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波動逆伝搬を用いた気泡キャビテーション観測法による生体作用効果の計測

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(1)

令 和 元 年 度 修 士 論 文

波動逆伝搬を用いた気泡キャビテーション観測法による

生体作用効果の計測

指導教員 江田 廉 助教

群馬大学大学院理工学府 理工学専攻

電子情報・数理教育プログラム

橋本 哲也

(2)

目次

第 1 章.超音波と微小気泡を用いた治療法とその課題

1-1. ドラッグデリバリシステムについて 1-2. 超音波支援ドラッグデリバリシステム 1-3. 超音波によって微小気泡が引き起こす現象 1-3-1. ソノポレーション 1-3-2. キャビテーション 1-3-3. 高音圧下で発生する非線形振動 1-4.超音波映像装置を用いた気泡キャビテーションのその場可視化法 1-5.逆伝搬像再生法を用いた気泡キャビテーションの観察 1-7.本研究の目的

第 2 章.超音波音場中での微小気泡の運動

2-1. 微小気泡の膜振動(Rayleigh-Plesset 方程式) 2-2. 気泡に加わる力

2-2-1. Primary Bjerknes Force 2-2-2. Secondary Bjerknes Force

2-3. 気泡の非線形振動による2次超音波の放射 2-3. 気泡ダイナミクスと出現する信号の特徴

第 3 章.超音波逆伝搬像再生の基本原理

3-1. 波動の逆伝播による音源位置の推定

3-1-1. PSF(Point Spread Function)の Deconvolution による空間分解能向上 3-1-2. 瞬時周波数の導出 3-1-3. RF データのアップサンプリング 3-1-4. デジタルフィルタの映像化への適応

第 4 章 気泡ダイナミクスを評価するパラメータとその解析方法

4-1.気泡ダイナミクスに対するパラメータ 4-2.各パラメータの解析方法 4-2-1.信号の変化量に対するパラメータの解析方法 4-2-2.信号の分布に対するパラメータの解析方法 4-2-3.信号の時間変化に対するパラメータの解析方法 4-3. 生体作用効果評価方法 4-3-1.蛍光像における画像処理方法 4-3-2.フローサイトメトリーを用いた評価方法

(3)

第 5 章.実験系

5-1. 実験系の概要 5-2. 研究開発用超音波測定装置 5-3. 強力超音波照射用の超音波振動子 5-4. 模擬生体ファントム(寒天ファントム) 5-5. 超音波造影剤 5-6. 浮遊細胞(HL-60) 5-7. 細胞染色液の導入 5-8. 細胞の観察 5-8-1.蛍光顕微鏡 5-8-2.フローサイトメトリー

第 6 章 実験結果

6-1. 基準音圧条件下における生体作用効果評価実験 6-1-1.超音波照射の進行と生体作用の関係 6-1-2.フレームごとの超音波信号と生体作用との関係 6-1-3.考察 6-2. 高音圧条件下における生体作用効果評価実験 6-2-1.細胞変形と送信超音波の音圧の関係 6-2-2.細胞変形と受信信号の解析の結果 6-2-3.考察

第 7 章.まとめ

7-1. 結論 7-2. 今後の課題

参考文献

謝辞

(4)

1 章 超音波と微小気泡を用いた治療法とその課題

1-1 ドラッグデリバリシステム

現在、医療の分野において様々な新薬が開発されており、それに伴い多くの治療法が実現 されている。一つの例として、抗がん剤がある。抗がん剤はがんに対して大きな効果を発揮 するが、その反面健康な細胞に対して悪影響を及ぼす可能性があり、非常に投与が難しい薬 剤の一つである。また、近年盛んに研究されている治療として遺伝子治療がある。これは患 部の細胞に直接作用させるもので、この場合も間違った投与を行えば重大な副作用を引き 起こすと考えられる。 このように、薬剤や遺伝子治療の進歩に伴い、その必要性を求められてきた技術が薬の体 内動態に対する制御技術、いわゆるドラッグデリバリシステム(Drug Delivery System: DDS)である。ドラッグデリバリシステムは Fig.1-1 に示すように主に 3 つの技術から成り 立つシステムである。それぞれについてその目的と具体例を簡単に述べる。まず1つ目のコ ントロールドリリース技術は、薬剤の作用部位までの供給を制御するものである。例えば、 経口投与したときに薬剤をカプセルに入れ消化管内で長時間かけて薬剤を溶かすといった ことである。次に 2 つ目の吸収改善技術は、薬剤を対象部位により効率良く吸収させるこ とを目的としている。その例を挙げるならば、新しい投与経路の開発、吸収促進剤の利用な どである。そして、最後に、ターゲティング技術は、薬剤を標的部位で作用させるように薬 物の送達をさせる技術である。例としては、様々な微粒子輸送媒体を用いた方法や外部から 何らかの力を加え薬物を活性化させる技術などがある。 Fig.1-1 微小気泡ダイナミクスのドラックデリバリへの応用

(5)

1-2 超音波支援ドラッグデリバリシステム

ここではドラッグデリバリに対して、超音波場中における微小気泡ダイナミクスがどの様 に応用されるかについて具体的に説明する。基本的な流れの手順はFig.1-2 に示す通りであ る。Fig.1-3 にそのイメージを示す。超音波場を形成する際にその音場がどのようになって いるか、および気泡ダイナミクスやキャビテーションをその場で観察できることは、患部に 薬剤を導入する操作への助けになると考えられる。 Fig.1-2 超音波支援 DDS

患部付近への薬剤の注入

患部付近に超音波の照射

超音波場の形成

患部付近での薬剤のトラッピング

ソノポレーション

患部付近への薬剤の注入

患部付近に超音波の照射

超音波場の形成

患部付近での薬剤のトラッピング

ソノポレーション

(6)

Fig.1-3 微小気泡ダイナミクスを利用したドラックデリバリ

1-3 超音波によって微小気泡が引き起こす現象

1-3-1 ソノポレーション ソノポレーションとは、「高周波超音波が生細胞へ与える効果」について指す言葉である。 キャビテーションにより生じるマイクロジェットにより、細胞壁に可逆的な微小孔を形成 させ、これにより細胞内へのペイロードの取り込みを促進させる方法。 1-3-2 キャビテーション 超音波支援の DDS における微小窪み形成のメカニズムは現在なお完全には解明されて いないが、現在の理論では、微小気泡が導入効率を高める理由は、各々の微小気泡の破裂が キャビテーション(空洞現象)の連鎖反応を引き起こす為と考えられている。キャビテーシ ョンとは、液体や溶液中に周期的な高圧と低圧が生じた場合、負の圧力が液体を維持するの に必要な力に打ち勝ったときに空洞(cavity)を生じることを示す。キャビテーションには、 発生後その大きさを変えることなく振動する(安定型キャビテーション)と、超音波周波数 の数サイクルで半径が大きく変化する場合(過渡的キャビテーション)とに分けられる。後 者の場合、キャビテーション気泡は、さらに周期的に変化する音圧中で継続的に膨張と収縮 を繰り返しながら発育し、最終的に圧壊する(崩壊型キャビテーション)。この圧壊時には、 局所的に数千度という高温あるいは数百気圧の高圧を生じる。また、気泡近傍の液体にも影 響し、液体の加速度を増大させ(マイクロストリーミング)、あるいは液体に大きなずり応 力が作用するといった、流体力学的機械的作用を発生させる。微小窪み形成の原理は、キャ ビテーション気泡の圧壊による微小ジェット流による機械作用が細胞膜に一過性の“窪み”

(7)

を形成するためと推測されている。この機械的作用が強すぎる場合は、細胞膜に加わる損傷 も大きくなり細胞の壊死を招くが、修復可能な微小窪みは、薬液の細胞内導入を可能にする。 微小窪み形成における照射条件として、周波数、音圧、及び照射時間を十分に考慮する必要 がある。 1-3-3 高音圧下で発生する非線形振動 水中に存在する微小気泡に超音波を照射すると、微小気泡は拡大と縮小を周期的に繰り 返し、最終的には圧壊する。 しかし、発生する振動は照射する超音波の音圧によって、線形振動と非線形振動に別れ る。比較的低音圧の場合、微小気泡は線形振動を繰り返し、破壊する様子が見られない。 だが、比較的高音圧の場合、微小気泡は非線形振動を繰り返すことで、気泡破壊が発生し 消失してしまう。 これは、レイリー・プリセット方程式でのシミュレーション結果を見ても明らかで、今回 のDDS に使用する場合は、比較的高音圧の超音波を照射することが適している。 1-4.

