}sin
2. X 線磁気回折実験
X線磁気回折実験を行うためには、円偏光したX線が必要で、また磁気効果が非常にい8 弱いため強いX線が必要である。この条件を満たすX線源としてはシンクロトロン放射光 が有用である。実際には、高エネルギー加速器研究機構、物質構造科学研究所放射光施設、
ビームラインBL-3C3(KEK-PF-BL3C3)で実験を行った。
2-1. 放射光の偏光
2-1-1. 電磁波の偏光
一般に電磁波の偏光は電場成分の偏光方向で表される。波の進行方向を Z 方向にとる。
進行方向に垂直な面をxy平面とし、水平方向を
x
軸,垂直方向をy軸にとる。電磁波の電場 ベクトルEは、E E ,x Ey と表される。電磁波を平面波とするとEx,
Eyはそれぞれ次式 の様に表される。x x
x
A i t z c
E exp /
(2-1)y y
y A i t z c
E
exp /
(2-2)A
xとAyは波の振幅、ωは角振動数、cは光速、 x,
yは初期位相である。E
xとEyの位相 差は y xである。y
0
A の場合、電場Eは
x
軸上を振動し水平方向の直線偏光となる。A
x0
の場合、水平方向の直線偏光となる。Ax Ayで
0
の場合、電場Eの振動方向はx
軸からy軸へ 45 度回転した直線の方向になり、斜め45 度の直線偏光となる。Ax Ayで の場合、x
y の直線が振動方向になり、−45度の直線偏光となる。Ax Ayで
/ 2
の場合、電場Eの先端は半径
A
xの円弧上を右回りに回るので、右回り円偏光となる。Ax Ayで2
/
の場合、左回り円偏光となる。図Ⅳ-4に一般的な楕円偏光の電場ベクトル先端の 軌跡を示す。A
xA
yy
x x
,y
,β
図Ⅳ-4 一般的な楕円偏光の電場ベクトル先端の軌跡
2-1-2. ストークスパラメーター
光の偏光状態は、ストークスパラメーターと呼ばれる3つのパラメーターで記述される。
これは、水平方向の直線偏光度、円偏光度、斜め 45 度直線偏光度であり、それぞれ、
P
L,P
C,P
45と記すことにする。それぞれのパラメーターは、Ex,
EyあるいはA
x,Ay, と次 のような関係がある。) /(
) (
/
2 2 2 2 2 22 2
y x y x y
x y x
L
E E E E A A A A
P
(2-3)) /(
sin 2
/ Im
2
x y* x 2 y 2 x y x2 y2C E E E E A A A A
P (2-4)
) /(
cos 2
/ Re
2
* 2 2 2 245 ExEy Ex Ey AxAy Ax Ay
P (2-5)
ここでImは虚数部を表し、Reは実部を表す。A*はAの共役複素数である。それぞれのパ ラ メ ー タ ー は 、
1 P
L1
,1 P
C1
,1 P
451
の 範 囲 に あ り 、 ま た2
1
45 2
2 P P
PL C の関係がある。最後の式の等号は完全偏光を、不等号は部分偏光を表 す。部分偏光のとき、P
(
PL2 PC2 P452)
1/2を偏光度という。P
L=1 はx
方向に偏った水平方向の直線偏光、
P
L=−1はy方向に偏った垂直方向の直線偏光、P
C=1は左回りの円 偏光、P
C=−1は右回りの円偏光、P
45=1は斜め45度の直線偏光、P
45=−1は−45度の直線偏光を表す。
2-1-3. 放射光の偏光
本実験で用いる楕円偏光放射光はベンディング放射光である。ベンディング光は図Ⅳ-5 の様に示すようになっている。蓄積リング電子軌道面内に放射される光は直線偏光である。
また、電子軌道面から斜め上方あるいは下方に放射される光は円偏光成分をもち楕円偏光 となる。この楕円は、2つのストークスパラメーター
P
L,P
Cで表される。上方に出る光と下 方に出る光は楕円偏光回り方(左右)が逆になっている。本実験では、自然に楕円偏光している白色放射光X線をそのまま利用している。
図Ⅳ-5 蓄積リングからの放射光の偏光 電子 e
蓄積リング
軌道面
直線偏光
左回り楕円偏光
右回り楕円偏光
2-2. X 線磁気回折実験配置図
実験は、高エネルギー加速器研究機構、物質構造科学研究所放射光施設、ビームライン
BL-3C3で行う。(KEK-PF-BL3C3)
図Ⅳ-6に実験の配置図を示す。
図Ⅳ-6 実験配置図(KEK-PF-BL3C3)
入射X線には、白色楕円偏光X線を用いる。ストレーンジリングとビームラインの間は、
リングの真空漏れを防ぐために二枚のベリリウム窓によって仕切られている。入射側には スリットを 3 つ置き、上流の2 つのスリットにより、ベリリウム窓で散乱される迷光をカ ットする。(入射X線がベリリウム窓を通るとき、低エネルギーのX線は吸収や散乱を起こ す。これを迷光という。迷光が入射X線に混じると、軌道面の上下でflipping ratioに影響を 及ぼすのを防ぐために、スリットで迷光をカットする。)またハッチ内のスリットは、試料 の回折面にX線が当たるように調節するためのものである。散乱角はすべて2θ=90°で固定 してある。SSD前のスリットは、回折X 線のみを通し蛍光X線を減少させるためのもので ある。
入射X線(白色楕円偏光放射光)
回折X線
