乙第 9号証
陳 述 書
平成23年1月31日
住 明正㊥
1私は, 東京大学の教授で, サステイナビリティ学連携研究機構・地球持続戦略 研究イニシアティブの統括ディレクターを務めております。
本学が発行した「地球温暖化懐疑論批判」 ( 以下「本件書籍」といいます。) に つきまして, 以下ご説明いたします。
2 気候変動に関する政府間パネル( I PCC) の報告書では, 温暖化問題に関す る様々な対立する意見が検討され続けており, その上で, 現時点においてもっと も状況をよく説明できる仮説( 人為的排出二酸化炭素温暖化説。以下「温暖化説」 といいます。) が, その確からしさに関する定量的な議論とともに紹介されてい
ます( 乙3- 5) 。
このような営みは, 現在までに蓄積された科学的知見に基づいて, より深い理 解をもたらすための科学の営みです。
一方で, 温暖化説の信頼性や温暖化問愚の重要性に対して懐疑的あるいは否定
的な議論( 以下「懐疑論」といいます。) も今なお存在していますが, このよう な議論の多くは, これまでの科学の蓄積を無視しており, しばしば客観性を欠く 結論に読者を尊いています。
東北大学の明日香寺川先生を中心とするグループは, 温暖化のリスクが増大し ている状況下で, このような議論が社会に広まることは看過できないとして, 懐 疑論に対する具体的な反論をとおして, 最新の科学的知見に関する情報発信を行 うと同時に, 温暖化問題の重要性に関する認識の喚起をうながす活動( 「温暖化 問題懐疑論へのコメント」等) をしてこられました。
本件書籍は, このような明日香先生たちの活動について, 本学サステイナビリ
ティ学連携研究機構・地球持続戦略研究イニシアティブがこれを評価し, 広く公 開する意義があると考えて作成・発行されたものです。
3 次に, 今回問題とされている9項目の特徴の具体例について, いくつかご説明 いたします。
( 1) 「既存の知見や観測データを誤解あるいは曲解している」について
懐疑論の中には, 「例えば, キーリングのグラフ( 乙1 ・32貢・図6) に
よると, 気温の変化は二酸化炭素濃度の変化よりも半年早く現れる。」ことを 証拠の1つとして, 「二酸化炭素の温室効果による地球温暖化はなく, 気温上 昇が二酸化炭素濃度上昇の原因である。」とする議論があります( 乙1 ・ 3 2 貢・議論14) 。
しかしながら, このグラフをもって二酸化炭素の変動が常に気温に追随する と考えるのは拡大解釈です( 上記議論札親潮データを誤解あるいは曲解して
います。) 。
なぜなら, このグラフは, キーリングが, 二酸化炭素濃度の長期的な上昇傾 向( 人間活動の影響) を除いた場合の気温上昇と二酸化炭素濃度上昇との関係 を明らかにする目的で作成したグラフであり, ある特定の時間スケールにおけ る気温上昇と大気中の二酸化炭素濃度上昇との相関関係を示したものだから
です( 乙2の1, 2の2) 。
一方, 乙1 ・ 3 3頁・図8は, 季節変動の除去以外には特別なデータ処理を
行わず, 年平均の二酎ヒ炭素濃度・海面水温の時間変化を最も単純な形で比較 したものです。
この図8から, 海面水温の上昇・下降に関わらず二酸化炭素濃度は一貫して 増加していることが分かります。
すなわち, この海面水温の変化に無関係な二敢化炭素増加が, 人為起源二酸 化炭素の排出によるものなのです。
( 2) 「すでに十分に考慮されている事項を, 考慮していないと批判する」につい
2
て
懐疑論の中には, 「温室効果ガスの主役は水蒸気である。二酸化炭素が1 0 0ppm増えたところで, 水蒸気温度の変動幅の範囲内であって, 温暖化ガスと しての水蒸気による保温効果を大きく修正することにはならない。」とする議
論があります( 乙1・53頁・議論26) 。
この議論は, 温室効果ガスの主役が水蒸気であることを温暖化説は考慮して いないと批判するものですが, 温暖化説においても, 大気の温室効果をもたら す最大の要因が水蒸気であるということは十分に考慮されています( 乙4の3
頁, 乙5の7・15貢) 。
温暖化説は, 大気の温室効果全体に占める水蒸気の寄与が, 書による吸収の 効果も含め8 0- 9 0%橿度であることを前提とした上で, それでもなお, 二
酸化炭素漉度が産業革命以前と比べ2倍, 3倍となれば気候に影響を与えうる と考えているのです。
( 3) 「多数の事例・裾拠に基づいた議論に対して, 少数の事例・堀拠をもって否 定する」について
懐疑論の中には, 「そもそも温暖化が起きているかどうかはわからない。な ぜならば, 温度の観測データがおかしいし, 温暖化も止まっている。」とする