超音波映像装置を用いた気泡キャビテーションのその場可視化法

[1] 生体内を流れる血流の大きさを非侵襲的に画像上で確認できる検査手法に、超音波のドプ ラ信号を利用したものがあり、超音波映像装置などに基本設備として臨床で利用されてい る。この超音波ドプラを利用した信号検出技術のうち、ドプラ信号の振幅情報の時間変化を 利用したものをパワードプラ法と呼んでいる。我々はこの方法を利用し、映像超音波とは異 なる強力超音波で微小気泡の運動・破壊を観察する気泡キャビテーションのその場可視化 法を提案した。Fig.1-4 にこの手法で得られる結果の一例を載せている。

(8)

Fig.1-4 その場可視化法による実験結果 T 画像は偽りのドプラ信号としてパワードプラ画像上の深さ方向に向かって出力され、画 像上での深さ方向の位置変化は気泡キャビテーション信号の時間推移に相当する。これら をフレームごとに連続して表示することで、気泡キャビテーション信号の変化を高時間分 解能で観察することができる。、

1-5.逆伝搬像再生法を用いた気泡キャビテーションの観察

[2] 波動逆伝搬を用いることで、ある点での超音波信号の時間時間発展を可視化することがで きる波動逆伝搬像再生法は、我々の研究室で用いられている手法である。超音波信号をア レイ素子で受信し、その各素子での受信信号の振幅、位相情報を基に波動の逆伝搬によっ て音源位置の推定を行う。この手法を用いることで推定された信号源の各点での時間変化 を取得することができ、超音波信号を時間的、空間的な解析を可能としている。

(9)

1-6.本研究の目的

これまでの研究では、気泡からの観測信号と生体作用効果について一照射中の解析に留ま るなど特定の項目や時間的に限定的な範囲での解析を行ってきたため、細胞に関する効果 の関係を明らかにできていない。 Fig.1-5 従来の研究での実験結果 そこで今回の実験では、空間分解能と時間分解能を両立した逆伝搬像再生法を用いた解析 を行う上で、気泡ダイナミクスによって異なる周波数特性を示す気泡信号を分離して観測 できるデジタルフィルタを適用し、取得される信号のパラメータを統計手法によって網羅 的に解析を行う。その結果と浮遊細胞と蛍光色素やペプチドを用いた生体作用の定量計測 を組み合わせることで、生体作用フィードバックシステムにおける評価の指標の構築を目 的とする。

(10)

2 章 超音波中での微小気泡の運動

2

-1 微小気泡の膜振動(Rayleigh-Plesset 方程式)

Fig.2-1 気泡膜の振動 ここでは、可圧縮の微小気泡が外部から正弦的な力を受け、振動を行う場合について説明 する(Fig.2-1)。今、非圧縮性の流体中に次のような条件の気泡が運動しているとする。 ① 微小気泡は球形のまま運動 ② 内部ガスの放出はなし ③ 気泡は外部からの超音波で、非線形の振動を行っている ここで、周囲液体の粘性、表面張力の効果を考慮した場合、気泡の半径 R が満たす運動方 程式は次式で与えられる。 R𝑅̈ +3 2(𝑅̇) 2 =1 𝜌{𝑝𝐵(𝑡) − 𝑝𝜔− 2𝜎 𝑅 − 4𝜇𝑅̇ 𝑅 } ・・・(2-1)

)

(t

p

B :気泡表面での圧力(外部超音波による) 

p

:気泡から充分離れた位置での静圧

:密度

:表面張力

:周囲液体のずれ粘性率 この式はRayleigh-Plesset 方程式[3]とよばれている。また、この式より気泡が振動している 時、気泡にはその振動を妨げるように表面張力や周囲の液体からの粘性力が働いているの が分かる。 ・超音波により正弦的に振動させられている場合 超音波により気泡の膜が角周波数

で、振動させられているとすると、気泡から充分離 れた位置での音圧は次式のようになる。

 

t

p

0

p

sin(

t

)

p

A

・・・(2-2)

(11)

ここで、

p

Aは微小振動である。 このとき(2-1)式は、 R𝑅̈ +3 2(𝑅̇) 2 =1 𝜌{𝑝𝑔0( 𝑅0 𝑅) 3𝑘 − (𝑝0− 𝑝𝐴sin(ωt)) − 2𝜎 𝑅 − 4𝜇𝑅̇ 𝑅 } ・・・(2-3) となる。ここで

R

0 : 平衡状態での気泡の半径 0 g

p

: 気泡の平衡状態での内部圧力( 0 0

2

R

P

) また、

k

は平衡条件により値が異なり、等温振動、つまり発生した熱が逃げる程充分ゆっく り振動するならば1、反対に熱が逃げる間もないほど速く振動を行うならば 1.4 となる。 また、(2-3)式において、変形が小さいときには、共振現象を引き起こす。 つまり、静圧

p

が、

p

 

t

p

0

1

sin

 

t

・・・(2-4) となるとき、



1

とすると

1

0

1

x

R

R

・・・(2-5) このとき気泡の壁の運動方程式(Rayleigh-Plesset)方程式は、 となり、エネルギーの減衰を含む共振現象があらわされる。 このとき気泡の共振周波数

r

r2

02

・・・(2-7)





0 0 0 2 0 2 0

2

2

3

1

R

R

p

k

R

・・・(2-8) 2 0

4

R

 

・・・(2-9) となるが(2-7)式より、気泡が小さく、またその密度が小さいほど共振周波数が高くなること 𝑥1+ (4μ 𝑅02𝜌 ) ∙ 𝑥1+ 1 𝑅02𝜌 (3𝑘𝑝𝑔0−2𝜎 𝑅0 ) ∙ 𝑥1= 𝑝0 𝑅02𝜌 sin(𝜔𝑡) ・・・(2-6)

(12)

が確認できる。 Fig.2-2 共振周波数と気泡半径の関係 例として、断熱変化で通常の大気中での共振周波数(Hz)をあげておく。この条件のとき、 (2-7)式は以下のようになる。 0

26

.

3

R

f

r

R

0 : 気泡の半径(m) 例

R

0 : 1μm →

f

r=3.26 MHz

R

0 : 1mm →

f

r=3.26 KHz

2-2. 気泡に加わる力

2-2-1. Primary Bjerknes force[4]

(13)

微小気泡のような周囲と音響インピーダンスの著しく異なる物体が超音波中に存在すると、 式(2-10)のように気泡の体積に比例した力を受ける。これが超音波による Primary Bjerknes force である。

 

t

V

:微小気泡の体積

p t

( )

:微小気泡周囲の音圧勾配

 

 

:時間平均

2-2-2. Secondary Bjerknes force

超音波場中にある距離で2 つの気泡が存在したとする。いま、この 2 つの気泡が外部か らの力、すなわち超音波により振動しており、その粒径が周期的に変化しているとすると2 つの粒子間には以下の式で示される力、Secondary Bjerknes force が働く。

Fig.2-4 Secondary Bjerknes force

ここで、

V

1

V

2はそれぞれの気泡の体積、

r

は気泡間の距離、

0は周囲液体の密度を表 している。また、Secondary Bjerknes force は気泡間の振動の位相によって、力の働く方向 が異なる。 例えば、In phase で振動しているとき(同期しているとき) → 2 つの気泡は、引き合う

 

B

F

 

V t

p

(2-10)

 

 

. . 0 1 2 , 3

4

B S

r

F

V

t V

t

r

・・・(2-11)

(14)

Out phase で振動しているとき(逆位相のとき)

→ 2 つの気泡は、離れる

また、2 つの気泡の半径を

R

1

R

2、同位相で振動している気泡の周波数を

とすると Secondary Bjerknes force は次式のようにも表すことが出来る。

ここで、

P

aは超音波の音圧

k

1

k

2はそれぞれの気泡の圧縮率、

r

0は2 つの気泡間の距離 を示している。

2 13 23 , 1 2 2 0

2

9

o B S a

R R

F

P

k k

r

 

・・・(2-12)

(15)

