ミクロ経済学第 7 回課題解答
今井 陽介
∗2017 年 1 月 21 日
1 確認問題
1.1 用語の確認
1. 戦略形表現 とは戦略形ゲーム*1の記述法であり、この表現様式の下では各戦略形ゲームは、プレイヤー の集合、戦略集合、利得関数の三つの要素で表される。数式を用いると、ある戦略形ゲームGの戦略 形表現は以下の様に定義することができる。
G=< I, (Ai, ui)i∈I >
ただし、Iはプレイヤーの集合であり、Aiは各プレイヤーi∈ Iの戦略集合を指す。また、プレイヤー iの利得uiは、A=∏i∈IAiからℜへの関数である。
2. 支配戦略には、強支配戦略と弱支配戦略がある。
• あるプレイヤーi∈ Iの戦略ai ∈ Aiが 強支配戦略 である。
⇐⇒ ∀bi∈ Ai with bi̸= ai,∀a−i∈ A−i, ui(ai, a−i) > ui(bi, a−i) ただし、A−i=∏j∈I,j̸=iAj かつa−i∈ A−iを表す。
• あるプレイヤーi∈ Iの戦略ai ∈ Aiが 弱支配戦略 である。
⇐⇒
{∀bi∈ Ai,∀a−i∈ A−i, ui(ai, a−i) ≥ ui(bi, a−i)
∀bi∈ Ai,∃a−i∈ A−i, ui(ai, a−i) > ui(bi, a−i) 3. 戦略の組a∈ Aが ナッシュ均衡 である。
⇐⇒ ∀i ∈ I, ∀bi∈ Ai, ui(ai, a−i) ≥ ui(bi, a−i)
4. クールノー競争 とは、寡占市場において各企業が、他の企業の生産量を所与として利潤最大化を達成す るように、生産量を決定する競争を指す。これに対して ベルトラン競争 とは、各企業が他社の価格を 所与として利潤最大化を達成するように、自身の価格を決定する競争である。
∗質問や誤植などがあれば、TA のメールアドレス komabamicro2016@gmail.com までお知らせください。
*1戦略形ゲームとは、各プレイヤーが与えられた選択肢から一度に同時に意思決定をするようなゲームである。標準形ゲームとも呼 ばれる。
5. 戦略形ゲームにおいて、あるプレイヤーが積極的な戦略を採ると仮定すると、他のプレイヤーもそれに 追随することが最適となるとき、このゲームは 戦略的補完性 を持つという。これに対して、あるプレ イヤーが積極的な戦略を採ると仮定すると、他のプレイヤーがより消極的な戦略を採ることが最適とな る場合、そのゲームは 戦略的代替性 を持つという。
1.2 クリスマスプレゼントの宅配
1. 戦略形表現は以下の表で表される。なお利得の組の左側(右側)はプレイヤーA(B)の利得を指す。
A\B 待つ 出向く
待つ -4, -4 -5, 0 出向く 0, -5 -2, -2
2. 戦略「出向く」は両プレイヤーにとって強支配戦略である。これを確かめるために、プレイヤーAの 戦略を考える。仮にプレイヤーBが「待つ」を選択した場合、プレイヤーAは「出向く」を選択する のが最適である(プレイヤーAの利得は、彼が「待つ」を選択した場合は-4であり、「出向く」を選択 した場合は0である)。同様にして、プレイヤーBが「出向く」を選択した場合も、プレイヤーAの最 適反応は「出向く」である(プレイヤーAの利得は、彼が「待つ」を選択した場合は-5であり、「出向 く」を選択した場合は-2である)。以上から、プレイヤーAの支配戦略は「出向く」である。同様にし て、プレイヤーBの強支配戦略も「出向く」であることが確認できる。
3. 設問1の結果から、両プレイヤーが「出向く」を選択する状態がナッシュ均衡である*2。
2 標準問題
2.1 じゃんけん
1. このゲームの戦略形表現は以下の通りとなる。
A\B グー チョキ パー
グー x, x 3, 0 0, 2 チョキ 0, 3 x, x 6, 0 パー 2, 0 0, 6 x, x
2. x=0のときのプレイヤーi(=1,2)の最適反応は以下の通りとなる。
プレイヤーjの戦略(j ̸= i) グー チョキ パー プレイヤーiの最適反応 パー グー チョキ
上の表のようにして、各々のxの値について各プレイヤーの最適反応を調べればよい。この結果をまと めると、xの値とそれに対応する純粋戦略でのナッシュ均衡は以下の通りとなる。なお、表中において
*2一般に強支配される純粋戦略を含んだ戦略の組は、ナッシュ均衡にはなりえない(各自証明せよ)。この性質を用いて強支配される 戦略を順々に消していくと、ナッシュ均衡の候補を減らすことができる。以上のような操作を「強支配される戦略の逐次消去」という。 当設問ではこの操作をして唯一のナッシュ均衡を求めている
