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5-3 磁気コンプトンプロファイルの計算

  5-2で示したモデル波動関数を用いて磁気コンプトンプロファイルの計算を行った。実際 に使用したd軌道を(5-6), (5-7)式で示す44)

2 3

3

( ) ( ) /

3

k j i A k

j i a a a

a a a

a a a k

j i

T

33 32 31

23 22 21

13 12 11

(5-12)

と表される。また

A

TAの転置行列を表している。この式を用いて座標変換を行った。

  Site-1において実際使用したAを示す。

19 . 0 18 . 0 96 . 0

83 . 0 55 . 0 09 . 0

52 . 0 82 . 0 26 . 0

A   (5-13)

このAを用いて

A

Tを求めると、次の様になる。

21 . 0 83 . 0 51 . 0

17 . 0 55 . 0 82 . 0

96 . 0 07 . 0 26 . 0

AT (5-14)

この転置行列を使用して座標変換を実行した。

またSSDの分解能0.85a.u.を考慮して、ガウシアンブロードニング法(ガウシアン補正)も行

った。この方法は、ある測定点にガウス関数による幅を与える方法である。

上記した座標変換、ガウシアン補正をした波動関数を用いて(5-1)式の計算を行って得ら れた磁気コンプトンプロファイルの計算結果を図Ⅲ-19,20に示す。また計算はu = 0.71〜0.89 の間で計算を行った。実際の計算で用いた、計算ソフトはMathematicaである。表Ⅲ-2に作

成したMathematicaのプログラムを示す。

図Ⅲ-19   a軸の磁気コンプトンプロファイルの計算結果

図Ⅲ-20   c軸の磁気コンプトンプロファイルの計算結果

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[ B /a .u .]

p z J m a g ( p z )

[a.u.]

―  0.71

―  0.77

―  0.84

―  0.87

―  0.89 u

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[ B /a .u .]

p z J m a g ( p z )

[a.u.]

―  0.71

―  0.77

―  0.84

―  0.87

― 0.89

u

表Ⅲ-2 Mathematicaプログラム

 

a軸での計算結果は、uの値を変えてもあまり変化しないことがわかる。c軸での結果は、u の値を変えると

p

zの小さな場所で大きく変化していることがわかる。u の値を大きくして いくと、

p

z

0

での値が大きくなっていく。

  次に、実験結果と理論計算の比較を行う。実験結果と理論計算を同じグラフに示したも のを図Ⅲ-21,22に示す。

図Ⅲ-21    a軸での実験結果と理論計算

図Ⅲ-22    c軸での実験結果と理論計算

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[ B /a .u .]

p z J m a g ( p z )

[a.u.]

―  0.71

―  0.77

―  0.84

―  0.87

―  0.89 u

● 実験

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[ B /a .u .]

p z J m a g ( p z )

[a.u.]

―  0.71

―  0.77

―  0.84

―  0.87

―  0.89 u

● 実験

実験と計算の比較をしてみると、a軸とc軸において、実験と理論が一致するプロファイ ルを示すパラメーターがあることがわかる。a軸においては、計算結果があまり変化しない ので、c軸に注目してuvの値を決めていくことにする。どのuvの値を持つ波動関数 が実験ともっとも一致しているのか調べるために残差の計算を行った。その結果を図Ⅲ-23 に示す。計算結果より、u

0 . 84

, v

0 . 55

での波動関数がもっとも一致していることがわ かった。図Ⅲ-23の結果より、最小になっているuの値は、u

0 . 84

より少し小さな値にな っていることがわかるが、ほとんどu

0 . 84

と変わらないために、本研究ではu

0 . 84

採用した。

図Ⅲ-23 残差の計算結果

0.6 0.7 0.8 0.9 1

0 0.02 0.04 0.06

u

Δ 2

0.71

0.77

0.84 0.87

0.89

実験で得られた磁気コンプトンプロファイルと、u

0 . 84

, v

0 . 55

の状態にある波動関数 より得られた理論計算を図Ⅲ-24,25に示す。

図Ⅲ-24 a軸での、実験結果とu

0 . 84

, v

0 . 55

状態の波動関数の理論計算

図Ⅲ-25 c軸での、実験結果とu

0 . 84

, v

0 . 55

状態の波動関数の理論計算

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[

B

/a .u .]

p z J m a g ( p z )

[a.u.]

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[

B

/a .u .]

p z J m a g ( p z )

[a.u.]