2-3. 気泡の非線形振動による 2 次超音波の放射

表2-1 に示す解析条件において Bubblesim[5]を用いた解析の結果をFig.2-5 に示す。これ は気泡からの放射超音波音圧の時間変化波形のパワースペクトラムの結果である。 表2-1 解析条件 [6] [7] 入射超音波周波数 2.5MHz 入射波音圧 1.5MPa サイクル数 20cycle 気泡半径 1.5m Shell thickness 4nm Shell shear modulus 50MPa Shell viscosity 800mPa・s

入射超音波周波数 1.5MHz

入射波音圧 1.5MPa

サイクル数 20cycle

気泡半径 1.5m

Shell thickness 4nm Shell shear modulus 50MPa Shell viscosity 800mPa・s

放射される 2 次超音波の周波数は入射超音波の周波数の高調波成分を含んでいる。入射 超音波の周波数が変われば2 次超音波の周波数も変化する。

(16)

Fig2-5 微小気泡からの 2 次超音波の周波数成分 Fig.2-5 に示した数値解析により得られた二次超音波は、入射した超音波の周波数の高 調波成分を多く含んでいることが確認できる。入射する超音波の周波数を変化させた場合 にも同様に高調波を含んでいることから、得られる周波数成分は入射する超音波の周波数 に依存していることが確認された。 また、入射した超音波の周波数が2.5MHz の際には、周波数の整数倍の高調波成分だけで なく、その分数倍の高次高調波成分を持っていることが確認された。

(17)

3 章 逆伝搬像再生法の基本原理

[2]

3-1 波動の逆伝搬による音源位置推定

この手法ではキャビテーションなどを起こした微小気泡から放射される二次的な超音波 信号を直線状に並んだアレイ素子で受信し、その各素子での受信信号の振幅・位相情報から 波動の逆伝搬によって音源位置を推定する。 Fig.3-1 強力超音波と放射超音波の伝搬経路 Fig.3-1 において、 ① 強力超音波を気泡導入孔内の微小気泡に対して超音波トランスデューサから強力超 音波を照射する ② このとき強力超音波の照射によっておこる気泡ダイナミクスによる二次超音波が放 射される。 ③ 受信信号についてプローブ面上の各素子での受信信号を用いて波動の逆伝搬を行う いま位置(𝑥, 𝑧0)に存在する気泡について点物体であると仮定し、この点物体から放射され た超音波が 𝑓(𝑥, 𝑧0, 𝑡) であるとき、プローブ面上の i 番目の素子で受信される受信信号は式 (3.1)で表すことができる。

(18)

𝑔

𝑖

(𝜂

𝑖

, 𝑡) = 𝐾 ∫ 𝐹 {𝑓(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡 −

𝑟

𝑖

𝑐

)} 𝑑𝑥

𝑥 …(3.1)

𝑟

𝑖

= √(𝑥 − 𝜂

𝑖

)

2

+ 𝑧

02 …(3.2) ここで、𝑟𝑖は点物体とプローブ面上の i 番目の素子との距離であり、𝜂𝑖はi 番目の素子と プローブ中心位置との距離を表す。また、K はプリアンプやトランスデューサ等の受信装置 の電気的な係数を、F はプローブの受信時の周波数特性をそれぞれ表している。 この式(3.1)で示した受信信号についてプローブ面上の各素子での受信信号を用いて波動 の逆伝搬を行うことにより、放射超音波の音圧の分布情報を式(3.3)の様に得る。

𝑔

𝑟

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) = ∑ 𝑔

𝑖

(𝜂

𝑖

, 𝑡 +

𝑟

𝑖

𝑐

)

𝑖 …(3.3)

3-1-1 PSF(Point spread function)の Deconvolution による空間分解能向上

式(3.3)により音源位置の可視化が可能となるものの、このままではアレイ素子の素子数 が有限であることによる開口制限により、x 軸方向の分解能が低下することになる。これに ついては、一般に分解能の低下していない本来の分布情報𝑓(𝑥, 𝑧0, 𝑡)に対する点広がり関数 (PSF : Point spread function) ℎ(𝑥, 𝑧0)の畳み込みで表すが可能であり、ここではx 軸方向 の分解能を向上させることを目的として、式(3.3)に対して PSF の Deconvolution を行う。 まず、式(3.3)について振幅情報𝑔𝑎(

𝑥, 𝑧

0

, 𝑡

)と位相情報

𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)

にそれぞれ分けて書くと 式(3.4)の変形できる。

𝑔

𝑟

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) =

𝑔𝑎

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∙ 𝑠𝑖𝑛{𝜔

0

𝑡 + 𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)}

…(3.4) ここで、𝜔0は参照信号の角周波数を表す。いま式(3.4)で表される信号に対して直交検波を 行うことで得られる直交信号について、同相分を𝐼(𝑥, 𝑧0, 𝑡)、直交分を𝑄(𝑥, 𝑧0, 𝑡)とすると、振 幅情報𝑔𝑎(𝑥, 𝑧0, 𝑡)と位相情報𝜑(𝑥, 𝑧0, 𝑡)は直交信号からそれぞれ式(3.5)及び式(3.6)で求める ことができる。

𝑔

𝑎

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) = 2√𝐼(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)

2

+ 𝑄(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)

2 …(3.5)

𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) = tan

−1

(

𝑄(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)

𝐼(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)

)

…(3.6) また、直交信号はそれぞれ式(3.7)及び式(3.8)のようにあらわされる。

𝐼(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) = ∫ 𝑔

𝑟

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∙ 𝑠𝑖𝑛(𝜔

0

𝑡) 𝑑𝑡 =

1

2

𝑔

𝑎

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∙ 𝑐𝑜𝑠{𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)}

…(3.7)

(19)

𝑄(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) = ∫ 𝑔

𝑟

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∙ 𝑐𝑜𝑠(𝜔

0

𝑡) 𝑑𝑡 =

1

2

𝑔

𝑎

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∙ 𝑠𝑖𝑛{𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)}

…(3.8) 前述したように開口制限による空間分解能の劣化は点広がり関数の畳み込みによって表現 することが可能であり、これを式で表すと式(3.9)のようになる。

𝑔

𝑎

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) = 𝑓(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∗ ℎ(𝑥, 𝑧

0

)

…(3.9) ここで ∗ は𝑓(𝑥, 𝑧0, 𝑡)とℎ(𝑥, 𝑧0)との畳み込みを表している。 点広がり関数ℎ(𝑥, 𝑧0)の Deconvolution にあたっては点広がり関数が既知であることが必要 であり、ここでは点物体からの正弦波の拡散を仮定して点広がり関数を推定している。 式(3.1)において、点物体から正弦波信号が放射された場合を考えると、このときプローブ の i 番目の素子で受信される信号は式(3.10)のようになる。

𝑔

𝑖

(𝜂

𝑖

, 𝑡) = 𝐾 ∫ 𝐹 [𝑠𝑖𝑛 {𝜔

0

(𝑡 −

𝑟

𝑖

𝑐

)}] 𝑑𝑥

𝑥 …(3.10) この受信信号に対して波動の逆伝搬によって点広がり関数を式(3.11)で得ることができる。

ℎ(𝑥, 𝑧

0

) = ∑ 𝑔

𝑖

(𝜂

𝑖

, 𝑡 +

𝑟

𝑖

𝑐

)

𝑖 …(3.11) 次に、式(3.9)についてフーリエ変換を行うと式(3.12)及び式(3.13)のようになる。

𝐺(𝑋, 𝑍, 𝑡) = 𝐹(𝑋, 𝑍, 𝑡) ∙ 𝐻(𝑋, 𝑍)

…(3.12)

𝐺(𝑋, 𝑍, 𝑡) = 𝓕(𝑔

𝑎

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡))

𝐹(𝑋, 𝑍, 𝑡) = 𝓕(𝑓

𝑎

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡))

𝐻(𝑋, 𝑍) = 𝓕(ℎ(𝑥, 𝑧

0

))

…(3.13) ここで、𝓕はフーリエ変換を表す。フーリエ変換によって振幅情報と点広がり関数との畳み 込みの関係を乗除算で処理することが可能となったことにより、Deconvolution 後の振幅 𝐹𝑑(𝑋, 𝑍, 𝑡)は式(3.14)のように求めることができる。

