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……… 第46回関東理科教育研究発表会
1 はじめに
中央教育審議会 教育課程企画特別部会(2016. 8. 1)では、次期学習指導要領での改定の方針として次の ことを示している。
○現行学習指導要領に基づく真摯な取組が、改善傾向にある国内外の学力調査の結果などに表れてきて いる一方で、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べることや、社会参画の意識等について は課題。
持続可能な開発のための教育(ESD)等の考え方も踏まえつつ、社会において自立的に生きるた めに必要な「生きる力」を育むという理念のさらなる具体化を図るため、学校教育を通じてどのよう な資質・能力が身に付くのかを、以下の三つの柱に沿って明確化。
① 生きて働く「知識・技能」の習得
② 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成 ③ 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」の涵養
本校・定時制は、平成19年度に総合学科への改編以降、理科として「天文学概論」・「多摩川の自然」、工 業として「環境問題入門」といった学校設定科目を設置しており、「地学基礎」「地球環境化学」を含め、地 球惑星科学系の科目への生徒たちの学習ニーズは高い。また、私たちが着任した平成26年度に、部活動・地 球惑星科学同好会が設立、平成28年度には部へ昇格した。
生徒たちの学習ニーズに応えるとともに、上記・次期学習指導要領の方針を踏まえた資質・能力の育成を 図る、平成28年度より2~4年次を対象とした、教科「理数」・科目「環境防災フィールドワークA」「(同) B」「(同)C」(各1単位・学校設定科目・短期集中科目)を開設することとした。これら科目は、教諭(理 科)藤原と教諭(工業)鈴木のティームティーチングで担当する。教諭(理科)藤原により地球惑星科学領 域から上記の資質・能力の柱の③を主に、教諭(工業)鈴木により土木工学領域から①を主に担当すること で、これら三つの柱を有機的に培わせられると考えた。
本稿では、平成28年度「環境防災フィールドワークA」の実践報告を行う。
2 平成28年度「環境防災フィールドワークA」(1単位・学校設定科目・短期集中科目)
[テーマ] 神奈川の地球惑星科学的な環境を理解するとともに、土木工学・防災と関連付け、複合的に学ぶ 意義を考えていく。
[事前学習 7/15] 2時間
講座の意義、講師の紹介、事故防止のための授業を行った。門田・鷲山(2013)を用いて、神奈川の地球 惑星科学的な環境の基礎、神奈川の大地の成り立ちと火山・地震の関係を学んだ。
[1日目 フィールドワークの基礎 宇宙の中の地球 神奈川を作る地層と地形 7/24] 7時間
本校の最寄駅である久地駅(川崎市多摩区)に集合し、3km先の生田緑地の入口まで各自地形図を頼り に徒歩で移動した。この中で、自分の徒歩の速さを確認した。
生 田 緑 地 内 の か わ さ き 宙 と 緑 の 科 学 館 で、 望 遠 鏡 で 太 陽 観 察、 世 界 最 高 水 準 の プ ラ ネ タ リ ウ ム (MEGASTAR-Ⅲ FUSION)による番組の観賞から、宇宙規模で地球の存在を考えた。
科学館 川島逸郎氏に科学館のバックヤードを案内していただいた。博物館の役割を考えた。
館の展示で生田緑地・神奈川を作る地層の予習を行った後、科学館 大泉文人氏の案内で、地層・地形の
土木工学と地球惑星科学を融合させた防災・キャリア教育への挑戦
―学校設定科目「環境防災フィールドワークA」
(1単位)の実践報告―
神奈川県立向の岡工業高等学校 定時制・総合学科
藤原 靖・鈴木 大
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千葉大会
観察を行った。この際に、地形図の読み方も確認しながら行った。生田緑地入口で解散した。
[2日目 神奈川を作る地層の探究 7/25] 7時間
登戸駅(川崎市多摩区)に集合。2人班を組み、3日目までこの班で活動する。地形図を用いて多摩川緑 地公園(東京都狛江市)に移動。本校および生田緑地の基盤である、上総層群飯室泥岩層より、化石を含む 塊を採取した。
昼休憩を兼ね、本校の理科室まで、各自移動した。採取した塊から化石を、教員が用意した箱根東京軽石 層(関東ローム層に含まれる箱根起源の軽石層)より鉱物を取り出し、観察した。本校および神奈川を作る 地層から、大地の成り立ちを考えた。
[3日目 神奈川の大地の特徴と成り立ち 7/26] 7時間
小田急線小田原行きの急行で車両を決め、登戸駅(川崎市多摩区)~海老名駅(海老名市)の間で集合し た。車両内から、地形の観察とともに、鶴巻温泉駅付近に残る東北地方太平洋沖地震による液状化現象の跡 を観察した。丹沢山地の大正関東地震の跡は、悪天候のため、確認できなかった。
山北駅(山北町)より神奈川県立生命の星・地球博物館 門田真人氏と合流し、富士宝永噴火の跡につい て学んだ。プレート境界断層である神縄断層、アオサンゴ化石の観察を行い、丹沢がフィリピン海プレート により北上してきた島であったことの証拠を見た。悪天候のために十分に活動はできなかった。
[4日目 神奈川の大地の特徴と火山 7/27] 6時間
2人班を合体させ4人班とさせ、5日目までこの班で活動する。本校・理科室で、神奈川県立生命の星・ 地球博物館 笠間友博氏を講師に、笠間ほか(2010)に基づき、班ごとに富士山の模型を作製し、模型の内 部を観察した。富士山も前日に観察したプレート境界断層の延長上に存在する火山である。
[5日目 レポート作成・発表 7/27] 6時間
授業の4日間を、班ごとに各1日を分担し、活動の目的・方法・結果・考察をレポートとしてまとめ、発 表した。最後に、各自で5日間の学習成果と感想をまとめ、発表し、授業が終わった。
3 実践の成果と課題
・本実践は、他校で短期集中科目を担当してきた教諭(理科)藤原が主に企画したため、広義的な狭防災・キャ リア教育はある程度できた。狭義的な防災・キャリア教育としては、不十分であるので、各教科・科目等 との連携により、補いたい。
・履修した全生徒が、日中の暑い5日間、朝早くから熱心に取り組み、作文を苦手とする生徒も含めレポー ト課題も満足できるものであった。初めて野外で化石などに触れたり、山奥などに行った生徒たちも多く、 野外活動としても意味のあるものだったと言える。
・教材費と交通費を合わせて3000円程度と設定した。これら費用も負担できず、履修ができなかった生徒も いるのが残念であり、課題である。
謝 辞 本実践は、かわさき宙と緑の科学館 川島逸郎氏・大泉文人氏をはじめとする職員の皆様、神奈川 県立生命の星・地球博物館 門田真人氏・笠間友博氏のご協力により実施することができました。ここに感 謝の意を表します。
参考文献・参考映像
・笠間友博・平田大二・新井田秀一・山下浩之・石浜佐栄子(2010): 食用廃油を使用した複成火山作製実 験の開発. 地学教育, 63(5・6),163-179.
・門田真人・鷲山龍太郎(2013) :丹沢の化石サンゴ礁 バージョン2.0(http://www.washiyama.jp/ movie/coral_reef_tanzawa2.0.wmv)
・中央教育審議会 教育課程企画特別部会(2016.8.1):第19回配付資料(http://www.mext.go.jp/b_me nu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/1375316.htm)