戦略の組は、(プレイヤーAの戦略,プレイヤーBの戦略)を表す。
x 0, 1 2 3, 4, 5 6, 7, 8, 9
ナッシュ均衡 存在しない (グー,グー) (グ ー, グ ー) (チョキ,チョキ)
(グ ー, グ ー) (チョキ, チョキ) (パー,パー)
3. 設問2の結果から、x=1のときは純粋戦略の範囲でナッシュ均衡は存在しないことがわかる。さら に強支配される純粋戦略も存在しないため、プレイヤーi(=1, 2)の厳密な混合戦略*3(p, q, 1-p-q)を 考える*4。なお、その定義よりp ∈ (0, 1), q ∈ (0, 1), 1 − p − q ∈ (0, 1)を仮定する。ここでpは グーに付与する確率であり、対してqはチョキに付与する確率を表す。つまりプレイヤーiの混合戦
略(p, q, 1-p-q)は、グー、チョキ、パーに付与する確率の組として表されることとなる。戦略や利
得の対称性から、いま((p, q, 1-p-q), (p, q, 1-p-q))がナッシュ均衡となるための条件を考える。特 にナッシュ均衡のもとでのプレイヤーAの戦略に注目する。いまプレイヤーBが、混合戦略(p, q,
1-p-q)に従っていたとする。ここで仮にプレイヤーAが純粋戦略「グー」を採ったとすると、彼女の
期待利得はp+ 3qである。他方で彼女が、純粋戦略「チョキ」を取ったとすると、その期待利得は q+ 6(1 − p − q) = −6p − 5q + 6である。もし前者が後者より大きな値であった場合、プレイヤーA にとっては「グー」に付与する確率を挙げた方がより高い利得を享受できる。逆に後者が前者を上回っ た場合、彼女は「チョキ」に付与する確率を高めた方がよい。以上から、プレイヤーBの混合戦略(p, q, 1-p-q)を所与としたとき、プレイヤーAにとって戦略(p, q, 1-p-q)が最適となるためには、少なく とも彼女の純粋戦略「グー」と「チョキ」を採ったときの期待利得が等しくなる必要がある。故に((p, q, 1-p-q), (p, q, 1-p-q))がナッシュ均衡であるためには、
p+ 3q = −6p − 5q + 6 (1)
が成立しなくてはならない。
同様に、プレイヤーBの混合戦略(p, q, 1-p-q)を所与として純粋戦略「チョキ」と「パー」を採った とき、両者に関してプレイヤーAの期待利得は等しくなる。
−6p − 5q + 6 = 2p + (1 − p − q) (2)
以 上 (1)(2) 式 を 連 立 し て 、(p, q) = (4 7,
1
4) と な る 。故 に x=1 の と き の ナ ッ シ ュ 均 衡 は ( 4
7, 1 4,
5 28), (
4 7,
1 4,
5 28)
)となる。
2.2 演習問題(抜粋)
【各自解答を参照】
*3厳密な混合戦略とは、全ての純粋戦略に正の確率を付与する混合戦略のことである。
*4一般に任意のプレイヤーについて、強支配される純粋戦略に正の確率を付与する混合戦略は、別の混合戦略に強支配される(各自証 明せよ)。よって「強支配される戦略の逐次消去」より、ナッシュ均衡のもとでプレイヤーが正の確率を付与する純粋戦略を、ある程度絞 ることができる。当設問では逐次消去できる純粋戦略が存在しないので、厳密な混合戦略を考える必要がある。
2.3 クールノー競争
1. 当設問のゲームGの戦略形表現は以下の通りである。
G=< I, (Xi, ui)i∈I > I= {A, B}
∀i ∈ I, Xi = [0, ∞)
∀i ∈ I, ∀(xi, xj) ∈∏
i∈I
Xi, ui(xi, xj) = (50 − 2xi− kxj)xi− 10xi, j̸= i
2. 企業Aの利潤最大化は以下の様にして定式化できる。
maxxA[(50 − 2xA− kxB)xA− 10xA
] xB: given 3. 先の設問の利潤関数に関して一階条件を求める。
40 − 4xA− kxB = 0
これをxAについて解くと、以下の企業Aの最適反応関数を導出できる。
xA= 10 −k
4xB (3)
4. 先の設問と同様にして、企業Bの最適反応関数を求めると以下の通りとなる。 xB= 10 −k
4xA (4)