𝐹

𝑑

(𝑋, 𝑍, 𝑡) = 𝐺(𝑋, 𝑍, 𝑡) ∙

1

𝐻(𝑋, 𝑍)

…(3.14) 理論的には式(3.14)によって点広がり関数の Deconvolution が可能となるが、|

𝐻

(

𝑋, 𝑍

)| ≅ 0 のときに𝐹𝑑(𝑋, 𝑍, 𝑡)が発散し雑音が支配的となることを避けるため、実際には式(3.14)に対 して Wiener filter を適用する。この時の式は式(3.15)及び式(3.16)で表される。

(20)

𝐹

𝑑

(𝑋, 𝑍, 𝑡) = 𝐺(𝑋, 𝑍, 𝑡) ∙

1

𝐻

𝑤

(𝑋, 𝑍)

…(3.15)

1

𝐻

𝑤

(𝑋, 𝑍)

=

𝐻

(𝑋, 𝑍)

|𝐻

2

(𝑋, 𝑍)| + 𝛤

…(3.16) こ こ で 𝛤 は そ の 値 の 大 き さ に よ っ て 信 号 対 雑 音 比 を 決 定 す る パ ラ メ タ で あ る 。 Deconvolution の評価は点広がり関数の半値幅の値行うものとし、Fig.3-2 は𝛤の値が小さい ほど半値幅が小さくなる、即ち分解能が向上することを示している。 Fig.3-2 𝛤 による PSF の半値幅の違い Deconvolution の前後での PSF の半値幅の比較を Fig.3-3 に示す。この図が示すように Deconvolution 前は 0.54mm あった半値幅が Deconvolution 後には 0.34mm となっており空間 分解能が向上している。

(21)

Fig.3-3 Deconvolution 前後の半値幅の違い(𝛤 = 1.0) これらのプロセスを経て Deconvolution 後の振幅情報は、式(3.17)で求めることができる。

𝑓

𝑑

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) = 𝓕

−𝟏

(𝐹

𝑑

(𝑋, 𝑍, 𝑡))

…(3.17) ここで、𝓕−𝟏はフーリエ逆変換を表す。

3-1-2 瞬時周波数の導出

瞬時周波数𝑓𝑖𝑛𝑠𝑡(𝑥, 𝑧0, 𝑡)は式(3.6)の位相情報から推定する。いま Deconvolution 後の直交信 号の同相成分と直交成分がそれぞれ式(3.18)及び式(3.19)で表されるものとする。

𝐼

𝑑

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) =

1

2

𝑓

𝑑

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∙ 𝑐𝑜𝑠{𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)}

…(3.18)

𝑄

𝑑

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) =

1

2

𝑓

𝑑

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) ∙ 𝑠𝑖𝑛{𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)}

…(3.19) 一方、瞬時周波数𝑓𝑖𝑛𝑠𝑡(𝑥, 𝑧0, 𝑡)は式(3.20)で表されるものとする。

𝑓

𝑖𝑛𝑠𝑡

(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡) =

1

2𝜋

𝜕𝜑(𝑥, 𝑧

0

, 𝑡)

𝜕𝑡

…(3.20)

(22)

このとき瞬時周波数は式(3.20)と直交信号から式(3.21)で求めることができる。 𝑓𝑖𝑛𝑠𝑡(𝑥, 𝑧0, 𝑡) = 1 2𝜋 𝜕 𝜕𝑡{tan −1(𝑄𝑑(𝑥, 𝑧0, 𝑡) 𝐼𝑑(𝑥, 𝑧0, 𝑡) )} …(3.21)

3-1-3 RF データのアップサンプリング

超音波プローブで受信した放射超音波は AD 変換器を通してデジタル信号として取得す るが、放射超音波の周波数に対して AD 変換器のサンプリング周波数が十分に大きくない ときに、(サンプリング定理を満たす条件であっても)その波形が不連続なものとなりアー チファクト等の原因となる。そこで、波動の逆伝搬を施す前段階の処理として、取得した信 号についてアップサンプリングを行うことで、その波形を滑らかなものとする。アップサン プリングの流れとしては、はじめにアップサンプリングしたいデータ列の各サンプリング 点の間を値 0 で補完した後、そのデータ列に対して帯域通過フィルタをかける。このフィ ルタの通過帯域については、元のデータ列の周波数帯域に合わせるものとする。なお、一般 に元のデータ列の周波数帯域は、超音波プローブの受信利得の周波数特性によって支配さ れる。Fig.3-4 はアップサンプリングの前後での波形の違いを比較したものである。 Fig.3-4 アップサンプリングによる波形の滑らかさの違い : (a) アップサンプリング前, (b) アップサンプリング後

(23)

ここでは、帯域 5.5MHz~9.5MHz のデータ列のサンプリング周波数 31.25MHz をアップ サンプリングによって 125MHz まで引き上げることによって、信号波形を滑らかにしてい る。なお、アップサンプリング後の波形の遅延は帯域通過フィルタの畳み込みによるもので ある。

3-1-4 IIR フィルタによる信号分離

超音波プローブでデジタル信号として受信した受信データに対して、IIR フィルタをかけ ることにより、気泡破壊信号と非線形振動信号に分離する。FIR フィルタに比べ計算量が少 なく、急峻な特性が実現できることから IIR フィルタを選択した。本研究では非線形振動 信号の周波数は受信プローブの測定範囲を考慮して強力超音波の周波数2.5 [MHz] に対す る高調波・分数次調波である、5.00, 6.25, 7.50, 8.75, 10.00 [MHz] を想定している。また 気泡破壊信号は、非線形振動信号以外の周波数とした。 気泡破壊信号を観測するために気泡破壊信号観測用フィルタ、非線形振動信号を観測す るために非線形振動信号観測用フィルタを作成した。このとき気泡破壊信号観測用フィル タは、5.00, 6.25, 7.50, 8.75, 10.00 [MHz]を中心に ± 0.2 [MHz] を遮断周波数とし、帯域 除去フィルタを組み合わせて設計した。非線形振動信号観測用フィルタは、3.85-4.90, 5.10-6.15, 6.35-7.40, 7.60-8.65, 8.85-9.90, 10.10-11.15 [MHz] を遮断周波数とし、気泡破壊信号 観測用フィルタ以外の周波数を通すように帯域除去フィルタを組み合わせて設計した。ま た受信プローブの周波数特性より、ともに5.5-9.5 [MHz]で BPF を通した。設計仕様を Table 3-1 に、阻止帯域の組み合わせの模式図を Fig. 3-5 に示す。また、非線形振動信号観測用 フィルタと気泡破壊信号観測用フィルタのフィルタ特性を Fig. 3-6(a), 3-6(b) にそれぞれ 示す。 表 3-1 フィルタの設計仕様 Filter IIR

Filter Type Band Stop Filter Model Butterworth Filter Order 3 Sampling Frequency 125 [MHz]

(24)

Fig. 3-5. 帯域除去フィルタの阻止帯域の組み合わせ

Fig. 3-6. 設計したフィルタの周波数特性

(25)

4 章 気泡ダイナミクスを評価するパラメータと解析方法

気泡導入孔から放射された放射超音波への提案法の適用によって得た逆伝搬像再生像の うち、振幅情報と瞬時周波数情報をそれぞれFig.4-1(a), (b)に示す。

(26)

Fig.4-2: Fig.4-1 のある 1 ラインの時間波形の例(a)振幅像, (b)瞬時周波数 今回の研究では、気泡ダイナミクスと生体作用の関連を調べることを目的としている。そ こで、超音波照射によって引き起こされることが考えられる気泡ダイナミクスを挙げ、そ の評価を行う。 また、各パラメータに対応する二次超音波の成分を評価するために、統計的な解析項目を 挙げることで、二次超音波信号の評価と、生体作用効果の関係を明らかにする。

4-1. 気泡ダイナミクスに対応する評価パラメータ

超音波照射によって気泡は様々な動態を示すことが分かっている。以下の表に代表される 気泡ダイナミクスとそれに対応する超音波信号を示す。

(27)

