第1 4 回 治療概論
日紫喜 光良
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診断と 治療の関係
• 診断→治療開始
• 病態の判明→治療開始
– 低血糖→グルコースを与える(経口または点滴)
• 治療開始→診断プロセス
– バイタルサインの悪化 – 救急医療
救急医療の初期診療
• バイタルサインのチェック
• 意識障害への対処
• 循環動態の改善
• 呼吸管理
•静脈の確保
•導尿
血液ガス分析
低酸素血症、高二酸化炭素血症
気道確保
•
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一般的な内科的治療
• 安静と入院
• 食事療法と栄養指導
• 水分の管理
• 運動療法とリハビリテーション
• 酸素吸入
• 薬物療法
安静と 入院
• 入院の絶対的適応
– 意識障害
– 自宅での安静が保てない – 食事が取れない/禁食
– 症状が強い
– 内服のみでは治療が期待できない – 経過観察が必要
– 入院検査が必要
• 即入院する必要のある疾患の例
– 消化管穿孔、腹膜炎、大動脈解離、急性心筋梗塞、不安
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入院の適応: 市中肺炎の場合( 1 )
• 肺炎:肺実質(肺胞)の炎症 性疾患で、胸部X線像に異 常陰影を呈するもの
• 市中肺炎:病院外で一般生 活を送っている人にみられる 肺炎
• (注)浸潤影:柔らかい綿状、 線状、粒子状の影が集まっ てみられるもの。
– 肺胞の中で、空気が残ってい る部分と肺胞が水のような成 分で置換されている部分が混 在している時に出来る。
– 現在、炎症をおこしている所見 で、結核、肺炎、気管支肺炎な どでみられる。
肺炎の診断
症状:咳、痰、発熱
身体所見:肺の「水泡音」 画像:胸部単純X線写真 で新しい浸潤影(注)
検査:末梢血白血球数、 CRPの上昇
市中肺炎の重症度と 治療方針
• 男性70歳以上、女性 75歳以上
• BUN 21mg/dL以上ま たは脱水あり
• SpO2 (動脈血酸素飽 和度)90%以下
• 意識障害
• 血圧(収縮期) 90mmHg以下
• 1つも該当しない:軽症
• 1∼2項目:中等症
• 3項目:重症
• 4∼5項目:超重症
• 軽症:外来治療可能
• 中等症:入院治療も検 討
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( 注) BUN
• BUN: Blood Urea Nitrogen (血液尿素窒素)
– 尿素:タンパク質の最終代謝物
– BUNは、蛋白摂取量、蛋白代謝量、腎機能の3因子によって規定さ れる
– BUN上昇の要因
• 大量の蛋白摂取
• 尿中への排泄障害
– 乏尿 – 尿路閉塞 – 腎機能障害
• 消化管からの吸収増加
– 腸閉塞 – 腹膜炎 – 腸管出血
• 体組織の崩壊
– 糖尿病性アシドーシス – 悪性腫瘍
– 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など) – 重症肝疾患
( 注) さ まざまな肺炎
• 市中肺炎
• 院内肺炎
• 誤嚥性肺炎
• 小児の肺炎
• 間質性肺炎
• 好酸球性肺炎
• 過敏性肺炎
• 薬剤誘起性肺炎
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食事療法と 栄養指導
• 低脂肪食:胆石症、胆嚢炎、クローン病、潰 瘍性大腸炎、膵炎など
• 塩分制限:高血圧、心疾患、腎疾患
• エネルギー制限:肥満、糖尿病
水分の管理
• 食欲低下、摂取困難
• 下痢、高熱
• 浮腫
• 術前、術後
• 心不全、腎不全
• 利尿薬服用中
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運動療法と リ ハビリ テーショ ン
• 急性期を過ぎた患者
• 術後の患者で炎症所見が改善し、出血がな
いことが確認
→離床、病院内歩行から始める
• 最終目標:罹患前の生活復帰
リ ハビリ テーショ ン
• 社会復帰にむけて能力を回復させる療法
– 失われた機能(障害)を回復させる
– 安静により低下した体力と筋力の回復
– 安静による関節の拘縮(注)、褥瘡の予防
拘縮:関節包外の軟部組織が 原因でおこる関節可動域制限 強直:関節包内の軟骨・骨・靱 帯等の組織が原因でおこる関 節可動域制限
安静による筋力低下:1ヶ月の安 静で筋力が半分になるといわれて いる。
高齢者ほど、筋力や精神機能障 害の低下が大きい。
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リ ハビリ テーショ ンの対象疾患と 障害
