2sin
cos 1 sinx
k x
k (4-12)
この2つの式を , について解けば、
z k
z
1
k
cos
(4-13)cos
1sin x k
x
k
(4-14)と書ける。
(4-9)式は、u, vに依存しているので、実験と計算を比較することにより、YTiO3のモデ
ル波動関数がどのような形状をしているのかがわかる。
4-3. スピン磁気形状因子の計算結果
(4-9)式を用いたスピン磁気形状因子の計算結果を以下の図Ⅳ-19〜25に示す。実際に計算
をする上で注意することは、siteが4つあるので、(4-9)式の計算をsiteごとに計算したもの を足し合わせる必要がある。以下の計算結果はsiteごとの計算を足し合わせたものになって いる。
図Ⅳ-19 (0 0 h)でのスピン磁気形状因子の計算と実験結果
図Ⅳ-20 (0 0 h)でのスピン磁気形状因子の計算と実験結果の拡大
図Ⅳ-21 (0 6 8)でのスピン磁気形状因子の計算と実験結果
図Ⅳ-22 (h 0 0)でのスピン磁気形状因子の計算と実験結果
図Ⅳ-23 (h 0 h)でのスピン磁気形状因子の計算と実験結果 直線は反射指数が偶数、破線は反射指数が奇数
図Ⅳ-24 (h 0 3h)でのスピン磁気形状因子の計算と実験結果 直線は反射指数が偶数、破線は反射指数が奇数
図Ⅳ-25 (2h 0 h)でのスピン磁気形状因子の計算と実験結果
図Ⅳ-19〜25がそれぞれの反射面における実験結果と計算結果を比較した図である。反射 指数が偶数での計算結果より、kの値が大きくなるにつれて、スピン磁気形状因子の値が小 さくなっていくことがわかる。また奇数の場合では、kの値が0 から0.3の間では増えて、
その後減少していくことがわかる。実験結果をみてみると、計算と同様な傾向を示してい ることがわかる。よって計算と実験と計算は完全に一致しているわけではないが、概ね一 致しているといえる。そこでu, vの値を決めるために残差の計算を行った。図Ⅳ-25が残差 の計算の結果である。
残差の計算により、u2=0.5でのスピン磁気形状因子の計算が一番実験と一致していること がわかった。図Ⅳ-26の結果より、最小になっているu2の値は、u2=0.5より少し小さな値に なっていることがわかるが、ほとんどu2=0.5と変わらないために、本研究ではu2=0.5を採 用した。
そこで、実験結果とu2=0.5での計算結果を図Ⅳ-27に示す。
図Ⅳ-26 残差の計算結果
図Ⅳ-27 スピン磁気形状因子(実験、u2=0.5での計算)
図Ⅳ-27をみると、実験と計算が大きくずれている所もあるが、全体的には概ね一致して いることがわかる
4-4. 偏極中性子回折との比較
4,5)偏極中性子回折で得られる物理量は磁気形状因子(
( k )
L( k )
S( k )
)である。本実験により、軌道磁気モーメントの凍結を確認しているので、偏極中性子回折で得られる 磁気形状因子は、本実験で得られるスピン磁気形状因子を測定していることになる。そこ で、本実験で得られたスピン磁気形状因子と偏極中性子回折で得られた磁気形状因子 20,21) の比較を行った。その結果を図Ⅳ-28に示す。
図Ⅳ-28 X線磁気回折と偏極中性子回折の比較20,21)
図Ⅳ-28は、本実験での結果に偏極中性子回折より得られた結果を重ねたものである。こ こで注目すべき点は、測定できるkの領域の違いである。X線磁気回折では、X線のエネル ギー領域がおよそ 6keV〜22keVであるため、k の領域はおよそ0.4
Å
1〜1.2Å
1になって いる。一方、偏極中性子回折でのkの領域は、0.1Å
1〜0.6Å
1になっている。X線磁気回 折での短所である、kの小さな領域での測定が中性子では可能である。逆に中性子回折の短 所である、kの大きな領域での測定がX線磁気回折では可能である。よってお互いに短所を 補うものになっていることがわかる。X線磁気回折と中性子回折、両方の実験で測定されている、5 0 5逆格子点でのスピン磁 気形状因子に注目してみると、本実験での結果の方が計算と一致していることがわかる。
これは、偏極中性子回折が軌道整列観測の先駆的な実験方法として広く知られている実験 手法であるため、X線磁気回折も軌道整列観測の有力な実験手法であることを示す結果とな っている。
まとめると、X線磁気回折により得られた波動関数は次式のようになっている。
site 1 1
0 . 71
dyz0 . 71
dzxsite 2 2
0 . 71
dyz0 . 71
dzx site 3 30 . 71
dyz0 . 71
dzx site 4 40 . 71
dyz0 . 71
dzxⅤ . まとめ
他の実験や理論で得られている波動関数のパラメーターuの値を示す。