表4-1.気泡ダイナミクスの例 Fig.4-2 気泡運動の概略図 これらの現象に対応する超音波の信号は、気泡の非線形振動(安定型キャビテーション)は 照射した強力超音波の周波数のn 倍の周波数の信号で観測される。次に気泡の移動につい ては個々の気泡の移動は見られないが、気泡群の移動は超音波信号の移動によって評価す ることができる。気泡の破壊(崩壊型キャビテーション)はごく短い時間で大きな信号を発 生させるので、インパルス信号として広帯域の周波数成分を持った信号が検出される。 これらの現象は同時多発的に発生しており、受信される二次超音波についても様々な成分 が含まれた状態で出力される。 そこで本研究では、これらの気泡ダイナミクスを要素に着目し、空間分布や時間変化を 別々に評価するために分解し、それらに対応するパラメータを設定する。 1. 信号の変化量に対するパラメータ 気泡ダイナミクスの変動や、どの現象が多く発生しているかを評価することで、その 瞬間の気泡の活動や、超音波照射の繰り返しが進むにつれて発生する気泡ダイナミク スの変化や量を評価することができる。 2. 信号の空間分布に対するパラメータ 強力超音波照射に対して大きな影響を受けている気泡群の位置や移動、疎密を評価す ることで、気泡がどのように分布し、振動や移動、気泡破壊によって空間的にどのよ うに変化をしていくかを評価することができる。 振動、移動 超音波に対して気泡が共振によって、非線形振動や移動を起こす。 クラウド化 気泡が振動、移動していく中で複数の気泡が接触、凝集していくこ と。 破壊 気泡が振動による変形に耐え切れなくなり、破裂するとともに内部 の 気泡の放出を行う。

(28)

3. 信号の時間変化に対するパラメータ 強力超音波照射中の特定信号の偏在や、信号そのものの時間的な疎密を評価すること で、その瞬間に支配的に発生している気泡ダイナミクスや、時間変化による運動の移 り変わりや特定運動の急激な増加などを評価することができる。 これらのパラメータを評価するために、統計的な解析を行っていく。

4-2. 各パラメータの解析方法

4-1 で示したパラメータについての解析方法を示す。 4-2-1.信号の変化量に対するパラメータの解析方法 信号の変化量に対するパラメータについては、信号の振幅や瞬時周波数に対して、以下の統 計量を使用して評価を行う。 積算値:受信信号の総量から気泡の運動量を評価する。 分散:気泡破壊が発生している場合、ごく短い時間で大きな信号が観測される。このことか ら、受信信号の値の変化が大きくなり、分散の値が上昇する。これを利用することで、気泡 破壊信号の含まれる量の評価を行う。 分散は𝜎2は信号の平均値を𝑓 𝑖𝑛𝑠𝑡 ̅̅̅̅̅̅として次の式(4.1)によって定義される。 𝝈𝟐=𝟏 𝒏∑( 𝒏 𝒊=𝟏 𝑓𝑖𝑛𝑠𝑡(𝑥, 𝑧0, 𝑡) − 𝒇̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅)𝒊𝒏𝒔𝒕(𝑥, 𝑧0, 𝑡) 𝟐 …(4.1) ここで、n は強力超音波の照射開始から終了までの時間に相当するデータ数を表す。 4-2-2.信号の分布に対するパラメータの解析方法 尖度:x 軸方向の気泡のキャビテーション信号の強度分布が局所的に集中しているか、ある いは導入孔全体に広くなだらか分布しているのかを評価するパラメータであり、尖度が大 きければ局所的に集中しており、小さければ広くなだらかに分布している。 以下は尖度の式である。 尖度𝑏2は式(4.2)で定義される。 𝒃𝟐= 𝒌𝟒 𝒌𝟐𝟐 …(4.2) ただし、𝑘2、𝑘4については次の式で定義する。 𝑘2= 𝑛 𝑛 − 1𝑚2 …(4.3)

(29)

𝑘4= 𝑛2 (𝑛 − 1)(𝑛 − 2)(𝑛 − 3){(𝑛 + 1)𝑚4− 3(𝑛 − 1)𝑚2 2} …(4.4) ただし、m2 は 2 次モーメント、m4は4 次モーメントとする。 歪度:歪度は正規分布を 0 として、分布が右に偏れば正の数、左に偏れば負の数をとるとい う統計量である。 受信信号が多く検出される位置は、データや超音波照射の進行によって異なってくる。今回 の実験では、超音波振動子とリニアプローブは常に同じ位置に存在することから、気泡群の 移動や偏りを評価することができる。 以下は歪度の式となる。 歪度𝑆𝑘を式(4.5)で定義する。 𝑆𝑘= 𝑛 (𝑛 − 1)(𝑛 − 2)∑ ( 𝑎𝑖− 𝑎̅ 𝑠 ) 3 𝑛 𝑖=1 …(4.5) ただし、n はデータ数、𝑎𝑖は各データ、𝑎̅は𝑎𝑖の平均、𝑠は𝑎𝑖の標準偏差を示す。 4-2-3.信号の時間変化に対するパラメータの解析方法 重心:受信信号が時間変化していく際、超音波照射の時間内で、信号が偏る場合がある。こ の時以下の式(4.6)に示す重心を算出することで、信号の時間変化における偏りを評価する。 重心位置 =𝑇𝑔 𝑇 …(4.6) ただし、強力超音波の照射は時刻 0 から開始して時刻 𝑇 に終了するとする。ここで、この 波形の時刻 𝑇 までの積分値が 𝑆 とするとき、その積算値の半分 S/2 となるように時刻 0 から𝑇𝑔まで積算したとする。 これらの統計用に加え、取得する際の信号の種類、気泡運動ごとの信号を切り分けるため のデジタルフィルタの有無、微分による信号の変化量への着目を考慮することで以下のパ ラメータを取得する。

(30)

Fig.4-3 振幅像に対する統計解析の項目 振幅像を使用する場合はこの樹形図に従ってパラメータを表す。今回は振幅画像を使用す る場合は A、瞬時周波数を使用する場合は I を使用する。また時間方向では T、空間方向 では S、フレーム間での変化については F を用いて場合分けを行った。次にフィルタの選 択する際に、フィルタを使用しない場合を 1 とし、破壊信号抽出フィルタを使用する場合 は 2、非線形振動信号抽出フィルタを使用する場合は 3 を使用した。次に微分の有無を同 様に場合分けし、最後に数学的処理に応じて数値を割り当てた。一例として、微分を使用 し信号の変化量に着目する場合は(A-S-1-2-1)というように変化することで表記を行う。 また、取得する信号を変化させるために、気泡破壊信号抽出フィルタを使用する場合は (A-S-2-1-1)、非線形振動抽出フィルタを使用する場合は(A-S-3-1-1)というように表す。

(31)

Fig.4-4 瞬時周波数像に対する統計解析の項目 瞬時周波数は位相微分によって取得できる信号であることから、微分の処理は利用しない こととする。また、フィルタを使用する場合は、振幅像での信号と同様の処理を行う。

4-3. 生体作用効果評価方法

4-3-1.蛍光像における画像処理方法 蛍光色素導入実験を行うことで、以下のような細胞の観察画像を取得することができる。 Fig.4-5 細胞の観察画像(明視野)

(32)

Fig.4-6 細胞の観察画像(蛍光励起) この観察画像は同じ位置で照射するランプを変更することで 1 対の画像として取得され る。この明視野像と蛍光像に対してそれぞれエッジ検出を利用した細胞のカウントプログ ラムを使用することで、細胞の個数を計測した。そして、それぞれのデータの細胞数と蛍 光色素導入細胞の個数を比較することで、そのデータでの生体作用効果を規定した。 この時、細胞の大きさが一定以上の大きさになっていないものは、変形が著しいものとし てカウントから除外するようにプログラムを調整した。 今回の研究では、この細胞の変形率と超音波信号の関係についての実験を行っているが、 この際には、その大きさによる閾値を変更することで、著しい変形が見られた細胞を認識 できるよう調整を行い、通常の細胞カウントプログラムとの結果と比較することで細胞変 形率を規定した。 4-3-1.フローサイトメトリーを用いた評価方法[9] フローサイトメトリーは、細胞を懸濁した溶液を微細な管に通し、その間にレーザー光を 照射することで細胞の検出、散乱光による細胞の状態の評価、レーザー光による励起発光 の検出などを行うことができる。今回の研究では細胞の変形や大きさの違いによる分布を 評価する。

(33)