• 脳血管障害、頭部外傷
• 脊髄疾患と外傷
• 関節リウマチ、その他の外 傷
• 脳性小児麻痺
• 神経筋変性疾患
• 四肢外傷、切断
• 心筋梗塞・心不全などの循 環器疾患
• 慢性呼吸不全
• 関節拘縮(可動域の低下)
• 筋力低下
• 痙縮
– ある関節を他動的に早く動かし たときに抵抗が強く、ゆっくり動 かせば抵抗の弱くなる状態 。錐 体路の障害。
– 早く動かしてもゆっくり動かして
も抵抗が変わらない状態を固縮 という
• 疼痛
• 褥瘡
• 失調
• 呼吸障害
• 嚥下障害
疾患 障害
脳性小児麻痺:出生前から出生直後 までに、何らかの原因で脳に損傷が 生じ、そのために脳性の運動麻痺を 生じ、非進行性に症状が固定した中 枢神経の障害
神経筋変性疾患:中枢神経の中の特定の 神経細胞群が徐々に死んでゆく病気
酸素吸入
• バイタルサインの悪い患者
– 急性心筋梗塞、狭心症、心不全、呼吸不全、 ショックなど
• 血液ガス分析、酸素飽和度を参考にする
• 酸素吸入の経路:鼻腔、マスク、人工呼吸
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薬物療法
• 投与経路と剤形
– 経皮
– 経口(内服)
– 舌下
– 筋肉内注射
– 直腸(坐剤)
– 静脈内注射
– 点滴静注
• 血中濃度の推移
– 内服
• 腸管→門脈→肝臓で代 謝→全身に分布
• 血中濃度推移の山がな だらか
– 直腸内投与
• 消化管内移動時間がな い
• 肝代謝をうけずに全身循 環にはいる
• 血中濃度の立ち上がりが 比較的急である
経口投与
• 外来治療が可能
• 指示を守ってもらうための工夫
– 1日1回
• 徐放剤の利用
– 食後30分、ただし
• 食生活は多様(朝食をとらない、夕食が夜間など)
• 食事と関係なく、あるいは服薬にあわせた食事が重要 な場合もある
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注射薬
• 静注(点滴)、筋注、皮下注があり、この順で 血注濃度が低くなり、血中濃度到達時間と持 続時間が長くなる。
– 坐剤は静脈と筋注の中間
• 静注の利点
– 投与量と速度の調節で体内動態をコントロール – 消化管で分解されない
静脈注射( 点滴) の適用原則
• 嘔気・嘔吐で経口摂取が不可能
• ショック、意識障害がある患者、麻酔中の患者
• 脱水、電解質の補正
• 消化管の潰瘍や手術後で消化管の負担をとる必要があると き
• 手術前患者
• 重症感染症に対して、抗菌薬で血注の高濃度を保ちたいと き
• 薬剤による速効を期待
– 鎮痛剤、抗菌薬、重症高血圧時の降圧作用、虚血性心疾患における 亜硝酸薬投与、抗不整脈薬など
•
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薬物療法: 副作用と 合併症
• 一般的な定義:「疾患の予防、診断、治療のために 医薬品を通常の量にて投与して発現する有害、か つ、予期されない反応」
• 血圧降下剤での例
– アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬→空咳 – カルシウム拮抗薬→火照り感、動悸
• 薬剤添付文書に網羅的に記載
– 情報開示がすすむにつれ、リスクへの対処についての説 明がますます重要に。←服薬への抵抗感
• 併用薬との相互作用による副作用に注意する
代表的な副作用
• 消化器症状
• 肺炎
• 肝障害
• 腎障害
• 白血球減少
• 血小板減少
• 重篤な皮膚炎
• アナフィラキシーショック
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スティ ーブンス・ ジョ ンソ ン症候群 (SJS)
• 皮膚粘膜眼症候群ともいう
• 重症化すると中毒性表皮壊死症(TEN)となる
• 頻度:人口100万人当たり年間1∼6人(SJS),0.4
∼1.2人(TEN)
S J S の症状:
*発熱
*左右対称的に関節背面を中 心に紅斑(target lesion等)が 出現
*重症化するにつれ,水疱, びらんを生じ,融合する。
*眼,口腔粘膜,外陰部など の粘膜疹を伴うことも多い
*呼吸器障害(肺炎等)や肝 障害等の合併症を来し,死亡 率は6.3%
T E Nの症状:
*発熱や腋窩,外陰部,体幹などに 広範囲な紅斑が出現した後,
*急速に水疱を生じ,水疱は破れ やすく,全身びらん症状を呈する。
*II度熱傷に似て,疼痛も著明であ る。
*多臓器障害(肝障害,腎障害,呼 吸器障害,消化器障害等)を来し
*死亡率も高く20∼30%とする報告 が多い
原因医薬品
• 抗生物質製剤,解熱鎮痛消炎剤,抗てんか ん剤,痛風治療剤,サルファ剤,消化性潰瘍
