2. OSS ライセンスを適⽤した注⽬すべきソフトウェアのライセンス戦略
2.3 ライセンス戦略のまとめ
3.1.6 Erik Andersen and Rob Landley v. Verizon Communications
Rob Landley(原告)
Verizon Communications(被告)
訴訟内容: GPL 違反に基づく著作権侵害 結果: 和解が成⽴
ポイント: ①GPL 違反に基づく著作権侵害訴訟であったこと。
②訴訟の対象となった OSS を⽤いた機器を製造した企業ではなく、製造元か ら製品を卸し受けてエンドユーザに提供している企業が訴訟の対象となった こと。
③製造元から製品を卸し受けていた Verizon Communications ではなく、同 社 に 訴 訟 の 対 象 と な っ た 製 品 を 納 ⼊ し て い た 製 造 元 の Actiontec Electronics と原告との間の和解により、本件が決着したこと。
④和解条件には、GPL 遵守だけでなく、オープンソースコンプライアンスオフ ィサーのポストを新設すること、原告に和解⾦を⽀払うこと、といった内容 が盛り込まれたこと。
係争内容
<概要>
OSS 開発者であり、過去に Monsoon Multimedia を提訴した Andersen ⽒らは、2007 年 12 ⽉ 6 ⽇、⽶国の⼤⼿通信キャリアである Verizon Communications を GPL 違反に基づく著 作権侵害で提訴した275。ただ、本件についても、Andersen ⽒らと Monsoon Multimedia との 訴訟と同様に、法廷で審理される前となる 2008 年 3 ⽉ 17 ⽇に和解が成⽴している。ただ、
和解の対象は本件の被告であった Verizon Communications とは違い、同社に訴訟の対象とな った製品を納⼊していた Actiontec Electronics であり、同社が和解⾦の⽀払いなどに応じてい る276。本件についても、Monsoon Multimedia に対する訴訟と同じく、OSS ソフトウェアに 関する法務サービスを提供する SFLC が原告の代理⼈として関与している。
<当事者>
訴訟に関与した企業・機関は以下の通りである。
原告
Erik Andersen ⽒及び Rob Landley ⽒: OSS を開発する⽶国市⺠。GPL に基づく BusyBox の開発者であり、同ソフトウェアの著作権者でもある277。
Software Freedom Law Center: OSS の保護及び推進を⽬的に、訴訟代理などの法務
275 Software Freedom Law Center. “Erik Andersen and Rob Landely against Verizon Communications, Inc. Complaint”. December 6, 2007.
http://www.softwarefreedom.org/news/2007/dec/07/busybox/verizon.pdf (Retrieved on August 19, 2009)
276 Software Freedom Law Center. “BusyBox Developers Agree To End GPL Lawsuit Against
Verizon”. March 17, 2008. http://www.softwarefreedom.org/news/2008/mar/17/busybox-verizon/
(Retrieved on August 19, 2009)
277 Software Freedom Law Center. “Erik Andersen and Rob Landely against Verizon Communications, Inc. Complaint”. December 6, 2007.
http://www.softwarefreedom.org/news/2007/dec/07/busybox/verizon.pdf (Retrieved on August 19, 2009)
サービスを提供する⾮営利機関278。本件では、Andersen ⽒らの代理⼈として訴状作成 などを⾏った。
被告
Verizon Communications: ⽶国を代表する⼤⼿通信キャリア279。以下の Actiontec Electronics が開発した、BusyBox(もしくはその改変版)を含む宅内ブロードバンド モデム兼無線ルータ280のエンドユーザへの提供元である281。
Actiontec Electronics: ブロードバンドモデムやルータ機器の開発企業282。訴訟の対 象となった宅内モデム兼無線ルータ機器の Verizon Communications への納⼊元であ る。同社は本件で提訴はされなかったが、Verizon Communications が提訴されたこ とを受け、2008 年 3 ⽉ 17 ⽇、Andersen ⽒らとの間で Verizon Communications な ど同社の顧客企業の免責を含めた和解を成⽴させている283。
なお、Andersen ⽒らは Actiontec Electronics が提訴先とならなかった点について、同社が、
SFLC を通して Andersen ⽒らから著作権侵害に関する通告を受けた時点でこれに対応すると 回答していたためであることを明らかにしている284。⼀⽅の Verizon Communications につい ては、Andersen ⽒らからの著作権侵害に関する通告に回答しなかったため、同⽒らによる提 訴の対象となった。
<経緯>
本件に関する⼀連の出来事の経緯は以下の通りとなる。
2007 年 11 ⽉ 16 ⽇: Andersen ⽒らは SFLC を通して、Verizon Communications に対して著作権侵害の事実を通達。Verizon Communications はこれに回答せず。
⽇付不明: Andersen ⽒らは SFLC を通して、Actiontec Electronics に対して著作権 侵害の事実を通達。Actiontec Electronics はこれに対し、即時に対応する旨回答して いる。