Fig. 4-7. フローサイトメトリーによる細胞変形ごとの分布 縦軸のSSC はレーザー光の側方散乱を表し、横軸の FSC は前方散乱を表す。側方散乱は レーザー光に対して一定以上の角度の領域に散乱した光の蛍光度を評価する。細胞内をレ ーザー光が突き抜けない場合に大きくなることから、細胞の内部構造の変化などを評価す ることができる。前方散乱はレーザー照射に対して正面で計測する蛍光度である。この蛍 光度によって細胞の表面状態や大きさについての評価を行うことができる。また、Fig. 4-7 において、実験で混入した物質等の影響を排除するために、分布の R1(赤の枠)に存在す る細胞を評価対象とした。また細胞の変形が著しくなるにつれ、側方散乱が大きくなるこ とから、R7、R8 の二つの領域を新たに設定し、R7 の範囲に含まれるデータを変形が大き いデータとして、その割合を細胞変化率とした。

(34)

5 章 実験系

5-1. 実験系の概要

逆伝搬像再生法の実験系の概略と写真をそれぞれFig.5-1 と Fig.5-2 に示す。 まず、模擬生体ファントムである寒天に金属棒を用いて、2mm×5mm の導入孔を作製 する。導入孔に対して外部から強力超音波を照射するために使用するトランスデューサ (中心周波数:2.5MHz)を導入孔から 40mm(超音波の収束点)離れた位置に置き、そ のビームの軸が導入孔の中心軸と直交するように設置した。次に気泡から放射された二次 的な超音波信号を受信するために使用するリニアプローブ(中心周波数:7.5MHz)を気 泡導入孔から20mm 離れた位置に配置し、リニアプローブのプローブ面の法線方向とトラ ンスデューサのビーム軸が直角に交わるように調整した。 本実験における超音波照射の概要はFig.5-1 に示すように行われる。①微小気泡と生体 細胞、細胞染色液を懸濁した溶液を導入孔に入れる。この気泡を信号源として②超音波を 照射する。超音波照射によって③気泡から二次超音波が発生し、それを④リニアプローブ によって受信する。 逆伝搬像再生は以下の通りである。 <逆伝搬像再生の流れ> 1. リニアプローブからは周期的に映像超音波が照射される 2. 映像超音波の照射タイミングに合わせて研究用超音波測定装置から同期トリガが出力 されるので、これを発振器のトリガ入力に入れる。 3. 寒天上の導入孔に懸濁液を導入する 4. 同期トリガに遅延をかけた上で発振器出力を ON 状態にして強力超音波を照射する 5. 気泡から放射された二次超音波をリニアプローブで受信する 6. リニアプローブの各素子の AD 変換器出力を PC 上で取得 7. 取得 RF データを用いてプログラム上で逆伝搬像再生を行う 本実験系は再現性を高めた構成になっているが、導入孔の大きさや長さは実験ごとに多 少の誤差が伴う。また、導入孔からの各プローブ位置や角度に関しては、実験日ごとに若 干異なるので、実験結果にバラつきが生じる。

(35)

Fig.5-1 実験系の概略

Fig.5-2 実験系の写真

5-2. 研究用超音波測定装置

気泡からの放射超音波の取得にはマイクロソニック株式会社のRSYS0003STA を使用した (Fig.5-3 )。

(36)

Fig.5-3 RSYS0003STA この装置ではリニアプローブの各素子で受信した超音波のAD 変換器出力をバイナリデ ータとして取得することが可能となっていると同時に、同期用トリガを外部に出力するこ とが可能となっている。表5-1 にこの装置の諸元(今回の実験系における設定値)につい て示す。 表5-1RSYS0003 の諸元 プローブ中心周波数 7.5MHz 映像超音波の音圧 0.1 MPa 素子ピッチ 0.6mm チャネル数 16ch PRT 80μsec

5-3. 強力超音波照射用の超音波振動子

実験に用いた球面超音波振動子のパラメータを以下に示す。富士セラミック社製凹面型 超音波振動子で設計上の直径、曲率半径及び共振周波数はそれぞれ22mm、42mm、2.5MHz

(37)

である。この凹面型超音波振動子の背面にアクリル製の振動子ホルダを取り付けて、このホ ルダをもって保持している(Fig.5-4)。 Fig.5-4 凹面超音波振動子と振動子ホルダ この振動子の入力インピーダンスの周波数特性をFig.5-5 に示す。 Fig.5-5 2.5MHz 振動子のインピーダンス特性 この振動子の電圧-音圧特性をFig.5-6 にそれぞれ示す。

(38)

Fig.5-6 電圧-音圧特性 Fig.4-6 の電圧-音圧特性の測定においてはハイドロフォンプローブ HNR1000(イーステ ック株式会社)を使用して、凹面超音波振動子からのビーム軸上の40mm 先にハイドロフ ォンプローブを対向させる形で配置して行った。ここで、この凹面振動子のビーム軸方向 の出力音圧分布をシミュレーションした結果をFig.5-7 に示す。このグラフの青線が凹面 超音波振動子の音圧分布であり、このグラフが示すように振動子から40mm の位置におい て出力音圧が最も強くなることを考慮し、振動子から40mm の位置での出力超音波を使用 している。 Fig.5-7 振動子のビーム軸方向の音圧分布 前述の円形凹面振動子の音圧分布のシミュレーションは式(5.1)により行った。この式は円

(39)

形凹面振動子のビーム軸(

𝑥

軸)方向の音圧分布を与える。ここで「正規化」とは、ρ、c及び Vmをそれぞれ媒質の密度、音速及び振動子面上の体積速度の最大値とするとき、それらの 積 𝜌𝑐|𝑉𝑚| で音圧pの絶対値 |𝑝| を割ることをいう。 正規化音圧

|𝑃

𝐼

(𝑥)| =

|𝑝| 𝜌𝑐|𝑉𝑚|

= |

2𝐴 𝐴−𝑥

sin

𝑘 2

(√𝑎

2

+ (𝑥 − 𝐴 + √𝐴

2

− 𝑎

2

)

2

− 𝑥)|

ただし焦点(

𝑥

= A )において、

|𝑃

𝐼

(𝐴)| = 𝑘ℎ

…(5.1) (5.1)式のp、ρ、c及びVmはそれぞれ音圧、媒質の密度、音速および振動子面上の体積速 度の最大値である。式(5.1)における各パラメ-タの詳細は表 5-2 の通り。 表5-2 式(5.1)のパラメ-タ 曲率半径

𝐴[m]

0.042 半径

𝑎[m]

0.011 位相定数

𝑘[𝑟𝑎𝑑/𝑚]

10471.976 振動子の深さ

ℎ[m]

0.001466 出力する超音波の音圧や周波数、位相等の制御は、振動子に接続した発振器によって行な う。発振器には株式会社NF 回路設計ブロック社製の WF1968 を使用した。この発振器の 出力をパワーアンプ(株式会社NF 回路設計ブロック社製 HSA4101)に接続して、その出 力を超音波振動子の端子間に印加することで強力超音波を出力している。

5-4. 模擬生体ファントム(寒天ファントム)

生体模擬ファントムとして、寒天ファントムを使用している。寒天ファントムは作成が容易 でありながら、弾性特性が生体に近く、超音波の伝搬速度が水中での伝搬速度とほぼ等しい という特徴がある。今回実験に使用したファントムはグラファイト濃度、寒天濃度ともに 1.50%とした。 寒天ファントムの作成方法を以下に示す。 <寒天ファントムの作成手順> 1. 水に所定の量の寒天粉末(和光純薬工業株式会社)を加えて沸騰するまで加熱する。 2. 沸騰したら、かき混ぜながら、約 40℃になるまでゆっくり冷却する。 3. 約 40℃になったら、型に入れて、冷蔵庫で完全に固まるまで冷却する。 4. 寒天が完全に固まったことを確認した後、型を引き抜く。

(40)

Fig.5-8 に導入孔の形状を示す。 Fig.5-8 導入孔の形状

5-5. 超音波造影剤

超音波造影剤に利用される微小気泡を Fig.4-3 に示す。実験には肝臓などの超音波造影剤に 利用されているソナゾイドを使用した。ソナゾイドは気泡径が 3μm であり、ホスファチジ ルセリンナトリウムを材質とするシェルによってペルフルブタンガスを内包する微小気泡 である。