図Ⅲ-24 と図Ⅲ-25 より、実験と計算がよい一致を示していることがわかる。しかし、完全 に一致してわけではない。そこで、BiggsによりHartree–Fock計算を用いて得られた磁気コ ンプトンプロファイルを示す。この計算は、Ti原子を想定した場合での計算結果である為、

本研究での場合とは少し異なる。しかし、本研究で得られる磁気コンプトンプロファイル は、Ti-3d t2g電子1つに起因したプロファイルであるため、比較することが可能であると考 えた。図Ⅲ-26, 図Ⅲ-27 は、実験から得られた磁気コンプトンプロファイルと、Biggsの計 算45)から得られた磁気コンプトンプロファイルである。

図Ⅲ-26    a軸での、実験とBiggsの理論計算より得られた磁気コンプトンプロファイル

図Ⅲ-27    c軸での、実験とBiggsの理論計算より得られた磁気コンプトンプロファイル

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[

B

/a .u .]

p

z

J

mag

( p

z

)

[a.u.]

0 1 2 3 4 5 6

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[

B

/a .u .]

p

z

J

mag

( p

z

)

[a.u.]

図Ⅲ-26 に着目してみると、実験と計算が非常に一致していることがわかる。これは、a 軸 方向([100]方向)から見た、YTiO3のTi-3d t2g電子1つ波動関数が、バルクのTiの波動関数と 非常に似ていることを示す結果である。しかし、図Ⅲ-27では一致していない。これは、Biggs の計算プロファイルは空間の角度部分については平均化されたものであり、実測のc軸プロ ファイルそれとは異なっていることに起因するのであろう。また図Ⅲ-26では、

p

zが4〜6a.u.

においてもよく一致していることがわかる。一方、図Ⅲ-25では、

p

zが4〜6a.u.においては 実験より計算の方が小さな値を示していることがわかる。この理由は、有効核電荷zeffの大 きさによるものではないかと推測することができる。なぜなら有効核電荷とは、波動関数 の広がりを決めるパラメーターの役割をしているからである。有効核電荷を変えた場合で の磁気コンプトンプロファイルの変化を図Ⅲ-28に示す。

0 1 2 3 4 5 6

0 0.2 0.4 0.6

p z J m a g ( p z ) [ B /a .u .]

[a.u.]

図Ⅲ-28 実験結果とzeffを変化させた計算結果       Pz=0において、実線上からzeff=5, 6, 7, 8, 8.14, 8.5, 9

この結果、有効核電荷を変化させることにより、磁気コンプトンプロファイルが変化す ることがわかる。よって、より正確な有効核電荷を用いた計算を行えば、より精度のよい 計算結果が得られることを推測することができる。我々が用いた有効核電荷は、E. Clementi らによって計算された有効核電荷 47-48)を用いている。この有効核電荷は、Ti イオンを想定 した場合での有効核電荷であるため、YTiO3の場合とは異なっているかもしれない。しかし 我々は、波動関数のパラメーターu, vを決めることを目的とした為、変化させるパラメータ ーをできるだけ少なくしたかったので、E. Clementi らによって計算された有効核電荷45,46) を用いたのである。今後は、正確な有効核電荷を用いた計算を行う必要がある。

  また、完全に一致しないもう1つの理由は、Tiの3d電子がOの2p電子と混成している 可能性である。3d 電子は局在性が強いため混成している可能性は極めて低いが、ゼロでは ない。今後は混成を考慮した計算を行う必要もあるかもしれない。

今回での研究では b 軸での実験を行っていない。b軸は、Ⅱ章の磁化測定の結果より分 かるように磁化困難軸(飽和磁場2T必要)になっているため、うまく磁化反転を行うこと が困難である可能性があったため、今回の研究では実験を行わなかった。今後の課題とし て、b軸での実験を行う必要がある。

まとめると、磁気コンプトン散乱実験により得られた波動関数は次式のようになってい る。

site 1 1

0 . 84

dyz

0 . 55

dzx       

site 2 2

0 . 84

dyz

0 . 55

dzx        site 3 3

0 . 84

dyz

0 . 55

dzx site 4 4

0 . 84

dyz

0 . 55

dzx

.   X 線磁気回折実験

1. X 線磁気回折の原理

49,50,51)

1-1. X 線磁気回折

X線磁気回折による散乱断面積は、

d

d |電荷散乱振幅|+i[電荷散乱振幅]・[磁気散乱]+|磁気散乱|  (1-1)

で表される。第一項が電荷散乱項、第二項が電荷散乱と磁気散乱項の干渉散乱項、第三項 が純磁気散乱項である。このとき、電荷散乱に対し、干渉散乱は103、純磁気散乱は10−6 と非常に小さなものとなっている。

  試料には強磁性体を用いる。実格子空間において、強磁性体では、磁化の配列周期と原 子(電荷)の配列周期が等しい。また、逆格子空間においても、磁化の配列周期と原子(電 荷)の周期配列は等しい。従って、回折パターンにおいては、電荷と磁化の散乱ピークが重 なる。