2007 年 12 ⽉ 6 ⽇: Andersen ⽒らが Verizon Communications を提訴285。
278 Software Freedom Law Center. “The Software Freedom Law Center”.
http://www.softwarefreedom.org/ (Retrieved on July 14, 2009)
279 Verizon Communications. “Company Profile”. http://investor.verizon.com/profile/index.aspx (Retrieved on August 19, 2009): ⽇本で⾔うと NTT に相当するメガキャリアである。
280 光ファイバサービス「FiOS」⽤の宅内ブロードバンドモデム兼無線ルータである。
281 Software Freedom Law Center. “Erik Andersen and Rob Landely against Verizon Communications, Inc. Complaint”. December 6, 2007.
http://www.softwarefreedom.org/news/2007/dec/07/busybox/verizon.pdf (Retrieved on August 19, 2009)
282 Actiontec Electronics. “Who is Actiontec”. http://www.actiontec.com/products/company.php (Retrieved on August 19, 2009)
283 Software Freedom Law Center. “BusyBox Developers Agree To End GPL Lawsuit Against
Verizon”. March 17, 2008. http://www.softwarefreedom.org/news/2008/mar/17/busybox-verizon/
(Retrieved on August 19, 2009)
284 Grant Gross. “Open-source legal group strikes again on BusyBox, suing Verizon”.
ComputerWorld. December 7, 2007.
http://www.computerworld.com/s/article/9051799/Open_source_legal_group_strikes_again_on_Bu syBox_suing_Verizon?taxonomyId=11&intsrc=kc_top&taxonomyName=development (Retrieved on August 19, 2009)
285 Software Freedom Law Center. “Erik Andersen and Rob Landely against Verizon Communications, Inc. Complaint”. December 6, 2007.
http://www.softwarefreedom.org/news/2007/dec/07/busybox/verizon.pdf (Retrieved on August 19,
⽇付不明: Actiontec Electronics が、Andersen ⽒らとの和解交渉を進める。和解内 容には、Verizon Communications を始めとする Actiontec Electronics の顧客企業に 対する訴訟も取り下げるという条件も含まれていた。
2008 年 3 ⽉ 17 ⽇: Andersen ⽒らと Actiontec Electronics の間に和解が成⽴。
Andersen ⽒らは Verizon Communications に対する訴訟を取り下げる286。
争点・ポイント
原告の Andersen ⽒らは本件において、Verizon Communications が BusyBox を利⽤しなが らも GPLv2 を遵守しなかったと主張していた。具体的には、ソースコードの開⽰を定めた GPLv2 第 3 条に違反しており、つまり、Verizon Communications が GPL に基づく BusyBox を含む宅内ブロードバンドモデム兼無線ルータ機器をエンドユーザに提供しながらも、そのソ ースコードを開⽰していなかったことが問題視されていた287。
Andersen ⽒らは、GPL 違反を Verizon Communications に通告したものの、同社から回答 がなかったため、提訴に踏み切ったとしている。逆に、Andersen ⽒らは上記の通り、通告に 対 し て 即 時 に 対 応 す る と 回 答 し た Actiontec Electronics は 提 訴 し て い な い 。 Verizon Communications は、Andersen ⽒らが提訴した後に、報道メディアからの質問に対して、「本 件については、このケースに責任がある第 3 者ベンダ(注: Actiontec Electronics のことを 指す)に連絡している」とコメントしている。288
このように、本件では、GPL を違反した製品の製造元企業(Actiontec Electronics)と共に、
それを卸し受けてエンドユーザに提供している提供元企業(Verizon Communications)まで もが GPL 違反を指摘され、沈黙を決め込んだ側の GPL 違反対象製品のエンドユーザへの提供 元企業(Verizon Communications)のみが提訴された。Verizon Communications のみが提 訴された点については、上記の通り、製造元の Actiontec Electronics が SFLC から通達を受け た時点で、GPL 違反に対応する意思を表明していたためであるが、製造元から製品を卸し受け てエンドユーザに提供している企業が訴訟の対象となったことについては、本件において注⽬