(41)

Fig.5-9 超音波造影剤に利用される微小気泡

5-6. 浮遊細胞(HL-60)

浮遊細胞としてほ乳類白血球由来のHL-60 を用いた。この細胞はほ乳類白血球由来であ り、細胞の管理等の容易さを考慮して選択した。HL-60 の直径は約 10 µm である。HL-60 溶液の作成方法を以下に示す。 <HL-60 溶液の作成手順> 1. HL-60 を培養後、 5.0 × 105 個/ml になるように HL-60 溶液を調製した。 2. 1 で調製した溶液に対して、100 倍に希釈したソナゾイドを混ぜ、HL-60 溶液を作成 した。 上記で作成したHL-60 溶液に染色液を入れ超音波を照射した。照射した後、HL-60 懸濁 液は注射器を用いて回収し、導入した蛍光物質に応じて以下に示す方法によって観察を行 った。

(42)

5-7. 細胞染色液の導入

顕微鏡での観察ではThermoFisherScientific 社の invitrogen NucBlue Fixed Cell Stain ReadyProbes reagent を用いた。この染色液は正常な細胞膜を透過せず、細胞膜が壊れて DNA に結合すると、青色の蛍光を発する特徴を持つ。そのため、通常は死細胞を染色す る目的で使用される。本実験においては、音響穿孔による試薬の膜透過が起ると考えられ るため、本試薬を選定した。蛍光顕微鏡では、青・シアンフィルタを通して観察すること ができる。DNA 結合時 360 nm の紫外線で励起したときの、最大発光波長は 460nm であ る。

5-8. 細胞の観察方法

5-8-1. 蛍光顕微鏡

蛍光顕微鏡はKEYENCE 社製の HS オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-9000 を使用した ( Fig.5-11)。このとき、前述した染色液の特徴より、蛍光顕微鏡の蛍光フィルタは DAPI-B( 励起波長 : 360/40, 吸収波長 : 460/50, ダイクロイックミラー波長 : 400 [nm] )を選択 した。

5-8-2. フローサイトメトリー

[9]

フローサイトメトリーはThermo Fisher の Attune NxT Acoustic Focusing Cytometer を 使用した。細胞を懸濁した溶液を微細な管に通し、その間にレーザー光を照射することで 細胞の検出、散乱光による細胞の状態の評価、レーザー光による励起発光の検出などを行 うことができる。今回の研究では細胞の変形や大きさの違いによる分布を評価する。

(43)

6 章 実験結果

6-1. 基準音圧条件下における生体作用効果評価実験

生体細胞に対して超音波を照射した結果を示す。超音波の照射条件は表 6-1 に示す通り である。 表6-1 実験条件 強力超音波 音圧 1.0 MPa 周波数 2.5MHz サイクル数 75 Cycle (30μsec) 照射回数 50 照射 気泡破壊用超音波 1s×1 照射 今回、基準音圧としてソナゾイドに対しての超音波照射で以下のような結果を得られて いる1.0MPa を選択した。 Fig.6-1 ソナゾイドに対して超音波照射を行った際の周波数分布 音圧 1.0MPa と比較的強い音圧であることから、気泡破壊を含む崩壊型キャビテーショ ン現象が支配的となり、その際に発生する気泡破壊を含む気泡運動によって、細胞に対する 生体作用が期待される。今回の実験では、信号取得用の超音波照射を計1.5ms、気泡破壊用 の超音波を1.0s照射する。信号取得用の超音波照射によって得られた信号を解析すること で、一連の超音波照射によって発生する生体作用への効果を評価していく。

6-1-1.

超音波照射の進行と生体作用との関係

まず初めに、4 章で示した、信号の変化量に関するパラメータを評価した。超音波の振幅の フレーム毎に平均値を算出したところ以下のグラフ(Fig.5-2)を取得した

(44)

Fig.6-2 振幅の平均値のフレームごとの変化 このグラフから、超音波照射の各フレームは大きく分けて 3 つのグループに分かれること が分かった。振幅の平均値が上昇する前期、減少していく中期、変動が起こらなくなる後期 に分かれることが分かった。 また、取得されたエネルギーの総量と、生体作用との関係を以下のように評価した。 1 から 50 照射までのすべての照射の総量 𝐸𝑎𝑙𝑙= ∑ 𝐼𝑖 50 𝑖=1 …(6.1) 振幅の変動が大きい1 から 20 照射までの総量 𝐸𝑒𝑎𝑟𝑙𝑦 = ∑ 𝐼𝑖 20 𝑖=1 …(6.2) 変動が少ない21 から 50 照射までの総量 𝐸𝑙𝑎𝑡𝑡𝑒𝑟= ∑ 𝐼𝑖 50 𝑖=21 これらについて、フィルタ処理したデータ別に評価を行った。以下の表(5-1)に示す。

(45)

表6-2.エネルギー総量と生体作用の関係 1~50 1~20 21~50 フィルタなし 0.289 0.113 0.400 破壊信号抽出 0.251 0.054 0.387 非線形振動抽出 0.384 0.311 0.398

6-1-2.

超音波の各フレームでの解析と生体作用との関係

6-1-1 で、超音波のフレームのグループが分かれていることがわかった。この各グループか ら1 フレーム抽出していき、各点での生体作用との相関を評価していく。 今回は、 1 フレーム、13 フレーム、25 フレームのそれぞれについて評価を行った。 1 フレーム(1st stage) 今回は3 つのパラメータそれぞれから 1 項目ずつ解析項目を評価した。以下に示す散布図 はそれぞれの条件とその中での生体作用の上位、下位50%での色分けを行った。 表6-3. 各パラメータとの相関 パラメータ 相関係数 時間方向歪度 0.39 空間方向尖度 0.44 信号の分散 0.45 Fig.6-3 パラメータとの重相関の散布図

(A-1-1-2)

(A-1-1-2)

(A

-T

-1

-1

-3

)

(A

-S

-1

-1

-3

)

(46)

これらの解析項目との重相関係数は0.54 となった。この結果から信号の分散と尖度の値が 大きくなり、超音波信号が時間方向で前半に偏るほど、生体作用が大きくなることが分かっ た。 13 フレーム(2nd stage) 以下に示す散布図はそれぞれの条件とその中での生体作用の上位、下位 50%での色分けを 行った。 表6-4. 各パラメータとの相関 パラメータ 相関係数 空間方向尖度 0.42 信号の分散 -0.42 Fig.6-4 パラメータとの重相関の散布図

(A-1-1-2)

(A

-S

-1

-1

-3

)

(47)

これらの解析項目との重相関係数は0.53 となった。この結果から信号の尖度の値が大きく なり、分散値が低くなっているほど生体作用が大きくなることが分かった。 25 フレーム(3rd stage) 以下に示す散布図はそれぞれの条件とその中での生体作用の上位、下位 50%での色分けを 行った。 表6-5. 各パラメータとの相関 パラメータ 相関係数 空間方向尖度 0.36 信号の微分値の分散 -0.45 Fig.6-5 パラメータとの重相関の散布図 これらの解析項目との重相関係数は0.52 となった。この結果から信号の尖度の値が大きく なり、分散値が低くなっているほど生体作用が大きくなることが分かった。

(A-1-2-2)

(A

-S

-2

-1

-3

)

(48)

6-1-3.考察

6-1-1 の結果から、非線形振動が生体作用に寄与しているという結果を得られた。 今回の実験では、気泡破壊をより発生させるために、長時間の超音波照射を行う。この際に おこる気泡現象の多くは、今回の解析結果から非線形振動であると考えられる。従来であれ ば気泡破壊現象が生体作用に寄与すると考えられていたが、気泡の非線形振動による影響 が、一連の超音波照射の中で効果があると考えられる。 Fig.6-6 照射前期(1st)での分散と時間方向の歪度に関するパラメータ

(49)

Fig.6-7 照射後期(3rd)での分散と時間方向の歪度に関するパラメータ 6-1-2 の結果から、各フレームでの信号と生体作用との関係を評価した。また、各パラメー タの統計解析の結果から、照射前期と照射後期において、Fig.6-6、Fig.6-7 のようにパラメ ータと生体作用効果との相関値に逆転の傾向が見られた。この際照射後期に関しては気泡 破壊現象が見られないことが考えられるため、気泡破壊信号抽出フィルタを使用したデー タについては考察の対象外としている。この解析項目との相関の結果から、照射前期におい ては気泡の破壊現象を含む崩壊型キャビテーションが支配的であり、その現象がより局所 的に発生することが生体作用に寄与することが示唆された。また照射後期においては、気泡 の非線形振動などの安定型キャビテーションが支配的であり、さらに気泡が一様に存在し、 運動をより長く持続させることが生体作用に寄与しているということが示唆された。これ らの結果から、気泡運動によって発生する総エネルギーではなく、信号源での空間的分布の 偏りや時間的な出現頻度が生体作用に寄与していることが示唆された。

6-2. 高音圧条件下における生体作用効果評価実験

次に送信の超音波の音圧を高音圧条件とした場合の生体作用効果との関係を評価した。 高音圧の超音波の照射条件は表6-6 に示す通りである。

(50)

表6-6 実験条件 強力超音波 音圧 1.5 MPa 周波数 2.5MHz サイクル数 75 Cycle (30μsec) 照射回数 50 照射 気泡破壊用超音波 1s×1 照射

6-2-1.