用剤,催眠鎮静剤・抗不安剤,精神神経用剤, 緑内障治療剤,筋弛緩剤,高血圧治療剤 そ
の他いろいろ
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血中濃度モニタ リ ング
• 血液中の薬物濃度を測定して、副作用の有 無や投与量の決定に利用する
• ジギタリス製剤(心臓病に)
• 抗不整脈薬の一部
• 抗てんかん薬
• 抗菌薬や抗悪性腫瘍治療薬の一部
• 免疫抑制薬
• 喘息治療薬
薬物投与の中止
• 原則:症状の消失または、病気の活動を示す 所見が軽快、消失
• 長期にわたる投与が必要になる場合もある
– 心臓、高血圧疾患
– 肺結核、慢性気管支炎
など
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妊婦への投与
• 催奇性:薬剤添付文書の情報に注意する
– 妊娠初期(およそ2ヶ月まで)がもっとも問題
• 実際は、薬剤を服用していない場合でも先天 異常がおこりうる。
– 自然に妊娠が中止することが多い
• 服薬によるベネフィットとの比較。
イ ンタ ーベンショ ン
• 内科と外科治療の中間
• 経皮的に四肢の動脈から細いカテーテルを 挿入して目的の病変を治療する技術
– X線写真やX線CTで体内位置を確認しながらお こなう
– 消化器、脳外科、循環器
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輸血
• 必要な成分のみを補充する成分輸血が主流
– 赤血球
• 慢性の血液疾患等、薬剤で治療できない貧血
• 手術時の出血
– 血小板
• 血小板減少による出血傾向
• 広範な凝固異常
– 新鮮凍結血漿
• 複合性凝固障害(凝固因子産生低下または凝固因子 消費の亢進)時の凝固因子の補充
外科治療の選択
• 内科治療で完全回復が不可能な場合
– 例:感染症では一般的には抗菌薬で完全回復が 望めるので外科対象とならないが、
• 臓器の損傷、膿瘍
• 弁障害の高度な、あるいは再発性の感染性心内膜炎
• 胆石や大きな尿路結石
など誘引となる基礎疾患があり感染症を繰り返す場合、 手術を考慮する
– 悪性腫瘍の多く
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外科治療医選択の際に考慮するこ と
• 手術の方法
– 新しい術式(手術の方法)では手術の侵襲度(どれくらい切るか)が低 いことが多いが、リスクを伴うこともある。
• 手術視野、臓器の可動性
• 内視鏡手術でも問題
• 切除はどこまで可能か
– 病変の大きさ、場所、悪性度
– 患者の体力(予備能力)、手術の侵襲度
• 治療成績
– その施設の成績が重要
• 外科侵襲度と合併症
– 合併症:術後感染、腎不全、心不全、脳血管障害など – 年齢が関係
• 予後改善の可能性
– 年齢、重症度、合併疾患を加味したエビデンスで予測
Evidence-Based Medicine (EBM)
• 入手可能な範囲でもっとも信頼できる根拠を 把握したうえで、
• 個々の患者に特有の臨床状況と価値観を考 慮した医療をおこなうための、
• 一連の行動指針
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EBM の手順
• 臨床上の疑問点を表現
• 文献検索
• 批判的吟味
• 患者への適用性の判断
臨床上の疑問点を表現
• 効率的な文献検索ができるような形で表現す る
• どのような病気・病態か?
• どのような治療か?
• 何と比較するのか?
•
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アウト カ ム (Outcome)
• 死亡(生存率)
• 罹患
• 機能障害
• 不快感
• 不満足感
• 費用 その他
文献検索
• MEDLINE (1960年代より電子化)
• PubMed (1997∼)
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エビデンスの質
• I: ランダム化比較試験
• II-1: 非ランダム化比較試験
• II-2: コホート研究または症例比較研究
• II-3: 時系列研究、非対照実験研究
• III: 権威者の意見、記述疫学
患者への適用性の判断
• 文献上の患者と現実の患者で病態が異なっ ていないか?
• 人種差
• 疾患の発生頻度が著しく異ならないか?
• 患者の意向、社会規範
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EBM の活用分野
• 診療ガイドラインの作成
– 勘や経験に頼った医療から – 証拠に基づいた医療へ
• 診療ガイドラインの公開→患者が標準的な診 療内容の知識をもっていることを意識した医 療