ナッシュ均衡はその定義より、企業Aと企業Bの最適反応関数の交点として表される。故に(3)(4)式 を連立して、ナッシュ均衡(x∗A, x∗B) = ( 40
k+ 4, 40
k+ 4)を得る。 5. 均衡下での企業i(=A,B)の生産量、価格はそれぞれ 80
k+ 4、で、均衡価格は
10(k + 12)
k+ 4 である。つま り、均衡下での各企業の生産量、価格は共にkに関する単調減少関数である。この結果は、k持つ経済 学的含意から以下の様に説明することができる。いまkが負の値であると仮定する。このとき(3)(4) 式から明らかな様に、傾き−k
4 は正である。これによって、他社の生産量増加は自社の最適生産量増加 を促す。つまりkの値が負であるとき、クールノー競争には戦略的補完性が存在し、その補完性の強さ はkの絶対値で測ることができるのである。以上のことを考慮すると、負の値kが小さくなればなるほ ど、企業Aと企業Bの戦略の補完性が強まり、結果として均衡生産量は増大する傾向がある。これを 反映して、両企業の均衡価格は低くなるのである。逆の場合、つまりkが正の値であるときは、クール ノー競争が戦略的代替性をもち、なおかつその強さはkの絶対値に現れることがわかる。つまり正の値 kが大きくなるほど、両企業の戦略間の代替性が強まり、結果として均衡生産量は高止まりし、それを 受けて均衡価格も下げ止まりする傾向がある。
2.4 美人コンテスト
1. 当設問のゲームGの戦略形表現は以下の通りである。
G=< I, (Xi, ui)i∈I > I= {1, 2...500}
∀i ∈ I, Xi= {1, 2...100}
∀i ∈ I, ∀(xi, x−i) ∈∏
i∈I
Xi, ui(xi, x−i) =
100000 if xi∈ argminy∈{x1,x2...x500}
y− 0.8 500
∑
i∈Ixi
0 otherwise
2. 任意のプレイヤーi∈ Iの戦略xi ∈ Xiを考える。いまi以外のプレイヤーが100を選択したと仮定
(仮定A)する。このとき平均は
499 ∗ 100 + xi
500 = 100 −
( 1 5−
xi 500
)
であるので、この平均の0.8倍は80 − 0.8( 1 5 −
xi 500
)となる。ここで平均値はxiに依らず常に80以 下であるので、よってプレイヤーiにとって、81以上の数字を選ぶ戦略は80以下の数字を選ぶ戦略に 強支配されることになる。この事実は全てのプレイヤーに当てはまることである。これを受けてプレイ ヤーiが、仮定Aに代わって「他のプレイヤーが80を選択する」という仮定Bを置いたとする。この とき平均は
499 ∗ 80 + xi
500 = 80 − ( 4
25− xi
500 )
となるので、先と同様にしてプレイヤーiにとって、80*8=64以下の数字を選ぶ戦略は65以上の数字 を選ぶ戦略を強支配する。これを反映して、プレイヤーiは仮定Bを「他のプレイヤーが64を選択す る」という仮定Cに変更する。以上の様にして、強支配される戦略を逐次消去していくと、大きな数字 を選ぶ戦略が均衡の候補から順次外れていき、結果として「全てのプレイヤーが1を選択する」という 唯一のナッシュ均衡が求められる。
なお、実際に設問のような美人投票ゲームを繰り返して実験したとき、1回目ではナッシュ均衡が達成 されることはなく、回数を重ねるごとにナッシュ均衡の結果に近づくことが知られている。この実験結 果から、各プレイヤーの逐次消去はせいぜい数回しか行われていない、つまりプレイヤーの合理性は限 定的であると考察できるであろう。
2.5 円周上のホテリングゲーム
1. 当設問のゲームGの戦略形表現は以下の通りである。
G=< I, (Xi, ui)i∈I > I= {1, 2...n}
∀i ∈ I, Xi= [0, 1)
∀i ∈ I, ∀(xi, x−i) ∈∏
i∈I
Xi, ui(xi, x−i) =
1
n if T = φ, m = n
1
2m if T = φ, m < n
|xi− xi| − χT(0)
2m otherwise
ただしmはxiに存在する企業数を表し、またxi(xi)は、それぞれxiから円の中心に向かって左(右) 側へと円周上に沿って移動したときに、一番最初に突き当たる立地点の座標を指す。またその移動の軌 跡をTとして、Tは便宜上端点xi, xiを含まないものとする。さらに、
χT(0) ≡
{1 if 0 ∈ T 0 otherwise