SSD(半導体検出器)
入射側スリット 電磁石
試料(YTiO3)
磁化の方向
回折側スリット
α=135°
写真1 KEK-PF-BL3C3での実験配置
2-3. X 線磁気散乱の測定回路
測定に使用する回路図の概略図を図Ⅳ-7に示した。
まず回折X線がSSDに照射されると、X線のエネルギーに比例した電子が励起し電流が発 生する。この電流はPre AmpでX線のエネルギーに比例した電圧に変換され、再度Ampで 増幅された後、ADCでデジタル信号(CHANNEL)に変換される。このデジタル信号がMCA で測定され、エネルギースペクトルが測定される。MCA で測定されたスペクトルは Controller(PC-98)に送られ記録される。
入射X線 回折計
電磁石 試料
回折X線
SSD
Pre Am p
Amp Oscilloscope SCA(Single Channel
analyzer)
ADC(Analogue to digital coverter) Rate
meter
Chart recorder
High volt supplier
MCA(Multi-cannel analyzer) Controller
(PC-98) Power supplier
Pulse Moter
図Ⅳ-7 測定電子機器の系図
2-4. 実験条件
実験条件としてYTiO3が強磁性体となる温度である30K以下にしなけらばならないので、
本実験では温度を15Kで行った。また磁場は0.85Tで実験を行なった。
下図は(100)面のS配置での実験の配置図である。またαは入射X線と磁化の方向がなす 角度になっている。θ はブラック角(θ=45°に固定)である。測定面である(100)面に垂直な方 向に磁化させる(a軸方向に磁化)。
下図は(100)面のL配置での実験の配置図である。磁化の方向はac面内に磁化させる。
a軸 c軸
b軸 試料
(100)面をブラック角45°で回折させる配置(S配置)
2θ
白色楕円偏光放射光
2θ=90°
α=135°
磁化の方向
試料は(100)面を向けている (a軸方向に磁化させる)
a軸 c軸
b軸 試料
(100)面をブラック角45°で回折させる配置(L配置)
2θ
白色楕円偏光放射光
2θ=90°
α=0°
磁化の方向 試料は(100)面を向けている
(ac面内に磁化させる)
2-5. 実験の流れ
① 試料を測定する面に向けて冷凍機にセットする。(試料の向きは入射X線方向である。) また本実験では散乱角θを45°に固定した実験を行なうために、この作業を精密に行う
必要がある。そこでバックラウエ写真をとり、試料の向きを正確に入射 X 線方向に向 いていることを確認する。
② 散乱角θを45°に固定するので、試料を入射X線方向から45°傾ける。
③ 放射光の楕円偏光を利用するため、試料にX線を照射する場所(上下)を変えることによ り放射光の軌道面の位置を測定し、軌道面よりおよそ 0.8mm離れた場所に試料を移動 させる。
④ 白色X線を利用するため、測定したい回折ピークと一緒に蛍光X線のピークが現れる ので、スリットを用いて蛍光X線強度を減少させる。またこの理由として、純Ge半導 体検出器が測定することができるカウント数が決まっているからである。同じ理由で 入射X線方向のスリットでビームサイズを小さくする。
⑤ 多重散乱を起こしていない場所を見つけるために、試料にX線があたる場所を変える。
(ブラック条件を変えないようにするためにχスキャンで場所を探す。)
⑥ 多重散乱を起こさない場所に移動する。
⑦ 磁場を印加する。(S配置の場合はα=135°、L配置の場合はα=0°)
⑧ 測定を開始する。
2-6. Fe の実験(偏光因子の測定)
放射光の偏光特性を決めるものである電子ビームの結合定数KCがある。KCは電子ビーム の断面(楕円形)の縦÷横の比のことである。また結合定数がわかることにより偏光因子fp
を得ることができる。
そこで強磁性体の標準試料である純鉄の X 線磁気回折実験により偏光因子の測定を行っ た。偏光因子 fpは直線偏光度PLと円偏光度 PCにより決まり、直線偏光度Plと円偏光度Pc
は蓄積リングの性能によって決まる。
次に偏光因子の重要性について考える。式(1-12)〜(1-16)から分かるように偏光因子は磁 気効果 R に比例している。つまり偏光因子が大きければ磁気効果をそれに比例して大きく することできる。本実験で得られる磁気効果はほんの 0.1%程度であるから、偏光因子の値 は非常に重要なパラメーターとなる。
実験は放射光の軌道面から上下に1.2mmの間で磁気効果(flipping ratio)を測定した。そ の結果を図Ⅳ-8 に示す。次に放射光スペクトル計算ソフト Spectraを用いて KC = 0.012〜
0.003での磁気効果を計算した。その結果も図Ⅳ-8に示す。
図Ⅳ-8 Feのflipping ratioとKc=0.012〜0.003でのflipping ratio
次にどの結合定数 Kcが一番 Feの実験と合っているのか調べるために、残差の計算を行 った。その結果を図Ⅳ-9 に示す。
図Ⅳ-9 残差の計算結果
残差の結果より、Kc=0.008と決めることができた。