すべきポイントの 1 つとなっている289。
なお、Andersen ⽒らの代理⼈を務めた SFLC は、Verizon Communications を提訴した理 由について、Actiontec Electronics による Verizon Communications への製品卸売り過程では、
Actiontec Electronics に GPL 遵守の義務がある⼀⽅で、Verizon Communications がエンド
2009)
286 Software Freedom Law Center. “BusyBox Developers Agree To End GPL Lawsuit Against
Verizon”. March 17, 2008. http://www.softwarefreedom.org/news/2008/mar/17/busybox-verizon/
(Retrieved on August 19, 2009)
287 Software Freedom Law Center. “Erik Andersen and Rob Landely against Verizon Communications, Inc. Complaint”. December 6, 2007.
http://www.softwarefreedom.org/news/2007/dec/07/busybox/verizon.pdf (Retrieved on August 19, 2009)
288 Grant Gross. “Open-source legal group strikes again on BusyBox, suing Verizon”.
ComputerWorld. December 7, 2007.
http://www.computerworld.com/s/article/9051799/Open_source_legal_group_strikes_again_on_Bu syBox_suing_Verizon?taxonomyId=11&intsrc=kc_top&taxonomyName=development (Retrieved on August 19, 2009)
289 ドイツにおいても、Welte ⽒が GPL 違反対象製品の開発元企業ではなく提供元企業である Skype を、
GPL 違反で提訴するという事案が発⽣している。詳細は、3.2.4 Harald Welte v. Skype を参照。
ユーザに製品を提供する過程では Verizon Communications に GPL 遵守の義務が⽣じると説 明している。これに対して、Verizon Communications は、GPL 違反の通告に対して沈黙を守 った290。
結果的に、Andersen ⽒らと Actiontec Electronics との和解が成⽴したため、Verizon Communications のようなエンドユーザへの製品提供元企業の責任についての議論や審理が進 むことはなかったが、製造元だけでなくエンドユーザへの提供元企業も訴訟の対象になったと いう事実は、業界でも反響を呼んだ。
OSS ライセンス契約、係争当事国の法制との関係
本件では GPLv2 の第 3 条で定められたソースコードの開⽰が争点となった(争点の詳細は 前項を参照)。なお、原告は Verizon Communications による GPL 違反は著作権侵害にあたる として、損害賠償及び差⽌め処分を請求していたが291、こうした点が法廷で審理される前に和 解が成⽴したため、GPL 違反の法的解釈や製品の提供元である Verizon Communications の有 責などに関する法廷での議論などは⽣じていない。
決着内容
Andersen ⽒らは上記の通り、2008 年 3 ⽉ 17 ⽇に、提訴先の Verizon Communications ではなく、同社がエンドユーザに提供する GPL 違反対象製品の製造元である Actiontec Electronics と和解に⾄った。和解内容は以下の通りであるが292、Verizon Communications を含む Actiontec Electronics の顧客企業も和解内容に⼊っているという点以外は、Monsoon Multimedia との訴訟における和解と同じである。
Andersen ⽒らは、Actiontec Electronics 及び同社の顧客企業に対する訴訟を取り下げ、
これらの企業が GPL に基づいて BusyBox を利⽤していることを認める。
Actiontec Electronics は、社内に「オープンソースコンプライアンスオフィサー
(Open Source Compliance Officer)という新たなポストを設置し、これを通して同 社が BusyBox を GPL に基づいて正しく利⽤しているかという、GPL の遵守状況をモ ニタリングする。
Actiontec Electronics は、同社による改変部分も含め BusyBox のソースコードを同社 のウェブサイトで開⽰する。
Actiontec Electronics は、BusyBox を含む機器の提供先(BusyBox ユーザ)に対して、
機器には BusyBox という OSS が含まれており、これが GPL に基づく OSS であること を通達するために、最⼤限の取り組みを⾏う。
290 Grant Gross. “Open-source legal group strikes again on BusyBox, suing Verizon”.
ComputerWorld. December 7, 2007.
