日本経済論 – 日本経済について 1/ 4
1 日本経済について
1.1 なぜ日本経済を学ぶのか
日本経済の今を知ることは、今後社会に出る皆さんに非常に重要な教養です。特 に、現代の課題とされる経済問題については、全ての人が当事者として、問題に 取り組んでゆくことが求められます。しかし、今を知るというのはそれほど容易 なことではありません。日本経済は高度に発展しているため、複雑で非常に幅広 い問題を抱えています。しかし、これらを単純な知識の羅列として覚えても、ク イズ以外に何の役にも立ちません。
では、どうしたらいいのでしょう。日本経済を知るということはさまざまな経 済現象の関係を理解し、そこにある問題の仕組みを理解してゆくことに尽きます。 理解とは「物事の仕組、状況、含意などを論理立てて解き明かすこと」であり、解 き明かしたという経験を得てゆくことです。それに加え、解き明かしてゆく能力 を養うことも必要です。
日本経済論は現代日本経済という問題を扱いながら、皆さんの将来に何かしら の貢献を図るための教養的な科目といえるでしょう。直接何かに役に立つという ことはないかもしれません。しかし、ここで得た知識と皆さんが考えるという訓 練を通じて、経済における視座を身に着け、社会人として生きてゆくのに役立て ほしいと思います。その意味で、この講義をただ聴く講義とするのではなく、さま ざまなことに思いをめぐらし、考え「もがいて」ください。それらはきっと、皆さ んの心の力になるはずです。そして、日本経済を理解し、理解の方法を習得する ことで、経済現象のみならず、さまざまな方面での理解を深めていってください。
1.2 日本経済の現状
日本経済の現状は、昔のような高度経済成長の時代とは違い、楽観できるほど 良い状況ではありません。そのいくつかを見てみましょう。
• 高い失業率と就職難
• 年功序列賃金や終身雇用の崩壊
• 中国の安価な労働力の台頭
• 高齢化と社会保障負担の増大
• 財政赤字と増税
• 株の持ち合い解消と直接金融
• 不良債権問題
Ver. 1.0 2004 Masumi Kawadec
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• 経済の国際化と外資の拡大
• 地方の時代と地域の選別
これらは皆さんが将来、何らかの形で影響を受けるであろう事柄です。多分、ど のような問題にも関わることなく生きる事は不可能です。「どうせ巻き込まれるだ けだから、何をしても仕方がない」と開き直る考え方もあります。しかし、なされ るがまま受身で生きて行くよりも、自分なりに可能な範囲で取り組めば、いろい ろ負担を軽減できるかもしれません。また、たとえ不本意な結果であっても、受 け入れる段階で、腹が据わるでしょう。このように、社会に関わることはたとえ、 確実な結果が得られなくとも、自分がおかれた立場に納得するための重要な要素 になります。
また、これらはネガティブなことばかりではありません。問題を逆手にとって、 商機に結びつけることも可能です。たとえば、失業率が高いということは失業者が 多くいて、その人たちは困っているということです。事実はそれだけですが、困っ ているということはそれを解消してあげるビジネスがあれば、大きな商機です。失 業および労働問題の仕組みを詳しく知ることで、それらを解決するよい方策が浮 かぶ可能性もあります。そのようなときには、日本経済の知識と高められた理解 力は非常に有用です。
日本経済の未来は暗いといいますが、それを暗くするか明るくするかは、社会 に携わる自分自身に掛かっているのです。単に、敷かれたレールの上を歩むので はなく、自分で積極的にかかわって行くことで、大きくその未来を変えることも できるでしょう。
1.3 日本経済の学び方
現在を知るには2 つの方向性があると考えられます。1 つは現在の問題を直接に 一つ一つ見てゆくことです。もう1 つは過去から今という状況の成り立ちを見て ゆくことです。どちらも、長所短所があります。前者は問題を直接見てゆけるの で、直接的ですが、複数ある物事のかかわりが見えにくい欠点があります。後者 は物事が形成される過程を見ることができるのですが、目の前にある個々の物事 を理解するには十分では回りくどく、有効ではありません。
