 で 、 い くつ か の 子 供 向 け の 絵 本 を 取 り上 げ 、 これ ら の 絵 本 が 教 育 的 意 図 で は な い 、 市 民 生 活 か ら生 ま れ た 芸 術 と して 、 い か に して 子 供 た ち に 受 容 され て い っ た か につ い て 言 及 す る。 これ らの 絵 本 が 表 現 して い る の は 、 「ロマ ン派 が か つ て あ こ が れ て い た 最 高 の 充 溢 の 、 大 衆 的 な 、 い や 子 供 的 な 別 形 」(ベ ンヤ ミ ン1996、 44頁)で あ る 、 とベ ンヤ ミ ン は 言 う。 これ らの絵 本 に 影 響 を 与 え た 人 物 と して 、 ベ ン ヤ ミン は ジ ャ ン ・パ ウル(,)(1763-1825)を. 挙 げ る。 ベ ン ヤ ミン は 文 章 を 書 く場 合 、 創 造 力 に依. 拠 して い る の で は な く、 空 想 に依 拠 して い る た め 、 絵 本 の 世 界 と類 似 して く る の だ とい う (ベ ンヤ ミン1996、. 浅 井 監 訳45頁)。. 森 田 に よ る と 、ベ ン ヤ ミ ン の 言 う 「 創 造 力 」と は 、知 覚 不 可 能 な 「原 イ メ ー ジ 」(森 田2001、 70頁)を. 身 体 に よっ て. 「再 現 」(森 田2001、70頁)す. 22. る 力 の こ とで あ る 。 知 覚 不 可 能 な も.
関連したドキュメント
1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における
(4)以上の如き現状に鑑み,これらの関係 を明らかにする目的を以て,私は雌雄において
欧米におけるヒンドゥー教の密教(タントリズム)の近代的な研究のほうは、 1950 年代 以前にすでに Sir John
これらの先行研究はアイデアスケッチを実施 する際の思考について着目しており,アイデア
このように資本主義経済における競争の作用を二つに分けたうえで, 『資本
被祝賀者エーラーはへその箸『違法行為における客観的目的要素』二九五九年)において主観的正当化要素の問題をも論じ、その内容についての有益な熟考を含んでいる。もっとも、彼の議論はシュペンデルに近
層の項目 MaaS 提供にあたっての目的 データ連携を行う上でのルール MaaS に関連するプレイヤー ビジネスとしての MaaS MaaS
さらに体育・スポーツ政策の研究と実践に寄与 することを目的として、研究者を中心に運営され る日本体育・ スポーツ政策学会は、2007 年 12 月