http://www.computerworld.com/s/article/9051799/Open_source_legal_group_strikes_again_on_Bu syBox_suing_Verizon?taxonomyId=11&intsrc=kc_top&taxonomyName=development (Retrieved on August 19, 2009)
291 Software Freedom Law Center. “Erik Andersen and Rob Landely against Verizon Communications, Inc. Complaint”. December 6, 2007.
http://www.softwarefreedom.org/news/2007/dec/07/busybox/verizon.pdf (Retrieved on August 19, 2009)
292 Software Freedom Law Center. “BusyBox Developers Agree To End GPL Lawsuit Against
Verizon”. March 17, 2008. http://www.softwarefreedom.org/news/2008/mar/17/busybox-verizon/
(Retrieved on August 19, 2009)
Actiontec Electronics は、Andersen ⽒らに対して和解⾦を⽀払う(⾦額は未公開)。
本件は、GPL 違反機器の製造元ではなくエンドユーザへの提供元が訴訟の対象となったこと、
また提訴先が⼤⼿通信キャリアであったことから、業界でも注⽬されたが、結局は製品の製造 を下請ける中⼩企業が和解に応じることで決着がつく結果となった。しかし、SFLC が、GPL 違反の対象となっている製品をエンドユーザに提供している限りは、サプライチェーンの下流 であっても GPL を遵守する義務があると主張し、また相⼿が⼤⼿企業でも GPL 遵守を求めて いく姿勢を⾒せたことは、業界にも少なからず影響を与えたものと考えられる。
決着後の周知状況
Verizon Communications に GPL 違反機器を納⼊していた Actiontec Electronics は 2009 年 10 ⽉現在、BusyBox を組み込んだ同社製品について、GPL で定められた事項(ライセンス 本⽂、ソースコード、著作権表⽰、無保証の旨、改変を加えた事実)の全てを周知している。
ソースコードファイルに GPL の本⽂⼊⼿⽅法、著作権、無保証の旨をソースコード と併記する
ライセンス専⽤ファイルに GPL および LGPL の本⽂を掲載する
改変ログ専⽤ファイルに改変を加えた事実を記載する
GPL などの OSS ライセンスで定められた事項については、製品マニュアル内や製品パッケ ージ内などソースコードパッケージ以外の媒体から周知する企業もあるが、今回の調査では、
Actiontec Electronics においては、同社ウェブサイト上に「GPL Code Download Center」と 題したソースコードダウンロードページを作成し、このページにおいて GPL の本⽂を掲載して いるほか、本件の対象となった製品やその他の製品が組み込んでいる GPL や LGPL が適⽤され る OSS のソースコードを開⽰している。製品別に設けられているソースコードパッケージ内に は OSS 別に分けられたフォルダがある。
また、Actiontec Electronics は上記のソースコードダウンロードページに「Notice of License and Source Code Availability(ライセンス及びソースコード開⽰に関する通達」と題 した通知書を掲載している。この通知書には、①Actiontec Electronics が過去に Verizon Communications などを通して BusyBox を含む機器を提供していたこと、②これらの機器に は GPL が適⽤されること、③希望者には機器に含まれた BusyBox のソースコードを配布する
⽤意があることが⽰されている。その内容から、この通知書は、上記の和解内容の 1 つである
「BusyBox を含む機器の提供先(BusyBox ユーザ)に対して、機器には BusyBox という OSS が含まれており、これが GPL に基づく OSS であることを通達するために⾏う最⼤限の取り組 み」の⼀環であるといえる。
3.1.7 Erik Andersen and Rob Landley によるその他の係争