理論、実験 u 文献
理論 〜0.8 T.Mizokawa and A.Fujimori, Phys. Rev. B 54, 5368 (1996)
T.Mizokawa et al, Phys. Rev. B 60, 7309 (1999)
〜0.71 H. Sawada et al, Physica B 237&238, 46 (1997) NMR 〜0.8 M. Itoh et al, J. Phys.Soc. Jpn 68, 2783 (1999) 中性子回折 〜0.77 H.Ichikawa et al, Physica B 281&282, 482 (2000) 共鳴X線散乱 〜0.71 H. Nakao et al, Phys.Rev. B66, 184419 (2002)
表Ⅴ-1 他の実験や理論のパラメーターuの文献値
他の実験でのパラメーターu の値は0.71〜0.8になっている。次に、本実験で得られたパラ メーターuの値を示す。
本実験 u 実験場所
磁気コンプトン散乱 〜0.84 KEK-PF-AR-NE1A1 X線磁気回折 〜0.71 KEK-PF-BL3C3
表Ⅴ-2 本実験で得られたパラメーターu
磁気コンプトン散乱実験で得られたパラメーターu =0.84は他の文献値と比べて少し大き な値になっている。その理由として考えられることは、
① 正確な有効核電荷を用いた計算を行っていないこと、
② 酸素との混成を考慮した計算を行っていないこと、
が挙げられる。正確な有効核電荷を用いた計算を行うことにより、より精度のよい結果が 得られる可能性は高い。しかし、3d 電子は局在性が強いため、酸素との混成が起きている 可能性は極めて低いと考えられる。また実験方法により u の値にばらつきがある根本的な 理由として、それぞれの測定方法により観測する物理量が異なっていることが原因かもし れない。a軸、c軸において、実験から得られた磁気コンプトンプロファイルと、単純なモ デルを想定した理論計算から得られた磁気コンプトンプロファイル(u =0.84での)は、良く一 致しているため、YTiO3の軌道整列状態の観測に成功したといえる。また軌道磁気モーメン トの凍結も確認した。
X線磁気回折実験で得られた結果と計算に若干不一致がみられるが、全体としては概ね 一致していた。また、偏極中性子回折と比較しても、遜色ない結果が得られていて、X線磁
気回折実験で得られたパラメーターu =0.71 は他の文献値と概ね一致している。よって、X 線磁気回折実験で、YTiO3の軌道整列状態の観測に成功したといえる。軌道磁気モーメント の凍結も確認した。
最後に得られた軌道整列の様子を図Ⅴ-1〜6に示す。図Ⅴ-1, 2の左図はYTiO3の結晶構造 をa軸方向からみた図である。右図は実験で得られた波動関数を用いて、a軸方向に投影し た、各siteにおける電子密度分布の等高線図を計算したものである。図Ⅴ-3, 4は、b軸方向 に投影した図である。図Ⅴ-5の上図は、YTiO3の結晶構造をc軸方向からみた図である。図
Ⅴ-5の下図は、c軸方向に投影した、各siteにおける電子密度分布の等高線図を計算したも のである。c軸方向から結晶構造をみると、site1とsite3、またsite2とsite4が重なってみえ ることがわかる。そこで図Ⅴ-6の下図に、site1とsite3、またsite2とsite4が重なったとき での、電子密度分布の等高線図をc軸方向から計算したものを示す。また計算に用いた波動 関数は、磁気コンプトン散乱ではu =0.84、X線磁気回折では u =0.71を用いて計算した。
図Ⅴ-1〜6 の電子密度分布の図は、結晶構造と軌道整列を比較し易いように拡大してある。
実際には、約2倍の大きさになっている。図Ⅴ-1〜6において、磁気コンプトン散乱とX線 磁気回折での電子密度を比較すると、密度の濃い場所に違いがあるものの、形状に余り変 化がないことがわかる。これは、波動関数を正確に決める難しさ(実験や理論により u の 値がばらついていること)を如実に表しているものかもしれない。
図Ⅴ-1 磁気コンプトン散乱によって得られた軌道整列の様子 (a軸投影)
図Ⅴ-2 X線磁気回折によって得られた軌道整列の様子 (a軸投影)
図Ⅴ-3 磁気コンプトン散乱によって得られた軌道整列の様子 (b軸投影)
図Ⅴ-4 X線磁気回折によって得られた軌道整列の様子 (b軸投影)
磁気コンプトン散乱 X線磁気回折
図Ⅴ-5 各siteにおける軌道整列の様子 (c軸投影)
図Ⅴ-6 軌道整列の様子 (c軸投影)
参考文献
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