と定義する*5。例えば(xi, xi, xi) = (0, 0, 0), (14,12,45), (16,45,0)のとき、Tはそれぞれ空集合φ、区間 [0,14) ∪ (45,1]と開区間(0,45)として表される。以上から、それぞれの場合でのプレイヤーiの効用は
1 2m、
|12−45|−1
2m =
7 20m、
|45−0|−0
2m =
2
5m と求められる。
2. 設問1の効用関数から、n=2のときはx1とx2の値に関わらず効用は 12で固定されている。つまり、 各企業にとってはどの立地点も無差別となるので、ナッシュ均衡は(x1, x2), x1, x2∈ [0, 1)となる。 3. 設問3以下では、断りなく0 = x1 ≤ x2 ≤ ... ≤ xn <1を仮定する。また均衡となりうる各候補につ
いて、一般性を失わない立地点の組を仮定し、そのうえで各企業に異なる立地点に移動する誘因がある か否かを検証する。この検証にあたる前に、事前に以下の3つのポイントを押さえておく。
移動の誘因を吟味する際のポイント
✓ ✏
(a)全ての企業が半弧の内部に立地する状態は均衡ではない。
(b)xiに立地している企業がiのみで、なおかつ立地点xiとxiが作る優弧a上にxiが位置する とき、企業iは移動する誘因を持たない。
(c)xiに立地している企業がiのみで、なおかつ立地点xiとxiが作る劣弧b上にxiが位置する とする。このとき企業iは、xiとxiが作る優弧上の点のなかでも、隣合う他社の立地点間が 最長となる弧上の点に移動する誘因を持ちうる。
a優弧とは、円周を 2 点で分けた弧のうち半円よりも長い弧を指す。
b劣弧とは、円周を 2 点で分けた弧のうち半円よりも短い弧を指す。
✒ ✑
*5こうした関数は指示関数、定義関数ないし特性関数と呼ばれる。
ポイント(a)は自明である。ポイント(b)については、xiとxiが作る優弧(劣弧)に位置することで、
1
4 を上回る(下回る)利得を享受することになるので、優弧から劣弧に移動することは最適ではない。 他方でxiとxiが作る優弧上の異なる点に立地しても、利得は変化しない。以上の理由からポイント(b) が成立する。またポイント(c)はポイント(b)の言い換えである。
************************************************************************************* n=3において、均衡の候補は以下の3通りである。
(i)3社が同一点に立地する
x2= x3= 0を仮定する。このとき、u1= u2= u3=13である。ここで企業3はx3=12に移転するこ とで、12の利潤を享受できる。よって3社が同一点に立地する場合は、ナッシュ均衡にはなりえない。
(ii)2社のみが同一点に立地する
x2= 0, x3∈ [12,1)を仮定する。このとき、u1= u2= 14, u3= 12 である。設問2の結果から、企業3 は移動する誘因を持たない。ここでx3 > 12 の場合、企業2が x23 の地点に移動したとすると、企業2 の利得は x23 > 14となる。よって、x3> 12 の場合はナッシュ均衡は存在しない。これに対してx3=12 の場合は、企業2はいずれの点に立地しても利得は 14となるので、企業2は移転する誘因を持たない。 以上から(0, 0,12)が唯一の均衡になる。
(iii)3社とも異なる点に立地する (α)x2= 12かつx3∈ (12,1)のとき
このとき企業3の利得は立地点に依らず14 であるので、企業3は移動する誘因を持たない。また企業 1(2)について、企業2,3(3,1)の立地点が作る優弧(以下それぞれ優弧23、優弧31と表す)に立地して いるので、ポイント(b)から企業1(2)も移動する誘因を持たない。以上から任意のx3∈ (12,1)に対し て、立地点の組(0,12, x3)はナッシュ均衡である。
(β) x2, x3∈ (12,1)かつx2< x3のとき ポイント(a)から、この場合は均衡ではない。 (γ)x2∈ (0,12)かつx3∈ (12,1)のとき
このときポイント(b)から、企業2,3の移動誘因を考慮する必要はない。同ポイントから、x3− x2≤12 の場合は企業1も移動の誘因を持たない。対して、x3− x2>12 の場合は、ポイント(a)より均衡では ない。故にx2∈ (0,12), x3∈ (12,1), x3− x2≤ 12となる立地点の組(0, x2, x3)がナッシュ均衡となる。