      図Ⅳ-1 強磁性体における原子と磁化の配列周期

実験においては(1)式第二項の干渉磁気散乱を検出するために、入射X 線に円偏光成分が必 要である。さらに、磁場を反転して、(1)式第二項の干渉磁気散乱部分の符号を反転するこ とにより、電荷散乱部分と磁気散乱部分を分離することができる。

原子間距離

同一磁化方向をもつ         原子間距離

1-2. 散乱断面積

X線磁気散乱における散乱断面積は、X線磁気散乱理論52-55)より(1-2)式のように表される。

2 2

2 / ) ( 2 ) ( )

(

k ε ε' i L k A S k B n

d r d

e (1-2)

このとき、iは虚数単位、reは電子の古典半径、

mc2

h で、h X線エネルギー、

mc

2は電子の静止エネルギー(511 keV),

εおよびε’は、入射X線および散乱X線の電場ベクトル方向の単位ベクトル、

n(k)は電子電荷密度のフーリエ変換(電荷散乱因子あるいは構造因子)、

  L(k)およびS(k)はそれぞれ軌道およびスピンモーメント密度のフーリエ変換(ベクトル量)

  kは散乱ベクトル(k=k−k’:  k  およびk’は入射X線および散乱X線の波数ベクト ル)、である。A,Bε,ε’,

^' 0

^

k ,

k からなるベクトルで、(

^' 0

^

k ,

kk0,

k

'方向の単位ベクトル)、

      A

2 ( 1

k k

)(

ε ε

) (

k ε

)(

k ε'

) (

k ε

)(

k ε

)

^' '

^'

0

^ 0 ' ^

^'

0

^

(1-3)

B ε ε

(

k ε

)(

k ε

) (

k ε

)(

k ε

) (

k ε'

) (

k0 ε

)

' ^ ' ^ 0

^ 0 ' ^

' ^

^'

' (1-4)

である。

  ここで、一軸性の強磁性体(全ての磁気モーメントが同一方向を向いている)を考える。磁 気モーメントは量子化軸(通常Z軸にとる)に沿って測られる。量子化軸方向の単位ベクトル を ρ とし、ベクトル量 L(k),S(k)を、L(k)=−L(k)ρ、S(k)=−S(k)ρ、と表すと、スカラー量 L(k),S(k)がそれぞれ軌道およびスピン磁気モーメントの磁気形状因子(あるいは磁気構造因 子)となる。全磁気形状因子

( k ) L ( k ) 2 S ( k )

である。 Bをボーア磁子として、

|k|→0への外挿値 B

L ( 0 ),

B

S ( 0 )

が、それぞれ、軌道磁気モーメント値、スピン磁気モー メント値となる。磁化測定等で観測される磁気モーメント値は B{L(0)+2S(0)}であり、

) 0 ( 2 ), 0

( S

L

B

B がそれぞれ磁気モーメントの軌道成分と、スピン成分となる。

  (1-2)式へ戻る。(1-2)式の絶対値の第1項が電荷散乱振幅(以下、〔電荷〕と記す)、第2項

が磁気散乱振幅(以下、〔磁気〕と記す)。(4)式を書き下すと、

      d

d |〔電荷〕|+i[電荷]・[磁気]+|〔磁気〕| (1-2-1)

という形になる。これは(1-1)式と同じものである。強磁性体では電子電荷の配列周期と磁 気モーメントの配列周期が同じであるので、電荷散乱項、干渉項、純磁気散乱項の3つの

項は常に同一の逆格子点にピークを持つ。電荷散乱項から、106オーダーの純磁気散乱項 を分離抽出するのは極めて難しいので 103オーダーの干渉項を利用する。干渉項を利用で きるのが強磁性体の磁気回折の特徴ともいえる。干渉項が観測にかかるためには、この項 から実数で残るものが必要となり、これは〔電荷〕・〔磁気〕の虚部になる。この虚部を生 じさせる方法は次の2つが考えられる。(1)直線偏光を用い、(2)入射X線に円偏光を含む光 を用い(円偏光成分が入ると入射 X 線の磁場ベクトルに虚部生ずる)、〔電荷〕、〔磁気〕と もに実部を使う。一般に(2)の方が大きな干渉項が得られるのでここでは(2)を取り上げる。

なおここでは、電荷散乱因子 L(k),S(k)については簡単のためとりあえず実数として取り扱 うこととする。

  ここで,(1-1)式をもう少し書き下してみる。試料結晶での散乱角を2θ(ブラック角を θ)と する。磁化が散乱面(水平面)内にあるとし、磁化方向と入射X線方向のなす角をαとする(図

Ⅳ-2)。

'' ' ) ( )

( k f

0

k f if

n

(

f

0は通常の原子形状因子,

f

f

はそれぞれ、異常散乱因子の実 部と虚部)とし、磁化の向きが正(+)あるいは負(−)のときの回折強度を I±とすると、

上で定義したものを用いて、

       

)}

2

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