私たちはこの中で両者の長所を生かしながら学んでゆければいいでしょう。そ こで、私の日本経済論ではその両方を行うことにします。そのときに考えなけれ ばならないのは扱う順番ですが、個々の物事には歴史的背景がありますから、ま ず現代日本経済の成り立ちを確認して、個々の物事を扱ったほうがよさそうです。 ですから、まず現代日本経済の成り立ちを前期で行うことにして、後期で個々の 問題を扱ってゆきます。ですから、日本経済を理解するには前期後期の双方の講 義を聴講するようにしてください。
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日本経済論は日本経済をテーマとして理解を深め、皆さんが今、そして将来日 本という国に関わって生きてゆくのに必要な「経験」を蓄積するという側面を持っ ています。賢いものは歴史から学び、愚かなものは経験から学ぶといいます。歴史 は実体験ほどさまざまなことを強烈な形で、私たちに教えてはくれませんが、やっ てよかったことやってはいけないことを事前に知ることができます。経験は重要 ですが、転ばぬ先の杖という意味合いもありますので、そういう味わい方もでき ます。
ただ、歴史を学ぶ科目でもありませんから、現代経済の問題を構成する要素と して、歴史を学ぶことは忘れてはなりません。そして、後期にいよいよ議論する ことになる各分野の課題についても、現代日本経済を知り、理解する力をつける 重要な時間となります。数学の問題や論理学の問題ではありませんから、正しい 答えも、正しい見方もありません。いろいろな角度で考え抜くことが必要です。そ れが個人の能力につながります。
1.4 講義の展開
日本経済論は次のような講義展開を考えています。なお、項目と講義回数が一 致するとは限らず、内容が前後するなどする可能性もありますから、注意してく ださい。
1. オリエンテーション 2. 日本経済について 3. 日本経済の歩み – 概説
4. 日本経済の歩み – 経済の近代化から第 1 次大戦まで 5. 日本経済の歩み – 第 1 次大戦から第 2 次大戦まで 6. 日本経済の歩み – 戦時中と戦後復興
7. 日本経済の歩み – 朝鮮特需から高度経済成長へ 8. 日本経済の歩み – 高度経済成長
9. 日本経済の歩み – オイルショックと高度経済成長の終焉 10. 日本経済の歩み – 低成長時代と財政再建
11. 日本経済の歩み – プラザ合意からバブル景気へ 12. 日本経済の歩み – バブル景気崩壊
13. 日本経済の歩み – 失われた 10 年へ
14. 日本経済の歩み – 先行き不透明な現代 (現状と取り組み) 15. 日本経済の歩み – まとめ
16. 現代日本経済の諸相 – 経済現象への視座
17. 現代日本経済の諸相 – 政府 (公共支出と財政政策) 18. 現代日本経済の諸相 – 政府 (税制、地方政府) 19. 現代日本経済の諸相 – 政府 (財政赤字と社会保障)
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日本経済論 – 日本経済について 4/ 4 20. 現代日本経済の諸相 – 金融 (金融政策)
21. 現代日本経済の諸相 – 金融 (金融市場)
22. 現代日本経済の諸相 – 国際経済 (貿易と自由貿易圏) 23. 現代日本経済の諸相 – 国際経済 (金融と為替、開発援助) 24. 現代日本経済の諸相 – 産業 (主要産業とその変遷)
25. 現代日本経済の諸相 – 産業 (保護産業としての農業) 26. 現代日本経済の諸相 – 企業 (企業規模と企業関係) 27. 現代日本経済の諸相 – 労働 (雇用慣行の変化)
28. 現代日本経済の諸相 – 家計と少子高齢化 (消費文化、貯蓄、格差) 29. 現代日本経済の諸相 – 世界の中の日本、そして環境問題
30. 講義のまとめ
1.5 日本経済論の意義
日本経済論を学ぶことは皆さんが学ぶ経済理論の動機の部分を構成する重要な 科目ともいえるでしょう。日本経済の諸側面を深く理解し、現状を踏まえて論理 的に自分の考えを述べられるようになって、この国に住むのではなくとも日本経 済に関係し、日本経済を構成する一員として積極的に生きてゆけるようになって ください。
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