以上の検証から、ナッシュ均衡となる立地点の代表例を図に表すと10ページ上部の通りとなる。
4. n=4のとき、均衡の候補は以下の5つである。
(i)4社が同一点に立地する
設問3(i)と同様にして、この場合はナッシュ均衡ではないことがわかる。
(ii)異なる2点にそれぞれ1社、3社が立地する
x2= x3= 0, x4∈ [12,1)を仮定する。このときu1= u2= u3= 16, u4=12 である。このとき企業3は
x4
2 に移動することで、利得x24 > 16 を享受することができる。よって異なる2点にそれぞれ1社3社 が立地するのは、ナッシュ均衡ではない。
(iii)異なる2点に2社ずつ立地する
x2= 0, x3= x4∈ [12,1)を仮定する。x3= x4>12の場合、設問3(ii)と同様の議論からナッシュ均衡は 存在しない。他方でx3= x4=12の場合は、各企業が他のどの立地点を選択しようと、享受できる利得 は14で一定となるので、移動する誘因を持つ企業は存在しない。以上から(x1, x2, x3, x4) = (0, 0,12,12) が唯一のナッシュ均衡である。
(iv)異なる3点にそれぞれ1社1社2社ずつ立地する
x2= 0を仮定する。x3とx4の値については、設問3(iii)と同様にして以下の3通りに場合分けする。 (α)x3= 12かつx4∈ (12,1)のとき
このときu1= u2=38−14x4< 14と求められる。いま企業2が14へ移動したとすると、利得は 14へと 上昇する。よって、この場合はナッシュ均衡ではない。
(β)x3, x4∈ (12,1)かつx3< x4のとき
ポイント(a)から、この場合はナッシュ均衡ではない。 (γ)x3∈ (0,12)かつx4∈ (12,1)のとき
x3, x4は、それぞれ優弧12(優弧31)上に立地しているので、ポイント(b)から企業3,4の移動誘因 を考える必要はない。よって以下では企業1と企業2の誘因を検討する*6。u1= u2= 1−(x44−x3) で あり、さらにx4, x3の値ごとに場合分けを行う。第一にx4− x3= 12 の場合は、企業1,2はどの点に 立地しても享受できる利得は高々 14 であるので、この場合(0, 0, x3, x4)がナッシュ均衡となる。第二 にx4− x3 ̸= 12 の場合を考える。ここで仮に弧413上に企業2が移動したとすると、企業2にとっ ては劣弧41と劣弧13のうち長い方に移動するのが最適である。このとき移動後の企業2の利得は u′2=max{x32,1−x4} である。u2とu′2の大小関係を検討すると、x3+ x4= 1となる全てのx3, x4につ いて、u2 ≥ u′2となり、このとき企業2は弧413上に移動する誘因を持たない。今度は逆に、企業2 が弧314とは反対側の弧に移動したとすると、利得はu′′2 = x4−x2 3 となる。ここでu2≥ u′′2 すなわち x4− x3 ≤ 13 であれば、企業2は弧314とは反対側に移動する誘因を持たない。以上から立地点の組 (0, 0, x3, x4), (x3, x4) ∈ Dがナッシュ均衡となる。ただし
D≡ {
(x3, x4) ∈ (0,1 2) × (
1 2,1)
x4− x3=1
2 or [x3+ x4= 1 and x4− x3≤ 1 3 ]
}
(v)4社全てが異なる点に立地する
(α)x2= 12かつx3, x4∈ (12,1)かつx3< x4のとき
u4= 1−x23 <14 であり、企業4は 14に移動することで利得を 14に高めることができる。よって、この 場合はナッシュ均衡ではない。
(β)x2∈ (0,12)かつx3=12かつx4∈ (12,1)のとき
企業2と企業4については、立地点に依らず利得が 14 で固定されているので、移動誘因が存在しな い。よって以下では、企業1と企業3の誘因を検討する。u1 = 1−(x24−x2), u3 = x4−x2 2 であり、さら にx2, x4 の値ごとに場合分けを行う。第一にx4− x2 ≤ 12 の場合を考える*7。このとき、ポイント
*6企業 1,2 が同一点に立地しているので、ここではポイント (b)(c) を利用することはできないことに注意してほしい。
*7便宜上 x4− x2=1