議論があります( 乙1 ・ 11頁・議論3) 。
この議論は, 都市と田舎各1点のデータのみをもって都市部の気温上昇が見 られる一方で田舎では気温上昇が見られないと断言したり, 数点だけの気温上 昇が見られない地点を殊更に取り上げたり, 一部の地域の現象( 例: 気温低下 や降雪量の増大) をとりあげて地球全体で起きている傾向を否定したりするも ので, 少数の事例・根拠をもって, 多数の事例・裾拠に基づいた温暖化説の議 論を否定するものです( 乙6の1- 6の4) 。
( 4) 「定量的評価が進んできている事項に対して, 定性的にとどまる言説を持ち 出して否定する」について
懐疑論の中には, 「『人為的に排出された二酸化炭素のうち, 大気中にとどま るのが46%, 海洋吸収が28%, 森林吸収25%』という推定はいい加減。
『森林などによる吸収の増加』は, 森林伐採や焼き畑などの現状に反してい
る。」とする議論があります( 乙1 ・40頁・議論17) 。
この議論は, 6つの独立した手法を用いた定量的な分析がなされている事項 ( 海洋炭素量減少の否定) に対して, 1つ1つの研究結果に対し具体的な反証 を挙げることなく, 定性的にとどまる言説を持ち出して否定するものです。 ( 5) 「不確かさを含めた科学的理解が進んでいるにも関わらず, 不確かさを強調
する」について
懐疑論の中には, 「2 0世紀の間に, グローバル・ディミング( 地球暗化) と呼ばれる現象が起きている。これは地上に達する太陽放射の減少であり, 原 因は硫酸エーロゾルと考えられている。この硫酸エーロゾルは, 人為起源の温 室効果ガスによる温暖化よりも大きな寒冷化をもたらしているはずである。も
し, それにもかかわらず気温が上昇しているのならば, 温室効果ガス以外にそ れよりも大きな温暖化をもたらす要因が働いているはずである。」とする議論
があります( 乙1・28頁・議論11) 。
この議論は, エーロゾルの効果の不確かさを強調するものですが, これにつ いても近年では定量的な分析が進められており, 二酸化炭素による温暖化を打 ち消すようなものではないことがわかっています( 不確かさを含めた科学的理 解が進んでいます。乙4の1 4頁) 。
( 6) 「既存の知見を一方的に疑いながら, 自分の立論の裾拠に関しては同様な疑 いを向けない」について
代表例は上記( 3) でも挙げた乙1 ・ 1 1貢・議論3です。
この議論は, 数多くのデータがあり, 都市化の影響も十分に考慮した既存の 知見を一方的に疑いながら, 自分の立論の根拠に関しては同様な疑いを向けな いものです( 乙5の20貢) 。
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( 7) 「問題となる現象の時間的および空間的なスケールを取り違えている」につ いて
代表例は上記( 1) でも挙げた乙1 ・ 32頁・議論14です。
この議論は, 問題となる現象の時間的なスケールを取り違えています。 ( 8) 「三段論法の間違いなどロジックとして誤謬がある」について
懐疑論の中には, 「人為的に排出された二酸化炭素の大気中滞留時間は短
い。」とする議論があります( 乙1 ・42貢・議論18) 。
この議論は, 「人間活動によって放出された二酸化炭素のうち, 約3割( 5 割と言った方が実態には近いですが, 樋田敦氏の議論に合わせて, 乙1の4 2 貢では3割という値を使っています。) が海洋や森林に吸収される」という表 現を, 「人間活動によって放出された二酸化炭素分子のうちの約3割が選択的 に海洋や森林に吸収される」と論理をすり替え, このような論理のすり替えを 前提に導かれた議論です。
実際には, 「人間活動によって放出された二酎ヒ炭素のうち, 約3割が海洋 や森林に吸収される」という表現は, 「森林や海洋は二酸化炭素を放出したり 吸収したりしているが, 地球全体では現在正味で吸収となっている。その1年 間の吸収量は, 同じ年に人間活動によって放出される二酸化炭素量の約3割に あたる」という意味であり, これを前提にすれば, 人間活動による二酸化炭素 放出が続く限り大気中の二酸化炭素量は増えていくことになるのです( 乙4の
8真) 。
4 なお, 9項目の特徴は, 懐疑論に対する一般的・全体的な評価・論評であり, 当然のことながら, 特定の個人を念頭に置いたものではありません。
学者が自説と異なる見解に反論し, その論拠を挙げることはあまりにも当然の ことであり, それなくして学問の発展はあり得ないと考えます。
以 上