細胞変形と送信超音波の音圧の関係

送信音圧の変化に対して、蛍光顕微鏡の明視野画像では以下のFig.6-6、Fig.6-7 のような画 像を得ることができた。 Fig.6-8,1.0MPa での細胞観察画像

50um

(51)

Fig.6-9,1.5MPa での細胞観察画像 画像から、1.5MPa での細胞の損傷が大きいことが分かった。

またこの細胞変形についてフローサイトメトリーを用いて変形の評価を行った。以下には 細胞変形が大きいデータと小さいデータの結果をそれぞれFig.6-10、Fig.6-11 に示す。

(52)
(53)

Fig.6-11.細胞変形が小さいデータ

フローサイトメトリーを用いた実験では上図の R7 の領域にどれだけの細胞が侵入してい るのかを評価することで、細胞変形の割合を評価した。

(54)

Fig.6-12 蛍光顕微鏡を用いた細胞変形率の評価

(55)

この結果から、音圧上昇に伴う細胞変形率の上昇が確認された。

6-2-2.

細胞変形と受信信号の解析の結果

蛍光顕微鏡を使用したデータを使用して、細胞変形率と受信信号の関係について以下に示 す。 蛍光顕微鏡観測での細胞変形率については、画像から細胞を認識するプログラムを変更す ることで、変形の著しい細胞に着目した生体作用効果を算出し、気泡ダイナミクスが大きく、 細胞への影響を及ぼしていることが考えられる照射前半との関係を評価した。 表6-5. 各パラメータとの相関 パラメータ 相関係数 空間方向尖度 0.62 信号の微分値の分散 0.46 Fig.6-14 パラメータとの重相関の散布図 重相関係数は0.83 となった。このことから、空間的に密集した気泡の破壊現象を含む運動 によって、細胞への過剰な変形が発生することが示唆された。

6-1-3.考察

以上の結果から、細胞変形については気泡破壊を含む崩壊型キャビテーションが大きく寄

(56)

与することが分かった。 Fig.6-15 相関係数の傾向の変化 また、細胞の変形率と、6-1 の実験でのそれぞれの 1 照射目の相関係数を比較した結果、 微分を行った際の解析項目との相関係数に逆の傾向がみられることが分かった。この結果 に関して、微分の処理を行うことで、信号の変化量に対しての解析を行うことができる。 その中で微分した尖度、歪度が正の相関を示していることから、瞬間的かつ振幅の変化量 が大きい信号の頻度が増加することで、細胞への変形が大きくなるということが示唆され た。

(57)

7 章 まとめ

7-1. 結論

超音波照射によって発生する生体作用の評価を目的として細胞に対する逆伝搬像再生法 を使った超音波照射を行った。これによって • 非線形振動が生体作用に影響を及ぼす可能性を示唆した。 • 超音波照射の各フレームにおける生体作用との関連を振幅の平均値の変化の仕方によ って場合分けをし、それぞれの場合での生体作用との相関係数から、気泡ダイナミクス と生体作用の関係を考察した。 • 送信音圧の違いによって、細胞の変形割合に変化が生じることが確認された。 • 超音波によって発生する気泡キャビテーション現象と細胞の変形割合との関係を示唆 した。 この結果から、生体作用を励起する超音波のパラメータを評価し、超音波照射が引き起こす 生体作用の定量的な評価の一助となることが示唆された。

7-2. 今後の課題

今回の研究で、網羅的な解析を行ったので、この結果をもとにした超音波照射系の最適化を 行いたい。

(58)

参考文献

1. 泉遥介: 高効率ドラッグデリバリ・システム(DDS)のための気泡クラウドキャビテー ションのその場可視化法、群馬大学大学院修士論文、(2016)

2. 折笠拓夢、気泡キャビテーション信号の高時間分解能ホログラフィック観察、群馬大 学大学院修士論文、(2018)

3. Sascha Hilgenfeldt, Michael P.Brenner, Siegfriend Grossmann and Detlef Lohse ,Analysis of Rayleigh–Plesset dynamics for sonoluminescing bubbles ,J.Fluid Mech. Volume 365, pp.171-204.(1998)

4. T G Leighton, A J Walton and M J W Pickworth, Primary Bjerknes forces, European Journal of Physics, Volume 11, pp. 47-50(1991)

5. Lars Hoff, Ultrasound Contrast Bubble Simulation. Bubblesim,(2004)

6. Elizabeth Huynh, Jonathan F. Lovell, Brandon L. Helfield, Mansik Jeon, Chulhong Kim, David E. Goertz, Brian C. Wilson, and Gang Zheng, Porphyrin Shell Microbubbles with Intrinsic Ultrasound and Photoacoustic Properties,Journal of the American chemical society, Volume134, pp 16464–16467,(2012)

7. Lars Hoff, Acoustic Characterization of Contrast Agents for Medical Ultrasound Imaging, Springer Netherlands ,chapter6, (2001)

8. http://www.ieee-uffc.org/ulmain.asp?view=software

(59)

謝辞

研究を行うにあたり、懇切なるご指導を頂いた群馬大学理工学府理工学専攻電子情報・数 理教育プログラム、江田廉助教に深く感謝を申し上げます。 使用細胞の管理に協力いただいた黒沢綾助教に深く感謝申し上げます。細胞観察で装置 の利用許可を下さり、監督をしていただいた花岡宏史特任准教に深く感謝を申し上げます。 日頃から大変有益な助言を頂いた山越芳樹教授に深く感謝申し上げます。実験系作成な どあらゆる面で終始適切な助言、援助をして頂いた荻野毅技官に深く感謝申し上げます。ま た、実験及び画像解析等で御協力頂いた堀内弘喜氏、阪村優介氏に心から感謝申し上げます。

Fig. 3-6.  設計したフィルタの周波数特性
表 4-1.気泡ダイナミクスの例  Fig.4-2 気泡運動の概略図  これらの現象に対応する超音波の信号は、気泡の非線形振動(安定型キャビテーション)は 照射した強力超音波の周波数の n 倍の周波数の信号で観測される。次に気泡の移動につい ては個々の気泡の移動は見られないが、気泡群の移動は超音波信号の移動によって評価す ることができる。気泡の破壊(崩壊型キャビテーション)はごく短い時間で大きな信号を発 生させるので、インパルス信号として広帯域の周波数成分を持った信号が検出される。  これらの現象は同時多発
Fig. 4-7.  フローサイトメトリーによる細胞変形ごとの分布  縦軸の SSC はレーザー光の側方散乱を表し、横軸の FSC は前方散乱を表す。側方散乱は レーザー光に対して一定以上の角度の領域に散乱した光の蛍光度を評価する。細胞内をレ ーザー光が突き抜けない場合に大きくなることから、細胞の内部構造の変化などを評価す ることができる。前方散乱はレーザー照射に対して正面で計測する蛍光度である。この蛍 光度によって細胞の表面状態や大きさについての評価を行うことができる。また、Fig
表 6-2.エネルギー総量と生体作用の関係  1~50  1~20  21~50  フィルタなし  0.289  0.113  0.400  破壊信号抽出  0.251  0.054    0.387  非線形振動抽出  0.384  0.311  0.398  6-1-2
+2

参照

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