2 のときを含んでいる。なお、x4− x2=12 の下では x2, x4の値に関わらず (0, x2,12, x4)は均衡である。
(b)(c)から企業1は移動の誘因を持たず、誘因を持ちうるのは企業3のみである。いま、企業3が優 弧24上に移動したとすると、利得はu′2 = max{x22,1−x4} であり、u2 ≥ u′2を検討すると、企業3は (x2, x4) ∈ E *8 の場合であれば、移動する誘因を持たないことが明らかとなる。ただし
E≡ {
(x2, x4) ∈ (0,1 2) × (
1 2,1)
x2− 2x4≤ −1 and 2x2− x4≤ 0 }
第二にx4− x2 ≥ 12の場合を考える。第一の場合と同様にして、企業1は(x2, x4) ∈ F の場合であれ ば、移動する誘因を持たないことが明らかとなる。ただし
F ≡ {
(x2, x4) ∈ (0,1 2) × (
1 2,1)
2x2− 4x4≥ −3 and 4x2− x4≥ 1 }
以上から、立地点の組(0, x2,12, x4), (x2, x4) ∈ E ∩ F がナッシュ均衡となる。 (γ)x2, x3, x4∈ (12,1)かつx2< x3< x4のとき
ポイント(a)から、この場合はナッシュ均衡にならない。 (δ)x2, x3∈ (0,12)かつx2< x3かつx4∈ (12,1)のとき
ポイント(b)(c)から、少なくとも企業2は移動する誘因を持ちうることがわかる。u2= x23 であり、
企業2が優弧31上に移動したとすると、利得はu′2=max{1−x24,x4−x3} である。ここでx3∈ (0,12)か つx4∈ (12,1)を加味すると、この条件を満たす全てのx3, x4についてu2< u′2となる*9。よって企業 2が移動する誘因を持つ以上、この場合のナッシュ均衡は存在しない。
以上の検証から、ナッシュ均衡となる立地点の代表例を図に表すと10ページ下部の通りとなる。
******************************************************************************************* 円環市場と線分市場での均衡の相違として、以下の二点に留意する。第一に、円環市場の場合は、2企業の 距離が最大(つまり12)となる立地点の組が均衡となりうる。第二の相違は、円環市場の場合、n=3であって もナッシュ均衡が存在することである。このように市場の形状は、均衡の在り方に大きな影響を与える。さら に、消費者の分布も均衡を大きく変化させることもあるだろう。以上から、立地論を応用して現実の企業戦略 を考える際には、市場の形状や消費者分布などモデルの仮定を逐一確認する必要があるだろう。
また、講義や大問2.5では立地競争のみを考えたが、立地競争と価格競争を組み合わせたモデルもある。そ れらのモデルでは、まず各企業が立地点を決め、その後に価格を決定すると仮定される。そして、このような 二段階のゲームで均衡を求める際には、よく部分ゲーム完全均衡が用いられる。ホテリングゲームが初めて紹 介されたHotelling(1929)*10でも、円環市場を分析したSalop (1979)*11でも、価格立地ゲームを仮定してい る。ここでも需要関数の形状が、先の消費者分布や市場形状と同様に、部分ゲーム完全均衡に大きな影響を与 えうる。以上の様な均衡の多様性や分析の容易さから、ホテリングモデルには応用モデルが数多く存在し、産 業組織論において重要なトピックの1つになっている。このトピックに興味のある人は、上で挙げた論文や産 業組織論の教科書などを参照してほしい。
*8便宜上集合 E の定義には、第二の場合 x4− x2>12で企業 3 に移動する誘因がないことが加味されている。同様に集合 F の定義 にも、第一の場合で企業 1 に移動する誘因がないことが加味されている。
*9実際に u2≥ u′
2を検討すると、この不等式を満たす (x3, x4) ∈ (0,12) × (12,1)が存在しないことが確かめられる。
*10Hotelling, H. (1929) Stability in competition. Economic Journal 39(153), 41-57.
*11Salop, S.C. (1979) Monopolistic competition with outside goods. Bell Journal of Economics 10(1), 141-156.